特許第6646560号(P6646560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646560
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】既設地中構造物の変形抑制方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/00 20060101AFI20200203BHJP
【FI】
   E21D11/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-218116(P2016-218116)
(22)【出願日】2016年11月8日
(65)【公開番号】特開2018-76682(P2018-76682A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2018年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(73)【特許権者】
【識別番号】504158881
【氏名又は名称】東京地下鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】繁 修二
(72)【発明者】
【氏名】梶山 雅生
(72)【発明者】
【氏名】河越 勝
(72)【発明者】
【氏名】大石 敬司
(72)【発明者】
【氏名】大塚 努
(72)【発明者】
【氏名】焼田 真司
(72)【発明者】
【氏名】津野 究
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−084565(JP,A)
【文献】 特開2006−233587(JP,A)
【文献】 特開2014−169557(JP,A)
【文献】 特開2008−248568(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0036682(US,A1)
【文献】 特開2000−045307(JP,A)
【文献】 特開2007−314965(JP,A)
【文献】 特開2007−146411(JP,A)
【文献】 特開平08−068292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00
E21D 9/06
E02D 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設地中構造物の外側にトンネルを新設して、当該新設トンネルから既設地中構造物に対して引張力又は押圧力を付与し、かつ、新設トンネルの内側を貫通するように設けられて新設トンネルに連結された吊部材の両端を地上付近に構築された構造物に固定したことを特徴とする既設地中構造物の変形抑制方法。
【請求項2】
既設地中構造物の外側にトンネルを新設する第1のステップと、
新設トンネルと既設地中構造物とを連結材で連結する第2のステップと、
連結材を介して既設地中構造物に新設トンネル側への引張力を付与する第3のステップと、
新設トンネルの内側を貫通するように設けられて新設トンネルに連結された吊部材の両端を地上付近に構築された構造物に固定する第4のステップと、
を備えたことを特徴とする既設地中構造物の変形抑制方法。
【請求項3】
第3のステップでは、新設トンネルの内側に引張力付与装置を設置し、当該引張力付与装置により連結材に引張力を付与することにより、既設地中構造物を新設トンネル側に引張る方向の引張力を付与したことを特徴とする請求項2に記載の既設地中構造物の変形抑制方法。
【請求項4】
引張力付与装置としてセンターホールジャッキを用い、センターホールジャッキの中央貫通孔を貫通して新設トンネルの内側に位置された連結材の上端側に受圧材を取付け、センターホールジャッキを作動させて受圧材を押圧することによって連結材に引張力を付与することにより、既設地中構造物を新設トンネル側に引張る方向の引張力を付与したことを特徴とする請求項3に記載の既設地中構造物の変形抑制方法。
【請求項5】
引張力付与装置を新設トンネルの軸方向に沿って所定間隔隔てて複数設置し、既設地中構造物の軸方向に沿った各箇所で測定した既設地中構造物の変形の度合いに応じて、各引張力付与装置による既設地中構造物を新設トンネル側に引張る方向の引張力を調整したことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の既設地中構造物の変形抑制方法。
【請求項6】
