特許第6646680号(P6646680)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6646680トリコテセン変換アルコールデヒドロゲナーゼの使用、トリコテセンの変換方法およびトリコテセン変換添加物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646680
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】トリコテセン変換アルコールデヒドロゲナーゼの使用、トリコテセンの変換方法およびトリコテセン変換添加物
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/04 20060101AFI20200203BHJP
   C12Q 1/32 20060101ALI20200203BHJP
   A23L 5/20 20160101ALI20200203BHJP
   A23K 10/14 20160101ALI20200203BHJP
   C07D 493/10 20060101ALN20200203BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20200203BHJP
   C12N 15/70 20060101ALN20200203BHJP
   C12N 15/81 20060101ALN20200203BHJP
【FI】
   C12N9/04 EZNA
   C12Q1/32
   A23L5/20
   A23K10/14
   !C07D493/10 C
   !C12N15/53
   !C12N15/70 Z
   !C12N15/81 100Z
【請求項の数】20
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-550569(P2017-550569)
(86)(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公表番号】特表2018-509173(P2018-509173A)
(43)【公表日】2018年4月5日
(86)【国際出願番号】AT2015000048
(87)【国際公開番号】WO2016154640
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年11月21日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516059569
【氏名又は名称】エルベル・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビンダー,エファ−マリア
(72)【発明者】
【氏名】ベーバー,バルバラ
(72)【発明者】
【氏名】ベルナルト,クラウディア
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−159079(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/133462(WO,A1)
【文献】 特表2012−502633(JP,A)
【文献】 特開2000−032985(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0263827(US,A1)
【文献】 特表2002−500038(JP,A)
【文献】 Journal of Bioscience and Bioengineering (2001) Vol.92, No.6, pp.524-531
【文献】 Database UniProt [online], Accession No. A0A087LLP8, 29-OCT-2014 [retrieved on 28-AUG-2018], ZHOU T. et al., Subname: ATP-binding protein
【文献】 Database UniProt [online], Accession No. A0A024KGA8, 09-JUL-2014 [retrieved on 28-AUG-2018], ONYANGO M. et al., Subname: Quino(Hemo)protein alcohol dehydrogenase, PQQ-dependent
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00
C12N 1/00−3/00
A23L 5/00
A23K 10/00
C12N 15/00
C07D 493/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C−3原子上にヒドロキシル基を示す少なくとも1つのトリコテセンの変換のための、Mg2+、Ca2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+及びCu2+からなる群から選択される金属イオンとキノン補因子とを含有する、配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼ、および、
さらに、PMS、カリウムヘキサシアノフェラート(III)、補酵素Q1、補酵素Q10、シトクロムC及びメチレンブルーからなる群から選択される少なくとも1つのレドックス補因子、
の使用。
【請求項2】
C−3原子上にヒドロキシル基を示す少なくとも1つのトリコテセンの変換のための、
Mg2+、Ca2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+及びCu2+からなる群から選択される金属イオンとキノン補因子とを含有する配列番号2〜4のいずれか1つのアルコールデヒドロゲナーゼ、および
さらに、PMS、カリウムヘキサシアノフェラート(III)、補酵素Q1、補酵素Q10、シトクロムC及びメチレンブルーからなる群から選択される少なくとも1つのレドックス補因子、
の使用。
【請求項3】
キノン補因子が、PQQ、TTQ、TPQ、LTQおよびCTQからなる群から選択される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
キノン補因子が、Ca2+およびMg2+からなる群から選択される少なくとも1つの金属イオンによってアルコールデヒドロゲナーゼに結合されることを特徴とする、請求項1、2または3に記載の使用。
【請求項5】
少なくとも1つのレドックス補因子が、PMS、補酵素Q1および補酵素Q10からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
食品もしくは飼料において、または
食品もしくは飼料の、製造または加工に使用される植物ベース原料において、
C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンの変換が行われることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
C−3原子上にヒドロキシル基を示す少なくとも1つのトリコテセンを、Mg2+、Ca2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+及びCu2+からなる群から選択される金属イオンとキノン補因子とを含有する、配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼと
さらに、PMS、カリウムヘキサシアノフェラート(III)、補酵素Q1、補酵素Q10、シトクロムC及びメチレンブルーからなる群から選択される少なくとも1つのレドックス補因子および水を共に接触させることを特徴とする、
トリコテセンの酵素利用変換のための方法。
【請求項8】
C−3原子上にヒドロキシル基を示す少なくとも1つのトリコテセンを、Mg2+、Ca2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+及びCu2+からなる群から選択される金属イオンとキノン補因子とを含有する配列番号2〜4からなる群から選択されるアルコールデヒドロゲナーゼと、さらに、PMS、カリウムヘキサシアノフェラート(III)、補酵素Q1、補酵素Q10、シトクロムC及びメチレンブルーからなる群から選択される少なくとも1つのレドックス補因子および水を共に接触させることを特徴とする、トリコテセンの酵素利用変換のための方法。
【請求項9】
C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンが、5℃〜55℃の温度で変換される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
C−3原子上にヒドロキシル基を示す少なくとも1つのトリコテセンを、前記金属イオンとキノン補因子とを含有する、配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼと
レドックス因子および水を共に、少なくとも1分間にわたって接触させることを特徴とする、請求項7または9に記載の方法。
【請求項11】
キノン補因子が、PQQ、TTQ、TPQ、LTQおよびCTQからなる群から選択されることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
キノン補因子が、Ca2+およびMg2+からなる群から選択される少なくとも1つの金属イオンによってアルコールデヒドロゲナーゼに結合されることを特徴とする、請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つのレドックス補因子が、PMS、補酵素Q1および補酵素Q10からなる群から選択されることを特徴とする、請求項7〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
