特許第6646987号(P6646987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646987
(24)【登録日】2020年1月16日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】眼内レンズ挿入器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20200203BHJP
【FI】
   A61F2/16
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-182569(P2015-182569)
(22)【出願日】2015年9月16日
(65)【公開番号】特開2017-55940(P2017-55940A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 和徳
【審査官】 寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/125905(WO,A1)
【文献】 特開2014−140711(JP,A)
【文献】 特開2010−273986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部と当該光学部から延在する一対の支持部とを有する眼内レンズを眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具であって、
前記眼内レンズが設置されるレンズ設置部が設けられた挿入器具本体と、
前記一対の支持部のうち前記レンズ設置部の前方に配置される前方支持部の先端部を保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記前方支持部に対して前記光学部を相対的に下方に変位させる変位機構と、
前記挿入器具本体の中心軸方向に移動することにより前記レンズ設置部から前記眼内レンズを押し出す押出部材と、
を備え、
前記変位機構は、前記押出部材によって前記眼内レンズを押し出す際に、前記保持部の下を通過するように前記光学部をガイドするガイド機構を備え、
前記ガイド機構は、水平面に対して傾斜する状態で前記保持部の下面に形成された第1ガイド部と、この第1ガイド部に対向する位置に当該第1ガイド部と同じ向きに傾斜する状態で形成された第2ガイド部とを含む
ことを特徴とする眼内レンズ挿入器具。
【請求項2】
光学部と当該光学部から延在する一対の支持部とを有する眼内レンズを眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具であって、
前記眼内レンズが無負荷状態で設置されるレンズ設置部が設けられた挿入器具本体と、
前記一対の支持部のうち前記レンズ設置部の前方に配置される前方支持部の先端部を保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記前方支持部に対して前記光学部を相対的に下方に変位させる変位機構と、
前記挿入器具本体の中心軸方向に移動することにより、前記レンズ設置部から、無負荷状態で設置された前記眼内レンズを押し出す押出部材と、
を備え、
前記変位機構は、無負荷状態で設置された前記眼内レンズを前記押出部材によって押し出す際に、前記保持部の下を通過するように前記光学部をガイドするガイド機構を備える
ことを特徴とする眼内レンズ挿入器具。
【請求項3】
前記ガイド機構は、水平面に対して傾斜する状態で前記保持部の下面に形成された第1ガイド部と、この第1ガイド部に対向する位置に当該第1ガイド部と同じ向きに傾斜する状態で形成された第2ガイド部とを含む
ことを特徴とする請求項に記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項4】
前記押出部材は、前記第2ガイド部の傾斜に沿って下方に変位しつつ前記眼内レンズを押し出すロッド部を有する
ことを特徴とする請求項1、3のいずれか1項に記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項5】
前記レンズ設置部に前記眼内レンズが予め設置されたプリロードタイプである
ことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項6】
前記保持部は、前記前方支持部の先端部を離脱可能に収容する収容部を有し、
