特許第6646455号(P6646455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646455
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20200203BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20200203BHJP
   C08C 19/02 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08L15/00
   C08C19/02
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-21546(P2016-21546)
(22)【出願日】2016年2月8日
(65)【公開番号】特開2017-141316(P2017-141316A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2018年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】西沢 寿晃
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−147615(JP,A)
【文献】 特開2009−040992(JP,A)
【文献】 特開2010−070642(JP,A)
【文献】 特開2013−082826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 21/00
C08C 19/02
C08L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分、及び1,2−ビニル結合量が50モル%以上であり、数平均分子量が1000〜4000の範囲であり、二重結合の水素添加率が20〜40モル%の範囲である水素添加ポリブタジエンを含み、かつ、上記ゴム成分100質量部に対して上記水素添加ポリブタジエンを1〜25質量部の範囲で含むゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジエン系ゴム及び水素添加液状ポリブタジエンを含むビードエイぺックス用ゴム組成物が知られており、水素添加液状ポリブタジエンの二重結合の水素添加率としては、20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましいことが知られている。(特許文献1を参照)
また、ジエン系ゴムからなるゴム成分100重量部に対して、水素添加前の1,2−ビニル結合量が90%以上であり、数平均分子量が3300であり、水素添加率が90%以上である液状ポリブタジエン1〜25重量部を添加したタイヤビードフィラー用ゴム組成物が知られている。(特許文献2を参照)
一方、ポリマー成分中、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン含有ポリブタジエンゴムを10〜40質量%およびスズ変性ポリブタジエンゴムを10〜30質量%を含み、前記ポリマー成分100質量部に対してシリカを10〜40質量部含むサイドウォール用ゴム組成物が、耐カット性および耐オゾン性、ならびに車の低燃費性を向上させることができることが知られている。(特許文献3を参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−174102号公報
【特許文献2】特開2014−15585号公報
【特許文献3】特開2010−95554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1記載の組成物では、良好な加工性、高い強度、優れた操縦安定性、及び良好な転がり抵抗性を有するものの、耐オゾン性については記載されていない。また、特許文献2記載の組成物では、加工性、硬度が、未添加のものよりも劣り、耐オゾン性については記載されていない。特許文献3には、耐オゾン性のゴム組成物が記載されているが、耐オゾン性に寄与するのは、シリカ及びシランカップリング剤であり、用いられているポリブタジエンは、硬度、低発熱性に寄与することが記載されており、特定ポリブタジエンが耐オゾン性に寄与することは知られていない。
本発明は、ゴム強度、摩耗性等の性質を維持しつつ、耐オゾン性に優れたゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有するポリブタジエンを添加することで、未添加のものに比して耐オゾン性が改良されたゴム組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、
(1)ゴム成分、及び1,2−ビニル結合量が50モル%以上であり、二重結合の水素添加率が、20〜40モル%の範囲である水素添加ポリブタジエンを含むゴム組成物、
(2)ゴム成分100質量部に対して、水素添加ポリブタジエンを1〜25質量部の範囲で含む(1)に記載のゴム組成物、及び、
(3)水素添加ポリブタジエンの数平均分子量が1000〜4000の範囲である(1)又は(2)に記載のゴム組成物
