(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6646784
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】苦土タンカル及び苦土タンカルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/06 20060101AFI20200203BHJP
C05D 5/00 20060101ALI20200203BHJP
C05D 3/02 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
C09K17/06 H
C05D5/00
C05D3/02
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-125896(P2019-125896)
(22)【出願日】2019年7月5日
【審査請求日】2019年7月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517235546
【氏名又は名称】宮城石灰工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 琢哉
【審査官】
柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−059586(JP,A)
【文献】
特開昭58−060686(JP,A)
【文献】
特開2011−116731(JP,A)
【文献】
特開2008−080223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00
C05B
C05C
C05D
C05F
C05G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌改良のために施肥される苦土タンカルの製造方法であって、
出発原料としてフィリピンのセブ島産のドロマイトを使用し、
粉砕後の粒度が200メッシュの篩下比率90質量%以上となるように前記ドロマイトを粉砕することにより苦土タンカルを製造し、前記粉砕の前に、前記ドロマイトの焼成処理を行わないことを特徴とする苦土タンカルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性土壌をアルカリ土壌に改良する苦土タンカルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
降雨量の多い日本では、酸性に傾いた土壌を農産物の育成に適した弱アルカリ性に改良するために土壌改良剤が施肥される。代表的な土壌改良剤として苦土タンカルが知られている(例えば、特許文献1参照)。苦土タンカルの苦土はマグネシウムの意味であり、苦土タンカルには炭酸カルシウム及びマグネシウムの双方が含まれている。苦土タンカルは、一般的に、鉱物資源であるドロマイト(Ca・Mg(CO
3)
2)を焼成した後、破砕,粉砕して粒度調整することにより土壌改良剤として使用される(非特許文献1参照)。
【0003】
消石灰は、配合率に応じたpHの変化度(言い換えると、緩衝曲線の傾き)が大きいため、土壌が強アルカリ性に傾きやすい。なお、配合率とは、乾燥土10gに対する土壌改良剤の添加量(外数)である。一方、苦土タンカルは、所定範囲の配合率において、弱アルカリ性の範囲で緩衝曲線の傾きが非常に小さくなるため、農産物用の土壌改良剤として優れた特性を有している。つまり、苦土タンカルには、農産物の育成に適した弱アルカリ性の土壌に土壌改良することが比較的容易というメリットがある。
【0004】
また、苦土タンカルに含まれるカルシウムは植物の根を丈夫にする効果があり、マグネシウムは植物が葉緑素を作るために必要な成分であり、植物に対して栄養を補給する効果も優れている。なお、土壌改良剤として周知のタンカルもpHの調整能力に優れているが、マグネシウムを補給する効果が苦土タンカルに対して劣る。したがって、消石灰、タンカル及び苦土タンカルのうち、苦土タンカルに対する消費者ニーズが高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−118636号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】苦土石灰|読み方・成分・効果・メリットとデメリットを徹底解説![令和元年7月1日検索]、インターネット<https://inakasensei.com/kudosekkai>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の苦土タンカルは、土壌に溶解するまでに時間がかかるという課題がある。例えば、寒冷地では春に積雪することがあり、積雪量が多い場合には施肥できないため、土壌改良に時間がかかる従来の苦土タンカルでは、最適な作付け時期を逃すおそれがある。
