(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記硬質脆性材料製の被処理成品の前記表面が,半導体製造装置に設けられた基板固定具の基板吸着面であることを特徴とする請求項1又は2記載の硬質脆性材料製の被処理成品の表面加工方法。
【背景技術】
【0002】
硬質脆性材料製の成品の一例として,半導体の製造工程で使用される静電チャック装置の吸着面となる誘電体層を例に挙げ説明する。
【0003】
半導体の製造時,半導体ウェハやガラス等の基板は,サセプタと呼ばれる保持体上に載置,固定された状態で,成膜,露光,エッチング等の各工程が行われる処理装置内に保持されているが,このサセプタの基板保持面には,サセプタ上に基板を吸着させて固定するための静電チャック等の固定具が設けられている。
【0004】
この静電チャック10は,一例として
図6に示すように,セラミックプレート11上に,電極となる金属電極層12と,基板15の吸着面となるセラミックス製の誘電体層13を備えたもので,一例として金属電極層12と基板15間に電圧を印加することで,金属電極層12と基板15間に生じたクーロン力によって,基板15を誘電体層13の表面に吸着固定できるように構成されている。
【0005】
このような誘電体層13の基板吸着面は,平坦な形状に形成されているものもあるが,漏れ電流を低減するために基板との接触面積を減少させる目的で(特許文献1[0004]欄参照),或いは,基板の均熱性の向上を図るため誘電体層と基板との間に熱媒となるガスを導入できるようにするために(特許文献2[0067]欄参照),セラミック誘電体層の基板吸着面に多数の微小な突起や溝を形成して立体的な凹凸面とすることも行われている(特許文献1,2参照)。
【0006】
なお,半導体の製造では,半導体製品の歩留まりや信頼性を低下させるパーティクル(異物微粒子)等の微小な汚染物質の発生を回避することが求められることから,前述した静電チャックの誘電体層の吸着面も,パーティクルが発生し難い状態に加工されていることが好ましい。
【0007】
ここで,
図7中に拡大図で示すように,誘電体層13の基板吸着面の表面粗さが粗く,微視的に見た場合に粗さ曲線が多数の先鋭な山を備えている場合,このような粗さ曲線の山頂部分tが欠けてパーティクルとなり得る。
【0008】
また,誘電体層13表面の凹凸における凸部21の上面22の端部に鋭いエッジeが形成されている場合,このような鋭いエッジeは欠け易く,これによりパーティクルが発生し得る。
【0009】
そのため,このようなパーティクルの発生を抑制するために,誘電体層13の基板吸着面は,これを研磨によって平滑にし,また,研磨によってエッジeを丸めておくことが好ましい。
【0010】
このような誘導体層13の研磨方法として前掲の特許文献2には,砥石を用いた研磨や,研磨粒子を懸濁させた研磨材(ラップ剤)を用いたラップ加工を開示する(特許文献2[0068]欄)。
【0011】
なお,静電チャック10の誘電体層13の研磨方法に関するものではないが,ガラス,シリコンウエハ,セラミックス基板等の硬質脆性材料製の基板を対象とした研磨方法として,空隙が形成されている多孔体から成る砥粒を固定した固定砥粒研磨工具と,加工物の被加工面との間に遊離砥粒スラリーを介在させ行う研磨方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0012】
また,ガラスやセラミック,金属の研磨方法として,
図8に示すように,基材層31の一側面上に形成された土台部32上に,柱状或いは錐台状の先端部33を備えた研磨パッド30を使用して研磨することも提案されている(特許文献4参照)。
【0013】
