(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記溶接ホーンの前記嵌合溝の底面には、前記滑り止め溝に加え、前記滑り止め溝よりも幅狭の補助溝が、前記滑り止め溝と直交する姿勢をなして複数形成されている請求項2に記載の端子付き電線の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のエッジ効果を期した滑り止め対策では、芯線を構成する素線の態様(線径、硬度等)によっては、十分な滑り止め機能が発揮されないことも懸念される。滑り止め機能を補完するには、溶接ホーンによる芯線への加圧力を高めることも考えられるが、加圧力が高められると芯線は断面積が小さくなるように大きく変形(例えば扁平化)し、そのため切れやすくなって却って固着力に劣る結果を招くことから、単純には対応できなかった。
本明細書によって開示される技術は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、その目的は、芯線の損傷を抑えつつ適正に超音波溶接を行えるようにするところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によって開示される超音波溶接治具は、芯線を有する電線の前記芯線を、平板状の電線接続部を有する端子の前記電線接続部上に超音波溶接により固着するための超音波溶接治具であって、前記端子の前記電線接続部を受けるアンビルと、前記アンビルと対向して配され前記電線における前記芯線の横断面の一部が嵌る嵌合溝が対向面に設けられた溶接ホーンとが具備され、前記溶接ホーンと前記アンビルとの間で
、前記芯線の軸線と前記嵌合溝の軸線とが揃った状態で、かつ前記芯線と前記電線接続部とを挟圧した状態において前記溶接ホーンを前記芯線の軸線方向に沿って高周波振動させることで超音波溶接するものにおいて、
前記芯線は複数の素線を撚り合わせた撚り線からなり、前記溶接ホーンの前記嵌合溝の底面には、前記嵌合溝の軸線に対して
前記撚り線の撚り角度に略等しい角度で交差する斜め姿勢をなす滑り止め溝が、前記嵌合溝の軸線方向に間隔を開けて複数形成されている。
【0007】
滑り止め溝が嵌合溝の軸線に対して交差する斜め姿勢で形成されているから、滑り止め溝の溝縁が芯線の外周の長い領域に亘って係止することになり、芯線に対する加圧力を抑えた形態においても高い滑り止め機能が発揮される。すなわち芯線が損傷を受けることを抑えた上で、適正に超音波溶接を行うことができ、結果溶接部分において高い固着力を得ることができる。
また、電線の芯線が撚り線である場合、芯線を構成する素線の長い領域が滑り止め溝の溝縁に係止されることで、芯線に対する加圧力を抑えた形態においても高い滑り止め機能が発揮される。
【0008】
また、以下のような構成としてもよい。
前記芯線は複数の素線を撚り合わせた撚り線からなり、前記滑り止め溝は、前記芯線を構成する前記素線の撚り角度に略等しい角度で交差する姿勢をなしている。
電線の芯線が撚り線である場合、芯線を構成する素線の長い領域が滑り止め溝の溝縁に係止されることで、芯線に対する加圧力を抑えた形態においても高い滑り止め機能が発揮される。
【0009】
前記滑り止め溝が、前記芯線の前記素線が嵌合可能な幅を有する幅広に形成されている。
電線の芯線を構成する素線が、長い領域に亘って滑り止め溝に嵌ることになるため、より高い滑り止め機能が発揮される。
【0010】
前記溶接ホーンの前記嵌合溝の底面には、前記滑り止め溝に加え、前記滑り止め溝よりも幅狭の補助溝が、前記滑り止め溝と直交する姿勢をなして複数形成されている。
補助溝が素線に対して直交姿勢で当てられることで、補助溝がエッジ効果を生み、トータルしてさらに高い滑り止め機能が発揮される。
【0012】
本明細書によって開示される端子付き電線の製造方法は、上記に記載の超音波溶接治具を用いて、電線における
撚り線からなる芯線を、端子に設けられた平板状の電線接続部に超音波溶接する
