特許第6646609号(P6646609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6646609レーザーフィラメント形成による材料加工方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646609
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】レーザーフィラメント形成による材料加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/53 20140101AFI20200203BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20200203BHJP
   B28D 5/00 20060101ALI20200203BHJP
   C03B 33/09 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   B23K26/53
   H01L21/78 B
   B28D5/00 Z
   C03B33/09
【請求項の数】21
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-66485(P2017-66485)
(22)【出願日】2017年3月30日
(62)【分割の表示】特願2013-518917(P2013-518917)の分割
【原出願日】2011年7月12日
(65)【公開番号】特開2017-185547(P2017-185547A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2017年3月30日
(31)【優先権主張番号】61/372,967
(32)【優先日】2010年8月12日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/363,568
(32)【優先日】2010年7月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514324830
【氏名又は名称】ロフィン−シナール テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ホセイニ,エス.,アバス
(72)【発明者】
【氏名】ハーマン,ピーター,アール.
【審査官】 金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−082645(JP,A)
【文献】 特開平11−207479(JP,A)
【文献】 特開2008−100284(JP,A)
【文献】 特開2008−098465(JP,A)
【文献】 特開2009−023215(JP,A)
【文献】 特開2009−050892(JP,A)
【文献】 特開2009−056482(JP,A)
【文献】 特開2009−072829(JP,A)
【文献】 特開2008−062263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/53
B28D 5/00
C03B 33/09
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の経路上で劈開向けにサンプルを準備する方法であって、前記方法は、
レーザーパルスのバーストを有するビームを収束するステップであって、レーザーパルスの各バーストは、複数の個々のレーザーパルスを有し、前記レーザーパルスのそれぞれは、約100ps未満の持続時間を有する、ステップと、
前記所望の経路上の位置で、前記サンプル上で収束されたビームを前記サンプルに照射するステップであって、前記サンプルは、前記収束されたビームに対して透明であり、前記レーザーパルスは、カー効果の自己収束を引き起こすように選択されたエネルギーおよび持続時間を有し、これにより、透明なサンプル内でレーザーフィラメントを作り出し、前記レーザーフィラメントは、前記透明なサンプル内で恒久的な材料変性を引き起こし、前記恒久的な材料変性は、前記透明なサンプル内で前記レーザーフィラメントによって規定される形状を有する、ステップと、
数のそれぞれの場所におい恒久的な材料変性を作り出すために、前記所望の経路上のワンパス露光内で、前記透明なサンプルに対して前記収束されたビームを横に並進させるステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記レーザーパルスのそれぞれの持続時間は、約10ps未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記透明なサンプルは、ガラスから形成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記透明なサンプルは、半導体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記恒久的な材料変性は、前記サンプルの内部においてそのほぼ全厚にわたって延在し、
前記サンプルの上面または下面に入り込まずに終わる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記レーザーフィラメントは、光回折によって制限された従来の焦点深度を大幅に超える長さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記レーザーフィラメントは、約250μmを超える長さの恒久的な材料変性を引き起こす、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記レーザーフィラメントは、前記収束されたビームの理論上のスポット径よりも小さな直径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記レーザーフィラメントは、約10μmよりも小さな直径の恒久的な材料変性を引き起こす、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
並進速度は、約10μm未満のピッチを有する前記所望の経路上で恒久的な材料変性の配列を作り出すように選択されている、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
所望の経路上で劈開向けにサンプルを準備する方法であって、前記方法は、
パルスのバーストのビームを収束するステップであって、前記パルスのそれぞれのバーストは、複数の個々のレーザーパルスを有し、前記レーザーパルスのそれぞれは、約100ps未満の持続時間を有し、前記パルスのそれぞれのバースト内のレーザーパルスは、約1MHzから約100MHzの範囲内の繰り返し数を有する、ステップと、
前記所望の経路上の位置で、前記サンプル上で収束されたビームを前記サンプルに照射するステップであって、前記サンプルは、収束されたビームに対して透明であり、前記パルスのバーストは、カー効果の自己収束を引き起こすように選択されたエネルギーを有して、これにより、前記透明なサンプル内でレーザーフィラメントを作り出し、前記レーザーパルスは、前記透明なサンプル内でレーザーフィラメントを作り出すように選択された持続時間を有し、前記レーザーフィラメントは、前記透明なサンプル内で材料変性を引き起こし、前記材料変性は、前記透明なサンプル内で前記レーザーフィラメントによって規定される形状を有する、ステップと、
数のそれぞれの場所におい材料変性を作り出すために、前記所望の経路上のワンパス露光内で、前記透明なサンプルに対して前記収束されたビームを横に並進させるステップと
を含む、方法。
【請求項12】
前記繰り返し数は、レーザーパルス間の時間間隔に対応し、前記時間間隔は、少なくとも一つの材料変性力学の緩和の持続時間よりも短い、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記レーザーパルスのそれぞれの持続時間は、約10ps未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記透明なサンプルは、ガラスから形成されている、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記透明なサンプルは、半導体を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記材料変性は、前記サンプルの内部においてそのほぼ全厚にわたって延在し、前記サンプルの上面または下面に入り込まずに終わる、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記レーザーフィラメントは、光回折によって制限された従来の焦点深度を大幅に超える長さを有する、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記レーザーフィラメントは、約250μmを超える長さの恒久的な材料変性を引き起こす、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記レーザーフィラメントは、前記収束されたビームの理論上のスポット径よりも小さな直径を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記レーザーフィラメントは、約10μmよりも小さな直径の恒久的な材料変性を引き起こす、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