更に,静電チャックの誘電体層の研磨に関するものではないが,本願の出願人は,弾性母材に研磨用の砥粒を分散させた弾性研磨材,又は,弾性母材の表面に研磨用の砥粒を付着させた弾性研磨材を使用した硬質脆性材料の研磨に関し,硬質脆性材料基板から成る被加工物の側部に向かって噴射ノズルより圧縮気体と共に噴射して衝突させ,該被加工物の前記側部を研磨する硬質脆性材料基板の側部研磨方法について出願し,既に特許を受けている(特許文献5)。
【0014】
また,弾性研磨材を使用した金型の表面処理方法として,製造された金型表面に対し,第1のブラスト処理を行って前記表面に生じた硬化層の除去及び/又は面粗度の調整を行った後,第2のブラスト処理を行って前記表面に微小な凹凸を形成し,更に,第3のブラスト処理によって前記表面に形成された凹凸の山頂部を削り取って平坦化する工程から成り,前記第3のブラスト処理を,弾性体に砥粒を練り込み,及び/又は弾性体の表面に砥粒を担持させた弾性研磨材を,前記金型の表面に対し入射角を傾斜させて噴射することにより,噴射した研磨材を前記金型の表面上で滑動させることによって行うことを提案する(特許文献6の請求項1,2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前掲の特許文献2に記載されている砥石による研磨やラップ加工,及び,特許文献3に記載されている研磨方法は,いずれも平面に対する研磨方法であり,表面が平坦である静電チャックの誘電体層の研磨には好適に利用し得る。
【0017】
しかし,前述したように多数の微小な突起を形成する等して
図7に示したように誘電体層13の表面が立体的な凹凸形状に形成されている場合,砥石による研磨やラップ加工では,凹凸の凸部21の上面22を研磨することができたとしても,凸部21の側面23や,凹部24の底面25を研磨することができず,これらの部分の表面粗さは依然として粗い状態のままとなり,この部分より前述したパーティクルが発生するおそれがある。
【0018】
また,特許文献4に記載の研磨パッド30(
図8参照)を使用した研磨では,研磨パッド30の基材層31が変形することで,研磨時,研磨面の表面が湾曲面等のように曲がった,或はうねりを有する形状であったとしても,研磨面の形状変化に追従させて研磨パッド30の先端部33が研磨面に接触した状態を維持することができる。
【0019】
しかし,研磨面が前述したように微小な凹凸の形成によって立体的に形成されている場合,研磨パッド30の先端部33は凹部24内に入り込むことができず,この方法によっても凸部21の側面23や,凹部24の底面25を研磨することができない。
【0020】
更に,前述した研磨方法では,いずれも凸部21の上面22が集中的に研磨されることとなるため,研磨前の被処理成品表面に形成された凹凸形状が変形するため,当初の凹凸形状を維持したまま研磨することができない。
【0021】
しかも,上記いずれの方法においても,誘電体層13に対する凹凸の形成と,その後に行われる研磨は,全く異なる手法,装置,機器等を使用して行われることとなるため,加工工程が複雑化すると共に,それぞれの処理に必要な加工装置等を準備する必要があるため多大な初期投資が必要となる。
【0022】
なお,前掲の特許文献5には,硬質脆性材料であるガラス製の基板の端部(側面)を,弾性研磨材を使用したブラスト加工によって鏡面に研磨することが開示されている。
【0023】
しかし,特許文献5において研磨対象としているガラス基板の端部(側面)は,突起等が形成されていない平坦な平面又は曲面であり,前述の静電チャック10の誘電体層13のように,多数の微細な凹凸が形成された立体的な形状を有する表面を研磨するものではない。
【0024】
また,前掲の特許文献6には,第2ブラスト処理によって微細な凹凸を形成した後の金型表面に対して弾性研磨材を使用したブラスト処理(第3ブラスト処理)を行う構成について開示するも,この第3ブラスト処理は,第2ブラスト処理によって形成された凹凸の山頂部を削り落として平坦にするために行うものであり,第2ブラストによって形成された凹凸形状を維持したまま,凸部の側面や凹部の底面を研磨するものではない。
