(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.第1の実施形態
(構成)
以下、発明を利用した眼科装置の一例を説明する。
図1には、検出光の波面補正を行う補償光学系を備えた補償光学走査型レーザー検眼鏡(AO−SLO)の光学系の一例が示されている。図中の×印は、被検眼200の眼底(網膜)201と共役となる位置(眼底共役位置)を示している。
【0012】
図1には、光学系100が示されている。光学系100は、光源101を備えている。光源101は、例えば波長840nmの光を発するスーパールミネッセンスダイオード(SLD)である。光源101の波長としては、波長500nm〜1500nmが採用可能である。光源101としては、レーザーダイオード(LD)やレーザードリブンライトソース(LDLS)等を用いることもできる。
【0013】
光源101には、レーザー光を導く光ファイバ102が接続されている。光ファイバ102の先には、光ファイバ102から出射したレーザー光を平行光にするためのレンズ103が配置されている。レンズ103から出射したレーザー光は、光源101からの光の光量と形状を調整する照明絞り104で光が調整され、偏光ビームスプリッタ105に入射し、そこを透過する。偏光ビームスプリッタ105は、眼底からの反射光を後述する波面検出部106に導くために配置されている。
【0014】
波面検出部106は、シャックハルトマンセンサーとして機能する部分であり、ハルトマン撮像装置107と、その手前のレンズアレイ108を有している。レンズアレイ108は、小さなレンズを4×4や5×5等の格子状に配列したもので、入射光を多数の光束に分割しそれぞれ集光する。レンズアレイ108の焦点がハルトマン撮像素子107により撮像される。ハルトマン撮像素子107は、CCDやCMOSイメージセンサにより構成されている。ハルトマン撮像素子107に撮像されたレンズアレイ108の各レンズの集光位置を解析することで、レンズアレイ108に入射した光の波面収差を知ることができる。すなわち、レンズアレイ108を介して被検眼200の眼底201からの反射光を観察することで、被検眼の波面の乱れを知ることができる。
【0015】
ハルトマン撮像素子107が撮像した画像は、後述する
図3の演算部203に送られ、そこで被検眼の波面の乱れが解析される。なお、解析された被検眼の波面の乱れに基づく制御信号(フィードバック信号)が、
図3の制御部206から後述するデフォーマブルミラー111に送られる。
【0016】
波面検出部106の手前には、レンズアレイ108に入射する光束を整えるレンズ系109が配置されている。偏光ビームスプリッタ105の被検眼200の側には、ハーフミラー110が配置されている。ハーフミラー110は、反射率10%で透過率90%の物が利用されている。
【0017】
ハーフミラー110の被検眼200の側には、波面補正素子であるデフォーマブルミラー111が配置されている。デフォーマブルミラー111は、波面補正を行うための可変形鏡である。デフォーマブルミラー111は、複数のアクチュエータによって表面の形状を変形させることが可能なミラーである。
【0018】
デフォーマブルミラー111は、ハルトマン撮像素子107が撮像した画像の解析結果に基づく制御信号により駆動される。すなわち、ハルトマン撮像素子107が撮像した画像から被検眼に波面の乱れ(波面の歪み)がある場合、その乱れを減少させるようにデフォーマブルミラー111の表面形状の変形が行なわれる。波面補正素子はデフォーマブルミラーに限定されず、空間位相変調器やバイモルフミラー等を用いることもできる。
【0019】
デフォーマブルミラー111で反射された検出光(眼底反射光)の一部は、ハーフミラー110を透過し、眼底反射光検出器112に向かう。眼底反射光検出器112は、被検眼200の眼底201からの微弱な反射光を検出する光検出素子であり、例えば光電子増倍管やAPD(アバランシュ・フォトダイオード)により構成されている。眼底反射光検出器112の前には、共焦点絞りとして機能するピンホール113が配置されている。ピンホール113の前には、ピンホール113の部分に眼底からの反射光が集光するように光を集光するレンズ114が配置されている。
【0020】
