特許第6646906号(P6646906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6646906タンパク質、核酸、組み換えベクター、形質転換体、及びジメチルジセレニドの製造方法
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  • 特許6646906-タンパク質、核酸、組み換えベクター、形質転換体、及びジメチルジセレニドの製造方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646906
(24)【登録日】2020年1月16日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】タンパク質、核酸、組み換えベクター、形質転換体、及びジメチルジセレニドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/02 20060101AFI20200203BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20200203BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20200203BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20200203BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20200203BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20200203BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20200203BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20200203BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20200203BHJP
   C12P 3/00 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   C12N9/02ZNA
   C12N9/10
   C12N15/53
   C12N15/54
   C12N15/31
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P3/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-243298(P2015-243298)
(22)【出願日】2015年12月14日
(65)【公開番号】特開2017-108640(P2017-108640A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】山下 光雄
【審査官】 中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−142166(JP,A)
【文献】 特許第6011980(JP,B2)
【文献】 山下 光雄,「3S-Ca03 微生物培養による廃水や廃棄物からのレアメタル回収技術」,日本生物工学会大会講演要旨集, 2015, vol. 67, p. 345 (3S-Ca03)
【文献】 Kagami T., et al., 'Effective selenium volatilization under aerobic conditions and recovery from the aqueous phase by Pseudomonas stutzeri NT-I.',Water Res., 2013 Mar 1 (Epub 2012 Dec 12.), vol. 47, no. 3, pp. 1361-1368.
【文献】 Dungan R. S., et al., 'Transformations of selenate and selenite by Stenotrophomonas maltophilia isolated from a seleniferous agricultural drainage pond sediment.',Environ Microbiol., 2003 Apr, vol. 5, no. 4, pp. 287-295.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00−9/99
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq/UniProt
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)から選ばれるいずれか1種のタンパク質:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1において1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質、
(c)配列番号1のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質。
【請求項2】
下記(d)〜(f)から選ばれるいずれか1種の核酸:
(d)配列番号2の塩基配列からなる核酸、
(e)配列番号2において1個又は数個の塩基が置換、欠失、又は付加された塩基配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質をコードする核酸、
(f)配列番号2の塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質をコードする核酸。
【請求項3】
請求項2に記載の核酸を含む組み換えベクター。
【請求項4】
請求項3に記載の組み換えベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項5】
