特許第6647008号(P6647008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647008
(24)【登録日】2020年1月16日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/25 20060101AFI20200203BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20200203BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20200203BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20200203BHJP
   A61K 8/21 20060101ALI20200203BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   A61K8/25
   A61K8/49
   A61K8/63
   A61K8/73
   A61K8/21
   A61Q11/00
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-209273(P2015-209273)
(22)【出願日】2015年10月23日
(65)【公開番号】特開2017-81834(P2017-81834A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今▲崎▼ 麻里
(72)【発明者】
【氏名】曽我 晶子
(72)【発明者】
【氏名】成松 三四郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康彦
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−096747(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/047826(WO,A1)
【文献】 特開2004−051531(JP,A)
【文献】 特開昭63−112509(JP,A)
【文献】 特開2013−067568(JP,A)
【文献】 特開2014−189524(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/157546(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00 − 8/99
A61Q 1/00 − 90/00
CAplus/REGISTRY(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:ピロリドンカルボン酸及び/又はその塩と、
(B)成分:カルボキシメチルセルロースナトリウムと、
(C)成分:水溶性フッ素化合物と、
(D)成分:下記2種類の増粘性シリカ、
(d1):吸液量が3.5mL/g以上の増粘性シリカと、
(d2):吸液量が2.0mL/g〜3.0mL/gの増粘性シリカ、
とを含有し、
(A)成分の含有量が、0.1〜10質量%であり、
(B)成分の含有量が、0.1〜3質量%であり、
(A)成分と(B)成分との質量比[(A)成分の質量/(B)成分の質量]が、0.1〜60であり、
研磨剤の含有量が、3質量%以下である、ジェル状歯磨剤組成物。
【請求項2】
C)成分の含有量がフッ素として0.01〜0.5であり
(D)成分の含有量が0.2〜20質量%である、請求項1に記載のジェル状歯磨剤組成物。
【請求項3】
(C)成分が、フッ化ナトリウム又はモノフルオロリン酸ナトリウムである、請求項1又は2に記載のジェル状歯磨剤組成物。
【請求項4】
(d1)成分の含有量が、0.1〜10質量%であり、
(d2)成分の含有量が、0.1〜10質量%であり、
(d2)成分の含有量に対する(d1)成分の含有量の比が、0.1〜1.5である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のジェル状歯磨剤組成物。
【請求項5】
研磨剤を含有しない、請求項1〜のいずれか1項に記載のジェル状歯磨剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会を迎え、歯肉退縮により露出した象牙質に発症する根面う蝕が増加してきており、その予防が望まれている。
象牙質に発症する根面う蝕(象牙質う蝕)の発症機序としては、まず、象牙質表面に付着したプラーク中の細菌によって糖の代謝がおこり、酸が産生される。産生された酸により象牙質のミネラル成分が溶出(脱灰)し、有機質(コラーゲン)層が露出する。さらに露出したコラーゲン層は、物理的・化学的に破壊され、歯の根元に実質的な欠損が生じる。
【0003】
従来、象牙質う蝕の予防方法として、フッ化物による脱灰抑制や再石灰化促進による方法が知られている。しかしながら、ミネラル密度が約97%のエナメル質に比べ、象牙質のミネラル密度は約50%と少ないため、物理的・化学的に脆弱であり、従来の方法による予防効果は決して高いものではなかった。そこで、特許文献1〜9においては、脱灰抑制・再石灰化促進を図る技術が提案されている。
【0004】
特許文献1には、象牙質う蝕の抑制効果の向上を目的として、ピロリドンカルボン酸、及びフッ素化合物を含む口腔用組成物が開示されている。
