(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一の周辺部において円周方向で見たときの肉厚は、前記水平経線から前記垂直経線へと回転して向かうにつれて減少することを特徴とする請求項1に記載のコンタクトレンズ。
前記第一の周辺部補助部の半径方向の幅は、前記水平経線から前記垂直経線へと回転して向かうにつれて減少し、前記第二の周辺部の半径方向の幅は、前記水平経線から前記垂直経線へと回転して向かうにつれて増大し、前記傾斜部と前記第二の周辺部との境界線は前記水平経線に対して平行であることを特徴とする請求項6に記載のコンタクトレンズ。
前記周辺部での前記水平経線から前記垂直経線へと回転して向かう所定の回転角度範囲内において、前記第一の周辺部補助部を内周側または外周側のうちの一方の側に配し、前記傾斜部を内周側または外周側のうちのもう一方の側に配し、両者を並存させることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のコンタクトレンズ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、マルチフォーカルコンタクトレンズにトーリックを組み合わせて軸安定化機構を配備させようとした場合(それに加えてマルチフォーカルではないトーリックコンタクトレンズを扱う場合。以降、(マルチフォーカル)トーリックコンタクトレンズとも称する。)、次のような問題が生じる。トランケーションを備えるマルチフォーカルトーリックコンタクトレンズの場合(例:先行文献1および2)、特徴的な形状のため特異な眼を有する装用者への特注品として向くものの、量産化には適さない。また、シンプルな球面レンズに比べるとレンズ全体が歪な形状となり、異物感(装用感の低下)が必然的に生じる。
【0006】
リッジを備えるマルチフォーカルトーリックコンタクトレンズの場合(例:先行文献3および4)、レンズ下方部に隆起したリッジが下眼瞼と係合することで位置安定性と配向性とが得られるが、下眼瞼とリッジとの係合具合は下眼瞼に個人差があるため、量産化には適さない。また、上眼瞼はリッジの凸部形状に当たりやすくなり、装用感も球面レンズに比べると劣る。
【0007】
プリズムバラストを備えるマルチフォーカルトーリックコンタクトレンズの場合(例:先行文献5,6および9)、レンズ全体にプリズムが形成されるためレンズ上端部からレンズ下端部にかけて肉厚が増加し、マルチフォーカルが形成された光学部にもプリズムが残る。この結果、光学部のプリズムが遠用領域の補正や近用領域の補正に阻害要因として働き、これを解消するためにはより複雑な光学設計を必要とする。また、レンズの一部にバラストが形成されるため、通常のレンズよりも下方に落ちやすい。すると、レンズのセンタリングが得られ難く、センタリングを確保するためにレンズのどこかを削って薄くすることでバランスを取る加工の必要性が生じる。加工した場合、球面レンズに比べるとレンズ全体が歪な形状となり、異物感が生じる。
【0008】
ダブルスラブオフを備えるマルチフォーカルトーリックコンタクトレンズの場合(例:先行文献10および11)、左右対称性および上下対称性を有するので装用者のセンタリングが得やすく遠近両用の光学設計が発揮され易く、また、レンズにプリズムが形成されないので遠用領域や近用領域の光学設計への阻害要因が生じないといった効果が見込まれる。しかし、バラストのないダブルスラブオフで軸安定性を確保するためには、周辺部をより強調した肉厚領域を形成したり、周辺部の薄肉領域を拡張したりといったような肉厚分布が必要になり、球面レンズに比べると歪なレンズ形状になる。また、前面の光学部に乱視矯正と前面の周辺部にダブルスラブオフを設け、後面の光学部にマルチフォーカルを設けた肉厚設計の場合(例:先行文献11)、前面および後面にそれぞれ異なる効果を狙った光学特性を有するので光学設計や加工に特化しやすいものの、前面にも後面にもそれぞれ特徴ある形状を必要とするため、やはりレンズ全体は歪な形状となり、球面レンズに比べると装用感は低下する。
【0009】
このように、遠近両用の光学設計が最大限発揮され、かつ、乱視矯正も十分に効果を発揮し、その上、装用感が良好な(マルチフォーカル)トーリックコンタクトレンズの開発が求められている。
【0010】
上述に鑑み、本発明は、良好な乱視矯正(好ましくはそれに加えて老視補正)の効果が得られるコンタクトレンズとその製造方法を提供することを目的とする。また、優れたセンタリング性能と軸安定性とに加えて良好な装用感も得られるコンタクトレンズとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するために本願発明者らは、以下の構成を備える発明を見出した。即ち、凸状の前面と凹状の後面とを有するコンタクトレンズであって、前面には、光学部,前面と後面とを接合するエッジ,光学部の外周に配置される第一の平滑化部,第一の平滑化部の外周に配置される周辺部,および周辺部とエッジとをつなぐ第二の平滑化部が画定されたコンタクトレンズにおいて、前面は、レンズ上端部からレンズ中点を通りレンズ下端部に至る垂直経線を境界とする鏡像対称性を有すると共に、垂直経線とレンズ中点で直交する水平経線にも鏡像対称性を有し、周辺部は、水平経線を含むように配置された部分であって水平経線上でコンタクトレンズを最大肉厚とする形状を備えた第一の周辺部,垂直経線を含むように配置された部分であって垂直経線上でコンタクトレンズを最小肉厚とする形状を備えた第二の周辺部,第一の周辺部に隣接された部分であってコンタクトレンズの肉厚を一定とする面形状を備えた第一の周辺部補助部,および第一の周辺部補助部と第二の周辺部とをつないで連続した面とする部分であってコンタクトレンズの肉厚を変化させる面形状を備えた傾斜部によって構成されることを特徴とする。
【0012】
本願発明によれば、レンズ全体が垂直方向および水平方向での鏡像対称性を有することによって装用時にレンズが角膜中心に配置されやすくなる。レンズのセンタリング性能が向上することによって、光学部内の所望の領域に割り当てられた遠用領域および近用領域による老視補正の精度が向上する。
また、最大肉厚の第一の周辺部が水平経線を含むように配置されるとともに最小肉厚の第二の周辺部が水平経線と直交する垂直経線を含むように配置されることにより、第一の周辺部は眼瞼によって瞬目毎に耳/鼻側に押し出される。また、肉厚が一定となる面を有する第一の周辺部補助部が第一の周辺部に隣接することにより、眼瞼が第一の周辺部へ移動することを助ける。この結果、軸安定性が向上し、楕円状の光学部であっても、マルチフォーカルの場合、良好な老視補正が得られる。
そして、第一の平滑化部は、光学部(例えば乱視矯正用に形成された、水平方向に長軸を有する楕円状の光学部)と軸安定用に形成された周辺部(例えば当該光学部に応じて楕円状かつ環状の周辺部)とを滑らかにつなぎ、第二の平滑化部は軸安定用に形成された楕円環状の周辺部と真円のエッジとを滑らかにつなぎ、そして傾斜部は高さ(厚さ)の異なる第一の周辺部補助部と第二の周辺部とを滑らかにつなぐ。こうして、センタリング性能および軸安定性が向上すると共に、良好な装用感が得られる。
【0013】
