特許第6646574号(P6646574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646574
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】フロントガラスのための薄い積層ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20200203BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20200203BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20200203BHJP
   C03C 4/00 20060101ALI20200203BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20200203BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   C03C27/12 Z
   C03C3/085
   C03C3/091
   C03C4/00
   B32B17/10
   B60J1/00 H
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-525579(P2016-525579)
(86)(22)【出願日】2014年10月22日
(65)【公表番号】特表2017-500261(P2017-500261A)
(43)【公表日】2017年1月5日
(86)【国際出願番号】FR2014052685
(87)【国際公開番号】WO2015059407
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2017年9月22日
(31)【優先権主張番号】1360326
(32)【優先日】2013年10月23日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】クレール レストランギャン
(72)【発明者】
【氏名】ルネ ギー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン クレマース
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−530026(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/137742(WO,A1)
【文献】 特開2003−055007(JP,A)
【文献】 特開平11−011988(JP,A)
【文献】 特開平02−221137(JP,A)
【文献】 特開昭57−061646(JP,A)
【文献】 特開平07−069669(JP,A)
【文献】 特開2001−354446(JP,A)
【文献】 特開平05−051235(JP,A)
【文献】 特表2000−516903(JP,A)
【文献】 特開平04−280834(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/118029(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B32B 17/06 − 17/10
B60J 1/00 − 1/06
C03B 23/02 − 23/027
C03C 3/076 − 3/091
C03C 4/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1枚の外側ガラスシートと、内側ガラスシートと、これら2枚のガラスシートの間に位置するポリマーインサートとを含む積層グレージングであって、
内側シートの厚さが1.5mm以下であり、
外側ガラスシートが内側シートの化学組成とは異なる化学組成のガラスシートであり、
温度Tp1と温度Tp2との差が80℃未満であり、かつ温度Tp1が温度Tp2よりも高く、
温度Tp1は外側ガラスシートの上限アニーリング温度と軟化点との平均として定義され、温度Tp2は内側ガラスシートの上限アニーリング温度と軟化点との平均として定義され、温度Tpを定義する一般式は、
Tp=(T軟化+Tアニーリング)/2
であり、