請求項1に記載のタンパク質又は請求項4に記載の形質転換体を用いて元素態セレンをジメチルジセレニドに変換することを含むジメチルジセレニドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質、該タンパク質をコードする核酸、該核酸を含む組み換えベクター、該組み換えベクターで形質転換された形質転換体、及びジメチルジセレニドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微量金属(レアメタル)の一種であるセレンは、ガラス又はセラミックの着色剤として使用されるほか、太陽電池等の幅広い用途で使用されており、その供給源の確保は重要である。その一方で、水溶性セレン化合物であるセレン酸及び亜セレン酸は、生体に対して高い毒性を示すことが知られており、厳しい排水基準が設定されている。
【0003】
現在、工場等から排出されるセレン含有排水は、主に物理化学的手法によって処理されている。例えば、排水中に含まれる亜セレン酸は、鉄系凝集剤を用いた凝集沈殿法により、水中から沈殿除去することができる。セレン酸は亜セレン酸よりも沈殿し難いが、電気還元等により亜セレン酸に還元することで、同様に沈殿除去することができる。
【0004】
しかし、凝集沈殿法により水溶性セレン化合物の排水基準を満たすことは、コストの点から負担が大きい。しかも、凝集沈殿法により生成する沈殿物中のセレン含有率は低いため、沈殿物をセレンの供給源として利用することは困難である。近年日本では、生産量の5%に相当する約40000kgのセレンが再資源化されずに廃棄又は排出されている。
【0005】
このような背景から、排水等に含まれる水溶性セレン化合物を処理する方法として、微生物のセレン代謝を利用する方法が提案されている。
【0006】
例えば、金属精錬工場の排水溝から単離された好気性のグラム陰性細菌であるPseudomonas stutzeri NT-I株(NITE P-685)は、セレン酸を亜セレン酸に還元し、亜セレン酸を元素態セレンに還元し、元素態セレンを揮発性セレン化合物であるジメチルジセレニドに変換する能力を有することが知られている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。このPseudomonas stutzeri NT-I株を利用することで、水溶性セレン化合物をジメチルジセレニドに変換して回収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−142166号公報
【特許文献2】国際公開第2012/127716号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kagami, T et al., Water Research, 47, 1361-1368 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、水溶性セレン化合物からジメチルジセレニドへの変換をより効率的に行うためには、処理条件の検討及び設備の開発に加えて、Pseudomonas stutzeri NT-I株における水溶性セレン化合物からジメチルジセレニドへの変換に関与する分子機構を明らかにする必要がある。これまでのところ、水溶性セレン化合物から元素態セレンへの変換に関与する分子機構は概ね明らかになっているが(例えば、特許文献2参照)、元素態セレンからジメチルジセレニドへの変換に関与する分子機構は未だ明らかになっていない。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質、該タンパク質をコードする核酸、該核酸を含む組み換えベクター、該組み換えベクターで形質転換された形質転換体、及びジメチルジセレニドの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 下記(a)〜(c)から選ばれるいずれか1種のタンパク質:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1において1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質、
(c)配列番号1のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質。
【0012】
<2> 下記(d)〜(f)から選ばれるいずれか1種の核酸:
(d)配列番号2の塩基配列からなる核酸、
(e)配列番号2において1個又は数個の塩基が置換、欠失、又は付加された塩基配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質をコードする核酸、
(f)配列番号2の塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質をコードする核酸。
【0013】
<3> <2>に記載の核酸を含む組み換えベクター。
<4> <3>に記載の組み換えベクターで形質転換された形質転換体。
<5> <1>に記載のタンパク質又は<4>に記載の形質転換体を用いて元素態セレンをジメチルジセレニドに変換することを含むジメチルジセレニドの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質、該タンパク質をコードする核酸、該核酸を含む組み換えベクター、該組み換えベクターで形質転換された形質転換体、及びジメチルジセレニドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)は、配列番号2の塩基配列からなる核酸を導入した大腸菌DH5α MEを培養した場合における亜セレン酸、不溶性セレン、及び可溶性未知セレンの濃度変化を示す図であり、(B)は、ネガティブコントロールである大腸菌DH5α pGEMを培養した場合における亜セレン酸、不溶性セレン、及び可溶性未知セレンの濃度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本明細書において「元素態セレン」とは、他の元素と化合物を形成していない元素の形態のセレンを指す。
