(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646403
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】フィルムインサート成形用ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20200203BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20200203BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20200203BHJP
C08K 5/524 20060101ALI20200203BHJP
C08K 5/5393 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
B29C45/14
C08L69/00
C08K5/103
C08K5/524
C08K5/5393
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-212490(P2015-212490)
(22)【出願日】2015年10月29日
(65)【公開番号】特開2017-82111(P2017-82111A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化ポリカーボネート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】温井 紳二
【審査官】
藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−293836(JP,A)
【文献】
特開2003−213115(JP,A)
【文献】
特開2005−298615(JP,A)
【文献】
特開2008−308606(JP,A)
【文献】
特開2009−138179(JP,A)
【文献】
特開2009−292962(JP,A)
【文献】
特開2012−126767(JP,A)
【文献】
特開2014−095039(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/208423(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00 − 45/24
B29C 45/40 − 45/63
B29C 45/70 − 45/72
B29C 45/74 − 45/84
C08L 69/00
C08K 5/00 − 5/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムインサート成型において注入されるフィルムインサート成形用ポリカーボネート樹脂組成物であって、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、流動性改質剤として70℃以上の融点を有するグリセリン脂肪酸エステル(B)を0.1〜1重量部、およびリン系酸化防止剤(C)0.01〜1重量部を含有し、前記グリセリン脂肪酸エステル(B)がグリセリンモノ12−ヒドロキシステアレートであることを特徴とする、フィルムインサート成形用ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記リン系酸化防止剤(C)が、下記一般式1、2および3で表される化合物から選択された一種以上の化合物であることを特徴とする、請求項1記載のフィルムインサート成形用ポリカーボネート樹脂組成物。
一般式1
【化1】
(一般式1において、R1〜4は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を示す。)
一般式2
【化2】
(一般式2において、R5、R6は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置
換されてもよいアリール基を、a、bは整数0〜3を示す。)
一般式3
【化3】
(一般式3において、R7は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を、cは0〜3の整数を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂本来の特性を損なうことなく、流動性と透明性と衝撃強度のバランスに優れ、フィルムインサート成形に好適に使用されるポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遊技機のうちいわゆるパチンコと呼ばれる遊技機の装飾用部品には、高い意匠性が要求される場合が多い。これまで意匠性付与のため、成形後の樹脂成形品の表面にメッキや塗装を行う方法が行われてきたが、廃液処理等の環境負荷が大きく代替技術が模索されており、近年、加飾フィルムの使用が注目を集めている。加飾フィルムを使用する意匠性付与には、フィルムインサート成形が適している。フィルムインサート成形は、所望の形状に予備成形された加飾フィルムを用意し、部品の基材樹脂と加飾フィルムを熱溶着により一体化させた樹脂成形品を製造する方法であり、接着剤を必要としない方法として優位である。このような理由から遊技機外装部品等への意匠性付与方法として加飾フィルムを使用したフィルムインサート成形が注目を浴びている。ゴールドやシルバー、メタリック調のフィルムに透明な熱可塑性樹脂をインサート成形して外装部品とする。フィルムインサート成形に関する技術としては、例えば、フィルムインサート成形に適した金属調加飾フィルムの報告等がある(特許文献1)。
【0003】
他方、従来からポリカーボネート樹脂は高い衝撃強度を有する特徴から遊技機分野やOA分野または自動車分野などに幅広く使用されている。近年では軽量化や意匠性の自由度およびコストダウンなどの理由から無機系材料から樹脂化への流れが進んでいるが、軽量化等による無機材料から樹脂化への課題としては落下等による破損を防止する点が挙げられる。ポリカーボネート樹脂の有する高い衝撃強度により破損を防止できる場合もあるが、より強度の高い高分子量のポリカーボネート樹脂は射出成形時の流動性の問題から成形性や生産性に劣るとの課題が生じる場合がある。ポリカーボネート樹脂が上記フィルムインサート成形用樹脂として使用される場合、例えば、成形性、フィルムとの密着性、耐衝撃性、透明性、流動性等の特性のうち少なくとも2以上の特性の両立が課題となる。
【0004】
ポリカーボネート樹脂の流動性を高める方法としては、ポリカーボネート樹脂組成物に流動改質剤を添加する方法が知られている。例えば、少量のトリフェニルフォスフェートや特定構造のポリカプロラクトンを添加することで流動性が向上するとの報告がある(特許文献2及び3を参照)。ただし、こうした改善方法の大きな短所は、添加量がわずか1%でも衝撃強度が低下して、ポリカーボネート樹脂の重要な特性である衝撃強度が失われることである。
【0005】
衝撃強度の低下原因は、流動改質剤が成形加工温度で熱分解し、ポリカーボネート樹脂の分子量を低下させていることが考えられる。他方、ポリカプロラクトン系のポリマーをポリカーボネート樹脂に添加した場合には加水分解性が低下するため、良好な材料は得られない。
【0006】
これまで、近年特に市場の要求が高い、流動性と透明性と衝撃強度の特性バランスに優れたフィルムインサート成形に好適に使用できるポリカーボネート樹脂組成物は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3727128号
