【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、とりわけ、焼きなまし、曲げ加工及び/又は焼き戻しなどの高温熱処理を受ける必要がある材料に関する。これらの高温熱処理は銀層内での変性を生じさせ、特に欠陥を発生させる。これらの欠陥の一部は孔又はドーム形態で存在する。
【0006】
「孔」タイプの欠陥は銀のない領域の出現に対応し、すなわち銀層の部分的ディウェッティングに対応する。熱処理の後に、銀層は銀のない領域に対応する円形又は樹形状の孔を含む。顕微鏡で観察される銀層は平坦なように見える。銀のある領域で得られるこの層の厚さはあまり大きく変わらない。
【0007】
「ドーム」タイプの欠陥は「大きい」銀粒子の存在に対応し、該銀粒子は銀層内の厚さの変動を生じさせ、すなわち厚くなった領域と薄くなった領域を生じさせる。厚さの変動は点状であることができ、すなわちこれらの大きい粒子のところでのみ観察される。この場合、銀層は、これらの大きい粒子以外では均一な厚さを有することができる。厚さの変動は、これらの大きい粒子の周辺での銀層の再配置の結果として、より広範囲に及ぶことがある。「ドーム」タイプのこれらの欠陥は「孔」タイプの欠陥の中間状態には相当しない。
【0008】
出願人は、欠陥すなわち孔又はドームの発生及びタイプは反射防止コーティングを構成する誘電体層の性質に依存することを見いだした。例えば、反射防止コーティング中の酸化スズ亜鉛をベースとする誘電体層の存在は、ドームタイプの欠陥の形成を促進する。
【0009】
銀をベースとする機能性金属層の品質を改良するために、銀層の濡れ及び核形成を促進することを目的とする安定化機能を有する誘電体層を含む反射防止コーティングを使用することが知られている。結晶性酸化亜鉛をベースとする誘電体層が、特にこの目的で使用される。これは、陰極スパッタリング法により被着した酸化亜鉛は追加の熱処理を必要とせずに結晶化するからである。酸化亜鉛をベースとする層は、例えば、銀層のためのエピタキシャル成長層として作用することができる。
【0010】
しかしながら、銀層の下にありそして銀層と接触している結晶性酸化亜鉛のこれらの層は2つの欠点を示す。
【0011】
第一に、酸化亜鉛をベースとする層と銀層との間の密着力は小さい。結果的に、これらの2つの層の一連の配列を含むすべてのスタックは機械的に損傷を受ける危険があり、このことは高温熱処理を受けるときになおさらである。
【0012】
第二に、酸化亜鉛をベースとする層の上でエピタキシーにより結晶化した銀の層は、基材の表面に対して平行な{111}等位面を示す銀の単結晶粒子を主として含む。このことはブラッグ−ブレンターノX線回折分析により実証されうる。面心立方構造の形態で結晶化する銀の場合には、{111}等位面は特に緻密である。さらに、結晶性酸化亜鉛の単位格子パラメータと銀の単位格子パラメータの間には、特に11%という大きな差異が存在する。酸化亜鉛粒子上の単結晶銀粒子のエピタキシーによる成長は、転位の発生をもたらす。これらの転位は非常に多くの点欠陥となり、これは抵抗率を損ないかねない。
【0013】
銀をベースとする機能性金属層の品質を向上させるために、ブロッキング層を使用することも知られており、該ブロッキング層の機能は反射防止コーティングの被着に関連する又は熱処理に関連する可能性のある損傷を防止することにより保護することである。前記ブロッキング層の特に性質、数及び配置を変化させる多くの可能性が提案されている。
【0014】
例えば、1つのブロッキング層又は複数のブロッキング層から構成されるブロッキングコーティングを使用することが可能である。これらのブロッキング層又はコーティングは、機能層の上のみ、下のみ、又は上及び下の両方に位置することができる。
【0015】
ブロッキング層の性質及び厚さの選択は、機能層を構成している材料、機能層と接触して位置する反射防止コーティングを構成している材料、任意選択的な熱処理、及び所望の特性に依存する。
【0016】
