特許第6646589号(P6646589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6646589炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩の調製方法及びその使用
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  • 特許6646589-炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩の調製方法及びその使用 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646589
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩の調製方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20200203BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20200203BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   C01B25/45 Z
   H01M4/58
   H01M4/36 C
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-565675(P2016-565675)
(86)(22)【出願日】2015年5月6日
(65)【公表番号】特表2017-514781(P2017-514781A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(86)【国際出願番号】GB2015051317
(87)【国際公開番号】WO2015170084
(87)【国際公開日】20151112
【審査請求日】2018年4月19日
(31)【優先権主張番号】14001612.2
(32)【優先日】2014年5月7日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】トラン, ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンドリッヒ, ゲノフェーファ
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−123909(JP,A)
【文献】 特開2009−302044(JP,A)
【文献】 特開2013−089393(JP,A)
【文献】 特開2010−251302(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101826617(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103359701(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第101420034(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/45
H01M 4/58−4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素被覆したリチウム金属リン酸塩の調製方法であって、リチウム金属リン酸塩は、式
Li0.9+xMn1−yPO
[式中、
MはFe、Co、Ni、Mg、Zn、Ti、Ca、Sr、Ba、Al、Zrの群のうちの少なくとも1つの元素であり、
0≦x≦0.2であり、
0≦y≦1.0である]
を有し、前記方法は、以下の工程:
a)本質的に水性の媒体中、少なくとも1つのリチウム源、存在する場合には少なくとも1つのM源、存在する場合には少なくとも1つのマンガン源、及び、少なくとも1つのリン源からなる群より選択される少なくとも1つの出発材料化合物を分散又は溶解し、出発材料の分散液又は溶液を得て、出発材料の分散液又は溶液を加熱する工程;
b)少なくとも1つのリチウム源、存在する場合には少なくとも1つのM源、存在する場合には少なくとも1つのマンガン源、及び、少なくとも1つのリン源からなる群より選択される残りの出発材料化合物であって、工程a)で得られた出発材料の分散液又は溶液中には存在していない残りの出発材料化合物を、工程a)で得られた出発材料の分散液又は溶液に加えて、前駆体混合物を提供する工程;
c)少なくとも1つの導電性材料又は導電性材料の少なくとも1つの前駆体の存在下、工程b)で得られた前駆体混合物を少なくとも1つの湿式粉砕ステップに供し、湿式粉砕された懸濁液を得る工程;
d)工程c)で得られた湿式粉砕された懸濁液を乾燥して固体化合物を得る工程;及び