ピンホール113は、光軸に垂直なX―Y平面内で移動が可能な構造とされている。ピンホールの移動は、モータにより行われる。なお、ピンホール113を更に光軸方向に移動できるようにしてもよい。この場合、ピンホール113は、三次元的な平行移動が可能となる。
【0021】
図2にピンホール113の駆動機構の一例を示す。
図2には、ピンホール(光学絞り孔)113が形成されたピンホール形成板221が示されている。ピンホール形成板221は、駆動部225を備えた超音波モータ224によってY軸方向に駆動され移動する。超音波モータ224および駆動部225は、可動部材223に固定されている。可動部材223は、駆動部227を備えた超音波モータ226によってX軸方向において駆動され移動する。超音波モータ226は、装置の筐体に固定される支持体228に固定されている。この構造によれば、超音波モータ224および226によって、ピンホール113は、X−Y平面内において変位し、指定された位置に移動する。
【0022】
図1に戻り、デフォーマブルミラー111の被検眼200の側には、光束を整えるためのレンズ系131を間において、垂直方向スキャナ115が配置されている。被検眼200の眼底201には、光源101からのレーザー光が走査されながら照射される。垂直方向スキャナ115は、その傾きが可変可能なミラーであり、その傾きが制御されることで、上記照射光の走査における垂直方向の走査が行なわれる。
【0023】
垂直方向スキャナ115の被検眼200の側には、レンズ系132を介して水平方向スキャナ116が配置されている。水平方向スキャナ116は、その傾きが可変可能なミラーであり、その傾きが制御されることで、上記照射光の走査における水平方向の走査が行なわれる。デフォーマブルミラー111、垂直方向スキャナ115、水平方向スキャナ116は共に、そのミラー面が被検眼の瞳と共役関係をなすように配置されている。
【0024】
水平方向スキャナ116の被検眼200の側には、レンズ133を介して、視度補正機構117が配置されている。視度補正機構117は、レーザー光を眼底201上に略点像として照射するように調整する。視度補正機構117は、くの字形状の視度補正ミラー118,119を備えている。視度補正ミラー119を視度補正ミラー118に対して相対的に遠近させることで、眼底201に光学系100の焦点がくるように調整が行われる。
【0025】
視度には、個人差や個体差があるが、この視度に違いがあっても、視度補正ミラー119の位置を動かすことで、眼底201に光学系100の焦点がくるように、つまり眼底201上に照射光が略点像として集光して照射されるように、調整が行われる。なお、視度補正機構117において、被検眼の瞳は無限遠と共役関係にある為、視度補正ミラー119の移動によって光学系内の瞳共役関係は変動しない。
【0026】
視度補正機構117の被検眼200の側には、レンズ系120を介して、ダイクロイックミラー121,122が配置され、更に対物レンズ123が配置されている。対物レンズ123は、収差を抑えるために複数のレンズを組み合わせた構造を有している(勿論、1枚のレンズで構成されていてもよい)。
【0027】
ダイクロイックミラー121は、光源101からの光を反射し、赤外光源127が照射する赤外光を透過する。例えば、ダイクロイックミラー121は、光源101からの波長840nmの光を反射し、赤外光源127から照射され、被検眼200の前眼部で反射された波長950nmの光を透過する。ダイクロイックミラー121を透過した前眼部反射光は、レンズ123を介してCCDカメラやCMOSカメラによって構成された前眼部撮像素子124で検出される。
【0028】
ダイクロイックミラー122は、光源101からの光および赤外光源127から被検眼200の前眼部に照射され、そこで反射された赤外光を反射し、後述する固視標126からの光を透過する。例えば、ダイクロイックミラー122は、光源101からの波長840nmの光および赤外光源127からの波長950nmの光を反射し、後述する固視標126からの波長400nm〜600nm程度の光を透過する。
【0029】
固視標126は、被検眼200の向き(視線)を固定させるための視認目標である。固視標126は、被検眼200が視認できる波長の光(400nm〜600nm程度)を発光するフィルムや有機EL素子により構成され、光軸に垂直な方向に提示位置を移動可能とされている。固視標126の提示位置を移動させることで、被検眼200の視線の方向を意図する方向に誘導することができる。