既設地中構造物と新設トンネルとの間の地盤、又は、既設地中構造物の周囲の地盤を改良したことを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の既設地中構造物の変形抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老朽化した既設の地中構造物の変形の進行を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、地下鉄トンネルや道路トンネル等の既設の地中構造物が、軟弱な地盤の箇所において圧密等の影響により変形が進行しているケースがある。
このような既設地中構造物の変形進行を抑制する方法としては、既設地中構造物の内側から補強工事を行うことが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−224421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、既設地中構造物の内側から補強工事を行う方法では、既設地中構造物の内側での補強工事の施工期間が長くなり、この長い施工期間の間、既設地中構造物の使用が制限されるので、既設地中構造物の使用制限期間が長くなってしまう。また、既設地中構造物の内側に既設地中構造物の変形を抑制するのに十分な補強部材を設置できない可能性もある。
本発明は、既設地中構造物の使用制限期間を短くでき、また、既設地中構造物の内側に既設地中構造物の変形を抑制するのに十分な補強部材を設置できない場合であっても、既設地中構造物の変形の進行を抑制できる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る既設地中構造物の変形抑制方法は、既設地中構造物の外側にトンネルを新設して、当該新設トンネルから既設地中構造物に対して引張力又は押圧力を付与し、かつ、新設トンネルの内側を貫通するように設けられて新設トンネルに連結された吊部材の両端を地上付近に構築された構造物に固定したので、既設地中構造物の外部である新設トンネルから対策を講じることにより、既設地中構造物の使用制限期間を短くでき、また、既設地中構造物の内側に既設地中構造物の変形を抑制するのに十分な補強部材を設置できない場合であっても、既設地中構造物の変形の進行を抑制できる。さらに、新設トンネルに懸垂された既設地中構造物の懸垂力に対する懸垂反力が得られるようになるため、新設トンネル自体の沈下を抑制できるようになり、既設地中構造物の変形の進行を抑制できるようになる。
また、本発明に係る既設地中構造物の変形抑制方法は、既設地中構造物の外側にトンネルを新設する第1のステップと、新設トンネルと既設地中構造物とを連結材で連結する第2のステップと、連結材を介して既設地中構造物に新設トンネル側への引張力を付与する第3のステップと、新設トンネルの内側を貫通するように設けられて新設トンネルに連結された吊部材の両端を地上付近に構築された構造物に固定する第4のステップと、を備えたので、既設地中構造物の外部である新設トンネルから対策を講じることにより、既設地中構造物での作業を減らすことができるので、既設地中構造物の使用制限期間を減らすことができるとともに、既設地中構造物と新設トンネルとを連結する連結材の引張力を調整することで、既設地中構造物の内空断面を維持でき、既設地中構造物の変形の進行を抑制できるようになる。また、既設地中構造物の内側に既設地中構造物の変形を抑制するのに十分な補強部材を設置できない場合であっても、既設地中構造物の変形の進行を抑制できるようになる。さらに、新設トンネルに懸垂された既設地中構造物の懸垂力に対する懸垂反力が得られるようになるため、新設トンネル自体の沈下を抑制できるようになり、既設地中構造物の変形の進行を抑制できるようになる。
第3のステップでは、新設トンネルの内側に引張力付与装置を設置し、当該引張力付与装置により連結材に引張力を付与することにより、既設地中構造物を新設トンネル側に引張る方向の引張力を付与したので、引張力付与装置により連結材の引張力を調整することで、既設地中構造物の内空断面を維持でき、既設地中構造物の変形の進行を抑制できるようになる。
引張力付与装置としてセンターホールジャッキを用い、センターホールジャッキの中央貫通孔を貫通して新設トンネルの内側に位置された連結材の上端側に受圧材を取付け、センターホールジャッキを作動させて受圧材を押圧することによって連結材に引張力を付与することにより、既設地中構造物を新設トンネル側に引張る方向の引張力を付与したので、センターホールジャッキにより連結材の引張力を調整することで、既設地中構造物の内空断面を維持でき、既設地中構造物の変形の進行を抑制できるようになる。
