(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647035
(24)【登録日】2020年1月16日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】燃料噴射弁、及び燃料噴射弁の製造方法
(51)【国際特許分類】
F02M 61/16 20060101AFI20200203BHJP
F02M 51/06 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
F02M61/16 W
F02M61/16 J
F02M61/16 K
F02M51/06 M
F02M51/06 U
F02M61/16 P
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-250748(P2015-250748)
(22)【出願日】2015年12月23日
(65)【公開番号】特開2017-115645(P2017-115645A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】魚住 保文
(72)【発明者】
【氏名】小川原 浩史
(72)【発明者】
【氏名】奥原 伸二
(72)【発明者】
【氏名】藤井 将太
【審査官】
小笠原 恵理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−094358(JP,A)
【文献】
特開2004−245168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 61/16
F02M 51/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータへの通電によって燃料噴射孔が開閉される燃料噴射弁であって、
前記アクチュエータに接続された配線が通る開口が形成された本体と、
前記開口を覆うモールド材と、
前記モールド材の外表面と前記本体の外表面とが接触する位置に配置されたシール部材と、
前記シール部材を、前記モールド材と前記本体との界面へ向かって圧力を加えて保持する保持部材と、
を備え、
前記保持部材は、
互いに対向する一対のアーム部と、
前記一対のアーム部の基端部同士を連結する連結部とを有し、
前記一対のアームの間に、前記モールド材と前記シール部材とを挟むクリップによって構成された
ことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
前記保持部材は、弾性変形による弾性力で前記モールド材と前記シール部材とを挟んで保持する
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
前記保持部材は、
前記一対のアーム部を複数備え、
複数の前記一対のアーム部の前記連結部が一体形成された
ことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
前記本体は、前記開口が側面に形成され、
前記モールド材は、前記開口を含む前記本体の側面を囲むように形成され、
前記シール部材は、前記モールド材の上面側と下面側とのそれぞれに設けられた
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項5】
アクチュエータへの通電によって燃料噴射孔が開閉される燃料噴射弁であって、
前記アクチュエータに接続された配線が通る開口が形成された本体と、
前記開口を覆うモールド材と、
前記モールド材の外表面と前記本体の外表面とが接触する位置に配置されたシール部材と、
前記シール部材を、前記モールド材と前記本体との界面へ向かって圧力を加えて保持する保持部材と、
を備え、
前記本体は、前記開口が側面に形成され、
前記モールド材は、前記開口を含む前記本体の側面を囲むように形成され、
前記シール部材は、前記モールド材の上面側と下面側とのそれぞれに設けられた
ことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項6】
前記本体は、外周が円形状に形成され、
前記シール部材は、Oリングである
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項7】
前記シール部材と前記保持部材との間に座金を備えた
ことを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項8】
アクチュエータへの通電によって燃料噴射孔が開閉される燃料噴射弁であって、
前記アクチュエータに接続された配線が通る開口が形成された本体と、
前記開口を覆うモールド材と、
前記モールド材の外表面と前記本体の外表面とが接触する位置に配置されたシール部材と、
前記シール部材を、前記モールド材と前記本体との界面へ向かって圧力を加えて保持する保持部材と、
を備え、
前記シール部材と前記保持部材との間に座金を備えた
ことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項9】
前記モールド材は、樹脂で形成され、
前記本体は、金属で形成されている
ことを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項10】
