【実施例】
【0040】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1:カプセル壁材の検討
種々の原料を用いて、下記のように機能性物質含有カプセルを調製した。調製したカプセルは化粧品製剤中に配合し、40℃、75%RHの恒温槽で保存し、色の変化及び使用感の2つの指標で評価した。尚、前記化粧品製剤として、ポリソルベート80、セスキオレイン酸ソルビタン、トリエタノールアミンを含む、下記製造例1に示す化粧品製剤を用いた。本検討において使用した機能性物質の物性は、水溶性0.82g/L、オクタノール/水分配係数(LogPow)1.6−2.3である。
【0042】
<油脂カプセルの調製>
食品硬化油脂(融点41℃、融点43℃、融点45℃、融点59℃の牛脂;融点63℃の菜種硬化油;その他蝋やワックス、8.8g)に機能性物質(1g)、及び親油性乳化剤(レシチン又はP−100、0.2g)を混合し、43℃、45℃、もしくは47℃で加温した後、攪拌機を用いて750rpmで10分間撹拌して分散相を調製した。乳化剤MS−3S、水、増粘剤としてメチルセルロースを混合して30℃、32℃、もしくは34℃で加温し、攪拌機を用いて250rpmで10分間撹拌して連続相を調製した。連続相に分散相を添加し、攪拌機を用いて250rpmで10分間撹拌し、油脂カプセルを調製した。
【0043】
<多糖類カプセルの調製>
(1)ジェランガムカプセル
70℃で融解させたジェランガム(1.25g/20ml)に、機能性物質(2g)を含有する0.1M乳酸カルシウム(150ml)溶液を添加し、ディストロミクスを用いて6000rpmで5分間粉砕した。当該粉砕物を100μmの篩に移し、篩を通過しない画分を回収した。当該画分を、機能性物質が包接されたジェランガムカプセルとした。
【0044】
(2)カードランカプセル
機能性物質(2g)を含有する3%カードラン溶液(0.9g/30ml)を室温にて調製し、80℃〜90℃で固化させた後、ディストロミクスを用いて6000rpmで5分間粉砕した。当該粉砕物を100μmの篩に移し、篩を通過しない画分を回収した。当該画分を、機能性物質が包接されたカードランカプセルとした。
【0045】
<ゼラチンカプセルの調製>
表3に示すように、ゼリー強度の異なる2種類のゼラチンを用いた。ゼラチン10%水溶液(3g/30ml水)に、機能性物質(3.0g)を懸濁させ、加温溶解した。当該溶解液に水溶性カルボジイミドを最終濃度20mMとなるように添加し、固化させた。固化物を一晩冷却した後、予備裁断後にIKA湿式粉砕機(19,800min
−1)を用いて粉砕した。得られた粉砕物を100μmの篩にかけ、篩の上に残った画分を機能性物質が包接されたゼラチンカプセルとして回収した。
【0046】
<試験結果−1>
結果を表1に示す。低融点の油脂(41℃、43℃、45℃)を壁剤とするカプセルは、時間が経過するにつれて変色した。試験期間中、カプセルの形状が維持されなかったため、機能性物質が溶出し、変色が起こったことが示唆される。高融点の油脂(52℃、63℃)を壁剤とするカプセルの色調の変化は、低融点の油脂カプセルのものよりも改善された。このことから、カプセルの被膜油脂の融点が機能性物質又はその誘導体の変色抑制に寄与することが判明した。一方で、高融点油脂カプセルの使用感を評価したところ、ざらざら感が残り、触感が悪いことも判明した。
【0047】
以上の結果から、油脂を用いて調製したカプセルでは、色調の安定性と使用感を両立させることは困難であることが明らかとなった。
【0048】
【表1】
【0049】
<試験結果−2>
表2に示すように、ジェランガムを用いて調製したカプセルを配合したクリームは、試験開始後1週間で変色が確認されたが、使用感は良好であった。そして、カードランを用いて調製したカプセルを配合したクリームは、試験開始後2週間で変色が確認されたが、使用感が良くなかった。いずれのカプセルを配合した場合でも、色調の安定性と使用感を両立するクリームは得られなかった。
【0050】
【表2】
【0051】
<試験結果−3>
表3に示すように、ゼラチンを用いて調製したカプセルを配合したクリームは、試験開始後1カ月を経過してもクリーム製剤の色調は安定であった。これは、クリーム製剤に配合したカプセルに包接された機能性物質の変色が抑制されたことによる。さらに、他の壁材で調製したカプセルと比較しても使用感は良好であった。
【0052】
【表3】
【0053】
実施例2:ゼリー強度によるカプセルの特性への影響
<試料の調製>
表4に示すように、ゼリー強度の異なるゼラチンの10%水溶液(3g/30ml水)を加温して溶解させた。該溶解液に水溶性カルボジイミドを最終濃度50mMとなるように添加することにより固化させた。固化物を一晩冷却し、予備裁断後にIKA湿式粉砕機(19,800min