第二に、周辺部の半径方向の幅は一定であり、第三に、周辺部と前面との表面積比は1:99〜10:90である。これによって、周辺部が最小限に抑えられながらも軸安定性が確保されつつ、老視補正用および乱視矯正用の領域を狭めることなく、周辺部とエッジとによって囲われる第二の平滑化部の領域を十分確保することができる。この結果、球面レンズとの差が小さくなり、装用感が向上する。また、老視補正および乱視矯正を同時に備えた光学設計と軸安定化機構とをレンズ前面に一斉に設けることにより、装用感に大きな影響を与えるレンズ後面には角膜に適合するような非球面形状を設けることができる。
【0014】
第四に、第一の周辺部において半径方向で見たときの肉厚は一定であり、第五に、第一の周辺部において円周方向で見たときの肉厚は、水平経線から垂直経線へと回転して向かうにつれて減少し、第六に、第二の周辺部において半径方向で見たときの肉厚は一定であり、第七に、第一の周辺部補助部の半径方向の幅は、水平経線から垂直経線へと回転して向かうにつれて減少し、第二の周辺部の半径方向の幅は、水平経線から垂直経線へと回転して向かうにつれて増大し、傾斜部と第二の周辺部との境界線は水平経線に対して平行である。これによって、センタリング性能および軸安定性がさらに向上すると共に、良好な装用感も得られる。なお、第一の周辺部補助部の半径方向の幅は、水平経線から垂直経線へと回転して向かうにつれて減少する構成単体を採用してもよい。また、第二の周辺部の半径方向の幅は、水平経線から垂直経線へと回転して向かうにつれて増大する構成単体を採用してもよい。また、傾斜部と第二の周辺部との境界線は水平経線に対して平行である構成単体を採用してもよい。
【0015】
第八に、光学部をトロイダル面で形成することによって、乱視矯正機能を備えるトーリックコンタクトレンズを提供することができる。
【0016】
第九に、光学部には、度数の異なる領域が楕円状に配置され、光学部の中心に配置された遠方を見るための遠用部,遠用部の外周に配置され遠用部の度数から連続して増加する度数分布を有する第一の中間部,および第一の中間部の外周に配置された近方を見るための近用部が設けられる。また、第十に、光学部には、度数の異なる領域が楕円状に配置され、光学部の中心に配置された近用部,近用部の外周に配置され近用部の度数から連続して減少する度数分布を有する第二の中間部および第二の中間部の外周に配置された遠用部が設けられる。これによって、マルチフォーカルコンタクトレンズを提供することができる。
【0017】
第十一に、レンズ素材としてハイドロゲルまたはシリコーンハイドロゲルを用いることによって、装用感が良好なソフトコンタクトレンズや酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを提供することができる。
【0018】
第十二に、光学部における中心肉厚を0.05〜0.20mmの範囲とすることにより、装用感の向上を図ることができる。
【0019】
第十三に、周辺部での水平経線から垂直経線へと回転して向かう所定の回転角度範囲内において、第一の周辺部補助部を内周側または外周側のうちの一方の側に配し、傾斜部を内周側または外周側のうちのもう一方の側に配し、両者を並存させる。それに加え、第十四に、第一の周辺部補助部を内周側に配し、傾斜部を外周側に配し、両者を並存させる。水平経線から垂直経線へと回転させたときの周辺部の領域において、第一の周辺部補助部と傾斜部が並存する領域を存在させ、上記のような細かい構成の設定を採用することにより絶妙な軸安定性が好適に発揮される。
【0020】
第十五に、周辺部の形状を、水平方向に長軸を有する楕円状かつ環状とする。上記にて例として述べた構成である。これにより、垂直経線上の第二の周辺部を広く確保することができる。
【0021】
第十六に、凸状の前面と凹状の後面とを有するコンタクトレンズの製造方法であって、前面には、光学部,前面と後面とを接合するエッジ,光学部の外周に配置される第一の平滑化部,第一の平滑化部の外周に配置される周辺部,および周辺部とエッジとをつなぐ第二の平滑化部が画定されたコンタクトレンズの製造方法において、前面は、レンズ上端部からレンズ中点を通りレンズ下端部に至る垂直経線を境界とする鏡像対称性を有すると共に、垂直経線とレンズ中点で直交する水平経線にも鏡像対称性を有し、周辺部は、水平経線を含むように配置された部分であって水平経線上でコンタクトレンズを最大肉厚とする形状を備えた第一の周辺部,垂直経線を含むように配置された部分であって垂直経線上でコンタクトレンズを最小肉厚とする形状を備えた第二の周辺部,第一の周辺部に隣接された部分であってコンタクトレンズの肉厚を一定とする面形状を備えた第一の周辺部補助部,および第一の周辺部補助部と第二の周辺部とをつないで連続した面とする部分であってコンタクトレンズの肉厚を変化させる面形状を備えた傾斜部によって構成されるコンタクトレンズをキャストモールド製法を用いて製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のコンタクトレンズによれば、従来のコンタクトレンズよりもセンタリング性能および軸安定性と共に良好な装用感が得られる。この結果、遠近両用の光学設計を最大限発揮可能となり、乱視矯正も発揮可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1a】本発明の実施形態のコンタクトレンズの構成を説明するための
図1(a)であり、同コンタクトレンズの正面図である。
【
図1b】本発明の実施形態のコンタクトレンズの構成を説明するための
図1(b)であり、同コンタクトレンズの側面図である。
【
図2a】同コンタクトレンズにおける光学部の度数分布を説明するための
図2(a)であり、同コンタクトレンズにおける光学部の正面図である。
【
図2b】同コンタクトレンズにおける光学部の度数分布を説明するための
図2(b)であり、O−A位置におけるレンズの度数分布状態を示すグラフである。
【
図3】同コンタクトレンズの0°〜90°付近を拡大した正面図である。
【
図4】同コンタクトレンズの厚みの定義の仕方を示す断面図である。
【
図5a】同コンタクトレンズの所定の角度におけるレンズ断面を説明するための
図5(a)であり、同コンタクトレンズの0°〜90°付近を拡大した正面図である。
【
図5b】同コンタクトレンズの所定の角度におけるレンズ断面を説明するための
図5(b)であり、
図5(a)で示す角度におけるレンズ断面を示す模式図である。
【
図6a】同コンタクトレンズの肉厚分布を説明するための
図6(a)であり、同コンタクトレンズの正面図である。
【
図6b】同コンタクトレンズの肉厚分布を説明するための
図6(b)であり、円周M上における肉厚遷移図である。
【
図6c】同コンタクトレンズの肉厚分布を説明するための
図6(c)であり、円周N上における肉厚遷移図である。
【
図7】同コンタクトレンズの周辺部の肉厚を説明するための
図7であり、同コンタクトレンズの正面図である。
【
図8a】同コンタクトレンズの周辺部の肉厚を説明するための
図8(a)であり、周辺部の0°〜50°付近を切り出した斜視図である。
【
図8b】同コンタクトレンズの周辺部の肉厚を説明するための
図8(b)であり、周辺部の50°〜70°付近を切り出した斜視図である。
【
図8c】同コンタクトレンズの周辺部の肉厚を説明するための
図8(c)であり、周辺部の70°〜90°付近を切り出した斜視図である。
【