【0030】
固視標126の手前には、ディオプター調整レンズ125が配置されている。ディオプターレンズ調整125は、被検眼200の屈折度数に対応して光軸上を移動する。ディオプターレンズ調整125は、主に被検眼201の網膜(眼底201)と固視標126とが共役な位置になるように光軸上で移動する。
【0031】
(制御系の構成)
図3(A)には、
図1の眼科装置の制御系のブロック図が示されている。
図3において、入力部220には、図示しない入力装置からの入力操作情報が入力される。入力装置は、キーボード装置、GUI(グラフィカル・ユーザ・インターフェース)を用いたもの、タッチパネルディスプレイを用いたもの等が利用可能である。また近年、GUIを利用可能な各種の携帯型情報処理端末が利用されているが、これら携帯型情報処理端末を利用して各種の操作を行い、その操作内容を入力部220で受け付ける構成も可能である。この例では、
図1の装置を操作するユーザにより、眼底201の傾きを指定するデータが入力部220に入力される。また、入力部220を用いて当該眼科装置に対するユーザの各種の操作が行われる。
【0032】
演算部203は、各種の演算機能およびインターフェース機能を有したマイコンにより構成されている。
図3(B)には、演算部203を機能ブロックとして把握した場合の構成が示されている。
図3(B)に示す各機能部は、CPUの演算により所定の機能を発揮するようにソフトウェア的に構成されていてもよいし、専用のハードウェアにより構成されていてもよい。
図3(B)において、スキャン処理部311は、眼底201への照射光(測定光)のスキャンを行うための処理を行う。ピンホール位置算出部312は、眼底の傾斜角度に係る情報に基づいてピンホール113の位置を決める処理を行う。
【0033】
ピンホール検索位置設定部313は、ピンホール113の位置を決める処理において、候補となる複数のピンホール位置を設定する処理を行う。画像選択部314は、複数得られた眼底画像の中から最も画質の高い画像を選択する。この例では、画質を評価する指標としてコントラストを採用する。コントラストを評価する方法としては、例えば、格子状の区切られた複数の領域における明暗の差の積算値を算出し、この値が最大の画像を選択する方法等が挙げられる。画質を評価する方法としては、より鮮明であることを評価する方法、より微細であること(情報量が多いこと)を評価する方法等がある。また、コントラストを含めて複数の評価方法を組み合わせて画質の良否を評価する方法もある。
【0034】
画像処理部315は、眼底画像の画像化に係る処理を行う。眼底反射光検出器112の出力は、ADC(ADコンバータ)202でデジタル信号に変換され、演算部203に送られる。ここで、眼底201(
図1参照)へは、光源101からの光が走査されつつ照射されるが、この際の照射点は、垂直方向スキャナ115と水平方向スキャナ116によって決められる。ここで、スキャン動作は、スキャン処理部311で決められるので、ある瞬間における照射点の位置は、演算部203の側で判明している。そこで、ADC202の出力をスキャン位置に対応させて割り当て画像の濃淡に変換することで、眼底の画像を得ることができる。この処理が画像処理部315で行われる。
【0035】
波面検出部316は、ハルトマン撮像素子107が撮像した画像の解析を行い、波面の状態を検出する。波面補正処理部317は、デフォーマブルミラー111で行わる波面補正に必要な処理を行う。
【0036】
その他、演算部203では、光源101のON/OFF制御のための演算、ディオプター調整レンズ125の位置を決めるための演算が行われる。演算部203の少なくとも一部を専用のハードウェアで構成することもできる。例えば、画像処理に係り処理を専用のハードウェアで行うような構成も可能である。
【0037】
表示部204は、
図1の眼科装置を操作するにあたって必要な各種の表示、および演算部203で得られた眼底画像の表示を行う。メモリ205は、演算部203で行う演算に必要な各種の情報および演算部203で行う演算の手順を決めるプログラムが格納されている。また、メモリ205には、得られた眼底画像の画像データが格納される。
【0038】
制御部206は、演算部203における演算の結果に基づき、スキャン動作の制御、光源101の制御、デフォーマブルミラー111の制御、視度補正ミラー119の位置制御、ディオプター調整レンズ125の位置制御、およびピンホール113の位置制御を行うための制御信号を生成する。