【0025】
そのため,微細な突起が形成されて凹凸面とされた被処理成品の表面,特に,前述した静電チャックの誘電体層のように半導体製造装置で使用する固定具の基板吸着面に対し,付形された凹凸形状を維持したまま,凸部の上面のみならず側面や,凹部の底面についても研磨できる研磨方法が要望される。
【0026】
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するために成されたもので,硬質脆性材料製の被処理成品の表面に対して微細な突起等が形成された立体的な凹凸形状の形成と,該凹凸形状が形成された被処理成品表面の研磨を,同種の作業によって比較的簡単に行うことができると共に,被処理成品の表面に付与された凹凸形状を維持しつつ,該凹凸の凸部の上面,側面,及び凹部の底面等の表面全体を研磨することのできる硬質脆性材料製の被処理成品の表面加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0028】
上記目的を達成するための,本発明の硬質脆性材料製の被処理成品の表面加工方法は,
セラミックスやガラス等の硬質脆性材料製の成品
である静電チャックの誘電体層を被処理成品とし,
前記被処理成品の母材硬度よりも高硬度の砥粒を使用した第1のブラスト加工により,前記被処理成品の表面を,多数の凸部21と,該凸部21間に形成された,最狭部において50μm以上の幅wを有する多数の凹部24が形成された立体的な凹凸形状に形成し,
前記凹凸形状に形成された前記被処理成品の表面に対し,低反発弾性の弾性体に前記凹部の前記幅wよりも粒径の小さい砥粒を担持させた構造の弾性研磨材を使用した第2のブラスト加工を行うことにより,前記第1のブラスト加工によって形成した前記凹凸形状を維持したまま,前記被処理成品の前記凸部21及び凹部24の表面を算術平均粗さRa1.6μm以下に研磨する
と共に,前記凸部の上面の端部に形成されたエッジに半径R10μm以上の丸み付けを行うことを特徴とする(請求項1)。
【0029】
前記第1のブラスト加工によって,平坦な上面22を有する前記凸部21を形成する場合,前記第2のブラスト加工によって,前記凸部21の前記
平坦な上面22の端部に形成されたエッジeにR10μm以上の丸みを付けることが好ましい(請求項2)。
【0030】
更に,前記硬質脆性材料製の被処理成品の前記表面を,静電チャック等の半導体製造装置に設けられた基板固定具の基板吸着面とすることができる(請求項3)。
【発明の効果】
【0031】
以上で説明した本発明の構成により,本発明の表面加工方法によれば以下の顕著な効果を得ることができた。
【0032】
第1のブラスト加工によって比較的簡単な方法で被処理成品の表面に立体的な凹凸形状を形成することができると共に,弾性研磨材を使用した第2のブラスト加工により,第1のブラスト加工によって形成された凹凸形状を維持したまま,凸部21のみならず凹部24の底面25等を含む立体的な凹凸形状の表面全体を算術平均粗さRaで1.6μm以下の表面粗さに比較的容易に研磨することができた。
【0033】
その結果,本発明の方法で表面加工がされた被処理成品を,例えば真空製膜装置内で使用する部品,例えば,静電チャックの誘電体層の基板吸着面に対し多数の微小な突起を形成する加工に適用することで,本発明の方法により加工された静電チャック10の誘電体層13は,基板との接触部分(凸部21の上面22)のみならず,凸部21の側面23や凹部24の底面25についても研磨される結果,静電チャック10の誘電体層13が,シリコンウエハ等の基板15に対する汚染源(パーティクルの発生源)となり難くすることができた。
【0034】
また,本発明の表面加工方法では,凹凸の形成と,その後の研磨をいずれもブラスト加工によって行うことで,同様の一連の流れで2工程の加工を遂行することができ,工程を簡略化,加工装置の全部または一部の共有等による加工コストの削減を図ることができた。