特許文献2には、象牙質細管封鎖、象牙質脱灰抑制効果及びフッ素の安定化を目的として、乳清又はラクトフェリン、フッ素化合物、及び、硝酸、りん酸、塩酸、硫酸のK又はNa塩を含む口腔用組成物が開示されている。
特許文献3には、象牙質細管封鎖、象牙質脱灰抑制効果、フッ素の安定化及び製剤安定化を目的として、リュウガン種子抽出物、フッ素化合物及び糖アルコールを含む口腔用組成物が開示されている。
特許文献4には、コラーゲン分解抑制、脱灰抑制を目的とし、フラバノン類及び/又はその配糖体からなる歯根面う蝕予防剤が開示されている。
特許文献5には、象牙質のミネラル溶出を抑制することを目的として、加水分解シルクと、一次粒子の平均粒径が0.04〜0.5μmの範囲にある軽質炭酸カルシウムとを成分として有する口腔用組成物が開示されている。
【0005】
特許文献6には、再石灰化の促進を目的とし、水酸基を有するモノマーと、この水酸基を有するモノマーに対する配合量が5〜200重量%のリン原子含有酸性基を有するモノマーとを成分として有する歯質再石灰化促進剤が開示されている。
特許文献7には、根面う蝕の予防を目的とし、(A)亜鉛化合物、(B)アルデヒド系化合物、フェノール系化合物及び茶抽出ポリフェノール化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種と、を成分として有する口腔用組成物が開示されている。
【0006】
特許文献8には、象牙質知覚過敏症の予防及び根面う蝕の予防を目的とし、水溶性アルミニウム化合物、フッ化物及び水溶性カルシウム化合物を含有する口腔用組成物が開示されている。
特許文献9には、象牙質知覚過敏症の予防及び良好な使用感を目的とし、水溶性アルミニウム化合物及びフッ化物を含有する口腔用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013/47826号
【特許文献2】特開2012−232937号公報
【特許文献3】特開2011−168510号公報
【特許文献4】特開2009−256341号公報
【特許文献5】特開2007−176862号公報
【特許文献6】特開2006−8596号公報
【特許文献7】特開平11−228368号公報
【特許文献8】特開平5−155746号公報
【特許文献9】特開平5−155745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、象牙質う蝕抑制効果については、更なる向上が求められており、本発明者らは、特に、象牙質う蝕の重要な要因である象牙質の耐酸性の向上に着目した。
【0009】
ところで、脆弱な象牙質に対応する歯磨剤としては、一般的な練り歯磨剤よりもやさしく磨け、口腔の隅々まで速やかに分散する研磨剤不使用の歯磨剤が好ましく、ジェル状の歯磨きが特に好ましい。しかしながら、象牙質う蝕に効果を有する成分であるピロリドンカルボン酸又はその塩を配合すると、塩濃度が増加するため、研磨剤不使用の歯磨剤、特にジェル状の歯磨剤の保型性が悪化し、さらに曳糸性も発生する。
本発明の課題は、象牙質う蝕抑制効果を発揮し、かつ、保型性及び曳糸性に優れた口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ピロリドンカルボン酸及び/又はその塩と、カルボキシメチルセルロースナトリウムと、水溶性フッ素化合物を含む口腔用組成物を用いることにより象牙質へのフッ素の取り込み量をさらに向上させ、象牙質の耐酸性を著しく向上させることができるという知見が得られた。さらに、吸液量の異なる2種類の増粘性シリカを配合することにより、ピロリドンカルボン酸又はその塩を含む研磨剤不使用の歯磨剤を、保型性及び曳糸性に優れたものとすることができるという知見も得られた。本発明はかかる新規な知見に基づくものである。
【0011】
本発明は下記[1]〜[5]を提供する。
[1](A)成分:ピロリドンカルボン酸及び/又はその塩と、(B)成分:カルボキシメチルセルロースナトリウムと、(C)成分:水溶性フッ素化合物と、(D)成分:下記2種類の増粘性シリカ(d1)成分:吸液量が3.5mL/g以上の増粘性シリカと、(d2)成分:吸液量が2.0mL/g〜3.0mL/gの増粘性シリカと、を含有し、研磨剤の含有量が5質量%以下である口腔用組成物。
[2](A)成分の含有量が0.1〜10質量%、(B)成分の含有量が0.1〜3質量%、(C)成分の含有量がフッ素として0.01〜5%、(D)成分の含有量が0.2〜20質量%である、[1]に記載の口腔用組成物。
[3](C)成分が、フッ化ナトリウム又はモノフルオロリン酸ナトリウムである、[1]又は[2]に記載の口腔用組成物。
[4]研磨剤を含有しない、[1]〜[3]のいずれかに記載の口腔用組成物。
[5]ジェル状である、[1]〜[4]のいずれかに記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、象牙質耐酸性効果を発揮し、かつ、保型性及び曳糸性に優れた口腔用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の口腔用組成物は、(A)成分:ピロリドンカルボン酸及び/又はその塩と、(B)成分:カルボキシメチルセルロースナトリウムと、(C)成分:水溶性フッ素化合物と、(D)成分:下記2種類の増粘性シリカ(d1)成分:吸液量が3.5mL/g以上の増粘性シリカと、(d2)成分:吸液量が2.0mL/g〜3.0mL/gの増粘性シリカと、を含有し、研磨剤の含有量が5質量%以下である。
【0014】
<(A)成分>
