特許第6646836号(P6646836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6646836-熱伝導性シート 図000005
  • 特許6646836-熱伝導性シート 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646836
(24)【登録日】2020年1月16日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
   H05K 7/20 20060101AFI20200203BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   H05K7/20 F
   H01L23/36 M
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-566068(P2016-566068)
(86)(22)【出願日】2015年12月1日
(86)【国際出願番号】JP2015083781
(87)【国際公開番号】WO2016104074
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年10月18日
(31)【優先権主張番号】特願2014-263168(P2014-263168)
(32)【優先日】2014年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】渡部 泰佳
(72)【発明者】
【氏名】坂口 佳也
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅文
【審査官】 原田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−363421(JP,A)
【文献】 特開2002−097372(JP,A)
【文献】 特開2009−295921(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/142290(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/20
H01L 23/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化前高分子マトリクスと、扁形黒鉛粉末と、アスペクト比が2以下の熱伝導性充填材とを含む混合組成物が硬化したシート状成形体であって、
前記扁形黒鉛粉末の扁形面がシートの厚み方向に配向しており、
前記扁形黒鉛粉末の比表面積が0.70〜1.50m/gであることを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項2】
硬化前高分子マトリクスと、扁形黒鉛粉末と、アスペクト比が2以下の熱伝導性充填材とを含む混合組成物が硬化したシート状成形体であって、
前記扁形黒鉛粉末の扁形面がシートの厚み方向に配向しており、
前記扁形黒鉛粉末は、表面積頻度で表した粒度分布において、20〜400μm範囲内にピークを有し、20〜150μm範囲の最大出現頻度と200〜400μm範囲の最大出現頻度との比が0.2〜2.0であることを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項3】
硬化前高分子マトリクスと、扁形黒鉛粉末と、アスペクト比が2以下の熱伝導性充填材とを含む混合組成物が硬化したシート状成形体であって、
前記扁形黒鉛粉末の扁形面がシートの厚み方向に配向しており、
前記扁形黒鉛粉末は、表面積頻度で表した粒度分布において、800μm以上となる表面積頻度が0.1%以下であることを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項4】
硬化前高分子マトリクスと、扁形黒鉛粉末と、アスペクト比が2以下の熱伝導性充填材とを含む混合組成物が硬化したシート状成形体であって、
前記扁形黒鉛粉末の扁形面がシートの厚み方向に配向しており、
ASTM D2240で規定されるタイプOO硬さが10〜80であり、前記シートの厚み方向の熱伝導率が12〜30W/m・Kであり、鏡面としたステンレス面に対する静摩擦係数が8.0〜20.0であることを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項5】
前記硬化前高分子マトリクスが、液状シリコーンの主剤と硬化剤である請求項1〜請求項4何れか1項記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
前記扁形黒鉛粉末が、高分子フィルムを焼成し熱分解した人造黒鉛からなる請求項1〜請求項5何れか1項記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
前記熱伝導性充填材の平均粒径が0.5〜35μmである請求項1〜請求項6何れか1項記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
前記混合組成物が、前記硬化前高分子マトリクス100質量部に対して、前記扁形黒鉛粉末75〜135質量部と、前記熱伝導性充填材250〜700質量部と、を含んでなる請求項1〜請求項7何れか1項記載の熱伝導性シート。
【請求項9】
前記扁形黒鉛粉末の前記扁形面の法線方向が、前記熱伝導性シートの平面に平行なランダムな方向を向く請求項1〜請求項8何れか1項記載の熱伝導性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体と放熱体の間に配置して用いられる熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータや自動車部品等の電子機器では、半導体素子や機械部品等の発熱体から生じる熱を放熱するためヒートシンクなどの放熱体が用いられており、この放熱体への熱の伝達効率を高める目的で発熱体と放熱体の間に熱伝導性シートを配置することがある。こうした熱伝導性シートとして、例えば、黒鉛化炭素繊維を熱伝導材として充填し配向させた熱伝導性シートが特開2014−027144号公報(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−027144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、炭素繊維を配向した熱伝導性シートは、柔軟性の高いシートとする場合には、高圧縮時に炭素繊維の配向が乱れやすい傾向がある。この現象は、圧縮されるに従って熱伝導性シート全体が外側に広がるように変形するため不可避であるが、こうした変形を起こすと炭素繊維の配向方向が乱れ、熱伝導性が低くなるという問題がある。また、炭素繊維を配向させるためにはシート厚に比べて短い炭素繊維を用いるが、シートの一方面から他方面までの熱伝導路として、短い炭素繊維どうしを接触させるためには炭素繊維を高充填する必要がある。しかしながら、製法や硬さ等の面から所望の熱伝導率が得られるまで炭素繊維を高充填させることは困難であった。
【0005】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、従来の熱伝導性シートに比べて熱伝導性を高めた熱伝導性シートを提供することを目的とする。また本発明は、熱伝導性を高めながら柔軟性のある熱伝導性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の熱伝導性シートは以下のとおり構成される。
【0007】
即ち、硬化前高分子マトリクスと、扁形黒鉛粉末と、アスペクト比が2以下の熱伝導性充填材とを含む混合組成物が硬化したシート状成形体であって、扁形黒鉛粉末の扁形面がシートの厚み方向に配向していることを特徴とする熱伝導性シートを提供する。