【0035】
このように,凸部21だけでなく凹部24の底面25を含む凹凸面の全体を,当初の凹凸形状を維持したまま比較的簡単に研磨できることで,ガラス等の透明な材質でできた成品を処理対象とする場合,研磨後の成品を透明なものとすることができ,また,表面が平滑となることで,汚れ等が付着し難く,付着しても容易に除去することができる表面状態に加工することができた。
【0036】
なお,前記第1のブラスト加工によって形成される前記凸部21が,平坦な上面22を有する形状である場合,この上面の端部に形成されたエッジeが鋭利な形状に形成されていると,この部分が欠け易く,前述したパーティクルの発生源となり得ると共に,被処理成品の破壊の起点となり得るが,前記第2のブラスト加工によって,前記凸部21の前記上面22の端部に形成されたエッジeにR10μm以上の丸みを付けた構成では,このエッジeがパーティクルの発生源やチッピング等の破壊の起点となることについても好適に防止することができた。
【発明を実施するための形態】
【0038】
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する。
【0039】
〔加工対象成品〕
本発明の表面加工方法で加工対象とする被処理成品は,硬質で,かつ脆性を有する材料製の成品全般を含み,硬質脆性材料としては,一例としてアルミナ,炭化珪素,窒化珪素,サファイア,ジルコニア,窒化アルミニウム,サーメット,石英ガラス,ソーダガラスなどを挙げることができる。
【0040】
加工対象とする成品の表面としては,一例として,静電チャックのセラミックス誘電体層の基板吸着面を挙げることができるが,これに限定されず,突起や溝等を形成して凹凸形状とする表面を備えた硬質脆性材料製の成品全般に対し適用可能である。
【0041】
〔第1のブラスト加工〕
第1のブラスト加工では,硬質脆性材料製の成品に対し,成品の母材硬度よりも高硬度の砥粒を噴射して成品の表面に複数の凸部21を形成すると共に,該凸部21間に複数の凹部24を形成して所定の立体的な凹凸形状に形成する。
【0042】
形成する凹凸形状は,円柱や角柱などの柱状,円錐台や角錐台等の錐台形状の突起を形成したものであっても良く,又は,多数の溝や孔を形成することにより凹凸形状に形成したものであっても良く,溝や孔は,有底孔或いは貫通孔のいずれであっても良い。
【0043】
突起の形成により被処理成品の表面に凹凸形状を形成した場合,突起が前述の凸部21であり,この突起21間に生じた間隔が前述した凹部24である。
【0044】
また,溝や孔の形成により被処理成品の表面に凹凸形状を形成した場合,溝や孔の形成部分が前述した凹部24であり,その他の部分(溝や孔が形成されていない部分)が前述した凸部21である。
【0045】
このような凹凸形状は,凹部24の幅が小さすぎると後述する第2のブラスト加工時に弾性研磨材が凸部21の側面23や凹部24の底面25を十分に研磨することができなくなることから,前述した凹部24の最狭部の幅が50μm以上となるように形成する。
【0046】
第1のブラスト加工に先立ち,成品の表面に対し必要に応じて切削を行わない部分を保護するために耐ブラスト性を有するマスク材を貼着する。
【0047】
このマスク材の貼着によって,被処理成品の表面に前述した突起や溝,孔等を所定のパターンで形成することができ,これにより被処理成品の表面を所定の立体的な凹凸形状とすることができる。
【0048】
第1のブラスト加工に使用する砥粒は,被処理成品の母材である硬質脆性材料よりも高硬度のものを使用し,一例としてアルミナ,ホワイトアルミナ,カーボランダム,グリーンカーボランダム,ボロン,ダイヤ等の砥粒から被処理成品の母材硬度に応じて選択することができ,砥粒の形状も多角形状のもの(グリッド),角のない球状のもの(ショット)のいずれ共に使用可能である。
【0049】