(A)成分はピロリドンカルボン酸及び/又はその塩である。
ピロリドンカルボン酸は海草・小麦粉、サトウキビから抽出されたグルタミン酸を脱水することで生成される化合物である。
【0015】
塩としては、薬理学的に許容される塩であれば特に限定はされない。薬理学的に許容される塩としては、例えば、酸付加塩、塩基付加塩及びアミノ酸塩が挙げられる。その具体例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩;トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩;リシン塩、アルギニン塩、ヒスチジン塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩が挙げられる。これらの塩の中でも水溶性の塩が好ましく、なかでも無機塩基塩が好ましく、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩がより好ましい。
【0016】
ピロリドンカルボン酸及び/又はその塩は、一種を単独で用いてもよいし二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
ピロリドンカルボン酸およびその塩は、公知のスキームに従って合成してもよいし、市販品を用いてもよい。ピロリドンカルボン酸としては、味の素ヘルシーサプライ(株)製のAJIDEW A−100等を使用してもよく、ピロリドンカルボン酸ナトリウムとしては、AJIDEW−N−50、PCAソーダ(AI=50%水溶液)等を使用してもよい。
【0018】
本発明の口腔用組成物中の(A)成分の含有量は特に制限されないが、(B)成分の安定性をより向上させ、象牙質の耐酸性効果をより向上させることができるので、口腔用組成物全量に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましい。
【0019】
(A)成分の含有量の上限は特に限定されないが、多量に配合しても象牙質の耐酸性効果が飽和し、(d1)成分及び(d2)成分の曳糸性改善効果への寄与が限定的となる可能性があることから、通常、10質量%以下であり、8質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
従って、(A)成分の含有量は、口腔用組成物全量に対して、好ましくは0.1質量%〜10質量%であり、より好ましくは0.5質量%〜8質量%、さらに好ましくは1質量%〜5質量%である。
【0020】
<(B)成分>
(B)成分はカルボキシメチルセルロースナトリウムである。
【0021】
カルボキシメチルセルロースナトリウムは、セルロースの水酸基にカルボキシメチル基を導入して作製されるものであり、その置換度(エーテル化度)を変化させることで様々な特徴をもつカルボキシメチルセルロースナトリウムを作製することができる。本発明においては、カルボキシメチルセルロースナトリウムのエーテル化度(DS)は0.5〜1.5が好適である。また、その重合度を変化させることで様々な粘度のカルボキシメチルセルロースナトリウムが製造されるが、2質量%水溶液の粘度が15〜3,000mPa・sであるのが好ましく、450〜1,700mPa・sのものがより好ましい。なお、当該粘度は、20℃においてB型粘度計を用いて測定した値である。
【0022】
カルボキシメチルセルロースナトリウムは、一種を単独で用いてもよいし二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
カルボキシメチルセルロースナトリウムとしては、市販のもの、例えばダイセルファインケム(株)製のCMCダイセル(商品名)などを使用することができる。
【0024】
本発明の組成物中の(B)成分の含有量は特に制限されないが、象牙質の耐酸性効果に優れるという観点から、(B)成分の含有量は、口腔用組成物全量に対して0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましい。
【0025】
(B)成分の含有量の上限は特に限定されないが、製剤が押し出しやすいという観点から、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下がさらに好ましい。
したがって、(B)成分の含有量は、口腔用組成物全量に対して、好ましくは0.1〜3質量%であり、より好ましくは0.2〜2質量%、更に好ましくは0.3〜1.5質量%である。(B)成分の含有量が0.1質量%未満では象牙質の耐酸性効果向上が得られない場合があり、3質量%を超えると製剤の押し出しやすさが劣る場合がある。
【0026】
<(C)成分>
(C)成分は水溶性フッ素化合物である。
水溶性フッ素化合物とは、例えば20℃の水100gに2g以上溶解することのできるフッ素化合物をいう。
【0027】
(C)成分としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化スズ、アミンフッ化物、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、フッ化ケイ素ナトリウム、フッ化ケイ素カルシウムが挙げられ、好ましくはフッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウムである。
(C)成分は、フッ素化合物1種であってもよいし、2種以上のフッ素化合物の組み合わせであってもよい。
【0028】