【0008】
硬化前高分子マトリクスに対して扁形黒鉛粉末とアスペクト比が2以下の熱伝導性充填材とを含むため、扁形黒鉛粉末や熱伝導性充填材を単独で充填させた場合に比べて、この両者を高充填させることができる。そのため、高い熱伝導性を得ることができる。また、硬化前高分子マトリクスと、扁形黒鉛粉末と、アスペクト比が2以下の熱伝導性充填材とを含む混合組成物の硬化体であるため、扁形黒鉛粉末の配向状態が良い熱伝導性シートとすることができる。
【0009】
そして、扁形黒鉛粉末の扁形面が厚み方向に配向しているため、シートの厚み方向の熱伝導性に優れるとともに、シートの側面方向へも熱を伝えることができる。即ち、黒鉛化炭素繊維を配向した熱伝導性シートと比較すると、炭素繊維を用いた場合は炭素繊維の軸方向であるシートの厚み方向へ優れた熱伝導性を発揮するが、その軸方向は一方向にすぎない。これに比べて扁形黒鉛粉末を用いた場合は、扁形黒鉛粉末の面方向に対する熱伝導性を発揮するため、一方向に限定されない面の広がり方向に熱伝導性を発揮できるからである。この面の広がり方向の熱伝導性が高いことが、黒鉛粉末どうしの熱伝導を促進して、配向方向への熱伝導性を高める効果があるものと思われる。
【0010】
また、炭素繊維配向熱伝導性シートは、配向性や柔軟性の観点からシートの厚みよりも繊維長が短い炭素繊維を利用する。そのため、厚み方向に熱を伝える経路を考えると、必然的に複数の炭素繊維を介して熱が伝わることになるので、炭素繊維どうしの接触も考慮する必要がある。こうした炭素繊維配向熱伝導性シートでは、炭素繊維どうしの線と線とが重なり合う必要があるのに対して、扁形黒鉛粉末を含有する熱伝導性シートでは、面と面とが重なるため、圧倒的に接触する確率が高くなると考えられる。よって、炭素繊維を配向させるよりも扁形黒鉛粉末を配向させた方が、より熱伝導効率に優れている。
【0011】
さらに、炭素繊維配向熱伝導性シートでは、繊維軸方向の圧縮に対して充填された炭素繊維は曲がり易い。他方、扁形黒鉛粉末が充填された熱伝導性シートでは扁形黒鉛粉末の面の法線方向がシートの厚み方向に対してランダムに向いているため、扁形黒鉛粉末は曲がり難い。よって、安定した熱伝導性を発揮することができる。
【0012】
硬化前高分子マトリクスが液状シリコーンの主剤と硬化剤である熱伝導性シートとすることができる。
【0013】
硬化前高分子マトリクスが液状シリコーンの主剤と硬化剤である熱伝導性シートであれば、硬化前は粘度を低く抑えることができ、扁形黒鉛粉末や熱伝導性充填材の充填を容易に行うことができ、配向性能の高い熱伝導性シートとすることができる。
【0014】
扁形黒鉛粉末が、高分子フィルムを焼成し熱分解した人造黒鉛からなる熱伝導性シートとすることができる。
【0015】
扁形黒鉛粉末に高分子フィルムを焼成し熱分解した人造黒鉛を利用すれば、天然黒鉛に比較して熱伝導性の高い黒鉛であるため、熱伝導性シートの熱伝導性を高め易い。
【0016】
扁形黒鉛粉末の比表面積が0.70〜1.50m/gである熱伝導性シートとすることができる。
【0017】
扁形黒鉛粉末の比表面積を0.70〜1.50m/gとしたため、粘度の好適な混合組成物を作製することができ、扁形黒鉛粉末を高充填させた熱伝導性の高い熱伝導性シートを得ることができる。
【0018】
扁形黒鉛粉末は、表面積頻度で表した粒度分布において、20〜400μm範囲内にピークを有し、20〜150μm範囲の最大出現頻度と、200〜400μm範囲の最大出現頻度との比が0.2〜2.0である熱伝導性シートとすることができる。
【0019】
配合する扁形黒鉛粉末を、表面積頻度で表した粒度分布において、20〜400μm範囲内にピークを有し、20〜150μm範囲の最大出現頻度と、200〜400μm範囲の最大出現頻度との比が0.2〜2.0である扁形黒鉛粉末としたため、粘度の好適な混合組成物を作製することができ、扁形黒鉛粉末を高充填させた熱伝導性の高い熱伝導性シートを得ることができる。
【0020】
扁形黒鉛粉末は、表面積頻度で表した粒度分布において、800μm以上となる表面積頻度が0.1%以下である熱伝導性シートとすることができる。
【0021】
表面積頻度で表した粒度分布において、800μm以上となる表面積頻度が0.1%以下である扁形黒鉛粉末を用いたため、粘度の好適な混合組成物を作製することができ、扁形黒鉛粉末を高充填させた熱伝導性の高い熱伝導性シートを得ることができる。
800μm以上の扁形黒鉛粉末は、配向を乱すおそれが高く、こうした粒径の扁形黒鉛粉末の割合が高いと配向の乱れに起因する熱伝導性の悪化を招くおそれが高まるが、800μm以上の扁形黒鉛粉末の割合が0.1%以下であれば、上述のように粘度が好適となり、扁形黒鉛粉末を高充填した場合であっても、配向乱れを起こし難い。
【0022】
熱伝導性充填材の平均粒径が0.5〜35μmである熱伝導性シートとすることができる。
【0023】
熱伝導性充填材の平均粒径を0.5〜35μmとしたため、扁形黒鉛粉末とともに熱伝導性充填材を高充填することができ、熱伝導性を高めることができる。
【0024】
前記混合組成物が、硬化前高分子マトリクス100質量部に対して、扁形黒鉛粉末75〜135質量部と、熱伝導性充填材250〜700質量部と、を含んでなる熱伝導性シートとすることができる。
【0025】
硬化前高分子マトリクス100質量部に対して、扁形黒鉛粉末75〜135質量部と、熱伝導性充填材250〜700質量部と、を含んで混合組成物を作製するため、扁形黒鉛粉末や熱伝導性充填材を高充填しながら分散性に優れ好適な粘度の混合組成物とすることができ、配向性や熱伝導性に優れた熱伝導性シートを得ることができる。
【0026】
扁形黒鉛粉末の扁形面の法線方向が、熱伝導性シートの平面に平行なランダムな方向を向く熱伝導性シートとすることができる。
【0027】
扁形黒鉛粉末の扁形面の法線方向を熱伝導性シートの平面に平行なランダムな方向を向くように熱伝導性シートを製造できるため、扁形黒鉛粉末の層間で剥離し難く、シートの平面方向に対して異方性の無い熱伝導性シートとすることができる。
【0028】
ASTM D2240で規定されるタイプOO硬さが10〜80であり、シートの厚み方向の熱伝導率が12〜30W/m・Kであり、鏡面としたステンレス面に対する静摩擦係数が8.0〜20.0である熱伝導性シートとすることができる。
【0029】
ASTM D2240で規定されるタイプOO硬さが10〜80であり、シートの厚み方向の熱伝導率が12〜30W/m・Kであり、鏡面としたステンレス面に対する静摩擦係数が8.0〜20.0である熱伝導性シートであるため、柔らかく被着体に対する密着性が高く、熱伝導性にも優れた熱伝導性シートである。
【発明の効果】
【0030】
本発明の熱伝導性シートによれば、柔軟性と熱伝導性に優れた熱伝導性シートである。また、発熱体や放熱体に固定しやすく、作業性の良い熱伝導性シートである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】表面積頻度による扁形黒鉛粉末の粒度分布を示すグラフ図である。
図2】静摩擦係数を測定するための実験装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
実施形態に即して本発明をさらに詳しく説明する。なお、各実施形態において同一の材質、組成、製法、作用等については重複説明を省略する。
【0033】
本実施形態の熱伝導性シートは、硬化前高分子マトリクスと、扁形黒鉛粉末と、アスペクト比が2以下の熱伝導性充填材とを含む混合組成物のシート状成形硬化体であって、扁形黒鉛粉末の扁平な面(扁形面)がシートの厚み方向に配向していることを特徴とする熱伝導性シートである。
【0034】
<高分子マトリクス>
