特許第6646468号(P6646468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646468
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】食肉加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/40 20160101AFI20200203BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20200203BHJP
   A23L 13/60 20160101ALI20200203BHJP
   A23L 13/50 20160101ALN20200203BHJP
【FI】
   A23L13/40
   A23L13/00 A
   A23L13/60 Z
   !A23L13/50
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-31800(P2016-31800)
(22)【出願日】2016年2月23日
(65)【公開番号】特開2017-147952(P2017-147952A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2018年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000118497
【氏名又は名称】伊藤ハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖田 雅俊
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−025649(JP,A)
【文献】 特開2004−329093(JP,A)
【文献】 特開平10−165106(JP,A)
【文献】 特開2008−035811(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/034822(WO,A1)
【文献】 特開2005−278503(JP,A)
【文献】 特開平11−332516(JP,A)
【文献】 特開平07−135928(JP,A)
【文献】 特公平02−009787(JP,B2)
【文献】 特開2012−205518(JP,A)
【文献】 特開平08−056582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00−17/50
A23L 23/40−25/10
A23L 35/00
A23J 1/00−7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉加工食品の製造方法であって、
畜肉のすり身と粒状の脱脂大豆タンパク質とピックル液とを減圧下で混合することで、前記すり身と前記脱脂大豆タンパク質の混合物を製造し、
前記混合物をミンチ肉に混合して生地を製造し、
前記生地を成型し、
成型した前記生地を加熱調理することを特徴とする、食肉加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水産練製品又は畜産練製品を製造するにあたって、すり身及び/又は畜肉に対して粉末分離大豆タンパク質を添加する方法が知られている。特許文献1では、粉末分離大豆タンパク質に、一部の水成分をあらかじめ添加して混練し、すり身及び/又は畜肉を加えた後、食塩及び残りの水成分を添加混合して、風味食感の良好な練製品を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2674616号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ミンチ肉を結合してなる食肉加工食品であって、ミンチ肉の一部をすり身に置き換えているにも関わらず、風味がよく、ミンチ肉の荒挽き感を十分に感じることができる食肉加工食品を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために検討を行ったところ、特定形状の植物性タンパク質を使用すると共に、特定条件下かつ特定の順序で各成分を混合することで、風味がよく、ミンチ肉の荒挽き感を十分に感じることができる食肉加工食品を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、食肉加工食品の製造方法であって、
畜肉のすり身と粒状の植物性タンパク質とピックル液とを減圧下で混合することで、前記すり身と前記植物性タンパク質の混合物を製造し、
前記混合物をミンチ肉に混合して生地を製造し、
前記生地を成型し、
成型した前記生地を加熱調理することを特徴とする、食肉加工食品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ミンチ肉にすり身を併用しているにも関わらず、風味がよく、ミンチ肉の荒挽き感を十分に感じることができる食肉加工食品を製造することができる。すり身および植物性タンパク質を使用することで、食肉加工食品の原材料費を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明により製造される食肉加工食品は、主に、ミンチ肉と、畜肉のすり身と、植物性タンパク質から構成され、これらの成分が一体的に結合して単一の肉塊のような外観を有するものである。本発明により製造される食肉加工食品はミンチ肉に加えて、すり身を含むものであるにも関わらず、風味が良好で、ミンチ肉の荒挽き感を十分に感じることができる。