e)工程d)で得られた固体化合物を加熱処理する工程
を含む方法。
【請求項2】
工程a)で得られた出発材料の分散液又は溶液が50℃から100℃の間の温度に加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)で得られた出発材料の分散液又は溶液が80℃から100℃の間の温度に加熱される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
残りの出発材料化合物が、出発材料の分散液又は溶液に加えられる前に、本質的に水性の媒体中に分散又は溶解される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
残りの出発材料化合物を含む本質的に水性の媒体が50℃から100℃の間の温度に加熱される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程b)の間、温度が50℃から100℃の間で維持される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
工程b)の間、温度が80℃から100℃の間で維持される、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
残りの出発材料化合物がすべて同時に、出発材料の分散液又は溶液に添加される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも2種類の残りの出発材料化合物の、出発材料の分散液又は溶液への逐次添加が存在する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程b)における添加が1から3時間の期間にわたって行われる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
炭素被覆したLi0.9+xFePOの調製のための請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
炭素被覆したLi0.9+xMnPOの調製のための請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
炭素被覆したLi0.9+xFe0.5Mn0.5POの調製のための請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
炭素被覆したLi0.9+xFe0.34Mn0.66POの調製のための請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載される炭素被覆したリチウム金属リン酸塩を調整するための方法を含む、リチウムイオン二次電池のカソードの調製するための方法
【請求項16】
アノード、カソード及び電解質を含むリチウムイオン二次電池を調製するための方法であって、請求項1から14のいずれか一項に記載される炭素被覆したリチウム金属リン酸塩を調製するための方法を含む、方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素を含有する、炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩の調製方法及びそのリチウムイオン二次電池におけるカソード材料としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池における有望なカソード材料として、オリビン構造を有するリチウム金属リン酸塩が登場している。スピネル又は層状酸化物をベースとした他のリチウム化合物と比較した、リチウム金属リン酸塩の利点は、電池の取り扱い及び動作の間のそれらの環境への優しさ及び安全性である。
【0003】
純粋なリチウム鉄リン酸塩の乏しい電気化学的性能は、粒子を炭素で被覆することによって改善された。
【0004】
リチウム鉄リン酸塩の不利な点は、Li/Liに対して3.7Vの平均電位を有する従来型の酸化物化学とは対照的に、Li/Liに対して3.4Vでの平坦な電位曲線を有する、より低いFe3+/Fe2+レドックス対にある。Mn3+/Mn2+レドックス対はLi/Liに対して4.1Vでの平坦な電位曲線を生じることから、平均電圧に関してリチウム金属リン酸塩の電気化学的特性を改善するためには、リチウム鉄リン酸塩の結晶構造における鉄をマンガンで完全に置換したくなる。しかしながら、実際の例のほとんどにおいて、4.1Vでの全容量は、鉄が共存しない純粋なリチウムマンガンリン酸塩では達成されない。
【0005】
溶融プロセス、水熱プロセス及び固相プロセスは、リチウム金属リン酸塩の調製のための最も一般的な合成経路である。
【0006】