アクチュエータに接続された配線が通る開口が形成された本体と、前記開口を覆うモールド材とを備え、前記アクチュエータへの通電によって燃料噴射孔が開閉される燃料噴射弁の製造方法であって、
前記モールド材の外表面と前記本体の外表面とが接触する位置にシール部材を配置する工程と、
前記シール部材を、前記モールド材と前記本体との界面へ向かって圧力を加えて保持する保持部材を取り付ける工程と、
を有し、
前記保持部材は、
互いに対向する一対のアーム部と、
前記一対のアーム部の基端部同士を連結する連結部とを有し、
前記一対のアームの間に、前記モールド材と前記シール部材とを挟むクリップによって構成された
ことを特徴とする燃料噴射弁の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁(インジェクタ)、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料噴射弁においては、噴孔を開閉させるためのピエゾアクチュエータ等を収容するボディーと、このボディーと回路部品との間に介在するよう配置されたモールド樹脂とを備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この燃料噴射弁においては、ボディーの外周面とモールド樹脂の内周面との間がOリングによって環状にシールされ、水の侵入を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−114970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、ピエゾアクチュエータ等のアクチュエータに接続された配線が通る本体の開口は、例えば樹脂により形成されたモールド材などにより覆われ、本体内部への水分の浸入が抑制されている。また、本体内の開口からアクチュエータへ至る経路にはシリコンシーリングなどが施されて、アクチュエータへの水分の侵入が抑制されている。このような構成によれば、耐水性に関する規格(例えば、日本工業規格:水に対する保護等級)を満たし、通常想定される使用環境において耐水性を十分に確保することができる。
しかしながら、例えばエンジンルームが水で頻繁に洗浄される場合など、燃料噴射弁が想定以上の水分に曝される場合がある。このため、更なる耐水性の向上が望まれている。
【0005】
上記特許文献1に記載の燃料噴射弁は、ボディーの外周面とモールド樹脂の内周面との間にOリングを設けている。即ち、ボディーとモールド樹脂との界面にOリングを配置するので構成が複雑となる課題がある。また、モールド樹脂を覆うコネクタハウジングとボディーとの間にはOリングが配置されていないため、モールド樹脂とコネクタハウジングとの界面から水分が侵入する課題がある。
【0006】
本発明は、上記のような課題を背景になされたもので、簡易な構成により耐水性を向上することができる燃料噴射弁及び燃料噴射弁の製造方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る燃料噴射弁は、アクチュエータへの通電によって燃料噴射孔が開閉される燃料噴射弁であって、前記アクチュエータに接続された配線が通る開口が形成された本体と、前記開口を覆うモールド材と、前記モールド材の外表面と前記本体の外表面とが接触する位置に配置されたシール部材と、前記シール部材を、前記モールド材と前記本体との界面へ向かって圧力を加えて保持する保持部材と、を備えたものである。
【0008】
本発明に係る燃料噴射弁の製造方法は、アクチュエータに接続された配線が通る開口が形成された本体と、前記開口を覆うモールド材とを備え、前記アクチュエータへの通電によって燃料噴射孔が開閉される燃料噴射弁の製造方法であって、前記モールド材の外表面と前記本体の外表面とが接触する位置にシール部材を配置する工程と、前記シール部材を、前記モールド材と前記本体との界面へ向かって圧力を加えて保持する保持部材を取り付ける工程と、を有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、モールド材の外表面と本体の外表面とが接触する位置にシール部材を配置し、保持部材によって、シール部材をモールド材と本体との界面へ向かって圧力を加えて保持するので、簡易な構成により耐水性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る燃料噴射弁の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】実施の形態1に係る燃料噴射弁の概略構成を示す分解斜視図である。
【
図3】実施の形態1に係る燃料噴射弁の概略構成を示す要部断面図である。
【
図4】実施の形態1に係る燃料噴射弁の概略構成を示す要部上面図である。
【
図5】アクチュエータへの水分の侵入経路を説明する図である。
【
図6】実施の形態2に係る燃料噴射弁の概略構成を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の燃料噴射弁に関する実施の形態について具体的に説明する。ただし、この実施の形態は本発明の一態様を示すものであり、本発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。
なお、以下の各実施の形態においては、燃料噴射孔が形成された側の端部を燃料噴射弁の下端とし、燃料噴射孔側の端部とは反対側の端部を燃料噴射弁の上端として、燃料噴射弁を説明していく。
【0012】
実施の形態1.
