特許第6646960号(P6646960)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6646960中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法及びこの方法により製造された中性子遮蔽用コンクリート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646960
(24)【登録日】2020年1月16日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法及びこの方法により製造された中性子遮蔽用コンクリート
(51)【国際特許分類】
   G21F 1/04 20060101AFI20200203BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20200203BHJP
   C04B 14/36 20060101ALI20200203BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20200203BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   G21F1/04
   C04B28/02
   C04B14/36
   C04B22/08 A
   C04B40/02
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-137646(P2015-137646)
(22)【出願日】2015年7月9日
(65)【公開番号】特開2017-20857(P2017-20857A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 好幸
(72)【発明者】
【氏名】奥野 功一
【審査官】 村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−039453(JP,A)
【文献】 特開2014−125375(JP,A)
【文献】 特開2014−148434(JP,A)
【文献】 特開2015−024948(JP,A)
【文献】 特開2012−127725(JP,A)
【文献】 特開2002−249386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F1/04
G21F9/30
C04B2/00−32/02;40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素含有骨材を含む中性子遮蔽用コンクリートを製造する工程でコンクリートの硬化遅延を改善する中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法であって、
コンクリートを養生する過程で、
(1)コンクリートにカルシウムシリケート水和物の化合物を添加する、
(2)コンクリートの養生温度を所定の温度範囲に制御しつつ、コンクリートにカルシウムシリケート水和物の化合物を添加する、
上記(1)又は(2)のいずれかにより、コンクリートの水和反応を促進する、
ことを特徴とする中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法。
【請求項2】
ホウ素含有骨材はコンクリート全体量に対して5〜10重量%の割合で含有する請求項1に記載の中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法。
【請求項3】
コンクリートの養生温度の制御はコンクリートを給熱手段により給熱して行う請求項1又は2に記載の中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法。
【請求項4】
コンクリートの養生温度は、コンクリート表面のコテ仕上げが完了するまでは20℃〜40℃の温度範囲とし、コテ仕上げを完了した後は40℃〜80℃の温度範囲とする請求項1乃至3のいずれかに記載の中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法。
【請求項5】
カルシウムシリケート水和物の添加量は、ホウ素含有骨材の置換率に応じて、ホウ素含有骨材を含まない一般的なコンクリートと略同等の凝結時間を確保するのに必要な量とする請求項1乃至4のいずれかに記載の中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法。
【請求項6】