【0039】
垂直方向スキャン駆動部207は、垂直方向スキャナ115を動かすためのモータとその駆動回路を備えている。水平方向スキャン駆動部208は、水平方向スキャナ116を動かすためのモータとその駆動回路を備えている。視度補正ミラー駆動部209は、視度補正ミラー119の光軸上における位置を決めるモータとその駆動回路を備えている。ディオプター調整レンズ駆動部210は、ディオプター調整レンズ125の光軸上の位置を決めるモータおよびその駆動回路を備えている。
【0040】
ピンホール駆動部211は、ピンホール113の光軸に垂直な面内での位置を決めるX軸モータとY軸駆動モータ(
図2の高音波モータ226と224)、およびこれらモータの駆動回路を備えている。なお、ここでは、レンズやピンホールの位置を決める駆動源としてモータを用いる例を説明したが、モータの他に各種アクチュエータを用いることができる。
【0041】
(動作例1)
動作例1では、眼底の傾斜情報を入力し、この入力値に基づいてピンホール113の位置を決める。
図4は、動作例1の処理の手順を示すフローチャートである。
図4の処理を実行するためのプログラムは、
図3のメモリ205に格納されている。これは、
図7および
図9の処理を実行するためのプログラムについても同じである。
【0042】
処理が開始されると、まず視度補正ミラー119等の可動させる部分の原点への移動が行われる(S301)。ここで原点は、標準被検眼模型を用いて予め基準となる位置として決められている。
【0043】
次に、被検眼200(
図1参照)のアライメント(位置合わせが行われる)(ステップS302)。この処理では、前眼部撮像素子124が撮像した被検眼200の瞳の画像を利用して、被検眼200の瞳中心が光軸上にくるように被検眼200の位置および装置の被検眼に対する位置の調整が行われる。
【0044】
次に、ステップS303の処理を行う。この処理では、
図1の光源101から光を眼底に照射し、その反射光を波面検出部106で検出し、被検眼200の屈折度を測定する。この処理は、演算部203(
図3参照)において、ハルトマン撮像素子107による検出データを解析することで行われる。そして、測定した屈折度に対応させてディオプター調整レンズ125と視度補正ミラー119を動かす。この処理は数回繰り返され、ディオプター調整レンズ125と視度補正ミラー119の位置が被検眼200の屈折度に適合した位置となるようにする。
【0045】
次に、眼底の傾斜に関する情報である眼底の傾斜角度(θ,Φ)が入力される(ステップS304)。この処理は、装置を操作しているユーザが行う。傾斜眼底の角度(θ,Φ)の値は、標準眼底モデルの眼底に対する眼底201の傾きである。(θ,Φ)の値は、予め断層干渉撮影装置(OCT=Optical Coherence Tomography)等の別の手段で調べておいたものが利用される。なおθは、後述するX−Y平面におけるX軸方向における傾きであり、ΦはY軸方向における傾きである。
【0046】
図5には、OCT画像から眼底の層構造を抽出した概念図が示されている。
図5には、傾斜した眼底の代表的な例が示されている。例えば、
図5の画像から眼底の傾斜角の読み取りが行われる。
【0047】
(θ,Φ)が入力されると、ピンホール113の位置(X
p,Y
p)の算出がピンホール位置算出部312において行われ、ピンホール113の位置を原点の位置から(X
p,Y
p)の位置に移動させる(ステップS305)。ここで、X―Y座標系は、光軸に垂直な平面内で設定される。(θ,Φ)と(X
p,Y
p)とは、ピンホール113と眼底201との間の光学的な距離(眼軸長)をL、光学倍率をαとして、
図6に示す関係がある。なお、
図6の関係から明らかなように、眼底201の傾きがない場合、すなわち被検眼200の眼底201が標準眼底モデルと同じである場合、眼底の傾きはなく、θ=0°,Φ=0°であり、ピンホール113は移動せず(X
p,Y
p)は原点の位置となる。なお、(θ,Φ)と(X
p,Y
p)の関係を実験的に予め取得しておき、それを利用して(θ,Φ)から(X
p,Y
p)を求めても良い。
【0048】