【0008】
そこで、本願発明は、施肥してから溶解するまでの時間が短い苦土タンカルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本願発明に係る苦土タンカルは、(1)土壌改良のために施肥される苦土タンカルであって、く溶性苦土が13質量%以上である。
【0010】
(2)前記く溶性苦土は、肥料等試験法にしたがって測定される測定値であることを特徴とする上記(1)に記載の苦土タンカル。
【0011】
(3)土壌改良のために施肥される苦土タンカルの製造方法であって、出発原料としてフィリピンのセブ島産のドロマイトを使用し、前記ドロマイトを粉砕して、200メッシュの篩下比率90質量%以上の条件を満足する苦土タンカルを製造することを特徴とする苦土タンカルの製造方法。
【0012】
(4)前記粉砕粒度で粉砕する前に、前記ドロマイトの焼成処理を行わないことを特徴とする上記(3)に記載の苦土タンカルの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、施肥してから溶解するまでの時間が短い、く溶性苦土の高い苦土タンカルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】X線回折装置による解析結果である(栃木県葛生産)
【
図2】X線回折装置による解析結果である(セブ島産)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態の苦土タンカル(以下、肥料という場合がある)は、従来とは異なる土壌改良剤であり、施肥後溶解するまでの時間が短い点に特徴がある。苦土タンカルの溶解時間は、く溶性苦土によって評価することができる。ここで、く溶性苦土とは、2%濃度のくえん酸液(温度は約30℃)で浸出するマグネシウム量のことである。
【0016】
本実施形態の苦土タンカルは、く溶性苦土が所定質量%以上であることを特徴としている。所定質量%は13質量%であり、好ましくは14質量%であり、より好ましくは15質量%である。く溶性苦土の測定方法は、「肥料等試験法」による。「肥料等試験法」は、使用する試薬、機器等をJIS規格等で規定しており、IUPAC(国際純正・応用化学連合)等のプロトコルを参照することにより試験法の妥当性が確認されている。また、2010年8月に農林水産省から発行された「汚泥肥料中の重金属管理手引書」にも妥当性が確認された分析法として記載されており、信頼性の高い試験法として知られている。
【0017】
く溶性苦土が13質量%以上の苦土タンカルを得るために、第1に「フィリピンのセブ島産のドロマイトを使用すること」が必要であり、第2に「ドロマイトを焼成しないこと」が必要であり、第3に「ドロマイトを強粉砕して細粒化すること」が必要である。これらの第1〜第3の条件が必要となる理由について、詳述する。
【0018】
(セブ島産のドロマイトについて)
従来の土壌改良剤は、国内産のドロマイトを出発原料とする苦土タンカルであった。表1は、栃木県葛生産のドロマイトを出発原料とする苦土タンカルのく溶性苦土等の測定値である。測定は、地方行政独立法人岩手県工業技術センターで行い、平成31年4月24日付け証明の試験成績書の記載を表1に転記した。栃木県葛生産のドロマイトを、200メッシュ(約74μm)の篩下比率90質量%以上の粉砕粒度でローラミルにより強粉砕し、200メッシュ(約74μm)の篩下比率90質量%以上の条件を満足する細粒苦土タンカルを試料として使用した。つまり、ドロマイトを、200メッシュの篩で振ったときに、90質量%以上が篩下に落下するような粉砕粒度で強粉砕して、篩下に落下した細粒苦土タンカルを試料として使用した。なお、このような粉砕粒度で強粉砕された苦土タンカルを、以下、単に「細粒苦土タンカル」と称する場合がある。粉砕粒度は、ローラミルの分級ベーン開度を調整したり、或いは分級ロータの回転数を変えることにより、変更できる。また、ローラミルには、IHI製のローラミルを使用した。
【表1】
【0019】