図8d】同コンタクトレンズの周辺部の肉厚を説明するための
図8(d)であり、周辺部の50°〜90°付近を切り出した斜視図である。
【
図9a】同コンタクトレンズのレンズ上端部付近における水平経線に沿ったレンズ断面について説明するための
図9(a)であり、前面側から同コンタクトレンズを見た正面図である。
【
図9b】同コンタクトレンズのレンズ上端部付近における水平経線に沿ったレンズ断面について説明するための
図9(b)であり、
図9(a)で示す切断面CP0,CP100およびCP200の肉厚変化プロフィールを示す図である。
【
図9c】同コンタクトレンズのレンズ上端部付近における水平経線に沿ったレンズ断面について説明するための
図9(c)であり、
図9(a)の二点鎖線L内を示す拡大図である。
【
図9d】同コンタクトレンズのレンズ上端部付近における水平経線に沿ったレンズ断面について説明するための
図9(d)であり、
図9(c)図における切断面CP20〜CP120の肉厚変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の上述の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施の形態および実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。また、本明細書においては、大きく構成を分けるときには通常の句読点として“、”を付し、小さく構成を分けるときには句読点として“,”を付す。さらに、また、
図1a,表2aは、
図1(a),表2(a)のように括弧付きで主として表現する。またさらに、本明細書において“滑らかにつなぐ(接合する、結ぶ、肉厚を減少させる等)”とは、つなぐ対象となるもの同士が一つの連続面を形成していることを指し、不連続な鋭い凹凸が突然現れていない状態のことを指す。また、本明細書において“肉厚が一定”とは、コンタクトレンズの肉厚に関し、所定の領域内(例えば面内)において等しい肉厚であることを指し、肉厚が一様、平坦とも言う。
【0025】
コンタクトレンズ10(単にレンズと称することもある。)は、
図1(a)に示すように、凸状の前面(フロントカーブとも言う)12と凹状の後面(ベースカーブとも言う)14とによって形成される。エッジ16は、フロントカーブ12とベースカーブ14とを接合する。
【0026】
フロントカーブ12には、コンタクトレンズ10の老視および乱視を矯正するための屈折度数を規定する光学部18および軸安定化機構を特徴とするダブルスラブオフ20が設けられる。ベースカーブ14は、装用者の角膜形状に適合するような多段階カーブを有する回転対称形状で形成される。つまり、ベースカーブ14の形状は任意の経(径)方向(後述)で切っても同一形状(同心円)である。なお、このコンタクトレンズ10のパラメータには、ベースカーブ:8.6mm,光学中心厚さ:0.09mm,全直径:14.2mm,近視度数:−3.00D,乱視度数:−0.75D,軸:180°および加入度数:+1.5Dが割り当てられる。近視度数は、
図1(b)に示すように、フロントカーブ12の曲率R1とベースカーブ14の曲率R2とによって定まる。
【0027】
図1(a)に戻って、光学部18は、水平方向を長軸(主軸)としかつ垂直方向を短軸(副軸)とする楕円のトロイダル面(トーリック面とも言う)を有する。つまり、乱視を矯正するために、直交する2つの軸(主軸(長軸)および副軸(短軸)。以降、特記ない限りこの2軸。)において曲率半径が異なるように曲面(トロイダル面)が形成される。この実施例の場合、軸が180°のため、水平経線24上にある主軸(長軸)の曲率は垂直経線22上にある副軸(短軸)の曲率よりも大きい。なお、所望する屈折度数に応じて楕円の軸の長さや楕円の角度が変化する。
【0028】
ここで、経線とは、レンズ面(フロントカーブ12またはベースカーブ14)とレンズ中心軸線を含む平面との交差線を意味し、経線の種類には、垂直経線22,水平経線24および角経線26があり、いずれも一点鎖線で示している。垂直経線22はレンズ上端部28およびレンズ下端部30とレンズ中点Oを通る経線であり、水平経線24は垂直経線22に直交しレンズ中点Oを通る経線である。角経線26は、レンズ中点Oを中心とした任意の角度(この場合は角度θ)上の経線であり、レンズ中点Oからエッジ16へ向かって放射状に延びる線ともいえる。また、半径方向とは、レンズ中点Oから任意の距離まで放射状に延びる方向のことである。円周方向とは、レンズ中点Oを中心とした円周の方向であり、この実施例の場合には、レンズ中点O,水平経線24および角経線26で囲まれた扇形状のうちの円弧で示される軌跡が円周方向ともいえる。
【0029】
フロントカーブ12は、垂直経線22を境界とする鏡像対称性を有する。つまり、レンズ中点Oを通る垂直経線22の右半分と左半分とは同一形状である。フロントカーブ12はまた、水平経線24を境界とする鏡像対称性も有する。つまり、レンズ中点Oを通る水平経線24の上半分と下半分とは同一形状である。このように、レンズ全体が垂直方向および水平方向での鏡像対称性を有するため、装用時にレンズが角膜中心に配置されやすくなる。レンズのセンタリング性能が向上することにより、光学部内の所望の領域に割り当てられた遠用領域および近用領域による老視補正の精度が向上する。また、左右の眼に区別なく使用することも可能である。さらに、レンズが眼の上で180°回転しても軸安定性が得られる。
【0030】
以下の説明においてコンタクトレンズ10の角度は、右眼にコンタクトレンズ10を装用することを前提とし、レンズ上端部28を90°の位置(眉毛側),レンズ下端部30を270°の位置(顎側),水平経線24に平行な方向のうち鼻側を0°の位置,そして反対側(耳側)を180°の位置と定義する。
【0031】
また、コンタクトレンズ10は垂直経線22および水平経線24に対して鏡像対称性を有する。このため、0°〜90°(反時計回り)のレンズ断面は、180°〜90°(時計回り),180°〜270°(反時計回り)および360°(0°)〜270°(時計回り)で同じ形状を有する。一例としては、0°〜50°(反時計回り)のレンズ断面と180°〜130°(時計回り),180°〜230°(反時計回り)および0°〜310°(時計回り)のレンズ断面とは同じ形状になり、50°〜70°(反時計回り)のレンズ断面と130°〜110°(時計回り),230°〜250°(反時計回り)および310°〜290°(時計回り)のレンズ断面とは同じ形状になり、そして70°〜90°(反時計回り)のレンズ断面と110°〜90°(時計回り),250°〜270°(反時計回り)および290°〜270°(時計回り)のレンズ断面とは同じ形状になる。
【0032】
図2(a)を参照して、コンタクトレンズ10では、遠方を見るための遠用部32が光学部18の中心に,遠用部の度数から連続して増加する度数分布を有する中間部34が遠用部32の周囲に,そして第一の中間部34の周囲に配置された近方を見るための近用部36が光学部18の最外周として配置される。
【0033】
図2(b)は、
図2(a)のO−A位置におけるレンズの度数分布状態を示す。これらの図において横軸はレンズ中点Oからの距離x(mm)を示し、縦軸は度数Power(D)を示す。水平経線24に対して鏡像対称性を有するため、