Mg2+、Ca2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+及びCu2+からなる群から選択される金属イオンとキノン補因子とを含有する、配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼ、
を含有することを特徴とするトリコテセン変換添加物。
【請求項15】
Mg2+、Ca2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+及びCu2+からなる群から選択される金属イオンとキノン補因子とを含有する、配列番号2〜4の群から選択されるアルコールデヒドロゲナーゼを含有することを特徴とするトリコテセン変換添加物。
【請求項16】
PQQ、TTQ、TPQ、LTQおよびCTQからなる群から選択されるキノン補因子を含有することを特徴とする、請求項14または15に記載の添加物。
【請求項17】
Ca2+およびMg2+からなる群から選択される少なくとも1つの金属イオンによってアルコールデヒドロゲナーゼに結合されるキノン補因子を含有することを特徴とする、請求項14、15または16に記載の添加物。
【請求項18】
PMS、カリウムヘキサシアノフェラート(III)、シトクロムC、補酵素Q1、補酵素Q10およびメチレンブルーからなる群から選択される合成レドックス補因子を含むことを特徴とする、請求項14〜17のいずれか1項に記載の添加物。
【請求項19】
封入または被覆形態で存在することを特徴とする、請求項14〜18のいずれか1項に記載の添加物。
【請求項20】
トリコテセンマイコトキシン症の予防および/または治療のための化合物の製造のための、請求項14〜19のいずれか1項に記載の少なくとも1つの添加物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトリコテセン変換アルコールデヒドロゲナーゼの使用、トリコテセンの変換方法およびトリコテセン変換添加物に関する。
【背景技術】
【0002】
トリコテセン(trichothecene)は、マイコトキシンの頻繁に見出される群を代表し、これらとしては、とりわけ、デオキシニバレノール(deoxynivalenol)(DON、CAS番号51481−10−8)、T−2毒素(CAS番号21259−20−1)、HT−2毒素(CAS番号26934−87−2)、ニバレノール(nivalenol)(CAS番号23282−20−4)、フセラノン(fuseranon)−X(CAS番号23255−69−8)、スクリペントリオール(scripentriol)、15−アセトキシシルペノール(acetoxyscirpenol)(CAS番号2623−22−5)、4,15−ジアセトキシシルペノール(CAS番号2270−40−8)、トリコデルモル(trichodermol)(CAS番号2198−93−8)、ベルカリン(verrucarin)A(CAS番号3148−09−2)、ベルカリンJ(CAS番号4643−58−7)、イソトリコデルミン(isotrichodermin)(CAS番号91423−90−4)、ヒドロキシイソトリコデルミン(CAS番号344781−02−8)、カロネクトリン(calonectrin)(CAS番号38818−51−8)、T−2テトラオール(tetraol)(CAS番号34114−99−3)、デアセチルネオソラニオール(deacetylneosolaniol)(CAS番号74833−39−9)、ネオソラニオール(neosolaniol)(CAS番号36519−25−2)、アセチルネオソラニオール(CAS番号65041−92−1)、スポロトリキオール(sporotrichiol)(CAS番号101401−89−2)、トリコトリオール(trichotriol)(CAS番号109890−37−1)、サンブシノール(sambucinol)(CAS番号90044−33−0)およびクルモリン(culmorin)(CAS番号18374−83−9)が挙げられる。トリコテセン、特に、ボミトキシンとしても知られるDONは、幾つかのフザリウム(Fusarium)真菌、特にフザリウム・グラミネアラム(F.graminearum)およびフザリウム・クルモルム(F.culmorum)により産生されうる。これらの真菌は、トウモロコシ、種々のタイプの穀物、例えばコムギ、オートムギまたはオオムギのような作物を冒すが、通常、該真菌の侵襲は収穫前に生じる。そして真菌増殖またはマイコトキシン生成は、収穫前にも、または不適切な貯蔵の場合には収穫後にも、生じうる。
【0003】
国連食糧農業機構(FAO)の推定によると、世界中で農産物の25%がマイコトキシンで汚染されており、これは相当な経済的損失をもたらしている。2009年1月から2011年12月までの期間にI.RodriguesおよびK.Naehrer(Toxins,2012,4,663−675)によって世界中で行われた、より最近の研究において、合計23,781個のサンプルが分析され、そのうちの81%が少なくとも1つのマイコトキシンに関して陽性の試験結果を示し、59%がトリコテセン、特にDONに関して陽性の試験結果を示した。世界の全ての地域において、そして試験された全ての穀物および食糧の種類、例えばトウモロコシ、ダイズ粉、コムギ、コムギふすま、DDGS(乾燥蒸留かす)ならびに調理食物混合物において、トリコテセン、特にDONが、100%に及ぶ頻度で見出される場合があった。基本的な未加工食品だけでなく、コムギ粉、朝食シリアル、パスタ製品、パン、ペストリー、小児および乳児用コムギベース食品のような加工食品においても、トリコテセンの形跡が見出された。
【0004】
トリコテセンは以下の構造式:
【0005】
【化1】
(式中、別々の置換残基R1〜R5はトリコテセンのタイプに応じて異なる)を有する。エポキシ基に加えて、トリコテセンのC−3原子上の完全なアルファ−ヒドロキシ基が協同してその毒性作用をもたらすことは公知の事実である。C−3原子上にヒドロキシ基を有するトリコテセン型には、デオキシニバレノール、T−2毒素、HT−2毒素、ニバレノール、フセラノン−X、15−アセトキシシルペノール、4,15−ジアセトキシシルペノール、トリコデルモール、T−2テトラノール、デアセチルネオソラニオール、アセチルネオソラニオール、スポロトリキオール、トリコトリオール、サンブシノールおよびクルモリンが含まれる。
【0006】
デオキシニバレノール(DON)は特徴的なカルボニル基をC−8原子上に有し、以下の構造式
【0007】
【化2】
およびIUPAC名(3α、7α)−3,7,15−トリヒドロキシ−12,13−エポキシトリコテカ−9−エン−8−オンを有する。自然界には、C−3原子上にヒドロキシ基を有する幾つかの毒性DON亜型も見出される。これらの例としては、アセチル化DON(例えば、15アシルDON)、グリコシル化DON、DONスルホナート(例えば、DONS−1、DONS−2)またはDONスルファート(DON15スルファート)が挙げられる。これらのDON亜型も、C−3原子上にヒドロキシ基または置換ヒドロキシ基を有するトリコテセン型に属する。
【0008】
DONの毒性作用ゆえに、食品および飼料に関する所轄官庁によって、制限または最大レベルが定められている。例えば、欧州連合は食品中のDON含量を規制しており(EC番号1881/2006,EC番号1126/2007)、飼料に関する推奨最大レベルを示している(2006/576/EC)。米国においては、FDAが最大レベルを公表している。
【0009】
ヒトまたは動物においてマイコトキシンを摂取することにより引き起こされる疾患は、マイコトキシン症と称される。トリコテセンまたはトリコテセン型の場合、これらは「トリコテセンマイコトキシン症」、より詳細には「C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンにより引き起こされるマイコトキシン症」、より一層詳細には「DONマイコトキシン症」とも称される。動物およびヒトに対するトリコテセンの毒性作用が幾つかの要因に基づいていることは公知の事実である。これらの要因には、タンパク質生合成の抑制、セロトニンおよびドーパミン受容体との起こり得る相互作用、ならびに炎症性サイトカインのアップレギュレーションが含まれる(EFSA Journal 2004,73,1−41)。更に、DONマイコトキシン症は、血中IgA濃度の増加、肝臓におけるSOCS3濃度の増加または血漿中のIGFALSレベルの低下(Pestkaら,2004,Toxicol.Lett.153,61−73)および腸におけるクローディン濃度の低下(Pintonら,2009,Tox.Appl.Pharmacol.237,41−48)により診断されるとおり、バイオマーカーにおける変化を引き起こす。
【0010】
例えば、トリコテセンマイコトキシン症は、ブタにおいては、飼料摂取の減少、成長低下、嘔吐および下痢の発生ならびに免疫機能不全および腸内栄養素吸収障害により示される。家禽の場合には、トリコテセンマイコトキシン症は、とりわけ、飼料摂取の減少、体重増加の減少、下痢の発生および卵殻重量の減少を引き起こす。反芻動物の場合には、飼料摂取量の減少および乳生産の減少が記載されている。水産養殖においては、とりわけ、トリコテセンマイコトキシン症は、魚類(例えば、サケ、ナマズまたはマス)およびエビにおける飼料摂取の減少および成長率低下を引き起こす(Binderら,Guide to Mykotoxins;ISBN 978−0−9573721−0−8)。イヌおよびネコにおける毒性作用も記載されている(EFSA Journal 2004,73,1−41)。ヒトにおいては、トリコテセンマイコトキシン症は、とりわけ、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、頭痛または発熱を引き起こしうる(Sobrovaら,Interdisc.Toxicol.2010,3(3),94−99)。
【0011】