国際公開第2005062404号(A1)は、非反応性の又は部分的な還元雰囲気下、約1000℃の温度で金属化合物、リチウム化合物及びリン酸塩化合物を含む出発材料を溶融することによるリチウム金属リン酸塩の溶融調製方法について開示する。
【0007】
欧州特許第1682446号(B1)は、100℃から250℃の間の温度及び1から40barの圧力での水熱条件下、Li源、少なくとも1つのM源(MはFe、Mn、Co、Niでありうる)及び少なくとも1つのPO源の反応を通じたリチウム金属リン酸塩の調製について開示している。加熱前に導電性材料を添加することについても記載されている。
【0008】
米国特許第5910382号(C1)及び米国特許第6514640号(C1)は、LiMPOの調製のための固相合成経路について開示している。Li源、M源(MはFe、Mn、Co、Niでありうる)及びPO源を含む出発材料を混合し、300℃から350℃の温度でか焼し、次いでアルゴン中で約800℃に加熱する。
【0009】
欧州特許出願公開第2458666号(A1)は、カソード材料としてのナノ粒子LiMPOについて開示しており、ここでMはMn、Fe、Co及びNiからなる群のうち少なくとも1つの金属から選択される。ナノ粒子LiMPOは、例えば固相合成経路などの周知の方法によって、又はLiMPOの前駆体物質から調製されたLiMPOから得られる。開示の方法は、LiMPO又はそれらの前駆体物質を炭素前駆体と周囲温度で混合し、安定化剤を添加し、混合物を湿式粉砕し、得られた混合物を乾燥及びか焼することを含む。
【発明の概要】
【0010】
先行技術の方法の不利な点としては、不定比性の物質が得られること、反応の不完全性、及び得られた物質中の不純物の残存が挙げられる。
【0011】
したがって、本発明に従った炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩が、二次電池における電極活物質として使用される場合に、先行技術の物質より良好な電気化学的性能とはいかないまでも同様の性能を示す、炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩を製造するための代替的な方法を提供することが本発明の目的である。さらには、例えばプロセスの間に廃水が生成されないという理由から、容易に実施できる、合成ステップが少ない、炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩の調製方法を提供することが本発明の目的である。その上、原材料のコストはより低くなり、1モルの金属あたりわずか1モルのリチウムしか使用されず、したがって低コストの方法が提供される。
【0012】
本目的は、炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩の調製方法によって達成され、ここで、リチウム遷移金属リン酸塩は式
Li0.9+xMn1−yPO
[式中、
Mは、Fe、Co、Ni、Mg、Zn、Ti、Ca、Sr、Ba、Al、Zrの群の少なくとも1つの元素であり、
0≦x≦0.2であり、
0≦y≦1.0である]
を有し、前記方法は、以下の工程:
a)本質的に水性の媒体中、少なくとも1つのリチウム源、存在する場合には少なくとも1つのM源、存在する場合には少なくとも1つのマンガン源、及び、少なくとも1つのリン源からなる群より選択される少なくとも1つの出発材料化合物を分散又は溶解し、出発材料の分散液又は溶液を得て、出発材料の分散液又は溶液を加熱する工程;
b)少なくとも1つのリチウム源、存在する場合には少なくとも1つのM源、存在する場合には少なくとも1つのマンガン源、及び、少なくとも1つのリン源からなる群より選択される残りの出発材料化合物であって、工程a)で得られた出発材料の分散液又は溶液中には存在していない残りの出発材料化合物を、工程a)で得られた出発材料の分散液又は溶液に加えて、前駆体混合物を提供する工程;
c)少なくとも1つの導電性材料又は導電性材料の少なくとも1つの前駆体の存在下、工程b)で得られた前駆体混合物を少なくとも1つの湿式粉砕ステップに供し、湿式粉砕された懸濁液を得る工程;
d)工程c)で得られた湿式粉砕された懸濁液を乾燥して固体化合物を得る工程;及び
e)工程d)で得られた固体化合物を加熱処理する工程を含む。
【0013】
本発明はさらに、本発明の方法によって得られた炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩を提供する。
【0014】
本発明はさらに、本発明の方法によって調製された炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩の、リチウムイオン二次電池のカソードの調製のための使用を提供する。
【0015】