前記押出部材に押されて前記光学部が前記保持部の下を通過するときに、前記前方支持部の先端部が前記収容部から離脱するように構成されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の眼内レンズ挿入器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズを眼内に挿入するときに用いられる眼内レンズ挿入器具に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障手術の一つとして、白く濁った水晶体を超音波乳化吸引術によって摘出し、その後で眼内に眼内レンズを挿入することが広く行われている。また近年では、眼への負担が少ない低侵襲の白内障手術を実現するために、シリコーンエラストマーや軟質アクリル等の軟性材料からなるワンピースタイプの眼内レンズを、小さく折り畳んだ状態で眼内に挿入することが行われている。ワンピースタイプの眼内レンズは、レンズ機能を果たす光学部と、この光学部から延在する一対の支持部とを有し、眼内レンズ全体が軟性材料によって構成されている。
【0003】
また、ワンピースタイプの眼内レンズを取り扱う眼内レンズ挿入器具には、できるだけ術者の眼内レンズ挿入操作性を向上させるために、一対の支持部を光学部で抱き込むように眼内レンズを折り畳む機能を備えたものがある(たとえば、特許文献1を参照)。この種の眼内レンズ挿入器具では、各々の支持部の先端部を光学部の面上に乗せた状態で、光学部を丸く折り畳む必要がある。また、従来の眼内レンズ挿入器具のなかには、眼内レンズを押し出す押出部材を備え、この押出部材によって眼内レンズを押し出すときに眼内レンズを折り畳むものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−255029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の眼内レンズ挿入器具においては、押出部材で眼内レンズを押し出すときに、支持部の先端部が光学部の縁に引っ掛かるなどして、支持部の先端部が光学部の面上にスムーズに乗らないことがあった。
【0006】
本発明の主な目的は、支持部を光学部で抱き込むように眼内レンズを折り畳むときに、支持部の先端部を光学部の面上に確実に乗せることができる眼内レンズ挿入器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(第1の態様)
本発明の第1の態様は、
光学部と当該光学部から延在する一対の支持部とを有する眼内レンズを眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具であって、
前記眼内レンズが設置されるレンズ設置部が設けられた挿入器具本体と、
前記一対の支持部のうち前記レンズ設置部の前方に配置される前方支持部の先端部を保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記前方支持部に対して前記光学部を相対的に下方に変位させる変位機構と、
を備えることを特徴とする眼内レンズ挿入器具である。
(第2の態様)
本発明の第2の態様は、
前記挿入器具本体の中心軸方向に移動することにより前記レンズ設置部から前記眼内レンズを押し出す押出部材を備え、
前記変位機構は、前記押出部材によって前記眼内レンズを押し出す際に、前記保持部の下を通過するように前記光学部をガイドするガイド機構を備える
ことを特徴とする上記第1の態様に記載の眼内レンズ挿入器具である。
(第3の態様)
本発明の第3の態様は、
前記保持部は、前記前方支持部の先端部を離脱可能に収容する収容部を有し、
前記押出部材に押されて前記光学部が前記保持部の下を通過するときに、前記前方支持部の先端部が前記収容部から離脱するように構成されている
ことを特徴とする上記第2の態様に記載の眼内レンズ挿入器具である。
(第4の態様)
本発明の第4の態様は、
前記ガイド機構は、水平面に対して傾斜する状態で前記保持部の下面に形成された第1ガイド部と、この第1ガイド部に対向する位置に当該第1ガイド部と同じ向きに傾斜する状態で形成された第2ガイド部とを含む
ことを特徴とする上記第2の態様に記載の眼内レンズ挿入器具である。
(第5の態様)
本発明の第5の態様は、
前記押出部材は、前記第2ガイド部の傾斜に沿って下方に変位しつつ前記眼内レンズを押し出すロッド部を有する
ことを特徴とする上記第4の態様に記載の眼内レンズ挿入器具である。
(第6の態様)
本発明の第6の態様は、
前記レンズ設置部に前記眼内レンズが予め設置されたプリロードタイプである
ことを特徴とする上記第1〜第5の態様のいずれか1つに記載の眼内レンズ挿入器具である。
