【実施例】
【0017】
図1に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置10は、バーハンドル車両に搭載され、例えば二輪車の前輪に適用される。車両用ブレーキ液圧制御装置10は、マスタシリンダ12と車輪ブレーキ14との間に設けられ、液圧ユニット40と制御装置50とを主に備えている。詳細には、車両用ブレーキ液圧制御装置10は、ブレーキレバーの操作子11の操作に応じて作動液の液圧を発生するマスタシリンダ12と、作動液を一時的に貯留するリザーバ13と、マスタシリンダ12と車輪ブレーキ14の間に設けられる常開型電磁弁である入口制御弁15及び常閉型電磁弁である出口制御弁16(制御弁手段15、16)と、入口制御弁15と並列に設けられマスタシリンダ12側への流れのみ許容するチェック弁18とを備えている。
【0018】
また、車両用ブレーキ液圧制御装置10は、リザーバ13に貯留された作動液を吸入してマスタシリンダ12側に戻すポンプ部21と、このポンプ部21を駆動するアクチュエータ22と、このアクチュエータ22の駆動制御及び入口制御弁15と出口制御弁16の開閉制御をなす制御部30と、増圧制御における増圧レートを上げるか否か判定する判定部31とを備えている。
【0019】
車輪23の近傍には車輪速度を検出する車輪速度センサ25が設けられており、この車輪速度センサ25によって検出された信号が判定部31に送られ、判定部31により車輪速度、推定車体速度及び車体減速度が取得される。判定部31による車輪速度、推定車体速度及び車体減速度の信号は制御部30に送られ、制御部30では増圧レートに応じたABS制御等が実行される。このため、車体減速度が低い場合、増圧制御における増圧レートを高くすることができる。
【0020】
まず、通常ブレーキ時、ABS制御時の基本的な動作を説明する。車両用ブレーキ液圧制御装置10は、通常ブレーキ時の通常状態と、ABS制御時の減圧状態、保持状態、増圧状態と、を切り換える機能を有する。
【0021】
通常ブレーキ時;通常状態は、マスタシリンダ12と車輪ブレーキ14を連通する(入口制御弁15が開)とともに、車輪ブレーキ14とリザーバ13の間を遮断する(出口制御弁16が閉)状態である。操作子11を操作すると、マスタシリンダ12からの作動液圧が入口制御弁15を経由して車輪ブレーキ14に作用し、車輪が制動される。
【0022】
ABS制御時;車輪がロックしそうになった時に行われ、減圧状態、保持状態、増圧状態が切り換えられる。
ABS制御時の減圧状態は、マスタシリンダ12と車輪ブレーキ14の間を遮断する(入口制御弁15が閉)とともに、車輪ブレーキ14とリザーバ13を連通する(出口制御弁16が開)状態である。車輪ブレーキ14に通じる作動液が、出口制御弁16を通ってリザーバ13に流入し、車輪ブレーキ14に作用している作動液圧が減圧される。
【0023】
ABS制御時の保持状態は、マスタシリンダ12と車輪ブレーキ14の間、車輪ブレーキ14とリザーバ13の間をそれぞれ遮断する(入口制御弁15及び出口制御弁16が閉)状態である。ポンプ20が停止し、車輪ブレーキ14、入口制御弁15、出口制御弁16及びポンプ20で閉じられた流路内に作動液が閉じ込められ、車輪ブレーキに作用している作動液圧が一定に保たれる。
【0024】
ABS制御時の増圧状態は、マスタシリンダ12と車輪ブレーキ14との間を連通しつつ、車輪ブレーキ14とリザーバ13との間を遮断する状態である。
【0025】
次に、本発明のABS増圧制御を詳細に説明する。
制御部30(車両用ブレーキ液圧制御装置10)は、増圧制御では、マスタシリンダ12と車輪ブレーキ14との間を連通しつつ、車輪ブレーキ14とリザーバ13の間を遮断する。具体的には、入口制御弁15が開かれ、出口制御弁16が閉じられる。マスタシリンダ12で発生した液圧により車輪ブレーキ14の作動液が増圧される。
【0026】
このように、車両用ブレーキ液圧制御装置10は、少なくとも減圧、保持、増圧状態を含む制御サイクルを繰り返すことによって、車輪ブレーキ14に作用するブレーキ液圧の液圧制御可能としたものである。
【0027】
次に判定部31の構成を説明する。
図2に示すように、車輪速度を取得する装置は、車輪速度を検出する車輪速度センサ25と、車輪速度センサ25で検出された車輪速度を取得する車輪速度取得部33とを備えている。
【0028】
判定部31は、車輪速度取得部33と、この車輪速度取得部33によって取得した車輪速度に基づき推定車体速度を算出する推定車体速度算出手段34と、車輪速度に基づき車体減速度を算出する車体減速度算出手段35とを備えている。車体減速度算出手段35は、車体減速度が出ていない所定のしきい値以下である状態が一定時間継続したという条件を満たし、車体減速度が低い場合、増圧制御における増圧レートを高くする信号を発する。
【0029】
以上に述べた車両用ブレーキ液圧制御装置における、増圧レート変更のフローを次に説明する。
図3に示すように、ABS制御時において判定部31は、ステップ番号(以下、STと記す。)01で、車輪速度取得部33は、車輪速度センサ25からの信号により車輪速度VWを取得する。
【0030】
ST02で、車体減速度算出手段35は、車輪速度VWに基づき車体減速度dVWを算出する。
ST03で、車体減速度dVWから領減速度領域Gnを取得する。