並進速度は、約10μm未満のピッチを有する前記所望の経路上で材料変性の配列を作り出すように選択されている、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その全内容を参照により本明細書に組み込む、2010年7月12日出願の「Method of Material Processing by Laser Filamentation」という名称の米国仮出願第61/363,568号、並びにその全内容を参照により本明細書に組み込む、2010年8月12日出願の「Method of Material Processing by Laser Filamentation」という名称の米国仮出願第61/372,967号に対する優先権を主張する。
【0002】
本開示は、材料のレーザー加工方法に関する。より具体的には、本開示は、ウェハ、基板、及びプレートの個片化及び/又は劈開方法に関する。
【背景技術】
【0003】
現在の製造では、ウェハ又はガラスパネルの個片化、ダイシング、スクライビング、劈開、切断、及びファセット処理は一般に、一例としてフラットパネルディスプレイの場合は30cm/秒の速度でのダイヤモンド切断に依存する重要な加工ステップである。ダイヤモンド切断の後、機械的ローラが応力を加えて、割れを伝搬させてサンプルを劈開する。このプロセスは、低品質のエッジ、微小割れ、広い切溝幅、及び相当量の屑を生じさせるが、これらは製品の寿命、品質、及び信頼性における大きな不利点であるとともに、追加の洗浄及び研磨ステップが科せられる。ダイヤモンドスクライバーを稼働させる脱イオン化水のコストは、スクライバーを所有するコストを上回り、また、水が汚染されるとともに精製を必要とし、それ自体に更にコストがかかることから、環境にやさしくない技術である。先進技術によって、ウェハ上のダイはより小さくなるとともに相互に接近してきており、そのことによってダイヤモンドスクライビングが制限される。良好なスクライビング幅は30μmであり、15μmは困難である。ダイヤモンドスクライビングは基板をスクライブするのに機械的力を使用するので、薄いサンプルはスクライブするのが非常に困難である。FPD業界は、ガラス厚さを現在使用されている従来の400〜700μmから150〜300μmに低減しようと模索しており、プレートのスクライビングは主要な問題である。実際に、FPD業界は、耐久性のために通常のガラスの代わりに薄い強化ガラスを使用することを目指している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザーアブレーティブ機械加工は、個片化、ダイシング、スクライビング、劈開、切断、及びファセット処理に関して積極的に開発されている分野であるが、加工速度が遅い、割れが生成される、アブレーション屑によって汚染される、並びに切溝幅が中程度のサイズになるなど、特に透明材料において不利点がある。更に、レーザー相互作用中の熱輸送は、大きな領域の付随的な熱的損傷(即ち、熱影響部)に結び付く可能性がある。レーザーアブレーションプロセスは、媒体に強く吸収される波長を備えたレーザー(例えば、遠UVエキシマレーザー又は遠赤外CO2レーザー)を選択することによって、劇的に改善される場合がある。しかし、上述の不利点は、この物理的アブレーションプロセスに固有の強度の相互作用により排除することができない。
【0005】
或いは、レーザーアブレーションはまた、レーザーパルスの持続時間を低減することによって、透明媒体の表面で改善される場合がある。これは、加工媒体の内部では透明であるレーザーの場合に特に有利である。透明材料の上又は内部に収束させると、高いレーザー強度によって非線形的な吸収効果が引き起こされて動的な混濁をもたらし、それを、焦点体積によって規定されるように適切なレーザーエネルギーを少量の材料内へと正確に蓄積させるように制御することができる。持続時間の短いパルスは、より持続時間の長いレーザーパルスに比べて、プラズマ反射が排除されること、かかるレーザーパルスのはるかに短い時間スケール中における熱拡散及び他の熱輸送効果のわずかな構成部分による付随的な損傷が低減されることなど、いくつかの更なる利点をもたらす。従って、フェムト秒及びピコ秒レーザーアブレーションは、不透明材料及び透明材料両方の機械加工において顕著な利益をもたらす。しかし、実に数十〜数百フェムト秒という短いパルスでの透明材料の機械加工は、レーザー形成した穴又はトレンチの近傍に粗面及び微小割れが形成されることとも関連し、そのことは、ガラス及び光学結晶などの脆性材料の場合に特に問題である。更に、アブレーション屑は付近のサンプル及び周囲の表面を汚染することになる。
【0006】
ガラス及び関連材料を切断又はスクライブする切溝を生じない方法(kerf-free method)は、例えばCO2レーザー及びウォータージェットを用いた、レーザー加熱と冷却の組合せに依存する(米国特許第5,609,284号(Kondratenko)、第6,787,732号、UVレーザー(Xuan))。近接して加熱及び冷却する適切な条件下では、高い引張り応力が発生し、それによって材料に深く入る割れが引き起こされ、表面を横切るレーザー冷却源を単に走査することによって、柔軟な曲線経路でその割れを伝搬させることができる。このように、熱応力で引き起こされるスクライビングは、機械的スクライバー又はダイヤモンド鋸の不利点を伴わずに、また屑を生成するレーザーアブレーションの要素なしに、材料のクリーンな分割を提供する。しかし、方法は、スクライバーを方向付けるのに応力で引き起こされる割れの形成に依存し(WO/2001/032571 LASER DRIVEN GLASS CUT-INITIATION)、割れの形成を起こす機械的手段又はレーザー手段を必要とする。持続時間の短いレーザーパルスは、一般に、透明材料の内部に効率的に伝搬し、レンズの焦点位置で非線形的な吸着プロセスによってバルク内部の変性(modification)を局所的に引き起こすことができるという利益をもたらす。しかし、透明光学媒体中の超高速のレーザーパルス伝搬(ピーク電力約5MW超過)は、群速度分散(GVD)、線形回折、自己位相変調(SPM)、自己収束、価電子帯から伝導帯への電子の多光子/トンネルイオン化(MPI/TI)、プラズマ発散、及び自己急勾配化(self-steepening)(SL Chin et al. Canadian Journal of Physics, 83, 863-905 (2005))などの線形及び非線形効果を組み合わせた作用によって、レーザーパルスの空間的及び時間的プロファイルを強力に整形することによって複雑化する。これらの効果は、レーザーパラメータ、材料の非線形特性、及び材料内への収束条件に依存する程度を変動させることに展開する。
【0007】
Kamata et al. (SPIE Proceedings 6881-46, High-speed scribing of flat-panel display glasses by use of a 100-kHz, 10-W femtosecond laser, M. Kamata, T. Imahoko, N. Inoue, T. Sumiyoshi, H. Sekita, Cyber Laser Inc. (Japan); M. Obara, Keio Univ. (Japan))は、フラットパネルディスプレイ(FPD)ガラスの高速スクライビング技術について記載している。周波数逓倍の780nm、300fs、出力100μJの100kHz Ti:サファイアチャープパルス増幅レーザーを、ガラスの損傷閾値を超えるようにガラス基板の背面近傍に収束させ、材料の光学的破壊によって空隙を生成している。空隙は、レーザーの高い繰返し数によって背面に達する。接続された空隙は、内部応力及び損傷並びに表面アブレーションを生じ、それによってレーザースクライブラインに沿った方向での機械的応力又は熱衝撃によるダイシングが容易になる。この方法は、300mm/秒の速いスクライブ速度を潜在的に提供するが、内部に形成された空隙が表面に達するので、有限の切溝幅、表面の損傷、ファセットの粗さ、及びアブレーション屑が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一の実施形態では、基板内にフィラメントを作り出すように選択されたエネルギー及びパルス持続時間を有する、収束レーザービームの一つ又は複数のパルスを、レーザービームに対して透明な基板に照射するステップと、一つ又は複数の更なる場所で基板を照射し、追加のフィラメントを作り出すため、収束レーザービームに対して基板を並進させるステップとを含み、フィラメントが、基板を劈開するための内部でスクライブされた経路を規定する配列を備える、劈開向けに基板を準備する方法が提供される。方法は、好ましくは、基板を劈開するステップを含む。