(第7の態様)
本発明の第7の態様は、
前記レンズ設置部では、前記眼内レンズが無負荷状態で設置される
ことを特徴とする上記第1〜第6の態様のいずれか1つに記載の眼内レンズ挿入器具である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、支持部を光学部で抱き込むように眼内レンズを折り畳むときに、支持部の先端部を光学部の面上に確実に乗せることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の全体構成を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の全体構成を示す側断面図である。
図3】(A)は本発明の実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の要部構成を示す平断面図であり、(B)は当該要部構成を示す側断面図である。
図4】(A)はロッド部の進行方向に形成された突出ガイドの形状を説明する斜視図であり、(B)は突出ガイドの頂上部における断面形状を示す図であり、(C)は突出ガイドを通過するロッド部の断面形状を示す図である。
図5】(A)〜(D)は操作部の回転操作にともなう押出部材の移動の様子を時系列で示す図である。
図6】(A)〜(D)はロッド部の先端部が突出ガイドの形状にしたがって上下方向に変位する様子を時系列に示す図である。
図7】(A)は突出ガイドの頂上部における断面形状を示す斜視図であり、(B)は同正面図である。
図8】(A)は突出ガイドの頂上部における断面形状を示す斜視図であり、(B)は同正面図である。
図9】(A)〜(D)は押出部材によって押し出される眼内レンズの移動の様子を時系列で示す平断面図である。
図10】(A)〜(D)は押出部材によって押し出される眼内レンズの移動の様子を時系列で示す側断面図である。
図11】(A)〜(D)は押出部材によって押し出される眼内レンズの移動の様子を時系列で示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施形態においては、次の順序で説明を行う。
1.眼内レンズ挿入装置の構成
2.眼内レンズ挿入器具の組立方法
3.眼内レンズ挿入装置の動作
4.実施形態の効果
5.変形例等
【0011】
<1.眼内レンズ挿入装置の構成>
図1は本発明の実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の全体構成を示す斜視図であり、図2は本発明の実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の全体構成を示す側断面図である。また、図3(A)は本発明の実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の要部構成を示す平断面図であり、同図(B)は当該要部構成を示す側断面図である。
【0012】
図示した眼内レンズ挿入器具1は、ディスポーザブル(使い捨て)の製品として提供されるものであって、眼内レンズを眼内に挿入する際に用いられる。眼内レンズ挿入器具1は、大きくは、挿入器具本体2と、操作部3と、挿入筒4と、押出部材5と、を備えている。眼内レンズ挿入器具1の各部は樹脂で構成されている。眼内レンズ挿入器具1は、予め眼内レンズが設置されたプリロードタイプとなっている。プリロードタイプの眼内レンズ挿入器具1では、眼内レンズ挿入器具1を工場から出荷する段階で、後述するレンズ設置部に予め眼内レンズが設置された状態となる。
【0013】
本実施形態においては、眼内レンズ挿入器具1の各部の相対的な位置関係や動作の方向などを明確にするために、X1方向を先端側(前方)、X2方向を後端側(後方)、Y1方向を左側(左方)、Y2方向を右側(右方)、Z1方向を上側(上方)、Z2方向を下側(下方)とする。このうち、X1方向およびX2方向は、眼内レンズ挿入器具1の中心軸方向(以下、単に「中心軸方向」ともいう。)に相当し、Y1方向およびY2方向は、眼内レンズ挿入器具1の幅方向(左右方向)に相当し、Z1方向およびZ2方向は、眼内レンズ挿入器具1の高さ方向(上下方向)に相当する。また、X1方向、X2方向、Y1方向およびY2方向に平行な平面な水平面とし、これと直角をなす平面を垂直面とする。図中の符号Jは、眼内レンズ挿入器具1の中心軸を示している。
【0014】
(挿入器本体)