本発明はさらに、アノード、カソード及び電解質を含むリチウムイオン二次電池を提供し、ここでカソードは本発明に従った方法によって製造された炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に従ったリチウム鉄マンガンリン酸塩を含むカソードの放電性能。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい及び/又は任意選択的な特徴が今ここに提示される。文脈上別異に解することを必要としない限り、本発明の任意の態様を本発明の任意の他の態様と組み合わせてもよい。文脈上別異に解することを必要としない限り、任意の態様の好ましい又は任意選択的な特徴のいずれかを、単独で又は組合せで、本発明の任意の態様と組み合わせてもよい。
【0018】
本発明は、炭素被覆したLi0.9+xFePO(すなわちy=1)の調製方法を提供する。
【0019】
本発明はさらに、炭素被覆したLi0.9+xMnPO(すなわちy=0)の調製方法を提供する。
【0020】
本発明はさらに、炭素被覆したLi0.9+xFe0.5Mn0.5PO(すなわちy=0.5)の調製方法を提供する。
【0021】
本発明はさらに、炭素被覆したLi0.9+xFe0.34Mn0.66PO4(すなわちy=0.34)の調製方法を提供する。
【0022】
驚くべきことに、残りの出発材料化合物の添加の前に、少なくとも1つの出発材料化合物を加熱することが、反応の完全性などの改善された方法を提供することが見出された。
【0023】
さらには、本発明に従った処理条件は、出発材料又はそれらの混合物の完全な反応を生じ、かつ、得られた生成物内における相不純物の形成を回避しうる。
【0024】
工程a)
本発明に従った方法の工程a)では、少なくとも1つの出発材料化合物は、本質的に水性の媒体に分散又は溶解され、加熱される。少なくとも1つの出発材料は、少なくとも1つのリチウム源;少なくとも1つのM源(存在する場合);少なくとも1つのマンガン源(存在する場合);及び少なくとも1つのリン源からなる群より選択される。
【0025】
少なくとも1つのリチウム源は、好ましくは、LiCO、LiOH、LiOH・HO、LiO、LiCl、LiHPO及び/又はLiPO又はそれらの混合物からなる群より選択される。
【0026】
Mが存在する場合(MはFe、Co、Ni、Mg、Zn、Ti、Ca、Sr、Ba、Al、Zrから選択される)、少なくとも1つのM源は、好ましくは、金属塩化物、金属水酸化物、有機金属塩(metal organyl salts)、例えばシュウ酸金属塩、クエン酸金属塩、酢酸金属塩などのカルボン酸金属塩及び炭酸金属塩又はそれらの混合物からなる群より選択される。本発明の1つの好ましい実施態様では、M源は酸化状態+2のFeを含む。
【0027】
マンガンが存在する場合、少なくとも1つのマンガン源は、好ましくは、酸化状態+2、+3又は+4のマンガンを含む、MnCO、MnO及びMnC・2HO又はそれらの混合物から選択される。本発明の1つの好ましい実施態様では、マンガン源はMnCOを含む。
【0028】
少なくとも1つのリン源は、HPO、金属リン酸塩、金属水素リン酸塩、金属二水素リン酸塩又はそれらの混合物から選択される。
【0029】
少なくとも1つの出発材料化合物は、本質的に水性の媒体に分散又は溶解されて、出発材料の分散液又は溶液をもたらす。「本質的に水性の媒体」とは、60%超、75%超、90%超など、50%超の水を含む媒体を意味する。非水性成分は、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)又はエタノールなどのアルコールのような水と相溶性の任意の成分でありうる。
【0030】
適切には、出発材料化合物は少なくとも1つのマンガン源又は少なくとも1つのM源を含む。
【0031】
あるいは、出発材料化合物は少なくとも1つのリチウム源又は少なくとも1つのリン源を含む。
【0032】
あるいは、2種類以上の出発材料化合物が混合物として提供され、本質的に水性の媒体に分散又は溶解される。例えば、少なくとも1つのリチウム源と少なくとも1つのリン酸源との混合物は、本質的に水性の媒体に分散又は溶解される。あるいは、2種類以上の任意の他の出発材料化合物は混合され、かつ、本質的に水性の媒体に分散又は溶解される。
【0033】
第1の実施態様では、出発材料の分散液又は溶液は、50℃から100℃の間の温度、好ましくは80℃から100℃の間の温度に加熱される。
【0034】
工程b)
工程b)では、工程a)で使用されておらず、かつ、出発材料の分散液又は溶液中に含まれていない、少なくとも1つのリチウム源、存在する場合には少なくとも1つのM源、存在する場合にはマンガン源、及び、リン源からなる群より選択される出発材料化合物(「残りの出発材料化合物」)が、工程a)で得られた出発材料の分散液又は溶液に添加されて、前駆体混合物を提供する。