スタックの複雑さそしてまた処理の多様性、及び所望の特性が、ブロッキング層の特性を各構成に適合させることを必要にする。
【0017】
従来から使用されているブロッキング層のうちで、ニオブNb、タンタルTa、チタンTi、クロムCr又はニッケルNiから選ばれる金属をベースとするブロッキング層、又はこれらの金属のうちの少なくとも2種から得られる合金をベースとする、特にニッケルとクロム(NiCr)の合金をベースとするブロッキング層を挙げることができる。
【0018】
ニッケルとクロムの合金をベースとするブロッキング下層の使用は、銀層に孔又はドームが生じるのを制限しながら、焼き戻しタイプの熱処理後に曇りが出現するのを制限することを可能にする。しかしながら、これらの層の存在は、スタックの放射率、吸収率を損ない、そして特に電子の散乱を促進することによって導電率を損なう。
【0019】
酸化チタンをベースとする厚いブロッキング下層の使用は、スタックの吸収率を有意に増加させることなく、焼き戻しタイプの熱処理後の曇りの出現を制限することを可能にする。
【0020】
しかしながら、これらのブロッキング層は、これらのブロッキング層が安定化層と銀層との間に挿入されると、酸化亜鉛の層などの銀の結晶化を促進することを目的とする安定化層の存在に関連する有益な効果を弱める。酸化亜鉛上での銀のエピタキシャル成長の場合には、どのようなブロッキング下層を使用しても、シート抵抗は常に損なわれたままとなる。
【0021】
本発明の目的は、特に銀層のスタックの残りの層への密着性を向上させることにより、向上した機械的強度を示すスタックにより被覆された基材を含む材料を開発することである。有利には、これらの特性は低い抵抗率を維持しながら得られるべきである。
【0022】
本発明の目的はまた、向上した機械的強度、改良された曇りに対する耐性、小さい吸収率及び小さい放射率を示す、熱処理を受けさせることが意図されたスタックにより被覆された基材を含む材料を開発することである。
【0023】
スタックが銀をベースとする機能性層においてドームタイプの欠陥を発生させかねない誘電体層を含む反射防止コーティングを含む場合であっても、有利な特性が得られるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
出願人は、銀層と直接接触している結晶性酸化ニッケルをベースとする薄層の存在することが本発明の有利な特性を得ることを可能にすることを見いだした。
【0025】
本発明の本質的な特徴の1つは、銀をベースとする機能性層を事前に結晶化された酸化ニッケルをベースとする層の上に被着させることに基づく。結晶性酸化ニッケルをベースとする薄層は、成長層として作用し、そして銀の結晶体を基材の表面に対し{200}等位面に沿って配向させる。
【0026】
本発明は、銀をベースとする少なくとも1つの機能性金属層及び少なくとも2つの反射防止コーティングを、各機能性金属層が2つの反射防止コーティングの間に配置されるように含み、各反射防止コーティングが少なくとも1つの誘電体層を含む薄層のスタックであり、任意選択的に磁場により支援される、陰極スパッタリングにより被着された薄層のスタックにより被覆された透明基材を含む材料を得るための方法であって、以下の一連の段階、すなわち、
(a)結晶性酸化ニッケルをベースとする少なくとも1つの薄層を含む反射防止コーティングを被着させる段階、次いで、
(b)結晶性酸化ニッケルをベースとする薄層の上にそれに接触して、銀をベースとする少なくとも1つの機能性金属層を被着させる段階、
を含む、薄層のスタックにより被覆された透明基材を含む材料を得るための方法に関する。
【0027】
本発明はまた、銀をベースとする少なくとも1つの機能性金属層及び少なくとも2つの反射防止コーティングを、各機能性金属層が2つの反射防止コーティングの間に配置されるように含み、各反射防止コーティングが少なくとも1つの誘電体層を含む薄層のスタックにより被覆された透明基材を含む材料であって、前記スタックが、基材の表面に対して平行な{200}等位面を有するように配向された複数の単結晶粒子を含む銀ベースの機能性金属層の下にそれと接触して位置している結晶性酸化ニッケルをベースとする層を少なくとも1つ含むことを特徴とする材料にも関する。