【0009】
基板は、好ましくは、ミクロン規模のフィラメント間隔を作り出すように選択された速度で、収束レーザービームに対して並進される。一つ又は複数のレーザーパルスの特性は、好ましくは、レーザービームの自己収束をもたらすのに十分なビーム強度を基板内に提供するように選択される。
【0010】
一つ又は複数のパルスは、規定の周波数で二回以上提供されてもよく、基板は、ほぼ一定の速度で収束レーザービームに対して並進されて、結果として配列中のフィラメントの一定の間隔が提供されてもよい。
【0011】
一つ又は複数のパルスは、単一のパルス又は二つ以上の一連のパルスを含む。好ましくは、パルス列中の連続パルス間の時間遅延は、一つ又は複数の材料変性力学の緩和が生じる持続時間よりも短い。一つ又は複数のパルスそれぞれのパルス持続時間は、好ましくは約100ps未満、より好ましくは約10ps未満である。
【0012】
収束レーザービームのビーム焦点の場所は、基板内にフィラメントを生成するように選択されてもよく、基板の少なくとも一つの表面はアブレーションを実質的に有さない。収束レーザービームのビーム焦点の場所は、基板の少なくとも一つの表面にV字溝を生成するように選択されてもよい。
【0013】
基板は、ガラス又は半導体であってもよく、透明セラミックス、ポリマー、透明導体、広バンドギャップガラス、水晶、結晶石英、ダイヤモンド、及びサファイアから成る群から選択されてもよい。
【0014】
基板は、二つ以上の層を備えてもよく、その際、収束レーザービームのビーム焦点の場所は、二つ以上の層の少なくとも一つの中にフィラメントを生成するように選択される。多層基板は、液晶ディスプレイ(LCD)、フラットパネルディスプレイ(FPD)、及び有機発光ディスプレイ(OLED)など、多層フラットパネルディスプレイガラスを含んでもよい。基板はまた、自動車ガラス、管材料、窓、バイオチップ、光センサ、平面光波回路、光ファイバー、飲用ガラス製品、工芸ガラス、シリコン、III-V半導体、超小型電子チップ、メモリチップ、センサチップ、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)、及び垂直共振器表面発光レーザー(VCSEL)から成る群から選択されてもよい。
【0015】
収束レーザービームのビーム焦点の場所は、二つ以上の層の二つ又はそれ以上の中にフィラメントを生成するように選択されてもよく、その際、収束レーザービームは一層にフィラメントを生成し、少なくとも一つの追加層内に伝搬し、その少なくとも一つの追加層にフィラメントを生成する。
【0016】
或いは、収束レーザービームのビーム焦点の場所は、最初に、二つ以上の層のうち第一の層内にフィラメントを生成するように選択されてもよく、方法は更に、二つ以上の層のうち第二の層内に第二のビーム焦点を位置付けるステップと、基板を劈開する第二の内部でスクライブされた経路を規定する第二の配列を作り出すため、第二の層を照射し、基板を並進させるステップとを含んでもよい。基板は、第一の層を照射するときと反対側から照射されてもよい。更に、第二の層を照射する前に、第二のビーム焦点の位置は第一の層を照射するときのビーム焦点の位置に対して横に並進されてもよい。第二の収束レーザービームは第二の層を照射するのに使用されてもよい。
【0017】
本開示の機能的且つ有利な態様についての更なる理解は、以下の詳細な説明及び図面を参照することによって実現できる。
【0018】
以下、本開示の実施形態を単なる一例として図面を参照して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1a】透明材料をスクライブするためのレーザーフィラメント化スクライビング(laser filamentation scribing)配置を示す正面図である。
図1b】透明材料をスクライブするためのレーザーフィラメント化スクライビング配置を示す側面図である。
図2a】透明基板のV字溝スクライビングを伴うレーザーフィラメント形成を示す正面図である。
図2b】フィラメント形成が抑制されたV字溝スクライビングを示す正面図である。
図3】収束配置を用いて反射要素を適用する、上面及び下面のV字溝形成による内部フィラメント形成を用いた透明材料のレーザースクライビングを示す図である。
図4】上面及び下面から適用される二つの収束装置を使用するレーザースクライビングを示す図である。
図5】上縁部、下縁部、又は両方の縁部を面取りすることができる、スクライブした基板を示す側面図である。
図6】斜めのファセット又は他のファセット形状を単一のステップで劈開できるように、フィラメントが重なり合うようにして、異なる物理的な位置、方向、角度、及び深さで透明基板に複数のフィラメントを同時に作成する、複数の集中するレーザービームを送達する収束配置を示す図である。
図7a】下側基板の上面を損傷することなく上側の透明基板をレーザーフィラメント化スクライビングするための収束配置を示す図である。
図7b】上側位置から下側基板をレーザーフィラメント化スクライビングするための収束配置を示す図である。
図7c】別個にスクライブするか又は同時にレーザースクライブして、二重プレートアセンブリを類似した曲線又は直線に沿って分離できるようにプレート間の媒体に光学的破壊を起こすことなく両方の基板にフィラメントを形成することができる、二重プレートアセンブリをレーザーフィラメント化スクライビングするための収束配置を示す図である。
図8】フィラメント、V字溝、又はそれらの組合せを形成するようにそれぞれの焦点を調節することができる二つの収束ビームを使用する、二つの透明基板を含む二層装置のレーザースクライビングを示す図である。
図9a】両方のプレートの上面に内部フィラメントのみが形成される、スクライビング後の二層ガラスを示す上面及び側面図である。
図9b】両方のプレートの上面に内部フィラメント及び上面のV字溝が形成される、スクライビング後の二層ガラスを示す上面及び側面図である。
図9c】両方のプレートの上面にV字溝のみが形成される、スクライビング後の二層ガラスを示す上面及び側面図である。
図10】オフセットを有する並びに有さない、上面及び下面からの積層ガラスのスクライビングを示す図である。
図11】超薄型基板のスタックのレーザーバーストフィラメントスクライビング(laser bursts filament scribing)の方法を示す図である。
図12】(a)はガラスプレートの下側領域付近、(b)はガラスプレートの中間領域付近、(c)はガラスプレートの上側領域付近に位置付けた、レンズによるレーザー収束を用いた同一のレーザー露光の下で形成されたレーザーフィラメント形成のトラックを示す、機械的劈開の前に研磨したファセットを通して見たガラスプレートを示す光学顕微鏡画像である。
図13】(a)は、レーザーフィラメントのトラックがバルクガラス内部に描かれている、機械的劈開の前に撮像したガラスの上面の顕微鏡画像、(b)は、そのガラスの下面の顕微鏡画像である。
図14a】レーザー露光中に中速の走査速度でレーザーフィラメントのトラックが形成された機械的劈開後のガラスプレートのファセット縁部を示す図である。
図14b】高速の走査速度でレーザーフィラメントのトラックが形成された機械的劈開後のガラスプレートのファセット縁部を示す図である。
図15】低繰返し数で適用した場合(a)と、一つのバースト列における全てのパルスのエネルギーを有する、高エネルギー低繰返し数のパルス列の単一パルスで適用した場合(b)とにおける、等しいエネルギーのレーザーパルスを同一数用いて形成した厚さ1mmのガラスのレーザー変性を比較する、ファセット縁部を示す顕微鏡画像である。
図16a】高繰返し数のレーザーを用いたV字溝及びフィラメントを適用するスクライブしたガラスの側面図を示す顕微鏡画像である。
図16b】高繰返し数のレーザーを用いたV字溝及びフィラメントを適用するスクライブしたガラスの上面図を示す顕微鏡画像である。
図16c】高繰返し数のレーザーを用いたV字溝及びフィラメントを適用するスクライブしたガラスの正面図を示す顕微鏡画像である。
図17】高繰返し数レーザーを使用した三つの異なるV字溝形成を示す正面図である。
図18a】厚さ400μmの二つの積層ガラスを同時にスクライブする、フラットパネルディスプレイガラスのスクライビングの側面図を示す画像である。
図18b】厚さ400μmの二つの積層ガラスを同時にスクライブする、フラットパネルディスプレイガラスのスクライビングの正面図を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の様々な実施形態及び態様について、後述する詳細を参照して記載する。以下の説明及び図面は本開示の例証であり、本開示を限定するものとして解釈すべきでない。本開示の様々な実施形態の完全な理解を提供するため、多数の特定の詳細について記載する。しかし、特定の例では、本開示の実施形態の簡潔な考察を提供するため、周知の又は従来の詳細について記載しない。
【0021】
本明細書で使用するとき、「備える」及び「備えている」という用語は、包括的且つ制約がなく、排他的でないものとして解釈すべきである。具体的には、明細書及び請求項で使用するとき、「備える」及び「備えている」という用語並びにその変形は、指定の特徴、ステップ、又は構成要素が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップ、又は構成要素の存在を除外するものと解釈すべきでない。
