特許第6646469号(P6646469)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646469
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】抗ウイルス性を有する吸水性高分子
(51)【国際特許分類】
   C08F 291/00 20060101AFI20200203BHJP
   A61L 15/16 20060101ALI20200203BHJP
   A61L 15/58 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   C08F291/00
   A61L15/16 200
   A61L15/58 320
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-32164(P2016-32164)
(22)【出願日】2016年2月23日
(65)【公開番号】特開2016-156017(P2016-156017A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2018年10月31日
(31)【優先権主張番号】特願2015-33340(P2015-33340)
(32)【優先日】2015年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100180699
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 渓
(72)【発明者】
【氏名】早田大志
(72)【発明者】
【氏名】長尾朋和
(72)【発明者】
【氏名】中山鶴雄
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−225930(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/124619(WO,A1)
【文献】 特開2010−202743(JP,A)
【文献】 特開昭55−036273(JP,A)
【文献】 国際公開第02/017848(WO,A1)
【文献】 特表2001−503087(JP,A)
【文献】 特表平11−510192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
A61L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性高分子からなる主鎖に、重合性単量体および/またはその重合体が側鎖として結合しており、その側鎖中にスルホン酸基を有し、
前記親水性高分子がポリビニルアルコール、ポリアクリル酸またはカルボキシメチルセルロースであり、
ビニルスルホン酸を用いたグラフト重合法によりスルホン酸基を有する前記側鎖と前記主鎖との結合が形成されていることを特徴とする抗ウイルス性を有する吸水性高分子。
【請求項2】
請求項1に記載の抗ウイルス性を有する吸水性高分子を備える衛生用品。
【請求項3】
請求項1に記載の抗ウイルス性を有する吸水性高分子を備える医療用品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性を有する吸水性高分子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、SARS(重症急性呼吸器症候群)やノロウイルス、鳥インフルエンザなどウイルス感染による死者が報告されている。さらに病院、介護老人ホームなどの施設内においてノロウイルスやインフルエンザの感染症、またMRSAなどの薬剤耐性菌による院内感染などが流行し、それに対する早急な対処策が求められている。これらの背景から、ウイルスや細菌に対する高い不活化機能を有する部材の開発が望まれている。
【0003】
また、近年、紙オムツや生理用ナプキン、失禁パッド等の衛生用品には、その構成材として、血液、体液等を吸収させることを目的とした吸水性高分子が幅広く使用されている。
ここで、細菌やウイルスなどの病原体は血液や体液に含まれていることが多い。そこで、その対策として、血液や体液からの病原体(細菌)の感染を防止するための吸水性高分子と抗菌剤を含む組成物が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-226664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ウイルスを不活化する効果がある吸水性高分子については知られていない。
そこで本発明は、接触したウイルスを不活化できる新規な吸水性高分子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち第1の発明は、親水性高分子からなる主鎖に、重合性単量体および/またはその重合体が側鎖として結合しており、その側鎖中に遊離型酸性官能基を有することを特徴とする抗ウイルス性を有する吸水性高分子である。
【0007】
また第2の発明は、上記第1の発明において、前記遊離型酸性官能基として、スルホン酸基、カルボキシ基、及びリン酸基からなる群から選択される1または2以上の官能基を有することを特徴とする抗ウイルス性を有する吸水性高分子である。
【0008】
さらにまた第3の発明は、上記第1または第2の発明の抗ウイルス性を有する吸水性高分子を備える衛生用品である。
【0009】