【0010】
本発明において、ミンチ肉とは、肉塊を、肉粒の形状が残留するようにプレート等で挽いたものをいい、直径3〜6mm程度の肉粒から構成されるものをいう。一方、すり身とは、畜肉のすり身であって、肉塊をすりつぶしてペースト状にしたものをいい、ミンチ肉とは異なり、肉粒の形状が実質的に残留していないものをいう。
【0011】
ミンチ肉及びすり身を構成する畜肉としては特に限定されず、牛肉、豚肉、鶏肉等が挙げられる。すり身に関しては、水分が多く粒子が細かいために、鶏肉のすり身を使用することが好ましい。
【0012】
本発明で使用する植物性タンパク質は、粒状の植物性タンパク質である。本発明において粒状の植物性タンパク質は水分を吸収することで膨潤し、ミンチ肉のような食感を提供することができる。一方、特許文献1記載の発明で使用されているタンパク質は、粉末状のものであり、粒状のものではない。また、従来の粉末状のタンパク質は、肉粒同士を繋ぎ合わせる結合剤としての機能を有するものであって、ミンチ肉の荒挽き感を得るために使用されているものではない。
【0013】
本発明における粒状の植物性タンパク質とは、ミンチ肉と同様の形状を有するものであって、直径3〜6mm程度のものをいう。なお、粉末状のものとは直径が1mm未満の極めて微小のものをいう。
【0014】
植物性タンパク質の種類としては特に限定されないが、例えば、脱脂大豆タンパク質、小麦タンパク質等が挙げられる。
【0015】
本発明の食肉加工食品の製造方法では、まず、畜肉のすり身と粒状の植物性タンパク質とピックル液とを減圧下で混合することで、前記すり身と前記植物性タンパク質の混合物を製造する。
【0016】
ピックル液とは、製造する食肉加工食品に必要な風味や色を与えるための調味液をいい、例えば、水に、食塩や砂糖、グルタミン酸ナトリウム、その他の調味料を添加したものをいう。
【0017】
畜肉のすり身と粒状の植物性タンパク質とピックル液とを混合する際には、減圧下で混合する。減圧下で混合することで、粒状の植物性タンパク質に含まれる気泡から脱気され、すり身の肉汁、すなわち動物性タンパク質を含む水分が、粒状の植物性タンパク質中の気泡に入り込みやすくなる。当該気泡に動物性タンパク質を含む水分が移行することで、粒状の植物性タンパク質が膨潤し、製造される食肉加工食品が一体化して、当該食品にミンチ肉の荒挽き感を付与することができる。また、ピックル液を使用することで、すり身が加水されて、動物性タンパク質を含む水分が粒状の植物性タンパク質中の気泡に入り込みやすくなる。
【0018】
混合を減圧下で行うに際し、その減圧の程度は特に限定されず、大気圧よりも低い気圧であればよい。また、混合時の温度や時間についても特に限定されないが、例えば、約1〜4℃で30分〜60分間程度で混合をすればよい。混合に際しては、ロータリータンブラー等、食品分野で通常使用される混合機械を使用することができる。
【0019】
すり身と、粒状の植物性タンパク質と、ピックル液との使用割合は特に限定されないが、本発明の効果を達成しやすいよう、すり身100重量部に対して、粒状の植物性タンパク質を50〜150重量部、ピックル液を100〜300重量部使用することが好ましい。
【0020】
これら三成分を減圧下で混合することで、三成分が一体化した混合物を製造することができる。
【0021】
次いで、このようにして得られた混合物を、ミンチ肉と混合することで、食肉加工食品の生地を製造する。混合の条件は特に限定されず、食品業界で通常実施されている程度の混合でよいが、前記混合物とミンチ肉が十分に混ぜ合わされる程度に混合する。また、ミンチ肉とあわせて、少量のすり身、みじん切りにした野菜、卵白、全卵、パン粉等を添加することもできる。
【0022】
この際、前記混合物とミンチ肉の使用割合は特に限定されないが、ミンチ肉100重量部に対して、前記混合物を30〜50重量部程度使用することが好ましい。前記混合物の使用割合が少なすぎると、ミンチ肉の一部をすり身及び植物性タンパク質に置き換える意義に乏しいこととなる。逆に前記混合物の使用割合が多すぎると、食肉加工食品の風味や食感が低下する場合がある。
【0023】
以上のようにして得られた生地を所定の形状に成型した後、常法により加熱調理することで食肉加工食品が製造される。加熱調理の方法としては特に限定されず、揚げる、焼く、煮る、炒める、蒸す等の方法が挙げられる。
【0024】
本発明により製造される食肉加工食品としては特に限定されないが、例えば、チキンナゲットやハンバーク、ミートボール、つくね等が挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)チキンナゲットの製造
まず、原料肉として鶏ムネ肉10000gを使用し、これを5mmの大きさに挽いてミンチ肉を得た。
【0027】
次いで、チキンすり身1250gと、粒状の植物性タンパク質(品名:ニューフジニック52、製造者:不二製油株式会社、主成分:脱脂大豆タンパク質、大きさ:約5mm程度のミンチ肉の形状)1250gと、ピックル液(配合物:食塩120g、砂糖100g、グルタミン酸ナトリウム40g、リン酸塩20g、水2220g)2500gとを、真空ロータリータンブラーの内部に投入し、減圧下、室温で約0.5時間マッサージを行った。これにより、チキンすり身中の水分が粒状の植物性タンパク質内に移行し、植物性タンパク質が膨潤して、チキンすり身と膨潤した植物性タンパク質が一体となった混合物5000gが得られた。
