(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646563
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】軟ピッチの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10C 1/16 20060101AFI20200203BHJP
【FI】
C10C1/16
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-232013(P2016-232013)
(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-87303(P2018-87303A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】福岡 恭兵
(72)【発明者】
【氏名】不破 弥生
【審査官】
齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−28423(JP,A)
【文献】
特開昭61−21905(JP,A)
【文献】
特開昭63−278995(JP,A)
【文献】
特開2000−53972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10C 1/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コールタールを脱水して得た脱水タールを蒸留して、沸点が120℃以上、軟化点が70℃以下の中間ピッチと沸点が300℃以下のナフタリン油とに分離するタール蒸留工程と、
前記タール蒸留工程で得られた前記ナフタリン油を蒸留して、沸点が120〜200℃の軽質油を得るナフタリン油蒸留工程と、
前記タール蒸留工程で得られた前記中間ピッチと、前記ナフタリン油蒸留工程で得られた前記軽質油とを混合して軟化点が70℃以下の軟ピッチを得る混合工程と、を有する軟ピッチの製造方法。
【請求項2】
前記軟ピッチが、50℃における粘度が1.5〜5.0Pa・sであり、固定炭素量が30質量%以上である、請求項1に記載の軟ピッチの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟ピッチの製造方法に関する。本発明は、特に、電極、特殊炭素材料等の炭素材用として好適な軟ピッチの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人造黒鉛電極、アルミ精錬電極等の電極や、金属溶融用黒鉛ルツボ、造粒活性炭等の特殊炭素材料等の炭素材は、コークスなどの骨材と、コールタール等を原料として製造されるバインダーピッチおよび軟ピッチ(含浸ピッチ)を混練、成形した後、焼成を行い製造されている。
【0003】
従来、前記軟ピッチは、原料であるコールタールを蒸留し、ナフタリンを含む低沸点油(ナフタリン油)を分留する蒸留工程を経て製造されている。
【0004】
また、特許文献1に開示されるように、タール蒸留によって得られた軟ピッチと、蒸留油とを混合して合成タールを製造する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−28423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の蒸留工程を経て製造される軟ピッチは、250℃以下の沸点を持つ成分の割合が小さいため、沸点分布が250℃以上に偏り、炭素材の焼成時に特定の温度で軟ピッチ中の成分が急激に揮散するという問題があった。その結果、製品(炭素材)の内部亀裂の発生と、それに伴う歩留低下が生じていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、特定の温度での軟ピッチ中の成分の急激な揮散を抑制できる軟ピッチの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]コールタールを脱水して得た脱水タールを蒸留して、沸点が120℃以上、軟化点が70℃以下の中間ピッチと、沸点が300℃以下のナフタリン油とに分離するタール蒸留工程と、前記タール蒸留工程で得られた前記ナフタリン油を蒸留して、沸点が120〜200℃の軽質油を得るナフタリン油蒸留工程と、前記タール蒸留工程で得られた前記中間ピッチと、前記ナフタリン油蒸留工程で得られた前記軽質油とを混合して軟化点が70℃以下の軟ピッチを得る混合工程と、を有する軟ピッチの製造方法。
[2]前記軟ピッチが、50℃における粘度が1.5〜5.0Pa・sであり、固定炭素量が30質量%以上である、[1]に記載の軟ピッチの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の軟ピッチの製造方法によれば、特定の温度での軟ピッチ中の成分の急激な揮散を抑制できる軟ピッチを提供することができる。
本発明の軟ピッチの製造方法によれば、製品(炭素材)の焼成時に特定の温度での軟ピッチ中の成分の急激な揮散を抑制でき、製品(炭素材)内部の亀裂、変形を防止でき歩留向上が可能となる。
本発明の軟ピッチは、特に、炭素材(電極、特殊炭素材料)用の含浸ピッチとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の軟ピッチの製造方法の一実施形態を説明する説明図である。
【
図2】
図2は、中間ピッチおよび軟ピッチの各温度における質量減少割合を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の軟ピッチの製造方法の一実施形態について、
図1を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0012】
図1は、本発明の軟ピッチの製造方法の一実施形態を説明する説明図である。本発明の軟ピッチの製造方法は、コールタールを脱水して得た脱水タールを蒸留して、中間ピッチとナフタリン油とに分離するタール蒸留工程と、前記タール蒸留工程で得られた前記ナフタリン油を蒸留して、軽質油を得るナフタリン油蒸留工程と、前記タール蒸留工程で得られた前記中間ピッチと前記ナフタリン油蒸留工程で得られた前記軽質油とを混合して軟ピッチを得る混合工程と、を有する。