(C)成分の含有量は、フッ素として0.01〜0.5質量%(100〜5000ppm)が好ましく、0.05〜0.4質量%(500〜4000ppm)がより好ましく、0.1〜0.3質量%(1000〜3000ppm)がさらに好ましい。フッ素化合物の含有量が、フッ素として0.01質量%(100ppm)未満であると十分な象牙質う蝕抑制効果が得られない場合があり、フッ素として0.5質量%(5000ppm)を超えるとフッ素取込の向上効果が得られない場合がある。
【0029】
<(D)成分:(d1)成分及び(d2)成分>
(D)成分は増粘シリカであり、下記(d1)(d2)の異なる吸液量を有する増粘シリカ2種を組み合わせて使用する。
(d1)成分は吸液量が3.5mL/g以上の増粘性シリカであり、
(d2)成分は吸液量が2.0mL/g〜3.0mL/gの増粘性シリカである。
(d1)成分及び(d2)成分は、(A)成分による曳糸性を改善し、良好な保型性を与える成分である。
【0030】
(D)成分としては、例えば、吸液量が3.5mL/g以上の沈降性シリカ、吸液量が2.0mL/g〜3.0mL/gの沈降性シリカ、火成性シリカなどが挙げられる。(D)成分としては、公知の製法で得られる増粘性シリカを用いることができる。
【0031】
本発明において、(D)成分は、研磨性は、ほとんどなく、通常、研磨剤としては使用されない。なお、研磨性シリカの吸液量は通常、2.0mL/g未満であり、(D)成分の吸液量とは相違する。
【0032】
本発明における「吸液量」とは、以下の方法により測定した物性値である。
試料1.0gを清浄なガラス板上に量りとり、ミクロビュレットを用いて、42.5%のグリセリンを少量ずつ滴下しながらステンレス製のへらで均一になるように試料を混合する。試料が一つの塊となり、へらでガラス板からきれいに剥がれるようになるまでに要した液量(mL)を「吸液量」とする。
【0033】
(D)成分としては、比表面積が170〜230m/gの増粘性シリカ、および/または嵩密度が130〜160g/Lの増粘性シリカ、もしくは、比表面積が170〜230m/gでかつ嵩密度が130〜160g/Lの増粘性シリカを用いると、本発明の効果の発現のためにさらに好適である。
【0034】
吸液量が3.5ml/g以上の増粘性シリカ((d1)成分)を含むことで、保型性を担保することができる。(d1)成分の吸液量が3.5ml/g未満であると、保型性が担保できなくなるおそれがある。(d1)成分の吸液量は、安定性低下を防止するという観点から、5ml/g以下であることが好ましい。
【0035】
(d1)成分の含有量は、特に限定されないが、本発明の組成物全体の質量に対し0.1〜10質量%とすることができ、0.5〜6質量%とするのが好ましく、0.8〜4質量%とするのがより好ましく、1〜3質量%とするのがさらに好ましい。(d1)成分の含有量を0.1質量%以上とすると曳糸性と保型性が特に良好であり、10質量%以下とすると、チューブ等の容器からの押し出し性が特に良好である。
【0036】
本発明の口腔用組成物は、(d1)成分とともに、(d2)吸液量が2.0〜3.0ml/gの増粘性シリカ((d2)成分)を含む。(d1)成分と(d2)成分とを併用すると、曳糸性と保型性がより向上する。曳糸性と保型性の向上の観点から、(d2)成分の吸液量は、2.1〜2.7ml/gであるのが好ましい。
【0037】
(d2)成分の含有量は、特に限定されないが、組成物全体の質量に対し、0.1〜10質量%とすることができ、0.5〜6質量%とするのが好ましく、0.8〜5質量%とするのがより好ましく、1〜5質量%とするのがさらに好ましい。(d2)成分の含有量を0.1質量%以上とすると曳糸性と保型性が特に良好であり、10質量%以下とすると、チューブ等の容器からの押し出し性が特に良好である。
【0038】
(D)成分の含有量[(d1)成分の含有量と(d2)成分の含有量の合計]は、組成物全体の質量に対し0.2〜20質量%とすることができ、1〜12質量%とするのが好ましく、1.6〜9質量%とするのがより好ましく、2〜8質量%とするのがさらに好ましい。(D)成分の含有量を0.2質量%以上とすると曳糸性と保型性が特に良好であり、20質量%以下とするとチューブ等の容器からの押し出し性が特に良好である。
【0039】
なお、(d2)成分の含有量に対する(d1)成分の含有量の比[(d1)成分の質量/(d2)成分の質量]は、0.1〜1.5の範囲とすることが好ましく、0.3〜1.0がより好ましい。
【0040】
(A)成分と(B)成分との質量比[(A)成分の質量/(B)成分の質量]は、押し出し易さに優れ、象牙質の耐酸性効果に優れるという観点から、0.1〜100が好ましく、0.3〜25がより好ましく、0.5〜15がさらに好ましい。質量比が0.1未満の場合には、押し出し易さが劣る場合があり、質量比が100を超える場合には、十分な象牙質耐酸性効果の向上が得られない場合がある。
【0041】
<本発明の口腔用組成物の形態>
本発明の口腔用組成物の剤形及び形状は特に限定されないが、例えば、液体(溶液、乳液、懸濁液等)、半固体(ジェル、クリーム、ペースト等)の剤形に調製することができる。好ましくは、液体、半固体であり、より好ましくは半固体である。
【0042】
また、前記調製された製剤は、例えば、歯磨剤(練歯磨、液体歯磨、液状歯磨、粉歯磨等)、洗口剤、口中清涼剤、口腔内塗布剤、口腔内貼付剤、食品等の各種製品として利用することができるが、口腔用途の範囲であれば、前記に限定されない。好ましくは、歯磨剤、口中塗布剤である。
