(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のゴム組成物は、繊維状のチタン酸塩化合物粒子を用いているうえに、ウェットグリップ性は十分ではなく、チタン酸塩化合物粒子の分散性も十分ではない。また、非繊維状のチタン酸塩化合物粒子を、摩擦調整材としての機能を期待してゴム成分に配合し、それをタイヤに用いることは知られていない。
【0006】
本発明の目的は、非繊維状のチタン酸塩化合物粒子が配合されてなり、該チタン酸塩化合物粒子の分散性が優れ、かつ優れたウェットグリップ性を有するゴム組成物、及びそれを用いたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のゴム組成物及びそれを用いたタイヤを提供する。
【0008】
項1 ゴム成分に、平均粒子径が5.0μm未満であって、比表面積が4m
2/g以上である非繊維状チタン酸塩化合物粒子が配合されてなる、ゴム組成物。
【0009】
項2 前記非繊維状チタン酸塩化合物粒子を構成するチタン酸塩化合物が、組成式A
2Ti
nO
(2n+1)〔式中、Aはアルカリ金属から選ばれる1種又は2種以上、n=2〜8〕、R
xM
yTi
(2−y)O
4〔式中、Rはリチウムを除くアルカリ金属、Mはリチウム、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、銅、鉄、アルミニウム、ガリウム、及びマンガンから選ばれる1種又は2種以上、x=0.5〜1.0、y=0.25〜1.0〕、K
0.5〜0.8Li
0.27Ti
1.73O
3.85〜3.95、及びK
0.2〜0.8Mg
0.4Ti
1.6O
3.7〜3.95から選ばれる少なくとも1種である、項1に記載のゴム組成物。
【0010】
項3 前記ゴム成分がジエン系ゴムである、項1又は2に記載のゴム組成物。
【0011】
項4 前記非繊維状チタン酸塩化合物粒子の配合量が、ゴム成分100質量部に対して1〜200質量部である、項1〜3のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【0012】
項5 タイヤトレッド用である、項1〜4のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【0013】
項6 項1〜4のいずれか一項に記載のゴム組成物をトレッド部に用いてなる、タイヤ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、チタン酸塩化合物粒子の分散性が優れ、かつ優れたウェットグリップ性を有するゴム組成物、及びそれを用いたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分に、平均粒子径が5.0μm未満であって、比表面積が4m
2/g以上である非繊維状チタン酸塩化合物粒子が配合されてなり、必要に応じて、その他材料をさらに含有することができる。本発明によれば、ゴム組成物の調製時において、また調製後のゴム組成物において、チタン酸塩化合物粒子の分散性が優れ、優れたウェットグリップ性を有するゴム組成物、及びそれを用いたタイヤを提供することができる。そして、非繊維状のチタン酸塩化合物粒子(非繊維状チタン酸塩化合物粒子)を用いていることからタイヤ摩耗粉にチタン酸塩化合物粒子由来の繊維状物が含まれるおそれがない。
【0018】
本発明のゴム組成物に用いるゴム成分は特に限定されないが、強度に優れている観点からジエン系ゴムを用いることが好ましい。ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、又はクロロプレンゴム(CR)等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を含むゴム成分が好ましい。低い転がり抵抗と高いウェットグリップ性とのバランスの観点から、スチレンブタジエンゴム(SBR)を用いることが特に好ましい。
【0019】
本発明に用いるチタン酸塩化合物粒子としては、平均粒子径が5.0μm未満であって、比表面積が4m
2/g以上である球状、層状、板状、柱状、ブロック状、不定形状等の繊維状でない非繊維状の粒子であれば、公知のチタン酸塩化合物粒子の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。
【0020】
本発明で用いるチタン酸塩化合物粒子の平均粒子径は、5.0μm未満であって、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.6μm以上、好ましくは3.0μm以下、より好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1.0μm以下である。平均粒子径を、このような範囲に調整することにより、より一層優れた分散性及びウェットグリップ性を得ることができる。本発明において平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%の粒子径を意味する。
【0021】
本発明で用いるチタン酸塩化合物粒子の比表面積(BET法)は、4m
2/g以上であり、好ましくは5〜300m
2/gであり、より好ましくは6〜100m