(構成)
図1は、実施の形態1に係る燃料噴射弁の概略構成を示す斜視図である。
図2は、実施の形態1に係る燃料噴射弁の概略構成を示す分解斜視図である。
図3は、実施の形態1に係る燃料噴射弁の概略構成を示す要部断面図である。
図4は、実施の形態1に係る燃料噴射弁の概略構成を示す要部上面図である。
図1〜
図4に示すように、本実施の形態1に係る燃料噴射弁1は、下端に燃料噴射孔120が形成された本体100を備えている。本体100は、例えば外周が円形状に形成されている。また本体100は、例えば金属で形成されている。本体100の上端側には、燃料噴射孔120に燃料を供給する燃料供給用接続口150と、燃料噴射孔120から噴射されなかった余剰燃料を外部に排出するための燃料排出用接続口140が設けられている。
【0013】
本体100の内部には、通電によって燃料噴射孔120を開閉するアクチュエータが収納されている。アクチュエータとしては、ピエゾスタックの伸縮に伴う変位を利用してニードルを駆動するピエゾアクチュエータを用いることができる。本体100の側面には、開口101が形成され、アクチュエータへ給電する配線210が配設されている。開口101は、本体100の下端側へ向かって傾斜し、アクチュエータへ至る。配線210は、一端がアクチュエータと電気的に接続され、他端がコネクタ130の端子と電気的に接続されている。また、配線210は、本体100の開口101に設けられた接合部材200に保持されている。この接合部材200は、本体100の開口101からアクチュエータへ至る経路の一部に設けられ、配線210を開口の中央部に保持する。
【0014】
本体100の開口101は、モールド材110によって覆われている。例えば、モールド材110は、本体100の開口101を含む本体100の側面を囲むように形成されている。モールド材110は、例えば樹脂で形成されている。なお、開口101を覆うモールド材110と、コネクタ130とを例えば一体形成しても良い。
【0015】
モールド材110の外表面と本体100の外表面とが接触する位置には、シール部材30が配置されている。シール部材30としては、例えばゴム材料のOリングを用いる。本実施の形態1の燃料噴射弁1は、
図3に示すように、モールド材110が、本体100の側面を囲むように形成されている。即ち、モールド材110の上面側の外表面と本体100の外表面とが接触する位置A、及びモールド材110の下面側の外表面と本体100の外表面とが接触する位置Bのそれぞれにシール部材30が配置されている。
【0016】
シール部材30は、保持部材10によって、モールド材110と本体100との界面へ向かって圧力を加えて保持されている。本実施の形態1においては、保持部材10は、例えば、弾性変形による弾性力でモールド材110とシール部材30とを挟んで保持するクリップによって構成されている。具体的には、保持部材10は、互いに対向する一対のアーム部11a、11bと、一対のアーム部11a、11bの基端部同士を連結する連結部12とを有している。また、保持部材10は、一対のアーム部11a、11bを二つ備え、これらの連結部12が一体形成されている。このような構成により、保持部材10は、一対のアーム部11a、11bと互いに離れる方向に弾性変形した際の弾性力により、モールド材110と本体100との界面へ向かって圧力を加えてシール部材30を保持する。
【0017】
シール部材30と保持部材10との間には、座金20が配設されている。座金20は、シール部材30の形状に対応した形状を有している。例えば、本体100の外周が円形状であり、シール部材30が円形形状(Oリング)である場合には、平面視においてシール部材30を覆う大きさの円形形状を有している。
保持部材10の一対のアーム部11a、11bは、それぞれ座金20に当接して、座金20を介してシール部材30を保持する。このような構成により、保持部材10からの圧力が一箇所に集中することがなく、シール部材30の全体に保持部材10からの圧力を与えることができる。
【0018】
なお、本実施の形態1においては、保持部材10は、一対のアーム部11a、11bを二つ備え、これらの連結部12が一体形成されているが、本発明はこれに限定されず、任意の数のアーム部を備え、一部または全てが独立して形成されても良い。即ち、保持部材10は、弾性変形による弾性力でモールド材110とシール部材30とを挟んで保持する構成で有ればよい。
【0019】
(製造方法)
次に、本実施の形態1における燃料噴射弁1の製造方法を説明する。
まず、モールド材110によって開口101が覆われた本体100を製造する。なお、本体100の構成のみにおいても、モールド材110によって本体100内部への水分の浸入が抑制されている。例えば、耐水性に関する規格(例えば、日本工業規格:水に対する保護等級)などを満たす耐水性が確保されている。
【0020】