上限アニーリング温度はガラスの粘度が1013ポアズであるときの温度に相当し、軟化点はガラスの粘度が107.6ポアズであるときの温度に相当しており、
外側ガラスシートの厚さが内側ガラスシートの厚さよりも大き
外側ガラスシートがホウケイ酸塩タイプ又はアルミノケイ酸ナトリウムタイプの化学組成を有し、かつ、
内側シートがケイ素−ナトリウム−カルシウムタイプの組成を有する、
積層グレージング。
【請求項2】
温度Tp1と温度Tp2との差が70℃未満であることを特徴とする、請求項1に記載のグレージング。
【請求項3】
外側ガラスシートの厚さが2.1mm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のグレージング。
【請求項4】
ポリマーインサートが、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及びエチレン酢酸ビニル(EVA)から選択された熱可塑性物質、又はイオノマー樹脂の、1つ又は2つ以上の層を含むことを特徴とする、請求項1から3のうちの1項に記載のグレージング。
【請求項5】
ポリビニルブチラールから作られた少なくとも1つの層を含むことを特徴とする、請求項4に記載のグレージング。
【請求項6】
外側ガラスシートがホウケイ酸塩タイプの化学組成を有することを特徴とする、請求項1から5のうちの1項に記載のグレージング。
【請求項7】
外側ガラスシートが、
SiO 75〜85%
Al 2〜3%
10〜15%
NaO+KO 3〜7%
を含むことを特徴とする、請求項6に記載のグレージング。
【請求項8】
外側ガラスシートがアルミノケイ酸ナトリウムタイプの化学組成を有することを特徴とする、請求項1から5のうちの1項に記載のグレージング。
【請求項9】
外側ガラスシートが、
SiO 55〜71%
Al 2〜15%
NaO 9〜18%
MgO 2〜11%
O 1〜15%
0〜5%
CaO 0〜5%
SnO 0〜5%
を含むことを特徴とする、請求項8に記載のグレージング。
【請求項10】
内側ガラスシートの厚さが1.1mm以下であることを特徴とする、請求項1から9のうちの1項に記載のグレージング。
【請求項11】
自動車用ガラスを構成することを特徴とする、請求項1から10のうちの1項に記載のグレージング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2枚の薄いガラスシートからなる積層グレージングに関する。より詳しく言えば、本発明は、自動車部門において使用するための、とりわけフロントガラスとして使用するための積層グレージングに関する。
【背景技術】
【0002】
積層グレージングは、「安全」グレージングであるという利点を有するため、自動車、航空又は建物の部門で広く使用されている。それらは、プラスチック製、一般にはポリビニルブチラール(PVB)製のインサート層により一緒に結合された少なくとも2枚のガラスシートからなる。従来、フロントガラス用に用いられるグレージングは非対称性であって、厚さが異なり、外側シートが一般に内側シートよりも厚い、2枚のケイ素−ナトリウム−カルシウムガラスシートからなる。このタイプのグレージングの機械的強度を向上させるために、構成ガラスシートを焼戻して表面の圧縮領域と中央の引張領域とを生じさせることによりそれらを強化することが既知の慣例である。米国特許第3558415号明細書には、外側と内側のガラスシートを表面に圧縮領域を有するように化学的に強化した湾曲積層グレージングが記載されている。英国特許出願公開第1339980号明細書には、外側ガラスシートのみを化学的に強化したフロントガラスグレージングが記載されている。
【0003】
自動車部門において普通に遭遇する問題点は、グレージングの重量に関するものである。現在製造されているフロントガラスは一般に、厚さが2.1mmと2.6mmの間の外側シートと厚さが1.6mmと2.1mmの間の内側シートとを有する。現在は、グレージングの重量を、機械的強度特性を低下させることなく低減させる取り組みが行われている。国際公開第2012/051038号及び同第2012/177426号には、ガラスシートが2mm未満の厚さを有し、ガラスシートのうちの少なくとも一方が化学的に強化されている積層ガラスが記載されている。