【0035】
残りの出発材料化合物もまた、工程a)で得られた出発材料の分散液又は溶液に添加される前に、本質的に水性の媒体に分散又は溶解されてもよく、任意選択的に加熱(工程a)と同様の方式で)されてもよい。
【0036】
残りの出発材料化合物を含む分散液又は溶液が工程a)で得られた出発材料の分散液又は溶液に添加される前に加熱されない場合には、合わせた分散液又は溶液の温度が50℃から100℃の間、好適には80℃から100℃の間にとどまるような制御された方式で行われるべき添加。
【0037】
例えば、Mn源又はM源(例えばFe)は、本質的に水性の媒体に分散又は溶解され、加熱(例えば50℃から100℃の間の温度、好ましくは80℃から100℃の間の温度に加熱)されて出発材料の分散液又は溶液を与え(工程a))、Li源とリン源の混合物は、本質的に水性の媒体に分散又は溶解され、かつ任意選択的に加熱(例えば50℃から100℃の間の温度、好ましくは80℃から100℃の間の温度に加熱)され、かつ工程a)で得られた出発材料の分散液又は溶液に添加されて前駆体混合物をもたらす。
【0038】
工程b)における、1種以上の残りの出発材料化合物を工程a)から得られた出発材料の分散液又は溶液に添加して前駆体混合物を得る工程は、不連続的に(すなわち分割添加方式で)又は連続的に(すなわち間断のない流れとして)行われる。
【0039】
1つの実施態様では、残りの出発材料化合物のすべてが出発材料の分散液に同時に(すなわち一斉に)添加される。
【0040】
代替的な実施態様では、1種以上の(だが全てではない)残りの出発材料化合物を出発材料の分散液に加え;これらの残りの出発材料化合物の添加が完了したら、次に任意の他の残りの出発材料化合物が添加される(すなわち、少なくとも2つの残りの出発材料の逐次添加が存在する)。
【0041】
工程b)における添加の間、ガスの発生が見られる;本質的に、発生するガスは、出発材料化合物中に存在するガス発生原材料の酸性環境での反応に起因して、二酸化炭素である。典型的には、金属炭酸塩は、ガス発生につながる亜リン酸と反応する。用語「ガス発生原材料」又は「ガス発生下で反応する原材料」とは、本発明に従ったプロセス工程の間にガスを発生させることができる任意の原材料を意味する。適切なガス発生原材料としては、炭酸塩、シュウ酸塩及びカルボン酸塩が挙げられるがこれらに限定されない。ガスの発生の強度は、本質的に、選択される出発材料化合物、出発材料化合物又はそれらの混合物の添加順序、添加する速度及び添加の間の温度に応じて決まる。
【0042】
ガスの発生は典型的には発泡を伴う。したがって、本発明に従った方法のさらなる工程が行われる前に、前駆体混合物中のガスの発生を完了させることが好ましい。本発明に従った湿式粉砕工程(工程c))が行われる前にガスの発生が終了することが本発明の好ましい実施態様である。ガスの発生が終了しなかった場合には、ガスの形成は湿式粉砕工程、乾燥工程又は加熱処理の間にも再び開始されうる。後者のガス形成は、密度ムラ、多孔性のムラ及び/又は表面欠陥などといった望ましくない特性を伴った、凝集体を含む得られた製品をもたらす。
【0043】
出発材料化合物又はそれらの混合物の添加の順番は、ガスの発生に強い影響力を有する。Mn含有スラリーへのリン酸の添加又はリン酸とFe源の混合物の添加は強いガスの発生を生じるのに対し、逆順添加、すなわちリン酸へのMn源の添加はガスの穏やかな発生を生じることが観察されている。Mn含有スラリーへの又はMn源及びFe源を含む混合物への、結果的にLiHPOの溶液を生じるLi源とリン酸の混合物の添加は、非常に穏やかなガスの発生を示す。しかしながら、添加順序は本発明のキーとなる特徴ではなく、ガスの発生は、50℃から100℃の間の温度、好適には80℃から100℃に加熱してガスの発生の完了を確実にすることによって再開/改善されうる。
【0044】
さらには、出発材料化合物又はそれらの混合物の添加速度はガスの形成に影響を及ぼす。出発材料の分散溶液への残りの出発材料の添加は、好適には1から3時間にわたって行われ、その後、出発材料化合物の完全な反応及びガスの発生の完了を確実にするために、好適には少なくともさらに1時間の混合が行われる。
【0045】
工程c)
本発明によれば、前駆体混合物中の粒子の一次粒子径を低下させるため、及び一次粒子から形成される凝集体を破壊するために、工程b)の結果として得られた前駆体混合物は、湿式粉砕ステップに供される。一次粒子のD50値は200nmを超えないことが好ましい。本発明の一実施態様では、好ましいD50値は100nmを超えず、最も好ましいD50値は50nmを超えない。D50値は、ここでは、測定試料中の粒子の50体積%がそれと同じかそれより小さい粒径を有する値を与える。
【0046】
湿式粉砕工程は、本質的には、水性媒体中及び少なくとも1つの導電性材料又は導電性材料の少なくとも1つの前駆体の存在下で行われる。