食品または飼料のトリコテセンまたはDON汚染の低減のための主な戦略は、例えば「適性農業規範」の遵守により、真菌の侵襲を抑制することである。これは、寄生虫および真菌を含有しない種子の使用、または作物残渣のすき込みを含む。更に、殺真菌薬の適切な使用により、圃場における真菌増殖が抑制されうる。収穫後、真菌増殖を防ぐために、作物は15%未満の残留湿度および低温で貯蔵されるべきである。同様に、真菌侵襲によって汚染された作物は、任意の更なる加工の前に除去されるべきである。このような列挙されている手段にもかかわらず、米国および中欧のような農林規格が最も高い地域でさえも、2009年〜2011年に試験された全てのトウモロコシサンプルの79%または72%がDONで汚染されていた、とI.RodrigesおよびK.Naehrer(2012年)は報告している。
【0012】
食品または飼料におけるマイコトキシン汚染を低減するための他の選択肢は、その吸着または変換である。吸着のためには、吸着剤へのマイコトキシンの結合が広いpH範囲にわたって強くかつ特異的であること、およびそれが胃腸領域において消化過程の全体において安定なままであることが必要である。幾つかの非生物学的吸着剤、例えば活性炭、シリケート、または合成ポリマー、例えばコレスチラミンは、アフラトキシンに対して効率的に使用されうるが、他のマイコトキシン、特にトリコテセンに対するそれらの使用は有効ではない。生物学的吸着剤、例えば酵母または酵母エキスも文献に記載されているが、それらは非生物学的吸着剤と同様の制限を有する。吸着剤の大きな欠点は、栄養に不可欠でありうる他の分子に対して起こり得るそれらの非特異的な結合である。
【0013】
また、DONは非常に安定であり、350℃までの熱処理でも安定なままであるため、物理化学的処理によるトリコテセンの変換、特に無毒化は制限される。
【0014】
考えうるDONの微生物利用変換はEP−B 1 042 449に記載されており、これによると、微生物BBSH 797(DSM 11798)がDONの無毒化に使用されている。ここでの無毒化は、DONのC−12およびC−13原子上のエポキシド環の開環に基づく。US 2012/0263827 Aは、国際カナダ国受託番号040408−1を有する微生物によるDONから3−epi−DONへの生物学的変換を記載している。しかし、多数の技術的な飼料または食品プロセスにおいては、微生物または吸着剤の混合は不可能であるか、あるいは法的に許可されず、したがって、DONまたはDON亜型のようなトリコテセンの変換または無毒化は不可能である。
【0015】
DONおよびDON亜型のようなトリコテセンはヒトまたは動物の体の胃腸管内に急速に吸収されるため、迅速で且つ標的化された無毒化が重要である。
【0016】
配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼは、2−ケトグロン酸の生成に関してJP−A 2003/159079に最初に記載された。WO 2009/133464は、食品および飼料におけるデンプンの酸化のための、特に製パン業においてパンの熟成過程を減速させるための、配列番号1の酵素を使用した糖の酸化のための方法を記載している。ここで、アルコールデヒドロゲナーゼは、炭水化物のヒドロキシル基の酸化のために使用される。
【0017】
配列番号2および3を有するアルコールデヒドロゲナーゼは、デボシア種(Devosia sp.)微生物のゲノム配列決定の過程で同定された。これらはNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のサーバー内に識別番号GI:737041022およびGI:630002266としてオンラインで保存されている。配列番号2および3を有するアルコールデヒドロゲナーゼの更に厳密な特徴づけは、この研究の過程では得られなかった。
【0018】
したがって、トリコテセンの毒性作用は様々であり、その発生は頻繁であるため、トリコテセンの特異的で安全で許容される変換、特に無毒化に使用されうる酵素のような物質または物質群が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】欧州特許第1 042 449号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2012/0263827号明細書
【特許文献3】特開2003/159079号公報
【特許文献4】国際公開第2009/133464号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】I.RodriguesおよびK.Naehrer,Toxins,2012,4,663−675
【非特許文献2】EFSA Journal 2004,73,1−41
【非特許文献3】Pestkaら,2004,Toxicol.Lett.153,61−73
【非特許文献4】Pintonら,2009,Tox.Appl.Pharmacol.237,41−48
【非特許文献5】Binderら,Guide to Mykotoxins;ISBN 978−0−9573721−0−8
【非特許文献6】Sobrovaら,Interdisc.Toxicol.2010,3(3),94−99
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、C−3原子上にヒドロキシル基を示す少なくとも1つのトリコテセンをより低い毒性の産物へと変換することを可能にする特異的アルコールデヒドロゲナーゼおよびその変異体を使用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この課題を解決するために、C−3原子上にヒドロキシル基を示す少なくとも1つのトリコテセンの変換のために、金属イオンとキノン補因子とを含有する配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼ、またはそれに加えて、少なくとも80%、好ましくは86%、特に好ましくは少なくとも89%の配列同一性を示す機能的変異体、および少なくとも1つのレドックス補因子を使用することにより、C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセン、例えばDON、T−2毒素またはニバレノールを、特異的かつ確実に変換することが可能となることが、驚くべきことに、本発明において実証された。
【0023】
変換は、毒素の構造が変化した場合に生じると理解され、この場合、毒素は、好ましくは、無毒性またはより低い毒性の代謝産物へと変えられる(すなわち、変換される)。この場合、構造変化は、特に、C−3ヒドロキシル基からケト基への触媒変換により、C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンのC−3原子上で起きる。驚くべきことに、本発明のアルコールデヒドロゲナーゼの使用は、バッファー、飼料マッシュ、唾液もしくは飼料含有胃液または飼料含有腸内容物のような最も多様な化学的および生物学的環境において、C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセン、特にDONの変換をもたらす。これは格別なことである。なぜなら、酵素活性のためのそれぞれの環境において、pH値、プロテアーゼ濃度、イオン強度または物質マトリックスのような重要なパラメーターが著しく異なるからである。結果として、該酵素の活性は、食品および飼料に、その経口摂取物に、そしてまた、口および胃腸管において、水を加えることによって保証されうる。ある環境においては、レドックス因子の外部からの添加が省略されうることは驚くべきことである。これは、特に、飼料混合物、唾液および胃液の場合に当てはまる。
【0024】
配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼは、キノン補因子依存的アルコールデヒドロゲナーゼである。活性ホロ酵素または活性アルコールデヒドロゲナーゼを生成するために、キノン補因子、好ましくはピロロキノリンキノン(PQQ)を、金属イオン、好ましくはCa2+の存在下で該酵素に結合させることが可能である。したがって、活性化アルコールデヒドロゲナーゼは、キノン補因子と金属イオンとの両方を含有し、ここで、酵素:キノン補因子のモル比は1:1である。更に、アルコールデヒドロゲナーゼの触媒活性のためにはレドックス補因子が必要であり、レドックス補因子は、合成的に生成されたレドックス因子の形態で、活性化アルコールデヒドロゲナーゼに加えて使用されるか、あるいは、食品または飼料中におよび動物またはヒトの分泌物中にも存在するレドックス因子が使用されてもよい。例えば、ヒトまたは動物の口および胃腸管における食品または飼料の供与、咀嚼(verarbeitung)または消化の過程で、これらの天然レドックス補因子が形成され得、必要に応じて食品または飼料から抽出されうる。そのような天然レドックス補因子を含有するヒトまたは動物の分泌物の例としては、消化分泌物、例えば唾液、胃液、腸液、膵液、胆汁またはルーメン液(第一胃液)が挙げられる。
【0025】
「ポリペプチド変異体」または「変異体」なる語は、配列番号1と比較して少なくともアミノ酸置換を有し、酵素機能を保持する機能的ポリペプチドを意味する。変換、特に、トリコテセンのC−3原子上のヒドロキシル基からケト基への酸化は、酵素機能と理解される。更に、「ポリペプチド変異体」はまた、配列番号1のポリペプチド配列と比較した場合、アミノ酸の挿入または欠失をも有し得、特に、C末端またはN末端が伸長または短縮された配列を有しうる。この場合に酵素機能を「実質的に保持する」と言えるのは、酵素反応機構が不変のままである場合、すなわち、トリコテセンが同じ部位で酸化され、該変異体の酵素活性が配列番号1の元の親ポリペプチドに対して少なくとも10%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも90%、特に100%を超える場合である。