高分子マトリクスは、樹脂やゴム等の高分子であり硬化前高分子マトリクスが硬化したものである。また、硬化前高分子マトリクスとは液状の高分子組成物であり、主剤と硬化剤のような混合系からなるものとすることができる。したがってこの高分子組成物は、例えば、未架橋ゴムと架橋剤を含むものであったり、架橋剤を含む未架橋ゴムと架橋促進剤を含むものであったりすることができる。また、その硬化反応は常温硬化であっても熱硬化であっても良い。高分子マトリクスがシリコーンゴムであれば、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンなどが例示できる。また、ポリエステル系熱可塑性エラストマーであれば、ジオールとジカルボン酸とすることができ、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーであれば、ジイソシアネートとジオールとすることができる。このような硬化前高分子マトリクスの中でも、硬化後の高分子マトリクスが特に柔軟であり、熱伝導性充填材の充填性が良い付加反応型のシリコーンゴムを用いることが好ましい。
【0035】
<扁形黒鉛粉末>
高分子マトリクスの中に含ませる扁形黒鉛粉末は、鱗片状や扁平状等の扁形した黒鉛粉末を含むものである。扁形黒鉛粉末はグラファイトの結晶面が面方向に広がっており、その面内において等方的に極めて高い熱伝導率を備える。そのため、その面方向を所定の方向に揃えることで、特定方向の熱伝導率を高めることができる。
【0036】
この黒鉛としては天然黒鉛や人造黒鉛が挙げられるが、高分子フィルムの熱分解により作製された人造黒鉛シート(以下「フィルム熱分解シート」と略記する)を粉砕した扁形黒鉛粉末を用いることが好ましい。フィルム熱分解シートは、特にシート面方向への熱伝導率が高く、これを粉砕した扁形黒鉛粉末も極めて高い熱伝導率を有しているためである。
【0037】
フィルム熱分解シートは高分子フィルムを不活性ガス下で2400℃〜3000℃の高温で焼成することで得ることができる。焼成は1段階でも良く、2段階以上に分けて行ってもよい。不活性ガスは特に限定されないが、窒素やアルゴンが好適である。
【0038】
黒鉛化する高分子フィルムは、特に限定されないがポリイミド等の芳香族高分子を用いることが好ましい。グラファイト構造が発達した熱伝導性の高い黒鉛フィルムを得ることができるからである。高分子フィルムの厚さは、求める扁形黒鉛粉末の厚さに応じて選択することができるが、400μm以下とすることが好ましく、10〜200μmとすることがより好ましい。但し、黒鉛を粉砕するときに黒鉛の層間で剥離が起こり得るため、得られる扁形黒鉛粉末の厚さは高分子フィルムの厚さよりも薄くなることがある。
【0039】
フィルム熱分解シートの粉砕方法は特に限定されないが、例えば、ボールミル法、ナノマイザ法、ジェットミル法、ピンミル法などで粉砕することができる。刃でせん断する方法で予め大きめの扁形黒鉛粉末を製造しておくことは好ましい。天然黒鉛を利用する場合は、所定のアスペクト比の黒鉛を扁形状に加工する。扁形黒鉛粉末は、製法が同じ一種の扁形黒鉛粉末を単独で使用しても、製法や由来の異なる複数の扁形黒鉛粉末を混合して用いてもよい。また、粒度分布の異なる扁形黒鉛粉末どうしを混合しても良い。
【0040】
扁形黒鉛粉末のアスペクト比は2を超えることが好ましい。アスペクト比が2以下では、扁形黒鉛粉末を特定方向に配向させることが困難で熱伝導性を高め難いためである。より好ましくはアスペクト比が5以上である。なお、ここでいうアスペクト比は扁形黒鉛粉末の「扁形面の長軸の長さ/厚み」の値である。
【0041】
扁形黒鉛粉末の比表面積は、0.70〜1.50m/gであることが好ましく、0.85〜1.50m/gであることがより好ましい。比表面積は粒径とも密接に関連しており、比表面積が0.70m/g未満では、大粒径の扁形黒鉛粉末が相対的に多くなりすぎ配向が乱れるおそれがある。また、800μm以上の大粒径の扁形黒鉛粉末の割合が多くなり粘度が高くなる傾向がある。このことは、逆に言えば、所望の粘度に調整する場合に大粒径の扁形黒鉛粉末では高充填し難くいということである。一般に、扁形黒鉛粉末の粒径が大きいほど熱伝導性を高めやすいと考えがちであるが、充填量や配向性を考慮すると扁形黒鉛粉末の粒径が大きいものは熱伝導性を高め難いのが実情である。一方、比表面積が1.50m/gを超える場合については、微粉末が増えることから、やはり粘度が高くなる傾向があり、扁形黒鉛粉末を高充填することが困難で熱伝導性を高め難い。0.85〜1.50m/gの範囲をより好ましいとしたのは、扁形黒鉛粉末の充填量と配向性を高めて熱伝導率を高くすることができるからである。なお、ここで比表面積は、BET多点法による値を採用することができる。
【0042】
扁形黒鉛粉末の性状については、表面積頻度で表す粒度分布で見ることができる。表面積頻度による粒度分布とは、レーザ回折・散乱方式粒度分布測定装置により乾式法で測定し、面積基準で粒度の統計をとることで得られた粒度分布である。
【0043】
高分子マトリクス中に扁形黒鉛粉末を高充填し易く熱伝導性を高めることができる扁形黒鉛粉末は、この粒度分布において、20〜400μmの範囲にピークを有し、20〜150μm範囲の表面積頻度の最大点P1と、200〜400μm範囲の表面積頻度の最大点P2とを比較したとき、その比であるP2/P1の値が0.2〜2.0の範囲であることが好ましい。P2/P1が0.2〜2.0であれば、20〜150μmと200〜400μmという離れた粒径の扁形黒鉛粉末の比率が所定の範囲内にあることを示し、20〜150μmの扁形黒鉛粉末と、200〜400μmの扁形黒鉛粉末とを所定量含むことを意味する。
【0044】
前記比が0.2未満の場合には、20〜150μmの扁形黒鉛粉末の割合が多いことを示すが、微粉末が増えて高充填し難く熱伝導性を高め難くなる。一方、前記比が2.0を超える場合にも、相対的に大粒径の扁形黒鉛粉末が多くなり、高充填し難く熱伝導性を高め難くなる。
【0045】
この表面積頻度で表した粒度分布において、800μm以上となる扁形黒鉛粉末の割合が0.1%以下であることが好ましい。800μm以上の扁形黒鉛粉末は配向を乱すおそれが高く、こうした扁形黒鉛粉末が表面積頻度で0.1%を超えて含まれる場合には、配向の乱れに起因する熱伝導性の悪化のおそれが高まるからである。
【0046】
しかしながら、配向を阻害しなければ800μm以上の扁形黒鉛粉末の割合が0.1%を超えても良いし好ましい。0.1%を超える割合で800μm以上の扁形黒鉛粉末を含ませ、配向させることができれば熱伝導率を高めることができるからである。
したがって、混合組成物の粘度を低くするなどして配向性を改善すれば、800μm以上の扁形黒鉛粉末の割合が0.1%を超えて含ませることも可能である。
【0047】
扁形黒鉛粉末の含有量は、高分子マトリクス100質量部に対して75〜135質量部であることが好ましい。75質量部未満では熱伝導性を高め難く、135質量部を超えると、混合組成物の粘度が高くなり配向性が悪くなるおそれがある。
【0048】
<熱伝導性充填材>
熱伝導性充填材は、扁形黒鉛粉末とともに高分子マトリクスに熱伝導性を付与する材料である。配向した扁形黒鉛の面どうしの隙間に介在することで扁形黒鉛間の熱伝達の橋渡しをするものと考えられる。
【0049】
熱伝導性充填材には、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物などの球状や不定形の粉末、球状黒鉛などが挙げられる。金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、石英など、金属窒化物としては、窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムなどを例示することができる。また、金属炭化物としては、炭化ケイ素が挙げられ、金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。これらの熱伝導性充填材の中でも、酸化アルミニウムやアルミニウムは、熱伝導率が高く、球状のものが入手しやすい点で好ましく、水酸化アルミニウムは入手し易く熱伝導性シートの難燃性を高めることができる点で好ましい。