【0028】
この材料、すなわちスタックにより被覆された透明基材は、焼き戻し、焼きなまし又は曲げ加工タイプの高温熱処理を受けさせることが意図されたものでよい。
【0029】
本発明により結晶性酸化ニッケルをベースとする薄層を成長層として使用することは、高温熱処理後にドームタイプの欠陥が発生しかねないスタックにおいて特に有利である。
【0030】
このような薄層の使用はまた、放射率及び吸収率の変動が焼き戻し時に最小限でなければならずそして曇りのレベルが低くなければならない、焼き戻し可能なスタックにおいて特に有利である。
【0031】
酸化ニッケルをベースとする層の存在は、スタック中の銀層の密着性を増加させる。結晶性酸化ニッケルは、銀の結晶構造と類似の面心立方結晶構造を示す。結晶性酸化ニッケルの単位格子パラメータと銀の単位格子パラメータとの差異はわずかであり、具体的には2.2%未満である。結晶性酸化ニッケルをベースとする層の上でエピタキシーにより結晶化した銀の層は、基材の表面に平行な{200}等位面を示す単結晶銀粒子を主として含む。酸化亜鉛上の{111}の代わりに酸化ニッケル上の{200}等位面に沿った銀のこの組織は、密着性に関してより良好な結果が得られることに貢献しているように見える。
【0032】
さらに、単位格子パラメータのわずかの差異もまた、転位、すなわちスタックのシート抵抗に悪影響を及ぼしうる点欠陥の数を低減することに貢献しているように見える。
【0033】
結晶性酸化ニッケルをベースとする薄層の存在は、低いシート抵抗、特に酸化亜鉛をベースとする薄層上の銀の成長の場合に得られるシート抵抗と実質的に等しい、シート抵抗を得ることを可能にする。
【0034】
結晶性酸化ニッケルをベースとする薄層は、ブロッキング層が銀層と安定化層との間で使用される場合に観察されうるものとは対照的に、シート抵抗に悪影響を及ぼすことなく、より良好な熱安定性及びより良好な密着性を得ることを可能にする。
【0035】
結果的に、結晶性酸化亜鉛をベースとする成長層を完全に又は部分的に置き換えて結晶性酸化ニッケルをベースとする層を使用することは、スタックの電気特性に悪影響を及ぼすことなく、機械的及び化学的特性を向上させることを可能にする。
【0036】
銀ベースの機能性金属層と接触する結晶性酸化ニッケルをベースとする層の使用は、スタックの被覆基材が焼き戻しタイプの熱処理を受ける場合に、銀層におけるディウェッティング及びドームタイプの欠陥の出現を有意に防止することを可能にする。このように、本発明の解決策は、銀をベースとする機能性金属層の下にあるドームタイプの欠陥を生じさせうる誘電体層を含む反射防止コーティングを含むグレージングの場合に、特に好適である。
【0037】
一実施形態によると、基材の表面に平行な{200}等位面を有するように配向された複数の単結晶粒子を含む銀ベースの機能性金属層の下にある反射防止コーティングは、スズ及び亜鉛の酸化物をベースとする層から選ばれるドームタイプの欠陥を生じさせうる誘電体層を含む。
【0038】
本発明はまた、熱処理後に、優れた性能、特に曇り、可視領域における吸収率、放射率が低減すること、そしてまた完成したスタックの機械的強度を得ることを可能にする。これらの有利な結果は、具体的には、例えばニッケルとクロムとの合金をベースとするブロッキング層を含むスタックで、又はブロッキング層を含まないスタックで得られる結果との比較で観察される。
【0039】
酸化亜鉛とは対照的に、酸化ニッケルは、酸化亜鉛の層などの結晶性層の上に被着される場合を除いて、従来の陰極スパッタリングの被着条件下における低温条件下では、すなわち真空下に周囲温度では、結晶化しない。安定化層のスタックにおいて酸化ニッケル層の下に酸化亜鉛を組み合わせることは、酸化ニッケルの層を結晶化させ、次いで基材の表面に平行な{200}等位面を有するように配向された単結晶粒子を有する銀を結晶化させることを可能にする。