【0022】
本明細書で使用するとき、「例示的な」という用語は、「例、実例、又は例証として役立つ」ことを意味し、本明細書に開示する他の構成よりも好ましい又は有利であると解釈すべきでない。
【0023】
本明細書で使用するとき、「約」及び「およそ」という用語は、粒子の寸法範囲、混合物の組成、又は他の物理的性質若しくは特性と併せて使用する場合、寸法範囲の上限及び下限内に存在してもよいわずかな変動を包含し、平均して寸法の大部分が満たされるが統計的には寸法がこの範囲外に存在することがある実施形態を除外しないことを意味する。これは、それらのような実施形態を本開示から除外しようとするものではない。
【0024】
本明細書で使用するとき、「透明」という用語は、入射する光学ビームに対して少なくとも部分的に透明な材料を意味する。より好ましくは、透明基板は、後述する実施形態による、入射ビームによる内部フィラメントの生成を十分に支援する大きさの吸収深さによって特徴付けられる。
【0025】
図1は、透明基板にレーザーフィラメントを形成する、(a)正面図及び(b)側面図で示される概略配置を示す。持続時間の短いレーザーパルス10は、対物レンズ12によって透明基板14内部で収束される。適切なレーザーパルスエネルギー、レーザーパルス、又はパルスのシーケンス、或いはパルスのバースト列では、レーザーフィラメント18が基板内に生成されて、レーザーフィラメントの体積によって規定される形状を有する内部微小構造の変性が作り出される。パルスレーザー露光中にレーザービームに対してサンプルを移動させることによって、サンプル中のレーザーが追随する曲線又は直線経路によって規定されるような、フィラメントトラック20の連続的なトレースがガラス体積内に恒久的に刻み付けられる。
【0026】
理論によって限定されることを意図しないが、フィラメントは、非線形のカー効果によって自己収束することができ、結果としていわゆるフィラメントを形成する、収束が弱く高強度の持続時間が短いレーザー光によって作り出されると考えられる。光照射野のこの空間的・時間的に高度な局所化は、長く狭いチャネルにレーザーエネルギーを蓄積させることができ、また、白色光の生成、及びこの局所的放射を取り囲む動的な環状の放射構造の形成など、他の複雑な非線形伝搬効果と関連付けられる。
【0027】
最も単純なレベルでは、フィラメント形成プロセスは、主として二つの競合するプロセスに依存すると考えられる。第一に、レーザーパルスの空間強度プロファイルは、非線形の光学カー効果によって収束レンズのように作用する。これはビームの自己収束を引き起こし、その結果としてピーク強度が増加する。この効果は、このスポット径の共焦点ビームパラメータ(又は焦点深度)の単純計算から予期されるよりも数倍の長さの距離を伝搬することができる安定したビームウェスト直径に達するまで、直径が減少するにつれて回折を増加させることによって制限され釣り合わされる。
【0028】
高ピーク強度では、レーザービームの高強度部分において低密度プラズマを作り出すため、媒体の多光子イオン化、電界イオン化、及び電子衝撃イオン化が始まる。このプラズマは、ビーム経路の中心で屈折率を一時的に低下させて、ビームが発散しフィラメントが崩れる。カー効果の自己収束とプラズマ発散との間の動的な釣合いは、プラズマチャネルと呼ばれることがある安定したフィラメントが形成されるまでずっと、複数の再収束したレーザーの相互作用によるフィラメントをもたらす場合がある。下記の例に示されるように、ピコ秒パルスを使用して、本発明者らは、パルスが収束すると(使用される収束レンズに応じて)約500〜1000μmの間閉じ込められたままであり、次に、再収束し次のフィラメントを形成する材料がなくなると、又はパルスが再収束して別のプラズマチャネルを形成するのに十分なエネルギーを有していないと、空間的に分散することを見出している。
【0029】
光学的破壊は、他方では、幾何学的焦点の周りに局所化した稠密なプラズマを形成する、透明媒体内部の緊密な収束レーザービームの結果である。プラズマ生成メカニズムは、最初の電子の多光子励起と、それに続く逆制動放射、衝突イオン化、及び電子雪崩プロセスに基づく。かかるプロセスは、上述の屈折率と空隙形成プロセス(米国特許第6,154,593号、SPIE Proceedings 6881-46)を強調し、材料加工のための最も短いパルスのレーザー適用の基礎を形成する。この光学的破壊領域では、透明材料の個片化、ダイシング、スクライビング、劈開、切断、及びファセット処理は、加工速度が遅い、割れが生成される、アブレーション屑によって汚染される、並びに切溝幅が大きいなどの不利点を有する。
【0030】
対照的に、レーザーフィラメント形成は、かかるスクライビング用途のアブレーション又は表面損傷を回避し、切溝幅を劇的に低減させ、割れの生成を回避し、且つ加工時間を速めることができる、透明材料の内部レーザー加工の新しい方向性を提示する。更に、高繰返し数レーザーは、焦点体積外への熱拡散(一般的に、10マイクロ秒未満)よりも速い時間スケールにおける、材料の熱蓄積及び他の過渡応答を用いたレーザービームフィラメントの形成を向上させる新しい方向性を規定する。
【0031】
従って、本明細書に開示する実施形態は、持続時間の短いレーザーパルス(好ましくは、約100ps未満のパルス持続時間)を活用して、透明媒体内部にフィラメントを生成する。方法は、フェムト秒レーザー機械加工において一般的に適用され使用されるような緊密な光収束条件で簡単に生じる可能性がある、光学的破壊などによる稠密なプラズマ生成を回避する。収束が弱い場合、これは好ましいことであるが、非線形のカー効果が、従来の焦点深度を大幅に超える拡張されたレーザー相互作用の焦点体積を作り出して、通常はビームを小さな自己収束ビームウェストから分散させる光回折を克服すると考えられる。
【0032】
フィラメント形成配列が透明基板内に形成されれば、内部のレーザーフィラメント形成カーテンによって精密に規定される表面形状上で基板を二つの部分に劈開するのに必要な機械的圧力は小さい。レーザースクライブされたファセットは、一般的に割れを全く又はほとんど示さず、スクライブされた領域に沿った微小空隙又はチャネルは明らかではない。表面のレーザーアブレーションは、レーザーフィラメントをバルクガラス内のみに制限することによって回避できるので、上面又は下面に屑は実質的に生成されない。他方では、レーザー露光又はサンプル収束条件への単純な変更によってフィラメントを表面に移動し、その結果、所望であれば、後述するようにレーザーアブレーション機械加工を引き起こすことができる。これは、基板の表面に非常に鋭いV字溝を作る助けとなる。超薄型基板(厚さ400μm未満)をスクライブして鋭いV字溝を作成するのが望ましい。他の共通のアブレーション技術は、一般にU字溝又は丸み付けられたV字溝を作成する。V字溝は、サンプルの上面及び下面の両方に形成して、スクライブされた縁部を面取りすることもできる。
【0033】
かかるフィラメントに沿って蓄積したレーザーエネルギーは、欠陥、色中心、応力、マイクロチャネル、微小空隙、及び/又は微小割れの形態であり得る内部の材料変性に結び付く。本発明の方法は、近接して位置付けられたフィラメントによって引き起こされる変性トラックの配列を形成するため、収束レーザービームの横方向の並進を要する。このフィラメント配列は、上面又は下面のどちらかにレーザーアブレーションの損傷を生成することなく、透明媒体内部の変性の疑連続的なカーテンを規定する。このカーテンによって、ガラスプレートは、非常にわずかな圧力(力)のみが適用されたときに劈開に関して非常に脆くなり、又は内部応力を受けて自然に劈開することがある。劈開したファセットは、アブレーション屑がなく、微小割れ及び微小ベントが最小限であるか又は全く示されず、また、自己収束ビームウェストによって規定されるような非常に小さな切溝幅のみで、レーザーによって内部に印付けられた柔軟な曲線又は直線経路に正確に追随する。
【0034】
短パルスレーザーの高繰返し数のバーストを適用することで、熱蓄積及び他の過渡効果という利点が提供されるので、熱輸送及び他の関連するメカニズムは、後続のレーザーパルスが到達する前に完全には緩和されない(米国特許第6,552,301号B2 Burst-UF laser Machining)。このように、熱蓄積は、例えば、微小割れのシーディングを防ぐとともに、別の方法では脆性である材料の短パルスアブレーティブ機械加工の利点(即ち、非線形吸収、付随的な損傷の低減)も保持する、後続のレーザーパルスに対して延性ガラスの薄い加熱シースを示すことができる。上述の全てのレーザーアブレーション方法では、透明材料の切断、スクライビング、又はダイシングは、アブレーション屑による汚染を発生させ、除去された材料を受け入れる切溝幅を消費するとともに付随的なレーザー損傷も発生させることになる。従って、レーザー加工の非アブレーティブ方法が望ましいこととなる。
【0035】