【0050】
このような熱伝導性充填材は、アスペクト比が2以下であることが好ましい。アスペクト比が2を超えると、粘度が上昇しやすく高充填し難いためである。こうした理由から、熱伝導性充填材の形状は球状であることが好ましい。
【0051】
熱伝導性充填材の平均粒径は0.5〜35μmであることが好ましい。平均粒径が35μmを超えると、扁形黒鉛粉末の大きさに近づきその扁形黒鉛粉末の配向を乱すおそれがある。一方、平均粒径が0.5μm未満の熱伝導性充填材は、比表面積が大きくなるため粘度が上昇し易く高充填し難くなる。但し、充填性に悪影響がない場合は、0.5μm未満の熱伝導性充填材を含んでもよい。熱伝導性充填材の平均粒径は、レーザ回折散乱法(JIS R1629)により測定した粒度分布の体積平均粒径で示すことができる。
【0052】
熱伝導性充填材は、高分子マトリクス100質量部に対して、250〜700質量部の範囲で添加することが好ましく、350〜600質量部の範囲で添加することがより好ましい。250質量部未満の場合には、扁形黒鉛粒子どうしの隙間に介在する量が不足し熱伝導性が悪くなるおそれがある。一方、700質量部を超えても、熱伝導性を高める効果が上がることがなくなり、かえって扁形黒鉛粉末による熱伝導を阻害するおそれがある。そして350〜600質量部の範囲では、熱伝導性に優れ混合組成物の粘度も好適である。
【0053】
<添加剤>
硬化前高分子マトリクスには、成形後に熱伝導性シートとしての機能を損なわない範囲で種々の添加剤を含ませることができる。例えば、可塑剤、分散剤、カップリング剤、粘着剤などの有機成分を含んでも良い。またその他の成分として難燃剤、酸化防止剤、硬化遅延剤、触媒、着色剤などを適宜添加してもよい。
【0054】
<混合組成物>
硬化前高分子マトリクスと、扁形黒鉛粉末と、熱伝導性充填材とを混合し均質に分散させて混合組成物を得る。混合組成物を構成する各成分は、硬化前高分子マトリクス100質量部に対し、扁形黒鉛粉末75〜135質量部と、熱伝導性充填材250〜700質量部とを含むことが好ましい。この添加割合を体積%に換算すると、硬化前高分子マトリクス30〜50体積%に対して、扁形黒鉛粉末10〜28体積%、熱伝導性充填材28〜60体積%におよそ相当する。これに適宜、上記した添加剤等を含ませることができる。
【0055】
混合組成物の粘度について特に限定するものではないが、後述する磁場配向による場合には、10〜300Pa・sであることが好ましい。10Pa・s未満では扁形黒鉛粉末や熱伝導性充填材が沈降するおそれがあり、300Pa・sを超えると流動性が低すぎて磁場で扁形黒鉛粉末が配向しないか、配向に時間がかかりすぎるためである。磁場配向以外の配向方法として押出成形等を採用する場合には、300Pa・sを超えても配向させることができる。また、沈降し難い熱伝導性充填材を用いたり、沈降防止剤等の添加剤を組合せたりすることによって10Pa・s未満にできる場合もある。
そして、10〜200Pa・sであることがより好ましい。粒径の大きな扁形黒鉛粉末が多く含まれる場合に、200Pa・sを超えると、粒径の大きな扁形黒鉛粉末の配向がやや難しくなるが、200Pa・s以下であれば、それらの粒径の大きな扁形黒鉛粉末も配向させることが容易である。
【0056】
<熱伝導性シートの製造方法>
熱伝導性シートを製造する方法のうちここでは2つの方法について説明する。
【0057】
第1に混合組成物を磁場に置き、扁形黒鉛粉末を磁場に沿って配向させた後、硬化前高分子マトリクスを硬化させる磁場配向製法である。
【0058】
まず硬化前高分子マトリクスに扁形黒鉛粉末と熱伝導性充填材とを分散させて混合組成物を調製する。次に、混合組成物に対して磁力線を印加し、変形扁形黒鉛粉末を一定方向に配向させた状態で混合組成物を固化させ所定形状に成形することにより、熱伝導性シートを得ることができる。
【0059】
磁力線を印加するための磁力線発生源としては、超電導磁石、永久磁石、電磁石、コイル等が挙げられるが、高い磁束密度の磁場を発生することができる点で超電導磁石が好ましい。これらの磁力線発生源から発生する磁場の磁束密度は、好ましくは1〜30テスラである。この磁束密度が1テスラ未満であると、変形扁形黒鉛粉末を配向させることが難しくなる。一方、30テスラを超える磁束密度は実用上得られにくい。熱伝導性シートの成形方法としては、バーコータ法、ドクターブレード法、押出成形法(Tダイ法等)、カレンダー成形法、プレス成形法、注型法等が挙げられる。
【0060】
こうして得られた成形体は、そのまま熱伝導性シートとして用いても良いし、スライスやカットを行い最終的な形状に加工してもよい。注型等のように金型で成形された熱伝導性シートやバーコータ法等で離型フィルム上に形成された熱伝導性シートは、シートの表面に高分子マトリクスからなる極薄いスキン層が形成されることがある。このスキン層は扁形黒鉛粉末や熱伝導性充填材の脱落を抑制する効果がある。一方、配向方向に垂直な平面でスライスやカットをすることで、前記スキン層を有しない熱伝導性シートを得ることもできる。スキン層を有しない熱伝導性シートでは、扁形黒鉛粉末や熱伝導性充填材が、発熱体や放熱体に広い面積で触れることができるため、熱伝導性を高めることができる。
【0061】
第2に混合組成物に剪断力をかけて薄板状にした予備的シートを製造し、これを複数枚積層して硬化させた積層ブロックを製造し、そしてその積層ブロックを裁断して熱伝導性シートを得る積層スライス製法がある。
【0062】
積層スライス製法は、まず、硬化前高分子マトリクスに扁形黒鉛粉末と熱伝導性充填材、必要により種々の添加剤を混入し攪拌し、混入させた固形物が均質に分散した混合組成物を調製する。混合組成物は、シート状に伸長させるときに剪断力がかかるように比較的高粘度である10〜1,000Pa・sであることが好ましい。
【0063】
次に、混合組成物に対して剪断力を付与しながら平たく伸長させてシート状に成形する。剪断力をかけることで、扁形黒鉛粉末をシートの平面と平行な方向に配向させることができる。シートの成形手段として、例えば、バーコータやドクターブレード等の塗布用アプリケータ、もしくは、押出成形やノズルからの吐出等により、基材フィルム上に混合組成物を塗工する方法が挙げられる。このときのシート厚は50〜250μm程度が好ましい。こうして予備的シート得ることができる。この予備的シートは、シート面方向と扁形黒鉛粉末の配向方向が同一となっている。
【0064】
次に、この予備的シートを複数枚重ねて積層した後、紫外線照射や熱プレス等の硬化前高分子マトリクスを硬化させるための適切な硬化手段を用いて混合組成物を硬化させて積層ブロックを形成する。最後に、扁形黒鉛粉末の配向方向と直交する方向に積層ブロックを切断し、シート状の熱伝導性シートを得る。
【0065】
第1の磁場配向製法と第2の積層スライス製法を比較する。
【0066】
積層スライス製法では、柔軟で薄い熱伝導性シートの作製が難しい。例えばE硬度が20以下程度の場合は可能な限り鋭い刃を用いても、シートが柔らかすぎるためスライスによる押圧力でシートの変形が大きく、品質のよい薄膜シートを得ることが困難である。この問題への対策として冷凍してスライスする方法が挙げられる。しかし、冷凍する方法は例えばアクリルゲルなどでは有効であるが、シリコーンを高分子マトリクスとする熱伝導性シートでは、−40°に冷凍しても硬さがほとんど変わらないため、スライスの品質を改善できない。さらに低温まで(実際には−60°程度まで)冷やせば硬くすることができスライスの品質を改善することが可能であるが、−40°未満の温度まで冷やすためには特殊な装置が必要となるばかりか、スライス時の摩擦熱で冷却が阻害されることなども加味すると現実的には採用することができない。