図2(a)に示すO−B位置におけるレンズの度数分布状態とO−A位置におけるレンズの度数分布状態とは同じ曲線を描く。
【0034】
図3を参照して、ダブルスラブオフ20には、光学部18の外周に配置される第一の平滑化部38,第一の平滑化部38の外周に配置される楕円状の周辺部40,そして周辺部40とエッジ16とをつなぐ第二の平滑化部42とが画定される。
【0035】
第一の平滑化部38は、乱視矯正に起因して楕円状となる光学部18と軸安定性に起因して楕円状かつ環状(以降、環状については記載省略。)となる周辺部40とを滑らかに結ぶ。これによって、装用中に触れるレンズと上下眼瞼とには余計な摩擦が生じず、異物感(装用感の低下)は発生し難い。また、第一の平滑化部38が緩衝領域として機能することによっていずれの屈折度数であっても周辺部40の楕円状の同等性が確保される。なお、コンタクトレンズ10の軸が180°のとき、光学部18における楕円の主軸の長さおよび副軸の長さの比率と周辺部40における楕円の水平経線24上の主軸の長さおよび垂直経線22上の副軸の長さの比率とが一致しても構わない。
【0036】
周辺部40の幅は任意の角度で一定である。また、周辺部40とフロントカーブ12との表面積比は1:99〜10:90である。このようにして、周辺部40が最小限に抑えられながらも軸安定性を確保し、老視補正用および乱視矯正用の領域を狭めることなく、周辺部40とエッジ16とによって囲われる第二の平滑化部42の領域を十分確保することができる。この結果、球面レンズとの差が小さくなり、装用感が向上する。さらに、老視補正および乱視矯正を同時に備えた光学設計と軸安定化機構とをレンズ前面に一斉に設けることにより、装用感に大きな影響を与えるレンズ後面には角膜に適合するような非球面形状を設けることができる。なお、周辺部40については後で詳しく説明する。
【0037】
第二の平滑化部42は、楕円状の周辺部40と真円のエッジ16とを滑らかに接合させる。第二の平滑化部42が緩衝領域として機能することによって楕円の周辺部40の同等性と真円のエッジ16の同等性とが確保される。また、滑らかに接合することによって装用時に触れるレンズと上下眼瞼との間の余計な摩擦が低減され、異物感は生じにくい。
【0038】
次に、コンタクトレンズ10の肉厚について述べる。コンタクトレンズ10の肉厚(以降、単に肉厚と称する。)Tは、
図4に示すように、ベースカーブ14上の任意の点からこの任意の点に対する接線に直交する垂線がフロントカーブ12と交わる点までの距離として定義する。光学部18における肉厚Tは視力矯正のために度数に応じで規定される。一方、光学部18を除く第一の平滑化部38,周辺部40および第二の平滑化部42における肉厚Tは所望の値に変更できる。
【0039】
コンタクトレンズ10の全体で見たとき、半径方向におけるレンズの肉厚は、いずれの角度においても周辺部40で最大となる。
図5(a)および(b)を参照して、0°および30°のレンズ断面では、レンズ中心Oから光学部18および第一の平滑化部38を経て点m1にかけての肉厚が徐々に増加し、点n1から第二の平滑化部42を経てエッジ16にかけての肉厚が徐々に減少する(すなわち“連続的に減り続ける”、以降同様)。また、点m1から点n1にかけての肉厚は一様である。つまり、点m1(点n1)のときに周辺部40の肉厚は最大となる。50°のレンズ断面では、レンズ中心Oから光学部18および第一の平滑化部38を経て点m2にかけての肉厚が徐々に増加し、点n2から第二の平滑化部42を経てエッジ16にかけての肉厚が徐々に減少する。また、点m2から点n2にかけての肉厚Tは一様であり、このとき、周辺部40の肉厚は最大となる。70°のレンズ断面では、レンズ中心Oから光学部18および第一の平滑化部38を経て点m3にかけての肉厚は徐々に増加する。点m3で肉厚が最大に達した後、点n3および第二の平滑化部42を経てエッジ16までの肉厚は徐々に減少する。90°のレンズ断面では、レンズ中心Oから光学部18および第一の平滑化部38を経て点m4にかけての肉厚Tが徐々に増加し、点n4から第二の平滑化部42を経てエッジ16にかけての肉厚Tが徐々に減少する。また、点m4から点n4にかけての肉厚は一様である。つまり、点m4(点n4)のときに周辺部40の肉厚は最大となる。このように、レンズ中心Oから光学部18および第一の平滑化部38を経て周辺部40まで肉厚は増加し、周辺部40から第二の平滑化部42を経てエッジ16にかけて肉厚Tは徐々に減少する。
【0040】
本形態では特に周辺部40の肉厚に大きな特徴がある。以下、詳述する。
円周方向における周辺部40の肉厚は、規定された角度で区分されるエリア毎に異なる。
図6(b)および(c)は、
図6(a)に示す所定の角度における周辺部40の肉厚分布を抜き出した模式図であり、肉厚分布の程度を表1に示す表記分けのとおりに表現している。なお、レンズ全体で見たときの肉厚分布は後述の
図7にて示している。
【0042】
周辺部40は、
図7に示すように、水平経線24を含むように(一例としては跨って)配置された部分であって水平経線24上でコンタクトレンズ10を最大肉厚とする形状を備えた第一の周辺部44,垂直経線22を含むように(一例としては跨って)配置された部分であって垂直経線22上でコンタクトレンズ10を最小肉厚とする形状を備えた第二の周辺部46,第一の周辺部44に隣接された部分であってコンタクトレンズ10の肉厚を一定とする面形状を備えた第一の周辺部補助部48,そして第一の周辺部補助部48と第二の周辺部46とをつないで連続した面とする部分であってコンタクトレンズ10の肉厚を変化させる面形状を備えた傾斜部50によって構成される。第一の周辺部44において半径方向で見たときの肉厚は一定であり、第一の周辺部44において円周方向で見たときの肉厚は、水平経線24から垂直経線22へと回転して向かうにつれて減少する。第二の周辺部46の肉厚は一定であり、第一の周辺部補助部48の半径方向の幅は、水平経線24から垂直経線22へと回転して向かうにつれて減少し、第二の周辺部46の半径方向の幅は、水平経線24から垂直経線22へと回転して向かうにつれて増大する。傾斜部50と第二の周辺部46との境界線は水平経線24に対して平行となる。
【0043】
周辺部40の内側となる円周M上(以降、単に内周側、内側とも言う。)の肉厚に関しては、
図7および
図6(b)に示すように、点m1(0°)から点m2(50°=所定の回転角度θ1)までの肉厚Tmaは徐々に減少し、点m2(50°)から点m3(70°=所定の回転角度θ2)までの肉厚Tmbは同等であり、点m3(70°)から点m4(90°)までの肉厚Tmcは徐々に減少する。また、周辺部40の外側となる円周N上(以降、単に外周側、外側とも言う。)の肉厚に関しては、
図7および
図6(c)に示すように、点n1(0°)から点n2(50°=所定の回転角度θ1)までの肉厚Tnaは徐々に減少し、点n2(50°)から点n3(70°=所定の回転角度θ2)までの肉厚Tnbは徐々に減少し、点n3(70°)から点n4(90°)までの肉厚Tncは同等となる。この結果、周辺部40の肉厚Tは、0°の位置で最大となる一方、90°の位置で最小となる。
ここで、
図6(b)と(c)との相違は、
図7を参照することにより明らかとなる。例えば、周辺部40の内側となる円周M上(