従って、高繰返し数の短パルスレーザーの適用は、かかるフィラメント形成劈開の加工(走査)速度を劇的に増加させるための手段を提示する。しかし、十分に高い繰返し数(約100MHz〜1MHzの遷移)では、フィラメントの変性力学は、パルス列の間蓄積し、且つ完全には緩和せずに連続的なパルス間相互作用を修正する、熱蓄積、プラズマ力学、一時的及び恒久的な欠陥、色中心、応力、並びに材料欠陥のうち一つ又は複数を伴う過渡効果の組合せによって劇的に向上する。かかるバースト列によって形成されるレーザーフィラメントは、フィラメント形成のエネルギー閾値を低下させ、フィラメント長を数百ミクロン又は数ミリメートルまで増加させ、フィラメント変性域を熱アニーリングして付随的な損傷を最小限に抑え、加工の再現性を改善し、低繰返し数レーザーを使用した場合に比べて加工速度を増加させるという顕著な利点を提供する。かかる高繰返し数の一つを非限定的に表明すると、レーザーパルス間の時間は吸収されたレーザーエネルギーを除去する熱拡散には不十分な時間(即ち、10nsec〜1μs)であり、それによって熱がレーザーパルス毎に局所的に蓄積する。このように、相互作用体積における温度が後続のレーザーパルスの間に上昇して、加熱がより効率的で熱サイクルが少ないレーザー相互作用に結び付く。この領域では、脆性材料はより延性になって割れの形成を緩和する。他の過渡効果としては、前のレーザーパルス相互作用から残存する、一時的欠陥及びプラズマが挙げられる。これらの過渡効果は、次に、フィラメント形成加工を長い相互作用長さに延長する、且つ/又は後続のパルスにおけるレーザーエネルギーの吸収を改善するのに役立つ。
【0036】
後述するように、レーザーフィラメント形成方法は、様々な方法によって、カーレンズ収束及びプラズマ発散の繰返しサイクルを通してフィラメント非形成域を備えた多重フィラメントトラックを生成するように調整することができる。かかる多重レベルトラックは、厚い透明なサンプルに、透明ガス又は他の透明材料によって分離された複数層のガラスにわたって、或いは異なる透明材料の多層に形成することができる。固体透明層のみにフィラメントを形成するようにレーザー露光を制御することによって、単層又は多層のプレートの表面それぞれにおけるアブレーション及び屑の生成を回避することができる。これによって、例えば、厚いガラス又は繊細な多層透明プレートを平滑で割れがないファセットで劈開しなければならない場合の製造に著しい利点が提供される。
【0037】
フィラメント形成方法は、ガラス、水晶、選択されたセラミックス、ポリマー、液体封入デバイス、多層材料又はデバイス、及び複合材料のアセンブリを含む、入射レーザービームに対して透明な広範囲の材料に適用される。本開示では、入射レーザービームのスペクトル範囲は可視スペクトルに限定されず、真空紫外、紫外、可視、近赤外、又は赤外スペクトルのレーザー波長に対しても透明である任意の材料を表すことを更に理解されたい。例えば、シリコンは1500nm光に対して透明であるが、可視光に対しては不透明である。従って、レーザーフィラメントは、この1500nm波長で発生する短パルスレーザー光を用いてシリコンに直接(即ち、エルビウムドープガラスレーザー)、或いは非線形混合(即ち、光パラメトリック増幅)によって結晶又は他の非線形媒体に形成されてもよい。
【0038】
可視スペクトル内で透明な基板では、レーザーフィラメントは白色光の生成をもたらし、これは、理論によって限定されるものではないが、基板内の自己位相変調によって生成されるものと考えられ、低減されたレーザーパルスエネルギー又はプラズマ発散などの要因によって、フィラメント端部の後に幅広の円錐角16でレーザーフィラメント形成域に出現することが観察される。
【0039】
フィラメントの長さ及び位置は、レンズ収束位置、対物レンズの開口数、レーザーパルスエネルギー、波長、持続時間及び繰返し数、各フィラメントトラックを形成するのに適用されるレーザーパルス数、並びに透明媒体の光学特性及び熱・物理特性によって容易に制御される。集合的に、これらの露光条件は、サンプルのほぼ全厚にわたって延在し、上面又は下面に入り込まずに終わる、十分に長く強いフィラメントを作成するように操作することができる。このように、表面のアブレーション及び屑は両方の表面で回避することができ、従って透明基板の内部のみが変性される。適切なビーム収束によって、レーザーフィラメントが終端し、透明プレートの下面におけるレーザー機械加工又は損傷が回避されるように、レーザービームが高い発散角16でガラスの下面を出るようにすることができる。
【0040】
図2は、(a)表面V字溝形成22を伴うレーザーフィラメント20の形成、(b)フィラメント形成が抑制されたV字溝形成を示す概略配置の側面図を示す。縁部が面取りされた性質を有するより高品質のスクライビングのため、フィラメントが透明材料の内部に生じ、表面の上からのアブレーションの結果である非常に鋭いV字溝を形成する、レーザー加工を準備することができる。クリーンなファセットが求められるか、又はより高速のスクライビング速度が考慮されるいくつかの用途では、フィラメントを抑制するか、又は完全に除去することができる。
【0041】
一実施形態では、方法は、フラットパネルディスプレイなどの光学ディスプレイガラス基板のスクライビング及び劈開に用いられる。フラットパネルディスプレイは二つのガラス基板のサンドイッチである。下側のガラス基板には、他の電気素子の中でも、回路、画素、コネクタ、及び/又はトランジスタが印刷されてもよい。基板間のギャップには液晶材料が充填される。LCDの左上縁部はオフセットなしにスクライブすることができるが、右下縁部は、一般的に、パッド領域と呼ばれる約5mmのオフセットを有し、全ての電子部品がこの領域を通してLCD素子に接続される。
【0042】
この領域は、フラットパネルディスプレイレーザースクライビング向けの高出力レーザーの使用を制限する主なボトルネックの源であるが、それは、上層のスクライビング中、下層の全ての回路類が損傷することがあるためである。フラットパネルデバイスをシミュレートするため、本発明者らは、コーティングしたミラーの表面に上側ガラス基板を載せた。二重ガラスプレートの上側ガラスのレーザーフィラメントスクライビング中に、一般に金属コーティングを含む下層に対する損傷を回避するため、上側ガラスプレート内に形成されるフィラメントの場所を調節するのが好ましい(上述の通り)。この実験による結果によって二つの重要な点が強調された。第一に、下側基板のパッド領域のコーティングを損傷することなくレーザースクライビングを達成することができ、第二に、下面に近い空間的位置にフィラメントがあるとき、下側の金属表面からの反射が上層の下面を機械加工又は加工して、底部にV字溝を作成してもよい。
【0043】
更なる調査によって、図3に示される方法が得られ、この図では、回折ビーム16は、適切な凹面鏡24又はミラーとレンズの組合せを用いて集中して戻されて、標的の下面を機械加工して第二のV字溝26を作り出す。装置は、下側からの第二のレーザー機械加工を使用することなく、下縁部にV字溝を作るという利益を有する。
【0044】
クリーンな又は光沢のあるファセットが求められるいくつかの用途では、ガラスの上層及び下層に鋭いV字溝を作成するのに図4の配置が用いられてもよい。この動作モードでは、第二のビーム28及び対物レンズ30を付加することにより、レーザースクライビングによって両方の縁部が面取りされ、別の方法では洗浄及び乾燥が必要であろう更なる面取り又は研削を必要としない。劈開したサンプルの側面及び正面図が図5に示され、この図では、劈開後のV字溝32の表面が示されている。
【0045】
図6は、複数のフィラメントを同時に作成するため、透明プレートに複数の集中するレーザービームを送達する収束配置の一例を示す。ビーム10及び34は、周知のビームスプリッタデバイスを使用して単一のレーザー源から分離され、図示されるような別個のレンズ12及び36によって収束されてもよい。或いは、回折光学系、多重レンズ系、及びハイブリッドビームスプリット及び収束系を、光学専門家には周知の配置に用いて、異なる物理的位置、方向、角度、及び深さでプレートに入る複数の集中するビームが作成されてもよい。このように、プレートの複数部分に同時にレーザー書込みし、加工速度を全体的に高めるため、複数の変性トラックに沿って後でスクライブできるように、フィラメント形成変性トラック18が直線又は曲線経路に平行に作成される。
【0046】
図7は、第一のレーザー露光ステップとして、変性トラック40の配列38を上側透明基板42のみに制限するレーザーフィラメント形成書込み(図7(a))と、それに続く、第二のレーザーパスにおける変性トラック46の配列44を下側透明基板48内部のみに制限するフィラメント形成書込み(図7(b))との二つの異なる収束条件に対する概略配置を示す。レーザー露光は、各レーザーパスの間、四つの表面のいずれにおいてもアブレーション又は他のレーザー損傷及びアブレーション屑の生成を回避するように調整される。上側プレートのスクライビング中、下層には損傷は起こらず、その逆も起こらない。
【0047】