上記請求項1乃至5のいずれかに記載の中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法により製造された中性子遮蔽用コンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所や再処理施設などの原子力施設、放射線治療を行う医療施設、放射線を用いる研究施設など、中性子やガンマ線が発生する施設でその遮蔽に使用する中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法及びこの方法により製造された中性子遮蔽用コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、透過性の高い中性子線を遮蔽するコンクリート壁として、ホウ素や水素を含有する中性子遮蔽用コンクリートが開発され、この種の中性子遮蔽用コンクリートが特許文献1、2などにより提案されている。
【0003】
特許文献1の中性子遮蔽用コンクリートは、コレマナイトなどのホウ素含有骨材と、鉱油等の油に該油を乳化する界面活性剤が混和された油混和剤が、それぞれ所定の割合で混和されたもので、このような構成により十分な圧縮強度を持たせ、耐久性の向上を図っている。ところが、このコンクリートに用いられるコレマナイトは、優れた中性子遮蔽能を有するものの、コンクリート中に多く配合すると、コンクリートに所望の強度が得られないという不具合があり、所望の中性子遮蔽能と強度との両立に関しては問題があった。
【0004】
この問題を解決するために、本願出願人により新たな中性子遮蔽用コンクリートが提案され、これが特許文献2により開示されている。
この文献2の中性子遮蔽用コンクリートは、粗骨材としてかんらん岩採石を含み、細骨材としてかんらん岩砕砂及び灰ホウ石を含み、且つ灰ホウ石の含有割合を、コンクリート全量基準で5〜20重量%としたもので、このような構成により普通骨材を用いたコンクリートと同程度の圧縮強度を得て、優れた中性子遮蔽能を発揮することができ、強度と中性子遮蔽能とを両立した中性子遮蔽用コンクリートとして実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6− 1645号公報
【特許文献2】特許第4532447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の中性子遮蔽用コンクリートでは、次のような問題がある。
(1)長期の強度を確保できるとしても、製造段階でホウ素を含んだ特殊骨材の影響により、コンクリートが硬化するまでに要する時間が著しく遅延する。
(2)従来からコンクリートの硬化遅延対策として、例えば亜硝酸化合物などの無機系化合物が硬化促進剤として用いられるが、ホウ素含有コンクリートでは明確な硬化促進の効果が期待できない。
(3)プレキャストコンクリート工場などで遮蔽体を製作するに当たり、コンクリートの硬化遅延により、普通コンクリートに比べて中性子遮蔽用コンクリートの生産性が劣る。
【0007】
本発明は、上記従来の問題を解決するもので、この種の中性子遮蔽用コンクリートの製造に関し、コンクリートの硬化遅延を改善し、ホウ素含有素材を含まない一般的なコンクリートと略同等の生産性を確保することのできる中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法及びこの方法により製造された中性子遮蔽用コンクリートを提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、
ホウ素含有骨材を含む中性子遮蔽用コンクリートを製造する工程でコンクリートの硬化遅延を改善する中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法であって、
コンクリートを養生する過程で、
(1)コンクリートにカルシウムシリケート水和物の化合物を添加する、
(2)コンクリートの養生温度を所定の温度範囲に制御しつつ、コンクリートにカルシウムシリケート水和物の化合物を添加する、
上記(1)又は(2)のいずれかにより、コンクリートの水和反応を促進する、
ことを要旨とする。
また、この硬化遅延改善方法はさらに次の(イ)−(ニ)を採用することが好ましい。
(イ)ホウ素含有骨材はコンクリート全体量に対して5〜10重量%の割合で含有する。
(ロ)コンクリートの養生温度の制御はコンクリートを給熱手段により給熱して行う。
(ハ)コンクリートの養生温度は、コンクリート表面のコテ仕上げが完了するまでは20℃〜40℃の温度範囲とし、コテ仕上げを完了した後は40℃〜80℃の温度範囲とする。
(ニ)カルシウムシリケート水和物の添加量は、ホウ素含有骨材の置換率に応じて、ホウ素含有骨材を含まない一般的なコンクリートと略同等の凝結時間を確保するのに必要な量とする。
【0009】