引張力付与装置を新設トンネルの軸方向に沿って所定間隔隔てて複数設置し、既設地中構造物の軸方向に沿った各箇所で測定した既設地中構造物の変形の度合いに応じて、各引張力付与装置による既設地中構造物を新設トンネル側に引張る方向の引張力を調整したので、各引張力付与装置によって既設地中構造物を新設トンネル側に引張る方向の引張力をより細かく調整することができるようになり、既設地中構造物の変形の進行をより的確に抑制できるようになる
設地中構造物と新設トンネルとの間の地盤、又は、既設地中構造物の周囲の地盤を改良したので、既設地中構造物と新設トンネルとの間の地盤、あるいは、既設地中構造物の周囲の地盤を安定させることで、新設トンネル自体の沈下を抑制できるようになり、既設地中構造物の変形の進行を抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】既設地中構造物の変形抑制方法を示す概略構成図。
図2】連結材の上下の連結部付近の構造を示す断面図。
図3】引張力付与装置の他の構成例を示す断面図。
図4】新設した地中構造物の沈下抑制方法における地中構造物と吊部材との連結構造を示す断面図。
図5】新設した地中構造物の沈下抑制方法を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
実施形態1に係る既設地中構造物の変形抑制方法は、既設の地中構造物の上方にトンネルを新設する第1のステップと、新設したトンネルから垂れ下げた連結材の下端部を既設の地中構造物に連結する第2のステップと、連結材を介して既設の地中構造物に上方への引張力を付与する第3のステップと、を備える。
【0008】
例えば、図1に示すように、既設地中構造物としての道路トンネルや鉄道トンネル等の既設トンネル1の上方に新設トンネル2を新設し、この新設トンネル2から垂れ下げた連結材としてのロッド3を介して既設トンネル1に上方(新設トンネル2側)への引張力を付与することにより、既設トンネル1の変形の進行を抑制するようにした。
【0009】
新設トンネル2は、例えばトンネルの中心軸が既設トンネル1の中心軸の真上に位置するように既設トンネル1の軸方向に沿って形成される。
【0010】
そして、第3のステップでは、新設トンネル2内に設置された引張力付与装置としてのセンターホールジャッキ5を用いてロッド3に上方(新設トンネル2側)への引張力を付与することにより、ロッド3を介して既設トンネル1に上方への引張力を付与するようにし、既設トンネル1の変形の進行を抑制するようにした。
【0011】
センターホールジャッキ5は、例えば特開2002−121894号公報に開示されたような構成のものを用いればよい。
即ち、図2に示すように、センターホールジャッキ5は、中央貫通孔(センターホール)51を備えた円筒状の油圧ジャッキ部5Aと、油圧ジャッキ部5Aに油圧を供給する油圧ポンプ5Bとを備えた構成である。
油圧ジャッキ部5Aは、円環状の本体部52と、円環状の押圧部材(ラム部材)53とを備える。
本体部52は、複数の油圧室(シリンダー)54,54…と、各油圧室54,54…に設けられた各ピストン55,55…とを備える。
油圧室54は、本体部52の円環の肉厚部の内部に形成された一端開口の有底円柱状空間により構成される。この本体部52の円環の一端面に開口した円柱状空間により形成される油圧室54は、本体部52の円環の周方向に沿って一定の間隔を隔てて複数形成される。即ち、中央貫通孔51の中心軸と円柱状空間により形成された各油圧室54,54…の中心軸とが平行となるように構成される。
また、本体部52の円環の周方向に互いに隣り合う油圧室54,54が図外の油路により連通するように構成され、各油圧室54,54…に油圧ポンプ5Bから油圧管路56を介して油圧が供給される。
各油圧室54,54…には、ピストン55が油圧室54の中心軸に沿った方向に移動可能に設けられている。
押圧部材53は、円環状の本体部52と対応した円環体に形成されて、押圧部材53を形成する円環体の他端面に各ピストン55,55…の上端が固定されている。
従って、油圧ポンプ5Bから複数の油圧室54,54…に油圧が供給されることで各油圧室に設けられたピストン55,55…が作動し、押圧部材53が本体部52より離れる方向に移動する。
【0012】
第2のステップ及び第3のステップの具体例について説明する。
第2のステップでは、まず、図2に示すように、新設トンネル2の内部下端側から既設トンネル1の内部上端側に到達するボーリング孔6を、既設トンネル1及び新設トンネル2の軸方向に沿って所定間隔隔てて複数形成する。
そして、新設トンネル2の内部下端側のボーリング孔6側に、ボーリング孔6の中心軸と底板7に形成された貫通孔71の中心軸とが一致するように当該底板7を設置した後、センターホールジャッキ5の油圧ジャッキ部5Aの中央貫通孔51の中心軸とボーリング孔6の中心軸とが一致するようにセンターホールジャッキ5を底板7上に設置する。尚、実施形態1では、底板7は支圧板として機能する。即ち、底板7及びセンターホールジャッキ5を、新設トンネル2の内側下端部において、新設トンネル2の軸方向に沿って所定間隔隔てて複数設置する。つまり、引張力付与装置を新設トンネル2の軸方向に沿って所定間隔隔てて複数設置する。