【0047】
少なくとも1つの導電性材料又は導電性材料の少なくとも1つの前駆体は、好適には炭素源である。炭素源は炭素元素又は炭素前駆体から選択される。
【0048】
炭素元素としては、グラファイト、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維(VGCF)等が使用されうる。炭素元素源は、炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩の重量に対して、2−5重量%、好適には2−3重量%で添加される。
【0049】
炭素前駆体は、典型的には、加熱処理に晒されたときに炭化残渣へと分解する炭素含有化合物である。このような炭素含有化合物の代表的であるが非限定的な例は、例えばデンプン、マルトデキストリン、ゼラチン、ポリオール、糖(マンノース、フルクトース、スクロース、ラクトース、グルコース、ガラクトースなど)、ポリアクリル酸塩などの部分的に水溶性のポリマー、及びそれらの混合物である。炭素前駆体は、炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩生成物の重量に対して、7から15重量%の間、好適にはおよそ10重量%で添加される。理想的には、最終生成物中に2〜3重量%の炭素が存在し、かつ、炭素前駆体は分解されて炭素をもたらすことから、より大きい重量の前駆体が最終生成物中に2〜3重量%を与えることを要する。
【0050】
任意選択的に、少なくとも1つの液化剤を加えて、湿式粉砕の間に前駆体スラリーの粘度を調節してもよい。液化剤は水溶性であり、かつ、不活性雰囲気での加熱処理下で炭化可能であるべきである。適切な液化剤としては、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、シュウ酸、グリコール酸、1,2,3,4ブタンテトラカルボン酸、アミノプロパノール又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。適切な液化剤の組み合わせ、例えばクエン酸及びアミノプロパノールを使用することが好ましい。液化剤の量は、前駆体混合物の粘度に応じて決まる。粘度が高い場合には、湿式粉砕の目詰まりを防ぐために液化剤を加える必要がありうる。ガス処理反応が湿式粉砕の前に完了すればするほど、湿式粉砕の間に必要とされる液化剤は少なくなることが観察されている。液化剤又はそれらの混合物の量は、粉砕材料の重量に基づいて、通常、0.5から9.5重量%の間である。
【0051】
本発明のさらなる実施態様では、さらに液化剤を、湿式粉砕工程c)の間に不連続的に又は連続的に加えてもよい。
【0052】
粉砕装置は当業者に周知のボールミルから選択される。本発明に従った湿式粉砕工程の実施には、100から300μmの間の直径を有するビーズを有するボールミルが好ましい。破砕ビーズは、好適にはZrOでできている。粉砕区画及び粉砕ユニットは、摩耗及び/又は化学反応よる破砕材料の汚染を避けるために保護層で覆われる。好ましくは、保護層は、ポリウレタン又は、ジルコニア、窒化ケイ素又は炭化ケイ素のようなセラミック層でできているか、あるいはこれらを含む。前駆体スラリーに導入される粉砕エネルギーは、好ましくは2000kWh/tから3200kWh/tの間に設定され、ここで基準質量(t)とは前駆体スラリー中の固形物の質量のことを指す。導入されたエネルギーは熱を生じ、したがって前駆体スラリーを適切な冷却装置によって冷却する必要がある。
【0053】
本発明の任意選択的な実施態様では、必要に応じて、金属出発化合物中の金属Mの酸化状態を還元するために、還元剤が添加される。例えば、MがMnのときは、Mn源中のMn3+イオン又はMn4+イオンの含量を低くすることが好ましい。+2以外の酸化状態のMnの存在は、本発明の方法によって製造されるカソード活物質の電気化学的性能を悪化させる。適切な還元剤は、アスコルビン酸、シュウ酸、ギ酸、チオール、及びポリフェノールである。
【0054】
還元剤の添加はまた、本発明の工程a)、b)又はc)で行われてもよい。
【0055】
工程d)
湿式粉砕工程c)の後、得られた湿式粉砕された懸濁液の乾燥d)が行われる。
【0056】
本発明に従った乾燥工程d)は、当業者に既知の、かつ水及び溶媒のそれぞれの除去に適した全ての方法によって行われうる。本発明に従った好ましい乾燥方法は、真空オーブン内での乾燥又は噴霧乾燥である。これは、任意の市販の装置、例えば通常の並流噴霧乾燥器によって行うことができる。噴霧乾燥は、流入乾燥用ガスで120℃から500℃の間の温度で行われる。
【0057】
工程e)
工程d)で得られた乾燥固形化合物は加熱処理に供される。
【0058】