【0026】
「配列同一性」なる語は、配列同一性の割合(%)を意味する。アミノ酸配列およびヌクレオチド配列に関しては、配列同一性は視覚的に決定されうるが、好ましくはコンピュータープログラムによって計算される。配列番号1のアミノ酸配列は、参照配列と定められる。配列比較はまた、配列セグメント内で行われ、この場合、セグメントは、参照配列の連続する配列であると理解される。ペプチド配列に関する配列セグメントの長さは、通常は3〜200、好ましくは15〜65、最も好ましくは30〜50アミノ酸である。市販されているかまたは無料である多数のバイオインフォマティクスプログラムが、相同性を決定するために使用可能であり、そしてこれらは、更に実施され続けている。この例としては、GCG Wisconsin BestFitパッケージ(Devereuxら,1984)、BLAST(Altschulら,1990)またはBLAST 2(TatusovaおよびMadden,1999)が挙げられる。これらのアルゴリズムは、その様々な設定オプションにより、同じ入力配列に関して、異なる結果を与えることができる。したがって、検索アルゴリズムおよび関連設定が定められる必要がある。本件では、“National Center for Biotechnology Information”(NCBI,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)のホームページから入手可能であるNCBI BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラム、特に、ポリペプチドに関してはBLASTPを使用して、配列同一性を計算した。このように、Altschulら,1997(Nucleic Acids Res.,25:3389−3402)のアルゴリズムにより、2以上の配列を互いに比較することが可能である。ここでは、2014年8月12日付けのプログラムバージョンを使用した。特にアミノ酸比較のために、プログラム設定として、以下の基本設定を使用した:「最大標的配列」=100;「期待閾値」=10;「ワードサイズ」=3;「マトリックス」=BLOSOM62;「ギャップコスト」=「存在:11;伸長(extension):1」;「計算調整」=「条件付き構成スコアマトリックス調整」。
【0027】
金属イオンとキノン補因子とを含有する本発明のアルコールデヒドロゲナーゼまたはその機能的変異体を使用することにより、C−3原子上にヒドロキシル基を示す少なくとも1つのトリコテセン(特にDON)の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、特に少なくとも90%を変換することが可能であり、この場合、金属イオンとキノン補因子とを含有するアルコールデヒドロゲナーゼまたはその機能的変異体を、C−3原子上にヒドロキシル基を示す少なくとも1つのトリコテセンと、少なくとも1分間、好ましくは少なくとも5分間、特に少なくとも60分間接触させれば十分である。
【0028】
本発明のもう1つの実施形態においては、配列番号2〜4の群から選択される機能的変異体のアミノ酸配列が使用される。配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼに対して少なくとも86%の配列同一性を有するこれらの機能的変異体を使用して、C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセン、特にDONを、一貫して良好な結果で変換することが可能である。
【0029】
本発明のもう1つの実施形態においては、PQQ、TT、TP、LTおよびCTの群から選択されるキノン補因子、好ましくはPQQを使用した。キノン補因子であるピロロキノリンキノン(PQQ、CAS番号72909−34−3)、トリプトファントリプトフィルキノン(TTQ、CAS番号134645−25−3)、トパキノン(TP、CAS番号64192−68−3)、リジンチロシルキノン(LTQ、CAS番号178989−72−5)またはシステイントリプトフィルキノン(CT、CAS番号400616−72−0)の1つをアルコールデヒドロゲナーゼにおいて使用することにより、C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセン、例えばDONを、無毒性であるか又は毒物学的観点から無害である誘導体へと変換することが可能である。
【0030】
アルコールデヒドロゲナーゼへのキノン補因子の特に迅速かつ完全な結合は、Li、Na、K、Mg2+、Ca2+、Zn2+、Zn3+、Mn2+、Mn3+、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Cu3+、Co2+およびCo、好ましくはCa2+およびMg2+の群から選択される金属イオンの少なくとも1つによって結合されることにより達成される。
【0031】
フェナジンメトスルファート基(PMS)、PMS誘導体、カリウムヘキサシアノフェラート(III)、ナトリウムヘキサシアノフェラート(III)、シトクロムC、補酵素Q1、補酵素Q10、メチレンブルーおよびN,N,N’,N’−テトラメチル−p−フェニレンジアミン(TMPD)、好ましくはフェナジンメトスルファート(PMS、CAS番号:299−11−6)、補酵素Q1および補酵素Q10から選択される少なくとも1つのレドックス補因子をも使用することにより、トリコテセンの完全かつ迅速な変換が水分の存在下でのみ可能であり、それにより、飼料成分中に含有されるトリコテセンが、例えば飼料の製造中に、そしていずれの場合においても動物に使用される前に、無毒性誘導体へと既に変換されていることが保証される。PMS誘導体の例としては、1−ヒドロキシフェナジン、2−(ペンタプレニルオキシ)ジヒドロフェナジン、5,10−ジヒドロ−9−ジメチルアリルフェナジン−1−カルボン酸、5,10−ジヒドロフェナジン−1−カルボン酸、5−メチルフェナジニウムメチルスルファート、6−アセトフェナジン−1−カルボン酸、ベントフェニン、クロファジミン、ジヒドロメタノフェナジン、エスメラルド酸、エスメラルジンB、イズミフェナジンA−C、ヤヌスグリーンBカチオン、メタノフェナジンペラジオマイシンA、フェナジン、フェナジン−1,6−ジカルボン酸、フェナジン−1−カルボキサミド、フェナジン−1−カルボン酸、フェノサフラニン、ピオシアニン、サフェナマイシンまたはサフェン酸メチルエステルが挙げられる。
【0032】
食品および飼料、特にブタ、家禽、ウシ、ウマ、魚類、水産養殖および家畜用の飼料における、ならびに食品および飼料の製造または加工に使用される植物ベース原料における、C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンの変換により、動物およびヒトの健康に対する害を本発明の使用により防ぐことが可能である。
【0033】
更に、本発明は、トリコテセン、特にC−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンを、それを含有する農産物が加工されているか否かにかかわらず、より毒性の低い産物へと安全かつ確実に変換することを可能にする方法を提供することを目的とする。
【0034】
この課題を解決するために、トリコテセンの酵素利用(enzymatic)変換のための本発明の方法は、C−3原子上にヒドロキシル基を示す少なくとも1つのトリコテセンを、金属イオンとキノン補因子とを含有する配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼまたは少なくとも80%、好ましくは少なくとも86%、特に好ましくは少なくとも89%の配列同一性を更に示す機能的変異体と、少なくとも1つのレドックス補因子および水、そして必要に応じて少なくとも1つの賦形剤と共に接触させることを、本質的に特徴とする。C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンを、金属イオンとキノン補因子とを含有する配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼ、ならびにそれに加えて、少なくとも1つのレドックス補因子および水と接触させることにより、トリコテセンのC−3原子上に存在するヒドロキシル基をケトンへと酸化することが可能であり、この場合、トリコテセン自体が無毒化され、無毒性または低毒性化合物へと変換される。
【0035】
配列番号1のアミノ酸配列の代わりに配列番号2〜4の群から選択されるアミノ酸配列の機能的変異体を使用し続けることにより、配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼを使用することにより達成されるのと同じ利点が達成可能であり、食品および飼料中に含有されるトリコテセンの変換が、それらの加工状態にかかわらず、すなわち、それらが既に加工された農産物であるか否かにかかわらず、特に迅速かつ確実に達成可能である。
【0036】
C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンの特に迅速かつ完全な変換は、本発明の方法において、5℃〜55℃、好ましくは10℃〜50℃、特に好ましくは28℃〜45℃の温度で達成される。本発明の方法はそのような広い温度範囲で実施可能であるため、配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼ、または配列番号1の少なくとも80%の配列を示すその機能的変異体は、非常に多様な用途、例えば水産養殖、あるいはまた、高温での技術的プロセスに使用されうる。高温でのトリコテセンの変換が重要であるそのような技術的プロセスの例としては、飼料を加工するための方法、パスタおよび他のトウモロコシ製品、例えばポレンタ、ポップコーン、コーンフレーク、コーンブレッドまたはトルティーヤの製造、ならびにデンプンの液化プロセス、糖化プロセス(Saccharifizierungsprozesse)、または発酵プロセス(Fermentationsprozesse)、例えば、特にバイオエタノール製造における糖化プロセス(Maisch−prozess)もしくは(Gar−prozess)発酵プロセスが挙げられるであろう。この場合、これらのプロセスによって製造された食品または飼料が有害な量のC−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンを全く含有しないことを確実にすることが、重要である。
