【実施例】
【0076】
より具体的な実施例を示して本発明をさらに説明する。
【0077】
<扁形黒鉛粉末の製造>
厚さ25μmのポリイミドフィルムをアルゴンガス雰囲気中で、2600℃で4時間熱処理し、厚さ約17μmの黒鉛フィルムを得た。得られた黒鉛フィルムをピンミルで粉砕した。その際に、ピンミルの回転数と処理時間を変化させて、粒度の異なる扁形黒鉛粉末1〜4を得た。具体的には、低回転の短時間処理で粒径の大きい扁形黒鉛粉末4を得た。次いでこれよりも回転数を高くし粉砕時間を長くして黒鉛粉末3を得た。さらに黒鉛粉末3よりも回転数を高くし粉砕時間を長くして黒鉛粒子2を得た。そしてさらに黒鉛粉末2よりも回転数を高くし粉砕時間を長くして黒鉛粉末1を得た。
【0078】
(扁形黒鉛粉末の粒度分布)
扁形黒鉛粉末1〜4について、レーザ回折・散乱方式粒度分布測定装置LS230(BeckmanCoulter社製)を用いて粒度分布を測定した。このときドライパウダーモジュールを用いて乾式粉末を濃度3〜5%になるようにバイブレータとオーガを調整し、測定時間60秒に設定して、光学モデルとしてFraunhoferを選択し、面積基準で頻度(表面積頻度)を算出した。このようにして求めた粒度分布を
図1に示す。
【0079】
扁形黒鉛粉末1〜4を電子顕微鏡で観察すると、扁形黒鉛粉末1では約35μm程度の鱗片状粒子が最も多く見られた。また、扁形黒鉛粉末2では80μm程度の鱗片状粒子が最も多く、300μm程度までの鱗片状粒子も多く見られた。また、扁形黒鉛粉末3では、300〜400μm程度の鱗片状粒子が最も多く見られ、扁形黒鉛粉末4では100〜400μm程度の鱗片状粒子が多く見られるとともに、800μm以上の大きめの粒子も散見された。
【0080】
(扁形黒鉛粉末の比表面積)
扁形黒鉛粉末1〜4について、自動比表面積測定装置Gemini(株式会社 島津製作所製)を用いて、BET多点法により比表面積を測定したところ、扁形黒鉛粉末1〜4の比表面積は、それぞれ順に、2.33m
2/g、1.27m
2/g、0.91m
2/g、0.83m
2/gであった。
【0081】
(扁形黒鉛粉末のアスペクト比)
扁形黒鉛粉末1〜4の各扁形黒鉛粉末の形状を電子顕微鏡で観察したところ、扁形黒鉛粉末1〜4の何れも長軸の長さが35〜400μmの扁形粒子が数多く見られた。これらの扁形黒鉛粉末の厚さは約17μmであるため、そのアスペクト比は2〜24程度である。
【0082】
<混合組成物の調製と熱伝導性シートの形成>
扁形黒鉛粉末と、熱伝導性充填材と、硬化前高分子マトリクスを混合し、以下に詳しく説明する試料1〜試料20の混合組成物と熱伝導性シートを調製した。
【0083】
試料1:
硬化前高分子マトリクスとして付加反応型シリコーンであって、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンの混合物(比重:1.0)に、上記扁形黒鉛粉末2(比重:2.2)と、熱伝導性充填材1として粒径3μmでアスペクト比が略1である球状酸化アルミニウム(比重:4.0)と、熱伝導性充填材2として粒径10μmでアスペクト比が略1である球状酸化アルミニウム(比重:4.0)とを表1に示す割合で配合して、この組成物が均一になるように混合攪拌した後に脱泡して試料1の混合組成物を調製した。なお、扁形黒鉛粉末1と熱伝導性充填材1,2は予めシランカップリング剤で表面処理したものを用いた。
【0084】
続いて、混合組成物を、金型成形でシート状に成形した。そして、磁力線をシートの厚さ方向に印加するように、超電導磁石による8テスラの磁場中に10分間静置した。次に、120℃で30分間加熱し、厚さ2.0mmである試料1の熱伝導性シートを得た。この試料1の組成を表1に示した。
【0085】
試料2〜試料22:
試料1の配合を表1〜3に示した配合に変更して、試料1と同様の方法で試料2〜試料22の混合組成物を調製した。試料10,14,17以外の試料については、試料1の熱伝導性シートの製造方法と同様の方法で各試料ナンバーの熱伝導性シートを作製した。この試料2〜試料22の組成、性質等について表1〜3に示した。したがって、扁形黒鉛粉末2〜4や熱伝導性充填材3,4も予めシランカップリング剤で表面処理したものを用いた。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