また、本発明の中性子遮蔽用コンクリートは、上記中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法により製造された、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法によれば、コンクリートを養生する過程で、コンクリートにカルシウムシリケート水和物の化合物を添加することにより、又はコンクリートの養生温度を所定の温度範囲に制御しつつ、コンクリートにカルシウムシリケート水和物の化合物を添加することにより、コンクリートの水和反応を促進するようにしたので、コンクリートの硬化遅延を改善し、ホウ素含有素材を含まない一般的なコンクリートと略同等の生産性を確保することができる、という本発明独自の格別な効果を奏する。
また、本発明の中性子遮蔽用コンクリートによれば、特許文献2の中性子遮蔽用コンクリートと略同等の作用効果を有し、しかも、ホウ素含有素材を含まない一般的なコンクリートと略同等の生産性を確保することができる、という本発明独自の顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態による中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法を示す図
図2】同方法によるコンクリートの硬化遅延改善効果として、特に、ホウ素含有骨材の置換率、養生温度と、ホウ素含有コンクリートの凝結時間の関係を示す図
図3】同方法によるコンクリートの硬化遅延改善効果として、特に、C−S−H化合物の添加量とホウ素含有コンクリートの凝結時間の関係を示す図
図4】同方法によるコンクリートの中性子遮蔽性能の試験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明を実施するための形態について説明する。
まず、この発明の適用対象として本願出願人により特許文献2により提案された中性子遮蔽用コンクリートについて説明する。なお、この説明は特許文献2からの抜粋である。
【0013】
この中性子遮蔽用コンクリートは、セメント、水、粗骨材及び細骨材を含むものであって、粗骨材としてかんらん岩採石を含み、細骨材としてかんらん岩砕砂及び灰ホウ石を含み、且つ灰ホウ石の含有割合が、コンクリート全量基準で5〜20重量%である。
セメントとしては、通常、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント等を用いることができる。
この中性子遮蔽用コンクリートにおいて、セメントの使用量や、水/セメント比は、通常のコンクリート製造時の条件に基づいて、建設する施設に応じて適宜選択することができる。また、骨材量も同様に適宜選択することができる。
【0014】
粗骨材として用いるかんらん岩砕石は、通常、25mm篩を通過しうる、最短径5mm程度の砕石である。かんらん岩(Olivine rock)はその産地により、その成分組成が多少異なるが、通常、SiO2とMgOとを主成分とし、結晶水を約1〜2重量%含むものである。なお、粗骨材としては、かんらん岩砕石以外の他の通常の粗骨材等を含有させることも可能である。粗骨材の含有割合は適宜選択することができるが、コンクリート全量基準で、通常、40〜45重量%、好ましくは41〜42重量%である。
【0015】
細骨材として用いるかんらん岩砕砂は、通常、10mmの篩を通過しうる大きさの粒径を有する砕砂であることがコンクリートへの分散性の点で好ましい。
かんらん岩砕砂の配合割合は、所望の効果を勘案して適宜選択することができるが、コンクリート全量基準で、通常17〜36重量%、好ましくは17〜26重量%である。36重量%を超えると、所望の中性子遮蔽能が低下する恐れがあり、一方、17重量%未満では、所望の強度を確保することができない恐れがある。
【0016】
細骨材として用いる灰ホウ石は、2CaO・3B2O3・5H2Oを主成分として、好ましくはB2O3を43.49重量%以上含む鉱物である。灰ホウ石は、通常、10mmの篩を通過する粒径、好ましくは5mmの篩を通過する粒径を有する、粒子であることが、所望の中性子遮蔽能及び強度を得るために好ましい。灰ホウ石の含有割合は、コンクリート全量基準で5〜20重量%、好ましくは10〜18重量%程度であり、更には、骨材全量基準において0.4〜22重量%の条件をも充足することが所望の効果をより改善しうる点で好ましい。コンクリート全量に対する灰ホウ石の含有割合が、5重量%未満では所望の中性子遮蔽能が得られず、一方、20重量%を超える場合には、所望の強度が得られない。
【0017】
この中性子遮蔽用コンクリートにおいて、優れた圧縮強度と中性子遮蔽能とを両立できる理由は、以下の作用によるものと考えられる。
一般に、放射線の中でも中性子と物質の相互作用は複雑で、中性子のエネルギーの違いによって相互作用が変化する。中性子のエネルギーは、0keV〜1keVの低速中性子、1keV〜500keVの中速中性子及び500keV〜1MeVの高速中性子に分けられる。
中性子の相互作用には、大まかに弾性散乱と非弾性散乱とがあり、弾性散乱は、低速中性子及び中速中性子が引き起こすもので、水素のような軽い原子核との相互作用により中性子のエネルギーが減少する。特に、水素原子は中性子と同じ質量なので、効率よく中性子のエネルギーを減少させることができる。一方、非弾性散乱は、高速中性子に起こる現象で、鉄等との相互作用により中性子のエネルギーが減少する。