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の組成物を用いることにより、耐オゾン性が向上したゴム組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のゴム組成物に用いられるゴム成分としては、特に制限されないが、具体的には、天然ゴム、ジエン系重合体ゴム、オレフィン系重合体ゴム等を例示することができる。
ジエン系重合体ゴムとして、具体的には、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム等を例示することができる。
オレフィン系ゴムとして、具体的には、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム等を例示することができる。
中でも、ジエン化合物の単独重合体またはジエン化合物と芳香族ビニル化合物の共重合体であることが好ましく、具体的にはイソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等を好ましく例示することができる。
これらのゴムは、いずれか一種単独で、又は二種以上ブレンドして用いることができる。
【0009】
ゴム成分は、架橋されていることが好ましく、通常、ゴム業界で用いられている、架橋剤、架橋促進剤を、適宜配合することで、架橋することができる。
架橋剤として、具体的には、硫黄、フェノール樹脂、金属酸化物、過酸化物等を例示することができる。これらは、通常、ゴム成分100質量部に対し、約0.5〜10質量部使用される。
架橋促進剤として、具体的には、酸化亜鉛、ステアリン酸、2,2−ジチオビスベンゾチアゾール、1,3−ジフェニルグアニジン、テトラメチルチウラムジスルフィド、亜鉛ジメチルチオカルバメート、メルカプトベンゾチアジルジスルフィドが例示される。これらは、例えば、ゴム成分100質量部に対し、約0.2〜5質量部を使用することができる。
【0010】
本発明に用いられる水素添加ポリブタジエンの水素添加前のポリブタジエンは、常温(23℃)で液状のポリマーであり、常温で固形状をなす上記ゴム成分には含まれない。該液状ポリブタジエンは、数平均分子量(Mn)が通常1,000〜100,000であり、数平均分子量が通常200,000以上である上記ゴム成分のジエン系ゴムとは明確に区別される。該液状ポリブタジエンの数平均分子量は、1,000〜50,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜10,000であり、更に好ましくは2,000〜4,000である。数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)、溶媒:THF(テトラヒドロフラン)、40℃で測定される値である。
【0011】
該液状ポリブタジエンは、1,2−ビニル結合量が50モル%以上であり、さらに70モル%以上が好ましく、さらに80〜95モル%の範囲が好ましい。
1,2−ビニル結合量は、そのポリマー中に含まれるブタジエンユニットの含有量に対する1,2−ビニル結合ユニットの含有量であり、1HNMRスペクトルの積分比により算出される。
【0012】
本発明に用いられる水素添加ポリブタジエンの水素添加率(水素添加前のポリブタジエンの二重結合に対する水素添加された二重結合の比率)は、特に限定されないが、20〜40モル%が好ましく、さらに25〜35モル%の範囲が好ましい。水素添加率は、1HNMRスペクトルにおける不飽和結合部のスペクトル減少率から算出される。水素添加は、パラジウムなどの触媒を使用した公知の方法で行うことができ、特に限定されない。
なお、1,2−ビニル結合ユニットは水素添加によりビニル基がエチル基になるが、炭素数2の炭化水素基の側鎖を持つという1,2−結合の形態自体は保持されるので、水素添加及び未水素添加の1,2−ビニル結合ユニットを併せて1,2−結合成分とすれば、該水素添加ポリブタジエンは1,2−結合成分を50モル%以上含むものであり、さらに70モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80〜95モル%の範囲である。
水素添加ポリブタジエンの数平均分子量は、水素添加前のポブタジエンの数平均分子量に水素添加率に応じて水素数を加えた数の範囲となる。
【0013】
本発明のゴム組成物は、上記の他に、通常、ゴム業界で用いられている、充填剤、可塑剤、老化防止剤等の配合剤をその目的、用途に合わせ、適宜配合することができる。
充填剤として、具体的には、カーボンブラック、シリカ、フィラー、炭酸カルシウム、マイカ、フレークグラファイト等を例示することができる。より具体的には、カーボンブラックとして、ISAF、HAF、FEF、GPF等を例示することができ、その配合量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して30〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは50〜90質量部である。
可塑剤としては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルなどの石油系プロセスオイル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、アジピン酸ジブチルなどの二塩基酸ジアルキル、液状ポリブテン、液状ポリイソプレンなどの低分子量液状ポリマーが例示され、なかでも、ゴム成分との相溶性から、液状ポリブテン、液状ポリイソプレン、芳香族系プロセスオイルが好ましい。
【0014】
該ゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、第一混合段階で、ゴム成分に対し、上記水素添加ポリブタジエンとともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【実施例】
【0015】
以下本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0016】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、硫黄と加硫促進剤を除く成分を添加混合し(加熱温度=100℃)、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で硫黄と加硫促進剤を添加混合してロール機(ロール温度=50±10℃)で混練し、ゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0017】
[ゴム成分]
・合成ゴム:SBR1500(日本ゼオン社製、Nipol(登録商標)1500)
[液状ポリブタジエン]
・液状ポリブタジエン1:日本曹達株式会社製「B−3000」(未変性の液状ポリブタジエン、Mn=3,000、1,2−ビニル結合量=90モル%、水素添加率=0モル%)
・液状ポリブタジエン2:日本曹達株式会社製「BI−3030」(未変性の水素添加液状ポリブタジエン、Mn=3,030、1,2−ビニル結合量(Vi)=82モル%、水素添加率=27モル%)
・液状ポリブタジエン3:日本曹達株式会社製「BI−3060」(未変性の水素添加液状ポリブタジエン、Mn=3,060、1,2−ビニル結合量(Vi)=72モル%、水素添加率=59モル%)
・液状ポリブタジエン4:日本曹達株式会社製「BI−3000」(未変性の水素添加液状ポリブタジエン、Mn=3,100、水素添加前の1,2−ビニル結合量(Vi)=90モル%、水素添加率=99モル%以上)
[その他の成分]
・カーボンブラック:東海カーボン株式会社製「シースト6」(ISAF)(登録商標)
・亜鉛:ハクスイテック株式会社 酸化亜鉛(2種)
・老化防止剤:大内新興化学工業株式会社製「ノクラック6C(登録商標)」:「ノクラックAW(登録商標)」=1:2(質量比)
・ステアリン酸:日本精化株式会社
・硫黄:細井化学工業株式会社 オイル硫黄
・加硫促進剤:大内新興化学工業株式会社製「ノクセラーCM(登録商標)」
【0018】
【表1】
【0019】
各ゴム組成物について、未加硫状態で加硫試験を行うとともに、160℃で15分間(2mm四方の試験片の場合)、または20分間(大型の試験片の場合)電熱プレス機を用いて加熱加工して得られた所定形状の試験片を用いて、各種性能を評価した。各評価方法は以下の通りである。
【0020】
引張試験:JIS K 6251に準じて、引張試験機(ALPHA TECHNOLOGIES社製、TENSOMETER 10K)を用いて、厚さ2mm、幅5mmの試験片(ダンベル状3号形、シートより加工)を、つかみ具間距離20mm、引張り速度500mm/分、試験温度23℃で引張強さ、切断時の伸び率を測定した。
ゴム強度:下記計算式により計算して求めた。
ゴム強度=(引張強さ×切断時伸び率)/2
耐オゾン性試験:JIS K 6259に準じて、オゾンウェザーメータ(スガ試験機(株)製、OMS−H)を用いて、厚さ2mm、幅10mmの試験片(ダンベル状1号形、シートより加工)を、つかみ具間距離40mmで設置し、引張ひずみ20%、オゾン濃度:50±5pphm(=0.5±0.05ppm)、温度40±2℃、試験時間96時間(24,48,72時間経過時に途中観察)でき裂の有無とその程度を下記指標に基づいて目視で測定を行った。
き裂の数
A:き裂少数
B:き裂多数
C:き裂無数
き裂の大きさ
1:肉眼では見えないが10倍拡大鏡では確認できるもの
2:肉眼で確認できるもの
3:き裂が深く比較的大きいもの(1mm未満)
4:き裂が深く大きいもの(1mm以上3mm未満)
5:3mm以上のき裂または切断を起こしそうなもの

反発弾性試験:JIS K 6255に準じて、リュプケ式反発弾性試験機(高分子計器(株)製)を用いて、φ29.0mm×厚さ約12mmの試験片を、リュプケ式測定方法で、測定温度23±2℃、保持力29〜39Nで測定を行った。
摩耗性試験:JIS K 6264−2に準じて、アクロン式摩耗試験機(上島製作所製)を用いて、円盤状試験片をB試験方法で、傾角20°、試験片への付加力44.1N、回転速度250回/分、試験回数を予備試験500回、本試験500回として、測定温度23±2℃で測定を行った。
各試験結果をまとめて表2に示す。
【0021】
【表2】
【0022】
実施例1は、水素添加ポリブタジエン無添加の比較例1に比して、引張強さにおいては劣るものの、切断時の伸び率に向上が見られ、ゴム強度としては、比較例に比して優位な値が得られた。このことより、特定の水素添加ポリブタジエンを添加することによりゴム強度を向上できることがわかった。
また、耐オゾン性試験においても、比較例に比して優位な値が得られ、特定の水素添加ポリブタジエンを添加することにより耐オゾン性において、性能の向上が見られた。
また、摩耗性において、実施例1は、水素添加ポリブタジエン未添加の比較例1とほぼ同程度の値であったにも関わらず、他の比較例においては、著しく低下していた。
以上のことより、ゴム強度、耐摩耗性を維持しながらも、耐オゾン性を向上したゴム組成物を提供することができた。