挿入器具本体2は、全体に筒状に形成されている。挿入器具本体2の内部には、X1方向およびX2方向への押出部材5の移動を許容する中空部が形成されている。挿入器具本体2の先端部にはレンズ設置部6が設けられている。レンズ設置部6は、挿入器具本体2の下側の外周壁から前方に突き出すように形成されている。眼内レンズ7は、このレンズ設置部6に設置されている。眼内レンズ挿入器具1の中心軸Jは、挿入器具本体2、操作部3および挿入筒4の各中心軸に一致している。
【0015】
本実施形態においては、一例として、シリコーンエラストマーや軟質アクリルなどの軟性材料からなるワンピースタイプの眼内レンズ7を取り扱うものとする。眼内レンズ7は、光学的な機能を果たす光学部8と、この光学部8の外周縁から外向きに弧状に延在する一対(2つ)の支持部9a,9bと、を有している。光学部8は、平面視円形に形成されている。一対の支持部9a,9bは、それぞれ細長い腕状に形成されている。なお、図2では眼内レンズ7の表記を省略している。
【0016】
ここで、レンズ設置部6の構成について、図3および図4を用いて詳しく説明する。
レンズ設置部6には突出ガイド11が形成されている。突出ガイド11は、レンズ設置部6の一部を上方に突出させた状態で、側面視台形状(山形)に形成されている。図4(B)は突出ガイド11の形成部位を中心軸方向(正面)から見たときの断面図である。この図から分かるように、突出ガイド11の形成部位には凹状の溝12が形成されている。突出ガイド11は、傾斜がついた上りの傾斜部11aと、傾斜がつかない頂上部11bと、傾斜部11aよりも緩やかな傾斜がついた下りの傾斜部11cと、を有している。突出ガイド11は、図4(A)に示すように、眼内レンズ挿入器具1の後端側から先端側に向かって、はじめは上りの傾斜部11aになっていて、頂上部11bを過ぎると、緩やかな下りの傾斜部11cになっている。溝12の深さが最も深くなるのは、突出ガイド11の頂上部11bであり、上記図4(B)はこの頂上部11bの断面を示している。
なお、図4(A),(B)における符号2aは、挿入器具本体2の一部を仮想的に切り出して示したものであり、挿入器具本体2の一部が図示のような形状をしているわけではない。この点は、図6図8についても同様である。
【0017】
また、レンズ設置部6には、図示しない一対の凹溝が形成されている。一対の凹溝は、挿入器具本体2のレンズ設置部6を区画する左右の側壁部に、互いに対向する状態で形成されるものである。一対の凹溝は、レンズ設置部6に眼内レンズ7を設置する際に、光学部8の外周縁の一部を嵌合することにより、光学部8の上下方向の動きを規制する。
【0018】
保持部14は、レンズ設置部6を区画する左右の側壁部のうち、左側の側壁部を部分的に突出させた状態で形成されている。保持部14の下面の一部は、傾斜面14a(図3(B)参照)となっている。保持部14の傾斜面14aは、「第1ガイド部」の一例として保持部14の下面に形成されている。これに対して、上述した突出ガイド11の下りの傾斜部11cは、「第2ガイド部」の一例としてレンズ設置部6に形成されている。ここで記述する第1ガイド部および第2ガイド部は、レンズ設置部6に設置された眼内レンズ7を押出部材5で押し出す際に、保持部14の下を通過するように光学部8をガイドするガイド機構を構成する要素となる。
【0019】
傾斜面14aは、水平面に対して傾斜する状態で形成されている。具体的には、傾斜面14aは、水平面に対して傾斜面14aの前方が後方よりも低位となるように傾斜している。また、傾斜面14aは、上下方向で突出ガイド11の傾斜部11cと対向する状態に配置されている。傾斜面14aと傾斜部11cとは、互いに同じ向きに傾斜している。
【0020】
また、保持部14には、収容部15が形成されている。収容部15は、レンズ設置部6に眼内レンズ7を設置する場合に、支持部9aの先端部を離脱可能に収容するものである。収容部15は、保持部14の上面の右端部に、上方および右方を開放する状態で凹状に形成されている。
【0021】
また、レンズ設置部6の先端側では、レンズ設置部6を区画する左右の側壁部の対向距離が徐々に狭まっている。これは、眼内レンズ7の光学部8を左右の側壁部によって少し丸めた状態で挿入筒4に受け渡すためである。
【0022】
上記構成からなるレンズ設置部6に対して、眼内レンズ7は、一方の支持部9aをレンズ設置部6の前方に配置し、他方の支持部9bをレンズ設置部6の後方に配置した状態で設置される。このため、一方の支持部9aは「前方支持部」に相当し、他方の支持部9bは「後方支持部」に相当する。また、レンズ設置部6においては、眼内レンズ7の光学部8が突出ガイド11の頂上部11bにほぼ水平な状態で設置(載置)される。
【0023】