なお、表1〜3で示す各材料には以下のものを用いた。
【0090】
「炭素繊維」は、平均繊維長100μm、平均直径が10μmであるピッチを原料とした黒鉛化炭素繊維であり、「熱伝導性充填材1」は、平均粒径が3μmの球状の酸化アルミニウムであり、「熱伝導性充填材2」は、平均粒径が10μmの球状の酸化アルミニウムであり、「熱伝導性充填材3」は、平均粒径が35μmの球状の酸化アルミニウムであり、「熱伝導性充填材4」は、平均粒径が50μmの球状の酸化アルミニウムである。熱伝導性充填材1〜4の平均粒径は、レーザ回折散乱法(JIS R1629)により測定した粒度分布の体積平均粒径を示したものである。また、熱伝導性充填材1〜4のアスペクト比は、電子顕微鏡で観察したものであり略1.0であった。
【0091】
<混合組成物と熱伝導性シートの性質>
(粘度の測定)
各試料の混合組成物の粘度を、回転粘度計(ブルックフィールド社製、商品名:DV−E型、スピンドルNo.14)を用い、25℃雰囲気下で、10rpmの回転数で測定した。その結果も表1〜3に示した。また、この条件で測定できなかった試料については表中に「−」と記載した。測定できなかった全ての試料は、測定できた試料よりも高粘度であり、経験的に300Pa・sを超えていると推測される。
【0092】
(硬さの測定)
各試料の熱伝導性シートを、それぞれ3枚重ねて6mm厚の試験片を作製して、タイプOOデュロメータを用いてOO硬度を測定した。その結果も表1〜3に示した。
【0093】
(熱抵抗値の測定と熱伝導率)
熱伝導性シートを縦10mm×横10mmにカットした試験片を作製した。これらの試験片を発熱基板(発熱量Q:25W)とヒートシンク(株式会社アルファ製「FH60−30」)との間に挟み、ヒートシンクに一定の荷重(2kgf/cm
2)を加えた。このヒートシンクの上部には、冷却ファン(風量0.01kg/sec、風圧49Pa)が取り付けられており、ヒートシンク及び発熱基板には温度センサが接続されている。冷却ファンを作動させた状態で、発熱基板に通電する。通電の開始後、5分経過した時点で、発熱基板の温度(T1)及びヒートシンクの温度(T2)を測定し、各温度を下記式(1)に代入することにより各試料の試験片の熱抵抗値を算出した。
【0094】
熱抵抗値(℃/W)=(T1−T2)/発熱量Q・・・(1)
【0095】
次に、下記の関係式(2)によって熱抵抗値から熱伝導率へ換算した。その結果を表に示す。なお、表にはこれらの熱伝導率について、好ましいものを“◎”、やや好ましいものを“○”、不適であるものを“×”と評価して併せて示す。
【0096】
熱抵抗値(℃/W)=熱通過方向厚み(m)/(熱通過断面積(m
2)×熱伝導率(W/m・K))・・・(2)
【0097】
(静摩擦係数の測定)
各試料の熱伝導性シートのタック性を示す指標として静摩擦係数を採用した。この静摩擦係数は、
図2に示す実験装置で測定することができる。表面を鏡面としたステンレス製の水平台(S)上に熱伝導性シートの試験片(P)(縦150mm×横150mm)を載置し、その試験片(P)の上に147gの重り(W)(直径50mmの円柱、ステンレス製、接触面は鏡面)を載置する。重り(W)の下端付近には重り(W)牽引用のテープ(T)の一端を貼付し、このテープ(T)の他端をプッシュプルゲージ(G)(株式会社 大場計器製作所製の丸型テンションゲージ4000)に固定する。そして、試験片(P)の横方向に100mm/minの速度で試験片(P)を牽引してプッシュプルゲージ(G)の牽引時における試験片(P)と重り(W)の静摩擦力Fs(N)を測定した。より具体的には、試験片(P)を牽引したときの牽引力と重り(W)の重さとから、下記式(3)により静摩擦係数を算出した。各試験片(P)の熱伝導性シートについて静摩擦力Fsの測定および静摩擦係数の算出を5回行い、それらの平均値を熱伝導性シートの静摩擦係数とした。
【0098】
静摩擦係数=Fs(N)/Fp(N) ・・・(3)
【0099】
なお、上記式(3)において、Fpは、重りの質量(重量)によって生じる垂直抗力を示し、Fpの値は0.147kg(重りの重量)×9.8m/s
2(重力加速度)=1.4406Nで表される。
【0100】
<試料の評価>