【0067】
また、熱伝導性シートは、一般に被着体どうしの確実な密着と熱抵抗を下げる目的で10〜40%程度圧縮して使用される。シートが柔軟であれば圧縮のための応力が小さくなるため、応力によって被着体である基板が歪むおそれが低くなる。ところが積層スライス製法では、硬さの制限を受けるため、非常に柔軟な熱伝導性シートを得ることが難しい。
【0068】
加えて、積層スライス製法では、熱伝導性シートの面方向の物性や熱伝導性に異方性が発生するという問題や、表面の粘着性が損なわれるため、被着体に固定しにくく作業性が悪いという問題がある。また、積層して貼り合せる工程やスライスする工程が増えるため、コストアップの要因となっている。さらに、熱伝導性シートを発熱体と放熱体の間に配置する際に、シートどうしの貼り合せ面が倒れ込む方向に加圧力が働き、この結果、貼り合せ面が剥がれたり扁形黒鉛粉末どうしが剥離したりするおそれがある。
【0069】
他方、磁場配向製法では、扁形黒鉛粉末の扁平な面の法線方向が、熱伝導性シートの面方向に対して平行であるというだけでなく、この扁形面どうしはそれぞれランダムな方向を向くという特性がある。一方、積層スライス製法では扁形黒鉛粉末の扁形面の法線方向が、熱伝導性シートの面方向に対して平行であり、かつ、この扁形面どうしも平行である。即ち、磁場配向製法による扁形黒鉛粉末の配向は、扁形黒鉛の扁形面どうしが重なり合う場合も重なり合わない場合もあるため、扁形黒鉛の扁形面どうしが剥離し難い性質を有している。そのため、シートの面方向には等方的に熱を伝えることができる。また、複数のシートを貼り合わせた貼り合せ面を備えないため、その貼り合せ面が剥離し易いといった問題も生じない。したがって、以上のような理由から、磁場配向製法により製造する方が好ましい。
【0070】
<熱伝導性シートの性質>
熱伝導性シートの硬度は、日本工業規格であるJIS K 6253のタイプEの硬度計によって測定される値(以下「E硬度」という。)で0〜95が好ましく、0〜60がより好ましい。E硬度が95を超える場合は発熱体や放熱体の形状への追従性が十分に得られず、発熱体や放熱体と熱伝導性シートとの密着性が低下して熱伝導性が低下するおそれがある。E硬度が95以下の場合には、発熱体や放熱体の形状に沿って熱伝導性シートが良好に追従するため、発熱体や放熱体と熱伝導性シートとの密着性を十分に確保することができる。更に、E硬度が60以下では、発熱体と放熱体の間に設置する際の圧縮率が高くても圧縮のための応力を低くすることができる。
【0071】
熱伝導性シートの硬さの下限は、E硬度では0となる。この場合にはアメリカ材料試験協会で採用されているASTM D2240に規定されるタイプOOデュロメータ硬さ(以下「OO硬度」という。)で、5以上が好ましく、10〜80がより好ましい。OO硬度が5以上であれば、E硬度が0であっても形状を保持する程度の物性を備えることができるためである。また、10〜80の範囲であれば、ある程度の取り扱い性を持ちつつも、圧縮の応力を極めて小さくできるためである。
【0072】
熱伝導性シートは、所定のタック性(粘着性)を持たせたものとすることができる。タック性は静摩擦係数の値をその指標とすることができ、この静摩擦係数の値が、8.0〜20.0程度が好ましく。10.0〜15.0がより好ましい。8.0〜20.0の範囲内であれば、発熱体や放熱体に固定し易く、熱伝導性シートを装着する作業性が良く、10.0〜15.0の範囲内であれば固定し易さも作業性も特に良いためである。この静摩擦係数は後に説明する実験例の方法を用いて計測することができる。
【0073】
熱伝導性シートの熱伝導率は、12〜30W/m・Kの範囲とすることができる。この熱伝導率はシートの厚み方向の熱伝導率であり、後に説明する実験例の方法を用いて算出することができる。なお、本発明において単に熱伝導率という場合には、断りのない限りシートの厚み方向の熱伝導率を指すものとする。
【0074】
熱伝導性シート中の扁形黒鉛粉末は、その扁形面がシートの厚み方向に配向している。より具体的には、シートの厚み方向に対して扁形黒鉛粉末の扁形面のなす角度が30°未満の扁形黒鉛粉末の数の割合が50%を超える状態である。このような配向状態において、扁形黒鉛粉末とアスペクト比が小さい熱伝導性充填材とを適当な比率で含むことで、配向した扁形黒鉛粉末の面どうしの隙間に熱伝導性充填材が好適に介在し、熱伝導率の高い熱伝導性シートが得られる。
【0075】
本発明の熱伝導性シートは、扁形黒鉛粉末とともに熱伝導性充填材を含むことから、黒鉛の含有量が比較的少なく、柔軟性とシート表面のタック性に優れた熱伝導性シートである。このため、発熱体と放熱体との間に挟んで加圧しても、圧縮応力が小さく基板が歪んだり過剰な圧力がかかったりするおそれが低い。また、発熱体や放熱体に固定しやすく、作業性の良い熱伝導性シートである。
【実施例】
【0076】
より具体的な実施例を示して本発明をさらに説明する。
【0077】
<扁形黒鉛粉末の製造>
厚さ25μmのポリイミドフィルムをアルゴンガス雰囲気中で、2600℃で4時間熱処理し、厚さ約17μmの黒鉛フィルムを得た。得られた黒鉛フィルムをピンミルで粉砕した。その際に、ピンミルの回転数と処理時間を変化させて、粒度の異なる扁形黒鉛粉末1〜4を得た。具体的には、低回転の短時間処理で粒径の大きい扁形黒鉛粉末4を得た。次いでこれよりも回転数を高くし粉砕時間を長くして黒鉛粉末3を得た。さらに黒鉛粉末3よりも回転数を高くし粉砕時間を長くして黒鉛粒子2を得た。そしてさらに黒鉛粉末2よりも回転数を高くし粉砕時間を長くして黒鉛粉末1を得た。
【0078】
(扁形黒鉛粉末の粒度分布)
扁形黒鉛粉末1〜4について、レーザ回折・散乱方式粒度分布測定装置LS230(BeckmanCoulter社製)を用いて粒度分布を測定した。このときドライパウダーモジュールを用いて乾式粉末を濃度3〜5%になるようにバイブレータとオーガを調整し、測定時間60秒に設定して、光学モデルとしてFraunhoferを選択し、面積基準で頻度(表面積頻度)を算出した。このようにして求めた粒度分布を図1に示す。
【0079】
扁形黒鉛粉末1〜4を電子顕微鏡で観察すると、扁形黒鉛粉末1では約35μm程度の鱗片状粒子が最も多く見られた。また、扁形黒鉛粉末2では80μm程度の鱗片状粒子が最も多く、300μm程度までの鱗片状粒子も多く見られた。また、扁形黒鉛粉末3では、300〜400μm程度の鱗片状粒子が最も多く見られ、扁形黒鉛粉末4では100〜400μm程度の鱗片状粒子が多く見られるとともに、800μm以上の大きめの粒子も散見された。
【0080】
(扁形黒鉛粉末の比表面積)
扁形黒鉛粉末1〜4について、自動比表面積測定装置Gemini(株式会社 島津製作所製)を用いて、BET多点法により比表面積を測定したところ、扁形黒鉛粉末1〜4の比表面積は、それぞれ順に、2.33m/g、1.27m/g、0.91m/g、0.83m/gであった。
【0081】
(扁形黒鉛粉末のアスペクト比)
扁形黒鉛粉末1〜4の各扁形黒鉛粉末の形状を電子顕微鏡で観察したところ、扁形黒鉛粉末1〜4の何れも長軸の長さが35〜400μmの扁形粒子が数多く見られた。これらの扁形黒鉛粉末の厚さは約17μmであるため、そのアスペクト比は2〜24程度である。
【0082】
<混合組成物の調製と熱伝導性シートの形成>
扁形黒鉛粉末と、熱伝導性充填材と、硬化前高分子マトリクスを混合し、以下に詳しく説明する試料1〜試料20の混合組成物と熱伝導性シートを調製した。
【0083】