さらにまた第4の発明は、上記第1または第2の発明の抗ウイルス性を有する吸水性高分子を備える医療用品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、接触したウイルスを不活化できる新規な吸水性高分子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳述する。
本実施形態は、吸水性を有する、主鎖としての親水性高分子(以下、ポリマー基体ともという)の少なくとも一部に遊離型酸性官能基を含む側鎖が導入された抗ウイルス性を有する吸水性高分子に関する。本実施形態の吸水性高分子は、当該吸水性高分子に付着したウイルスを不活化できる。
【0012】
本実施形態に係るポリマー基体は親水性を有する限り特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。ここで、本明細書において、親水性高分子とは、冷水または温水に溶解、もしくは冷水または温水に接触したときに膨潤する高分子をいう。例えば、親水性高分子としてこれまで公知となっているものをポリマー基体として用いることができ、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリルアミド(PAAM)、ポリアクリル酸(PAA)、アルジネート、カルボキシメチルセルロース(CMC)、多糖、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体、ポリ−N−アルキルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PNIAAm)、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、デルマタン硫酸などを挙げることができる。中でも特に後述の放射線グラフト重合法によって遊離型酸性官能基を導入しやすいため、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)がポリマー基体として好適に用いることができる。
【0013】
次に、本実施形態の抗ウイルス性を備える吸水性高分子が有する、遊離型酸性官能基について説明する。酸性官能基にはプロトンを放出する酸性の強い遊離型と、水酸化ナトリウム水溶液などでプロトンがナトリウムと置換され中和された中性のナトリウム型とが存在する。本実施形態の抗ウイルス性を有する吸水性高分子は、ポリマー基体の少なくとも一部に、後述する重合性単量体および/またはその重合体が側鎖として結合しており、その側鎖中に酸性を示す遊離型の酸性官能基を備えることを特徴とする。また、遊離型酸性官能基を含む側鎖が導入されるポリマー基体における箇所は、ポリマー基体の表面でもよいし、ポリマー基体の内部でもよい。
本実施形態の抗ウイルス性を有する高分子は、酸性を示す遊離型の酸性官能基を含む側鎖を主鎖であるポリマー基体に導入する事により、ポリマー基体の表面または内部が酸性となり、その結果、付着したウイルスを不活化することができるものと思われる。
遊離型酸性官能基としてはスルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基などが挙げられ、これらのうちいずれか一種または二種以上がポリマー基体に導入されていてもよい。
【0014】
本実施形態において、遊離型酸性官能基を含む側鎖はグラフト重合法によりポリマー基体に導入することができる。
グラフト重合法とは、ポリマー基体のポリマー部分に例えば放射線を照射するなどしてラジカルを形成させ、この発生したラジカル部分にビニルモノマーなどの重合性単量体をグラフト反応させた後、目的の官能基を含む物質(本実施形態の場合、遊離型酸性官能基を含む物質)と接触させ、固定するというものである。当該方法は、様々な形状の高分子に多くの機能性官能基を導入することができるので、分離機能性材などで使われている手法である。
なお、ポリマー基体への遊離型酸性官能基の導入のために用いる重合性単量体や遊離型酸性官能基を含む物質の量、割合などは特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
【0015】
ポリマー基体にラジカルを生成させる方法としては、放射線照射法、紫外線(UV)法、コロナ放電法、プラズマ法、あるいは、これらを組み合わせた方法などを挙げることができる。
放射線照射法とは、窒素、アルゴン、ヘリウムガスなどの不活性ガス中で、ポリマー基体へ、α線や、β線や、γ線や、電子線等の放射線を照射する方法である。また、放射線照射法は、ポリマー基体をイソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール類に含浸させた状態でポリマー基体に放射線を照射するようにしてもよい。
【0016】
紫外線(UV)法は、光開始剤の存在下で紫外線をポリマー基体に照射する方法である。当該紫外線照射法も、放射線照射法と同様に、不活性ガス雰囲気下で、あるいはアルコール類にポリマー基体を含浸させた状態で、ポリマー基体に紫外線を照射するようにしてもよい。
光開始剤としてはベンゾフェノン、アントラキノンなどがある。光開始剤が吸収した光のエネルギーが、ポリマーへ移動してラジカルを作る場合と、光開始剤ラジカルがポリマーの水素を引き抜いて、ポリマーにラジカルを作る場合とがある。
【0017】
コロナ放電法は、コロナ放電をポリマー基体に照射する方法である。