試料1の混合組成物の粘度は178Pa・s、熱伝導性シートの熱伝導率は14.1W/m・K、OO硬度は58であった。やや粘度が高かったが均質に混合されており、また熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で観察すると扁形黒鉛粉末が規則正しく配向している様子が確認できた。
【0101】
試料2の混合組成物は、粘度測定ができないほど高粘度となった。かろうじてシート状に成形したが、作業性は非常に悪かった。この試料2の熱伝導性シートの縦断面を顕微鏡で観察すると扁形黒鉛粉末の面がシートの厚さ方向に配向しているとはいえなかった。また、シート面から観察すると扁形黒鉛粉末の面はランダムに種々の方向を向いていた。試料2の熱伝導性シートの熱伝導率は7.4W/m・Kと低く、OO硬度は71であった。
【0102】
試料3の混合組成物の粘度は135Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は14.1W/m・K、OO硬度は48であった。熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で観察すると扁形黒鉛粉末が規則正しく配向している様子が確認できた。
【0103】
試料4の混合組成物の粘度は189Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は13.8W/m・K、OO硬度は58であった。混合組成物の粘度はやや高かったが、熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で観察すると扁形黒鉛粉末が規則正しく配向している様子が確認できた。
【0104】
試料5の混合組成物の粘度は250Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は11.0W/m・Kとやや低く、OO硬度は61であった。熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で観察すると、多くの扁形黒鉛粉末は配向しているが、一部の600μm以上の扁形黒鉛粉末が完全には配向せず、斜めになっている様子が確認できた。この影響で熱伝導率がやや低くなったものと考えられる。
【0105】
試料6は扁形黒鉛粉末を炭素繊維に置き換えたものである。この試料6の混合組成物の粘度は48Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は10.8W/m・K、OO硬度は60であった。熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で観察すると炭素繊維が規則正しく配向している様子が確認できた。
【0106】
試料7は、平均粒径が35μmとやや大きな酸化アルミニウムを熱伝導性充填材に用いたものである。この試料7の混合組成物の粘度は185Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は15.1W/m・Kと高く、OO硬度は60であった。熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で観察すると扁形黒鉛粉末が規則正しく配向している様子が確認できた。熱伝導率がやや高い理由は、黒鉛粉末どうしの間に介在する酸化アルミニウムの粒径が大きいため、熱伝導を促進したためであると考えられる。
【0107】
試料8は、平均粒径が50μmと大きな酸化アルミニウムを熱伝導性充填材に用いたものである。この試料8の混合組成物の粘度は162Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は10.4W/m・Kと低く、OO硬度は68であった。熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で観察すると扁形黒鉛粉末が大粒径の酸化アルミニウムの外形に沿って固定された状態のものが見られた。その様子から大粒径の酸化アルミニウムが扁形黒鉛粉末の配向を阻害しているように見えた。熱伝導率がやや低い理由はこの配向の乱れによるものであると考えられる。
【0108】
試料9は、扁形黒鉛粉末を含まないものである。この試料9の混合組成物の粘度は18Pa・sであり熱伝導性シートが均質に分散していなかった。熱伝導性シートの熱伝導率は3.0W/m・Kとかなり低く、OO硬度は49であった。
【0109】