また、既設トンネル1の内部上端側のボーリング孔6側にボーリング孔6の中心軸と固定板8に形成された貫通孔81の中心軸とが一致するように当該固定板8を設置する。即ち、固定板8を、既設トンネル1の内部上端側において、既設トンネル1の軸方向に沿って所定間隔隔てて複数設置する。
【0013】
尚、底板7は、新設トンネル2の内周面に合致する弧面72と当該弧面72と対向する平面73とを備えた蒲鉾形状の例えばコンクリート製、又は、鋼製の板材により形成され、弧面72を新設トンネル2の内周面に当てた状態で図外のアンカーボルト等の固定具により新設トンネル2に固定され、平面73上にセンターホールジャッキ5が設置される。
また、固定板8は、既設トンネル1の内周面に合致する弧面82と当該弧面82と対向する平面83とを備えた蒲鉾形状の例えばコンクリート製、又は、鋼製の板材により形成され、弧面82を既設トンネル1の内周面に当てた状態で図外のアンカーボルト等の固定具により既設トンネル1に固定されている。
【0014】
そして、新設トンネル2の内側から、ロッド3を、センターホールジャッキ5の油圧ジャッキ部5Aの中央貫通孔51、底板7に形成された貫通孔71、新設トンネル2の下端側壁を貫通する貫通孔21、ボーリング孔6、既設トンネル1の上端側壁を貫通する貫通孔11、固定板8に形成された貫通孔81に通して、ねじ部が形成されたロッド3の下端側をナット等の締結手段12を用いて固定板8に固定するとともに、ねじ部が形成されたロッド3の上端側に受圧材として機能するナット等の環状体13を固定して、当該環状体13を油圧ジャッキ部5Aの押圧部材(ラム部材)53上に設置する。
【0015】
第3のステップでは、センターホールジャッキ5の油圧ポンプ5Bを作動させることにより、油圧ポンプ5Bから各油圧室54,54…に油圧が供給されて各ピストン55,55…が上昇し、各ピストン55,55…の上端に固定された押圧部材53がロッド3の上端側に固定された受圧材としての環状体13を押し上げるので、環状体13を介してロッド3が上方に引っ張られ、既設トンネル1に上方への引張力が付与される。
即ち、引張力付与装置としてセンターホールジャッキ5を用い、センターホールジャッキ5の中央貫通孔51を貫通して新設トンネルの内側に位置されたロッド3の上端側に受圧材としての環状体13を取付け、センターホールジャッキ5を作動させて環状体13を押圧することによってロッド3に引張力を付与することにより、既設トンネル1を新設トンネル2側に引張る方向の引張力を付与した。
このように、既設トンネル1に引張力が付与されることにより、既設トンネル1を変形させようとする外力に対して抵抗する力が既設トンネル1に付与されるので、既設トンネル1の変形の進行を抑制できる。
【0016】
例えば、既設トンネル1の軸方向に沿った各箇所において、既設トンネル1の変形の度合いを既設トンネル1の内空測定(例えば既設トンネル1の内空の真円度を測定)により検出し、変形の度合いの大小に応じて引張力の大きさを調整する。即ち、変形が大きい箇所では引張力を大きくし、変形が小さい箇所では引張力を小さくする。つまり、引張力付与装置としてのセンターホールジャッキ5を新設トンネル2の軸方向に沿って所定間隔隔てて複数設置し、既設トンネル1の軸方向に沿った各箇所で測定した既設トンネル1の変形の度合いに応じて、各引張力付与装置による既設トンネル1を新設トンネル2側に引張る方向の引張力を調整することにより、各引張力付与装置によって既設トンネル1を新設トンネル2側に引張る方向の引張力をより細かく調整することができるようになり、既設トンネル1の変形の進行をより的確に抑制できるようになる。
【0017】
実施形態1によれば、既設トンネル1の外部である新設トンネル2から対策を講じることにより、既設トンネル1内での作業を減らすことができるので、既設トンネル1の使用制限期間を減らすことができるとともに、既設トンネル1と新設トンネル2とを連結する連結材としてのロッド3の引張力を調整することで、既設トンネル1の内空断面を維持でき、既設トンネル1の変形の進行を抑制できるようになる。
また、実施形態1によれば、既設トンネル1の外部である新設トンネル2から対策を講じることにより、既設トンネル1の内側に既設トンネル1の変形を抑制するのに十分な補強部材を設置できない場合であっても、既設トンネル1の変形の進行を抑制できるようになる。
【0018】
実施形態2