。
【0013】
本明細書によって開示される端子付き電線は、芯線を有する電線の前記芯線を、平板状の電線接続部を有する端子の前記電線接続部上に超音波溶接してなる端子付き電線であって、前記芯線における溶接部の外面には、前記芯線の軸線に対して交差する斜め姿勢をなす突条が、前記溶接部の軸線方向に間隔を開けて複数形成されて
おり、前記芯線は複数の素線を撚り合わせた撚り線からなり、前記突条は、前記芯線を構成する前記素線の撚り角度に略等しい角度で交差する姿勢をなしている
。
【発明の効果】
【0014】
本明細書によって開示される技術によれば、芯線が損傷を受けることを抑えた上で、適正に超音波溶接を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態1>
実施形態1を
図1ないし
図15に基づいて説明する。本実施形態に係る端子付き電線10は、
図13に示すように、被覆電線11(電線に相当)の端末に、バスバー20(端子に相当)が超音波溶接で接続された構造であって、例えば電気自動車に搭載される電池モジュール等の配線部分に適用されるようになっている。
【0017】
被覆電線11は、
図2及び
図4に示すように、図示7本の金属製の素線13を撚り合わせた撚り線からなる芯線12の外周が、合成樹脂製の絶縁被覆14で覆われた構造である。被覆電線11の端末では、絶縁被覆14が所定長さ剥ぎ取られることで芯線12が露出された端末処理が施されている。
芯線12は詳細には、
図4に示すように、直径aの7本の素線13が、撚り角度bで撚り合わされて形成されている。
【0018】
バスバー20は金属板製であって、
図1に示すように、上記した被覆電線11における露出した芯線12の長さよりも大きい短辺長さを持った平面視長方形をなす平板状に形成されている。
バスバー20における長さ方向(長辺に沿った方向)の中央部には、電線接続部21が設定されており、後記するように、被覆電線11における芯線12の端末が、電線接続部21に対してバスバー20の短辺に沿った向きで載せられて、超音波溶接により固着されるようになっている。
【0019】
超音波溶接治具30は、
図1ないし
図3に示すように、アンビル31と、その上方に対向して配された溶接ホーン40とを備えて構成されている。
アンビル31は固定的に設けられ、その上面が、バスバー20の電線接続部21を受ける受け面32とされている。この受け面32には、滑り止め用にローレット目32Aが形成されている。
【0020】
溶接ホーン40は、その下面に、被覆電線11における芯線12の端末を押圧する押圧部41が突出形成された形状であって、図示しない駆動機構により、アンビル31に接離する方向である上下方向に移動可能であり、また、
図10の矢線に示すように、バスバー20の短辺に沿った方向、すなわち芯線12の軸線方向に沿って高周波振動し得るようになっている。
【0021】
溶接ホーン40の押圧部41の下面が押圧面42とされており、この押圧面42には、
図5ないし
図8に示すように、芯線12における横断面の上部側を嵌める嵌合溝43が、全長(
図8の左右方向)に亘って形成されている。嵌合溝43は、芯線12の位置決め溝を兼ねて形成されており、詳細には、
図2に示すように、芯線12の直径よりも若干大きい直径を持った円弧形断面に形成されている。
【0022】
さて、上記した嵌合溝43の底面には、
図6に示すように、嵌合溝43の軸線に対して交差した斜め姿勢をなす3本の滑り止め溝45が、同嵌合溝43の軸線方向に所定間隔を開けて形成されている。滑り止め溝45は、円弧形断面をなし(
図7参照)、嵌合溝43の底面のほぼ全幅に亘るように形成されている。
【0023】
より詳細には、
図6に示すように、
滑り止め溝45の溝幅Aが、上記した被覆電線11の芯線12を構成する素線13の直径aに略等しく設定されている(A≒a)とともに、嵌合溝43の軸線との交差角度Bが、芯線12を構成する素線13の撚り角度bに略等しく設定されている(B≒b)。