図6(b))においては、点m2(50°)から点m3(70°)まで、肉厚Tが一定となる第一の周辺部補助部48となっている。その一方、周辺部40の外側となる円周N上(
図6(c))においては、第一の周辺部補助部48における一点が点n2(50°)のみに存在するだけであり、代わりに傾斜部50が主として存在する。それに加え、周辺部40の内側となる円周M上(
図6(b))においては、第二の周辺部46における一点が点m4(90°)のみに存在するだけであるが、周辺部40の外側となる円周N上(
図6(c))においては、点n3(70°)から点n4(90°)までが第二の周辺部46となる。なお、周辺部40の内側となる円周M上の点m2(50°)においては、第一の周辺部44と第一の周辺部補助部48とが並存しているものとみなす。他の境界においても同様の扱いとする。ただし、内容を正確に表現する場合は、いずれか一方のみが存在すると規定しても構わない。
【0044】
なお、
図6(b)および(c)では、肉厚が徐々に増加する(もしくは、肉厚が徐々に減少する)と説明したが、増加(もしくは減少)すればどのような形状でも採用が可能であり、例えば、
図6(b)および(c)で示すような1次関数による増減もあれば、n次関数,指数関数や対数関数を採用することも可能である。
【0045】
図7の0°〜50°における格子で示す領域が第一の周辺部44であり、周辺部40の0°から50°までを切り出した模式図を
図8(a)に示す。第一の周辺部44は、水平経線24上(点m1,点n1)から第一の周辺部補助部48の境界(点m2,点n2)にかけて、半径方向に一様な肉厚となる。つまり、点m1における肉厚Tmaと点n1における肉厚Tnaとは同じ高さであり、点m2における肉厚Tmaと点n2における肉厚Tnaとは同じ高さである。第一の周辺部44はまた、0°の角経線26上(水平経線24上)のときに最大肉厚となり、50°の角経線26上のときに最小肉厚となる。さらに、第一の周辺部44における幅Waは、いずれの角度でも同じ距離を有する。つまり、点m1から点n1までの距離と点m2から点n2までの距離とは等しい。このように、周辺部40において最も厚い肉厚を有する第一の周辺部44は、水平経線24上に跨って配置され、0°から50°にかけて肉厚を滑らかに減少させると共に、任意の角度における幅Wa上で一様な肉厚を有する。水平経線24上に最大肉厚の第一の周辺部44が配置されることにより、上眼瞼もしくは下眼瞼に押し出されてコンタクトレンズ10が回転し、第一の周辺部44は耳側もしくは鼻側へ移動する。また、半径方向に一様な肉厚すなわち平坦(平ら)となる第一の周辺部44と眼瞼とが面で接することにより、コンタクトレンズ10に対して水平方向への指向性が瞬目毎に与えられる。なお、第一の周辺部44の最大肉厚は、コンタクトレンズ10を装用する際に支障ない範囲で適宜設定することが可能であるが、装用感等を鑑み、0.4mm未満とするのが好ましく、0.3mm以下とするのがより好ましい。
【0046】
図7の50°〜70°における縦縞で示す領域が第一の周辺部補助部48であり、周辺部40の50°から70°までを切り出した模式図を
図8(b)に示す。第一の周辺部補助部48は、第一の周辺部44の境界(点m2,点n2)から傾斜部50の端点(点m3)にかけて、平坦な肉厚(等しい肉厚)となる。つまり、点m2における肉厚Tmb,点m3における肉厚Tmbおよび点n2における肉厚Tnbは同じ高さである。また、第一の周辺部補助部48における幅Wbは50°から70°にかけて短くなる。つまり、50°のときに幅Wbは最長となり、70°のときに幅Wbは最短となる。なお、50°〜70°における任意の点αを通る切断面には、円周M上の肉厚Tmb,円周N上の肉厚Tnbおよび点α上の肉厚Tαが在る。このとき、肉厚Tαと肉厚Tmbとは同じ肉厚(等しい肉厚)であり、肉厚Tnbは肉厚Tmb(Tα)よりも低い。このように、平らな第一の周辺部補助部48は傾斜部50と第一の周辺部44との間に位置する。これによって、第一の周辺部補助部48は、第一の周辺部44から傾斜部50へもしくは傾斜部50から第一の周辺部44へ上下眼瞼が移動する際の緩衝領域として機能し、円滑な軸安定性が与えられる。なお、ここで挙げた第一の周辺部補助部48は、面形状であって、面内において半径方向でも円周方向でも肉厚が一定である(面内のどこでも同じ肉厚である)ものとする。
【0047】
図7の70°〜90°における横縞で示す領域が第二の周辺部46であり、周辺部40の70°から90°までを切り出した模式図を
図8(c)に示す。第二の周辺部46は、傾斜部50の端点(点n3)から垂直経線22上(点m4,点n4)にかけて、平坦な肉厚となる。つまり、点m4における肉厚Tmc,点n3における肉厚Tncおよび点n4における肉厚Tncは同じ高さである。また、第二の周辺部46における幅Wcは70°から90°にかけて広がる。つまり、70°のときに幅Wcは最短となり、90°のときに幅Wcは最長となる。なお、70°〜90°における任意の点βを通る切断面には、円周M上の肉厚Tmc,円周N上の肉厚Tncおよび点β上の肉厚Tβが在る。このとき、肉厚Tβと肉厚Tncとは同じ肉厚であり、肉厚Tmcは肉厚Tnc(Tβ)よりも高い。このようにして、周辺部40において最も薄い肉厚を有する第二の周辺部46は水平方向に距離を有するような平らな肉厚面として垂直経線22上に跨って配置される。水平経線24と直交する垂直経線22上に第二の周辺部46が配置されることにより、上眼瞼もしくは下眼瞼に第二の周辺部46が入り込むようにコンタクトレンズ10が瞬目毎に動く。なお、ここで挙げた第二の周辺部46は、垂直経線22上の部分が最小肉厚となる形状を有することを前提とした上で、垂直経線22上の部分を含む厚さ一様の部分、そうでなければ垂直経線22上の線状の部分とする。
【0048】
ちなみに、本形態においては周辺部40の形状は水平経線24方向を長軸とする楕円環状であるが、これにより、垂直経線22上の第二の周辺部46を広く確保することができる。また、第二の周辺部46の最小肉厚は、コンタクトレンズ10を装用する際に支障ない範囲で適宜設定することが可能であるが、軸が安定せずに回転し続けることを抑制すべく、0.10mmを越えた数値とするのが好ましく、0.15mm以上とするのがより好ましい。
【0049】
図7の50°〜90°における斜線で示す領域が傾斜部50であり、周辺部40の50°から90°までを切り出した模式図を
図8(d)に示す。傾斜部50では、第一の周辺部補助部48の境界(点m3,点n2)から第二の周辺部46の境界(点m4,点n3)にかけて、滑らかに肉厚が減少する。つまり、点m4における肉厚Tmcと点n3における肉厚Tncとは同じ高さであり、点m4における肉厚Tmc(点n3における肉厚Tnc)は点m3における肉厚Tmb(点n2における肉厚Tnb)よりも低い。第二の周辺部46よりも高く(厚く)平坦な第一の周辺部補助部48と平らな第二の周辺部46とを滑らかにつなぐことにより、傾斜部50は緩衝領域として機能する。なお、ここで挙げた傾斜部50は、面形状であって、面内において半径方向に見ても円周方向に見ても肉厚が常に変化するものとする。
【0050】