実施形態1では、引張力付与装置としてセンターホールジャッキ5を用いたが、図3に示すように、ロッド3とケーブルや鋼材等の線材9とを連結部材91で連結し、線材9を巻取り装置等の引張力付与装置で引っ張ることでロッド3に引張力を付与する構成としてもよい。尚、連結部材91は、図3に示すように、例えば、ロッド3の上端側を貫通させる貫通孔92が形成された底板93と、底板93より上方に延長して線材9を通す貫通孔94が形成された線材連結部95とを備え、ロッド3の上端側を貫通孔92に通した後にロッド3の上端側に固定手段としてのナット96を螺着してナット96を底板93に締結することで、ロッド3と連結部材91とが連結され、かつ、線材9を貫通孔94に通すことで線材9と連結部材91とが連結される構成とされる。
即ち、図3の二点鎖線に示すように底板7の平面73上に設置された連結部材91と線材9とを引張力付与装置により実線に示すように移動させることで、ロッド3に引張力を付与できるように構成されている。
実施形態2によっても、実施形態1と同じ効果が得られる。尚、この場合、新設トンネル2の軸方向に沿って所定間隔隔てて複数設置された各ロッド3,3…を1本の線材9で引張るようにしても良いが、各ロッド3,3…を、新設トンネル2の軸方向に沿って所定間隔隔てて複数設けられた各線材9,9と各線材9を巻き取る個別の巻取り装置等の引張力付与装置と用いて個別に引っ張るようにすれば、既設トンネル1の軸方向に沿った各箇所で測定した既設トンネル1の変形の度合いに応じて、各引張力付与装置によって既設トンネル1を新設トンネル2側に引張る方向の引張力をより細かく調整することができるようになり、既設トンネル1の変形の進行をより的確に抑制できるようになるので好ましい。
【0019】
実施形態3
地盤の状態によっては、新設トンネル2自体が沈下する可能性があり、新設トンネル2自体が沈下した場合には、既設トンネル1に引張力が付与されない。そこで、新設トンネル2自体の沈下が懸念される場合には、新設トンネル2が沈下しないように、連結部材31を介して底板7に連結されたケーブルや鋼材等の吊部材32の両端を地上付近の構造物に連結して懸垂反力を得るようにする。
【0020】
例えば、図5に示すように、新設トンネル2に吊部材32を通し、吊部材32の一端32Aを新設トンネル2を構築する際の発進立坑として使用した地上付近に構築されたアバット等の構造物35に固定するとともに、吊部材32の他端32Bを新設トンネル2を構築する際の到達立坑として使用した地上付近に構築されたアバット等の構造物36に固定する。そして、新設トンネル2内に通された吊部材32を、図4に示すように、連結部材31を介して底板7に連結することにより、新設トンネル2が吊部材32によって吊られ、吊部材32の両端32A,32Bが固定された構造物35,36により、新設トンネル2に懸垂された既設トンネル1の懸垂力に対する懸垂反力が得られるようになるので、新設トンネル2自体の沈下を抑制できるようになり、既設トンネル1に引張力が付与されて、既設トンネル1の内空断面を維持でき、既設トンネル1の変形の進行を抑制できるようになる。
即ち、既設トンネル1の上方に設けられた新設トンネル2の内側を貫通するように設けられて新設トンネル2に連結された吊部材32の両端32A,32Bを地上付近に構築された構造物35,36に固定したので、新設トンネル2に懸垂された既設トンネル1の懸垂力に対する懸垂反力が得られて、新設トンネル2自体の沈下を抑制できるようになり、既設トンネル1に引張力が付与されて、既設トンネル1の内空断面を維持でき、既設トンネル1の変形の進行を抑制できるようになる。
【0021】
尚、連結部材31は、例えば、図4に示すように、両端にねじが形成された鋼棒等の連結体41と、底板7に取付けられた底板側固定部42と、吊部材32に取付けられた吊部材側固定部43とを備え、連結体41の一端が底板側固定部42にナット44,44等の固定具で固定され、連結体41の他端が吊部材側固定部43にナット45,45等の固定具で固定され、かつ、底板側固定部42がアンカーボルト46やボルトナット等の固定具で固定された構成とすればよい。
【0022】
実施形態4
新設トンネル2自体の沈下が懸念される場合には、新設トンネル2が沈下しないように、新設トンネル2から新設トンネル2と既設トンネル1との間の地盤に薬液を注入して、既設トンネル1と新設トンネル2との間の地盤を改良したり、あるいは、既設トンネル1の周囲の地盤に薬液を注入して、既設トンネル1の周囲の地盤を改良することで、地盤を安定させるようにしてもよい。
例えば、新設トンネル2に、新設トンネル2と既設トンネル1との間の地盤に薬液を注入するための図外の注入孔を形成して、当該注入孔を介して新設トンネル2と既設トンネル1との間の地盤に薬液を注入したり、あるいは、既設トンネル1に、既設トンネル1の周囲の地盤に薬液を注入するための図外の注入孔を形成して、当該注入孔を介して既設トンネル1の周囲の地盤に薬液を注入すればよい。