【0037】
本発明の方法のもう1つの実施形態においては、C−3原子上にヒドロキシル基を示す少なくとも1つのトリコテセンを、金属イオンとキノン補因子とを含有するアルコールデヒドロゲナーゼ、または少なくともその機能的変異体と、レドックス因子、水、そして必要に応じて賦形剤と共に、少なくとも1分間、好ましくは少なくとも5分間、特に好ましくは少なくとも60分間にわたって接触させる方法により、行われる。トリコテセンから無毒性または低毒性の誘導体への適切な変換を達成するには1分〜60分以上の接触時間で十分であるため、本発明の方法は、例えば、食品または飼料用の基本的農業材料を加工するための方法において使用されうる。一方、例えば、飼料に水を加え、5℃〜55℃の温度で1分間〜約1時間まで放置することによって、給餌直前に農業従事者によって行われてもよく、この作業により、トリコテセンから無毒性産物への変換を開始する。
【0038】
キノン補因子がPQQ、TT、PT、LTおよびCTの群から選択され、好ましくはPQQである場合、特に迅速かつ完全な変換が可能であり、これは本発明の方法のもう1つの実施形態に相当する。そのようなキノン補因子は、アルコールデヒドロゲナーゼがトリコテセンのC−3原子上のヒドロキシル基を迅速かつ確実に攻撃し、ケト基含有無毒性誘導体へと変換することを可能にする。
【0039】
本発明の方法における補因子が、Li、Na、K、Mg2+、Ca2+、Zn2+、Zn3+、Mn2+、Mn3+、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Cu3+、Co2+およびCo3+、好ましくはCa2+およびMg2+の群から選択される少なくとも1つの金属イオンを利用してアルコールデヒドロゲナーゼに結合する場合、該反応の更なる完了、特に該反応の加速化が、考えうる。そのような様態での該方法の実施はアルコールデヒドロゲナーゼへのキノン補因子の強力な結合をもたらすだけでなく、トリコテセンの迅速かつ確実な変換をも可能にする。
【0040】
トリコテセンの変換の更なる改善、特に変換反応の完了のためには、PMS、PMS誘導体、カリウムヘキサシアノフェラート(III)、ナトリウムヘキサシアノフェラート(III)、シトクロムC、補酵素Q1、補酵素Q10、メチレンブルーおよびTMPDの群から選択される、好ましくはPMS、補酵素Q1、補酵素Q10であるレドックス因子を使用して、本発明の方法を継続する。そのようなレドックス補因子を加えることにより、該レドックス因子(唾液、胃液または腸液から得られうる)を含有しない水性媒体、例えば水産養殖における動物に投与される飼料スラリーまたは飼料(例えば、該レドックス因子を添加する必要があるか、または該レドックス因子が存在している必要がある)において、あるいは該飼料スラリーまたは飼料を既に摂取している動物において、C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンの変換を行うことが可能であり、その場合、飼料を摂取する動物によるトリコテセンの再吸収が予防されうる。
【0041】
最後に、本発明は、飼料または食品中のトリコテセンを無毒性誘導体へと安全かつ確実に変換することを可能にするトリコテセン変換添加物を提供することを目的とする。
【0042】
この課題を解決するために、本発明の添加物は、金属イオンとキノン補因子とを含有する配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼ、または少なくとも80%、好ましくは少なくとも86%、特に好ましくは少なくとも89%の配列同一性を更に示す機能的変異体、そして必要に応じて更に、合成レドックス補因子および少なくとも1つの賦形剤からなる群から選択される少なくとも1つの追加的成分を含有することを、本質的に特徴とする。そのような添加物は低濃度(例えば、1トンの飼料に対して約10g〜1kg)で通常の飼料と混合されてもよく、そのような低濃度において、C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンが無毒性誘導体へと変換されることを可能にして、結局は、例えば、この飼料が与えられた動物の健康および性能を改善し、それにより障害率を低下させることが可能であるだけでなく、飼料利用の改善をももたらす。
【0043】
配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼの代わりに、配列番号2〜4の群から選択されるその機能的変異体を含有する本発明の添加物を使用して、一貫して良好な結果が達成されうる。
【0044】
本発明の添加物によるトリコテセンのC−3原子上に存在するヒドロキシル基の本質的に完全な変換のために、更に、PQQ、TT、TP、LTおよびCTの群から選択されるキノン補因子、ならびにLi、Na、K、Mg2+、Ca2+、Zn2+、Zn3+、Mn2+、Mn3+、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Cu3+、Co2+およびCo3+の群から選択される金属イオンを含有して実施される。そのような更なる実施形態により、一方においては、キノン補因子をアルコールデヒドロゲナーゼに安全かつ確実に結合させることが可能であり、他方においては、そのような補助物質を含有するアルコールデヒドロゲナーゼを使用して、分子のC−3原子上にヒドロキシル基を示すデオキシニバレノールのようなトリコテセンの完全な変換が達成されうる。
【0045】
そのような反応が、レドックス補因子、例えば唾液、胃液または腸液に天然に存在するレドックス補因子などの非存在下でも行われるためには、更に、もう1つのレドックス補因子として、合成レドックス補因子が、PMS、PMS誘導体、カリウムヘキサシアノフェラート(III)、ナトリウムヘキサシアノフェラート(III)、シトクロムC、補酵素Q1、補酵素Q10、メチレンブルーおよびTMPDの群、好ましくはPMS、補酵素Q1、補酵素Q10の群から更に選択されるよう、本発明の添加物は更に実施される。
【0046】
本発明のもう1つの実施形態においては、該賦形剤が、不活性担体、ビタミン、ミネラル物質、植物起源物質、酵素、およびマイコトキシンの無毒化のための追加的成分、例えばマイコトキシン分解酵素、特にアフラトキシン−オキシダーゼ、エルゴタミンヒドロラーゼ、エルゴタミンアミダーゼ、ゼアラレノンエステラーゼ、ゼアラレノンラクトナーゼ、ゼアラレノンヒドロラーゼ、オクラトキシンアミダーゼ、フモニシンアミノトランスフェラーゼ、フモニシンカルボキシトランスフェラーゼ、アミノポリオールアミンオキシダーゼ、デオキシニバレノールエポキシドヒドロラーゼ、デオキシニバレノールデヒドロゲナーゼ、デオキシニバレノールオキシダーゼ、トリコテセンデヒドロゲナーゼ、トリコテセンオキシダーゼ;およびマイコトキシン変換微生物、例えばDSM11798;およびマイコトキシン結合物質、例えば微生物細胞壁または無機物質、例えばベントナイトまたはスメクタイトの群から選択されるよう、該添加物が開発される。例えば、そのような添加物の使用は、飼料または食品中に含有されうる、いかなる量のC−3原子上にヒドロキシル基を示す任意の量のトリコテセンおよびいずれかの追加的なマイコトキシン、例えばフザリウム毒素、エルゴタミン、オクラトキシンも、この飼料または食品を摂取する対象生物に対するマイコトキシンの有害な影響が存在しない程度まで確実に無毒化されることを、確実にしうる。
【0047】
本発明の更なる用途は、本発明のアルコールデヒドロゲナーゼの少なくとも1つに加えて、タンパク質の分解に関与する少なくとも1つの酵素、例えばプロテアーゼ、又はデンプンもしくは繊維もしくは脂肪もしくはグリコーゲンの代謝に関与する少なくとも1つの酵素、例えばアミラーゼ、セルラーゼもしくはグルカナーゼ、および例えばヒドロラーゼ、脂肪分解酵素、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、オキシドレダクターゼ、フィターゼまたはキシラナーゼを、更に含有する添加物である。
【0048】
言うまでもなく、該添加物は、勿論、封入形態または被覆された形態で存在可能であり、この場合、標準的な方法、例えばWO 92/12645に記載されている方法が使用されうる。封入または被覆により、該添加物を変質させることなく、特に、何ら分解されることも損傷されることもなく、使用されるべき場所へと輸送することが可能であり、それにより、該ポリペプチドは、動物の消化管内の場合のように、該殻が溶解した後で初めて効果を発揮し始め、例えば、酸性でありプロテアーゼに富みかつ嫌気性である環境中でさえも、より一層標的化された、より迅速かつより完全な、C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンの分解を達成しうる。更に、封入または被覆により、該添加物におけるアルコールデヒドロゲナーゼの温度安定性を増強することも可能であり、この場合、例えば、飼料のためのペレット化プロセスにおける使用が改善される。
【0049】