【0040】
結果的に、銀層の被着の前に酸化ニッケルをベースとする層を結晶化させるために、陰極スパッタリング被着プロセスを適合させることが必要である。
【0041】
酸化ニッケルの層の結晶化は、エピタキシャル成長により行うことができる。このために、結晶性酸化亜鉛をベースとする層などの誘電体層を、酸化ニッケルをベースとする層の下に被着させる。本発明による材料を得るための方法は、段階(a)の間に、
・結晶性酸化亜鉛をベースとする層などの、エピタキシーによる結晶化を誘発させることができる層を被着させ、次いで、
・酸化ニッケルをベースとする層を上にかつ接触して被着させる、
といったものである。
【0042】
この実施形態によると、基材の表面に平行である{200}等位面を有するように配向された複数の単結晶粒子を含む銀ベースの機能性層の下に位置する反射防止コーティングは、結晶性酸化ニッケルをベースとする層の下にそれと接触して位置する酸化亜鉛ベースの安定化機能を有する誘電体層を含む。
【0043】
結晶化段階はまた、レーザ処理などの結晶化熱処理の段階により行うこともできる。この場合には、酸化ニッケルをベースとする層を結晶性酸化亜鉛をベースとする層の上に被着させることを必要としない。
【0044】
しかしながら有利には、これらの2つの実施形態は組み合わされて、すなわち、銀層の被着の前に、酸化亜鉛ベースの層及び酸化ニッケルベースの層の一連の配列に対し結晶化熱処理を行うことが、シート抵抗及びスタックの密着性の点でさらにより並外れた結果を得ることを可能にする。
【0045】
本発明による材料を得るための方法は、段階(a)の間に、
・結晶性又は非結晶性酸化ニッケルをベースとする層を被着させ、次いで、
・結晶性又は非結晶性酸化ニッケルをベースとするこの薄層に結晶化熱処理を施してから、銀をベースとする機能性金属層を被着させる、
といったものである。
【0046】
スタックは、陰極スパッタリング、特に磁場により支援される陰極スパッタリング(マグネトロン法)により被着させる。スタックの各々の層を陰極スパッタリングにより被着させることができる。
【0047】
特に触れない限り、本書中で言及する厚さは物理的な厚さである。薄層は、0.1nmと100μmの間の厚さを有する層を意味するものと理解される。
【0048】
本書全体を通して、本発明による基材は水平に配置されるものと見なす。薄層のスタックは基材上に被着される。「…の上」及び「…の下」、「…より下」及び「…より上」との表現の意味はこの方向性に関して考えられる。特定の規定がなければ、「…の上」及び「…の下」との表現は2つの層及び/又はコーティングが互いに接触して配置されていることを必ずしも意味しない。層が別の層又はコーティングと「接触して」被着されることを明記している場合、これはこれらの2つの層の間に挿入された1以上の層が存在することはできないことを意味する。
【0049】
銀をベースとする機能性金属層は、該機能性層の重量に対して少なくとも95.0重量%、好ましくは少なくとも96.5重量%、なお好ましくは少なくとも98.0重量%の銀を含む。好ましくは、銀をベースとする機能性金属層は、銀をベースとする該機能性金属層の重量に対して1.0重量%未満の銀以外の金属を含む。
【0050】
銀をベースとする機能性層の厚さは、好ましさが増す順に、5〜20nm、8〜15nmである。
【0051】
銀をベースとする機能性金属層は、ブロッキング層と接触することができる。ブロッキング下層は、機能性層の下に配置されたブロッキング層に相当し、位置は基材に対して規定される。基材から反対側にある機能性層の上に配置されたブロッキング層は、ブロッキング上層として知られている。ブロッキング上層は、NiCr、NiCrN、NiCrO
x、NiO又はNbNをベースとする層から選ばれる。各ブロッキング上層又はブロッキング下層の厚さは、好ましくは、
