【0008】
本発明の中空糸膜で使用するセルロースエステルは、酢酸セルロースまたは酢酸プロピオン酸セルロースである。
酢酸セルロースは、耐塩素性を高めるため、置換度2.95以上のものであり、好ましくは2.97以上、より好ましくは3.00のものである。
酢酸プロピン酸セルロースまたはプロピオン酸セルロースは、耐塩素性を高めるため、置換度2.80以上のものであり、好ましくは2.90以上、より好ましくは3.00のものである。但し、酢酸プロピオン酸セルロースまたはプロピオン酸セルロースの置換度は、アセチル基の置換度とプロピオニル基の置換度の合計である。
置換度は、セルロースの繰返し単位(グルコピラノース単位)あたりの水酸基(2位、3位、及び6位の水酸基)の水素原子を置換するアセチル基とプロピオニル基の合計数(平均値)である。
アセチル置換度は、慣用の方法例えばASTM:D-817-91に準ずる方法や、
1H−NMR及び
13C−NMRにより測定できる。
プロピオニル基置換度も、同様に
1H−NMR及び
13C−NMRにより測定できる。
株式会社ダイセルで市販する三酢酸セルロースのアセチル基置換度は、2.95未満であり、アセチル置換度が2.95以上の三酢酸セルロースは市販されていない。
【0011】
本発明の中空糸膜は、酢酸セルロースまたは酢酸プロオピン酸セルロースまたはプロピオン酸セルロースを含む製膜溶液を使用して、製造することができる。
置換度2.95以上の酢酸セルロースを使用するときは、置換度2.95以上の酢酸セルロース、溶媒、および必要に応じて塩類、非溶媒を含む製膜溶液を使用することができる。
溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドンを挙げることができるが、N,N−ジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましい。
非溶媒は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールを挙げることができる。
塩類は、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグシウム、塩化カルシウムを挙げることができるが、塩化リチウムが好ましい。
酢酸セルロースと溶媒の濃度は、酢酸セルロース10〜35質量%、溶媒65〜90質量%が好ましい。
塩類は、酢酸セルロースと溶媒の合計質量100質量部に対して、0.5〜2.0質量%が好ましい。
【実施例】
【0014】
製造例1(置換度3.00の酢酸セルロースの製造)
撹拌機及び冷却管を備えた3L丸底フラスコに、ジメチルイミダゾリジノン1530gを入れ、攪拌を開始した。
ここに、(株)ダイセル製の酢酸セルロース[アセチル置換度2.87の酢酸セルロースを105℃で2時間乾燥し、水分量を0.5質量%以下としたもの]200g(0.70mol)を加え、シリコーン油浴で70℃まで昇温し、溶解するまで攪拌した。
次に、攪拌を継続しながら、ピリジン840gを加えた。続いて無水酢酸89g(0.88mol)を60分かけて滴下した後、80℃に昇温し、4時間攪拌を継続した。
その後、得られた反応混合物にメタノールを加え、沈澱を形成させた。脱液したウェットケーキを室温のメタノールで洗浄し、ヒドロキシル基が完全にアセチル基に置換された酢酸セルロース(置換度3.00)を191g得た。
置換度は、
1H−NMR及び
13C−NMRにより確認した。
【0015】
製造例2(置換度3.00の酢酸プロピオン酸セルロースの製造)
撹拌機及び冷却管を備えた3L丸底フラスコに、ピリジン910gを入れ、攪拌を開始した。
ここに、(株)イーストマン社製の酢酸プロピオン酸セルロース[アセチル置換度0.07、プロピオニル置換度2.58の酢酸プロピオン酸セルロースを105℃で2時間乾燥し、水分量を0.5質量%%以下としたもの]130g(0.47mol)を加え、シリコーン油浴で70℃まで昇温し、溶解するまで攪拌した。
攪拌を継続しながら、無水プロピオン酸59g(0.45mol)を60分かけて滴下した後、80℃に昇温し、4時間攪拌を継続した。