本発明の添加物は、トリコテセンマイコトキシン症、好ましくは、C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンにより引き起こされるマイコトキシン症、特に例えばデオキシニバレノールマイコトキシン症の予防および/または治療のための化合物の製造のような多種多様な用途において使用されうる。そのようなマイコトキシン症は、ヒトおよび動物に対して重大な影響を及ぼす。予防の場合には、該添加物のそのような使用により、トリコテセン、特に、C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセン、特にデオキシニバレノールを経口摂取したとしても、該毒素の無い又は低減した経口摂取の場合と本質的に同じレベルで、ヒトおよび動物の健康状態を維持することが可能である。マイコトキシン症の治療の場合には、そのような疾患の症状を軽減すること、特に、肝臓におけるSOCS3濃度または血漿中のIGFALSレベルおよび腸におけるクローディン濃度を正常化することが可能である。
【0050】
更に、そのような使用により、家畜の生産性、特に飼料利用および体重増加を改善すること、ならびに死亡率を低下させることが可能である。
【0051】
次に、実施形態および図面に基づいて本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1図1は配列番号1の活性化アルコールデヒドロゲナーゼおよび比較用対照(CTR)に関するデオキシニバレノールの時系列変換を示す。
図2図2は配列番号1〜4の活性化アルコールデヒドロゲナーゼおよび比較用対照(CTR)によるDONの時系列変換を示す。
【実施例】
【0053】
[実施例1]:アルコールデヒドロゲナーゼの遺伝子のクローニングおよび精製
配列番号1〜4のアルコールデヒドロゲナーゼの、それぞれの宿主細胞のためのコドン最適化ヌクレオチド配列を、DNA2.0から採用した。これは核酸レベルでは該配列の5’末端および3’末端に制限部位を含有し、アミノ酸レベルでは更にCまたはN末端6×Hisタグを含有していた。これらのヌクレオチド配列を大腸菌(Escherichia coli)またはコマガテラ・パストリス(Komagataella pastoris)における発現のための発現ベクター内に標準的な方法により組込み、大腸菌(E.coli)またはコマガテラ・パストリス(K.pastoris)内に形質転換し、大腸菌(E.coli)またはコマガテラ・パストリス(K.pastoris)において発現させた(J.M.Cregg,Pichia Protocols,second Edition,ISBN−10:1588294293,2007;J.Sambrookら,2012,Molecular Cloning,A Laboratory Manual 4th Edition,Cold Spring Harbor)。
【0054】
配列番号1〜4を有するアルコールデヒドロゲナーゼを、大腸菌(E.coli)における発現の場合には細胞ライセートから、そしてコマガテラ・パストリス(K.pastoris)においては細胞間発現から、またはコマガテラ・パストリス(K.pastoris)における細胞外発現の場合には培養上清から、ニッケルセファロースカラムによる標準的な方法を用いて、クロマトグラフィーにより選択的に強化した。該選択的強化溶出物を金属イオンおよびキノン補因子の存在下でインキュベートし、活性化した。この場合、「活性化」は、アルコールデヒドロゲナーゼが、結合した金属イオンおよびキノン補因子の両方を示すことを意味する。後記の実施例3〜7において、配列番号1〜4を有するアルコールデヒドロゲナーゼの酵素特性を決定するために、これらの活性化アルコールデヒドロゲナーゼを使用した。ブラッドフォード試薬(Sigma # B6916)を使用して、総タンパク質濃度を測光法で測定した。この場合、マイクロプレート光度計(プレートリーダー,Biotek,Synergy HT)において595nmの波長で吸光度を測定した。最大1500μg/mlまでの濃度のウシ血清アルブミン(BSA,Sigma #A4919)溶液を測定することによりブラッドフォードアッセイを用いて決定した検量線に基づいて、タンパク質濃度を確認した。
【0055】
[実施例2]:配列同一性の決定
配列番号1〜4を有するアルコールデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列の全長にわたる互いに対する配列同一性の割合(%)を、National Center for Biotechnology Information(NCBI,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)のホームページにおいて使用のために入手可能であるBLASTプログラム(Basic Local Alignment Search Tool)、特にBLASTPを使用して決定した。これを使用して、Altschulら,1997(Nucleic Acids Res.(1997)25:3389−3402)によるアルゴリズムにより、2以上の配列を互いに比較することが可能である。プログラム設定として、特に以下の基本設定を使用した:「最大標的配列」=100;「期待閾値」=10;「ワードサイズ」=3;「マトリックス」=BLOSOM62;「ギャップコスト」=「存在:11;伸長(extension):1」;「計算調整」=「条件付き構成スコアマトリックス調整」。該アミノ酸配列の互いに対する同一性(%)を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
[実施例3]:C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンの変換
C−3上にヒドロキシル基を示すトリコテセン、特にDON、ニバレノールおよびT−2毒素を変換する適合性を測定するために、実施例1に記載されているとおりに、配列番号1〜4を有するアルコールデヒドロゲナーゼをC末端6×Hisタグと共に大腸菌(E.coli)において産生させた。
【0058】
C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンを活性化アルコールデヒドロゲナーゼ、すなわち金属イオンとキノン補因子とを含有するアルコールデヒドロゲナーゼと接触させることにより、その量が減少した場合、変換が存在する。
【0059】
各々の例において、2.0〜2.5の光学密度(OD600nm)を有する100mlの大腸菌(E.coli)培養物を4℃での遠心分離により回収し、20mlのリン酸カリウムバッファーに再懸濁させた。細胞懸濁液を20,000psiで3回のフレンチプレス処理により細胞溶解した。細胞ライセートを遠心分離により可溶性部分と不溶性部分とに分離した。上清を濾過滅菌し、アルコールデヒドロゲナーゼを、ニッケルセファロースカラムによる標準的な方法を用いて強化した。この後、10キロダルトンのカットオフを有する特異的チューブでの透析によりバッファー交換を行った。得られた総タンパク質濃度をブラッドフォードアッセイにより測定した。
【0060】
水溶液中のインキュベーションにより、キノン補因子および金属イオンをアルコールデヒドロゲナーゼに結合させた。ここでは、キノン補因子、例えばピロロキノリンキノン(PQQ、CAS番号72909−34−3)、トリプトファントリプトフィルキノン(TT、CAS番号134645−25−3)、トパキノン(TP、CAS番号64192−68−3)、リジンチロシルキノン(LT、CAS番号178989−72−5)およびシステイントリプトフィルキノン(CT、CAS番号400616−72−0)を、存在するタンパク質の濃度に対し水溶液として約20倍モル濃度過剰で加える。Li、Na、K、Mg2+、Ca2+、Zn2+、Zn3+、Mn2+、Mn3+、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Cu3+、Co2+およびCo3+、から選択される金属イオンとしてその塩の水溶液を使用する。特に示さない限り、通常、PQQ(Sigma Aldrich #D7783)およびCa2+と共にアルコールデヒドロゲナーゼを使用し、5mM CaCl溶液として活性化した。このようにして精製しそして活性化した酵素を、C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンのインビトロ変換アッセイに使用した。特に示さない限り、「酵素」または「アルコールデヒドロゲナーゼ」なる語は、金属イオンとキノン補因子とを含有する適切に活性化されたアルコールデヒドロゲナーゼを意味すると常に理解されるべきである。
【0061】
以下の成分を含有する水溶液中で変換アッセイを行った:100mM Tris−HCl pH7.5または10% Teorell Stenhagen pH7.5;1mM フェナジンメトスルファート、PMS(Sigma Aldrich #P9625)、1mM メチレンブルー(Sigma #M9140)、1mM 補酵素Q10(Sigma #C9538)、1mM 補酵素Q1(Sigma #C9538)および20mM カリウムヘキサシアノフェラート(III)PFC(III)(Fluka #60300)の群から選択される合成レドックス補因子;10ppm〜最大100ppmのC−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセン(所望の量の毒素基質ストック溶液を加えることによる);ならびに10nM〜100nM、最大300nMの金属イオンとキノン補因子とを含有する配列番号1、2、3または4の活性化アルコールデヒドロゲナーゼ。特に示さない限り、通常、Tris−HClバッファー、レドックス補因子PMS、DONおよび配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼを使用する。各変換アッセイは1.5ml 褐色エッペンドルフ反応容器内で行った。反応混合物をサーモブロック内で30℃で120分間まで、少なくとも40分間インキュベートした。0、10、20、30、40分後に、各々の例において0.1mlのサンプルを採取し、0.1mlのメタノールと混合して−20℃で保存するか、あるいはLC−MS/MSまたはHPLCにより直ちに分析した。