プラズマ法は、グロー放電により発生するプラズマをポリマー基体に照射する方法である。プラズマ法では、プラズマ中の電子がポリマーにラジカルをつくる場合と、ラジカルを酸素と反応させて過酸化ラジカルとする方法とがある。
UV法とプラズマ法とコロナ放電法の特徴はポリマー基体の表面近傍のみにラジカル発生が制限される点である。
【0018】
ポリマー基体にラジカルを生成させる方法には、上述した放射線照射法や紫外線法(UV法)やコロナ放電法、プラズマ法などに加えて化学開始剤法もある。化学開始剤法には、過硫酸塩類や有機過酸化物などを開始剤とした酸化法、ポリマー末端のラジカルが、他のポリマー鎖、溶媒、モノマー、開始剤、その他の添加剤から水素(場合によると塩素)を引き抜く事によって起こる連鎖移動法、水中で乳化剤と水に不溶または溶解性の低いモノマーを加えて重合する乳化重合法、セリウム塩を開始剤としたセリウム塩法などがある。酸化法において用いることができる過硫酸塩類としては過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等を挙げることができ、また、有機過酸化物としては、ジアシルパーオキサイド、アルキルパーオキシエステルなどを挙げることができる。連鎖移動法では、例えば過酸化ベンゾイルのような過酸化物やアゾイソブチロニトリル(AIBN)などを化学開始剤として使用することができる。乳化重合法では、例えばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルやその硫酸エステル塩などを乳化剤として用いることができる。
【0019】
本実施形態の抗ウイルス性を有する吸水性高分子においては、目的、用途に応じて、ラジカル生成方法として、放射線照射法、UV法、プラズマ法、コロナ放電法及び化学開始剤法を適宜選択すれば良いが、エネルギー量の高いα線や、β線や、γ線や、電子線を照射する放射線照射法が好適に用いられる。該放射線照射法には、同時照射法と前照射法がある。同時照射法はポリマーと反応物質の共存下で照射する方法で、前照射法は捕捉ラジカル法ともいわれ、放射線を照射して、ラジカルが生成した後から反応物質と接触させる方法である。放射線照射法の特徴としては、あらゆる形状のポリマーに活用できる点、ポリマー内部までラジカルを生成させることができ、より多くの遊離型酸性官能基を導入できる点、開始剤等の残存がない点、大量生産できる点等が挙げられる。したがって、本実施形態において用いられるラジカル重合法としては、放射線照射を用いたラジカル重合方法(放射線ラジカル重合法)が好ましい。
【0020】
上述のラジカル生成方法により生成されるラジカルについては例えばポリエチレンでは多くの報告があり、放射線照射等によってアルキル、アリル、ポリエニル、過酸化ラジカルが生成する。ラジカルは結晶部と非晶部に生成するが、分子鎖の運動が激しい非晶部では、ただちに再結合等の反応で消滅する。観察されるのは結晶部内のラジカルである。アルキルラジカルは反応性がきわめて高く、水素を引き抜きながら結晶部を移動し、非晶部で再結合(橋かけ)や酸化反応、グラフト反応で消費される。
【0021】
放射線グラフト重合法により遊離型酸性官能基を含む側鎖をポリマー基体に導入する態様であるときにおいて、ポリマー基体への放射線照射直後、例えば1〜2分以内に、遊離型酸性官能基をポリマー基体に導入するような場合には、放射線を照射する際の温度および、照射後にポリマー基体を保存する温度については特に制限はない。しかし、ラジカルを生成した後、時間をおいて遊離型酸性官能基を導入する場合などにはラジカルを保存するために、照射も保存も低温で行うことが望ましい。−5℃程度に低温保存すれば、照射20日経過後でも支障なくポリマーラジカルを用いた反応が可能である。
【0022】
本実施形態の抗ウイルス性を有する吸水性高分子のポリマー基体にラジカルを生成させる際に放射線を照射する方法を用いる場合において、放射線の照射線量は、遊離型酸性官能基を含む側鎖を導入するのに十分なラジカルの生成量が得られ、不必要な架橋や部分的な分解が起こらない経済的な照射線量であれば特に制限はない。ラジカルが均一に生成し、本実施形態の抗ウイルス性を有する吸水性高分子を構成するポリマー基体の剛性や耐薬品性に及ぼす影響も少ないことから、放射線の照射線量は1kGy〜1000kGyの範囲にあることが好ましく、5kGy〜500kGyの範囲にあることがより好ましく、10kGy〜300kGyの範囲にあることが特に好ましい。また、照射線量が多くなると吸水性高分子における架橋度が向上するため保型性は高くなるが、吸水量は低下する。また、照射線量が少ないと吸水性高分子における架橋度が低下するため、吸水量は向上するが、保型性は低くなる。つまり、本実施形態の抗ウイルス性を有する吸水性高分子を用いる状況に合わせて、適宜、照射線量を決めることができる。
【0023】
上述のように、ポリマー基体に放射線の照射等によりラジカルを発生させた後、ビニルモノマーなどのモノマー(重合性単量体)を接触させ、ポリマー基体にモノマーおよび/またはその重合体を結合させてグラフト鎖として導入するか、ポリマー基体とビニルモノマーなどのモノマー(重合性単量体)とを接触させた状態で放射線の照射等を行うことによりラジカルを発生させ、ポリマー基体にモノマーおよび/またはその重合体を結合させてグラフト鎖として導入する。なお、本明細書において、グラフト鎖とは、重合体である本実施形態に係る吸水性高分子において主鎖から枝分かれしている側鎖に含まれる、主鎖に結合する原子から当該側鎖の末端までをいう。