試料1
硬化前高分子マトリクスとして付加反応型シリコーンであって、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンの混合物(比重:1.0)に、上記扁形黒鉛粉末2(比重:2.2)と、熱伝導性充填材1として粒径3μmでアスペクト比が略1である球状酸化アルミニウム(比重:4.0)と、熱伝導性充填材2として粒径10μmでアスペクト比が略1である球状酸化アルミニウム(比重:4.0)とを表1に示す割合で配合して、この組成物が均一になるように混合攪拌した後に脱泡して試料1の混合組成物を調製した。なお、扁形黒鉛粉末1と熱伝導性充填材1,2は予めシランカップリング剤で表面処理したものを用いた。
【0084】
続いて、混合組成物を、金型成形でシート状に成形した。そして、磁力線をシートの厚さ方向に印加するように、超電導磁石による8テスラの磁場中に10分間静置した。次に、120℃で30分間加熱し、厚さ2.0mmである試料1の熱伝導性シートを得た。この試料1の組成を表1に示した。
【0085】
試料2〜試料22
試料1の配合を表1〜3に示した配合に変更して、試料1と同様の方法で試料2〜試料22の混合組成物を調製した。試料10,14,17以外の試料については、試料1の熱伝導性シートの製造方法と同様の方法で各試料ナンバーの熱伝導性シートを作製した。この試料2〜試料22の組成、性質等について表1〜3に示した。したがって、扁形黒鉛粉末2〜4や熱伝導性充填材3,4も予めシランカップリング剤で表面処理したものを用いた。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
なお、表1〜3で示す各材料には以下のものを用いた。
【0090】
「炭素繊維」は、平均繊維長100μm、平均直径が10μmであるピッチを原料とした黒鉛化炭素繊維であり、「熱伝導性充填材1」は、平均粒径が3μmの球状の酸化アルミニウムであり、「熱伝導性充填材2」は、平均粒径が10μmの球状の酸化アルミニウムであり、「熱伝導性充填材3」は、平均粒径が35μmの球状の酸化アルミニウムであり、「熱伝導性充填材4」は、平均粒径が50μmの球状の酸化アルミニウムである。熱伝導性充填材1〜4の平均粒径は、レーザ回折散乱法(JIS R1629)により測定した粒度分布の体積平均粒径を示したものである。また、熱伝導性充填材1〜4のアスペクト比は、電子顕微鏡で観察したものであり略1.0であった。
【0091】
<混合組成物と熱伝導性シートの性質>
(粘度の測定)
各試料の混合組成物の粘度を、回転粘度計(ブルックフィールド社製、商品名:DV−E型、スピンドルNo.14)を用い、25℃雰囲気下で、10rpmの回転数で測定した。その結果も表1〜3に示した。また、この条件で測定できなかった試料については表中に「−」と記載した。測定できなかった全ての試料は、測定できた試料よりも高粘度であり、経験的に300Pa・sを超えていると推測される。
【0092】
(硬さの測定)
各試料の熱伝導性シートを、それぞれ3枚重ねて6mm厚の試験片を作製して、タイプOOデュロメータを用いてOO硬度を測定した。その結果も表1〜3に示した。
【0093】
(熱抵抗値の測定と熱伝導率)
熱伝導性シートを縦10mm×横10mmにカットした試験片を作製した。これらの試験片を発熱基板(発熱量Q:25W)とヒートシンク(株式会社アルファ製「FH60−30」)との間に挟み、ヒートシンクに一定の荷重(2kgf/cm)を加えた。このヒートシンクの上部には、冷却ファン(風量0.01kg/sec、風圧49Pa)が取り付けられており、ヒートシンク及び発熱基板には温度センサが接続されている。冷却ファンを作動させた状態で、発熱基板に通電する。通電の開始後、5分経過した時点で、発熱基板の温度(T1)及びヒートシンクの温度(T2)を測定し、各温度を下記式(1)に代入することにより各試料の試験片の熱抵抗値を算出した。
【0094】
熱抵抗値(℃/W)=(T1−T2)/発熱量Q・・・(1)
【0095】
次に、下記の関係式(2)によって熱抵抗値から熱伝導率へ換算した。その結果を表に示す。なお、表にはこれらの熱伝導率について、好ましいものを“◎”、やや好ましいものを“○”、不適であるものを“×”と評価して併せて示す。
【0096】
熱抵抗値(℃/W)=熱通過方向厚み(m)/(熱通過断面積(m)×熱伝導率(W/m・K))・・・(2)
【0097】
(静摩擦係数の測定)
各試料の熱伝導性シートのタック性を示す指標として静摩擦係数を採用した。この静摩擦係数は、図2に示す実験装置で測定することができる。表面を鏡面としたステンレス製の水平台(S)上に熱伝導性シートの試験片(P)(縦150mm×横150mm)を載置し、その試験片(P)の上に147gの重り(W)(直径50mmの円柱、ステンレス製、接触面は鏡面)を載置する。重り(W)の下端付近には重り(W)牽引用のテープ(T)の一端を貼付し、このテープ(T)の他端をプッシュプルゲージ(G)(株式会社 大場計器製作所製の丸型テンションゲージ4000)に固定する。そして、試験片(P)の横方向に100mm/minの速度で試験片(P)を牽引してプッシュプルゲージ(G)の牽引時における試験片(P)と重り(W)の静摩擦力Fs(N)を測定した。より具体的には、試験片(P)を牽引したときの牽引力と重り(W)の重さとから、下記式(3)により静摩擦係数を算出した。各試験片(P)の熱伝導性シートについて静摩擦力Fsの測定および静摩擦係数の算出を5回行い、それらの平均値を熱伝導性シートの静摩擦係数とした。
【0098】
静摩擦係数=Fs(N)/Fp(N) ・・・(3)
【0099】
なお、上記式(3)において、Fpは、重りの質量(重量)によって生じる垂直抗力を示し、Fpの値は0.147kg(重りの重量)×9.8m/s(重力加速度)=1.4406Nで表される。
【0100】
<試料の評価>
試料1の混合組成物の粘度は178Pa・s、熱伝導性シートの熱伝導率は14.1W/m・K、OO硬度は58であった。やや粘度が高かったが均質に混合されており、また熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で観察すると扁形黒鉛粉末が規則正しく配向している様子が確認できた。
【0101】
試料2の混合組成物は、粘度測定ができないほど高粘度となった。かろうじてシート状に成形したが、作業性は非常に悪かった。この試料2の熱伝導性シートの縦断面を顕微鏡で観察すると扁形黒鉛粉末の面がシートの厚さ方向に配向しているとはいえなかった。また、シート面から観察すると扁形黒鉛粉末の面はランダムに種々の方向を向いていた。試料2の熱伝導性シートの熱伝導率は7.4W/m・Kと低く、OO硬度は71であった。
【0102】
試料3の混合組成物の粘度は135Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は14.1W/m・K、OO硬度は48であった。熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で観察すると扁形黒鉛粉末が規則正しく配向している様子が確認できた。
【0103】
試料4の混合組成物の粘度は189Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は13.8W/m・K、OO硬度は58であった。混合組成物の粘度はやや高かったが、熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で観察すると扁形黒鉛粉末が規則正しく配向している様子が確認できた。
【0104】