【0062】
濾過滅菌した2000ppmのDON水溶液をDON基質ストック溶液として使用した。この溶液を調製するために、結晶形態DON(Romer LabsのBiopure Standard,art.no.001050,少なくとも98%の純度)を秤量し、溶解させた。
【0063】
C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンおよびその変換代謝産物を定量するために、HPLC分析を行い、ここで、150mm×4.6mmの寸法および5μmの粒径を有するPhenomenex C18 Gemini NXカラムを使用するクロマトグラフィーにより物質を分離した。5mMの酢酸アンモニウム濃度を有するメタノール/水混合物を溶離液として使用した。UVシグナルを220nmで記録し、評価した。LC−MS/MS分析による定量のために、150mm×4.6mmの寸法および5μmの粒径を有するZorbax eclipse C8カラムを使用するクロマトグラフィーにより物質を分離した。5mMの酢酸アンモニウム濃度を有するメタノール/水混合物を溶離液として使用した。220nmのUVシグナルを記録した。エレクトロスプレーイオン化(ESI)をイオン化源として使用した。QTrap/LC/MS/MS(三連四重極,applied biosystems)を「拡張モード」で使用して、C−3原子上にヒドロキシル基を示すトリコテセンを定量した。
【0064】
線形範囲における変換線の負の勾配(すなわち経時的な毒性濃度の低下)を、アルコールデヒドロゲナーゼの活性に関する基準として用いた。残留活性を決定するために、種々のパラメーターに関する測定活性を、標準条件下(特に30℃およびpH7.5)で測定された基礎活性に対して適用し、通常は百分率として表した。図1は配列番号1の活性化アルコールデヒドロゲナーゼに関するDONの時系列変換を示し、図2は配列番号2〜4の活性化アルコールデヒドロゲナーゼを示す(図1B)。実時間に基づいてDONの濃度が低下したため、DONの変換が生じることは図から明らかである。
【0065】
図1は50ppm DONおよび1mM PMSの存在下での、100mM Tris HCl(pH7.5)中の配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼによるDONの変換を示す。LC−MS/MS分析により測定結果を得(A)、配列番号1〜4のアルコールデヒドロゲナーゼによるDONの変換を図2に示す。HPLC分析により測定結果を得た(B)。該試験においては、配列番号1〜4のアルコールデヒドロゲナーゼを除く変換アッセイの成分の全てを含有するCTRを陰性対照として使用した。
【0066】
キノン補因子の効率を比較するために、該変換アッセイにおいて、キノン補因子PQQ、TT、TP、LTおよびCTで活性化された10nMの配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼ、10ppmのDONならびに1mMの合成レドックス因子PMSのそれぞれを100mMのTris−HCl(pH7.5)中で混合し、30℃でインキュベートした。30分後、LC−MS/MSによりDON濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0067】
レドックス補因子の効率を比較するために、該変換アッセイにおいて、10nMの活性化酵素(配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼ)、10ppMのDONおよびそれぞれ1mMまたは20mMの試験用の合成レドックス因子を100mMのTris−HCl(pH7.5)中で混合し、30℃でインキュベートした。30分後、LC−MS/MSによりDON濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
該変換に対する活性化酵素中の金属イオンの影響を試験するために、配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼおよびPQQを、各々の例において異なる金属イオン、すなわち、Mg2+、Ca2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+およびCu2+を用いて、活性化した。該変換アッセイ物は、それぞれ100mMのTris−HCl(pH7.5)中に10nMの活性化アルコールデヒドロゲナーゼ、10ppmのDONおよび1mMのPMSを含有し、これらを30℃でインキュベートした。30分後、LC−MS/MSによりDON濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
上述のDON変換アッセイと同様にして、C−3原子上にヒドロキシル基を示す他のトリコテセンを使用して変換アッセイを行った。これらのアッセイにおいては、50ppmのDONの代わりに50ppmのT−2毒素または50ppmのニバレノールを使用した。金属イオンとキノン補因子とを含有する配列番号1〜4の4つ全てのアルコールデヒドロゲナーゼはT−2毒素およびニバレノールをも変換することが可能であった。これらの場合、使用した元の毒素の半分以上が30分以内に変換された。
【0072】
[実施例4]:活性領域の測定
異なる条件下でDONを変換する配列番号1〜4のアルコールデヒドロゲナーゼの能力を測定するために、配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼを一例として使用した。
【0073】
実施例3に記載したとおりに、配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼを産生させ、Ca2+およびPQQで活性化した。10℃〜50℃の温度範囲および3.0〜9.0のpH範囲にわたる酵素の活性を測定するために、100mM Tris−HCl(pH7.5)バッファーの代わりに10% Teorell Stenhagenバッファーを使用した。
【0074】
種々の温度における活性を測定するための変換アッセイを、以下の成分を含有する水溶液中で行った:10% Teorell Stenhagen(pH7.5)、1mM 合成レドックス補因子PMS、50ppm DONおよび10nMの配列番号1の活性化アルコールデヒドロゲナーゼ。該変換アッセイをサーモサイクラー(Eppendorf)内で10℃から50℃までの温度勾配で60分間までインキュベートした。0、10、20、30、40および60分後、各々の例において0.05mlのサンプルを採取し、反応を停止させるために0.05mlのメタノールと混合し、−20℃で保存した。実施例3に記載のとおりにLC−MS/MSのために該サンプルを調製し、LC−MS/MSにより分析した。実施例3に記載のとおりに、DONの還元の経過を、各温度に関して決定し、活性を計算した。30℃における変換線の線形範囲の勾配を基準値として用いて、その他の温度における残留活性を計算した。表4は温度(単位:℃)および関連残留活性(単位:%)を示す。驚くべきことに、配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼは広い温度範囲にわたって活性であることがここで示された。10℃においては、48%の残留活性が測定され、約50℃においては、67%の残留活性が測定された。
【0075】
【表4】
【0076】
4.0〜9.0のpH範囲における活性を測定するための変換アッセイを、以下の成分を含有する水溶液中で行った:10% Teorell Stenhagen(pH4.0〜pH10.0)、20mM 合成レドックス補因子PFC、100ppm DONおよび20nMの配列番号1の活性化アルコールデヒドロゲナーゼ。該変換アッセイをサーモサイクラー内で30℃で60分間までインキュベートした。0、10、20、30、40および60分後、各々の例において、0.05mlのサンプルを採取し、反応を停止させるために0.05mlのメタノールと混合し、−20℃で保存した。実施例3に記載のとおりに、サンプルを希釈し、LC−MS/MSにより分析した。実施例3に記載のとおりに、DONの還元の経過を各pH値に関して決定し、活性を計算した。pH7.5における変換線の線形範囲の勾配を基準値として用いて、その他の温度における残留活性を計算した。表5はpH値および関連残留活性(7.5の基準pH値に対するDON減少)を%で示す。
【0077】
【表5】
【0078】
[実施例5]:温度安定性の測定
配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼの温度安定性を30℃〜55℃の範囲にわたって測定した。これを行うために、活性化アルコールデヒドロゲナーゼをサーモサイクラー(Eppendorf)において特定の温度で、100mM Tris−HClバッファー(pH7.5)中で60分間までインキュベートした。0、5、10、15、20、30、40および60分後、アルコールデヒドロゲナーゼのアリコートを採取し、実施例3に記載されているとおりにDON変換アッセイにおいて活性を測定した。該変換アッセイ物は以下の成分を含有していた:100mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM PMS、50ppm DON、10nMの配列番号1の活性化アルコールデヒドロゲナーゼ。実施例3に記載されているとおり、反応物をインキュベートし、活性を測定するためのサンプル採取を0、10、20、30、40および60分後に行った。DONの減少の経過を、各温度に関して、各インキュベーション時間に関して決定した。DON変換線の線形範囲の勾配を計算して、温度安定性を決定した。t=0分の時点におけるそれぞれの温度のDON変換線の線形範囲の勾配を残留活性の計算のための基準値として用いた。表6は温度(単位:℃)、インキュベーション時間(単位:分)および関連残留活性(単位:%)を示す。配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼは、30℃および37℃の温度で1時間置いた場合に最も安定であった。これと比較して、該アルコールデヒドロゲナーゼは、40℃において1時間置いた後でも尚73%の残留活性を有していた。45℃で30分間置いた後では50%の残留活性が測定された。驚くべきことに、50℃で5分間置いた後でも、84%の残留活性が検出された。