その後、得られた反応混合物にメタノールを加え、沈澱を形成させた。脱液したウェットケーキを60℃のエタノールで洗浄し、ヒドロキシル基が完全にアセチル基とプロピル基に置換された酢酸プロピオン酸セルロース(アセチル置換度0.07/プロピオニル置換度2.93))109gを得た。
置換度は、
1H−NMR及び
13C−NMRにより確認した。
【0016】
実施例1
製造例1で得た酢酸セルロース(CTA)を使用して、中空糸膜(内径/外径=0.8/1.3mm)を製造した。
製膜溶液は、CTA/DMSO/LiCl=17.7/81.3/1.0(質量%)を使用した。
製膜方法は、次のとおりである。
製膜溶液を105℃で十分に溶解し、これを二重菅型紡糸口金の外側から、圧力0.4MPa、吐出温度95℃で吐出すると共に、内管から内部凝固液として水を吐出し、空気中を通過させた後、水槽中で凝固させ、6m/minの速度で引取った後、洗浄槽で十分に溶剤を除去した。
得られた中空糸膜は、水分を乾燥させないウェット状態のまま保管し、破断点強伸度を測定した。
破断点強度が3.5MPa、破断点伸度が28.3%であった。
【0017】
比較例1
置換度2.87の酢酸セルロース((株)ダイセル製)を使用し、実施例1と同様にして中空糸膜(内径/外径=0.8/1.3mm)を製造した。
得られた中空糸膜は、破断点強度が5.1MPa、破断点伸度が25.8%であった。
【0018】
実施例2
製造例2で得た酢酸プロピオン酸セルロースを使用し、実施例1と同様にして中空糸膜(内径/外径=0.8/1.3mm)を製造した。
製膜溶液は、CTA/DMSO=22/78(質量%)を使用した。
得られた中空糸膜は、破断点強度が4.30MPa、破断点伸度が19.4%であった。
【0019】
比較例2
置換度(アセチル置換度0.07/プロピオニル置換度2.58)の酢酸プロピオン酸セルロース(Eastman CAP-482-20)を使用し、実施例1と同様にして中空糸膜(内径/外径=0.8/1.3mm)を製造した。
得られた中空糸膜は、破断点強度が4.35MPa、破断点伸度が22.0%であった。
【0020】
試験例1(塩素浸漬試験)
実施例1、2、比較例1、2の中空糸膜(内径/外径=0.8/1.3mm,長さ1m)をそれぞれ20本使用した。
有効塩素濃度12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を純水で希釈し、所定の有効塩素濃度の試験液とした。有効塩素濃度は、柴田科学製ハンディ水質計AQUAB,型式AQ-102を使用し測定した。
有効塩素濃度が300mg/Lよりも高い場合は,イオン交換水で10倍希釈した後にAQUABで有効塩素濃度測定し、測定値を10倍にすることで有効塩素濃度を算出した。
20本の中空糸膜を試験液となる次亜塩素酸ナトリウム水溶液1Lを入れた蓋付ポリ容器に浸漬した。
このとき、20本の中空糸膜の全てが完全に次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸かるようにした。有効塩素濃度の減少を防ぐため、1週間に1度の割合で次亜塩素酸ナトリウム水溶液を全量交換した。
7日ごとに一部の中空糸膜を容器から取り出し、水道水で水洗後、水分を拭き取り湿った状態のまま破断点強度と伸度を測定した。
結果を
図1〜
図4に示す。
図1〜
図4は、試験液に浸漬前の強度を1として、破断点強度または伸びの低下度で示している。
【0021】
(破断点強度と伸度の測定方法)
小型卓上試験機(島津製作所製EZ‐Test)を用いてチャックにウェット状態の中空糸膜を挟んで測定した。チャック間距離5cm、引張り速度20mm/minで行った。
【0022】
図1と
図2から明らかなとおり、実施例1と比較例1では、破断点強度と伸度の低下傾向に有意差が認められた。
なお、試験液の有効塩素濃度は、0−7日が556mg/L、8−14日が640mg/L、15−21日が680mg/L、22−28日が740mg/Lであった。
【0023】
図3と
図4から明らかなとおり、実施例2と比較例2では、破断点強度と伸度の低下傾向に有意差が認められた。
なお、試験液の有効塩素濃度は、0−7日が680mg/L、8−14日が470mg/L、15−21日が600mg/L、22−28日が550mg/L、29−34日が540mg/L、35−41日が580mg/L、42−51日が520mg/Lであった。