2/gである。比表面積を、このような範囲に調整することにより、より一層優れた分散性及びウェットグリップ性を得ることができる。
【0022】
本発明に用いるチタン酸塩化合物粒子を構成するチタン酸塩化合物としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の群から選ばれる少なくとも1種の元素の塩であることが好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、又はフランシウムが挙げられ、好ましくはリチウム、ナトリウム、又はカリウムである。アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、又はラジウムが挙げられ、好ましくはマグネシウム、又はカルシウムである。
【0023】
上記チタン酸塩化合物の具体例としては、例えば、組成式A
2Ti
nO
(2n+1)〔式中、Aはアルカリ金属から選ばれる1種又は2種以上、n=2〜8〕、R
xM
yTi
(2−y)O
4〔式中、Rはリチウムを除くアルカリ金属、Mはリチウム、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、銅、鉄、アルミニウム、ガリウム、及びマンガンから選ばれる1種又は2種以上、x=0.5〜1.0、y=0.25〜1.0〕、K
0.5〜0.8Li
0.27Ti
1.73O
3.85〜3.95、又はK
0.2〜0.8Mg
0.4Ti
1.6O
3.7〜3.95等で表されるチタン酸塩化合物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。また、これらの中でも結晶構造がトンネル構造のA
2Ti
nO
(2n+1)〔式中、Aはアルカリ金属から選ばれる1種又は2種以上、n=2〜8〕で表されるチタン酸塩化合物が好ましく、具体的には、Na
2Ti
6O
13、Na
2Ti
8O
17、K
2Ti
6O
13、又はK
2Ti
8O
17等を挙げることができる。トンネル構造にすることで、チタン酸塩化合物からのアルカリの溶出を抑えることできる。
【0024】
チタン酸塩化合物は、水分散pHが7〜11であることが好ましい。チタン酸塩化合物の水分散pHを、このような範囲内にすることにより、チタン酸塩化合物に含まれる酸性不純物による耐摩耗性の低下を抑制することができる。本発明において水分散pHとは、チタン酸塩化合物を20℃の水に分散させて得られる1質量%スラリーのpHのことをいう。
【0025】
本発明で用いるチタン酸塩化合物粒子は、分散性の向上、ゴム成分との密着性の向上等を目的として、シランカップリング剤等により表面処理を常法に従って施されてもよい。
【0026】
本発明で用いるチタン酸塩化合物粒子の製造方法としては、上述の組成、特性を得ることができれば特に制限されないが、例えば、チタン酸塩化合物の結晶粒が焼結及び/又は融着等により結合してなる多孔質チタン酸塩化合物粒子であって、細孔直径0.01〜1.0μmの範囲の積算細孔容積が5%以上である多孔質チタン酸塩化合物粒子を、公知の方法で乾式粉砕処理又は湿式粉砕処理し、必要に応じて更に乾式分級処理又は湿式分級処理することにより、平均粒子径及び比表面積を調整して製造することができる。上記の多孔質チタン酸塩化合物粒子を粉砕することにより、非繊維状の微粒子を容易に製造できるためである。また、微細なチタン酸塩化合物の粒子が焼結及び/又は融着等により結合してなる多孔質チタン酸塩化合物粒子であることから、ゴム組成物の混練時のせん断力により、更に微細になり、ゴム組成物中に均一に分散するものと考えられる。
【0027】
上記多孔質チタン酸塩化合物粒子の積算細孔容積は、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上である。上記積算細孔容積の好ましい上限値は40%であり、より好ましくは30%である。上記積算細孔容積が小さすぎると、微細粒子の製造が困難な場合がある。上記積算細孔容積が大きすぎると、多孔質チタン酸塩化合物粒子の結晶粒間の結合部分が弱くなり、多孔質構造が保てなくなる場合がある。上記積算細孔容積は、水銀圧入法により測定することができる。
【0028】
また、多孔質チタン酸塩化合物粒子の比表面積は、1〜13m
2/gの範囲内であることが好ましく、3〜9m
2/gの範囲内であることがより好ましい。上記比表面積が小さすぎると、微細粒子の製造が困難な場合がある。上記比表面積が大きすぎると、焼成工程における化学反応が完結していない場合がある。
【0029】
多孔質チタン酸塩化合物粒子の粒子形状は、球状、不定形状等の粉末状であることが好ましく、非繊維状であることが好ましい。特に、球状であることが好ましい。
【0030】
多孔質チタン酸塩化合物粒子の粒子サイズは特に制限されないが、平均粒子径が5〜500μmであることが好ましく、10〜300μmであることがより好ましい。これらの各種粒子形状及び粒子サイズは、製造条件、特に原料組成、焼成条件、粉砕処理条件等により任意に制御することができる。
【0031】
上記多孔質チタン酸塩化合物粒子の製造方法は、上述の特性を得ることができれば特に制限されないが、例えば、チタン源とアルカリ金属塩をメカニカルに粉砕をすることで得られる粉砕混合物を、乾式造粒し、焼成して製造する方法等を例示することができる。
【0032】