上記の内容をまとめると、周辺部40における、水平経線24(0°)からの所定の回転角度θ1(50°)から回転角度θ2(70°)までの間の領域は第一の周辺部補助部48と傾斜部50とで構成され、θ1<θ<θ2においては、第一の周辺部補助部48を周辺部40の内周側または外周側のうちの一方の側に配し、傾斜部50を内周側または外周側のうちのもう一方の側に配し、両者を並存させるのが好ましく、その中でも、第一の周辺部補助部48を内周側に配し、傾斜部50を外周側に配し、両者を並存させるのが好ましい。回転角度θ2(70°)から垂直経線22(90°)までの間の領域は傾斜部50と第二の周辺部46とで構成され、θ2<θ<90°においては、傾斜部50を周辺部40の内周側または外周側のうちの一方の側に配し、肉厚が一様な面形状を有する場合の第二の周辺部46を内周側または外周側のうちのもう一方の側に配し、両者を並存させるのが好ましく、その中でも、傾斜部50を内周側に配し、第二の周辺部46を外周側に配し、両者を並存させるのが好ましい。そして、回転角度θ1(50°)の角経線上には第一の周辺部補助部48のみ(具体的に言うと第一の周辺部44と第一の周辺部補助部48との境界線)が配され、回転角度θ2(70°)の角経線上には傾斜部50のみが配され、垂直経線22上には第二の周辺部46のみが配されるのが好ましい。
【0051】
このように、水平経線24から垂直経線22へと回転させたときの周辺部40の領域において、第一の周辺部補助部48と傾斜部50が並存する領域、そして傾斜部50と第二の周辺部46とが並存する領域を設け、上記のような細かい構成の設定を採用することにより絶妙な軸安定性が好適に発揮される。ただし、後述の実施例2に示すように、周辺部40における水平経線24(0°)からの所定の回転角度θ(実施例2だと50°)から90°までの間の領域においては第一の周辺部補助部48と傾斜部50とが並存するような配置を採用し、第二の周辺部46を垂直経線22上の線状の部分としても、本願発明の効果を奏する。つまり、周辺部40の所定の回転角度範囲内において、第一の周辺部補助部48を内周側とし、傾斜部50を外周側とし、両者を並存させるのも本形態における特徴の一つである。
【0052】
ちなみに回転角度θ1は上記角度にとらわれず適宜設定することが可能であって50°を含むように45°以上60°以下の範囲内で適宜設定することが可能である。同様に、回転角度θ2も適宜設定することが可能であって70°を含むように55°以上90°未満の範囲内で適宜設定することが可能である。ただし、後述の実施例が示すように、θ1は50°、θ2は70°に設定するのが好ましい。なお、0°<θ1<θ2<90°という関係を有する。
【0053】
また、第一の周辺部44は、上記の例および後述の実施例1のように、水平経線24から垂直経線22へと回転するにつれて肉厚が薄くなるように設定しても構わないし、後述の実施例2のように、水平経線24から垂直経線22へと回転する際に0°〜θ1までは一様の肉厚としその後θ1〜θ2では肉厚が薄くなるように設定しても構わない。また、上記の例のように第一の周辺部44は面形状であっても構わないし、上記の一例における第二の周辺部46のように線形状であっても構わない。その際に好ましい構成としては、以下の構成が挙げられる。すなわち、第一の周辺部44は第一の周辺部補助部48のみに対して境界線を有し、線状または面形状の第二の周辺部46は傾斜部50のみに対して境界線を有する。そして、第一の周辺部補助部48および傾斜部50は、第一の周辺部44と第二の周辺部46との間にて並存し、第一の周辺部補助部48は内周側、傾斜部50は外周側に配されるのが好ましい。
【0054】
図9(a)に示す切断面CP0,CP100およびCP200は、水平経線24に対して平行に区切られた肉厚断面プロフィールであり、切断面CP0は水平経線24上(つまり、0°−180°)の切断面であり、切断面CP100は中心付近に周辺部40が含まれる切断面であり、そして切断面CP200は第二の平滑化部42上の切断面である。
図9(b)を参照して、切断面CP0では、エッジ16から急激に増加し一旦変化がなくなった後、急激に減少し、垂直経線22に向かってなだらかに減少している。つまり、変化のない箇所には平坦な面が形成されている。このように、周辺部40の水平経線24付近には肉厚が等しい領域(つまり、第一の周辺部44)が形成されている。切断面CP100(水平経線24を垂直方向へと5.06mm移動させた箇所での切断面。
図9(b),(d)に記載の数値はそのように垂直方向へと移動させた距離を意味する。)では、エッジ16から急激に増加した後、垂直経線22にかけてなだらかに増加し、垂直経線22付近では変化が認められない。切断面CP200では、エッジ16から急激に増加するものの、垂直経線22付近ではなだらかに増加する肉厚が形成される。このようにして、ダブルスラブオフ20では、切断面CP200の中央付近(つまり、90°付近)よりも切断面CP0の両凸部付近(つまり、0°および180°付近)の方がはるかに高い(厚い)ことがわかる。
【0055】
図9(d)に示す切断面CP20〜CP120は、
図9(c)で示すように、上端部28の0°〜90°付近を切断面CP100付近と平行に等間隔に区切られた切断面毎の肉厚断面プロフィールを示している。切断面CP20は、光学部18に一番近い箇所のレンズ断面であり、エッジ16から第二の平滑化部42,傾斜部50および第一の平滑化部38を経て垂直経線22までを示している。具体的には、エッジ16から垂直経線22にかけて、肉厚が急に増加した後一旦変化が無くなり、なだらかな凸状が形成され、滑らかに減少している。切断面CP40は、切断面CP20と同様、エッジ16から第二の平滑化部42,傾斜部50および第一の平滑化部38を経て垂直経線22までを示すが、切断面CP20に比べて全体的に緩やかに変化している。具体的には、エッジ16から垂直経線22にかけて、急に増加した後一旦変化が無くなり、切断面CP20よりも緩やかな凸状が形成され、滑らかに減少している。切断面CP60は、エッジ16から第二の平滑化部42,傾斜部50,第二の周辺部46および第一の平滑化部38を経て垂直経線22までを示すが、切断面CP40に比べて全体的に緩やかに変化している。具体的には、エッジ16から垂直経線22にかけて、急に増加した後一旦変化が無くなり、切断面CP40よりも緩やかな凸状が形成され、滑らかに減少した後変化が無くなっている。切断面CP80は、エッジ16から第二の平滑化部42,第二の周辺部46および第一の平滑化部38を経て垂直経線22までを示すが、切断面CP60に比べて全体的に緩やかに変化している。具体的には、エッジ16から垂直経線22にかけて、急に増加し一旦変化が無くなった後、切断面CP60よりも緩やかな凸状が形成され、少し減少した後変化が無くなっている。切断面CP100は、切断面CP80と同様、エッジ16から第二の平滑化部42および第二の周辺部46を経て垂直経線22までを示すが、切断面CP80に比べて全体的に緩やかに変化している。具体的には、エッジ16から垂直経線22にかけて、急に増加した後、あまり変化が認められない。切断面CP120は、レンズ上端部28に一番近い箇所のレンズ断面であり、エッジ16から第二の平滑化部42を経て垂直経線22までを示すが、切断面CP100に比べて全体的に緩やかに変化している。具体的には、エッジ16から垂直経線22にかけて、急に増加した後、あまり変化が認められない。このようにして、周辺部40の垂直経線22付近には平坦な面(つまり、第二の周辺部46)が形成されている。
【0056】