・少なくとも0.5nm又は少なくとも0.8nm、及び/又は、
・最大で5.0nm又は最大で2.0nm、
である。
【0052】
本発明によると、結晶性酸化ニッケルをベースとする層はブロッキング下層の機能を提供することができる。結晶性酸化ニッケルをベースとする各層の厚さは、好ましくは、
・少なくとも0.5nm、少なくとも0.8nm、及び/又は0.8nmと5nmの間、
・最大で5.0nm、最大で3.0nm、又は最大で2.0nm、
である。
【0053】
反射防止コーティングの誘電体層は、下記の特徴を単独で又は組み合わせで有する。
・磁場により支援される陰極スパッタリングにより被着される。
・バリア機能を有する誘電体層及び/又は安定化機能を有する誘電体層から選ばれる。
・チタン、ケイ素、アルミニウム、スズ及び亜鉛から選ばれる1種以上の元素の酸化物又は窒化物から選ばれる。
・5nmを超え、好ましくは8nmと35nmの間の厚さを有する。
【0054】
安定化機能を有する誘電体層は、機能性層とこの層との界面を安定化させることができる材料から製作された層を意味するものと理解される。安定化機能を有する誘電体層は、好ましくは、結晶化酸化物をベースとし、特に酸化亜鉛をベースとし、場合によりアルミニウムなどの少なくとも1種の他の元素を用いてドープされる。安定化機能を有する1又は複数の誘電体層は、好ましくは酸化亜鉛の層である。
【0055】
安定化機能を有する1又は複数の誘電体層は、銀をベースとする少なくとも1つの機能性金属層又は銀をベースとする各機能性金属層の上及び/又は下に、それと直接接触するか又は酸化ニッケルの層により又はブロッキング層により切り離した状態で、存在することができる。好ましくは、銀をベースとする各々の機能性金属層は反射防止コーティングの上にあり、その上層が、安定化機能を有する、好ましくは酸化亜鉛をベースとする、誘電体層の上にそれと接触して被着された本発明による酸化ニッケルの層である。
【0056】
安定化機能を有する誘電体層は、少なくとも3nmmの厚さ、特に3nmと25nmの間、なおもより好ましくは5〜10nmの厚さであることができる。
【0057】
バリア機能を有する誘電体層は、周囲雰囲気又は透明基材に由来する酸素及び水が高温で機能性層へ向かって拡散するのに対するバリアを形成することができる材料から製作された層を意味するものと理解される。バリア機能を有する誘電体層は、任意選択的にアルミニウムなどの他の少なくとも1種の元素を用いてドープされた、SiO
2などの酸化物、ケイ素の窒化物Si
3N
4、及びケイ素の酸窒化物SiO
xN
yから選ばれるケイ素化合物をベースとすることができ、アルミニウムの窒化物AlNをベースとすることができ、あるいは酸化スズ亜鉛をベースとすることができる。
【0058】
熱処理を受けることが意図されているスタックで被覆された透明基材は、
・結晶性酸化ニッケルをベースとする少なくとも1つの層を含む反射防止コーティング、
・銀をベースとする機能性金属層、
・任意選択的に、ブロッキング層、
・反射防止コーティング、
を含むことができる。
【0059】
有利な実施形態によると、スタックは、基材から出発して、
・銀ベースの機能性金属層の下に位置し、酸化亜鉛をベースとした安定化機能を有する少なくとも1つの誘電体層と、酸化亜鉛をベースとした安定化機能を有する該誘電体層と接触して位置する結晶性酸化ニッケルをベースとする少なくとも1つの層とを含む、反射防止コーティング、
・結晶性酸化ニッケルをベースとする層と接触して位置する銀ベースの機能性金属層、
・任意選択的に、ブロッキング上層、
・銀ベースの機能性金属層の上に位置する反射防止コーティング、
・任意選択的に、上部保護層、
を含むことができる。
【0060】
別の有利な実施形態によると、スタックは、基材から出発して、
・バリア機能を有する少なくとも1つの誘電体層、安定化機能を有する少なくとも1つの誘電体層、及び結晶性酸化ニッケルをベースとする少なくとも1つの層を含む、反射防止コーティング、