フロントガラスの構成ガラスシートの厚さを減少させると、その重量を低減させることはできるが、機械的な問題が生じることがあり、特に飛散した石が当たった場合にその脆性が増すことがある。機械的強度を向上させるための上に挙げた文献により提案されている解決策は、外側ガラスシートを化学的に強化することにある。化学的強化、すなわちイオン交換のプロセスは、ガラスシートの表面においてイオン(一般にアルカリ金属、例えばナトリウムのイオン)をより大きなイオン半径のイオン(一般に別のアルカリ金属、例えばカリウムのイオン)で置換することからなり、そしてシートの表面において特定の深さまで残留圧縮応力を発生させることにある。これは、比較的費用のかかる長い処理であり、その結果として連続的な工業プロセスとの相性がよくない。
【0004】
ガラスシートを曲げ加工する工程は、所望の用途にとって必須である。曲げ加工によりガラスシートに曲率を与えることが可能であり、ひいては積層グレージングを構成する種々のガラスシートの集成を容易にすることが可能である。数多くの曲げ加工プロセスを利用することができる。例えば、重力による曲げ加工、搬送ローラ間を通過させることによる曲げ加工、フレームを使用してか又は吸引によって実施される、中実成形型へのプレスによる曲げ加工が挙げられる。(欧州特許出願公開第0448447号明細書、国際公開第2004/087590号、国際公開第02/064519号、又は国際公開第2006/072721号に記載されているように)重力によって及び/又は部分的にプレスしてフレームワーク上でガラスシートを同時に曲げることは、湾曲積層グレージング、例えば運送用自動車のフロントガラスなどを形成することを目的とした2枚のガラスシートを同時に曲げるために用いられる技術である。重ねた2枚のガラスシートが、それらの周縁部に沿って、所望の外形、すなわち2枚の湾曲ガラスシートの最終の外形に対応する外形を有するフレームによって、実質的に水平に支持される。こうして支持された2枚のガラスシートは、曲げ加工炉、一般には異なる温度ゾーンを有する炉を通過する。2枚のガラスシートが異なる化学組成のものである場合、この曲げ加工工程中のそれらの挙動は相異なる可能性があり、その結果欠陥又は残留応力が出現するリスクが高まる。ガラスシートの物理化学的特性及び厚さが異なる場合に提案される1つの解決手段が、英国特許出願公開第2078169号明細書に記載されており、それは曲げ加工処理の際のガラスシートの順序を、集成工程の際の同じシートの順序とは逆転させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3558415号明細書
【特許文献2】英国特許出願公開第1339980号明細書
【特許文献3】国際公開第2012/051038号
【特許文献4】国際公開第2012/177426号
【特許文献5】欧州特許出願公開第0448447号明細書
【特許文献6】国際公開第2004/087590号
【特許文献7】国際公開第02/064519号
【特許文献8】国際公開第2006/072721号
【特許文献9】英国特許出願公開第2078169号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
製品の光学的特性、費用、重量、及び技術の単純化という理由から、機械的強度が所望の用途に適合していて、曲げ加工工程と集成工程との間でガラスシートの順序を変更する必要なしに同時に曲げ加工することができるガラスシートからなる、薄い積層ガラスを利用できることが有益である。シートを逆転することなしに同時に曲げ加工しそしてそのまま集成することは、グレージングの構成ガラスシートの厚さが小さいことから、一層興味深い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、この事情に鑑みたものであり、その主題は、少なくとも1枚の外側ガラスシートと、内側ガラスシートと、これら2枚のガラスシートの間に位置するポリマーインサートとを含む積層グレージングであって、内側シートの厚さが1.5mm以下であり、且つ外側ガラスシートが内側シートの化学組成とは異なる化学組成のガラスシートであり、
温度Tp1と温度Tp2との差ΔTpが80℃未満、好ましくは70℃未満、より好ましくは60℃未満であり、
温度Tp1は外側ガラスシートの上限アニーリング温度と軟化点との平均として定義され、温度Tp2は内側ガラスシートの上限アニーリング温度と軟化点との平均として定義され、温度Tpを定義する一般式は、