−1)を用いて粉砕した。得られた粉砕物を100μmの篩にかけ、篩の上に残存した画分を架橋されたゼラチンカプセル(15g)として回収した。なお、表4に示したゼラチンのゼリー強度は、品質規格「にかわ及びゼラチン」JIS K6503−1996に定められているように、6.67%ゼラチン溶液を、10℃で17時間冷却して調製したゼリーの表面を、2分の1インチ(12.7mm)径のプランジャーで4mm押し下げるのに必要な荷重として定義される。
【0054】
<試験方法>
乳液製剤中に、上記のように調製したカプセルを20重量%で配合した。当該配合物を40℃±2℃、75%RH±5%RHの加速安定性試験及び50℃±2℃、75%RH±5%RHの苛酷試験に供し、カプセルの形状及び使用感を評価した。尚、前記乳液製剤として、下記製造例2に示す乳液を用いた。
【0055】
<試験結果>
結果を表4に示す。試験したカプセルはいずれも、カプセルの形状を維持した。そして、試験したカプセルのいずれも、使用感が良好であったが、ゼリー強度135〜165gのゼラチンを用いて製造したカプセルが最も良かった。この結果より、カプセルは形状の安定性と使用感を両立することが示唆された。
【0056】
【表4】
【0057】
実施例3:カプセルのテクスチャー評価
<試料の調製>
各種ゼラチンを懸濁した水溶液(表5)を65℃で5分間撹拌することによりゼラチンを溶解させた。当該溶解液に、水溶性カルボジイミド(WSC)を表5に示す最終濃度(50mM又は100mM)で添加し、固化させた。これを粉砕することなく、カプセル(試料4〜12)として以下の試験に供した。
【0058】
【表5】
【0059】
<試験方法>
テクスチャーアナライザー(株式会社島津テクノリサーチ社)を使用して、上記で調製した試料4〜12のテクスチャー、硬さ、もろさ、付着性、凝縮性、ガム性、そしゃく性、及び弾力性について解析した。テクスチャーの解析は、高齢者用の食品の解析方法として用いられているゲルに2回圧力をかけて行うツーバイト法を用いた。解析条件を以下に示す。
機種:EZ−X(島津テクノリサーチ株式会社製)
速度:1mm/sec
試験治具:ユニバーサルデザインフード
進入距離:13.3mm
温度:室温(23℃)
ロードセル容量:500N
試験種類:圧縮(2回圧縮)
伸び原点:試験力1gf
プランジャー:直径(φ)20mm
【0060】
<解析結果>
図1にテクスチャー解析の結果を示す。試料7〜9のゲル強度は低く、かつ1回目の圧縮におけるよりも、2回目の圧縮によりゲル強度はさらに低下した。これらの結果から、100mMのWSCで固化したカプセルは、保存中は形状を安定に維持するが、使用時にカプセルに力が加わる度に、ゲル強度が低下し、最終的にカプセルが破壊されることが示唆される。このような特性は、ざらざら感を生じることなく、皮膚表面全体に素早く広げることを可能とする。また、ざらついた食感を生じることなく摂食し、咀嚼や体内での消化等によりカプセルを徐々に破壊することも可能とする。本発明のカプセルは、使用感に優れ、飲食品並びに化粧品や医薬部外品などの皮膚外用剤へ適用が可能である。
【0061】
そして、試料4〜12の硬さ、もろさ、付着性、凝縮性、ガム性、そしゃく性、及び弾力性について解析した結果を表6に示す。試料7〜9は、他の試料に比べて、そしゃく性、もろさ、凝集性、ガム性、及び弾力性の数値が顕著に低いことが判明した。そしゃく性ともろさの数値の低さは、試料7〜9がもろく崩れやすいことを意味する。そして、ガム性や弾力性の数値の低さは、試料7〜9が付着性を有することを意味する。すなわち、試料7〜9を化粧品や皮膚外用剤とした場合、皮膚上でカプセルに摩擦を加えることにより、カプセルを容易に崩すことができるため、ざらつきを感じにくく、かつ、皮膚へ粘着しやすいため、肌になじみやすいことが示唆される。そして、試料7〜9を飲食品とした場合、ざらついた食感を生じることなく摂食し、咀嚼や体内での消化等によりカプセルを徐々に破壊できることが示唆される。したがって、機能性物質を包接させない場合において好ましくは100mMのWSCで固化したカプセルは、皮膚外用剤として皮膚に適用した時や飲食品として飲用した時の使用感に優れることが示唆される。そして、カプセルに機能性物質を包接させると、機能性物質を包接させない場合に比べて、カプセルの弾性が増減することも考えられる。従って、カプセルに機能性物質を包接させる場合には、上記の優れた使用感に加えて機能性物質の効率良い放出を達成するために、必要に応じてWSCの濃度を100mM以下に調整してカプセルを固化させることもできる。
【0062】
以上説明したように、ツーバイト法によるテクスチャーの解析(
図1)から導かれる結論は、硬さ、もろさ、付着性、凝縮性、ガム性、そしゃく性、及び弾力性の解析(表6)から導かれる結論と整合していることが理解できる。したがって、ツーバイト法によるテクスチャーは、カプセル作成(特にカプセルのテクスチャー)のより簡便な指標として適用できることが示唆される。
【0063】
【表6】
【0064】