【0018】
<タンパク質>
本実施形態のタンパク質は、下記(a)〜(c)から選ばれるいずれか1種である。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号1において1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質。
(c)配列番号1のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質。
【0019】
上記(a)のタンパク質は、Pseudomonas stutzeri NT-I株から見出されたものであり、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有する。配列番号1のアミノ酸配列を下記の表1に示す(アミノ酸は一文字表記)。
【0020】
【表1】
【0021】
SOSUI-GramNプログラム(http://harrier.nagahama-i-bio.ac.jp/sosui/sosuigramn/sosuigramn_submit.html)を用いた予測によれば、上記(a)のタンパク質は、Pseudomonas stutzeri NT-I株の細胞質内に局在する水溶性タンパク質であると考えられる。また、ExPASyプログラム(http://web.expasy.org/protparam/)を用いた予測によれば、上記(a)のタンパク質の等電点は4.96であると考えられる。
従来、配列番号1と類似したアミノ酸配列を有するタンパク質の中で、セレンのメチル化に関与するタンパク質は知られていない。NCBI(米国立バイオテクノロジー情報センター)の提供するBLASTプログラム(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi)を使用して配列番号1のアミノ酸配列の配列同一性を検索した結果を下記の表2に示す。
【0022】
【表2】
【0023】
上記(b)のタンパク質は、配列番号1において1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質である。
置換、欠失、又は付加されるアミノ酸残基の数は、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性が維持される限り特に制限されない。置換、欠失、又は付加されるアミノ酸残基の数は、例えば、1個〜20個であってもよく、1個〜10個であってもよく、1個〜5個であってもよく、1個〜3個であってもよい。
【0024】
任意のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換する場合、置換前後でアミノ酸側鎖の性質が保存されていることが望ましい。アミノ酸側鎖の性質によってアミノ酸を分類する場合、例えば、親水性アミノ酸(D、E、K、R、H、S、T、N、Q);疎水性アミノ酸(A、G、V、I、L、F、Y、W、M、C、P);酸性アミノ酸(D、E);塩基性アミノ酸(K、R、H);脂肪族側鎖を有するアミノ酸(A、G、V、I、L);芳香族基含有側鎖を有するアミノ酸(F、Y、W);硫黄含有側鎖を有するアミノ酸(M、C);等に分類することができる(括弧内のアルファベットはアミノ酸の一文字表記を示す)。
【0025】
上記(c)のタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質である。
配列番号1のアミノ酸配列に対する配列同一性は、92%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることが更に好ましい。
【0026】
<核酸>
本実施形態の核酸は、下記(d)〜(f)から選ばれるいずれか1種である。
(d)配列番号2の塩基配列からなる核酸。
(e)配列番号2において1個又は数個の塩基が置換、欠失、又は付加された塩基配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質をコードする核酸。
(f)配列番号2の塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質をコードする核酸。
【0027】
上記(d)の核酸は、Pseudomonas stutzeri NT-I株から見出されたものであり、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質をコードする。配列番号2の塩基配列を下記の表3に示す
【0028】
【表3】
【0029】
従来、配列番号2と類似した塩基配列を有する核酸の中で、セレンのメチル化に関与するタンパク質をコードする核酸は知られていない。BLASTプログラム(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi)を使用して配列番号2のアミノ酸配列の配列同一性を検索した結果を下記の表4に示す。
【0030】
【表4】
【0031】
上記(e)の核酸は、配列番号2において1個又は数個の塩基が置換、欠失、又は付加された塩基配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質をコードする核酸である。
置換、欠失、又は付加される塩基の数は、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性が維持される限り特に制限されない。置換、欠失、又は付加される塩基の数は、例えば、1個〜60個であってもよく、1個〜30個であってもよく、1個〜15個であってもよく、1個〜10個であってもよく、1個〜5個であってもよい。
【0032】
上記(f)の核酸は、配列番号2の塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、且つ、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換する活性を有するタンパク質をコードする核酸である。