Tp=(T軟化+Tアニーリング)/2
であり、
上限アニーリング温度はガラスの粘度が1013ポアズであるときの温度に相当し、軟化点はガラスの粘度が107.6ポアズであるときの温度に相当する、
積層グレージングである。
【0008】
外側ガラスシートについて先に定義した温度の平均に相当する温度Tp1は、本発明によれば、内側シートについて先に定義した温度の平均に相当する温度Tp2よりも高い。
【0009】
温度Tp1は温度Tp2よりも高く、それゆえ温度Tp1とTp2との差ΔTpは正である。例えば、差ΔTpは0℃と80℃の間である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、「外側」という語は、グレージングを受け入れる装置の外部に関連するあらゆるものについて使用される。その結果として、外側ガラスシートは、操縦席の外部の方を向いて位置するものである。反対に、「内側」という語は、グレージングを受け入れる装置の内部に関連するものについて使用される。積層グレージングの内側シートは、操縦席の内部の方を向いて配置されたシートに相当する。
【0011】
本発明者らは、化学組成が異なる2枚のガラスシートを同時に曲げ加工してその後ガラスシートの順序を逆転することなしにそのまま集成することができ、2枚のガラスシートの総厚さが4.5mm未満、あるいは更には4mm未満の積層グレージングを製造することが可能であることを実証した。従って、この製品は、2枚のガラスシートのそれぞれを、それらの化学組成が異なるにもかかわらず別々に曲げ加工する必要なしに得られる。それは、自動車のフロントガラスとして使用するための申し分ない機械的強度を維持する。最終製品にとって重要な結果は、特にその軽減された重量であり、これにより自動車の重量が軽くなり消費量が低減する。外側ガラスシートと非常に薄い内側ガラスシートとを組み合わせる、厚さと化学組成が非対称な集成体によって、強くて軽量化されたフロントガラスを得ることが可能になる。
【0012】
それぞれのガラスシートは、その組成に応じて、その上限アニーリング温度(又は単に「アニーリング温度」)とその軟化点(「リトルトン温度」としても知られる)とによって特徴付けられる。
【0013】
アニーリング温度は、応力が所定の時間(約15分の応力緩和時間)以内に完全に消失し得るのに充分ガラスの粘度が高いときの温度に相当する。それは「応力緩和温度」と呼ばれることもある。この温度は、液体の粘度ηが1013ポアズであるときに対応する。この温度の測定は通常、標準規格NF B30−105に従って行われる。
【0014】
軟化点は、直径が約0.7mmで長さが23.5cmであるガラス糸が1mm/分ずつその自重によって長くなる温度として定義される(標準規格ISO 7884−6)。相当する粘度は107.6ポアズである。
【0015】
温度Tpは次のように定義される。
Tp=(T軟化+Tアニーリング)/2
【0016】
それぞれのガラスシートは、その組成に応じて、温度Tpによって特徴付けられる。本発明による積層グレージングは、同時の曲げ加工のための所望の要件を満たすために、温度Tpが互いにできる限り近い2枚のガラスシートから構成されなければならない。自動車部門における、特にフロントガラスとしての用途について言えば、積層グレージング製造プロセス、特に曲げ加工又は成形工程が、グレージングに欠陥を生じさせないことを保証することが重要である。
【0017】
本発明による積層グレージングの利点は、残留応力又は光学的欠陥を生じさせるリスクを高めることなしに曲げ加工できることである。グレージングの2枚の構成ガラスシートは、相異なる化学組成を有しているが、しかし2枚のガラスシートの化学組成の相違によってプロセスを複雑にすることなしに、そして特に曲げ加工工程と集成工程との間でガラスシートの順序を逆転する必要なしに、それらを一緒に曲げ加工することが可能であるようなものである。
【0018】
外側ガラスシートの厚さは2.1mm以下、好ましくは1.6mm以下である。こうして、外側シートのこのような比較的小さな厚さはまた、積層グレージングの軽量化に寄与する。本発明による積層グレージングは、良好な機械的強度と、石の飛散による損傷後のグレージングの良好な耐久性とを有する。こうして、脆化したグレージングにその後熱勾配を加えたときの、特に例えばフロントガラスの除氷中の、破損のリスクが低減される。