表2は、セブ島産のドロマイトを出発原料とする細粒苦土タンカルのく溶性苦土等の測定値である。測定方法は、栃木県葛生産の細粒苦土タンカルと同様、地方行政独立法人岩手県工業技術センターで実施した。平成30年2月22日付証明の試験成績書の記載を表2に転記した。
【表2】
【0020】
表1及び表2を比較参照して、セブ島産の細粒苦土タンカルは、栃木県葛生産の細粒苦土タンカルよりも、く溶性苦土が高かった。本発明者等は、その理由を以下のように考察した。
【0021】
表3は、セブ島産のドロマイトと栃木県葛生産のドロマイトとの成分分析を比較した結果である。これらのドロマイトを互いに同一の粉砕粒度で粉砕した後、蛍光エックス線分析装置(RIGAKU:ZSXmini)により成分分析を行った。
【表3】
表3に示す通り、セブ島産のドロマイトも葛生産のドロマイトもMgO、CaO等の含有量は殆ど同じであった。したがって、セブ島産の細粒苦土タンカルのく溶性苦土が、栃木県葛生産の細粒苦土タンカルのく溶性苦土よりも高くなった理由は、構成元素以外に理由があると考えた。そこで、本発明者は、さらに以下の実験を行った。
【0022】
図1及び
図2はX線回折装置による解析結果であり、
図1が栃木県葛生産の細粒苦土タンカルであり、
図2がセブ島産の細粒苦土タンカルである。なお、横軸は回折角度(2θ)を示し、縦軸は回折強度(CPS)を示している。これらの図を比較参照して、セブ島産の細粒苦土タンカルは、ピーク(回折強度)が栃木県葛生産の細粒苦土タンカルの半分以下であり、結晶度が低い(言い換えると、アモルファス成分が多い)ことがわかった。したがって、セブ島産のドロマイトも葛生産のドロマイトも成分が殆ど同じであるから、セブ島産の細粒苦土タンカルは、結晶度が低いため、く溶性苦土が顕著に高くなったものと推察される。
【0023】
ここで、ドロマイトを焼成すると、結晶化が進むため、焼成しないことも重要な製造条件である。すなわち、セブ島産のドロマイトを焼成処理すると、結晶度が高くなり(言い換えると、アモルファス成分が少なくなり)、く溶性苦土が低下する。したがって、セブ島産由来のドロマイトを出発原料として肥料用の苦土タンカルを製造する場合には、焼成処理を行わないことが重要な条件となる。焼成処理とは、ドロマイトを約900℃以上の温度で加熱処理することである。したがって、焼成温度よりも低い温度でドロマイトを乾燥処理(例えば、露天乾燥)することを妨げるものではない。
【0024】
(細粒化の意義について)
上述の通り、本実施形態の苦土タンカルは、細粒化されている。この細粒化による効果について、本発明者は以下の実験を行った。セブ島産のドロマイトを破砕して、25.4〜19.1mmの粒度範囲に含まれる試料A、19.1〜15.9mmの粒度範囲に含まれる試料B、15.9〜9.5mmの粒度範囲に含まれる試料C、9.5〜5.66mmの粒度範囲に含まれる試料D、細粒苦土タンカルである試料Eに篩分けして、く溶性苦土を測定した。なお、上述の通り、細粒苦土タンカルは、一定日数露天乾燥したドロマイトを、200メッシュの篩下比率90質量%以上の条件を満足する粉砕粒度で粉砕したものである。く溶性苦土の測定方法は、表1及び表2と同様にした。表4は、試料A〜Eのく溶性苦土の測定値であり、平成31年4月5日付けの試験成績書(地方行政独立法人岩手県工業技術センター)の記載を表4に転記した。
【表4】
【0025】
以上の試験結果から、本発明者は、セブ島産のドロマイトを、200メッシュの篩下比率90質量%以上の粉砕粒度で粉砕することにより、く溶性苦土が極めて高い苦土タンカルが得られることを知見した。
【0026】
次に、本実施形態の細粒苦土タンカルの製造方法について、説明する。セブ島で採掘されたドロマイトを船で輸送して、原料タンクに貯留する。ここで、ドロマイトは、予め輸入前に5〜20mmの粒径に破砕しておいてもよい。なお、ドロマイトを原料タンクに貯留する前に、一定時間ヤードで露天乾燥してもよい。
次に、原料タンクに貯留したドロマイトを、粉砕機で粉砕して、細粒苦土タンカルを取得する。粉砕条件は、上述した通り、200メッシュの篩下比率90質量%以上である。粉砕機には、ローラミルや、ボールミルを用いることができる。ただし、ローラミルは、上述の粉砕条件を満たすことが比較的容易であるため、好適に用いることができる。
【要約】
【課題】施肥してから溶解するまでの時間が短い苦土タンカルを提供する。
【解決手段】土壌改良のために施肥される苦土タンカルであって、く溶性苦土が13質量%以上の苦土タンカル。く溶性苦土は、肥料等試験法にしたがって測定される測定値である。
【選択図】なし