【0043】
歯ブラシとともに口腔内にいれて歯磨きをしたとき、従来の練り歯磨き剤と比較して、分散性にすぐれ、口腔の隅々まですみやかに歯磨き剤が分散するという非常に好ましい効果を有するという観点から、本発明の口腔用組成物の形態としては、ジェル状の歯磨剤がより好ましい。
【0044】
好ましい一形態である、ジェル状の歯磨剤において、その粘度は、通常、25℃で5〜50ポアズ程度の範囲が好ましい。粘度は、東機産業(株)(形式:VISCOMETER TVB−10)、ローターNo.6を使用して、回転数20rpm、測定時間3分間、25℃の条件で測定した場合の測定値である。
【0045】
ジェル状の歯磨剤に用いる研磨剤としては、例えば、無水ケイ酸、結晶性シリカ、非晶性シリカ、シリカゲル、アルミノシリケート等のシリカ系研磨剤、ゼオライト、リン酸水素カルシウム無水和物、リン酸水素カルシウム2水和物、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、ケイ酸ジルコニウム、第3リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、第4リン酸カルシウム、合成樹脂系研磨剤等が挙げられる。研磨剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。本発明のジェル状歯磨剤には、研磨剤は低配合量あるいは配合しないことが好ましい。研磨剤を配合する場合、その配合量は、歯磨剤においては組成物全体の5質量%以下(0〜5質量%)とすることが好ましく、3質量%以下(0〜3質量%)であることがより好ましい。
【0046】
<他の任意成分>
本発明の口腔用組成物には、必要に応じ、上記成分に加え、他の成分を配合することができる。他の任意成分は本発明の安定性及び耐酸性効果を損なわない範囲で配合することができる。他の任意成分としては、例えば、界面活性剤、粘結剤、粘稠剤、甘味剤、防腐剤、香料、薬用成分、着色剤、光沢剤、pH調整剤、水等の溶媒などが挙げられる。以下に任意成分の具体例を示すが、本発明の口腔用組成物に配合可能な成分はこれらに制限されるものではない。
【0047】
本発明で使用する界面活性剤の種類としては、N−アシルアミノ酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、グリセリン脂肪酸エステルの硫酸塩などのアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキロールアミドなどのノニオン界面活性剤、アルキルベタイン系両性界面活性剤、イミダゾリニウムベタイン系両性界面活性剤等のベタイン型両性界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤などの両性界面活性剤等の界面活性剤を配合することができる。これらの界面活性剤は、1種を単独であるいは、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
アニオン界面活性剤としては、特に汎用性の点で、N−アシルアミノ酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩などが好適に用いられる。具体的には、発泡性・耐硬水性の点で、ラウロイルサルコシンナトリウム、アルキル鎖の炭素鎖長として炭素数が10〜16のα−オレフィンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどを使用できる。
【0049】
ノニオン界面活性剤としては、特に汎用性の点で、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキロールアミド、ソルビタン脂肪酸エステルなどが好適に用いられる。具体的には、アルキル鎖の炭素鎖長として炭素数が14〜18、エチレンオキサイド平均付加モル数が15〜30のポリオキシエチレンアルキルエーテル、エチレンオキサイド平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキル鎖の炭素鎖長として炭素数が12〜14のアルキロールアミド、脂肪酸の炭素数が12〜18のソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸の炭素数が16〜18で、エチレンオキサイド平均付加モル数が10〜40のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等を使用することができる。
【0050】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤、イミダゾリニウムベタイン系界面活性剤が挙げられる。両性界面活性剤としては、ベタイン型両性界面活性剤が好ましい。ベタイン系両性界面活性剤としては例えば、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、N−ラウロイル−N’−カルボキシメチル−N’−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、及びラウリルヒドロキシスルホベタインが挙げられる。中でも、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン及びN−ラウロイル−N’−カルボキシメチル−N’−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウムが好ましく、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインを含有することがより好ましい。