また、レンズ設置部6に眼内レンズ7を設置した状態では、図3(A)に示すように、保持部14の一部と光学部8の一部とが平面的に重なった状態で配置される。具体的には、保持部14の傾斜面14aの下に光学部8の外周部の一部が重なって配置される。また、レンズ設置部6に眼内レンズ7を設置した状態では、支持部9aの先端部を保持部14の収容部15に収容することにより、中心軸方向に対する支持部9aの移動と、前方および後方への支持部9aの移動が、それぞれ規制される。
【0024】
(操作部)
操作部3は、挿入器具本体2の後端部に同軸上に連結されている。この連結状態において、操作部3は、挿入器具本体2の中心軸回りに回転自在に支持される。操作部3は、円筒状に形成されている。操作部3の外周面には、複数の突条部3aが形成されている。各々の突条部3aは、操作部3の長手方向と平行に形成されている。操作部3は、押出部材5で眼内レンズ7を押し出す際に、術者などのユーザーによって回転操作される部分となる。その際、操作部3の外周部に複数の突条部3aを形成しておけば、ユーザーの指が突条部3aに引っ掛かるため、操作部3を回転操作しやすくなる。
【0025】
操作部3の内周面には、上記図2に示すように、第1のネジ部3bが形成されている。第1のネジ部3bは、雌ネジを構成している。第1のネジ部3bは、操作部3の中心軸方向のほぼ全般にわたって形成されている。操作部3の後端部には、突き当て部3cが形成されている。突き当て部3cは、操作部3の後端部の開口径を小さく絞るように内側に曲げて形成されている。突き当て部3cは、プランジャ部17が操作部3の後端部よりも後方に突出しないように、プランジャ部17の後端部が突き当てられる部分となる。
【0026】
(挿入筒)
挿入筒4は、レンズ設置部6に設置された眼内レンズ7を眼内に挿入する際に、眼内レンズ7を小さく折り畳んだ状態で眼内に導くためのものである。挿入筒4は、中空の挿入筒本体4aと、細い管状のノズル部4bと、を一体に有している。挿入筒4は、挿入器具本体2の先端部に装着されている。この装着状態において、挿入器具本体2のレンズ設置部6は、挿入筒4の挿入筒本体4a内に収容して配置されている。
【0027】
挿入筒本体4aの上壁には注入部4cが形成されている。注入部4cは、粘弾性物質(たとえば、ヒアルロン酸ナトリウムなど)を注入するためのものである。注入部4cから注入された粘弾性物質は、レンズ設置部6に設置された眼内レンズ7の近傍に放出され、これによって眼内レンズ7に粘弾性物質が供給される。粘弾性物質の注入は、押出部材5によって眼内レンズ7を押し出す前に行われる。
【0028】
挿入筒本体4aの先端側は徐々に径が小さくなっている。ノズル部4bは、挿入筒4の先端部に形成されている。ノズル部4bの先端部は斜めの切り口で開口している。このため、ノズル部4bの開口は、斜め下方を向いている。ノズル部4bの先端部は、眼内レンズ挿入器具1を用いて眼内レンズ7を眼内に挿入する際に、眼球の切開創に差し込まれる部分となる。
【0029】
(押出部材)
押出部材5は、挿入器具本体2の中心軸方向に移動可能に設けられている。押出部材5は、挿入器具本体2の中心軸方向に移動することにより、レンズ設置部6から眼内レンズ7を押し出すものである。その際、押出部材5は、挿入器具本体2と操作部3と挿入筒4とが形成する中空部内を移動する。
【0030】
押出部材5は、プランジャ部17と、ロッド部18と、を有している。プランジャ部17とロッド部18とは、一体構造で押出部材5を構成するものであってもよいし、プランジャ部17とロッド部18をそれぞれ別体構造とし、これらを相互に組み付けることで押出部材5を構成するものであってもよい。眼内レンズ挿入器具1の中心軸方向において、プランジャ部17は相対的に後方に配置され、ロッド部18は相対的に前方に配置されている。
【0031】
プランジャ部17は棒状に形成されている。プランジャ部17は、使用前の初期状態では、操作部3の後端部から突出しないように操作部3の内部に挿入した状態で配置される。プランジャ部17の後端部には第2のネジ部17aが形成されている。第2のネジ部17aは、雄ネジを構成している。第2のネジ部17aは、操作部3の内側で第1のネジ部3bと噛み合っている。眼内レンズ挿入器具1を使用する場合は、操作部3を挿入器具本体2の中心軸回りに回転させるように操作し、これによって押出部材5全体を前方に移動させることになる。そのときのプランジャ部17の移動開始位置は、プランジャ部17の後端部を操作部3の突き当て部3cに突き当てることで一義的に決まる。
【0032】