かんらん岩は、水分を多く含むので、水分における水素原子と中性子とが弾性散乱を起こし、低速及び中速中性子が減速される。また、岩石であるために鉄分も含まれており、鉄により高速中性子の減速効果も得られる。
【0018】
灰ほう石は、天然の岩石であり、平均40重量%以上のホウ素成分を含んでいる。ホウ素は、低速中性子を吸収する特性を持っていることが従来から知られており、原子力発電所の原子炉制御棒にも用いられている材料である。
従って、この中性子遮蔽用コンクリートにおいては、かんらん岩によって減速された中性子が灰ホウ石のホウ素に吸収されることで、効率良く中性子を遮蔽することができる。そして、このような効率的な中性子遮蔽能が得られるので、強度低下の原因となる細骨材としての灰ホウ石の含有割合を高くしなくても所望の中性子遮蔽能を達成でき、強度低下を最小限に抑えることができる。しかも、かんらん岩を粗骨材にも用いることでより強度低下が抑制できる。以上の作用により、所望の効果が達成できるものと考えられる。
【0019】
この中性子遮蔽用コンクリートは、通常のコンクリートと同様な方法により製造することができるので、現場においても容易に施工することが可能である。この際、必要に応じて、コンクリートに通常使用される各種添加剤や混和剤等を適宜選択して用いることもできる。
【0020】
この中性子遮蔽用コンクリートは、粗骨材としてかんらん岩採石を含み、細骨材としてかんらん岩砕砂及び灰ホウ石を含み、且つ灰ホウ石を特定割合で含有するので、普通骨材を用いたコンクリートと同程度の圧縮強度を示し、且つ優れた中性子遮蔽能を発揮することができる。例えば、被曝線量評価において重要なエネルギー領域の中性子を出す252Cf中性子源で評価した場合、同一壁厚の普通コンクリートに比べて、遮蔽対象となる中性子のエネルギーや、コンクリートの厚さによって性能差は異なるが、約1.5〜1.7倍の遮蔽能を発揮することができ、また2次ガンマ線生成量で、約1/2〜1/10より少ない性能を発揮させることが可能である。
【0021】
さて、この特許文献2の中性子遮蔽用コンクリートは、ホウ素含有骨材の置換率が増えるほど良好な遮蔽性能が得られる傾向を示すが、他面で、コンクリートの製造段階ではホウ素の影響によりコンクリートの硬化時間が一般的なコンクリートに比べて遅延し、一般的なコンクリートよりも生産性が低下することが分かっている。
図1にこの中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法を示す。
【0022】
図1に示すように、この中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法は、ホウ素含有骨材を含む中性子遮蔽用コンクリートを製造する工程でコンクリートの硬化遅延を改善するもので、この方法では、特に、コンクリートを養生する過程で、コンクリートの養生温度を所定の温度範囲に制御しつつ、コンクリートにカルシウムシリケート水和物の化合物を添加するものであり、次の3つのステップを有する。
【0023】
(ステップ1)中性子遮蔽用コンクリートの最適なホウ素含有骨材置換率の選定
まず、中性子遮蔽用コンクリートに必要とされる遮蔽性能やコンクリート厚さの制限など、中性子遮蔽用コンクリートに要求される品質に応じて中性子遮蔽用コンクリートの最適なホウ素含有骨材の置換率をシミュレーション解析などにより選定する。ホウ素含有骨材の置換率と硬化時間の遅延は比例関係にあるが、その一方で遮蔽性能は比例関係になく、一定量以上置換しても効果的に遮蔽性能は増加しない。このため、この方法では、中性子遮蔽用コンクリートに要求される遮蔽性能に応じて適切なホウ素含有骨材置換率を5〜10%の範囲において選定することによって、遮蔽性能の向上と生産性の向上の両立を図る。
【0024】
(ステップ2)養生温度の制御
次に、このコンクリートを養生する過程で、コンクリートの養生温度を給熱手段などを使って給熱により制御する。この場合、プレキャストコンクリート工場などの一般的な設備で対応可能な蒸気養生などにより、養生温度を制御し、コンクリートの養生温度を、コンクリート表面のコテ仕上げが完了するまでは20℃〜40℃の温度範囲とし、コテ仕上げを完了した後は40℃〜80℃の温度範囲とし、所定の強度が得られるまで養生することが好ましい。これにより効果的な硬化遅延の改善効果が期待できる。
【0025】
(ステップ3)カルシウムシリケート水和物(C−S−H)の化合物の添加