なお、コンタクトレンズ10を製造する際に使用するコンタクトレンズ基材としては、重合後にコンタクトレンズ形状を保持し、ハイドロゲルとなりうる重合体、好ましくは、シリコーンを含有し、ハイドロゲルとなりうる共重合体であればよく、従来からソフトコンタクトレンズ用機材として知られているもの(シリコーンハイドロゲル材料)をそのまま用いることができる。さらに、コンタクトレンズ10は、キャストモールド製法により重合されるが、このときのモールド型の材質としては、モノマー混合液に対して耐性を有するものであればいかなるものでもよく、例えば、ポリプロピレンがあげられる。
【0057】
また、このコンタクトレンズ10の光学部18には、中心に遠用部32,第一の中間部34および近用部36を配置しているが、光学部18の老視用の光学設計はこれに限らず、例えば、中心に近用部,近用部の外周に配置され近用部の度数から連続して減少する度数分布を有する第二の中間部および第二の中間部の外周に配置された遠用部を設けることも可能である。
【0058】
さらに、このコンタクトレンズ10の中心肉厚(つまり光学部18における中心肉厚)は0.09mmであるが、これに限らず、例えば、中心肉厚を0.05〜0.20mmの範囲に設定することも可能である。つまり、軸安定化機構がプリズムバラストの場合、中心肉厚はバラスト効果を発揮させるために中心肉厚を薄くすることが困難であるが、軸安定化機構がダブルスラブオフの場合、瞬目による瞼と眼球との挟み込み効果を利用しているため、中心肉厚を0.05〜0.20mmの範囲に設定することが可能となる。中心肉厚が薄くなるほど、装用感の向上が図られる。
【0059】
加えて、上記実施形態はコンタクトレンズであるが、眼内レンズ等についても同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下、本願発明に係る実施例について説明する。なお、説明の便宜上、符号は省略する。
【0061】
[マルチフォーカルトーリックコンタクトレンズ]
以下、実施例のマルチフォーカルトーリックコンタクトレンズ(遠近両用レンズともいう。)を装用した9つの試験について説明する。表2(a)には、実施例1〜3と比較例1〜6との特徴を示し、表2(b)には、実施例1〜3と比較例1〜6とにて使用されたマルチフォーカルトーリックコンタクトレンズの各々に共通するパラメータを示す。なお、表2(a)に示す切り換え点や角度については、試験対象のレンズ全てが上下左右に鏡像対称性を有するため、鼻側の眉毛あたりの角度(0°〜90°)のみ表記する。例えば、「50°」の場合「130°,230°,310°」が該当し、「50°〜70°」の場合「110°〜130°,230°〜250°,290°〜310°」が該当する。なお、以降に述べる実施例1〜3と比較例1〜6の周辺部はいずれも、水平経線上にて最大肉厚となる形状を有し、かつ、垂直経線上において最小肉厚となる形状を有している。
【0062】
【表2a】
【表2b】
【0063】
実施例1〜3のマルチフォーカルトーリックコンタクトレンズは、実施形態のコンタクトレンズ10と同様、楕円状の周辺部に第一の周辺部,第二の周辺部,第一の周辺部補助部および傾斜部を有する。例えば、実施例1における第二の周辺部は点m4−点n4−点n3の肉厚一定の面であり、傾斜部は点m4−点n3−点n2−点m3の面であり、第一の周辺部補助部は点m3−点m2−点n2の肉厚一定の面であり、第一の周辺部は点m2−点n2−点n1−点m1の面となる。また、実施例1においては、第一の周辺部は、水平経線から垂直経線へと回転するにつれて(つまり、0°から90°へと円周方向に進むにつれて)肉厚が薄くなるように設定している。また、実施例2における第二の周辺部は点m4−点n4の線状の部分であり、傾斜部は点m4−点n4−点n3の面であり、第一の周辺部補助部は点m4−点m3−点n3の肉厚一定の面であり、第一の周辺部は点m3−点n3−点n1−点m1の面となる。また、実施例2においては、水平経線から垂直経線へと回転する際に0°からθ1までは一様の肉厚としその後θ1からθ2までは肉厚が薄くなるように設定している。さらに、実施例3は、実施例2とほぼ同じ構成を備えるが、相違するのは、第一の周辺部において、半径方向で見たときに肉厚が一定ではない(内周側と外周側とで肉厚が一様ではない)ところである。
【0064】
一方、比較例1は、従来のダブルスラブオフを備えたマルチフォーカルトーリックコンタクトレンズであり、最大肉厚箇所は水平経線上に位置し、垂直経線上の肉厚は薄い形状であり、周辺部は真円(同心円)である。ただし、比較例1においては、上記の実施例とは異なり、一つの円周線上にて肉厚の制御を行っている。つまり、比較例1においては、肉厚制御を行っている一つの円周“線”上の部分が周辺部となる。その一方、本発明における周辺部は、“面形状”の第一の周辺部補助部および“面形状”の傾斜部を備えたものである。そのため、比較例1での一つの円周線上の部分は、当然のごとく面形状の第一の周辺部補助部および面形状の傾斜部を備えず、本発明における周辺部とは全く異なるものである。だからこそ、後述の表4(各部の面積比)において、比較例1だと周辺部が円周線上の部分となり面積が無いため、周辺部の欄には面積比の値が無い。その代りに、周辺部を円周線として考えた上で第一の平滑化部や第二の平滑化部と該周辺部とを合わせた形で面積比を記載している。また、円周線上の部分とはいえ、最小肉厚部分や最大肉厚部分は一応有する場合もあるため、第二の周辺部や第一の周辺部については比較例1にも一応存在すると仮定して、以降、説明している。
【0065】
また、比較例2は、比較例1を基に0°から90°にかけて肉厚を徐々に薄肉化したマルチフォーカルトーリックコンタクトレンズである。ただし、比較例1と同様に第一の周辺部補助部も傾斜部も有さず、肉厚一定の面もない。比較例3は、比較例1を基に肉厚の切換点を2箇所設けた形状を有するマルチフォーカルトーリックコンタクトレンズである。ただし、仮に垂直経線上の部分を第二の周辺部と規定したとしても、第二の周辺部に隣接する部分(θ2〜90°)においては外側が円周方向にて肉厚一定となっている。そのため、比較例3は傾斜部を有しない。また、そもそも面内において肉厚が等しくなる面形状となる第一の周辺部補助部を有さない。そのため、比較例3は第一の周辺部補助部も傾斜部も有さない。なお、比較例1および2は1種類の肉厚を複数の角度で円環状に指定し、比較例3は複数種類の肉厚を複数の角度で円環状に指定している。
【0066】
さらに、比較例4は、比較例1を基に水平経線上から30°にかけての部分を最大肉厚箇所とし、垂直経線上で指定する肉厚を光学部側に近づけることにより、楕円状の周辺部が形成されるマルチフォーカルトーリックコンタクトレンズである。ただし、比較例1と同様に第一の周辺部補助部も傾斜部も有さない。比較例5は、比較例1を基に切換点を30°から50°に変更し、水平経線上を最大肉厚箇所とし、水平経線上で指定する肉厚を光学部側に近づけることにより、楕円状の周辺部が形成されるマルチフォーカルトーリックコンタクトレンズである。ただし、比較例1と同様に第一の周辺部補助部も傾斜部も有さない。なお、比較例3および4における周辺部の長軸は水平経線上となり、比較例5における周辺部の長軸は垂直経線上としている。
【0067】