ロッド部18は、レンズ設置部6に設置された眼内レンズ7を前方に押し出すことにより、眼内レンズ7を所定の形状に折り畳み、この状態で眼内レンズ7を挿入筒4のノズル部4bの開口部から放出させるものである。ロッド部18は、プランジャ部17よりも細い棒状に形成されている。ロッド部18は、適度な可撓性を有するように弾性変形可能に構成されている。ロッド部18の先端部には、第1接触部18aと第2接触部18bとが形成されている。眼内レンズ7を押出部材5のロッド部18の先端で押し出す場合、第1接触部18aは支持部9bに接触し、第2接触部18bは光学部8に接触する部分となる。第2接触部18bの上端部は、光学部8の縁を把持できるように、庇状に突出している。ロッド部18の下面には、図4(C)に示すように突起19が形成されている。突起19は、ロッド部18の長さ方向において、第1接触部18aおよび第2接触部18bの形成部位を避けて、当該形成部位よりもロッド部18の後端側に形成されている。
【0033】
<2.眼内レンズ挿入器具の組立方法>
次に、眼内レンズ挿入器具1の組立方法について説明する。
まず、眼内レンズ挿入器具1を構成する部材(2,3,4,5)を用意したら、操作部3に押出部材5を取り付ける。具体的には、押出部材5のプランジャ部17の後端部に操作部3の先端の開口部をかぶせるように嵌め込んで、操作部3を回転させる。これにより、操作部3の内周面に形成した第1のネジ部3bと、プランジャ部17の後端部に設けた第2のネジ部17aとが互いに噛み合う。このため、押出部材5の回転を規制しながら操作部3を回転させると、操作部3の回転にしたがってプランジャ部17が操作部3の内部に挿入されていく。このとき、プランジャ部17の後端部が操作部3の突き当て部3cに突き当たるまで、操作部3を回転させる。
【0034】
次に、操作部3に挿入器具本体2を取り付ける。このとき、押出部材5のロッド部18を挿入器具本体2の中空部に挿入する。これにより、ロッド部18の先端部(18a,18b)は、レンズ設置部6の少し手前に配置される。
【0035】
次に、別途用意した眼内レンズ7を挿入器具本体2のレンズ設置部6に設置する。このとき、眼内レンズ7の光学部8は突出ガイド11の頂上部11bにほぼ水平に載置する。また、一方の支持部9aはレンズ設置部6の前方に配置し、そこで支持部9aの先端部を保持部14の収容部15に収容する。
【0036】
このようにレンズ設置部6に眼内レンズ7を設置した状態では、眼内レンズ7が無負荷状態となる。無負荷状態とは、眼内レンズにほとんど負荷(圧力)がかかっていない状態、すなわち眼内レンズが本来の形状を維持している状態をいう。なお、眼内レンズの本来の形状とは、眼内レンズの製造を終えた段階の形状をいう。
【0037】
次に、挿入器具本体2の先端部に挿入筒4を取り付ける。以上で、眼内レンズ7を内蔵する眼内レンズ挿入器具1の組み立てが完了する。なお、挿入器具本体2と操作部3とを連結する構造や、挿入器具本体2と挿入筒4とを連結する構造については、たとえば、特願2014−55761の明細書および図面に記載した構造を採用してもよいし、これ以外の連結構造を採用してもよい。
【0038】
<3.眼内レンズ挿入装置の動作>
次に、眼内レンズ挿入器具1の動作について説明する。
【0039】
(押出部材の動き)
まず、操作部3を回転操作したときの押出部材5の動作について説明する。
操作部3を一方向に回転操作すると、第1のネジ部3bと第2のネジ部17aとの噛み合いにより、押出部材5が前方に移動する。このとき、押出部材5のプランジャ部17は、挿入器具本体2の中空部に嵌合しつつ、挿入器具本体2の中心軸方向に真っ直ぐに移動する。また、押出部材5は、操作部3の回転操作にしたがって図5(A)〜(D)に示すように移動する。
【0040】
図5(A)は押出部材5のロッド部18の先端部をレンズ設置部6の先端部まで前進させた段階を示し、同図(B)はロッド部18の先端部を挿入筒4の挿入筒本体4aまで前進させた段階を示している。また、図5(C)はロッド部18の先端部を挿入筒4のノズル部4bまで前進させた段階を示し、同図(D)はロッド部18の先端部を挿入筒4のノズル部4bよりも前方に突出させた段階を示している。
【0041】
(ロッド部先端の動き)
上述のように押出部材5を移動させると、その移動の途中で、押出部材5のロッド部18の先端部が、ロッド部18自身の弾性変形により、突出ガイド11の形状にしたがって上下方向に変位する。その様子を図6(A)〜(D)を用いて説明する。
【0042】
まず、操作部3の回転操作にともなって押出部材5が前方に移動しはじめると、ロッド部18の先端部(符号18a,18bで示す部分)は、図6(A)に示すように、突出ガイド11の上りの傾斜部11aにしたがって上方に変位する。次に、ロッド部18の先端部は、図6(B)に示すように、突出ガイド11の頂上部11bに達する。