次に、本体100の上端からシール部材30を通し、モールド材110の外表面と本体100の外表面とが接触する位置Aにシール部材30を配置する。更に、本体100の上端から座金20を通し、シール部材30に接触させる。また、本体100の下端からシール部材30を通し、モールド材110の外表面と本体100の外表面とが接触する位置Bにシール部材30を配置する。更に、本体100の下端から座金20を通し、シール部材30に接触させる。
【0021】
次に、保持部材10の一対のアーム部11a、11bを互いに離れる方向に弾性変形させ、一対のアーム部11a、11bを、本体100の上端側に配置された座金20と下端側に配置された座金20とに当接させる。これにより、シール部材30は、モールド材110と本体100との界面へ向かって圧力が加えられる。
【0022】
このように、シール部材30及び保持部材10を本体100に取り付ける工程においては、本体100に対して加工等を行うことなく本体100に取り付けることが可能である。即ち、既設の製造工程に加えて、シール部材30及び保持部材10を本体100に取り付ける工程を追加することが可能である。
【0023】
(作用)
ここで、本体100にシール部材30を取り付けていない構成における水の侵入経路について説明する。
【0024】
図5は、アクチュエータへの水分の侵入経路を説明する図である。
燃料噴射弁1を構成する各部の材料は、エンジンの駆動に伴う熱により膨張し、エンジンの停止に伴い冷却され収縮する。燃料噴射弁1の本体100は例えば金属で形成され、モールド材110は例えば樹脂で形成された場合、線膨張係数の違いにより、本体100とモールド材110との界面に隙間が発生する場合がある。
図5に示すように、本体100とモールド材110との界面の端部(位置A及び位置B)に水分が残留していると、本体100とモールド材110との界面に発生した隙間を伝って、開口101からアクチュエータへ至る経路に水分(水及び水蒸気)が侵入する場合がある。
【0025】
一方、本実施の形態1の燃料噴射弁1は、モールド材110の外表面と本体100の外表面とが接触する位置に配置されたシール部材30と、シール部材30を、モールド材110と本体100との界面へ向かって圧力を加えて保持する保持部材10とを備えている。このため、本体100とモールド材110との界面に隙間が発生した場合であっても、本体100とモールド材110との界面の端部(位置A及び位置B)をシール部材30によって密閉することができ、耐水性を向上することができる。
【0026】
また、本実施の形態1の燃料噴射弁1においては、保持部材10は、弾性変形による弾性力でモールド材110とシール部材30とを挟んで保持する。
このため、シール部材30及び保持部材10を本体100に取り付けるための加工を本体100に施す必要が無く、簡易な構成により耐水性を向上することができる。
【0027】
なお、本実施の形態1では、モールド材110は、本体100の開口101を含む本体100の側面を囲むように形成され、モールド材110と本体100との界面の端部が、上面側と下面側とに形成された構成であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、燃料供給用接続口150が本体100の側面に設けられた燃料噴射弁1において、燃料供給用接続口150よりも上方の本体100の側面と上端部とをモールド材110で覆う構成においても、本発明を適用することが可能である。即ち、保持部材10のアーム部11aを、モールド材110で覆われた本体100の上端部に当接させ、アーム部11bを、モールド材110の下面側に配置された座金20に当接させ、シール部材30を保持する構成としても良い。
【0028】
実施の形態2.
以下、実施の形態2に係る燃料噴射弁1を上記実施の形態1との相違点を中心に説明する。なお、本実施の形態2において、特に記述しない項目については実施の形態1と同様とし、同一の機能や構成については同一の符号を用いて述べることとする。
【0029】
図6は、実施の形態2に係る燃料噴射弁の概略構成を示す要部断面図である。
図6に示すように、本実施の形態2における保持部材21は、環状に形成され、内周部から外周部へ向かって傾斜した皿ばね状に構成されている。本体100の外周には、保持部材21が係合する環状の溝102が形成されている。このような構成により、保持部材21が溝102に係合されることで、弾性変形による弾性力によって保持部材21はシール部材30を押圧する。
【0030】
このような構成により、本体100とモールド材110との界面の端部(位置A及び位置B)をシール部材30によって密閉することができ、耐水性を向上することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 燃料噴射弁、10 保持部材、11a、11b アーム部、12 連結部、20 座金、21 保持部材、30 シール部材、100 本体、101 開口、102 溝、110 モールド材、120 燃料噴射孔、130 コネクタ、140 燃料排出用接続口、150 燃料供給用接続口、200 接合部材、210 配線。