使用する砥粒の粒径は,形成する凹凸の寸法,加工対象とする被処理成品の母材の材質等に応じて平均粒径1μm〜1000μm,好ましくは,3μm〜200μm,より好ましくは10μm〜60μmの範囲内より選択する。
【0050】
前述した砥粒の投射は,既知の各種ブラスト加工装置を用いて行うことができ,圧縮空気等の圧縮流体を利用して研磨材を噴射する乾式ブラストや湿式ブラスト等のブラスト加工装置の他,羽根車を回転させて研磨材に遠心力を与えて投射する遠心式(インペラ式)や,打出しロータを用いて研磨材を叩きつけ投射する平打式等,被加工物の加工表面に対して所定の噴射速度や噴射角度で研磨材を投射することが可能なブラスト加工装置を広く含むが,噴射圧力や噴射速度,噴射範囲等の制御が比較的容易なエア式の乾式ブラスト加工装置の使用が好ましい。
【0051】
このような乾式のエア式ブラスト加工装置としては,圧縮気体の噴射により生じた負圧を利用して研磨材を吸引して圧縮気体流に合流させて噴射するサクション式のブラスト加工装置,研磨材タンクから落下した研磨材を圧縮気体に乗せて噴射する重力式のブラスト加工装置,研磨材が投入されたタンク内に圧縮気体を導入し,別途与えられた圧縮気体供給源からの圧縮気体流に研磨材タンクからの研磨材流を合流させて噴射する直圧式のブラスト加工装置,及び,上記直圧式の圧縮気体流を,ブロワーユニットで発生させた気体流に乗せて噴射するブロワー式ブラスト加工装置等が市販されているが,これらはいずれも前述した第1のブラスト加工に使用可能である。
【0052】
砥粒を投射する速度やエア式のブラスト加工装置における噴射圧力等は,研磨材に所望の速度エネルギーを付与できるものであれば良く,加工目的,使用する研磨材,被処理成品の材質,その他各条件に応じて選択可能であるが,ブラスト加工装置としてエア式のブラスト加工装置を使用する場合,噴射圧力を一例として0.05MPa〜0.6MPaの範囲内で調整可能である。
【0053】
被加工物に対する研磨材の入射角は,被処理成品の加工面の形状等に応じて10°〜90°の範囲で調整可能であり,また,噴射ノズルの先端から被処理成品の表面迄の距離(噴射距離)は,加工目的や加工物の形状、使用する研磨材,加工物の材質,その他各条件に応じて0.5mm〜300mmの範囲内で調整可能である。
【0054】
〔第2のブラスト加工〕
第1のブラスト加工による切削によって形成された立体的な凹凸形状の表面は,これを微視的にみると研磨材の衝突により表面が粗くなっており,前述したパーティクルが発生し易くまた,チッピングやクラックが発生し易い状態となっていると共に,被処理成品が透明な材質により構成されたものである場合,曇りガラスのような不透明な表面となっている。
【0055】
そこで,前述の第1のブラスト加工によって凹凸形状に形成された被処理成品の表面に対し,更に弾性研磨材を投射する第2のブラスト加工を行い,凸部21の上面22の他,凸部21の側面23や凹部24の底面25を鏡面に研磨すると共に,凸部21の上面22の端部に形成されたエッジeに丸み付けを行う。
【0056】
第2のブラスト加工で使用する弾性研磨材とは,ゴムやエラストマー等の低反発弾性の弾性体に砥粒を担持させたもので,弾性体に対する砥粒の担持方法は,弾性体の表面に砥粒を付着させることにより担持させるものとしても良く,あるいは弾性体に砥粒を練り込むことにより担持させるものとしても良い。
【0057】
このような構造を有する弾性研磨材は,弾性体によって被処理成品の表面に衝突した際の反跳が妨げられ,衝突によって潰れて形状を変形させながら被処理成品の表面を滑走することで,第1のブラスト加工の際に形成された凹凸面の粗い表面が滑らかにするように研磨する。
【0058】
使用する弾性研磨材は,第1のブラスト加工で形成された凹部24の幅wに対し十分に小さな大きさの砥粒を担持させたものを使用し,第1のブラスト加工で形成された凹部24の幅wに応じて50μm〜2000μm,より好ましくは100μm〜1500μmの範囲から選択可能で,変形性に富む弾性研磨材の粒径は,前述した凹部24の幅wよりも大きなものであっても良い。