【0051】
粘結剤としては、カルボキシメチルセルロース以外にも他のものを配合することができる。例えば、プルラン、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、キサンタンガム、アラビアガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられ、通常、製剤全体に対して0.01〜3.5%配合することができる。粘結剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
粘稠剤としては、例えば、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール等が挙げられ、通常、製剤全体に対して5〜70%配合することができる。粘稠剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、p−メトキシシンナミックアルデヒド、ソーマチン、パラチノース、マルチトール、キシリトール、アラビトール等が挙げられる。甘味剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
防腐剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン、エチレンジアミン四酢酸塩、塩化ベンザルコニウムなどを配合することができる。防腐剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
香料としては、例えば、ペパーミント、スペアミント等の精油、レモン、ストロベリー等のフルーツ系のエッセンス、1−メントール、カルボン、オイゲノール、アネトール、リナロール、リモネン、オシメン、シネオール、n−デシルアルコール、シトロネロール、ワニリン、α−テルピネオール、サリチル酸メチル、チモール、ローズマリー油、セージ油、シソ油、レモン油、オレンジ油等の香料素材が好適である。
【0056】
香料としてはさらに、例えば、天然香料、合成香料(単品香料)、調合香料(油脂香料(油性香料)、粉末香料など)が挙げられる。香料は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
天然香料としては、例えば、マスティック油、パセリ油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、レモン油、コリアンダー油、オレンジ油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローレル油、カモミール油、カルダモン油、キャラウェイ油、ベイ油、レモングラス油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、イリスコンクリート、ペパーミントアブソリュート、ローズアブソリュート、オレンジフラワー、シトラス油、ミックスフルーツ油、ストロベリー油、シナモン油、クローブ油、グレープ油、クローブ油、タイム油、セージ油、ハッカ油、ローズマリー油、マジョラム油、オリガナム油、グレープフルーツ油、スウィーティー油、柚子油、マンゴーアブソリュート、オレンジフラワーアブソリュート、トウガラシ抽出物、ジンジャーオレオレジン、ペッパーオレオレジン、カプシカムオレオレジン等が挙げられる。
単品香料としては、例えば、アネトール、サリチル酸メチル、シンナムアルデヒド、リナロール、リナリルアセテート、リモネン、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルアンスラニレート、バニリン、ウンデカラクトン(γ−ウンデカラクトン、δ−ウンデカラクトンなど)、ヘキサナール(トランス−2−ヘキセナールなど)、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール(シス−3−ヘキセノールなど)、ジメチルサルフェイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、エチルチオアセテート、シネオール(1,8−シネオールなど)、メンソフラン、リナロールオキサイド、バニリルブチルエーテル、フラネオール、エチルシクロぺンタノン、2−メチルブチリックアシッド、プロピオニックアシッド、デカラクトン(γ−デカラクトン、δ−デカラクトンなど)、ノナラクトン(γ−ノナラクトン、δ−ノナラクトンなど)、ヘキサラクトン(γ−ヘキサラクトン、δ−ヘキサラクトンなど)、イソアミルアセテート、ベンズアルデヒド、ヘキシルアセテート、エチル−2−メチルブチレート、ベンジルアルコール、α−テルピネオール、フェニルエチルグリシデート、フェニルエチルアルコール、アリルヘキサノエート、メチルシンナメート、エチルβ−メチルチオプロピオネート、シス−6−ノネノール、キャロン、メチルジャスモネート等が挙げられる。
調合香料とは、単品香料及び/又は天然香料を調合して作られる香料である。例えば、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、ヨーグルトフレーバー、フルーツミックスフレーバー等が挙げられる。
香料の形態は限定されず、精油、抽出物、固形物、及びこれらのいずれかを噴霧乾燥した粉体のいずれでも構わない。