【0028】
次に、上記ミンチ肉10000gと前記混合物5000gとをよく混ぜ合わせて、生地を製造した。得られた生地を成型機で成型した後、成型した生地に衣をつけてフライして、チキンナゲットを得た。
【0029】
(比較例1)
粒状の植物性タンパク質を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、チキンナゲットを得た。
【0030】
(比較例2)
粒状の植物性タンパク質の代りに、粉末の植物性タンパク質(品名:サンラバー10、製造者:不二製油株式会社、主成分:脱脂大豆タンパク質、大きさ:100〜200メッシュ程度の粉体)を同量使用したこと以外は実施例1と同様にして、チキンナゲットを得た。
【0031】
(比較例3)
実施例1における混合物を製造することなく、チキンすり身、粒状の植物性タンパク質、及びピックル液をミンチ肉に直接添加して混ぜ合わせ、生地を製造したこと以外は実施例1と同様にして、チキンナゲットを得た。
【0032】
(評価方法)
実施例1及び比較例1〜3で得られたチキンナゲットを真空包装して、その状態で90℃、30分間湯煎で加熱したものを食し、その風味及び荒挽き感を、従来品と比較して下記基準により評価した。ここで、従来品とは、すり身や植物性タンパク質を使用せずにミンチ肉のみを使用して製造した同等品のことをいう。風味は、食した時に植物性タンパク質の臭いを感じるか否かに基づいて評価し、従来品と同じく植物性タンパク質の臭いを感じないものを良好と判断した。荒挽き感は、食した時に肉粒を感じるか否かに基づいて評価し、従来品と同じく肉粒を十分に感じたものを良好と判断した。結果を表1に示す。
【0033】
○:従来品と遜色がなく良好
△:従来品よりもやや劣る
×:従来品よりも劣る
【0034】
【表1】
【0035】
具体的には各実施例及び比較例は以下のように評価された。
【0036】
実施例1:ピックル液の吐き出しが最も少なく(水分の流出が最も少ない)、弾力が有り、噛んだ時に口の中でほぐれて肉粒感がある。
【0037】
比較例1:ピックル液の吐き出しが最も多く(水分の流出が最も多い)、噛んだ時にボロボロほぐれてまとまりがない。
【0038】
比較例2:ピックル液の吐き出しが2番目に多く(水分の流出が2番目に多い)、全体的に締まった感じで柔らかく肉粒感がない。
【0039】
比較例3:ピックル液の吐き出しが3番目に多く(水分の流出が3番目に多い)、弾力はあるが、噛んだ時のほぐれ感、肉粒感は感じられない。
【0040】
(実施例2)ハンバーグの製造
まず、原料肉として、3mmの牛ミンチ肉700g、及び、香辛料等で味付けをした大きさ3mmの豚ミンチ肉300gを準備した。
【0041】
次いで、チキンすり身125gと、粒状の植物性タンパク質(品名:ニューフジニック52、製造者:不二製油株式会社、主成分:脱脂大豆タンパク質、大きさ:約5mm程度のミンチ肉の形状)125gと、ピックル液(配合物:食塩10g、ナツメグ1.5g、水238.5g)250gとを、真空ロータリータンブラーの内部に投入し、減圧下、室温で約0.5時間マッサージを行った。これにより、チキンすり身中の水分が粒状の植物性タンパク質内に移行し、植物性タンパク質が膨潤して、チキンすり身と膨潤した植物性タンパク質が一体となった混合物500gが得られた。
【0042】
次に、牛ミンチ肉700g、豚ミンチ肉300g、前記混合物500g、ダイス玉ねぎ300g、全卵100g、及び赤パン粉100gをよく混ぜ合わせて、生地を製造した。得られた生地を成型機で成型した後、成型した生地をフライパンで焼いて、ハンバーグを得た。
【0043】
(比較例4)
前記混合物を製造することなく、前記混合物500gの代りに、チキンすり身250gと前記ピックル液250gとを、ミンチ肉等と混ぜ合わせたこと以外は、実施例2と同様にしてハンバーグを得た。
【0044】
(比較例5)
前記混合物を製造することなく、前記混合物500gの代りに、チキンすり身125gと、粉末の植物性タンパク質(品名:サンラバー10、製造者:不二製油株式会社、主成分:脱脂大豆タンパク質、大きさ:小麦粉程度の粉体)125gと、前記ピックル液250gとを、ミンチ肉等と混ぜ合わせたこと以外は、実施例2と同様にしてハンバーグを得た。
【0045】
(比較例6)
前記混合物を製造することなく、前記混合物500gの代りに、チキンすり身125g、前記粒状の植物性タンパク質125g、及び前記ピックル液250gをミンチ肉に直接添加して混ぜ合わせ、生地を製造したこと以外は、実施例2と同様にしてハンバーグを得た。
【0046】
実施例2及び比較例4〜6で得られたハンバークを真空包装して、その状態で90℃、30分間湯煎で加熱したものを食し、その風味及び荒挽き感を下記基準により評価した。結果を表2に示す。
【0047】
○:従来品と遜色がなく良好
△:従来品よりもやや劣る
×:従来品よりも劣る
【0048】
【表2】
【0049】
具体的には各実施例及び比較例は以下のように評価された。
【0050】
実施例2:植物性タンパク質に特有の匂いがない一方、ほぐれ感、及び肉粒感があり、良好である。
【0051】
比較例4:弾力がなく、すり身に由来する鳥の匂いがする。
【0052】
比較例5:植物性タンパク質に特有の匂いがし、また、粉っぽい。
【0053】
比較例6:植物性タンパク質に特有の匂いが強く、また、パサついており、粘着力のある植物性タンパク質独特の食感がある。