実施形態4によれば、既設トンネル1と既設トンネル1の上方に設けられた新設トンネル2との間の地盤、あるいは、既設トンネル1の周囲の地盤を安定させることで、新設トンネル2自体の沈下を抑制できるようになるので、既設トンネル1に引張力が付与されて、既設トンネル1の内空断面を維持でき、既設トンネル1の変形の進行を抑制できるようになる。
また、既設トンネル1の周囲の地盤を安定させた場合、圧密等の影響を抑制できるようになって、既設トンネル1の変形の進行を抑制できるようになるという効果もある。
【0023】
尚、新設トンネル2自体の沈下が懸念される場合、地盤の状況に応じて、実施形態3の方法、実施形態4の方法のいずれか一方の方法を採用したり、両方の方法を採用すればよい。
【0024】
また、例えば、新設トンネル2の内径は、作業員が作業可能な空間を確保できれば良いので、例えば、2m〜3m程度であればよい。
また、新設トンネル2と既設トンネル1との間の間隔は特に限定されない。例えば、既設トンネル1が地下の深い位置にあれば、新設トンネル2を地下の浅い位置に構築して、新設トンネル2と既設トンネル1との間の間隔を長くしてもよい。
また、トンネル1,2の軸方向に沿って配置されるロッド3,3…の配置間隔も特に限定されない。即ち、ロッド3の配置間隔は、既設トンネル1の変形状態に応じて適宜決定すればよい。
【0025】
また、上述した実施形態では、連結材としてロッド3を用いたが、ロッド3以外の連結材を用いても良い。例えば、連結材としてPC鋼材等の緊張材を用いてもよい。
【0026】
また、引張力付与装置は、連結材に引張力を付与できる装置であれば良い。
【0027】
また、上記では、既設地中構造物としての既設トンネル1の上方に新設トンネル2を構築して上に引張る構成を例示したが、既設トンネル1の横側(左側あるいは右側)や下方に新設トンネル2を構築して横や下方に引っ張るようにしてもよい。即ち、既設トンネル等の既設地中構造物の外側にトンネルを新設し、連結材を介して既設地中構造物を新設トンネル側に引張ることにより、既設地中構造物に新設トンネル側への引張力を付与するようにすればよい。
【0028】
実施形態5
上記では、既設地中構造物としての既設トンネル1の外側に新設トンネル2を新設して、当該新設トンネル2から既設トンネル1に対して引張力を付与することにより、既設トンネル1の変形を抑制する方法について説明したが、当該新設トンネル2から既設トンネル1に対して押圧力を付与することにより、既設トンネル1の変形を抑制するようにしてもよい。
例えば、新設トンネル2の内側から既設トンネル1の外面に到達する鋼材のような棒材を設け、この棒材を新設トンネル2の内側から油圧ジャッキ等の押圧手段で押圧することによって、当該新設トンネル2から既設トンネル1に対して押圧力を付与するようにすればよい。
つまり、既設トンネル1の軸方向に沿った各箇所において、既設トンネル1の変形の度合いを既設トンネル1の内空測定(例えば既設トンネル1の内空の真円度を測定)により検出し、変形の度合いの大小に応じて押圧力の大きさを調整する。即ち、変形が大きい箇所では押圧力を大きくし、変形が小さい箇所では押圧力を小さくすることで、既設トンネル1の内空断面を維持でき、既設トンネル1の変形の進行を抑制できるようになる。
即ち、実施形態5のように、新設トンネル2から既設トンネル1に対して押圧力を付与すること、つまり、既設トンネル1の外部である新設トンネル2から対策を講じることにより、既設トンネル1の使用制限期間を短くでき、また、既設トンネル1の内側に既設トンネル1の変形を抑制するのに十分な補強部材を設置できない場合であっても、既設トンネル1の変形の進行を抑制できるようになる。
【0029】
上述した新設トンネル2は、シールド工法、又は、推進工法により構築すればよい。
また、本発明は、道路トンネル、鉄道トンネル等の既設トンネルに限らず、既設地中構造物一般に適用可能である。例えば、既設地中構造物としてのボックスカルバート等の変形の進行を抑制する場合にも適用可能である。
また、本発明は、比較的大径の既設地中構造物の変形の進行を抑制する場合に効果的である。
また、本発明は、既設地中構造物としての山岳トンネルの変形の進行を抑制する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 既設トンネル(既設地中構造物)、2 新設トンネル、3 ロッド(連結材)、
5 センターホールジャッキ(引張力付与装置)、13 環状体(受圧材)、
32 吊部材、35,36 構造物、51 中央貫通孔。
図1
図2
図3
図4
図5