この片面加工の一つの利点は、第一のプレートが集中するレーザービーム50に対して透明であるので、第二のプレート48にアクセスするために透明プレートのアセンブリを裏返す必要がないことである。例えば、第二のパスにおいてレンズ12を上側ガラスプレート42に近付けることによって(図7b)、フィラメント形成は第一のプレート内では始まらず、完全に近いレーザーエネルギーが第二のプレートに入り、そこで次にフィラメント形成が始まる。この方策の第二の利点は、同じスクライビングステップ中に類似したラインに沿って二つのプレートを分離できることであり、これはフラットパネルディスプレイの組み立てられた透明プレートの場合に特に魅力的である。この方法は複数の透明プレートに拡張可能である。
【0048】
図7(c)は、二つ以上の透明プレート42及び48で同時にレーザーフィラメント形成を引き起こす配置を示す。この方法によって、フィラメント形成変性トラック38及び44のほぼ同一の形状又は経路を形成する、両方の透明プレートのワンパス露光が可能になる。この場合、レーザーパラメータは、第一のフィラメント38又はフィラメントトラック40の配列を上側プレート42内に作成するように調節されるので、フィラメント形成は、例えばプラズマ発散によって、上側プレートの下面に達する前に終端する。分散するレーザービームは、アブレーション、光学的破壊、又は上側プレートの下面、二つのプレート間の媒体、及び下側プレート48の上面に対する他の損傷を防ぐため、第一のフィラメントトラックを形成した後に十分に拡大される。
【0049】
しかし、この領域での伝搬中、自己収束が持続し、その結果、下層の透明プレート48のみに制限される第二のフィラメント44が作成される。そのため、単一のレーザービームが、二つ以上の分離されたフィラメント38及び44を同時に形成し、それが二つ以上の積み重ねられたプレートに同時に平行な変性トラック40及び46を作り出す。このように、二つ以上の透明プレートのアセンブリを、ほぼ平行なフィラメント形成トラックに沿って、一つの劈開ステップで全ての透明プレートを通してスクライブ又は分割することができる。透明プレート間の媒体は良好な透明度を有さなければならず、空気、ガス真空、液体、固体、又はそれらの組合せから成ってもよい。或いは、透明プレートは、いかなる間隔も有さずに物理的に又はほぼ物理的に接触していてもよい。この方法は、多層が積み重ねられた透明プレートにおけるフィラメント加工に拡張可能である。
【0050】
図8は、二層若しくは多層が積み重ねられた又は層化された透明プレート及びアセンブリを加工するための、多重ビームフィラメント化スクライビング方法(最初に図4で示したもの)の別の実施形態を提供する。物理的に分離された又は接触している透明プレートに独立し隔離されたフィラメント38及び44を作成するため、二つの集中するレーザービームがプレートアセンブリ42及び48に示される。レーザー露光条件は、各プレートのフィラメントを局所化するように、各レーザービーム10及び28に対して調節される(即ち、レンズ12及び30の垂直変位による)。次に、類似した又はオフセットされた位置に、類似した又は異なる角度及び深さでフィラメントトラックが形成される。光学プレートのスタック又はアセンブリがバッチプロセスで一単位として分離されるように、フィラメント形成トラックは同時に劈開されてもよい。上側及び下側のビームは、従来のビームスプリッタを使用して共通の光源から提供されてもよく、又は二つの異なるレーザー源から発生してもよい。上側及び下側のビームは、共通軸に沿って整列されるか、又は空間的にオフセットされてもよい。好ましくは、二つのビームの相対的な空間的位置付けは設定可能である。
【0051】
図9(a)は、各層が二つの場所で加工され、但し一対のフィラメント52及び54は整列され、別の対のフィラメント56及び58は相互に横方向にオフセットされる、二層ガラス(プレート42及び48から形成される)の加工方法を示す。かかる配置は、各プレートが別個のレーザービームによって加工される、図8に示される方法を使用することによって得ることができる。或いは、フィラメントは図7に示される方法の一つを使用して加工されてもよい。
【0052】
図9(b)は、好ましくは図7に示される方法が用いられる、フィラメントが上側プレート42及び下側プレート48の両方に形成されるとともに、各ガラスの上に溝(60、62、64、及び66)が形成される、類似の配置を示す。同様に、図9(c)は、各プレート42及び48の表面にV字溝68、70、72、及び74のみが展開される例を示す。下側ガラスのV字溝又はフィラメントは、図4及び図8に示されるのと類似の装置を使用して下面に形成できることに留意されたい。
【0053】
フラットパネルディスプレイの文脈では、下層の上面にV字溝を設けるには、パッド領域に追加の接続を機械加工する必要があることに留意されたい。更に、接続の陰影効果により、フィラメントは全ての場所に生じない。それでもなお、基板は完全なファセットの見た目を伴わずに比較的簡単に劈開されてもよい。場合によっては、縁部は研削によって改善されてもよい。
【0054】
図10は、図8に示されるような方法を使用して、スクライビング後に二層ガラスに結果として形成されるフィラメント及びV字溝を示す。上述したように、上側プレートは上からスクライブされ、下側プレートは下からスクライブされて、V字溝76及び78が形成される。V字溝、フィラメント、又はそれらの組合せ(図面に示されるような)が形成されてもよい。図示されるように、上側及び下側のフィラメントはオフセットされてもよく、その際、上側プレートのフィラメント56及びV字溝64は、下側プレートのフィラメント58及びV字溝78に対して空間的にオフセットされる。或いは、上側及び下側のフィラメントは整列されてもよく、その際、上側プレートのフィラメント52及びV字溝60は、下側プレートのフィラメント54及びV字溝76と空間的に整列される。かかる構成では、フィラメント及びV字溝の形成はこの構成では容易に達成可能であり、スクライブされた領域は劈開中に効率的に分離される。概して言えば、上層の劈開は比較的簡単に生じるが、本発明者らは、場合によっては、下層には慎重に注意するのが当然であり、劈開ステップ前に劈開ローラを適切に調節するのが必要なことがあると判断している。当業者であれば、所望の劈開品質が得られるローラ構成を選択することによって調節が行われてもよいことを容易に認識するであろう。
【0055】
光通信業界における新しい手法としては、スタックを形成する透明プレートの多層アセンブリが含まれる。例えば、タッチスクリーンLCD及び3D LCDは三層のガラスを用いる。かかる多層スタック80の並列加工が図11に示され、この図では、スクライブライン82はスタックの各プレートに設けられるものとして示される。図7(a)及び7(b)に示されるように、かかるスタックの複数のプレートは、対物レンズ12の作動距離を変動することによって加工されてもよく、それによってスタック内の複数のプレートを独立してスクライブすることが可能になる。スクライビングは両方の表面から行うことができる(図7に示される方法に類似)。ここに示す特定例では、上側の収束装置のみが示される。
【0056】
以下の実施例は、当業者が本開示を理解し実施できるようにするために提示される。実施例は、本明細書で提供する実施形態の範囲に対する限定としてではなく、単にそれらの例証及び代表として見なすべきである。
【実施例】
【0057】
選択された実施形態を実証するため、38MHzの繰返し数で100fsのパルスを生成する有効波長約800nmのパルスレーザー系を使用して、ガラスプレートをレーザー加工した。レーザー波長は、ガラスプレートが透明である赤外線スペクトル領域内にあるように選択した。収束光学系は、およそ10μmのビーム焦点を提供するように選択した。最初に、8パルスのパルス列を適用し、パルスのバーストが繰返し数500Hzで生じるパルス列を形成するようにレーザー系を構成した。更に後述するように、上述の実施形態の様々な構成を用いた。
【0058】
図12(a)〜(c)は、レーザー露光直後に研磨した縁部ファセットを通して見た、厚さ1mmのガラスプレートの側面図の顕微鏡画像を示す。内部フィラメント構造を見るため、この例ではプレートをフィラメントトラックに沿って分離しなかった。上述したように、繰返し数38MHzの8パルスの単一のバーストを適用して、各フィラメントトラックを形成した。更に、バースト列を繰返し数500Hzで示す一方、5mm/sの中速でサンプルを走査し、それによって10μm周期でフィラメントトラックを個々のトラックに分離した。フィラメント形成変性トラックは、この収束配置の場合の理論上は焦点スポット径である10μmよりも小さい約3μm未満の直径を有することが観察され、非線形の自己収束プロセスが観察されたフィラメント形成を生じさせることが証明された。
【0059】
サンプル内のフィラメントの形成に対する制御を例証するため、サンプル内におけるレーザービームの幾何学的焦点をレンズとサンプル間の変位によって変動させた。図12(a)では、ビーム焦点はプレートの下部付近に位置付け、図12(b)及び12(c)では、ビーム焦点はそれぞれプレートの中間及び上部付近に置いた。図12(a)及び12(b)は、ガラスプレート内部を通して形成されたフィラメントトラック(84、86、88、及び90)の複数層を示す。顕著には、フィラメントは、上述したように発散及び再収束によって複数の深さで作り出される。
【0060】