【0059】
弾性体に担持させる砥粒としては,被処理成品の母材よりも高硬度で,かつ,前述した凹部の幅wよりも小さなものを使用し,一例として平均粒径0.1μm〜100μmのダイヤ,カーボランダム,グリーンカーボランダム,アルミナ,ホワイトアルミナ,ボロンなどより選択可能である。
【0060】
第2のブラスト加工における弾性研磨材の投射も,第1のブラスト加工と同様,既知の各種のブラスト加工装置を使用して行うことができ,また,エア式のブラスト加工装置の使用が好ましい点についても同様である。
【0061】
第2のブラスト加工をエア式のブラスト加工装置で行う場合,噴射圧力は一例として0.05MPa〜0.6MPaの範囲内で調整可能である。
【0062】
被加工物に対する研磨材の入射角は,加工目的や加工物の形状により10°〜90°の範囲で調整可能である。
【0063】
第2のブラスト加工は,前記被処理成品の表面に対し所定の傾斜した角度で前記弾性研磨材を噴射すると共に,前記噴射ノズルと前記被処理成品を所定のパターンで相対的に移動させながら前記弾性研磨材を噴射することで,前記凹凸面とされた前記被処理成品の表面上の各部に対し,平面視において少なくとも4方向より前記弾性研磨材が噴射されるように構成する。
【0064】
より好ましくは,このような相対移動を,入射角を変えて複数回に亘り行うことが好ましい。
【0065】
このように構成することで,被処理成品の表面に形成された凹部24の底面25の角部に至るまで確実に研磨することができ,磨き残しの発生を防止することができる。
【0066】
このような相対移動は,一例として前記噴射ノズルを多軸ロボット装置によって所定パターンで移動させることにより行うことができる。
【0067】
また,噴射ノズルの先端から被処理成品の表面までの距離(噴射距離)は,加工目的や加工物の形状,使用する研磨材,加工物の材質,その他各条件に応じて3mm〜300mmの範囲内で調整可能である。
【0068】
以上で説明した第2のブラスト加工により,被処理成品の表面に形成された凸部21及び凹部24の表面を算術平均粗さRa1.6μm以下,好ましくはRa1.0μm以下,特に,静電チャックの誘電体層の加工である場合,基板と接触する凸部21の上面についてはRa0.2μm以下に研磨すると共に,凸部21上面22の端部に形成されたエッジeに,R10μm以上の丸み付けを行う。
【0069】
これにより,静電チャックの誘電体層の表面に対する突起の形成等,半導体製造装置に使用される部品に対する加工を本発明の表面加工方法で行うことで,汚染物質であるパーティクルが発生し難くすると共に,チッピングやクラックが発生し難い状態とすることができる。
【0070】
また,被処理成品が透明な材質により構成されたものである場合,曇りガラスのような不透明な表面となっている被処理成品の表面を透明,あるいは透明に近付けることができる。
【実施例】
【0071】
次に,本発明の研磨方法によって硬質脆性材料の表面加工を行った加工例を実施例として示す。
【0072】
〔実施例1〕
(1)加工の概要
静電チャックの炭化ケイ素(SiC)製の誘電体層(直径200mm,厚さ5mm)に,第1のブラスト加工で,頂部の直径φ1が450μm,底部の直径φ2が750μm,高さhが180μmの円錐台形状の突起を,最狭部における谷底の幅wが240μmとなるように一定のパターンで形成し,この突起が形成された後の被処理成品の表面を,第2のブラスト加工によって研磨した。
【0073】
(2)ブラスト加工条件
第1及び第2のブラスト加工条件をそれぞれ下記の表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
(3)加工結果