【特許文献2】特開平7―3140号公報
【特許文献3】特開昭63―6051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリカーボネート樹脂本来の特性を損なうことなく、流動性と透明性と衝撃強度のバランスに優れたフィルムインサート成形用ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる課題に鑑み鋭意研究を行った結果、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、流動性改質剤として特定のグリセリン脂肪酸エステル(B)およびリン系酸化防止剤(C)を必須成分として所定量配合することにより、ポリカーボネート樹脂本来の特性を損なうことなく、流動性と透明性と衝撃強度のバランスに優れたポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明
は、フィルムインサート成型において注入されるフィルムインサート成形用ポリカーボネート樹脂組成物であって、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、流動性改質剤として70℃以上の融点を有するグリセリン脂肪酸エステル(B)を0.1〜1重量部、およびリン系酸化防止剤(C)0.01〜1重量部を含有
し、グリセリン脂肪酸エステル(B)がグリセリンモノ12−ヒドロキシステアレートであることを特徴とする、フィルムインサート成形用ポリカーボネート樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフィルムインサート成形用ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂本来の特性を損なうことなく、流動性と透明性と衝撃強度のバランスに優れるため、遊技機の外装部品のフィルムインサート成形用樹脂組成物として好適に用いられる。特に、内部の視認性の必要な外装部品や光源の光を遮蔽せず透過する外装部品等に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0013】
なお、発明者らは当業者が本発明を充分に理解するために以下の説明を提供するのであって、これらによって請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0014】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0015】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのような、ジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0016】
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0017】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−〔4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル〕−プロパンなどが挙げられる。
【0018】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常10000〜100000、より好ましくは16000〜30000、さらに好ましくは18000〜24000の範囲である。また、かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0019】
本発明者らは、流動性改質剤として70℃以上の融点を有するグリセリン脂肪酸エステルをリン系酸化防止剤と併用することにより、流動性と透明性と衝撃強度のバランスに優れるポリカーボネート樹脂組成物が得られることを新規に知見した。本発明にて使用される流動性改質剤としてのグリセリン脂肪酸エステル(B)としては、70℃以上の融点を有するグリセリン脂肪酸エステル(B)である。グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンとヒドロキシ変性された脂肪酸のモノエステルが好適であり、その中でも、グリセリンモノベへネート(融点74〜80℃)、グリセリンモノ12-ヒドロキシステアレート(融点71〜77℃)が挙げられる。これらを併用してもよい。市販品としては理研ビタミン株式会社のリケマールB−100(グリセリンモノベヘネート)、およびリケマールHC−100(グリセリンモノ12−ヒドロキシステアレート)等が挙げられる。70℃未満のグリセリン脂肪酸エステルを使用する場合は、成形品の透明性や着色性、あるいは衝撃強度に劣るおそれがあり好ましくない。
【0020】
本発明にて使用されるグリセリン脂肪酸エステル(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.1〜1重量部である。0.1重量部未満では流動性が劣る場合があり、1重量部を越えると衝撃強度が得られなくなる場合があることから好ましくない。好ましい配合量は、0.15〜0.8重量部、更に好ましくは0.2〜0.5重量部である。
【0021】
本発明にて使用されるリン系酸化防止剤としては、下記一般式1、2および3で表わされる化合物のうち1種またはそれ以上からなるものが挙げられる。
一般式1:
【0022】
【化1】
(一般式1において、R1〜4は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で
置換されてもよいアリール基を示す。)
一般式2:
【0023】
【化2】
(一般式2において、R5、R6は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を、a、bは整数0〜3を示す。)
一般式3:
【0024】
【化3】
(一般式3において、R7は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を、cは0〜3の整数を示す。)
【0025】
一般式1の化合物としては、例えば、[1,1´−ビフェニル]−4,4´−ジイルビス[ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェノキシ)フォスフィン]等が挙げられ、例えば、BASF社製のイルガフォスP−EPQ(商品名)、アデカ社製P−EPQ(商品名)が商業的に入手可能である。
【0026】
一般式2の化合物としては、例えば、3,9−ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジフォスファスピロ[5,5]ウンデカン、3,9−ビス(オクタデシロキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジフォスファスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられ、例えば、(株)ADEKA製のアデカスタブPEP−36A、アデカスタブPEP−8(「アデカスタブ」は登録商標)が商業的に入手可能である。これらの中でも3,9−ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジフォスファスピロ[5,5]ウンデカンが好適である。