【0019】
外側シートの化学組成は内側ガラスシートのそれと異なる。有利には、本発明による積層ガラスは下記に示す組成から選ばれる組成の「特殊ガラス」製の外側ガラスシートを有する。
【0020】
下記のガラス組成には必須成分のみが挙げられている。それらには、組成上それほど重要でない構成成分、例えば通常使用されている清澄剤、例としてヒ素、アンチモン、錫及びセリウム酸化物、金属ハロゲン化物若しくは硫化物など、又は着色剤、特に例えば酸化鉄や、コバルト、クロム、銅、バナジウム、ニッケル及びセレン酸化物など、は示しておらず、これらは自動車グレージングにおけるガラスの用途についてほとんどの場合に必要とされる。
【0021】
一つの実施形態によれば、外側ガラスシートはホウケイ酸塩タイプの化学組成を有する。外側ガラスシートは、化学組成が以下の酸化物を以下に規定した重量含有量の範囲内で含むようなものでよい。
SiO2 75〜85%
Al23 2〜3%
23 10〜15%
Na2O+K2O 3〜7%
【0022】
別の実施形態によれば、外側ガラスシートはアルミノケイ酸ナトリウムタイプのものでもよく、その化学組成が以下の酸化物を以下に規定した重量含有量の範囲内で含むようなものでよい。
SiO2 55〜71%
Al23 2〜15%、好ましくは4〜15%
Na2O 9〜18%
MgO 2〜11%
2O 1〜15%
23 0〜5%
CaO 0〜5%
SnO2 0〜5%
【0023】
このタイプのガラスは、例えば欧州特許第0914298号明細書に記載されている。
【0024】
積層グレージングは、厚さが非対称であることが好ましく、外側ガラスシートの厚さが内側ガラスシートの厚さよりも大きい。
【0025】
一つの実施態様によれば、外側ガラスシートは非強化ガラスシートである。
【0026】
本発明の目的上、「非強化」という語は、曲げ加工前にシートが化学強化も熱強化も施されないことを意味する。それらが化学強化されていないので、シートは標準的に中心部と比較して表面にアルカリ金属、例えばNa又はKなどの、過剰濃度の酸化物を含有しない。にもかかわらず、ある程度の応力、有利には圧縮応力が、ポリマーインサートとの集成に由来してガラス内にみられてもよい。
【0027】
しかしながら、使用者が所望しそしてガラスが許容するならば、強化処理によってガラスシートを化学的に補強することが可能である。
【0028】
積層グレージングの内側ガラスシートの厚さは1.5mm以下である。好ましくは、このシートの厚さは1.1mm以下、更には1mm未満である。内側ガラスシートの厚さは0.7mm以下であるのが有利である。このガラスシートの厚さは少なくとも50μmである。
【0029】
好ましくは、内側ガラスシートはケイ素−ナトリウム−カルシウムタイプの化学組成を有する。
【0030】
慣習として、内側ガラスシートは、下記の酸化物を下記に規定した重量の範囲で含むようなケイ素−ナトリウム−カルシウム組成のガラスである。
SiO2 65〜75%
Na2O 10〜20%
CaO 5〜15%
Al23 0〜5%
2O 0〜5%
MgO 0〜5%
【0031】
コストの理由から、特殊ガラスのシートを1枚だけ備えた積層グレージングを製造することが事実上より有利である。積層グレージングの色合い及び/又は機能性が内側ガラスシートによって提供されると有利である。このためには、例えば着色した内側ガラスシートを使用することによって、光学機能及び/又はエネルギー機能を有する内側ガラスシートを選択することができる。好ましい実施形態によれば、本発明による積層グレージングは、ケイ素−ナトリウム−カルシウムタイプ(普通のガラス)の内側シートと、ケイ素−ナトリウム−カルシウムタイプでない特殊ガラスから作られた外側シートとを含む。
【0032】
ポリマーインサートは、熱可塑性物質の一層又は複数層からなることができる。それは特に、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、又はアイオノマー樹脂で作製することができる。ポリマーインサートは、特定の機能性、例えばより良好な音響特性、抗紫外線特性等を有する多層膜の形態であってもよい。
【0033】