このように、図12は、プレートの表面に対するフィラメント形成トラックの制御された位置付けを実証している。図12(a)では、ビーム焦点がプレートの下部付近に置かれ、フィラメントはプレートの上半分に形成され、プレートの全厚にわたって延在しない。図12(c)では、ビーム焦点がプレートの上部付近に位置付けられ、およそ200μmの比較的短いフィラメント92がプレートの中央に形成され、上面アブレーション及びアブレーション屑が明白である。スクライビングの好ましい形態が図12(b)に示され、この図では、表面に達することなく透明プレート厚さのほとんどを通しておよそ750μmのフィラメントの長い帯が延在する。この領域では、アブレーション機械加工又は他の損傷はこれら表面の両方において発生しなかった。
【0061】
図12のフィラメントトラックの間隔は厚さ1mmのガラスプレートを劈開するのに十分であるが、フィラメント配列によって規定される所望の経路に沿ってプレートを劈開するには、適度に高い機械的力が求められることが見出された。いくつかの試験において、ガラスが時々レーザー変性トラックの外部まで劈開されることが観察された。従って、かかる厚い(1mm)プレートを劈開するには、フィラメントトラックのより接近した間隔(即ち、より小さい配列ピッチ)が好ましい。
【0062】
当業者であれば、配列間隔及びフィラメント深さに対する適切な値は、所与のプレートの材料タイプ及びサイズに依存することを容易に認識するであろう。例えば、厚さは等しいが材料組成が異なる二つのプレートは、配列間隔及びフィラメント深さに関して異なる適切な値を有してもよい。所与のプレート材料及び厚さに対する適切な値の選択は、所望の劈開品質及び求められる劈開力が得られるように、配列間隔及びフィラメント深さを変動させることによって達成されてもよい。
【0063】
再び図12を参照すると、配列ピッチは10μmであり、観察されたフィラメント径はおよそ3ミクロンなので、理論上のレーザースポット径10μmと比べて狭い領域のみが熱に影響される。他のレーザー材料加工方法では、小さな熱影響部を得ることは困難である。本発明の方法の一つの特定の利点は、図12に示される結果によって証明されるように、上面及び下面の熱影響部の幅がほぼ同じに見えることである。これは本発明の方法の重要な特性であるが、それは、フィラメント形成の特性が形成の間実質的に制限され続け、そのことがプレートを正確に劈開するのに望ましいためである。
【0064】
図13(a)及び13(b)は、図12(b)に示されるサンプルに関して記録されるような、ガラスサンプルの上面及び下面それぞれに収束させた光学顕微鏡画像を示す。これらの表面の間には、顕微鏡の焦点深度が制限されることにより、変性域がいずれかの表面から物理的に100μm超過のときに予期されるように、内部フィラメント形成変性は焦点が合わなく見える。画像から、表面それぞれにレーザーアブレーション、物理的な損傷、又は他の変性が全くなく、一方でレーザー変性トラックに沿った内部形成のみを支援していることが明らかである。
【0065】
フィラメント形成変性域の幅は、顕微鏡の焦点をガラスの内部に当てたとき、約10μmであることが観察された。この幅は、隔離されたレーザーフィラメントの場合、図12に見られる3μmの変性直径を上回り、コントラストがより低い変性域(図12では見えない)に覆われている狭い高コントラストのフィラメントトラック(図12に見える)の異なる領域によるものとされる。理論によって限定されることを意図しないが、蓄積的な変性プロセスによるものとされるこの低コントラスト域(即ち、熱影響部)は、バーストの複数のパルスによって引き起こされる。
【0066】
フィラメント形成変性域は、本発明のガラスサンプルにおける数百ミクロンの深さ範囲全体にわたって、近見コントラスト10μmの幅を維持し、そのことが自己収束現象を明白に実証している。従って、フィラメント形成変性は、かかる加工に関して10μmの「内部」切溝幅又は熱影響部を示す。しかし、表面に損傷又は物理的変化がないことは、一般的に実装された他の構成要素(塗料、電子部品、電極、パッケージ、電気光学部品、MEMS、センサ、アクチュエータ、微小流体など)のみが見られる表面において、はるかに小さい又はほぼゼロの切溝幅が事実上利用可能であることを示している。従って、透明基板又はウェハの表面におけるほぼゼロの切溝幅は、レーザー加工中のかかる構成要素に対する損傷又は変性を回避するための加工上の重要な利点である。これは、レーザーフィラメント化スクライビングに関して本開示の重要な性質の一つであるが、それは、物理的な変性が、高感度の構成要素又はコーティングから離れてバルク透明媒体の内部に制限されることがあるためである。
【0067】
劈開を容易にするため、図12(b)に示されるようなレーザー露光条件を類似の厚さ1mmのガラスサンプルに適用するとともに、フィラメントトラックをより近接又は稠密な間隔にするため、より低速の走査速度を使用した。個々のフィラメントトラックは、光学顕微鏡使用によって分解可能ではなくなった。図14(a)は、ほぼ連続的なレーザーで形成したフィラメント形成面に沿ってサンプルを機械的に劈開した後の、端部ファセットの図を示す。これらの条件下では、機械的劈開を引き起こすのに要する力又は圧力は非常にわずかであった。劈開は、フィラメントトラックに正確に追随し、トラックの全長を容易に伝搬してサンプルを分離した。結果として得られるファセットは、非常に平坦であり、屑、チップ、及びベントがない鋭利に規定された縁部を備えた。
【0068】
光学モルフォロジーは、一般に平滑であってクラックがない数十ミクロンの特徴サイズを有する、波型構造によって相互に分散した平滑な劈開表面を示す。平滑なファセット領域は、図12に示されるような図において、フィラメント形成トラックがほとんど又は全く観察されなかった領域に相当する。鋭利に規定された上面及び下面縁部は、フィラメント形成を完全にガラスプレート内に制限し、表面のアブレーションを防ぐように、レーザー露光を制御することによって得られてもよい。この場合のレーザーフィラメント形成相互作用は、レーザー露光経路によって規定される内面又は表面形状に沿って生じる高応力勾配を生成する。この応力場によって、レーザー露光によって制御された経路で透明媒体を正確にスクライブするための新しい手段が可能になる。
【0069】
図14(b)は、劈開後の図12(b)に示される厚さ1mmのガラスサンプルの側面光学画像を示す。このレーザー露光中に適用される走査速度はより高速であるため、粗いフィラメント間隔(10μm)により、発生する過大応力はより少なかった。結果として、プレートを分離するのにより多くの機械的力が必要であった。この場合、劈開したファセットは、微小割れ、ベントを含み、走査速度がより遅い図14(a)の例に見られるよりもモルフォロジーがより荒削りであるか又は粗かった。微小割れは、パッケージング又は後に続く加工ステップにおいて、或いは、デバイスの動作又は寿命に対する損害を早める恐れがある適用分野における熱サイクルによって、より大きな割れにつながることがあるので、かかる微小割れは多くの用途においてあまり望ましくない。
【0070】
ガラスに関して図12〜14に示されるレーザーフィラメント形成及びスクライビングの実施例は、短パルスレーザーを用いてフィラメントを形成する高繰返し数の方法において上述の実施形態が用いられることを明白に実証している。各フィラメントは、8パルスの単一のバーストを用いて形成し、パルスは26nsの差で分離され、各パルスは40μJのエネルギーを有していた。かかるバースト条件下では、熱蓄積及び他の過渡効果はパルス間の短時間では散逸しないので、先行するパルスのフィラメント形成カラム(プラズマチャネル)内において、後に続くレーザーパルスの相互作用が向上する。そのため、レーザーパルスが低い繰返し数で適用された場合よりも、はるかに簡単に、はるかに長い長さにわたって、低いパルスエネルギーで、高い再現性で、且つ制御が改善されてフィラメントが形成された。
【0071】
図15(a)は、500Hzの低い繰返し数(レーザーパルス間は2ms)でフィラメントが形成された、厚さ1mmの劈開したガラスプレートの顕微鏡画像を示す。走査速度は、相互作用部位毎に8パルスを送達するように調節し、各パルスは上述のバースト列の実施例で使用されたものと同じ40μJのパルスエネルギーを有していた。従って、バースト(図12〜14)及び非バースト(図15)両方の場合のビーム送達において、フィラメント一本当たりの合計露光は320μJであった。非バーストの場合(図15(a))におけるパルス間の長い時間分離によって、次のレーザーパルスが到達する前に材料変性力学が全て確実に緩和される。これによって、熱蓄積及び他の過渡効果がパルス間の長い間隔で完全に緩和されるので、あらゆるフィラメント形成向上の効果が排除される。
【0072】
理論によって限定されることを意図しないが、材料変性力学の緩和は、フィラメントを作成し、本発明のガラス基板内で内部変性を引き起こす際の、レーザー・材料間相互作用全体が大幅に弱まることに結び付くと考えられる。結果として、非バーストレーザー相互作用は、図15(a)に示されるようにガラス上面付近の非常に小さい体積で起こる。更に、レーザー相互作用は、ファセットの上側100μmの粗面として図15(a)に見ることができる、ガラス内部の小さな体積のキャビティを作り出した。かかるレーザートラックに沿った信頼性の高いスクライビングを可能にするため、レーザーを(図15(a)の例よりも)はるかに低速でサンプルに通し、且つ/又は同じトラックにレーザーの複数の繰返しパスを適用して、十分に強い内部変性を構築する必要がある。