試料5の混合組成物の粘度は250Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は11.0W/m・Kとやや低く、OO硬度は61であった。熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で観察すると、多くの扁形黒鉛粉末は配向しているが、一部の600μm以上の扁形黒鉛粉末が完全には配向せず、斜めになっている様子が確認できた。この影響で熱伝導率がやや低くなったものと考えられる。
【0105】
試料6は扁形黒鉛粉末を炭素繊維に置き換えたものである。この試料6の混合組成物の粘度は48Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は10.8W/m・K、OO硬度は60であった。熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で観察すると炭素繊維が規則正しく配向している様子が確認できた。
【0106】
試料7は、平均粒径が35μmとやや大きな酸化アルミニウムを熱伝導性充填材に用いたものである。この試料7の混合組成物の粘度は185Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は15.1W/m・Kと高く、OO硬度は60であった。熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で観察すると扁形黒鉛粉末が規則正しく配向している様子が確認できた。熱伝導率がやや高い理由は、黒鉛粉末どうしの間に介在する酸化アルミニウムの粒径が大きいため、熱伝導を促進したためであると考えられる。
【0107】
試料8は、平均粒径が50μmと大きな酸化アルミニウムを熱伝導性充填材に用いたものである。この試料8の混合組成物の粘度は162Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は10.4W/m・Kと低く、OO硬度は68であった。熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡で観察すると扁形黒鉛粉末が大粒径の酸化アルミニウムの外形に沿って固定された状態のものが見られた。その様子から大粒径の酸化アルミニウムが扁形黒鉛粉末の配向を阻害しているように見えた。熱伝導率がやや低い理由はこの配向の乱れによるものであると考えられる。
【0108】
試料9は、扁形黒鉛粉末を含まないものである。この試料9の混合組成物の粘度は18Pa・sであり熱伝導性シートが均質に分散していなかった。熱伝導性シートの熱伝導率は3.0W/m・Kとかなり低く、OO硬度は49であった。
【0109】
試料10は、熱伝導性充填材を含まないものである。この試料10の混合組成物は硬化前高分子マトリクスに扁形黒鉛粉末が均一に分散せず流動性のある組成物を得ることができなかった。また、そのためシート状に成形することもできず、熱伝導性シートを作製できなかった。
【0110】
試料11は、酸化アルミニウムの量を減らして、扁形黒鉛粉末の量を増やした試料である。この試料11の混合組成物の粘度は190Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は13.0W/m・K、OO硬度は61であった。
【0111】
試料12の混合組成物の粘度は137Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は11.4W/m・K、OO硬度は58であった。
【0112】
試料13は、扁形黒鉛粉末の量をさらに増やした試料である。この試料13の混合組成物の粘度は298Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は18.5W/m・K、OO硬度は72であった。
【0113】
試料14は、扁形黒鉛粉末の量を試料13よりもさらに増やした試料である。この試料14では、硬化前高分子マトリクスに扁形黒鉛粉末が均一に分散せず、流動性のある均質な組成物を得ることができなかった。また、そのためシート状に成形することもできず、熱伝導性シートを作製できなかった。
【0114】
試料15は、熱伝導性充填材の量が比較的少ない試料である。この試料15の混合組成物の粘度は125Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は11.0W/m・Kとやや低く、OO硬度は64であった。
【0115】
試料16は、熱伝導性充填材の量を比較的増やした試料である。この試料16の混合組成物の粘度は256Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は13.5W/m・K、OO硬度は76であった。
【0116】
試料17は、熱伝導性充填材の量をさらに増やした試料である。この試料17は硬化前高分子マトリクスに扁形黒鉛粉末が均一に分散せず、流動性のある均質な組成物を得ることができなかった。また、そのためシート状に成形することもできず、熱伝導性シートを作製できなかった。
【0117】
試料18は、試料5よりも扁形黒鉛粉末の量が少ない試料である。試料18の混合組成物の粘度は178Pa・sであり、熱伝導性シートの熱伝導率は12.8W/m・K、OO硬度は52であった。
【0118】
試料19は、試料3の扁形黒鉛粉末と熱伝導性充填材の種類および量は同一であるが、高分子マトリクス100質量部中の主剤に対する硬化剤の割合を多くしたものである。試料19の熱伝導性シートは、硬化剤を多くすることでシート表面の粘着性を落とした。硬さはE50であった。
【0119】
試料20は、試料3の扁形黒鉛粉末と熱伝導性充填材の種類および量は同一であるが、高分子マトリクス100質量部の主剤に対する硬化剤の割合を試料19よりもさらに多くしたものである。試料20の熱伝導性シートは、硬化剤をさらに多くすることでシート表面の粘着性を落とした。硬さはE60であった。
【0120】
試料21は、厚さ2mmとした試料6の熱伝導性シートを1mm(半分)にスライスした熱伝導性シートである。静摩擦係数はそのスライス面での値を測定した。
【0121】
試料22は、試料3の熱伝導性シートのシート表面に粘着剤を塗布して粘着性を高めた熱伝導性シートである。
【0122】
<考察>
(扁形黒鉛粉末の影響)
試料1〜試料5の熱伝導性シートを比較すると、扁形黒鉛粉末1を用いた試料2の熱伝導率は7.4W/m・Kと低く、扁形黒鉛粉末4を用いた試料5の熱伝導率は11.0W/m・Kとやや低い結果となった。一方、試料1、試料3、試料4の熱伝導率は13.8W/m・K〜14.1W/m・Kと高かった。この結果から、扁形黒鉛粉末1よりも扁形黒鉛粉末4の方が好ましく、扁形黒鉛粉末4よりも扁形黒鉛粉末2と扁形黒鉛粉末3の方が好ましい。また、扁形黒鉛粉末2を用いた熱伝導性シートと扁形黒鉛粉末3を用いた熱伝導性シートの熱伝導率は同程度である。
【0123】
試料2については、扁形黒鉛粉末1の扁形面がシートの厚み方向に配向しているとはいえず、その配向の乱れが熱伝導性の低い理由であると考えられる。配向が乱れた主な原因は、用いた扁形黒鉛粉末の比表面積が2.33m/gとやや大きく粘度が高くなったことであると考えられる。また、このことは粒度分布を示す図1からも読み取れる。すなわち、扁形黒鉛粉末1は粒径が30μm付近の粒子の割合が多く、200μm以上の粒子をほぼ含まないことから、比表面積が大きくなっているものと思われる。これに対して扁形黒鉛粉末2〜扁形黒鉛粉末4の比表面積は1.27〜0.83m/gであるため、扁形黒鉛粉末1ほど粘度が上昇しなかったものと思われる。
【0124】
試料1、試料3、試料4の粘度を比較すると、試料3の粘度がやや低くなっていた。粘度が低ければ所定の粘度に高めるまで、扁形黒鉛粉末や熱伝導性充填材の充填量を増加させることができるということであり、熱伝導率をさらに向上させる余地があるということである。このことから、扁形黒鉛粉末2と扁形黒鉛粉末3をそれぞれ単独で配合するよりも、混合した方が好ましい。