【0079】
【表6】
【0080】
[実施例6]:pH安定性の測定
配列番号1の活性化アルコールデヒドロゲナーゼのpH安定性をpH4.0〜pH10.0の範囲にわたって測定した。これを行うために、10倍濃度の該活性化アルコールデヒドロゲナーゼ(100nM)を10% Teorell Stenhagenバッファー(pH4.0〜pH10.0)中で30℃の温度で120分間まで置いた。0、60および120分後、アルコールデヒドロゲナーゼのアリコートを採取し、変換アッセイにおいて活性を測定し、実施例3に記載されているとおりに、以下の成分を使用して30℃で該アッセイを行った:100mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM PMS、50ppm DON、10nMの配列番号1の活性化アルコールデヒドロゲナーゼ。活性を測定するためのサンプル採取を0、10、20、30および40分後に行った。DONの減少の経過を、各pH値に関して、各時間に関して決定した。安定性を決定するために、DON変換線の線形範囲の勾配を各pH値に関してそれぞれの時間において計算した。t=0分の時点におけるそれぞれのpH値のDON変換線の線形範囲の勾配を後のインキュベーション時間の活性の計算のための基準値として用いた。表7はpH値、インキュベーション時間(単位:分)および関連残留活性(単位:%)を示す。配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼは、pH5.0〜pH9.0において、60分間のインキュベーションの後で安定であった。驚くべきことに、該アルコールデヒドロゲナーゼは酸性環境(pH5.0において活性喪失無し)において及び強アルカリ性環境において(pH9.0で120分間のインキュベーションの後で活性喪失無し)特に良好な安定性を示した。
【0081】
【表7】
【0082】
[実施例7]:複合マトリックスにおけるDONの変換
合成レドックス補因子を外部から添加することなく複合マトリックスにおいてトリコテセンを変換する活性化アルコールデヒドロゲナーゼの能力を決定するために、配列番号1の活性化アルコールデヒドロゲナーゼを実施例3に記載のとおりに産生させ、複合マトリックスにおいてDON変換アッセイを行った。ここでは、複合マトリックスは、とりわけ、ウシのルーメン液、ブタの空腸からの腸内容物、ブタの胃液、ヒトおよびブタの唾液、顆粒化した子ブタ用飼料(Ferkelaufzuchtfutter;FAF)、および唾液、ルーメン液または腸内容物と混合された顆粒化した子ブタ用飼料と定義される。バッファー系との比較を行うために、実施例3に記載されているとおりにTris−HClを使用して検査を行った。子ブタ用飼料の場合、トウモロコシ、ダイズおよびオオムギに基づく標準飼料を使用した。
【0083】
ルーメン液(pH5.9)におけるアルコールデヒドロゲナーゼ活性を測定するために、各々の例において1mlの無菌ルーメン液濾液を、100、200および300nMの配列番号1の活性化アルコールデヒドロゲナーゼおよび50ppmのDONに加えた。実施例3に記載されているとおりに水溶液中で対照バッチを試験した。該変換アッセイをサーモブロック内で30℃で24時間までインキュベートした。0、0.5、1.0、5.0および24.0時間後にサンプルを採取した。この場合、各回に0.1mlのサンプルを採取し、0.1mlのメタノールで反応を停止させた。サンプルを−20℃で保存し、解凍し、エッペンドルフ卓上遠心機で13,000rpmで10分間遠心分離し、0.2μM Spartanフィルターで濾過滅菌した。LC−MS/MSのために、サンプルを実施例3に記載のとおりに希釈し、LC−MS/MSにより分析した。t=0時間の時点でのDONの濃度を、後続の値に関する基準値(100%)として用いた。表8は、t=0時間の時点に対する、ある時点で測定されたDON濃度の百分率を示す。Tris−HClバッファー中の活性に関しては、外部から添加された合成レドックス補因子の存在が必要である。なぜなら、DONの変換はゆっくりと生じ、300nMのアルコールデヒドロゲナーゼ濃度で24時間後に初めて検出可能であったからである。驚くべきことに、5.9のpH値の無菌ルーメン液濾液中で外部から合成レドックス補因子を添加することなくDONが変換されることがここで実証された。これは、天然レドックス補因子として働く物質がルーメン液中に存在することを明らかに示している。300nMの濃度では、5時間のインキュベーションの後の該調製物中に初期DON量の僅か42%が含有されているに過ぎなかった。24時間のインキュベーションの後、200nMを超えるアルコールデヒドロゲナーゼ濃度でDONは少量しか検出可能でない。
【0084】
【表8】
【0085】
混合飼料(Futterbrei)を含有しない、約3のpH値を有するブタ胃液、約6のpH値を有するブタ腸内容物ならびにブタおよびヒト唾液におけるアルコールデヒドロゲナーゼ活性を測定するために、300nMの活性化アルコールデヒドロゲナーゼ配列番号1および約20ppmのDONを、各々の例において、1mlの胃液(濾過滅菌したもの)、1mlの粥状腸内容物または1mlの唾液と混合した。陰性対照として、20ppmのDONと共に消化流体のみを含有するアッセイ物を含め、陽性対照として、20mMの合成レドックス補因子PFC(III)を含む全成分を含有する変換アッセイを用いた。0、3.0、5.0および24.0時間後にサンプルを採取し、ここでは、各回に0.1mlのサンプルを採取し、0.1mlのメタノールで反応を停止させた。サンプルを−20℃で保存し、解凍し、エッペンドルフ卓上遠心機で13,000rpmで10分間遠心分離し、濾過滅菌(0.2μM Spartanフィルター)した。LC−MS/MSのために、サンプルを溶離液中で1:10で希釈し(実施例3を参照されたい)、実施例3と同様にしてLC−MS/MSにより分析した。表9は、サンプル採取の時点で測定されたそれぞれのDON濃度を示す。驚くべきことに、合成レドックス補因子が外部から添加されることなく、唾液中のDONの減少が生じた(種を問わない)。これは、アルコールデヒドロゲナーゼ配列番号1によるDONの変換のための天然レドックス補因子として適した物質がヒトおよびブタの唾液分泌物中に存在することを明らかに示している。混合飼料を含有しない純粋な胃液においてはDON濃度の実質的な低下は測定されなかった。腸内容物においては、合成レドックス補因子を加えることによって初めてDON濃度の低下が生じた。
【0086】
【表9】
【0087】
子ブタ用飼料におけるアルコールデヒドロゲナーゼの活性を測定するために、100mgの子ブタ用飼料を、それぞれ400μlの100mM Tris−HClバッファー(pH7.5)、400μlのブタ唾液、400μlの無菌ブタ胃液または400μlのブタ腸内容物と混合した。これらの子ブタ用飼料懸濁液を4℃で一晩置いた。この後、約20ppmのDON、および/または300nMの配列番号1の活性化アルコールデヒドロゲナーゼ、および/または20mMの合成レドックス補因子PFC(III)を全てのサンプルに加えた。アルコールデヒドロゲナーゼを含有しない調製物および外部合成レドックス補因子を含有しない調製物を陰性対照として使用した。添加されたアルコールデヒドロゲナーゼおよび合成レドックス補因子を含有する調製物を陽性対照として使用した。0、3.0、5.0および24.0時間後にサンプルを採取した。各回に1つのサンプル全体を使用した。該サンプルに関しては、500μlのメタノールを加え、ついで300rpmのシェーカー上で30分間の均質化を行った。この後、該サンプルを15分間遠心分離し(エッペンドルフ卓上遠心機、13,000rpm)、上清を0.2μM Spartanフィルターを介してシリンジで濾過した。上清を−20℃で保存し、解凍し、LC−MS/MSのために溶離液中で1:10で希釈し、実施例3に記載のとおりにLC−MS/MSにより分析した。
【0088】
表10は、それぞれの時点でサンプル中に存在していたDONの濃度を示す。外部合成レドックス補因子の非存在下でDON濃度が低下し続けているので、子ブタ用飼料バッファー混合物には、外部から添加された合成レドックス補因子の役割を担いうる物質が存在していた。上記のとおり、外部合成レドックス補因子の非存在下では該バッファーにおいてDON変換は測定され得なかったので、これらの物質は、子ブタ飼料に由来する。外部合成レドックス補因子の存在下では、子ブタ用飼料バッファー混合物におけるDONの変換は、比較すると、より迅速に生じる。
【0089】
子ブタ飼料と唾液との混合物においても、アルコールデヒドロゲナーゼは、外部合成レドックス補因子の存在に非依存的に活性を示したが、外部合成レドックス補因子を含有する変換アッセイにおいては、より迅速なDONの減少が生じた。
【0090】
驚くべきことに、子ブタ用飼料混合物における配列番号1のアルコールデヒドロゲナーゼは、外部から合成レドックス補因子を添加しなくても活性である。子ブタ用飼料を胃液に加えることにより、一方においては、胃液のpHが上昇し、他方においては、外部合成レドックス補因子の代わりとなりうる天然に存在するレドックス補因子が子ブタ用飼料から放出された。腸内容物においては、外部合成レドックス補因子が変換アッセイに加えられた場合にのみ、アルコールデヒドロゲナーゼの活性が確認された。
【0091】
【表10】
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]