【0043】
次に、ロッド部18の先端部は、図6(C)に示すように、突出ガイド11の下りの傾斜部11cにしたがって下方に変位する。このとき、突出ガイド11の頂上部11bにおける断面形状は、図7(A),(B)のようになる。すなわち、ロッド部18の先端部が突出ガイド11の頂上部11bを通過した後は、ロッド部18の下面に形成されている突起19の一部が突出ガイド11の溝12に入り込む。これにより、ロッド部18の先端部を突出ガイド11の下りの傾斜部11cにしたがって下方に変位させることができる。
【0044】
次に、ロッド部18の先端部は、図6(D)に示すように、突出ガイド11の傾斜部11cを下り終えて前方に進む。このとき、突出ガイド11の頂上部11bにおける断面形状は、図8(A),(B)のようになる。すなわち、ロッド部18の先端部が突出ガイド11の傾斜部11cを通過した後は、ロッド部18の下面に形成されている突起19の全部が突出ガイド11の溝12に入り込む。これにより、突出ガイド11とロッド部18との干渉を避けて、ロッド部18の先端部を前方に進めることができる。
【0045】
(眼内レンズの動き)
また、上述のように押出部材5を移動させると、レンズ設置部6に設置されている眼内レンズ7が押出部材5のロッド部18によって前方に押し出される。その様子を図9(A)〜(D)の平断面図、図10(A)〜(D)の側断面図、図11(A)〜(D)の斜視図を用いて説明する。
【0046】
まず、操作部3の回転操作にともなって押出部材5が前方に移動しはじめると、ロッド部18の先端部が支持部9bと光学部8とに順に接触する(図9(A)、図10(A)および図11(A)を参照)。具体的には、最初に支持部9bに対してロッド部18の第1接触部18aが接触し、次いで、光学部8に対してロッド部18の第2接触部18bが接触する。
このとき、ロッド部18の第1接触部18aは、支持部9bに接触したまま、支持部9bを前方に押し込むことにより、支持部9b全体を略U字形に光学部8側に曲げる。また、支持部9bの先端部は第1接触部18aの上に乗せられ、その状態でロッド部18の先端部が突出ガイド11の上りの傾斜部11aに沿って上方に変位する。そして、ロッド部18の先端部が突出ガイド11の頂上部11bに達すると、第2接触部18bが光学部8の縁に接触する。また、支持部9bの先端部は、光学部8の面上に乗り上げられる。
【0047】
次に、ロッド部18の先端部が支持部9bと光学部8とに接触しながら眼内レンズ7全体を前方に押し出す(図9(B)、図10(B)および図11(B)を参照)。このとき、ロッド部18の先端部は、第2接触部18bで光学部8の縁を把持しながら、突出ガイド11の頂上部11bに沿って前進する。これにより、眼内レンズ7の光学部8が突出ガイド11の頂上部11bから傾斜部11cへと押し出される。こうして押し出された光学部8は、突出ガイド11の下りの傾斜部11cに沿って斜めに傾く。
【0048】
一方、支持部9aの先端部は保持部14の収容部15に収容されたまま、支持部9a全体が光学部8の移動によって曲げられる。支持部9aがこのように曲げられる理由は、次のとおりである。
まず、支持部9aの先端部は、保持部14の収容部15に収容されることで前方への移動が規制されている。このため、ロッド部18に押されて光学部8が前方に移動しても、支持部9aの先端部は収容部15に引っ掛かるかたちでそこに留められる。したがって、ロッド部18の先端部で光学部8を前方に押し込むと、その押し込み方向と反対方向の力が支持部9aに加わる。このため、支持部9aは、光学部8の移動にしたがって徐々に曲げられる。
【0049】
次に、ロッド部18の先端部が支持部9bと光学部8の両方に接触しながら眼内レンズ7全体をさらに前方に押し出す(図9(C)、図10(C)および図11(C)を参照)。このとき、ロッド部18の先端部は、第2接触部18bで光学部8の縁を把持しながら、突出ガイド11の下りの傾斜部11cに沿って下方に変位する。そうすると、光学部8は、突出ガイド11の下りの傾斜部11cとこれに対向する保持部14の傾斜面14aとに案内されて斜め下方に移動する。一方、支持部9aは、その先端部が保持部14の収容部15に保持されたまま、光学部8の移動によってさらに大きく曲げられる。具体的には、支持部9a全体が略U字形をなすように光学部8側に曲げられる。このとき、上述した光学部8の斜め下方への移動により、支持部9aの位置に対して光学部8の位置が相対的に下方に変位する。
【0050】