【0125】
図1の粒度分布からこれらの違いを検討すると、扁形黒鉛粉末2は粒径60μm付近にピークがあり、一方の扁形黒鉛粉末3は60μm付近にもピークはあるもののその高さは低く370μm付近に大きなピークがあることがわかる。これらに対して試料3で用いた混合粉末では、60μm付近と370μm付近のピークが同程度となっていた。このことから、これら2つのピーク帯の黒鉛粒子が同程度の頻度となるときに、最も粘度が低下するものと思われる。
【0126】
前記2つのピーク帯を20〜150μmと、200〜400μmと定義し、20〜150μmの範囲の頻度の最大点P1と、200〜400μmの粒度範囲の頻度の最大点P2とを見積り、P2/P1を算出した。その結果、扁形黒鉛粉末1は“0”、扁形黒鉛粉末2は“0.48”、扁形黒鉛粉末3は“1.23”、扁形黒鉛粉末4は1.29、扁形黒鉛粉末2と扁形黒鉛粉末3とを1:2で混合したものは“0.92”であった。これらの結果から、添加するのに好ましい扁形黒鉛粉末2、扁形黒鉛粉末3、またはこれらの混合物、そして扁形黒鉛粉末4のP2/P1の値は0.2〜2.0の範囲内にあり、より狭めれば0.48〜1.29の範囲内にある。また、これらの中でも添加するのが最も好ましい扁形黒鉛粉末2、扁形黒鉛粉末3、またはこれらの混合物のP2/P1の値を検討すると0.48〜1.23の範囲内にある。
【0127】
また、試料1、試料3、試料4と試料5とを比較すると、試料5の熱伝導率はやや低い結果であった。試料5の断面を電子顕微鏡で観察すると、特に800μmを超えるような大きな扁形黒鉛粉末がシート面に対して垂直に配向していない様子が見られた。このことから、大きな扁形黒鉛粉末は配向しにくいことがわかる。これを念頭に図1の粒度分布を見ると、扁形黒鉛粉末4は他の扁形黒鉛粉末よりも800μm以上の扁形黒鉛粉末を多く含んでいることがわかる。頻度の値は、扁形黒鉛粉末4が0.5%で、次に大きい扁形黒鉛粉末3が0.1%未満であったことから、800μm以上の扁形黒鉛粉末の表面積頻度は0.1%以下であることが好ましい。
【0128】
試料5と試料18を比較すると、扁形黒鉛粉末の配合量が少ない試料18の方が熱伝導率がやや高い結果であった。両試料とも扁形黒鉛粉末としては扁形黒鉛粉末4のみを配合しているにもかかわらず、試料5では、大きな扁形黒鉛粉末が配向していない様子が観察されたことに対して、試料18の断面を電子顕微鏡で確認すると、800μmを超えるような大きな扁形黒鉛粉末がシート面に対して垂直に配向している様子が見られた。この大きな扁形黒鉛粉末の配向の程度の差により、試料18では扁形黒鉛粉末4の配合量が少ないにもかからず、試料5よりも熱伝導率が高まったものと思われる。
試料18で大きな扁形黒鉛粉末が配向した理由は、試料5の混合組成物の粘度が250Pa・sと高かったことに比べて、試料18の混合組成物の粘度は、178Pa・sと低かったことであると考えられる。即ち、粘度が200Pa・s以下であれば、やや大きな扁形黒鉛粉末であっても配向可能であることがわかる。
【0129】
試料4と試料6とを比較すると、扁形黒鉛粉末と炭素繊維とでは、同じ質量部数の配合では扁形黒鉛粉末を配合した方が、熱伝導性を高くすることができる。
【0130】
(熱伝導性充填材の影響)
試料4、試料9、試料10を比較する。まず、試料9のように扁形黒鉛粉末を全く含まないと熱伝導率が極めて低くなる。またこれとは逆に、試料10のように熱伝導性充填材を全く含まないと、扁形黒鉛粉末を分散させることが困難で混合組成物が得られない。このことから、扁形黒鉛粉末に所定の熱伝導性充填材を添加することは、単に熱伝導性を高めるだけでなく、扁形黒鉛粉末の分散性を高める効果があることがわかる。
【0131】
熱伝導性充填材の配合量について試料3、試料10、試料12、試料15、試料16、試料17を比較して分析する。熱伝導性充填材を含まない試料10は均質な分散ができなかったが、熱伝導性充填材を150質量部配合した試料15の熱伝導性シートは熱伝導率が11.0W/m・Kとやや低いものの、その混合組成物の粘度は125Pa・sとかなり低粘度である。また、熱伝導性充填材の配合量を250質量部とした試料12の熱伝導性シートの熱伝導率は11.4W/m・Kであり、その混合組成物の粘度は137Pa・sであって、それほど高粘度とならないにもかかわらず熱伝導性は高い。さらに熱伝導性充填材の配合量を450質量部とした試料3では、粘度が135Pa・sであり、粘度を上昇させることなく熱伝導性を14.1W/m・Kまで高めることに成功している。これらの結果より、少なくとも150質量部の熱伝導性充填材を添加することが好ましく、250質量部以上とすることがより好ましい。
【0132】
一方、扁形黒鉛粉末をやや少なくして熱伝導性充填材を700質量部添加した試料16は、熱伝導率が13.5W/m・Kで粘度が256Pa・sであった。熱伝導性充填材を700質量部まで増やすと粘度上昇も顕著となり、850質量部まで添加することはできなかった。よって、熱伝導性充填材の添加量は700質量部程度までが好ましい。
【0133】
なお、上記結果を体積分率に置き換えると、扁形黒鉛粉末は10〜28質量%程度含まれることが好ましく。熱伝導性充填材は、20〜60質量%程度含まれることが好ましい。
【0134】
(扁形黒鉛粉末と熱伝導性充填材の組合せ)
次に、扁形黒鉛粉末と熱伝導性充填材の割合について体積基準で分析する。表1〜3に記載の混合比率から“黒鉛(体積%)/熱伝導性充填材(体積%)”の値を算出すると、試料17は“0.16”、試料16は“0.19”、試料4は“0.36”、試料11は“0.76”、試料13は“0.98”、試料15は“1.09”である。この中で、試料17は分散不良で熱伝導性シートが得らなかったが、試料16の割合であれば所定の熱伝導性シートを製造することができたことから、下限は0.19程度となる。一方、試料15は熱伝導性がやや低く、試料13は熱伝導性が良かったことから、上限は1.0程度となるものと思われた。
【0135】
(タック性)
タイプOO硬度で48〜60の試料3、試料6、試料9の熱伝導性シートは、静摩擦係数が10.9〜12.2であった。それに対して、硬度を高めた試料19、試料20の熱伝導性シートでは、硬さがE60の試料19で静摩擦係数8.2、硬さがE70の試料20では静摩擦係数が2.0であった。さらに、試料6をスライスして得たスライス面について、試料21では静摩擦係数が0.3まで低下していた。他方、試料表面に粘着剤を塗布した試料22は、静摩擦係数が27.2まで上昇した。
【0136】
上記試験結果について、試料21は、タック性がなく、むしろ滑り性が良いといった性質である。次に試料20は、静摩擦係数が2.0であるが、タック性は小さい。試料19は、タック性がやや小さいが仮固定するには充分なタック性があるといえる。これらの結果より静摩擦係数は8.0以上であることが好ましい。なお、試料20はE硬度で60であるが、OO硬度では90以上となる。
【0137】
試料3、6、9については、適度なタック性を有していた。一方、試料22については、タック性が強すぎる傾向があり、試料を破壊せずに被着体から剥がすことが困難なほどであった。この場合には、熱伝導性シート、発熱体、放熱体等のリワーク性が悪くなるため好ましくない。これらの結果より、静摩擦係数は、好ましくは8.0〜20.0であり、より好ましくは10.0〜15.0である。
【0138】
なお、試料20、試料21を除く各試料は、タック性が高く、牽引時の初期に最大値となり、その後に牽引力が一定となるような安定的な牽引ができなかった。そのため、静摩擦係数を求める牽引力としては、全ての試料について最大値を採用した。
【符号の説明】
【0139】
S 水平台
P 試験片
W 重り
T テープ
G プッシュプルゲージ
図1
図2