本発明に従った加熱処理工程e)は、保護ガス下、好ましくは窒素下で行われるが、他のすべての既知の保護ガス並びにそれらの混合物も使用することができる。本方法は不連続的に又は連続的に行われうる。当業者に知られた加熱処理のための任意の装置が適している。本発明に従った好ましい実施態様は、連続的に動作される回転炉である。加熱処理は、500℃から850℃の間の温度で、典型的には約1時間かけて行われる熱分解である。
【0059】
本発明はまた、本発明に従った方法によって得られた炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩にも関する。
【0060】
本発明はまた、本発明に従った方法によって調製された炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩の、電気化学的活物質としての、リチウムイオン二次電池のカソードの調製のための使用にも関する。カソードは、通常、活物質、導電剤及び結合剤を含む。典型的には、結合剤の含量は1から10重量%の間、好ましくは1から3重量%の間である。
【0061】
本発明はまた、アノード、カソード及び電解質を含むリチウムイオン二次電池にも関し、ここでカソードは本発明に従った方法によって調製された炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩を含む。
【0062】
本発明は、本発明を例示することが意図されているのであって本発明を限定することは意図されていない、以下の実施例に関してさらに説明される。
【実施例】
【0063】
実施例1
LiMn0,66Fe0,34POの調製
第1ビーカー内で、197.60gのMnCO(工業品グレード、Honeywell)を265gの蒸留水中に分散させた。得られた懸濁液を80℃から100℃の間の温度まで加熱し、30分間、均質化した。第2ビーカー内で、109.82gのLiOH・HO(SQM Solar S.A.)を400gの蒸留水中に分散させて、均質化した。293.42gのHPO(85%、分析グレード、Merck)を第2ビーカー内の得られた分散液に加え、これにより発熱反応を生じ、清澄溶液を生じた。第2ビーカーの内容物(温度<30℃を有する)を、第1ビーカー(80℃から100℃の間の温度を有する)内に1時間かけて導入した。生じた懸濁液を80℃から100℃の間の温度に加熱し、60分間その温度範囲を維持し、その間、粘度が増加した。得られた懸濁液が約80℃の温度に達したときにガスの生成が始まった。155.66gのFeC・2HO(工業品グレード、Dr.Paul Lohmann)をこの懸濁液に加えると、粘度が低下した。得られたスラリーをさらに80℃から100℃の間の温度に60分間加熱した後は、さらなるガスの発生は見られなかった。39.60gのラクトース(EGESIE GmbH)を加えた。スラリーをDispermat SL 100型の湿式粉砕での粉砕、及び真空オーブン内で100℃から120℃の範囲の温度で一晩の乾燥に供し、次に、N下、約700℃で1時間か焼(3時間の間、700℃まで加熱し、その温度を1時間保持)した。
【0064】
実施例2
LiMnPOの調製
第1ビーカー内で、308.14gのMnCO(工業品グレード、Honeywell)を615.73gの蒸留水中に分散させた。得られた懸濁液を80℃から100℃の間の温度に加熱した。第2ビーカー内で、109.82gのLiOH・HO(SQM Solar S.A.)を300gの蒸留水中に分散させて、約40℃まで加熱し、均質化した。301.72gのHPO(85%、分析グレード、Merck)を第2ビーカー内の得られた分散液に加え、これにより発熱反応を生じた。第2ビーカーの内容物を第1ビーカー(80℃から100℃の間の温度を有する)内に、1時間かけて注いだ。生じた懸濁液を80℃から100℃の間の温度に加熱し、その温度範囲で4時間維持した。得られた懸濁液が約80℃の温度に達したときに、ガスの生成が始まった。さらなるガスの発生が見られなくなった後、39.60gのラクトース(EGESIE GmbH)をスラリーに加え、次にこれをDispermat SL 100型の湿式粉砕での粉砕、及び真空オーブン内で100℃から120℃の範囲の温度で一晩の乾燥に供し、次に、N下、約700℃で1時間か焼(3時間の間、700℃まで加熱し、その温度を1時間保持)した。
【0065】
実施例3
LiFePOの調製