【0013】
<タール蒸留工程>
タール蒸留工程では、コールタール1(原料タール1)を脱水蒸留塔6に装入し、コールタール1を脱水処理して100℃以下の沸点を持つ成分を分留し脱水タール2を得る。前記脱水タール2は、100〜600℃の沸点を有する。なお、本明細書における沸点は、特に断らない限り常圧での沸点を意味する。
次いで、前記脱水タール2を、前記脱水蒸留塔6の底部から抜き出し、真空蒸留塔7に装入し常圧蒸留または減圧蒸留により蒸留して、ナフタリン油3と、中間ピッチ4とに分離する。
【0014】
前記ナフタリン油3は、300℃以下の沸点を有している。前記ナフタリン油3は、ナフタリンを主成分とする蒸留留分であり、その沸点範囲は120〜300℃である。
【0015】
前記中間ピッチ4は、前記ナフタリン油3を留去した後の釜残であり、120℃以上の沸点を有し、軟化点は70℃以下である。中間ピッチ4の沸点範囲は、120〜600℃である。また、中間ピッチ4の軟化点は、45〜70℃の範囲であることが好ましい。
なお、この中間ピッチ4には、熱処理や水素化処理などを施さない。前記中間ピッチ4にこれらの処理を施すと、中間ピッチ4の沸点が上昇し、該中間ピッチ4を混合して得られる軟ピッチ10の沸点分布に偏りが生じ、特定の温度での急激な揮散を抑制できなくなるおそれがある。
【0016】
<ナフタリン油蒸留工程>
ナフタリン油蒸留工程では、前記タール蒸留工程で得られたナフタリン油3を、ナフタリン蒸留塔8に装入し常圧蒸留により蒸留して、軽質油5を得る。この軽質油5の沸点範囲は、120〜200℃である。
【0017】
<混合工程>
混合工程では、前記タール蒸留工程で得られた前記中間ピッチ4と、前記ナフタリン油蒸留工程で得られた前記軽質油5を配合タンク9に装入して混合し、軟ピッチ10を得る。
かかる軟ピッチ10は、特定の温度での軟ピッチ10中の成分の急激な揮散の抑制効果に優れる。これは、前記各工程を経て製造された中間ピッチ4と前記軽質油5を混合して軟ピッチ10を製造することで、軟ピッチ10の沸点分布がなだらかになるためと考えられる。
【0018】
前記中間ピッチ4と、前記軽質油5との混合比率は、製造される軟ピッチ10の粘度等を勘案して適宜に調整できる。よりなだらかな沸点分布が得られる点等から、100質量部の中間ピッチ4に対して、軽質油5を1〜10質量部混合することが好ましく、1〜5質量部混合することがより好ましい。
【0019】
(軟ピッチ10)
上記各工程を経て軟ピッチ10が製造される。軟ピッチ10の沸点範囲は、120〜600℃である。軟ピッチ10の軟化点は、70℃以下である。軟ピッチ10の軟化点は、45〜70℃であることが好ましい。
また、上記各工程を経ることで、50℃における粘度が1.5〜5.0Pa・sであり、固定炭素量が30質量%以上である軟ピッチ10を製造することができる。軟ピッチ10の50℃における粘度は、1.5〜3.0Pa・sであることがより好ましい。軟ピッチ10の固定炭素量は、35質量%以上であることがより好ましい。また、軟ピッチ10を窒素雰囲気下において150℃で48時間加熱した時の質量減少率は、2質量%以上が好ましい。
本発明による軟ピッチ10は、特定の温度での軟ピッチ10中の成分の急激な揮散の抑制効果に優れる。特に炭素材の成形、焼成時における特定の温度での急激な揮散の抑制効果に優れ、炭素材の含浸ピッチとして好適に用いることができる。軟ピッチ10を炭素材の原料に用いることで、炭素材の成形、焼成時の割れや変形が抑制され歩留向上に寄与する。
【0020】
なお、本発明における各測定値の測定条件は以下のとおりである。
[粘度の測定条件]
JIS Z 8803(2011)液体の粘度−測定方法に準拠してブルックフィールドB型回転粘度計を使用して測定した。
[軟化点の測定条件]
JIS K 2425(2006)8.タールピッチの軟化点測定方法(環球法)に準拠して測定した。
[固定炭素量の測定条件]
JIS K 2425(2006)11.固定炭素分定量方法に準拠して電気炉を使用して測定した。
【実施例】
【0021】
上述の実施形態に従い、軟ピッチ10を製造した。
まず、100質量部のコールタール1を脱水蒸留塔6に装入し、前記原料タール1を脱水処理して100℃以下の沸点を持つ成分を分留し、96質量部の脱水タール2を得た。
【0022】
次いで、96質量部の脱水タール2を、脱水蒸留塔6の底部から抜き出し、真空蒸留塔7に装入し、0.02MPaの減圧下で蒸留処理して、15質量部のナフタリン油3と、81質量部の中間ピッチ4を得た。前記ナフタリン油3の沸点範囲は120〜300℃であった。また、前記中間ピッチ4は、軟化点が65℃、沸点範囲が120〜600℃、60℃における粘度が20Pa・s、固定炭素量が37質量%であった。
【0023】
その後、前記15質量部のナフタリン油3を、ナフタリン蒸留塔8に装入し常圧蒸留処理して、3質量部の軽質油5を得た。この軽質油5の沸点範囲は120〜200℃であった。
【0024】
最後に、100質量部の前記中間ピッチ4に対して、3質量部の前記軽質油5を混合して、軟ピッチ10を得た。
前記軟ピッチ10は、軟化点が60℃、沸点範囲が120〜600℃、50℃における粘度が2.8Pa・s、固定炭素量が35質量%であった。
【0025】
上記のようにして製造した中間ピッチ4および軟ピッチ10について、室温(25℃)から600℃まで昇温させた際の質量減少割合(中間ピッチ4または軟ピッチ10の全質量に対する各温度における質量の減少割合(質量%))を熱重量分析装置(TGA)で測定した。結果を
図2に示す。
【0026】
図2に示されるように、軽質油5を配合して製造した軟ピッチ10は、軽質油5を配合していない中間ピッチ4と比較して、特定の温度での急激な揮散が抑制された。これは、中間ピッチ4と軽質油5を混合して軟ピッチ10を製造したことで、軟ピッチ10の沸点分布がなだらかになったためと考えられる。また、このように特定の温度での急激な揮散が抑制されることで、軟ピッチ10を用いて製造される炭素材(電極、特殊炭素材料)等の成形、焼成時の変形や割れを防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1 コールタール(原料タール)
2 脱水タール
3 ナフタリン油
4 中間ピッチ
5 軽質油
6 脱水蒸留塔
7 真空蒸留塔
8 ナフタリン蒸留塔
9 配合タンク
10 軟ピッチ