ポリマーインサートの厚さは、50μmと4mmの間にある。一般には、インサートの厚さは1mm未満である。自動車グレージングでは、ポリマーインサートの厚さは通常0.76mmである。
【0034】
ガラスシートが非常に薄くて厚さが1mm未満である場合には、厚さが1mm超、さらには2又は3mm超のポリマーシートを使用して、構造体に過剰な重量増加を生じさせることなくグレージングに剛性を付与することが有利なこともある。
【0035】
通常、インサートはポリビニルブチラール(すなわちPVB)の層を少なくとも1つ含む。
【0036】
本発明による積層グレージングは、自動車用グレージング、特にフロントガラスを構成するのが有利である。積層グレージングの構成シートは、ポリマーインサートとともに集成して完成製品を作製する前に一緒に曲げ加工される。
【実施例】
【0037】
以下の例で本発明を説明するが、これらはその範囲を限定するものではない。
【0038】
下記の表は、5種の異なるガラスの化学組成を示している。
・組成C1: ケイ素−ナトリウム−カルシウムタイプの標準的な透明ガラス
・組成C2: ホウケイ酸塩タイプのガラス
・組成C3: アルミノケイ酸ナトリウムタイプのガラス
・組成C4: 従来技術による(国際公開第2012/177426号に記載されているような)化学強化したアルミノケイ酸塩タイプのガラス
・組成C5: アルカリ金属を含まないホウケイ酸塩タイプのガラス
【0039】
【表1】
【0040】
組成C1〜C5のガラスの温度Tpを表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
1.6mm厚の組成C3の外側ガラスシートと、0.76mm厚のPVBインサートと、0.55mm厚の組成C1の内側ガラスシートとを使用して、本発明による積層グレージングを製造する。これら2つのガラスシートの温度Tpの差は5℃であり、これら2つのシートを同時に曲げ加工する。
【0043】
組成C3のガラスシートは特に、焼戻し処理によって化学強化することができる。化学組成C3の化学強化ガラスシートをケイ素−ナトリウム−カルシウムガラスの薄い内側ガラスシートとともに集成することが、2枚のガラスシートを同時に曲げ加工することができる、良好な機械的強度を備えた小さい厚さの積層グレージングを得るのを可能にする。
【0044】
比較のために、1mm厚の組成C4の外側ガラスシートを、0.76mmのPVBインサート及び組成C1の内側ガラスシートとともに集成することによって、積層グレージングを作製する。機械的な観点から言えば、強度試験は許容範囲内であり、外側ガラスは化学強化される。他方で、これら2つのガラスシート間の温度Tpの差は91℃であり、これら2つのガラスシートは同時に曲げ加工することができない。
【0045】
飛散した石に対する種々の積層グレージングの耐性を比較するためには、圧子押し込み試験(「サルバカン(Sarbacane)」試験と呼ばれる)を行う。この試験は、荷重(重量3.2g)をかけたビッカース・ダイヤモンド圧子を、軟質ゴムのフレームに保持された200×200mmの大きさの積層グレージングのプレートの外側面上にいろいろな高さ(100〜2000mm)から落すものである。軟質のフレームが、圧子が衝突する際に積層グレージングが変形するのを可能にする。こうして、外側ガラスシート上への衝突(100μmと150μmの間の衝突深さ)後に、顕微鏡を用いた検査で星型の亀裂が見えるようになるまでの、あるいはその最大サイズが10mmを超えるまでの落下高さを測定する。高さを圧子の各落下の間で100mmずつ増加させ、そして亀裂が観測される最初の高さを書き留める。各積層グレージングを、9つの異なる衝突点で試験する。以下の例において示す落下高さの値は、9つの亀裂発生高さの値を平均したものに相当する。亀裂の検出は、ビッカース圧子の落下後速やかに行う。
【0046】
1.1mm厚の組成C2の外側ガラスシートと、0.76mmのPVBインサートと、0.55mm厚の組成C1の内側ガラスシートとを含む積層グレージングを作製する。この積層グレージングについて圧子押し込み試験(「サルバカン」試験)を実施し、測定された平均落下高さは1918mmである。比較のために、それぞれの厚さが外側シートでは1.1mm、内側シートでは0.55mmの、組成C1の2枚のガラスシートからなる積層グレージングに対して同じ試験を実施することにより測定された平均落下高さは989mmである。本発明による積層グレージングの機械的強度は対象とする用途に対して申し分のないものである。さらに、2枚のガラスシートの温度Tpの差は55℃であり、これら2枚のガラスシートは同時に曲げ加工される。