さらにまた、比較例6のマルチフォーカルトーリックコンタクトレンズは、楕円状の周辺部を有し、最大肉厚箇所は水平経線上に位置し、水平経線から20°にかけての部分に最大肉厚箇所を有する。ただし、比較例3と同様、仮に垂直経線上の部分を第二の周辺部と規定したとしても、第二の周辺部に隣接する部分(θ2〜90°)においては内側も外側も円周方向で肉厚が一定となっている。そのため、比較例6は傾斜部を有しない。そのため、傾斜部と隣接する第一の周辺部補助部も特定できず、結果的に比較例6は第一の周辺部補助部も傾斜部も有さない。なお、比較例4および5は1種類の肉厚を複数の角度で楕円状に指定し、比較例6は複数種類の肉厚を複数の角度で楕円状に指定している。
【0068】
装用テストは、年代の異なる被験者5名の片眼に対して行った。装用経過15分後の軸位置を確認し、この結果を表3(a)に示す。なお、表3(b)は表3(a)中に示された記号の説明である。なお、評価の基準としては、以下の2つの条件“平均点が6.0点以上”および“×評価すなわち評価点0の被験者がいない”を満たす場合を適用とし、それ以外の場合を不適用とした。
【0069】
【表3a】
【表3b】
【0070】
表3(a)に示すように、実施例1〜3は比較例1〜6に比べ軸安定性が優れていた。
【0071】
表4は、前面とダブルスラブオフの各部位との表面積の比率を示す。ここでは、周辺部が前面の約10%以下(好ましくは未満)の場合に軸安定性を顕著に発揮することが明らかとなった。なお、比較例1,2,4,および5におけるダブルスラブオフは、第一の平滑化部と第二の平滑化部とに挟まれた周辺部には幅のない境界線(つまり、点αと点βとが同じ位置)のため、第一の平滑化部および周辺部と周辺部および第二の平滑化部とに分けられる。一方、実施例1〜3,比較例3,比較例6におけるダブルスラブオフは、第一の平滑化部と第二の平滑化部とに挟まれた周辺部は幅を有するので(つまり、点αと点βとはいずれの角度でも所定の距離を有する)、第一の平滑化部,周辺部および第二の平滑化部に分けられる。
【0072】
【表4】
【0073】
以上の結果をまとめると、実施例1〜3のマルチフォーカルトーリックコンタクトレンズは、楕円状の周辺部に第一の周辺部,第二の周辺部,第一の周辺部補助部および傾斜部を有さない比較例1〜6に対し、軸安定性が優れていた。さらに、周辺部が前面の約10%以下(好ましくは未満)の場合に軸安定性を顕著に発揮することが明らかとなった。
【0074】
[トーリックコンタクトレンズ]
他の実施例では、本願発明を用いたトーリックコンタクトレンズ(乱視用レンズともいう。)を装用した6つの試験について説明する。表5(a)には、実施例4および5並びに比較例7〜10の特徴を示し、表5(b)には、実施例4および5並びに比較例7〜10にて使用されたトーリックコンタクトレンズの各々に共通するパラメータを示す。なお、以降に述べる実施例4および5と比較例7〜10の周辺部はいずれも、水平経線上にて最大肉厚となる形状を有し、かつ、垂直経線上において最小肉厚となる形状を有している。
【0075】
【表5a】
【表5b】
【0076】
実施例4のトーリックコンタクトレンズは、実施例1の光学部を老視用および乱視用の設計から乱視用の設計に変更するのみであり、実施例1と同様のダブルスラブオフを有する。実施例5は、実施例4に基づいて周辺部を真円とするトーリックコンタクトレンズである。
【0077】
一方、比較例7は、従来のダブルスラブオフを備えたトーリックコンタクトレンズであり、周辺部は真円であり、比較例1と同様に第一の周辺部補助部も傾斜部も有さない。比較例8は、比較例6を基にした周辺部が楕円であるトーリックコンタクトレンズであり、比較例1と同様に第一の周辺部補助部も傾斜部も有さない。比較例9は、実施例4を基にしたトーリックコンタクトレンズであり、周辺部は真円であり、比較例1と同様に第一の周辺部補助部も傾斜部も有さない。比較例10は、実施例4を基にしたトーリックコンタクトレンズであり、周辺部は真円である。第二の周辺部は有するものの、0°〜90°までが第一の周辺部(内側だと0°〜90°、外側だと0°〜70°)となり、第一の周辺部補助部および傾斜部を有さない。なお、比較例7,9は1種類の肉厚を複数の角度で円環状に指定し、比較例8は複数種類の肉厚を複数の角度で楕円状に指定し、そして比較例10は複数種類の肉厚を複数の角度で円環状に指定している。
【0078】
実施例4および5並びに比較例7〜10の装用テストも表3(a)で示す装用テストと同様に実施した。軸位置の結果を表6に示す。なお、表6で示す記号はそれぞれ表3(b)と同様である。
【0079】
【表6】
【0080】
以上の結果をまとめると、実施例4および5のトーリックコンタクトレンズは、楕円状の周辺部に第一の周辺部,第二の周辺部,第一の周辺部補助部および傾斜部を一部ないし全て有さない比較例7〜10に対し、軸安定性が優れていた。なお、実施例5においては周辺部の形状を楕円状ではなく真円状かつ環状としているが、上述の通り十分に効果を発揮している。そのため、本願発明における周辺部の形状は楕円状かつ環状に限られない。
【0081】
[近視・遠視用コンタクトレンズ]
また他の実施例では、本願発明を用いた近視・遠視用コンタクトレンズを装用した2つの試験について説明する。表7(a)には、実施例6および比較例11の特徴を示し、表7(b)には、実施例6と比較例11にて使用されたコンタクトレンズの各々に共通するパラメータを示す。
【0082】
【表7a】
【表7b】
【0083】
実施例6のコンタクトレンズは、実施例1の光学部が老視用かつ乱視用の設計から近視・遠視用の設計に変わったのみであり、実施例1のダブルスラブオフを有する。
【0084】
一方、比較例11のコンタクトレンズは、従来のダブルスラブオフを有する近視・遠視用のコンタクトレンズであり、周辺部は真円であり、比較例7と同様、第一の周辺部補助部および傾斜部を有さない。なお、比較例11は1種類の肉厚を複数の角度で楕円状に指定しで調整し、実施例6は複数種類の肉厚を複数の角度で円環状に指定している。
【0085】
実施例6および比較例11に示す装用テストも表3(a)で示す装用テストと同様に実施し、軸位置の結果を表8に示す。なお、表8で示す記号はそれぞれ表3(b)と同様である。
【0086】
【表8】
【0087】
表8に示すように、本願発明を全て備えるコンタクトレンズの実施例6は従来の球面レンズである比較例11に比べ軸安定性が優れていることが明らかとなった。
【0088】
以上の結果をまとめると、実施例6の近視用コンタクトレンズは、楕円状の周辺部に第一の周辺部,第二の周辺部,第一の周辺部補助部および傾斜部を有さない比較例11に対し、軸安定性が優れていた。
【0089】
なお、近視・遠視用コンタクトレンズにおいても、本発明の課題にて述べた内容、すなわちレンズの姿勢を安定化させるという課題が生じ得る。例えば、カラーコンタクトレンズのうち柄や模様が入っているレンズを装用する場合、模様に上下方向がある場合、上下方向を正しくしつつレンズを装用する必要が出てくる。その場合、トーリックコンタクトレンズのようにレンズの姿勢を安定化させなければ模様を正しく他者に見せることができない。そのため、上記の近視用コンタクトレンズにおいてもレンズの姿勢を安定化させるという課題が生じ、それを解決する手段として、上記の実施例ひいては上記の実施形態に記載された構成を採用することにより、レンズの姿勢を安定化させるという効果を奏する。