【0057】
さらに薬用成分として、クロルヘキシジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等の殺菌又は抗菌剤、縮合リン酸塩、エタンヒドロキシジホスフォネート等の歯石予防剤、トラネキサム酸、グリチルリチン酸2カリウム塩、ε−アミノカプロン酸等の抗炎症剤、ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド等のコーティング剤、デキストラナーゼ、ムタナーゼ等の酵素剤、ビタミンC、塩化リゾチーム、塩化ナトリウム等の収斂剤;硝酸カリウム、乳酸アルミニウム等の知覚過敏抑制剤などを、薬剤学的に許容できる範囲で使用することができる。
【0058】
着色剤としては、例えば、ベニバナ赤色素、クチナシ黄色素、クチナシ青色素、シソ色素、紅麹色素、赤キャベツ色素、ニンジン色素、ハイビスカス色素、カカオ色素、スピルリナ青色素、タマリンド色素等の天然色素や、赤色3号、赤色104号、赤色105号、赤色106号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号等の法定色素、リボフラビン、銅クロロフィンナトリウム、二酸化チタン等が挙げられる。口腔用組成物が着色剤を含有する場合、その含有量は、口腔用組成物全量に対して0.00001〜3質量%であることが好ましい。
【0059】
光沢剤としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、雲母チタン、シェラック、カルナウバロウ、キャンデリラロウなどのワックス類、ステアリン酸カルシウム等が挙げられる。口腔用組成物が光沢剤を含有する場合、その含有量は、口腔用組成物全量に対して0.01〜5質量%が好ましい。
【0060】
本発明の口腔用組成物の剤形としては、上述したように、ジェル型の歯磨剤が好ましいが、剤形がジェル状の歯磨剤の場合、溶剤として水、エタノール、プロパノール等を配合し得る。
【0061】
本発明の口腔用組成物は、水を含有することが好ましい。口腔用組成物における水の含有量は、口腔用組成物の剤型により、適切な量を決定することができる。例えば、練歯磨、ジェル状歯磨の場合は組成物全量に対して20〜95質量%であることが好ましい。また、液体歯磨や洗口剤等の液体口腔用組成物の場合は、組成物全量に対して30〜95質量%であることが好ましい。水に加えてエタノール、プロパノールを併用することも好ましく、その場合は、前記の有機溶剤は、組成物中に1〜50質量%とすることが好ましい。
【0062】
これら任意成分の配合量は、本発明の効果を損なわない範囲の常用量とすることができる。
【0063】
本発明の口腔用組成物のpHは有効性及び安定性の観点から6〜9、さらに7〜8であることが好ましく、必要に応じてpH調整剤を使用してpH調整することができる。pH調整剤としては、リン酸又はその塩(リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウムなど)、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウムなど)、リンゴ酸又はその塩、グルコン酸又はその塩、マレイン酸又はその塩、コハク酸又はその塩、グルタミン酸又はその塩、乳酸、塩酸、酢酸、硝酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に示すが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「%」は、別途明示のない限り、「質量%」を意味する。
【0065】
(実施例1〜25、比較例1〜6)
(1)口腔内組成物(ジェル状の歯磨剤)の調製方法
精製水中に、(A)成分、(C)成分、サッカリンナトリウム、70%ソルビット液、(d1)成分、(d2)成分、水酸化ナトリウムを常温で混合溶解しX液を調製した。水酸化ナトリウムはX液のpHが7〜8となるように添加した。一方、プロピレングリコール、(B)成分、キサンタンガム、カラギーナン、硝酸カリウム、塩化セチルピリジニウム、ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリドを常温で溶解・分散させることによりY液を調製した。
次に、撹拌中のX液中にY液を添加混合した後、香料及びヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインを加え、さらに減圧下(9kPa)、で撹拌し、ジェル状の歯磨剤組成物(口腔内組成物)1.0kgを得た。歯磨剤の製造には、フリーマー(みずほ工業株式会社製)を用いた。各実施例及び各比較例において用いた材料と、その配合割合については、表1〜表2に示した。
【0066】
<使用材料>
歯磨剤組成物の調製に使用した材料の詳細は以下のとおりである。
(A)成分
ピロリドンカルボン酸ナトリウム(AJIDEW N−50(登録商標)(味の素(株))
(B)成分
カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCダイセル RBC-33(ダイセルファインケム(株))(エーテル化度:0.87〜0.95、粘度:800〜1700mPa・s(2%、20℃,12rpm)
【0067】
(C)成分
フッ化ナトリウム:(精製フッ化ナトリウム(S)RKX-32(ステラケミファ(株))
モノフルオロリン酸ナトリウム:モノフルオロリン酸ナトリウム(商品名)(ローディア日華社)