【0027】
一般式3の化合物としては、例えば、トリフェニルフォスファイト、トリクレジルフォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、特にトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトが好適であり、例えば、BASF社製のイルガフォス168(「イルガフォス」はビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの登録商標)として商業的に入手可能である。
【0028】
本発明にて使用されるリン系酸化防止剤(C)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、0.01〜1重量部である。配合量が0.01重量部未満では、熱安定性が劣るため好ましくない。また、1重量部を超えると成形加工中の滞留時に熱安定性が不十分となり、黄変するために好ましくない。より好ましくは0.05〜0.8重量部である。
【0029】
本発明の各種配合成分(A)、(B)および(C)の配合方法には特に制限はなく、任意の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサー等によりこれらを混合し、通常の単軸または二軸押出機等で溶融混練することができる。また、これら配合成分の配合順序や一括混合、分割混合を採用することについても特に制限はない。また、混合時、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、染顔料、展着剤(エポキシ大豆油、流動パラフィン等)や強化材(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ等)等、又、他の樹脂を配合することができる。フィルムインサート成形手法としては、公知の方法にて行うことが出来る。
【0030】
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本発明における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特にことわりがない限り、「部」及び「%」はそれぞれ重量基準である。
【0032】
使用した配合成分は、以下のとおりである。
1.ポリカーボネート樹脂(A):
ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
(住化スタイロンポリカーボネート社製 カリバー200−20
粘度平均分子量:19000、以下「PC」と略記)
2.流動性改質剤としてのグリセリン脂肪酸エステル(B):
2−1.グリセリンモノベヘネート(融点74〜80℃)
リケマールB−100(理研ビタミン社製、以下「GMS−1」と略記)
2−2.グリセリンモノ12−ヒドロキシステアレート(融点71〜77℃)
リケマールHC−100(理研ビタミン社製、以下「GMS−2」と略記)
3.リン系酸化防止剤(C):
PEP−Q(アデカ社製、以下、「AO」と略記)
[1,1´−ビフェニル]−4,4´−ジイルビス[ビス(2,4−ジ−t−
ブチルフェノキシ)フォスフィン]
4.その他
グリセリンモノステアレート(融点63〜68℃)
リケマールS−100(理研ビタミン社製、以下「GMS−3」と略記)
エポキシ化大豆油(アデカ社製、以下、ESOと略記)
【0033】
前述の各種配合成分を表1および2に示す配合比率にて一括してタンブラーに投入し、10分間乾式混合した後、二軸押出機(神戸製鋼所製KTX37)を用いて、溶融温度260℃にて混練し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0034】
(1)透明性の評価)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ120℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100E2−P)を用いて設定温度290℃、射出圧力1600kg/cm
2にて試験片(2mmt)を作成した。得られた各種樹脂組成物の試験片を用いてJIS K7361に準じ、試験片厚み2mmの光線透過率を測定し、光線透過率が80%以上を良好とし、それ未満を不良とした。
(2)メルトフローレート(MFR)の評価)
得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ120℃で4時間乾燥した後に、
ISO1133に準じ試験温度300℃試験荷重1.2kgの試験条件においてメルトフローレート(MFR)の評価を行った。30以上を良好とし、それ未満を不良とした。
【0035】
(3)ノッチ付きアイゾッド衝撃強度の評価
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ120℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−1002−P)を用いて設定温度290℃、射出圧力1600kg/cm
2にてASTM規格D−256試験法に準じた試験片を作成し、得られた試験片を用いてノッチ付きアイゾッド衝撃強さをマイナス20℃にて測定した。ノッチ付きアイゾッド衝撃強度がマイナス20℃の条件において50Kgf・cm/cm以上を良好とし、それ未満を不良とした。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を満足する場合(実施例1〜6)においては、透明性、流動性(MFR)および衝撃強度のそれぞれに亘って良好な結果を示した。
【0039】
一方、ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を満足しない場合においては、いずれの場合も何らかの欠点を有していた。
グリセリン脂肪酸エステル(B)が、本発明の定める範囲よりも少ない例(比較例1と比較例3)においては、何れも流動性(MFR)に劣っていた。
グリセリン脂肪酸エステル(B)が、本発明の定める範囲よりも多い例(比較例2と比較例4)においては、何れも衝撃強度に劣っていた。
リン系酸化防止剤が、本発明の定める範囲より少ない例(比較例5)においては、衝撃強度が劣っていた。
リン系酸化防止剤が、本発明の定める範囲より多い例(比較例6)においては、衝撃強度が劣っていた。
グリセリン脂肪酸エステル(B)が70℃以下の融点を有する化合物の例(比較例7)においては、衝撃強度が劣っていた。
【0040】
以上のように、本発明における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、詳細な説明を提供した。したがって、詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0041】
また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のフィルムインサート成形用ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂本来の特性を損なうことなく、流動性と透明性と衝撃強度のバランスに優れるため、遊技機の外装部品のフィルムインサート成形用樹脂組成物として好適に用いられる。特に、内部の視認性の必要な外装部品や光源の光を遮蔽せず透過する外装部品等に適用することができ極めて工業的利用価値が高い。