ピンホール113の位置を決めた後、光源101からのレーザー光(測定光)を眼底201に走査しつつ照射する処理を開始する(ステップS306)。この際、垂直方向スキャナ115および水平方向スキャナ116を用いての照射光のスキャン(走査)が行われる。眼底201へのレーザー光の照射を開始したら、波面検出部106による検出光(眼底反射光)における波面収差の検出、およびデフォーマブルミラー111による波面補正を行う(ステップS307)。波面収差の検出は、波面検出部316で行われ、波面補正に係る演算は、波面補正処理部317において行われる。
【0049】
レーザー光の照射を行いつつ反射光(検出光)を眼底反射光検出器112で検出したら、眼底反射光検出器112の出力に基づき画像処理部315において眼底画像の画像化が行われる(ステップS308)。次いで、得られた眼底画像がメモリ205に記憶される(ステップS309)。また当該画像は、表示部204に表示される(ステップS310)。
【0050】
(動作例2)
動作例2では、ピンホール113の最適な位置を段階的に絞り込んでゆく処理の一例を説明する。
図7は、動作例2の手順を示すフローチャートである。なお、
図7において、
図4と同じ処理の部分は、
図4に関連して説明した処理の内容と同じである。
【0051】
処理が開始されると、移動部の原点移動が行われ(ステップS501)、次いで広域におけるピンホール113の検索位置の設定がピンホール検索位置設定部313で行われる(ステップS502)。この処理では、例えば、
図6の座標における3×3点や4×4点といった複数の格子点が検索位置として選択される。この選択は、例えば予め用意された3×3点,4×4点,5×5点といったメニューの中から利用者が選択することで行われる。
【0052】
例えば、3×3点の場合、処理時間は短いが格子点間隔が相対的に大きいので精度が犠牲になる。他方で、5×5点の場合、処理時間は長くなるが格子点間隔が狭いので精度は高くなる。なお、格子点が設定される領域の形状は、正方形に限定されず、長方形、円形、楕円形、五角形、六角形等であってもよい。
【0053】
次に、眼のアライメントが行われ(ステップS503)、更にディオプター測定と駆動部移動が行われる(ステップS504)。そして、ステップS502で設定した格子点の一つにピンホール113を移動させる(ステップS505)。
【0054】
次に、測定光の走査を開始し(ステップS506)、また波面収差の測定と補正を行う(ステップS507)。次いで、検出光に基づく眼底画像の画像化を行い(ステップS508)、更に得られた画像をメモリ205(
図3参照)に保存する(ステップS509)。
【0055】
次に、他の検索位置が更にあるか否かの判定が行われ(ステップS510)、他の検索位置がある場合は、ステップS505以下の処理が再度行われ、他の検索位置がない場合は、ステップS511に進む。
【0056】
ステップS511では、以下の処理が行われる。まず、ステップS502で設定したすべての格子点に対応した眼底画像が比較され、最もコントラストの高い眼底画像が選択される。例えば、ステップS502において、ピンホール113の検索位置として格子状の3×3点が選択された場合、9つの眼底画像が比較され、その中から最もコントラストの高い眼底画像が選択される。この処理は、画像選択部314で行われる。そして、最もコントラストが高い眼底画像が得られた場合のピンホール113の位置Pbが取得される。Pbは、
図6における座標における位置として把握される。
【0057】
図8には、3カ所の検索位置に対応した3枚の眼底画像(P=1,P=2,P=3)が示され、その中ら最もコントラストの大きいP=2の画像が選択される場合の例が示されている。
【0058】
Pbを取得したら、Pbを中心とした領域において、3×3点や5×5点といった格子点を検索位置として設定する処理がピンホール位置算出部312において行われる(ステップS512)。この処理で設定される格子点は、Pb周辺の狭い領域において設定される。当然、ここでは、ステップS502における格子点よりも高密度に格子点が設定される。例えば、ステップS502において3×3の第1の格子点群が検索位置として設定された場合、ステップS512では、格子間隔を第1の格子点群の(1/3)とし、中心をPbの位置とした3×3の第2の格子点群を検索位置として設定する。
【0059】