配列番号2の塩基配列に対する配列同一性は、92%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることが更に好ましい。
【0033】
<組み換えベクター>
本実施形態の組み換えベクターは、本実施形態の核酸を含むものである。この組み換えベクターは、本実施形態の核酸をベクター中のプロモーターの下流に機能的に連結することにより作製することができる。
【0034】
ベクターの種類としては、プラスミドベクター、ウイルスベクター等があり、用いる宿主に応じて適宜選択することができる。プラスミドベクターとしては、大腸菌由来のプラスミドベクター、枯草菌由来のプラスミドベクター、酵母由来のプラスミドベクター等が挙げられる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、パピローマウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、SV40ベクター等が挙げられる。
【0035】
プロモーターとしては、trpプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーター、CMVプロモーター、SRαプロモーター等があり、用いる宿主に応じて適宜選択することができる。
【0036】
本実施形態の組み換えベクターは、必要に応じて、エンハンサー、スプライシングシグナル、選択マーカー等を、それぞれ機能可能な態様で含んでいてもよい。選択マーカーとしては、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0037】
<形質転換体>
本実施形態の形質転換体は、本実施形態の組み換えベクターで形質転換されたものである。組み換えベクターが導入される宿主としては、細菌、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞等がある。細菌としては、大腸菌等のエシェリヒア属菌、枯草菌等のバチルス属菌などが挙げられる。哺乳動物細胞としては、HeLa細胞、COS−7細胞、CHO細胞、CV−1細胞等が挙げられる。
宿主に組み換えベクターを導入する方法としては、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、プロトプラスト融合法、エレクトロポレーション法、DEAEデキストラン法、遺伝子銃法等が挙げられる。
【0038】
<ジメチルジセレニドの製造方法>
本実施形態のジメチルジセレニドの製造方法は、本実施形態のタンパク質又は本実施形態の形質転換体を用いて元素態セレンをジメチルジセレニドに変換することを含むものである。
例えば、本実施形態のタンパク質によって元素態セレンからジメチルジセレニドへの反応を触媒することにより、ジメチルジセレニドを得ることができる。
或いは、本実施形態の形質転換体を元素態セレンの存在下で培養することにより、元素態セレンをジメチルジセレニドに変換することができる。
得られたジメチルジセレニドは、ガススクラバー等により捕捉することで、再利用に供することができる。
【0039】
なお、本実施形態の形質転換体が亜セレン酸を元素態セレンに還元する活性を有する場合には、本実施形態の形質転換体を亜セレン酸の存在下で培養しても、ジメチルジセレニドを製造することができる。例えば、大腸菌は亜セレン酸を元素態セレンに還元する活性を有するため(Rebien, M. et al., Microbiology, 148, 3865-3872 (2002)を参照)、宿主が大腸菌である場合には、亜セレン酸から元素態セレンを経てジメチルジセレニドに変換することができる。
【0040】
また、本実施形態の形質転換体がセレン酸を元素態セレンに還元する活性を有する場合には、本実施形態の形質転換体をセレン酸の存在下で培養しても、ジメチルジセレニドを製造することができる。例えば、セレン酸を元素態セレンに還元する酵素遺伝子(国際公開第2012/127716号を参照)と本実施形態の核酸とを大腸菌に導入した場合、得られる形質転換体は、セレン酸から亜セレン酸及び元素態セレンを経てジメチルジセレニドに変換することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」及び「ppm」は質量基準である。
【0042】
[参考例1]
ISOPLANT(株式会社ニッポンジーン)を用いて、Pseudomonas stutzeri NT-I株のゲノムDNAを抽出した。抽出したDNAを鋳型とし、以下に示すプライマーセット及びTaKaRa La Taq(タカラバイオ株式会社)を用いて、配列番号2の塩基配列からなる核酸(以下、「ME遺伝子」ともいう。)を定法に従ってPCRにより増幅した。
フォワードプライマー:5'-GCGAGAGAGATTCTCGAC-3'(配列番号3)
リバースプライマー :5'-CTCTCCTGTTCTGAATCAGT-3'(配列番号4)
【0043】
ME遺伝子の増幅産物をpGEM-T Easyベクター(Promega社)に組み込んでpGEM-MEベクターを作製し、大腸菌Escherichia coli DH5α株を形質転換した。以下、pGEM-MEベクターを導入した大腸菌をDH5α MEとも称する。また、pGEM-MEの代わりにpGEM-T Easyベクターを導入した大腸菌をDH5α pGEMとも称する。
【0044】
[実験例1]
大腸菌DH5α ME又は大腸菌DH5α pGEMのコロニーを50mLのTSB(Tryptic Soy Broth)培地に接種し、38℃、pH7.0、撹拌速度120rpmの条件で24時間振盪培養した(前々培養)。この培養液1mLをTSB培地に植菌し、同条件で12時間培養し、前培養液とした。次いで、100mL容量のバイアル瓶中に50mLのTSB培地を加え、終濃度0.5mMとなるように亜セレン酸を添加した。更に、500μLの前培養液を添加し、38℃で好気的に培養し、経時的に培養液を採取した。