(d1)成分:AEROSIL200(EVONIK社製):吸液量4mL/g
(d2)成分:カープレックス♯67(DSL.):吸液量2.3mL/g
【0068】
(その他の成分)
その他の成分については医薬部外品原料規格2006に適合したものを用いた。
70%ソルビット液(ソルビトール)については、70%水溶液品を用いた。
なお、表中の配合量の記載は全て純度100%に換算した値であり、精製水の量には、ソルビット等の各成分の持込水分量が含まれている。
【0069】
上述のようにして得られた実施例1〜25の歯磨剤組成物と、比較例1〜6の歯磨剤組成物につき、象牙質耐酸性効果、保型性、曳糸性及び押し出し易さの評価試験を以下の手順に従い行った。
【0070】
(評価試験)
(1)象牙質耐酸性効果の評価
ヒト抜去歯の象牙質をマイクロカッターにて厚さ250μmの切片状に切り出した。試験部位として2mm×2mmのウィンドウを残し、それ以外の部分をマニキュア被覆し、ヒト象牙質サンプルとした。これを各実施例の歯磨剤組成物及び各比較例の歯磨剤組成物を蒸留水で3倍に希釈した3倍水希釈液に3分間、室温で浸漬し、精製水で洗浄した。その後、再石灰化液(1.5mMのCaCl、5mMのKHPO、0.1mMの酢酸、0.1mのNaCl、pH6.5)0.5mLに浸漬し、37℃でインキュベートした。組成物処置を2回/日実施し、それ以外の時間は再石灰化液に浸漬し、これを合計3日間繰り返した。サンプルを脱灰液(2.2mMのCaCl、2.2mMのKHPO、50mMの酢酸、pH4.5)0.5mLに浸漬し、37℃で6時間インキュベートした。この脱灰液を50μL採取し、原子吸光光度計((株)日立製作所製:Z−5310)を用いて脱灰液中のカルシウム濃度を測定した。測定はn=5で実施し、平均値を算出した。下記の式より、測定したカルシウム濃度から溶出カルシウム量を算出し、以下に示す基準で評価した。なお、コントロール群とは、実施例・比較例に示す歯磨剤で処置をしない群を示しており、同様にn=5で評価した。これらの結果を表1及び表2に示す。
【0071】
【数1】
【0072】
〔耐酸性効果の評点基準〕
◎:溶出カルシウム量(μg)が15μg未満
○:溶出カルシウム量(μg)が15μg以上20μg未満
△:溶出カルシウム量(μg)が20μg以上25μg未満
×:溶出カルシウム量(μg)が25μg以上
【0073】
(2)保型性の官能評価
口径8mmのラミネートチューブに試験歯磨剤組成物を充填し、チューブより歯ブラシ上に歯磨剤を約1.0g載せた直後の状態を下記基準で評価した。
【0074】
〔保型性の評価基準〕
◎:歯ブラシ上でジェルペーストの形状が保たれており、歯ブラシからたれ落ちない
○:歯ブラシ上でのジェルペーストの形状が僅かに崩れて完全には保たれていないが、歯ブラシからたれ落ちず使用性に問題ないレベル
△:歯ブラシ上でのジェルペーストの形状がやや崩れ、歯ブラシから少量のたれ落ちが生じ、使用性にやや問題があるレベル
×:歯ブラシ上でジェルペーストの形状が崩れ、歯ブラシからたれ落ち、使用性に問題がある
【0075】
(3)曳糸性評価
試験歯磨剤組成物を口内径2mmΦのラミネートチューブに充填し、歯磨剤をチューブより歯ブラシ上に約0.4g載せた後、上方向にチューブと歯ブラシを引き離した際の製剤の切れ(曳糸性)を試験した。曳糸性とは、チューブから取り出した時、歯磨剤組成物が糸を引くように伸びる性状をいい、その長さを測定することで評価することができ、評価基準は下記の通りである。
【0076】
〔曳糸性の評点基準〕
◎:曳糸性が0.5cm未満であり、切れが良い
○:0.5cm以上、0.7cm未満の曳糸性が認められるが、使用上問題ない
△:0.7cm以上、1cm未満の曳糸性が認められ、使用上にやや問題がある
×:1cm以上の曳糸性が認められ、使用上問題がある
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
(結果と考察)
(A)成分、(B)成分、(C)成分、(d1)成分及び(d2)成分を含む実施例1〜25の歯磨剤では、溶出カルシウム量が20μg未満(評価結果が○又は◎)で、歯ブラシからたれ落ちない保型性を有し(評価結果が○又は◎)で、曳糸性が1cm未満(評価結果が○又は◎)という結果が得られた。
一方、(A)成分を含まない比較例1の歯磨剤、(B)成分を含まない比較例2の歯磨剤及び(C)成分を含まない比較例3の歯磨剤では、溶出カルシウム量が20μg以上(評価結果が△か×)、(d1)成分を含まない比較例4の歯磨剤、(d2)成分を含まない比較例5の歯磨剤、(d1)成分及び(d2)成分を含まない比較例6の歯磨剤では、保型性および曳糸性に問題がある(評価結果が△か×)という結果が得られた。
この結果から、ピロリドンカルボン酸及び/又はその塩[(A)成分]と、カルボキシメチルセルロースナトリウム[(B)成分]と、水溶性フッ素化合物[(C)成分]と、吸液量が3.5mL/g以上の増粘性シリカ[(d1)成分]及び吸液量が2.0mL/g〜3.0mL/gの増粘性シリカ[(d2)成分]と、を含有し、研磨剤の含有量が5質量%以下である組成物を用いることにより、溶出カルシウム量を減らすことができ、これにより、象牙質う蝕抑制効果を発揮し、かつ、保型性及び曳糸性に優れた組成物を提供することができるということがわかった。
また、実施例の歯磨剤は、チューブからの押し出し性に問題はなかった。さらに、D成分の量、A/Bが好ましい範囲であるものは、チューブからの押し出し性が特に良好であった。