上記の加工条件で加工した被処理成品表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を
図1に,レーザー顕微鏡による凸部の観察結果を
図2に,レーザー顕微鏡による凹部底面の観察結果を
図3にそれぞれ示す。
【0076】
図1のSEM像より,第1のブラスト加工後の被処理成品表面〔
図1(A)参照〕に対し,第2のブラスト加工後の被処理成品の表面〔
図1(B)参照〕では,凸部の上面,側面,及び凹部の底面のいずれ共に滑らかで光沢のある表面に変化していることが確認できると共に,第1のブラスト加工後の表面では鋭利な角となっていた凸部上面の端部に形成されたエッジが丸みを帯びた状態に変化していることが確認できる。
【0077】
レーザー顕微鏡による観測の結果,凸部上面の端部に生じたエッジは,
図2(A)及び(B)に示すように,第1のブラスト加工後の表面ではR5.717μmであったものが,第2のブラスト加工後の表面ではR27.431μmまで丸められており,チッピングやクラック等の生じ難い状態にまで研磨されている。
【0078】
更に,凸部間に形成された凹部の表面についても,
図3に示すように第1のブラスト加工後には算術平均粗さRaで0.445μm,最大高さRzで2.737μmあったものが,第2のブラスト加工後には算術平均粗さRaで0.175μm,最大高さRzで1.036μmと粗さが60%以上も低減された平滑な状態となっている。
【0079】
しかも,
図2のプロファイル計測データからも明らかなように,第2のブラスト加工後の凸部は表面が滑らかになっているものの,第1のブラスト加工後の凸部と高さや全体的な形状に殆ど変化が無く,弾性研磨材を使用した第2のブラスト加工により,第1のブラスト加工によって付与した凹凸形状を殆ど変化させることなく維持したまま,被処理成品の表面全体を均一に研磨できていることが確認された。
【0080】
このように,本発明の方法で表面に突起(ピン)を形成する加工が行われた静電チャックの誘電体層は,基板と接触する凸部の上面のみならず,凸部の側面や,凸部間に生じた凹部の底面に至るまで全て滑らかに研磨されていることから,これを真空製膜装置内に配置して基板の固定に使用した場合であっても,パーティクル等の汚染物質の発生源となり難い。
【0081】
また,凸部の上面,側面及び凹部の底面に至るまで,全体が研磨されて滑らかな表面となっていることで,静電チャックの誘電体層に対する油分や異物等の汚れも付着し難く,付着しても簡単に除去することが可能である。
【0082】
〔実施例2〕
(1)加工の概要
アルミナ製の基板(40mm×40mm×1.5mm)に,第1のブラスト加工で頂辺s1を135μm,底辺s2を290μm,高さh110μmの土手状の凸部を,凹部底面の幅wが650μmとなるように一定のパターンで形成し,第2のブラスト加工で,前記凸部が形成された基板の表面を研磨した。
【0083】
(2)ブラスト加工条件
第1及び第2のブラスト加工条件をそれぞれ下記の表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
(3)加工結果
第2のブラスト加工前後における基板表面に形成された凸部の上面及び側面の表面粗さを測定すると共に,凸部上面の端部に形成されたエッジの丸みを測定した結果を,
図4及び
図5に示す。
【0086】
図4に示したように,第1のブラスト加工後,第2のブラスト加工前の凸部の側面及び上面の表面粗さは,それぞれ十点平均粗さRaで1.856μm,0.681μmであったのに対し,
図5に示すように,第2のブラスト加工後ではそれぞれ0.973μm,0.106μmまで減少しており,表面粗さが大幅に改善していることが確認された。
【0087】
また,凸部上面の端部にあるエッジについても,第1のブラスト加工後のエッジのRが4.150μmであったのに対し,第2のブラスト加工後のエッジのRは52.884μmとなっており,エッジの丸み付けが行われていることが確認できた。