そして、導入されたモノマーおよび/またはその重合体と遊離型酸性官能基を含む物質とを接触させることで、遊離型酸性官能基がグラフト鎖を構成する各モノマーおよび/またはその重合体に導入される。その結果、このグラフト重合法によって生成される遊離型酸性官能基を含む側鎖を有する、本実施形態の抗ウイルス性を有する吸水性高分子を得ることができる。このようにグラフト重合により側鎖を導入することで、基体に直接、酸性官能基を導入する場合と比較して、多くの酸性官能基を導入できるため、より高い抗ウイルス効果を付与できるという利点がある。
【0024】
この場合にグラフト重合に用いられるモノマー(重合性単量体)としては、アクリロニトリル、アクロレイン、ビニルピリジン、スチレン、クロロメチルスチレン、メタクリル酸グリシジルなどが挙げられる。
また、遊離型酸性官能基を有する物質として、例えば、スルホン酸基を導入できるものとしては、無水硫酸、濃硫酸、クロロスルホン酸、発煙硫酸、三酸化硫黄、スルファミン酸、などが挙げられる。
また、スチレンスルホン酸ナトリウムやメタリルスルホン酸ナトリウムやアリルスルホン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどを用いた場合にはナトリウム型酸性官能基が導入される。ナトリウム型の酸性官能基を導入した場合は、酸性溶液の中でナトリウムイオンと水素イオンを置換することで遊離型の酸性官能基を得ることができる。例えば、グラフト鎖を形成するためのモノマーとして、メタクリル酸グリシジルを放射線照射等によるラジカル生成およびグラフト反応によってポリマー基体に導入し、次に、亜硫酸ナトリウムなどのスルホン化剤をメタクリル酸グリシジルのエポキシ基と反応させてナトリウム型スルホン酸基を導入する。次いで、得られたナトリウム型スルホン酸基が導入されたポリマー基体を塩酸などに浸漬することにより、遊離型酸性官能基を含む側鎖が導入された抗ウイルス性を有する吸水性高分子を得ることができる。
【0025】
また別の製造方法として、遊離型酸性官能基を有するモノマーと、上述のポリマー基体の素になる親水性高分子とを溶液中で懸濁し、次いで放射線を照射するなどのグラフト重合により遊離型酸性官能基を含む側鎖をポリマー基体に導入するものも挙げられる。遊離型酸性官能基を有するモノマーのうち、具体的なスルホン酸基を有するモノマーとしては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、アクリルアミドターシャルブチルスルホン酸などが挙げられる。また、カルボキシ基を有するモノマーとしては、不飽和結合を持つカルボン酸化合物であればよく、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、ソルビン酸などが挙げられる。
【0026】
本実施形態の抗ウイルス性を有する吸水性高分子において不活性化できるウイルスについては特に限定されず、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係ることなく、様々なウイルスを不活化することができる。例えば、ライノウイルス、ポリオウイルス、口蹄疫ウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、エンテロウイルス、ヘパトウイルス、アストロウイルス、サポウイルス、E型肝炎ウイルス、A型、B型、C型インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス(おたふくかぜ)、麻疹ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、ニパウイルス、ヘンドラウイルス、黄熱ウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、B型、C型肝炎ウイルス、東部および西部馬脳炎ウイルス、オニョンニョンウイルス、風疹ウイルス、ラッサウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルス、グアナリトウイルス、サビアウイルス、クリミアコンゴ出血熱ウイルス、スナバエ熱性ハンタウイルス、シンノンブレウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、マーブルグウイルス、コウモリリッサウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、ヒトポルボウイルス、ポリオーマウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、水痘帯状発疹ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、天然痘ウイルス、サル痘ウイルス、牛痘ウイルス、モラシポックスウイルス、パラポックスウイルス、ジカウイルスなどを挙げることができる。
【0027】
以上の本実施形態によれば、付着したウイルスを不活化できる抗ウイルス性を有する吸水性高分子を提供することができる。そして、本実施形態によれば、導入する遊離型酸性官能基の種類や導入量などにもよるが、非常に短時間でウイルスを不活化できる即効性の高い抗ウイルス性を有する吸水性高分子を提供することができるという効果が得られる。
【0028】