【0073】
バースト列フィラメント書込みと直接比較すると、図15(b)は、フィラメントがそれぞれ、パルス当たり320μJのエネルギー(即ち、バースト列当たり320μJ、列には単一のパルス)で500Hzの低い繰返し数で形成された、類似したガラスプレートの縁部ファセット画像を示す。図15(a)における低い繰返し数の8パルス露光よりもはるかに長いフィラメント(約180μm)が観察された。表面アブレーション又は他のレーザー損傷を回避するため、フィラメントはバルクガラス内に深く埋まっている。それでもなお、観察されたフィラメント長さは、類似の平均フルエンスでバーストフィラメント形成に関して観察されたものよりも短かった。図15(a)及び15(b)の両方の場合において、観察目的のため、共通の高速の走査速度を適用してフィラメント配列の間隔を広くした。
【0074】
従って、これらの結果は、レーザー露光のパルスの性質を変動させることによって、フィラメントの性質を容易に操作できることを例証する。換言すれば、エネルギー、波長、及びビーム収束条件(即ち、開口数、サンプルの焦点位置)のパラメータに加えて、パルスパラメータを調整して所望のフィラメントプロファイルを得ることができる。特に、パルスバーストにおけるパルス数及び連続パルス間の遅延時間を変動させて、作り出されるフィラメントの形態を制御することができる。上述したように、一実施形態では、フィラメントは、各フィラメントを生成するためのパルスのバーストを提供することによって作り出され、その際、各バーストは、材料変性力学全てが緩和されるための時間スケールよりも短い相対遅延を有する一連のパルスを含む。
【0075】
単一板ガラスのスクライビング、フラットパネルガラスのスクライビング、シリコン及び/又はサファイアウェハのスクライビングの工業用途では、信頼性が証明されているレーザー系を使用する、より高速のスクライビング速度に対する需要がある。かかる実施形態を実証するため、ピコ秒範囲のパルス持続時間を有する高繰返し数の市販の超高速レーザー系を使用して実験を行った。
【0076】
図16(a)に示されるように、V字溝からフィラメントが下に伝わっているV字溝を、厚さ700ミクロンのガラス基板に作成した。V字の深さ及び幅は約20μmであり、フィラメントは約600μmの長さまで延在していた。図16(b)は、ガラス基板の上面図を提供する。観察された切溝幅は約20μmであり、側面の約5μmの改鋳物で覆われていた。図面に示されるように、目に見える屑は表面に蓄積していなかった。図16(c)は、フィラメントがガラス基板に深く浸透してサンプルを劈開する助けになっていることを強調している、劈開後のガラスの正面図を示す。
【0077】
後続の実験では、フィラメント長さを最小限にするように収束条件を変えた。いくつかの用途では、フィラメント形成は望ましくなく、且つ/又はクリーンなファセットが望ましい。三つの異なるV字溝を示す側面図が図17に提供される。V字毎に面取りの角度が異なることに留意されたい。面取りの角度及び深さは、焦点及びビームの広がりを変えることによって調節することができる。V字溝の幅、深さ、及び鋭さは、一般に、溝がU字形を有し、多量の屑が表面に蓄積する、より広い切溝幅又はより短い深さ構造を作り出す他のレーザースクライビング技術と比較して高品質なものである。
【0078】
図18は、図7(c)によって記載される方法及び配置によって、厚さ400μmの二層ガラス二枚のアセンブリにおける同時のレーザーフィラメント化スクライビングを示す。単一レーザービームを上側ガラスプレートに収束させて、長いフィラメントを形成した。レーザービームは、二つの中間ガラス面に損傷を与えることなくエアギャップを通過した。しかし、自己収束効果によって第二のフィラメントが作られて、同じビームで第二の(下側)プレートに生じたので、二つのフィラメントトラックが薄いガラスプレートそれぞれに別個に形成された。
【0079】
図18(a)は、劈開前のスクライブした積層ガラスの側面図を示し、図18(b)は、劈開後の上層及び下層ガラスの前面の光学顕微鏡画像を示す。変性トラックは、大部分がガラスのバルク内に制限され、従って、アブレーション屑又は微小割れはいずれの表面にも存在しなかった。フィラメント形成変性の切溝幅は、両方のプレートで10μm未満であり、これはレーザーの熱影響部を表す。個々のフィラメントトラックは分解可能であり、その周りに内部応力場が生成されて機械的スクライビングが可能になった。ファセットはクリーンな平坦面を有し、フィラメントトラックの周りにわずかな程度しか適応しないことが観察できる。縁部は比較的鋭く、微小割れがなかった。ファセットは、全体的に研削面の外観を有し、「レーザー研削」によって作り出されていると言ってもよい。かかるクリーンで「レーザー研削」された表面は、緊密な間隔であって好ましくは相互に隣接したフィラメントを作成することによって得られてもよい。
【0080】
図12〜18の光学顕微鏡画像それぞれについて、ガラスサンプルは、レーザー露光に続いて、又は劈開ステップ後にいかなる洗浄ステップも伴わず、レーザー露光によって加工されたものとして提示されることに留意されたい。
【0081】
低繰返し数及び高(バースト)繰返し数のフィラメント形成の本発明による方法は、約30fs〜10psの範囲で試験したパルス持続時間に関して、ガラスに有効であることが見出された。しかし、当業者であれば、他の材料に好ましいパルス持続時間範囲は異なってもよいことを認識するであろう。当業者であれば、パルス持続時間を変動させ、作成されたフィラメントの特性を検査することによって、他の材料に適したパルス持続時間を判断してもよい。
【0082】
理論によって限定されることを意図しないが、本明細書に開示する実施形態は、自己収束を用いて透明材料にフィラメント(プラズマチャネル)を生成すると考えられる。従って、大部分の透明媒体でカーレンズ自己収束を推進するのに適切な高強度を生成するには、1フェムト秒〜100psの範囲のレーザーパルス持続時間が、本開示の実用的な動作領域であると見なされる。
【0083】
本開示はまた、収束した持続時間の短いレーザー光による不均一な加熱によって、透明基板に熱勾配が形成されると予測する。かかる効果は、パルスのバースト列が適用されたときの熱蓄積効果によって強化されてもよい。この領域では、熱レンズ効果は、フィラメント又は長焦点チャネルを生成して、スクライビング用途のために透明材料にフィラメント変性トラックを作り出す代替手段として役立つ。
【0084】
透明媒体のフィラメント形成変性によって、一般的には平坦な又は湾曲したプレートの形態である透明材料の、迅速で損傷の少ない個片化、ダイシング、スクライビング、劈開、切断、及びファセット処理が可能になり、従って多数の製造用途に役立つ。方法は、一般に、フィラメントが生じてもよいあらゆる透明媒体に適用される。ガラス材料の場合、これは、液晶ディスプレイ(LCD)、フラットパネルディスプレイ(FPD)、有機ディスプレイ(OLED)、ガラスプレート、多層薄型ガラスプレート、自動車ガラス、管材料、窓、バイオチップ、光センサ、平面光波回路、光ファイバー、飲用ガラス製品、及び工芸品のダイシング又は劈開を含む。シリコン、III-V、及び他の半導体材料などの結晶、特に薄型ウェハ状のものの場合、用途は、超小型電子チップ、メモリチップ、センサチップ、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)、垂直共振器表面発光レーザー(VCSEL)、及び他の光電子デバイスの個片化を含む。このフィラメントプロセスは、透明セラミックス、ポリマー、透明導体(即ち、ITO)、広バンドギャップガラス及び水晶(石英、ダイヤモンド、サファイアなど)のダイシング、切断、穿孔、又はスクライビングにも適用されるであろう。用途は、かかるフィラメント形成加工が容易になるように少なくとも一つの材料成分がレーザー波長に対して透明である、全ての複合材料及びアセンブリにまで及ぶ。例としては、シリカオンシリコン、シリコンオンガラス、金属コートガラスパネルディスプレイ、プリント回路基板、超小型電子チップ、光回路、多層FPD又はLCD、バイオチップ、センサ、アクチュエータ、MEM、微小総合分析システム(μTAS)、及び多層ポリマーパッケージングが挙げられる。
【0085】
上述した特定の実施形態は一例として示されており、これらの実施形態は様々な修正及び代替形態を許容してもよいことを理解すべきである。更に、請求項は、開示した特定の形態に限定されるのではなく、それよりもむしろ、本開示の趣旨及び範囲内にある全ての修正、等価物、及び代替物を包含しようとするものであることを理解すべきである。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図7c
図8
図9a
図9b
図9c
図10
図11
図12
図13
図14a
図14b
図15
図16a
図16b
図16c
図17
図18a
図18b