次に、ステップS512で設定された検索位置にピンホール113を移動させ(ステップS513)、測定光の走査を開始し(ステップS514)、更に波面収差の測定と波面の補正を行う(ステップS515)。そして、検出光に基づく眼底画像の画像化を行い(ステップS516)、その画像をメモリに記憶する(ステップS517)。
【0060】
そして、ステップS512で設定された検索位置で未検索な検索位置が残っているか否かの判定が行われ(ステップS518)、未検索な検索位置がある場合はステップS513以下の処理が再度行われ、未検索な検索位置がない場合はステップ519に進む。
【0061】
ステップS519では、ステップS512で設定した検索位置に対応して得られた眼底画像の比較が行われ、その中から最もコントラストの高い眼底画像が選択される。次に、ステップS519で選択された眼底画像が表示部204(
図3参照)に表示され、さらにこの眼底画像の画像データがメモリ205に保存される(ステップS520)。これで一連の処理が終了する。
【0062】
動作例2によれば、ピンホール113の位置を微動させて複数の眼底画像の取得を行い、更にその中から最も高コントラストの眼底画像を選ぶ処理を2段階に渡り行っている。つまり、最適なピンホールの位置を絞り込んでゆく処理を2段階に渡り段階的に行っている。この処理によれば、眼底の傾きに応じたピンホール113の適切な位置の探索が効率よく行えるのと同時に、その位置精度を高めることができる。
【0063】
ここでは、ピンホール113の探索を2段階で行う例を説明したが、更に多段階に探索を行うことも可能である。また、ステップS511において、Pbの取得は行わず、その時点で得られている眼底画像の中で最も高コントラストであった眼底画像を選択し、表示する処理を行ってもよい。この場合、更なるピンホール113の最適位置の探索は行われないが、処理時間を短縮することができる。
【0064】
(動作例3)
動作例3では、眼底の傾斜を入力し、この入力値に基づいてピンホール113の検索範囲を設定し、この検索範囲において、更に最適なピンホール位置を検索する処理の一例を説明する。
図9は、動作例3の処理の手順を示すフローチャートである。この動作では、処理が開始されると、まず移動部の原点移動が行われ(ステップS601)、次いで眼のアライメントが行われる(ステップS602)。
【0065】
次に、ステップS303と同様の処理が行われ(ステップS603)、更に傾斜眼底の角度(θ,Φ)の入力が行われる(ステップS604)。(θ,Φ)が入力されると(θ,Φ)に対応したピンホール113の位置(X
p,Y
p)が算出される(ステップS605)。(X
p,Y
p)の算出は、
図4のステップS305に関連して説明した方法(
図6に示す関係)を用いてピンホール位置算出部312で行われる。
【0066】
(X
p,Y
p)を算出したら、(X
p,Y
p)の周辺においてピンホール113の検索位置を設定する(ステップS606)。すなわち、(X
p,Y
p)を得たら、その点を中心とした領域で3×3点や5×5点といった格子点を検索位置として設定する。この処理は、ピンホール検索位置設定部313において行われる。
【0067】
検索位置を設定したら、そこにピンホール113を移動させ(ステップS607)、測定光の走査を開始する(ステップS608)。また、走査の開始と共に、波面収差の測定と波面の補正を行う(ステップS609)。そして、検出光に基づく眼底画像の画像化を行い(ステップS610)、その画像をメモリに記憶する(ステップS611)。
【0068】
次に、ステップS606で設定された検索位置で未検索な検索位置が残っているか否かの判定が行われ(ステップS612)、未検索な検索位置がある場合はステップS607以下の処理が再度行われ、未検索な検索位置がない場合はステップ613に進む。
【0069】
ステップS613では、ステップS606で設定した検索位置に対応して得られた眼底画像の比較が行われ、その中から最もコントラストの高い眼底画像が選択される。次に、ステップS613で選択された眼底画像が表示部204(
図3参照)に表示され、さらにこの眼底画像の画像データがメモリ205に保存される(ステップS614)。これで一連の処理が終了する。
【0070】
眼底の傾きのデータのみからピンホール113の位置を算出した場合、誤差が生じる可能性がある。動作例3によれば、計算値周辺での探索が行われるので、計算値に誤差があっても、より理想に近い位置にピンホール113を配置した場合の眼底画像を得ることができる。なお、ステップS613の後に、