また、各
滑り止め溝45の間隔は、素線13の直径aに略等しい寸法が採られている。
【0024】
続いて、端子付き電線10の製造手順の一例を説明する。
図1ないし
図3に示すように、超音波溶接治具30における溶接ホーン40が上方位置に後退している状態から、バスバー20の電線接続部21がアンビル31の受け面32に載せられる。次に、被覆電線11における露出した芯線12の端末が、アンビル31に受けられたバスバー20の電線接続部21上に載せられる。
【0025】
バスバー20並びに被覆電線11の芯線12がセットされたら、溶接ホーン40が下降され、
図9及び
図10に示すように、芯線12が嵌合溝43に収まって位置決めされつつ、バスバー20の電線接続部21上に加圧して押し付けられる。
これに伴い、バスバー20の電線接続部21の下面に対して、アンビル31の受け面32に形成されたローレット目32Aが食い込むように作用し、バスバー20はアンビル31の受け面32上に滑り止めされた形態で受けられる。
一方、被覆電線11の芯線12は、溶接ホーン40の押圧面42の嵌合溝43内に圧潰されつつ嵌合され、併せて、芯線12における嵌合溝43と対向する面に配された素線13のうちの1本置きの計3本の素線13が、嵌合溝43の底面に形成された滑り止め溝45に嵌った状態となる。
【0026】
上記のように溶接ホーン40による加圧動作が実施されたら、引き続いて溶接ホーン40が、
図10の矢線に示す方向に高周波振動される。ここで上記のように、芯線12を構成する素線13のうち3本の素線13が、長い距離に亘って、嵌合溝43の底面に形成された滑り止め溝45に嵌った状態にあるから、芯線12は溶接ホーン40との間で滑りを生ずることなく、溶接ホーン40と一体的に同芯線12の軸線方向に沿って高周波振動される。
【0027】
すなわち、アンビル31の受け面32に滑り止めされて受けられたバスバー20の電線接続部21上において、被覆電線11の露出された芯線12が適度に加圧された状態で軸線方向に沿って効率良く高周波振動される。この間、バスバー20の電線接続部21と芯線12との接合面において酸化皮膜が除去されたのち、接合面間で原子拡散を惹起して原子結合されることにより、被覆電線11の芯線12がバスバー20の電線接続部21上に超音波溶接されて固着される。
【0028】
溶接工程が終了したら、溶接ホーン40の高周波振動を停止するとともに、同溶接ホーン40を上方に後退させることで、
図13ないし
図15に示すように、被覆電線11の芯線12がバスバー20の電線接続部21上に超音波溶接により固着されてなる端子付き電線10が取り出される。
この端子付き電線10では、芯線12におけるバスバー20の電線接続部21に超音波溶接された部分(溶接部15)が、溶接ホーン40の押圧面42に形成された嵌合溝43と整合した円弧形断面の棒状をなしているとともに、この溶接部15の外周面に、嵌合溝43の底面に形成された滑り止め溝45と整合した円弧形断面をなす3本の突条16が、溶接部15の軸線に対して素線13の撚り角度bに略等しい角度で交差する斜め姿勢で、かつ溶接部15の軸線方向に間隔を開けて形成された形状となっている。
【0029】
以上のように本実施形態では、超音波溶接治具30における溶接ホーン40と、被覆電線11の芯線12との間の滑り止めを図る手段として、溶接ホーン40の押圧面42に、芯線12の横断面の一部が嵌る円弧形断面の嵌合溝43が形成されるとともに、この嵌合溝43の底面に、各素線13が嵌る溝幅Aを有する3本の滑り止め溝45を、嵌合溝43の軸線に対し素線13の撚り角度bに略等しい角度Bで交差する斜め姿勢において、同嵌合溝43の軸線方向に間隔を開けて形成した構造を採用している。
このため、芯線12を構成する素線13の長い領域が滑り止め溝45に嵌ることとなって、芯線12に対する加圧力を抑えた形態においても高い滑り止め機能が発揮される。すなわち芯線12が損傷を受けることを抑えた上で、適正に超音波溶接を行うことができ、結果、溶接部分において高い固着力を得ることができる。