【0047】
0.7mm厚の組成C5の外側ガラスシートと、0.76mmのPVBインサートと、0.7mm厚の組成C1の内側ガラスシートとを含む積層グレージングを作製する。この積層グレージングについて圧子押し込み試験(「サルバカン」試験)を実施し、測定された平均落下高さは1960mmである。比較のために、それぞれの厚さが外側シートでは0.7mm、内側シートでは0.7mmの、組成C1の2枚のガラスシートからなる積層グレージングに対して同じ試験を実施することにより測定された平均落下高さは633mmである。積層グレージングの機械的強度は対象とする用途に対して申し分のないものである。しかしながら、2枚のガラスシートの温度Tpの差は211℃であり、これら2枚のガラスシートは同時に曲げ加工することができない。この集成体の機械的強度は求められる基準を満たすが、しかし2枚のガラスシートの化学組成が異なっており、また粘性挙動も著しく異なっているので、これらの2枚のシートを一緒に曲げ加工することは不可能である。
本発明の態様としては、以下を挙げることができる:
《態様1》
少なくとも1枚の外側ガラスシートと、内側ガラスシートと、これら2枚のガラスシートの間に位置するポリマーインサートとを含む積層グレージングであって、
内側シートの厚さが1.5mm以下であり、
外側ガラスシートが内側シートの化学組成とは異なる化学組成のガラスシートであり、
温度Tp1と温度Tp2との差が80℃未満であり、
温度Tp1は外側ガラスシートの上限アニーリング温度と軟化点との平均として定義され、温度Tp2は内側ガラスシートの上限アニーリング温度と軟化点との平均として定義され、温度Tpを定義する一般式は、
Tp=(T軟化+Tアニーリング)/2
であり、
上限アニーリング温度はガラスの粘度が1013ポアズであるときの温度に相当し、軟化点はガラスの粘度が107.6ポアズであるときの温度に相当する、
積層グレージング。
《態様2》
温度Tp1と温度Tp2との差が70℃未満、好ましくは60℃未満であることを特徴とする、態様1に記載のグレージング。
《態様3》
温度Tp1と温度Tp2との差が正であることを特徴とする、態様1又は2に記載のグレージング。
《態様4》
外側ガラスシートの厚さが2.1mm以下、好ましくは1.6mm以下であることを特徴とする、態様1から3のうちの1つに記載のグレージング。
《態様5》
ポリマーインサートが、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及びエチレン酢酸ビニル(EVA)から選択された熱可塑性物質、又はイオノマー樹脂の、1つ又は2つ以上の層を含むことを特徴とする、態様1から4のうちの1つに記載のグレージング。
《態様6》
ポリビニルブチラールから作られた少なくとも1つの層を含むことを特徴とする、態様5に記載のグレージング。
《態様7》
外側ガラスシートがホウケイ酸塩タイプの化学組成を有することを特徴とする、態様1から6のうちの1つに記載のグレージング。
《態様8》
外側ガラスシートが、
SiO2 75〜85%
Al23 2〜3%
23 10〜15%
Na2O+K2O 3〜7%
を含むことを特徴とする、態様7に記載のグレージング。
《態様9》
外側ガラスシートがアルミノケイ酸ナトリウムタイプの化学組成を有することを特徴とする、態様1から6のうちの1つに記載のグレージング。
《態様10》
外側ガラスシートが、
SiO2 55〜71%
Al23 2〜15%、好ましくは4〜15%
Na2O 9〜18%
MgO 2〜11%
2O 1〜15%
23 0〜5%
CaO 0〜5%
SnO2 0〜5%
を含むことを特徴とする、態様9に記載のグレージング。
《態様11》
内側ガラスシートの厚さが1.1mm以下、好ましくは1mm未満であることを特徴とする、態様1から10のうちの1つに記載のグレージング。
《態様12》
内側シートがケイ素−ナトリウム−カルシウムタイプの組成を有することを特徴とする、態様1から11のうちの1つに記載のグレージング。
《態様13》
自動車用ガラス、特にフロントガラスを構成することを特徴とする、態様1から12のうちの1つに記載のグレージング。