試料10は、熱伝導性充填材を含まないものである。この試料10の混合組成物は硬化前高分子マトリクスに扁形黒鉛粉末が均一に分散せず流動性のある組成物を得ることができなかった。また、そのためシート状に成形することもできず、熱伝導性シートを作製できなかった。
【0110】
試料11は、酸化アルミニウムの量を減らして、扁形黒鉛粉末の量を増やした試料である。この試料11の混合組成物の粘度は190Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は13.0W/m・K、OO硬度は61であった。
【0111】
試料12の混合組成物の粘度は137Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は11.4W/m・K、OO硬度は58であった。
【0112】
試料13は、扁形黒鉛粉末の量をさらに増やした試料である。この試料13の混合組成物の粘度は298Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は18.5W/m・K、OO硬度は72であった。
【0113】
試料14は、扁形黒鉛粉末の量を試料13よりもさらに増やした試料である。この試料14では、硬化前高分子マトリクスに扁形黒鉛粉末が均一に分散せず、流動性のある均質な組成物を得ることができなかった。また、そのためシート状に成形することもできず、熱伝導性シートを作製できなかった。
【0114】
試料15は、熱伝導性充填材の量が比較的少ない試料である。この試料15の混合組成物の粘度は125Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は11.0W/m・Kとやや低く、OO硬度は64であった。
【0115】
試料16は、熱伝導性充填材の量を比較的増やした試料である。この試料16の混合組成物の粘度は256Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は13.5W/m・K、OO硬度は76であった。
【0116】
試料17は、熱伝導性充填材の量をさらに増やした試料である。この試料17は硬化前高分子マトリクスに扁形黒鉛粉末が均一に分散せず、流動性のある均質な組成物を得ることができなかった。また、そのためシート状に成形することもできず、熱伝導性シートを作製できなかった。
【0117】
試料18は、試料5よりも扁形黒鉛粉末の量が少ない試料である。試料18の混合組成物の粘度は178Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は12.8W/m・K、OO硬度は52であった。
【0118】
試料19は、試料3の扁形黒鉛粉末と熱伝導性充填材の種類および量は同一であるが、高分子マトリクス100質量部中の主剤に対する硬化剤の割合を多くしたものである。試料19の熱伝導性シートは、硬化剤を多くすることでシート表面の粘着性を落とした。硬さはE50であった。
【0119】
試料20は、試料3の扁形黒鉛粉末と熱伝導性充填材の種類および量は同一であるが、高分子マトリクス100質量部の主剤に対する硬化剤の割合を試料19よりもさらに多くしたものである。試料20の熱伝導性シートは、硬化剤をさらに多くすることでシート表面の粘着性を落とした。硬さはE60であった。
【0120】
試料21は、厚さ2mmとした試料6の熱伝導性シートを1mm(半分)にスライスした熱伝導性シートである。静摩擦係数はそのスライス面での値を測定した。
【0121】
試料22は、試料3の熱伝導性シートのシート表面に粘着剤を塗布して粘着性を高めた熱伝導性シートである。
【0122】
<考察>
(扁形黒鉛粉末の影響)
試料1〜試料5の熱伝導性シートを比較すると、扁形黒鉛粉末1を用いた試料2の熱伝導率は7.4W/m・Kと低く、扁形黒鉛粉末4を用いた試料5の熱伝導率は11.0W/m・Kとやや低い結果となった。一方、試料1、試料3、試料4の熱伝導率は13.8W/m・K〜14.1W/m・Kと高かった。この結果から、扁形黒鉛粉末1よりも扁形黒鉛粉末4の方が好ましく、扁形黒鉛粉末4よりも扁形黒鉛粉末2と扁形黒鉛粉末3の方が好ましい。また、扁形黒鉛粉末2を用いた熱伝導性シートと扁形黒鉛粉末3を用いた熱伝導性シートの熱伝導率は同程度である。
【0123】