また、本実施形態の抗ウイルス性を有する吸水性高分子は、ポリマー基体の種類等にもよるが、高い吸水性を有するため、血液や汚物などに含まれる水分をすばやく吸収すると共に、これらの水分中に含まれるウイルスを不活化することができる。したがって、本実施形態の抗ウイルス性を有する吸水性高分子は、医療用血液吸収物品、創傷被覆剤、医療用ドレッシング材、絆創膏などの医療用品や、紙おむつ、ナプキン、タンポン、軽失禁用品、ライナーなどの衛生用品、ペット用シーツなどに利用することができる。
【0029】
さらに、本実施形態の抗ウイルス性を有する吸水性高分子は、織編物や不織布などの布帛や、繊維の表面をコーティングする形態で用いてもよい。その場合、布帛に抗ウイルス効果を付与できると共に、布帛に親水性も付与できるため、たとえば、保湿力の高い抗ウイルス性マスクなどに用いることができる。
【実施例】
【0030】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0031】
<抗ウイルス性を有する吸水性高分子の作製>
以下、実施例の電子線照射には、エレクトロカーテン型電子線照射装置(岩崎電気(株)製 CB250/15/180L)を用いた。抗ウイルス性を有する吸水性高分子の実施例および比較例は以下の通り作製した。
【0032】
(実施例1)
抗ウイルス性を有する吸水性高分子の基体として、カルボキシルメチルセルロース(CMC;ダイセルファインケム(株)、CMCダイセル1380)を用いた。まず、CMCを純水に加えて混練し、CMC濃度20質量%のペーストを調製した。次に、当該CMCペーストに対して、ビニルスルホン酸モノマー(VS;旭化成ファインケム(株)、VSA−H)を2質量%加えて混練した。CMC−VSペーストをポリエチレン製の袋に入れて口を閉じ、厚みを1mm程度に整え、窒素雰囲気下で電子線を両面より照射した(加速電圧:200kV、100kGy)。袋より内容物を取り出し、超純水に1晩浸漬して、未架橋成分を除去した。得られたゲルを取り出し、凍結乾燥を行って、スルホン化されたCMCの吸水性高分子を得た。
【0033】
(実施例2)
抗ウイルス性を有する吸水性高分子の基体として、ポリビニルアルコール(PVA;純正化学(株)、ポリビニルアルコール1500)を用いたこと以外は、実施例1と同様に操作を行い、スルホン化されたPVAの吸水性高分子を得た。
【0034】
(実施例3)
ビニルスルホン酸モノマーの代わりにメタクリル酸を用いたこと以外は、実施例2と同様に操作を行い、カルボキシル化されたPVAの吸水性高分子を得た。
【0035】
(実施例4)
化学開始剤法により抗ウイルス性を有する吸水性高分子を調製した。抗ウイルス性を有する吸水性高分子の基体として、市販のポリアクリル酸ゲル(PAA、CP−1;ケミカルテクノス製)を用いた。まず、ビニルスルホン酸ナトリウム 2gを加えた純水80gに窒素ガスを通気させ15分間のバブリングを行なった。その後、過硫酸アンモニウムを0.01%となるように加え、さらにPAA粉末20gを加え、吸水させて、50度、20時間の重合反応を行った。次に、未反応のモノマーを洗浄するために、反応後のゲルを純水 2Lに浸漬して3時間置き、水を入れ替えて、さらに3時間静置した。ゲルをろ過して回収し、凍結乾燥を行なってスルホン化されたPAAの吸水性高分子を得た。
【0036】
(比較例1)
VSを加えないこと以外は、実施例1と同様の方法にて、CMCの吸水性高分子を得た。
【0037】
(比較例2)
VSを加えないこと以外は、実施例2と同様の方法にて、PVAの吸水性高分子を得た。
【0038】
<抗ウイルス性の評価>
実施例1、2、および3と比較例1、2の各サンプルの抗ウイルス性評価は、MDCK細胞を用いて培養したインフルエンザウイルス(influenzaA/北九州/159/93(H3N2))を用いて行った。各吸水性高分子サンプル0.1gをフタ付プラスチック容器にとり、ウイルスの懸濁液100μLを吸水性高分子サンプル上に滴下した。各サンプルを、室温で10分、30分、60分間作用させた後、SCDLP培地1900μLを添加し、ボルテックスミキサーでの攪拌、ピペッティングによりウイルスを洗い出し、上清液を回収した。その後、細胞培養培地(MEM)を用いて、回収した上清液の10倍段階希釈系列を作製した。回収した上清液と各希釈段階液0.1mLを、MDCK細胞を培養した6穴細胞培養プレートに接種した。60分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO2インキュベータにて培養した。次に、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い、形成されたプラーク数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1mL,Log10);(PFU:plaque−forming units)を算出した。その試験結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
以上の結果より、遊離型酸性官能基であるスルホン酸基を導入した実施例1、2および4では、ウイルスとの接触時間が10分という短時間で検出限界値以下になるという高い抗ウイルス性が確認できた。カルボキシ基を導入した実施例3においても、60分後に抗ウイルス試験結果が検出限界値以下と、高い抗ウイルス性を有することが確認できた。これに対し、スルホン酸基、カルボキシ基を導入していない比較例1、2では、抗ウイルス性がみられなかった。このことから、本発明の吸水性高分子を用いることで、抗ウイルス性を付与した衛生用品、医療用品が提供できることが理解できる。