ST04で、判定部31はABS制御が停止しているか判定し、停止していない場合(ST04:NO)はST05に進み、停止している場合(ST04:YES)は終了する。
【0031】
ST05で、判定部31は増圧モードが開始されているか判定し、開始されている場合(ST05:YES)はST06に進み、開始されていない場合(ST05:NO)は終了する。
ST06で、車体減速度が所定のしきい値以下である減速度領域G6の時間、すなわち減速度が最も出ていない減速度領域G6の時間TimG6を計算する。
【0032】
ST07で、領域G6の時間TimG6が、予め決められた一定時間tsn以上継続の場合(ST07:YES)はST08に進み、所定の一定時tsn未満の場合(ST07:NO)は終了する。一定時間tsnは、任意の固定値である。
ST08で、判定部31は増圧レートを上げる信号を発生し終了する。
【0033】
以上の制御を行うことで、ABS制御中に運転者によってブレーキが再操作された際のブレーキの応答性を向上でき、運転者の違和感を緩和できる。
【0034】
次に実施例の増圧レートを高くする増圧制御について説明する。なお、
図4(a)の時間軸に
図4(b)、
図4(c)の時間軸が一致している。
図4(a)は実施例における時間と減速度の相関図であり、減圧モードの後に増圧モードへ移行している。例えば減速度領域は、G6〜G1の6段階に分かれており、減速度領域G6が最も減速度が低く、減速度領域G1が最も減速度が高いことを示す。減速度領域G6から減速度領域G5、減速度領域G4へと減速度領域が変更されている。車体減速度dVRは、減速度領域G6でほぼ一定であり、減速度領域G5、減速度領域G4へと移行するにつれて、車体減速度dVRが急に変更される。
【0035】
図4(b)は実施例における時間と速度の相関図であり、増圧モードでは、車輪速度VWの低下に伴い、車体速度VRも低下している。
【0036】
図4(c)は実施例における時間とブレーキ液圧(CAL圧)、マスタシリンダ圧(M/C圧)の相関図である。運転者がブレーキ操作子の入力を解除してもABS制御が継続している状態であり、増圧モード中に運転者がブレーキ操作子を再操作すると、マスタシリンダ圧が上昇した後に一定になる。一方、ブレーキ液圧については、増圧レートが段階的に上がるが、各段階での保持時間tactが比較的短く、増圧量ΔP1も大きいため、ブレーキ液圧がマスタシリンダ圧と等しくなるまでの時間(tc−t0)が短くなる。
【0037】
仮に、一般的な増圧レートを高くする増圧制御を比較例とした場合、
図4(c)に示すように、比較例のブレーキ液圧については、増圧レートが段階的に上がるが、各段階での保持時間Δt2が長く、増圧量ΔP2も小さいため、ブレーキ液圧がマスタシリンダ圧と等しくなるまでの時間(tb−t0)が比較的長くなる。このため、ブレーキの応答性が低下して運転者が違和感を受ける。
【0038】
このように、ブレーキ液圧の増圧量は、ΔP2<ΔP1である。また、ブレーキ液圧の保持時間は、Δt2<tactである。ブレーキ液圧がマスタシリンダ圧と等しくなるまでの時間は、(tc−t0)<(tb−t0)である。すなわち、実施例は、一般的な比較例に較べて、ブレーキ液圧の増圧量が大きく、保持時間が短いので、ブレーキ液圧がマスタシリンダ圧と等しくなるまでの時間も短くなる。
【0039】
実施例では車体減速度dVRが低い場合、増圧制御における増圧レートを高くすることができるので、キャリパ側のブレーキ液圧(CAL圧)をマスタシリンダ側の液圧(M/C圧)付近まで素早く近づけることができる。このため、ABS制御中に運転者によってブレーキが再操作された際のブレーキの応答性を向上でき、運転者の違和感を緩和できる。
【0040】
また、本発明では、マスタシリンダ12(
図1参照)と車輪ブレーキ14の間に配置された入口制御弁15を開ける時間を増大させることでブレーキ液圧の増圧量を増大させるとともに、ブレーキ液圧を保持する保持時間を短くする。このため、適切に増圧レートを上げ、応答性の向上を図ることができる。さらに、段階的に増圧レートが高くなるように変更するので、運転者に違和感を与えずに適切に増圧レートを上げることができ、自然なフィーリングを達成することができる。
【0041】
次に所定のしきい値と減速度領域Gnについて説明する。
図5に示されるように、車体減速度が高ければ減速度領域はG1であり、車体減速度が低くなるにつれて減速度領域がG2、G3・・・、G6となることを示す。所定のしきい値は任意の値であり、減速度領域G6は、車体減速度が所定のしきい値以下の領域である。
【0042】
尚、実施例では、前輪のみに車輪用ブレーキ液圧制御装置を設けた例を示したが、後輪のみに設けても、両輪に設けるものであってもよい。
【0043】
また、実施例では、制御部30と判定部31を別々に設けたが、一体にして内部で機能を分けても差し支えない。また、実施例では、操作子11をブレーキレバーとしたがこれに限定されず、操作子11をブレーキペダルとしても差し支えない。また、実施例では、アクチュエータ22及びポンプ部21でポンプ20を構成したが、これに限定されず、アクチュエータ22をソレノイドとし、ポンプ20をソレノイド及びポンプ部21からなるソレノイドポンプとしてもよい。また、アクチュエータ22をモータとしてもよい。
【0044】
また、実施例では、車輪速度取得する装置は、パルサリング24と車輪速度センサ25を構成要素としが、これに限定されず、車輪23の回転をギヤで検出するものであってもよい。