図7のステップS511以下の処理を行い、更に検索範囲を絞って最適なピンホール位置の検索精度を高めることもできる。
【0071】
2.第2の実施形態
(構成)
図10には、本実施形態の眼科装置の光学系が示されている。この例では、
図1の構成に光断層干渉撮影装置(OCT)の機能が追加されている。以下、
図1と異なる部分について説明する。なお、特に説明しない部分は、
図1と同じである。
【0072】
図10の構成では、ハーフミラー110とデフォーマブルミラー111との間にダイクロイックミラー700が配置されている。ダイクロイックミラー700は、光源101からの光を透過し、光源701からの光を反射する。例えば、光源101の波長として840nmのものを採用し、光源701の波長として1050nmのものを採用した場合、ダイクロイックミラー700は、光源101からの波長840nmの光を透過し、光源701からの波長1050nmの光を反射する。
【0073】
OCT光学系は、光源701を備えている。光源701は、中心波長1050nmの光を発光するスーパールミネッセンスダイオード(SLD)である。光源701は、波長幅が広い光を発光するタイプのものが用いられている。光源701からの光は、光ファイバ702を介してファイバーカプラー703に導かれる。ファイバーカプラー703は、光ファイバの分岐と合成を行う光学デバイスである。
【0074】
ファイバーカプラー703は、光源701からの光を光ファイバ704と707に分岐する。光ファイバ707に導かれた光源701の光は、OCT測定光(照射光)として、レンズ708を介してダイクロイックミラー700に至り、そこで反射されて被検眼200に向かう。ダイクロイックミラー700と眼底201との間におけるOCT測定光に係る光路は、光源101からの光と同じである。
【0075】
被検眼200の眼底201に照射されたOCT測定光は、眼底201で反射され、OCT検出光としてOCT測定光と逆の経路をたどり、ダイクロイックミラー700に至る。ダイクロイックミラー700で反射されたOCT検出光は、レンズ708と光ファイバ707を経て、ファイバーカプラー703に至る。
【0076】
他方で、ファイバーカプラー703で光ファイバ704に分岐された光源701からの光は、参照光としてレンズ705を介してミラー706に照射される。ミラー706で反射された参照光は、ファイバーカプラー703に戻り、光りファイバ707からのOCT検出光(眼底から反射した光源701からの光)と合成される。
【0077】
ここで、OCT検出光と参照光との光路長が同じになるように光路長が調整されており、ファイバーカプラー703で合成された参照光とOCT検出光とは干渉する。この干渉光は、光ファイバ709に導かれ、レンズ710を介してスペクトル分光器として機能する回折格子711に照射され、そこで反射される。
【0078】
回折格子711で反射された参照光とOCT検出光との干渉光は、ラインセンサ712で検出される。ラインセンサ712は、CCDセンサやCMOSイメージセンサで構成されており、その出力は、
図10の演算部203に送られる。演算部203は、後述する処理を行いOCT検出光に基づく眼底の断層画像の作成を行う。
【0079】
(制御系の構成)
図10は、
図9に示す構成の眼科装置の制御系のブロック図である。まず、光断層干渉撮影装置(OCT)の原理について簡単に説明する。時間的に低コヒーレンスである光を用いた場合、参照光路と測定光の光路長がほぼ等しいときに干渉信号が得られる。眼底のような多層構造の対象を測定する場合、異なる層からの反射光あるいは後方散乱した光は、光源波長幅内の異なる波長で干渉する。この干渉光の波長スペクトルをスペクトル分光器で取得し、スペクトル強度分布に対してフーリエ変換することで、実空間での深さに関する情報を得ることができる。
【0080】
図10の例では、ラインセンサ712の出力が演算部203に入力される。演算部203は、
図3の場合の機能に加えて、光断層干渉撮影装置(OCT)に係る演算、すなわち光の干渉を利用して眼底の断層構造の観察像を作成する処理も行う。この場合、演算部203は、層構造解析部318と傾斜角度算出部319を備えている。
【0081】