・結晶性酸化ニッケルをベースとする層と接触して位置する銀ベースの機能性金属層、
・任意選択的に、ブロッキング上層、
・安定化機能を有する少なくとも1つの誘電体層とバリア機能を有する誘電体層とを含む、反射防止コーティング、
を含むことができる。
【0061】
スタックは、特に耐引っ掻き性を付与するために、スタックの最終の層として被着させた上部保護層を含むことができる。これらの上部保護層は、好ましくは厚さが2nmと5nmの間である。これらの保護層は、酸化チタン又は酸化スズ亜鉛の層であることができる。
【0062】
本発明による透明基材は、好ましくは、剛性無機材料製であり、例えばガラス製、特にソーダ石灰シリカガラス製である。基材の厚さは一般に、0.5mmと19mmの間にある。基材の厚さは、好ましくは6mm以下であり、実際のところさらには4mm以下である。
【0063】
銀をベースとする機能性金属層の被着前の酸化ニッケルをベースとする層の結晶化熱処理は、任意の熱処理法により行うことができる。この処理は、基材を炉又はストーブ内に配置するか、又は基材を放射線にさらすことにより行うことができる。
【0064】
結晶化の熱処理は、有利には、処理対象の層により被覆された基材を放射線にさらすこと、好ましくは少なくとも1つのレーザラインの形態で前記層に焦点を合わせたレーザ線にさらすことにより行われる。
【0065】
結晶化の熱処理は、酸化ニッケルをベースとする層の各点を、好ましくは少なくとも300℃、特に350℃、実際のところさらには400℃、さらには500℃又は600℃の温度にすることができるエネルギーを与えることにより行うことができる。コーティングの各点は、1秒以下、実際のところさらには0.5秒以下、有利には0.05〜10ミリ秒の範囲内、特に0.1〜5ミリ秒、又は0.1〜2ミリ秒の時間、熱処理に付される。
【0066】
放射線の波長は、好ましくは500〜2000nmの範囲内、特に700〜1100nm、実際のところさらには800〜1000nmの範囲内にある。808nm、880nm、915nm、940nm又は980nmから選ばれる1つ以上の波長で発光する高出力レーザダイオードが、特に好適であることが分かっている。
【0067】
結晶化熱処理はまた、赤外線ランプなどの通常の加熱装置から生じる赤外線に基材をさらすことにより行うこともできる。
【0068】
熱処理は、有利には、層の各点を少なくとも300℃の温度にする一方で、すべての点でスタックを含む面とは反対側の基材の面を150℃以下の温度に維持するように行う。
【0069】
「層の点」とは、所与の時点で処理に付される層の領域を意味するものと理解される。本発明によると、層のすべて(それゆえに各々の点)を、少なくとも300℃の温度にするが、層の各点は必ずしも同時には処理されない。層は、その全体を同時点で処理することができ、層の各々の点を同時に少なくとも300℃の温度にすることができる。あるいはまた、層は、層の異なる点又は点の集合体を順次少なくとも300℃の温度にするように処理してもよく、工業規模での連続処理の場合、この第二の方法がより頻繁に使用される。
【0070】
これらの熱処理には、基材の全体を有意に加熱することなしに、層のみを加熱するという利点があり、すなわち、基材の限定された領域を穏やかに制御して加熱し、このため破壊の問題を防止するという利点がある。このため、応力ジャンプを示す処理された層を有する面とは反対側の基材の面の温度が150℃を超えず、好ましくは100℃以下であり、特に50℃以下であるように本発明を実施することが好ましい。この特徴は、基材の加熱でなく層の加熱に特に適する加熱方法を選択し、そして使用する加熱方法に応じて加熱の時間もしくは強度及び/又は他のパラメータを制御することにより得られる。好ましくは、薄層の各点は、一般に1秒以下、実際のところさらには0.5秒以下の時間、本発明による処理に付される(すなわち300℃以上の温度にされる)。
【0071】