【0030】
<実施形態2>
実施形態2を
図16ないし
図18によって説明する。実施形態2では、溶接ホーン40Xと被覆電線11の芯線12との間の滑り止め構造に改良を加えている。すなわち、溶接ホーン40Xの押圧面42に設けられた嵌合溝43の底面には、上記実施形態1に示した3本の滑り止め溝45に加えて、滑り止め溝45よりも幅狭の補助溝47が、滑り止め溝45と直交する姿勢をなして複数本(図示15本)形成されている。補助溝47は、
図18に示すように、スリット状に形成されている。
【0031】
実施形態2では、溶接ホーン40Xの加圧動作に伴い、被覆電線11の芯線12が嵌合溝43内に圧潰されつつ嵌合された場合に、芯線12を構成する所定の素線13が滑り止め溝45に嵌ることに加えて、補助溝47が、素線13に対して同素線13と直角をなして当てられた形態となる。
すなわち、芯線12を構成する素線13の長い領域が滑り止め溝45に嵌ることに加えて、補助溝47の溝縁が素線13に食い込むいわゆるエッジ効果を生み、トータルしてさらに高い滑り止め機能が発揮される。
【0032】
<実施形態3>
実施形態3を
図19及び
図20によって説明する。実施形態3では、さらに別の滑り止め構造を示しており、溶接ホーン40Yの押圧面42に設けられた嵌合溝43の底面に、ローレット溝50が形成されている。
このローレット溝50は、上記実施形態2に例示した補助溝47と同様の複数本のスリット51を格子状に配して切り込み形成したものである。
【0033】
ローレット溝50は詳細には、嵌合溝43の軸線に対し素線13の撚り角度b(
図4参照)に略等しい角度で交差する斜め姿勢をなす複数本のスリット51を所定ピッチで列設した第1スリット群52Pと、同第1スリット群52Pのスリット51と直交する姿勢の複数本のスリット51を同ピッチで列設した第2スリット群52Qとを合わせて、上記のように格子状に形成されている。
【0034】
実施形態3では、被覆電線11の芯線12が嵌合溝43内に圧潰されつつ嵌合された場合に、芯線12を構成する素線13の長い領域が第1スリット群52Pを構成するスリット51の溝縁に係止されるとともに、これと直交した第2スリット群52Qのスリット51の溝縁が素線13に食い込むエッジ効果を生むことにより、溶接ホーン40Yと被覆電線11の芯線12との間の滑り止め機能を有効に発揮することができる。
【0035】
<他の実施形態>
本明細書で開示される技術は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も含まれる。
(1)端子としては上記実施形態に例示したバスバーに限らず、相手の端子等と接続される端子接続部の後方に平板状の電線接続部を設けた構造の端子であってもよい。
(2)上記実施形態では、被覆電線の端末において露出した芯線を超音波溶接する場合を例示したが、被覆電線の長さ方向の途中位置において露出した芯線を超音波溶接する場合にも、同様に適用可能である。
【0036】
(3)上記実施形態では、芯線が7本の素線を寄り合わせて形成されているものを例示したが、寄り合わせる素線の本数は任意の複数本であってよい。
(4)電線には、絶縁被覆を備えない裸撚り線も含まれる。
(5)溶接ホーンの嵌合溝の底面に形成される滑り止め溝の幅は、芯線を構成する素線が略緊密に嵌る幅を最大とし、それよりも狭い任意の幅寸法に設定してもよい。また、滑り止め溝の数や間隔も、芯線を構成する素線の直径等の条件に応じて適宜に設定し得る。
【0037】
(6)
参考例として、電線の芯線は、撚り線に限らず、単芯線や、複数の金属素線を直線状のまま束ねたストレート線であってもよい。単芯線やストレート線についても、滑り止め溝が、嵌合溝の軸線に対して交差する斜め姿勢をなして形成されている限り、滑り止め溝の溝縁が芯線の外周の長い領域に亘って係止することになり、高い滑り止め機能が発揮される。