すなわち、本実施形態では、分光器711で分光された干渉光がラインセンサ712で検出される。演算部203の層構造解析部318では、上述した原理に従ってデジタル信号処理により、眼底201の深さ方向の情報(網膜の層構造の情報)を解析する。この解析の結果に基づき、画像処理部315は、眼底の断層画像を作成する。この網膜の層構造に係る断層画像(OCT画像)は、表示部204に送られ、またメモリ205に記憶される。また、傾斜角度算出部319は、得られた眼底の断層画像に基づき、眼底の傾斜角度(θ,Φ)の算出を行う。
【0082】
(動作A)
図4のステップS304の処理において、OCT画像から得られた(θ,Φ)の値が用いられる。例えば、層構造解析部318においてOCT画像が解析され、
図5に示すような層の構造が抽出される。そして、この抽出された層構造に基づき測定光のスキャン領域における(θ,Φ)の値が傾斜角度算出部319において算出される。他の処理は、
図4の処理と同じである。
【0083】
(動作B)
図9のステップS604の処理において、OCT画像から得られた(θ,Φ)の値が用いられる。(θ,Φ)の値を求める処理の内容は、上記の(動作A)の場合と同じである。他は、
図9の処理と同じである。
【0084】
3.第3の実施形態
図7のステップS510の後および/またはステップS518の後、つまりピンホール113に係る全ての検索位置に対応した複数の眼底画像が得られた段階において、得られた眼底画像の全てを表示部204の画面上に分割して表示してもよい。この場合、選択される眼底画像の候補をユーザが確認することができる。
【0085】
なお、複数の眼底画像の分割表示の後に、コントラストが最大の眼底画像の選択処理(ステップS511,S519)が行われるが、複数の眼底画像が同時に分割表示されている状態において、ユーザに一つの眼底画像を選択させることもできる。この場合、ユーザの操作情報が入力部220に入力され、この入力に基づき拡大表示させたい眼底画像の選択、および選択された眼底画像の表示部204への表示が行われる。なお、これらの処理は、演算部203において行われる。
【0086】
この例によれば、ユーザが好ましいと感じる画像を確認することができ、また選択することができる。
【0087】
また、得られた眼底画像の全てを表示させず、明らかに画質(例えばコントラスト)が劣った眼底画像は表示させず、ユーザが選択する候補となる複数の眼底画像を分割表示するようにしてもよい。なお、ここで説明した全てのピンホール検索位置に対応した眼底画像が得られた段階において、得られた眼底画像の全て(またはその一部の複数)を表示部204の画面上に分割して表示する処理を
図9のステップS612の後において行うことも可能である。
【0088】
4.(その他1)
ピンホール113の移動を1次元方向に限定することもできる。この場合、眼底の傾きへの対応は限定的となるが、条件によってはある程度のコントラスト向上効果を得ることができる。
【0089】
5.(その他2)
観察領域を4分割あるいは9分割と区切り、区分けされた狭い領域において、本明細書で開示する技術を適用することもできる。この場合、第1区画において最適なピンホールの位置での観察、第2区画において最適なピンホール位置での観察、といった制御が行われる。
【0090】
6.(その他3)
図3,
図7および
図9の処理を実行するためのプログラムを適当な記憶媒体に格納し、そこから供給される形態としてもよい。また、これらのプログラムをサーバー等に格納し、適当な回線を介して
図3に示す制御系に提供する形態も可能である。
【0091】
7.(その他4)
図1には、眼底反射光検出器112の前の眼底共役位置に配置されたピンホール113を光軸に垂直な面内で移動可能な構造としたが、検出光の光路における他の眼底共役位置にピンホールを配置し、このピンホールを移動可能とする構造も可能である。この場合もピンホールを通過する検出光の光量が最大となるように調整されるので、結果的に鮮明な観察像を得ることができる。また、例えばレンズ系109の眼底共役位置にピンホールを配置した場合に、当該ピンホールを光軸に垂直な面内で移動可能とすることで、ハルトマン撮像素子107が検出する波面情報の精度を高めることができる。
【0092】
8.(その他5)
ピンホール113を3次元的に移動可能とする構成も可能である。この場合、
図7のステップS502やS512、
図9のステップS606における検索位置の設定は、3次元空間内に設定された格子点において行われる。