試料2については、扁形黒鉛粉末1の扁形面がシートの厚み方向に配向しているとはいえず、その配向の乱れが熱伝導性の低い理由であると考えられる。配向が乱れた主な原因は、用いた扁形黒鉛粉末の比表面積が2.33m
2/gとやや大きく粘度が高くなったことであると考えられる。また、このことは粒度分布を示す
図1からも読み取れる。すなわち、扁形黒鉛粉末1は粒径が30μm付近の粒子の割合が多く、200μm以上の粒子をほぼ含まないことから、比表面積が大きくなっているものと思われる。これに対して扁形黒鉛粉末2〜扁形黒鉛粉末4の比表面積は1.27〜0.83m
2/gであるため、扁形黒鉛粉末1ほど粘度が上昇しなかったものと思われる。
【0124】
試料1、試料3、試料4の粘度を比較すると、試料3の粘度がやや低くなっていた。粘度が低ければ所定の粘度に高めるまで、扁形黒鉛粉末や熱伝導性充填材の充填量を増加させることができるということであり、熱伝導率をさらに向上させる余地があるということである。このことから、扁形黒鉛粉末2と扁形黒鉛粉末3をそれぞれ単独で配合するよりも、混合した方が好ましい。
【0125】
図1の粒度分布からこれらの違いを検討すると、扁形黒鉛粉末2は粒径60μm付近にピークがあり、一方の扁形黒鉛粉末3は60μm付近にもピークはあるもののその高さは低く370μm付近に大きなピークがあることがわかる。これらに対して試料3で用いた混合粉末では、60μm付近と370μm付近のピークが同程度となっていた。このことから、これら2つのピーク帯の黒鉛粒子が同程度の頻度となるときに、最も粘度が低下するものと思われる。
【0126】
前記2つのピーク帯を20〜150μmと、200〜400μmと定義し、20〜150μmの範囲の頻度の最大点P1と、200〜400μmの粒度範囲の頻度の最大点P2とを見積り、P2/P1を算出した。その結果、扁形黒鉛粉末1は“0”、扁形黒鉛粉末2は“0.48”、扁形黒鉛粉末3は“1.23”、扁形黒鉛粉末4は1.29、扁形黒鉛粉末2と扁形黒鉛粉末3とを1:2で混合したものは“0.92”であった。これらの結果から、添加するのに好ましい扁形黒鉛粉末2、扁形黒鉛粉末3、またはこれらの混合物、そして扁形黒鉛粉末4のP2/P1の値は0.2〜2.0の範囲内にあり、より狭めれば0.48〜1.29の範囲内にある。また、これらの中でも添加するのが最も好ましい扁形黒鉛粉末2、扁形黒鉛粉末3、またはこれらの混合物のP2/P1の値を検討すると0.48〜1.23の範囲内にある。
【0127】
また、試料1、試料3、試料4と試料5とを比較すると、試料5の熱伝導率はやや低い結果であった。試料5の断面を電子顕微鏡で観察すると、特に800μmを超えるような大きな扁形黒鉛粉末がシート面に対して垂直に配向していない様子が見られた。このことから、大きな扁形黒鉛粉末は配向しにくいことがわかる。これを念頭に
図1の粒度分布を見ると、扁形黒鉛粉末4は他の扁形黒鉛粉末よりも800μm以上の扁形黒鉛粉末を多く含んでいることがわかる。頻度の値は、扁形黒鉛粉末4が0.5%で、次に大きい扁形黒鉛粉末3が0.1%未満であったことから、800μm以上の扁形黒鉛粉末の表面積頻度は0.1%以下であることが好ましい。
【0128】
試料5と試料18を比較すると、扁形黒鉛粉末の配合量が少ない試料18の方が熱伝導率がやや高い結果であった。両試料とも扁形黒鉛粉末としては扁形黒鉛粉末4のみを配合しているにもかかわらず、試料5では、大きな扁形黒鉛粉末が配向していない様子が観察されたことに対して、試料18の断面を電子顕微鏡で確認すると、800μmを超えるような大きな扁形黒鉛粉末がシート面に対して垂直に配向している様子が見られた。この大きな扁形黒鉛粉末の配向の程度の差により、試料18では扁形黒鉛粉末4の配合量が少ないにもかからず、試料5よりも熱伝導率が高まったものと思われる。
試料18で大きな扁形黒鉛粉末が配向した理由は、試料5の混合組成物の粘度が250Pa・sと高かったことに比べて、試料18の混合組成物の粘度は、178Pa・sと低かったことであると考えられる。即ち、粘度が200Pa・s以下であれば、やや大きな扁形黒鉛粉末であっても配向可能であることがわかる。
【0129】
試料4と試料6とを比較すると、扁形黒鉛粉末と炭素繊維とでは、同じ質量部数の配合では扁形黒鉛粉末を配合した方が、熱伝導性を高くすることができる。
【0130】
(熱伝導性充填材の影響)