最も大きい基材(例えば、長さ6m×幅3m)の破損個所の数をできるかぎり制限するために、100℃以下、特に50℃以下の温度を、応力ジャンプを示す層を被着させる面と反対側の基材の面のすべての点で処理の間ずっと維持するのが好ましい。
【0072】
加熱手段の出力又は加熱時間などの加熱のパラメータは、加熱プロセスの種類、層の厚さ、処理する基材の大きさ及び厚さなどの種々のパラメータに応じて、当業者がケース毎に調節することができる。
【0073】
結晶化熱処理段階は、好ましくは、処理対象の層により被覆された基材を放射線にさらすものであり、好ましくは少なくとも1つのレーザラインの形態で前記層に焦点を合わせたレーザ線にさらすものである。レーザは小さい表面積(典型的には、1mm
2の1/10程度〜数百mm
2)しか照射できないので、表面全体を処理するためには、基材の平面でレーザビームを移動させる装置、又はインラインレーザビームを形成し基材の幅全体を同時に照射する装置であってその下を基材が前進する装置を用意することが必要である。
【0074】
通常は、考慮中のコーティングの点がレーザラインの下を通過する時点で最高温度となる。所与の時点において、レーザラインの下にあるコーティングの表面の点とそれに接した周囲(例えば1mm未満)のみが、標準的に少なくとも300℃の温度になる。レーザラインの下流を含む、2mmを超え、特に5mmを超えるレーザラインまでの距離(前方進行方向に沿って測定)で、コーティングの温度は、通常、最高で50℃、さらには40℃又は30℃である。
【0075】
レーザ線は、1つ以上のレーザ光源を含み、そしてまた成形及び方向変更用の光学素子を含むモジュールから発生されるのが好ましい。
【0076】
レーザ光源は、典型的にはレーザダイオードもしくはファイバ又はディスクレーザである。レーザダイオードは、狭い必要スペースで、供給電力に対して高出力密度を経済的に得ることを可能にする。
【0077】
レーザ光源から生じる放射線は好ましくは連続である。
【0078】
成形及び方向変更用の光学素子は、好ましくはレンズとミラーを含み、そして放射線の位置を合わせ、均一化し、そして焦点を合わせるための手段として使用される。
【0079】
位置合わせする手段の目的は、該当する場合に、レーザ光源により放出された放射線をラインに沿って配置することである。それらは好ましくは、ミラーを含む。均一化手段の目的は、ラインに沿ってすべて均一である線状出力密度を得るために、レーザ光源の空間プロファイルを重ね合わせることである。均一化手段は好ましくは、入射ビームを二次ビームに分離しそして該二次ビームを再結合して均一ラインにすることを可能にするレンズを含む。放射線の焦点を合わせる手段は、所望の長さ及び所望の幅のラインの形態で、放射線の焦点を処理対象のコーティングに合わせることを可能にする。焦点合わせの手段は好ましくは、収束レンズを含む。
【0080】
レーザラインを1つのみ使用する場合、ラインの長さは基材の幅に等しいのが有利である。
【0081】
レーザラインの線出力密度は、好ましくは少なくとも300W/cm、有利には350又は400W/cm、特に450W/cm、実際のところさらには500W/cm、そしてさらには550W/cmである。それは、さらに有利には少なくとも600W/cm、特に800W/cm、実際のところさらには1000W/cmである。線出力密度は、レーザラインがコーティングに焦点を合わせる箇所で測定される。それは、ラインに沿って出力ディテクタ、例えば、熱量測定出力計、例として特にCoherent Inc.社からのBeamFinder S/N 2000716出力計を配置することにより測定することができる。出力密度は、有利には、ラインの全体長さに沿って均一に分布する。好ましくは、最も高い出力密度と最も低い出力密度との差は平均出力密度の10%未満の値である。
【0082】
コーティングに供給されるエネルギー密度は、好ましくは少なくとも20J/cm
2、実際のところさらには30J/cm
2である。
【0083】