次に、ロッド部18の押出動作によって光学部8が保持部14の下を通過すると、支持部9aの先端部が保持部14の収容部15を離脱する(図9(D)、図10(D)および図11(D)を参照)。このとき、収容部15から離脱した支持部9aの先端部は、保持部14の下を通過中の光学部8の面上に乗る。また、支持部9aの先端部を乗せた光学部8は、レンズ設置部6の左右の側壁部に押されて徐々に変形し、支持部9aの基端側の部位もレンズ設置部6の一方の側壁部に接触する。これにより、支持部9aの形状的な戻りが抑制される。このため、支持部9aは元の形状に戻らずに略U字形の曲がったままの状態に維持され、支持部9aの先端部は光学部8の面上に乗ったままの状態に維持される。
【0051】
その後、眼内レンズ7は、ロッド部18の移動によって挿入筒4内へと押し出される。その際、眼内レンズ7の光学部8は、先細りの形状とされた挿入筒本体4aの内壁によって左右方向から丸められ、最終的には一対の支持部9a,9bを抱き込むように折り畳まれる。このように折り畳まれた眼内レンズ7は、ロッド部18によって挿入筒4のノズル部4bから押し出される。このとき、挿入筒4のノズル部4bを眼球の切開創に差し込んだ状態で、ノズル部4bの開口から眼内レンズ7を押し出すことにより、眼内に眼内レンズ7を挿入することができる。
【0052】
<4.実施形態の効果>
本発明の実施形態によれば、以下に記述する1つまたは複数の効果が得られる。
【0053】
(1)本発明の実施形態においては、挿入器具本体2のレンズ設置部6に設置される眼内レンズ7の支持部9aの先端部を保持部14で保持し、その支持部9aに対して光学部8を相対的に下方に変位させる変位機構を備えている。このため、支持部9aの先端部を光学部8の面上に確実に乗せることができる。
【0054】
(2)本発明の実施形態においては、押出部材5によってレンズ設置部6から眼内レンズ7を押し出す際に、保持部14の下を通過するように光学部8をガイドするガイド機構(11c,14a)を備えている。このため、押出部材5の押出動作を利用して、光学部8を相対的に下方に変位させることができる。
【0055】
(3)本発明の実施形態においては、支持部9aの先端部を収容する収容部15を保持部14に設け、押出部材5に押されて光学部8が保持部14の下を通過するときに、支持部9aの先端部が収容部15から離脱する構成になっている。このため、押出部材5の押出動作を利用して、支持部9aを光学部8側に曲げながら、支持部9aの先端部を収容部15から離脱させて光学部8の面上に乗せることができる。
【0056】
(4)本発明の実施形態においては、レンズ設置部6に眼内レンズ7が予め設定されたプリロードタイプの眼内レンズ挿入器具1を採用している。このため、眼内レンズ挿入器具1を使用するユーザーは、その都度、眼内レンズ7の設置作業を行う必要がない。このため、白内障手術におけるユーザーの作業負担を軽減することができる。
【0057】
(5)本発明の実施形態においては、挿入器具本体2のレンズ設置部6に眼内レンズ7が無負荷状態で設置されるため、眼内レンズ7を内蔵したプリロードタイプの眼内レンズ挿入器具1を長期にわたって保存しても、眼内レンズ7の形状が癖付けされることがない。したがって、眼内レンズ挿入器具1を用いて眼内に挿入される眼内レンズ7の形状の復元性が損なわれるおそれがない。
【0058】
<5.変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0059】
たとえば、上記実施形態においては、プリロードタイプの眼内レンズ挿入器具1を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、眼内レンズ挿入器具を使用するユーザーがその都度、眼内レンズを設置するタイプの眼内レンズ挿入器具に適用してもよい。
【0060】
また、上記実施形態においては、操作部3の回転操作によって押出部材5を前方に移動させる構成を採用したが、本発明はこれに限らず、たとえば押出部材を指で直接押し込む構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…眼内レンズ挿入器具
2…挿入器具本体
3…操作部
4…挿入筒
5…押出部材
6…レンズ設置部
7…眼内レンズ
8…光学部
9a…支持部(前方支持部)
9b…支持部(後方支持部)
11…突出ガイド
11a…傾斜部
11b…頂上部
11c…傾斜部
14…保持部
15…収容部
18…ロッド部
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図11