試料4、試料9、試料10を比較する。まず、試料9のように扁形黒鉛粉末を全く含まないと熱伝導率が極めて低くなる。またこれとは逆に、試料10のように熱伝導性充填材を全く含まないと、扁形黒鉛粉末を分散させることが困難で混合組成物が得られない。このことから、扁形黒鉛粉末に所定の熱伝導性充填材を添加することは、単に熱伝導性を高めるだけでなく、扁形黒鉛粉末の分散性を高める効果があることがわかる。
【0131】
熱伝導性充填材の配合量について試料3、試料10、試料12、試料15、試料16、試料17を比較して分析する。熱伝導性充填材を含まない試料10は均質な分散ができなかったが、熱伝導性充填材を150質量部配合した試料15の熱伝導性シートは熱伝導率が11.0W/m・Kとやや低いものの、その混合組成物の粘度は125Pa・sとかなり低粘度である。また、熱伝導性充填材の配合量を250質量部とした試料12の熱伝導性シートの熱伝導率は11.4W/m・Kであり、その混合組成物の粘度は137Pa・sであって、それほど高粘度とならないにもかかわらず熱伝導性は高い。さらに熱伝導性充填材の配合量を450質量部とした試料3では、粘度が135Pa・sであり、粘度を上昇させることなく熱伝導性を14.1W/m・Kまで高めることに成功している。これらの結果より、少なくとも150質量部の熱伝導性充填材を添加することが好ましく、250質量部以上とすることがより好ましい。
【0132】
一方、扁形黒鉛粉末をやや少なくして熱伝導性充填材を700質量部添加した試料16は、熱伝導率が13.5W/m・Kで粘度が256Pa・sであった。熱伝導性充填材を700質量部まで増やすと粘度上昇も顕著となり、850質量部まで添加することはできなかった。よって、熱伝導性充填材の添加量は700質量部程度までが好ましい。
【0133】
なお、上記結果を体積分率に置き換えると、扁形黒鉛粉末は10〜28質量%程度含まれることが好ましく。熱伝導性充填材は、20〜60質量%程度含まれることが好ましい。
【0134】
(扁形黒鉛粉末と熱伝導性充填材の組合せ)
次に、扁形黒鉛粉末と熱伝導性充填材の割合について体積基準で分析する。表1〜3に記載の混合比率から“黒鉛(体積%)/熱伝導性充填材(体積%)”の値を算出すると、試料17は“0.16”、試料16は“0.19”、試料4は“0.36”、試料11は“0.76”、試料13は“0.98”、試料15は“1.09”である。この中で、試料17は分散不良で熱伝導性シートが得らなかったが、試料16の割合であれば所定の熱伝導性シートを製造することができたことから、下限は0.19程度となる。一方、試料15は熱伝導性がやや低く、試料13は熱伝導性が良かったことから、上限は1.0程度となるものと思われた。
【0135】
(タック性)
タイプOO硬度で48〜60の試料3、試料6、試料9の熱伝導性シートは、静摩擦係数が10.9〜12.2であった。それに対して、硬度を高めた試料19、試料20の熱伝導性シートでは、硬さがE60の試料19で静摩擦係数8.2、硬さがE70の試料20では静摩擦係数が2.0であった。さらに、試料6をスライスして得たスライス面について、試料21では静摩擦係数が0.3まで低下していた。他方、試料表面に粘着剤を塗布した試料22は、静摩擦係数が27.2まで上昇した。
【0136】
上記試験結果について、試料21は、タック性がなく、むしろ滑り性が良いといった性質である。次に試料20は、静摩擦係数が2.0であるが、タック性は小さい。試料19は、タック性がやや小さいが仮固定するには充分なタック性があるといえる。これらの結果より静摩擦係数は8.0以上であることが好ましい。なお、試料20はE硬度で60であるが、OO硬度では90以上となる。
【0137】
試料3、6、9については、適度なタック性を有していた。一方、試料22については、タック性が強すぎる傾向があり、試料を破壊せずに被着体から剥がすことが困難なほどであった。この場合には、熱伝導性シート、発熱体、放熱体等のリワーク性が悪くなるため好ましくない。これらの結果より、静摩擦係数は、好ましくは8.0〜20.0であり、より好ましくは10.0〜15.0である。
【0138】
なお、試料20、試料21を除く各試料は、タック性が高く、牽引時の初期に最大値となり、その後に牽引力が一定となるような安定的な牽引ができなかった。そのため、静摩擦係数を求める牽引力としては、全ての試料について最大値を採用した。