実施例4:微粉砕した機能性物質を含有するカプセルの調製
<セサミンを含有するカプセルの調製>
H20T(豚皮由来、ニッピ(株)製)(3g/30mLの水)とセサミン(水溶性0.0066g/L、オクタノール/水分配係数(LogPow)4.1)(6.0g)を混合し、65℃で5分間撹拌し、ゼラチンを溶解させた。当該溶解液に水溶性カルボジイミド0.28g(ナカライテスク社製、最終濃度50mM)を添加し、ゼラチンを架橋し、固化させた。精製水を100mL添加し、ディストロミクスを用いて6000rpmで5分間撹拌し、固形物を粉砕した。当該粉砕物を100μmの篩に移し、篩の上に残った画分を、セサミンを含有するカプセルとして回収した。
【0065】
上記のように調製したカプセルにセサミンが含まれていることを確認するため、カプセル1gを遠心チューブに秤量し、ジメチルスルホキシド(DMSO)10mLに懸濁した。当該懸濁液を80℃で10分間加温した後、遠心チューブをボルテックスにより攪拌した。当該攪拌液を遠心分離(3500rpm、10min、25℃)に供した。上清を回収し、HPLCの試料とした。セサミンを以下の条件で検出し、定量した。その結果、セサミンは、カプセル1gあたり10mgで存在することが判明した。これにより、セサミンがカプセルに包接されていることが確認された。
【0066】
セサミンのHPLC分析条件
カラム Develosil C30 UG-5(4.6mm x 150mm:野村化学製)
移動相 Buffer A:0.1%ギ酸を含む蒸留水
Buffer B:0.1%ギ酸を含む80%アセトニトリル(AcCN)/蒸留水
検出波長 280nm
流速 1ml/min
サンプル量 10μL/injection
プログラム 20%Buffer B→100%Buffer B(リニアグラジエント:40分)
【0067】
<フェルラ酸を含有するカプセルの調製>
H20T(豚皮由来、ニッピ株式会社製)(3g/30mLの水)とフェルラ酸(水溶性0.91g/L、オクタノール/水分配係数(LogPow)1.6−1.7)(6.0g)に混合し、65℃で5分間撹拌し、ゼラチンを溶解させた。当該溶解液に水溶性カルボジイミド0.56g(ナカライテスク社製、最終濃度100mM)を添加し、ゼラチンを架橋し、固化させた。精製水を100mL添加し、ディストロミクスを用いて6000rpmで5分間撹拌し、固形物を粉砕した。当該粉砕物を100μmの篩に移し、篩の上に残った画分を、フェルラ酸を含有するカプセルとして回収した(カプセル2)。
【0068】
上記のように調製したカプセルにフェルラ酸が含まれていることを確認するため、カプセルの1gを遠心チューブに秤量し、上記で示した方法に従って、HPLCの分析試料を調製した。フェルラ酸を以下の条件で検出し、定量した。その結果、フェルラ酸は、カプセル1gあたり6.95mgで存在することが判明した。これにより、フェルラ酸がカプセルに包接されていることが確認された。
【0069】
フェルラ酸のHPLC分析条件
カラム Develosil C30 UG-5(4.6mm x 150mm:野村化学製)
移動相 Buffer A:0.1%ギ酸を含む蒸留水
Buffer B:0.1%ギ酸を含む80%アセトニトリル(AcCN)/蒸留水
検出波長 254nm
流速 1ml/min
サンプル量 10μL/injection
プログラム 5%Buffer B →60%Buffer B(リニアグラジエント:40分)
【0070】
製造例1:クリーム
表7に示す処方でクリームを製造した。油溶性成分である区分A及び水溶性成分である区分Bをそれぞれ75℃に加温溶解した後、区分Aをホモミキサーにおいて5000rpmで攪拌しながら区分Bを添加して乳化させ、O/Wエマルジョンを形成させた。その後60℃まで冷却し、区分Cを添加した。さらに40℃まで冷却し、区分Dを添加することにより、目的とするクリームを製造した。
【0071】
【表7】
【0072】
製造例2:乳液
表8に示す処方で乳液を製造した。水溶性成分である区分A及び油溶性成分である区分Bをそれぞれ75℃に加温溶解した後、区分Aをホモミキサーにおいて5000rpmで攪拌しながら区分Bを添加して乳化させ、O/Wエマルジョンを形成させた。その後60℃まで冷却し、区分Cを添加した。さらに40℃まで冷却し、区分Dを添加することにより、目的とする乳液を製造した。
【0073】
【表8】
【0074】
本実施例に示された本発明の態様により奏される効果
本発明においては、カルボジイミド架橋剤を用いて壁物質であるゼラチンを架橋化することにより、形状が安定なカプセルを製造できることを見出した。そして、当該カプセルは、長期保存しても、皮膚に適用した場合や摂食した場合にざらつき感を生じることがなく、優れた使用感を有する。更に、当該カプセルは、使用時に容易に崩すことができるため、機能性物質を適切に放出することができる。このような特定は、飲食品並びに化粧品や医薬部外品などの皮膚用外用剤に用いる場合に有利である。