第1ビーカー内で、765.06gの蒸留水を80℃から100℃の間の温度に加熱した。470.80gのFeC・2HO(工業品グレード、Dr.Paul Lohmann)を、FeC・2HOの添加の間は80℃から100℃の間の温度を維持しつつ、熱した蒸留水中に分散させた。第2ビーカー内で、109.82gのLiOH・HO(SQM Solar S.A.)を300gの蒸留水中に分散させて、約40℃まで加熱し、均質化した。301.72gのHPO(85%、分析グレード、Merck)を均質化した分散液に加え、これにより発熱反応を生じた。第2ビーカーの内容物を第1ビーカー(80℃から100℃の間の温度を有する)内に、1時間かけて注いだ。生じた懸濁液を80℃から100℃の間の温度に加熱し、その温度範囲で4時間維持した。得られた懸濁液が約80℃の温度に達したときに、ガスの生成が始まった。さらなるガスの発生が見られなくなった後、39.60gのラクトース(EGESIE GmbH)を加えた。スラリーをDispermat SL 100型の湿式粉砕での粉砕、及び真空オーブン内で100℃から120℃の範囲の温度で一晩の乾燥に供し、次に、N下、約700℃で1時間か焼(3時間の間、700℃まで加熱し、その温度を1時間保持)した。
【0066】
実施例4
LiMn0,66Fe0,34POの調製
第1ビーカー内で、197.60gのMnCO(工業品グレード、Honeywell)と2.7gのL−アスコルビン酸(Sigma Aldrich)を265gの蒸留水中に分散させた。得られた懸濁液を80℃から100℃の間の温度に加熱し、30分間、均質化した。第2ビーカー内で、109.82gのLiOH・HO(SQM Solar S.A.)を400gの蒸留水中に分散させて、均質化した。293.42gのHPO(85%、分析グレード、Merck)を加え、これにより発熱反応を生じ、清澄溶液を生じた。温度<30℃を有する第2ビーカーの内容物を第1ビーカー(80℃から100℃の間の温度を有する)内に1時間かけて導入した。生じた懸濁液を80℃から100℃の間の温度に加熱し、60分間その温度範囲を維持し、その間、粘度が増加した。得られた懸濁液が約80℃の温度に達したときにガスの生成が始まった。155.66gのFeC・2HO(工業品グレード、Dr.Paul Lohmann)をこの懸濁液に加えると、粘度が低下した。得られたスラリーを60分間、80℃から100℃の間の温度にさらに加熱した後は、さらなるガスの発生は見られなかった。39.60gの ラクトース(EGESIE GmbH)を加えた。スラリーをDispermat SL 100型の湿式粉砕での粉砕、及び真空オーブン内で100℃から120℃の範囲の温度で一晩の乾燥に供し、次に、N2下、約700℃で1時間か焼(3時間の間、700℃まで加熱し、その温度を1時間保持)した。
【0067】
電気化学的性能
例えばAnderson et al., Electrochemical and Solid State Letters, 3, (2), 2000, p.66-68に開示されるような薄膜電極を生産した。電極組成物は、90重量部の活物質、5重量部のスーパーPカーボン及び結合剤として5重量部のポリフッ化ビニリデンからなる。電極活物質ローディングはおよそ5mg/cmであった。
【0068】
活物質をN−メチルピロリドン中で結合剤と混合し、コーティングドクターブレード法によってプライマー前処理したアルミニウム箔に適用し、真空下、105℃でN−メチルピロリドンを蒸発させた。アルミニウム箔のプライマーは、特に電極の活物質含量が85重量%を上回る場合に活物質の接着性を向上させる、薄い炭素被覆からなる。電極を切り出し(13mm)、3トンの圧力を使用して1分間、押圧した。真空下、120℃で電極を一晩乾燥させて、アルゴンを充填したグローブ・ボックス内で組み立て、リチウム金属に対して電気化学的に測定した。電気化学的測定は、電解質としてLP30(Merck、Darmstadt)を使用して行った(炭酸エチレン:炭酸ジメチルは1:1である;1M LiPF)。試験手順を定電流定電圧モードで行った;すなわち、第1のサイクルの間はC/10の放電率及びその後のサイクルの間は1Cから20Cまで増加するC放電率でのサイクルで行った。定電流での各充電工程の後、電気化学セルを定電圧で、電流がC/50になるまでさらに充電した。
【0069】
図1は、カソード活物質としての実施例1に従ったLiMn0,66Fe0,34POを使用する電極の電気化学的性能を示している。調製された電極は、周囲温度で0.1Cの充電速度で135mAh/gの比容量を有している。このことより、本発明に従った炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩を用いて調製された電極の電気化学的性能は、最先端の材料に匹敵する。
【0070】
本発明は、低コストの原材料を使用し、かつ廃水のないことにより、経済的に優れた、リチウムイオン電池用の炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法を提供する。本発明に従った炭素被覆したリチウム遷移金属リン酸塩を用いて調製された電極は、固相経路及び湿式化学経路によって合成された最先端の材料より良好であるとは言わないまでも少なくとも同等の電気化学的特性を示す。
図1