高い出力密度とエネルギー密度は、基材を有意に加熱することなく、コーティングを非常に速く加熱することを可能にする。
【0084】
好ましくは、レーザラインは静止していて、基材が移動し、その結果として相対移動速度は基材が前進する速度に一致することになる。
【0085】
結晶化熱処理は、被着チャンバー中での被着の間に、又は被着を終えて被着チャンバーの外で、行うことができる。結晶化熱処理は、真空下で、外気下で、及び/又は大気圧で行うことができる。被着チャンバー外での熱処理は、汚染問題を生じることがあるので好ましくない。
【0086】
結晶化熱処理は、実際には陰極スパッタリングによる被着用のチャンバー内で、真空下に行うことができる。好ましくは、陰極スパッタリングによる被着用のチャンバー内でスタックのすべての層を製作しそして結晶化熱処理を行う。
【0087】
このために、層の被着のためのライン、例えば磁場により支援される陰極スパッタリング(マグネトロン法)による被着のためのラインに、熱処理装置を組み入れることができる。該ラインは一般に、基材を取り扱うための装置、被着ユニット、光学制御装置及び積み重ね用の装置を含む。基材は、例えば輸送ローラに載って、各装置又は各ユニットを順次通過して前方に進行する。
【0088】
熱処理装置は、被着ユニット内に組み入れることができる。例えば、レーザを、陰極スパッタリングによる被着のためのユニットのチャンバーの1つに、特に、雰囲気が希薄であり、とりわけ10
-6mbarと10
-2mbarの間の圧力下にあるチャンバー内に、組み入れることができる。熱処理装置はまた、被着ユニットの外にあるが、該ユニット内にある基材を処理するように配置することができる。この目的のためには、使用する放射線の波長に対して透明であるポートホールであって、レーザ線が層を処理するためにそれを通過するポートホールを設けることで十分である。このようにして、同一のユニットにおいて別の層を続いて被着する前に層を処理することが可能である。熱処理は、好ましくは、レーザをマグネトロン装置に組み入れた装置でのレーザ放射による処理である。
【0089】
好ましくは、熱処理は、実際にマグネトロン装置の被着チャンバー内で、真空下に行われる。
【0090】
結晶化熱処理はまた、国際公開第2008/096089号に記載されるように、赤外線、プラズマトーチ又は火炎を用いた加熱によって行うこともできる。
【0091】
単位表面積当たりに高い出力を得ることを可能にする焦点合わせ用の装置(例えば円筒レンズ)と組み合わせた赤外線ランプの装置も使用できる。
【0092】
結晶化熱処理は、陰極スパッタリングによる被着用のチャンバー中に組み入れられたレーザ処理であるのが好ましい。
【0093】
本発明による透明基材は、好ましくは剛性無機材料で製作され、例えばガラス製、特にソーダ石灰シリカガラス製である。基材の厚さは、一般に0.5mmと19mmの間にある。基材の厚さは、6mm以下、実際のところさらには4mm以下であるのが好ましい。
【0094】
被覆された透明基材は、焼きなまし、例えばフラッシュ焼きなまし、例としてレーザ又は火炎での焼きなましなど、焼き戻し及び/又は曲げ加工から選択される、高温での熱処理を受けることができる。熱処理の温度は400℃より高く、好ましくは450℃より高く、そしてなお好ましくは500℃より高い。完成したスタックに対して行うこの熱処理は、結晶化の熱処理とは異なる。この方法は、段階(c)をさらに含むことができ、この段階の間に薄層のスタックにより被覆された基材は400℃より高い、好ましくは500℃より高い温度で熱処理を受ける。
【0095】
スタックにより被覆された基材は、湾曲した及び/又は焼き戻しされたガラスであることができる。
【0096】
材料は、一体式のグレージング、積層グレージング、又は複層グレージング、特に二層グレージング又は三層グレージングの形態であることができる。
【0097】
本発明の材料は、低抵抗率が重要なパラメータである、銀層を含む低eスタックの使用を必要とするすべての用途に適する。