【0045】
採取した培養液は、遠心分離(15000rpm、5分間、20℃)し、上清を孔径0.2μmのフィルター(ステラディスク、クラボウ)を用いて濾過した。この濾液を培養上清測定試料原液とした。一方、遠心分離後の沈殿は、超純水により2回洗浄し、濃硝酸1mLにて完全に溶解した。この溶解液を沈殿測定試料原液とした。各測定試料原液を超純水で1/10倍、1/100倍、1/1000倍に希釈したものを測定試料とした。
【0046】
測定試料は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)(iCAP6300、Thermo Fisher Scientific社)を用いて、溶存元素の定性定量分析を行った。
また、イオンクロマトグラフ装置を用いて、測定試料中に含まれるセレン酸イオン及び亜セレン酸イオンの定性定量分析を行った。測定条件は下記のとおりである。なお、培養上清中に含まれる可溶性セレンのうちセレン酸でも亜セレン酸でもないものは、可溶性未知セレンとして分類した。
(測定条件)
測定装置:ICS-1100(Thermo Fisher Scientific社)
検出器:DS6 HEATED CONDUCTIVITY CELL
カラム:IonPac AS12A
ガードカラム:AG12A
サプレッサー:ASRS300
溶離液:3.0mM NaCO
流速:1.5mL/分
【0047】
大腸菌DH5α MEを培養した場合における亜セレン酸、不溶性セレン、及び可溶性未知セレンの濃度変化を図1(A)に示す。また、大腸菌DH5α pGEMを培養した場合における亜セレン酸、不溶性セレン、及び可溶性未知セレンの濃度変化を図1(B)に示す。
【0048】
図1(A)から分かるように、亜セレン酸の存在下で大腸菌DH5α MEを培養した場合には、亜セレン酸が元素態セレンへと還元されることにより、時間経過に従って亜セレン酸が減少し、不溶性セレンの濃度が増加した。しかし、更に時間が経過すると元素態セレンの濃度が減少し、336時間の培養後にはセレンの総濃度が約0.3mMにまで減少した。セレンの当初濃度(0.5mM)との差は、揮発性セレン化合物が生成したためと考えられる。
一方、図1(B)から分かるように、亜セレン酸の存在下で大腸菌DH5α pGEMを培養した場合にも、亜セレン酸が元素態セレンへと還元されることにより、時間経過に従って亜セレン酸が減少し、不溶性セレンの濃度が増加した。しかし、更に時間が経過しても元素態セレンの濃度は減少しなかった。
【0049】
[実験例2]
実験に先立ち、文献の方法(M. Yamashita et al., Journal of Japan Society on Water Environment, 37, 66 (2014))を参考にしてバイオセレン(元素態セレンを含有する菌体乾燥物)を調製した。具体的には、5mMのセレン酸を含むTSB培地でPseudomonas stutzeri NT-I株を培養し、Pseudomonas stutzeri NT-I株によってセレン酸を元素態セレンにまで還元した。次いで、Pseudomonas stutzeri NT-I株の菌体を含んだ元素態セレンを回収し、70体積%エタノール水溶液で洗浄し、40℃で乾燥させることにより、セレン含有率が20%のバイオセレンを得た。
【0050】
大腸菌DH5α ME、大腸菌DH5α pGEM、又はPseudomonas stutzeri NT-I株のコロニーを50mLのTSB培地に接種し、38℃、pH7.0、撹拌速度120rpmの条件で24時間振盪培養した(前々培養)。次いで、培養液から遠心分離(5000rpm、20分間、4℃)にて菌体を得た。菌体を生理食塩水で2回洗浄し、波長660nmにおける光学濃度が1となるように菌体を生理食塩水で再懸濁し、前培養液とした。次いで、100mL容量のバイアル瓶中に10mLのTSB培地を加え、バイオセレンについては終濃度1000ppm又は100ppmとなるように、亜セレン酸については終濃度40ppmとなるようにそれぞれ添加した。更に、100μLの前培養液を添加してブチルゴムで栓をし、38℃で12時間培養した。
【0051】
培養12時間後にマイクロシリンジを用いて気相試料を採取し、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)を用いて気相成分の定性分析を行った。測定条件は下記のとおりである。
(測定条件)
測定装置:FocusGC DSQII(Thermo Fisher Scientific社)
GCカラム:DB-624(アジレントテクノロジー株式会社、長さ30m、内径0.25mm、樹脂厚1.4μm)
測定:スプリットレスモード
ヘリウムガス流量:1.0mL/分
昇温プログラム:40℃で5分間保持、10℃/分の速度で130℃まで昇温、130℃から240℃まで20℃/分で昇温、240℃で1.5分間保持
試料注入量:250μL
【0052】
気相成分の定性分析の結果、気相試料中に含まれる揮発性セレン化合物はジメチルジセレニドであった。
バイオセレン又は亜セレン酸の存在下で大腸菌DH5α ME又は大腸菌DH5α pGEMを培養した場合における気相試料中のジメチルジセレニドの量を下記の表5に示す。表5は、1000ppmのバイオセレンの存在下でPseudomonas stutzeri NT-I株を培養した場合における気相試料中のジメチルジセレニドの量を100とした相対値で示したものである。
【0053】
【表5】
【0054】
表5から分かるように、バイオセレン又は亜セレン酸の存在下で大腸菌DH5α MEを培養した場合には、大腸菌DH5αpGEMを培養した場合と比較し、気相試料中に含まれるジメチルジセレニドの量が顕著に増加した。特に、1000ppmのバイオセレンの存在下で大腸菌DH5α MEを培養した結果から分かるように、大腸菌DH5α MEのジメチルジセレニドの生成能力はPseudomonas stutzeri NT-I株よりも高かった。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]