そして、ステップ2の養生温度の制御と合せて、コンクリートにカルシウムシリケート水和物(C−S−H)の化合物を添加する。このカルシウムシリケート水和物の化合物は従来の硬化促進剤とはまったく異なるメカニズムで一般的なコンクリートの硬化を促進させるものとして浸透しつつあるが、このカルシウムシリケート水和物の化合物をホウ素含有骨材を含む中性子遮蔽用コンクリートの養生の過程で添加することにより、ホウ素含有骨材の置換率によらずコンクリートの凝結時間が早くなることが、本願発明者らの実験により確認されている(図3参照)。この場合、カルシウムシリケート水和物の化合物の添加量は、ホウ素含有骨材置換率に応じて、一般的なコンクリートと略同等の生産性能を確保するのに必要な量であればよい。
【0026】
このようにこの方法では、コンクリートを養生する過程で、コンクリートの養生温度を所定の温度範囲に制御しつつ、コンクリートにカルシウムシリケート水和物の化合物を添加することによって、コンクリートの水和反応を促進し、コンクリートの硬化遅延を改善する。この方法により、中性子遮蔽用コンクリートは略従前通りの中性子遮蔽性能(特許文献2の中性子遮蔽用コンクリートと略同等の性能)を確保したまま、一般的なコンクリートと略同等の生産性を実現することができる。
【0027】
本願発明者らは、この中性子遮蔽用コンクリートの養生温度の制御及びカルシウムシリケート水和物の化合物の添加による硬化遅延改善効果を実験により確認した。その結果を図2図3に示す。
図2はホウ素含有骨材の置換率、養生温度と、ホウ素含有コンクリートの凝結時間の関係を示す。図2に示すように、中性子遮蔽用コンクリートのホウ素含有骨材の置換率が増えるほど、コンクリートの凝結の始発時間は遅くなること、中性子遮蔽用コンクリートの養生温度が高くなるほど、コンクリートの凝結の始発時間は早くなることが確認された。
図3はC−S−H化合物の添加量とホウ素含有コンクリートの凝結時間の関係を示す。図3に示すように、ホウ素含有骨材の置換率によらず、C−S−H化合物の添加量が多くなるほど凝結時間が早くなることが確認された。
また、本願発明者らは、ホウ素含有骨材置換率10%の従来品(特許文献2の発明)とホウ素含有骨材置換率5%の改良品(本発明)の中性子による被ばく量を100分の1に減衰させるために必要なコンクリートの厚さを実験により確認した。その結果を図4に示す。図4に示すように、従来品では38cm、改良品では41.5cmとなり、その差異は僅かに3.5cmにとどまることが確認された。この差異による建築設計計画上の影響はほとんどないと言ってよい。
【0028】
以上の実験結果から明らかなように、この中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法では、中性子遮蔽用コンクリートのホウ素含有骨材使用量に応じて、養生温度やカルシウムシリケート水和物の化合物の添加量を効果的に組み合わせることで、中性子遮蔽用コンクリートに要求される遮蔽性能と生産性に応じた自由な調合設計が可能となる。
そして、このコンクリートの硬化遅延の改善と骨材量の最適化の実施により、プレキャストコンクリート工場での型枠転用回数を従来の2倍以上にすることができ、これにより、従来品から約5%のコストダウンを実現することができる。また、この最適化により遮蔽に必要なコンクリート厚さが若干増加するものの、その幅は従来品と比べて最大でプラス3.5cmにとどまり、施設設計において計画に対する影響はほとんどない。
【0029】
以上説明したように、この中性子遮蔽用コンクリートの硬化遅延改善方法では、コンクリートの製造の段階で、コンクリートを養生する過程において、コンクリートの養生温度を所定の温度範囲に制御しつつ、コンクリートにカルシウムシリケート水和物の化合物を添加することにより、コンクリートの水和反応を促進するようにしたので、コンクリートの硬化遅延を改善し、ホウ素含有素材を含まない一般的なコンクリートと略同等の生産性を確保することができる。
また、この場合、中性子遮蔽用コンクリートに要求される遮蔽性能に応じて最適なホウ素含有骨材置換率を5〜10%の範囲において選定するので、遮蔽性能の向上と生産性の向上の両立を図ることができる。
そして、このような方法により製造された中性子遮蔽用コンクリートは、特許文献2の中性子遮蔽用コンクリートと略同等の作用効果を有し、しかも、ホウ素含有素材を含まない一般的なコンクリートと略同等の生産性を有するものとなる。
【0030】
なお、この実施の形態では、コンクリートを養生する過程で、コンクリートの養生温度を所定の温度範囲に制御しつつ、コンクリートにカルシウムシリケート水和物の化合物を添加することにより、コンクリートの水和反応を促進するものとしたが、コンクリートの養生温度を所定の温度範囲に制御すること、又はコンクリートにカルシウムシリケート水和物の化合物を添加することのいずれかのみによって、コンクリートの水和反応を促進するようにしてもよく、このようにしても両者の有効な組み合わせによる作用効果に劣後するものの概ねそれと同様の作用効果を得ることができる。
また、この実施の形態では、この発明の適用対象として特許文献2の中性子遮蔽用コンクリートを例示したが、ホウ素含有骨材を含む中性子遮蔽用コンクリートについて、この発明を同様に適用して同様の作用効果を奏することができる。
図1
図2
図3
図4