メカニカルな粉砕としては、物理的な衝撃を与えながら粉砕する方法が挙げられる。具体的には、振動ミルによる粉砕が挙げられる。振動ミルによる粉砕処理を行うことにより、混合粉体の摩砕によるせん断応力により、原子配列の乱れと原子間距離の減少が同時に起こり、異種粒子の接点部分の原子移動が起こる結果、準安定相が得られると考えられる。これにより、反応活性の高い粉砕混合物が得られ、後述の焼成温度を低くでき、粉砕混合物を造粒しても未反応物を低減することができる。メカニカルな粉砕は、原料に効率良くせん断応力を与えるため、水や溶剤を用いない乾式処理が好ましい。
【0033】
メカニカルな粉砕による処理時間は、特に制限されるものではないが、一般に0.1〜2時間の範囲内であることが好ましい。
【0034】
粉砕混合物の造粒は、水及び溶剤を用いない乾式造粒で行われる。乾式造粒は、公知の方法で行うことができ、例えば転動造粒、流動層造粒、攪拌造粒等を例示することができる。湿式造粒は、造粒物の乾燥工程において、造粒物内部での液状物の気化に伴い、結果として内部に大きな空洞を有する多孔質粒子が得られ、粉体強度が低下するため好ましくない。また、水及び溶媒を気化させるために加熱が必要となり、量産性も悪い。
【0035】
造粒物を焼成する温度としては、目的とする多孔質チタン酸塩化合物の組成により適宜選択することができるが、650〜1000℃の範囲であることが好ましく、800〜950℃の範囲であることがさらに好ましい。焼成時間は、0.5〜8時間であることが好ましく、2〜6時間であることがさらに好ましい。
【0036】
チタン源としては、チタン元素を含有して焼成による酸化物の生成を阻害しない原材料であれば特に限定されないが、例えば空気中で焼成することにより酸化チタンに導かれる化合物等がある。かかる化合物としては、例えば酸化チタン、ルチル鉱石、水酸化チタンウェットケーキ、含水チタニア等が挙げられ、酸化チタンが好ましい。
【0037】
アルカリ金属塩としては、アルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酢酸塩等の有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩等があるが、炭酸塩が好ましい。
【0038】
チタン源とアルカリ金属塩の混合比は、目的とするチタン酸塩化合物の組成により適宜選択することができる。
【0039】
本発明のゴム組成物におけるチタン酸塩化合物粒子の配合量は、ゴム成分100質量部に対して1〜200質量部であることが好ましく、20〜60質量部であることがより好ましい。この範囲とすることでより一層優れたウェットグリップ性を得ることができる。
【0040】
本発明のゴム組成物には、補強性充填材として、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム又は酸化チタン等を配合することができる。これら補強性充填材は、いずれか1種又は2種以上を混合して使用することができ、上記のうちでも、カーボンブラック又はシリカを好適に用いることができる。補強性充填材の総配合量は、ゴム成分100質量部に対し、好ましくは5〜200質量部、より好適には30〜100質量部である。
【0041】
本発明のゴム組成物には、上記各成分に加えて、ゴム業界で通常使用されるゴム薬品を適宜配合することができる。具体的には例えば、プロセスオイル等の軟化剤、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、ステアリン酸、亜鉛華(酸化亜鉛)、スコーチ防止剤等を、必要に応じて、通常使用される配合量の範囲内で配合することができる。
【0042】
本発明のゴム組成物は、ロール等の開放式混練機や、バンバリーミキサー等の密閉式混練機等の混練機を用いて混練することによって得られ、成形加工後に加硫を行うことで、各種ゴム製品に適用することが可能である。本発明のゴム組成物は、特に、タイヤ用途として、タイヤトレッド、アンダートレッド、カーカス、サイドウォール、ビード部等の各部材に用いることができ、これらの中でも、優れたウェットグリップ性を発揮できることから、タイヤトレッド用ゴムとして好適に使用される。
【0043】
本発明のタイヤは、上記本発明のゴム組成物をトレッド部に使用した点に特徴を有し、これにより、優れたウェットグリップ性を備えるものである。本発明のタイヤにおいては、上記本発明のゴム組成物をトレッド部に用いる以外の点については特に制限はなく、常法に従い適宜構成することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することができる。
【0045】
(実施例1及び比較例1〜6)
加硫促進剤と硫黄を除く表1に記載の成分を1.5Lの密閉型ミキサーで3〜5分間混練し、140〜170℃に達したときに放出したマスターバッチに表1に記載の割合で加硫促進剤と硫黄を添加して10インチのオープンロールで混練し、組成物を得た。この組成物を金型中で150℃、40分間プレス加硫して目的とするゴム組成物の試験サンプルを作製した。
【0046】
ゴム組成物に用いたフィラーは、表2に記載の組成式、平均粒子径等のフィラーを用いた。なお、比較例6では、比重の小さいカーボンブラックを用いているため、表1に示すように、他のフィラーと体積が同じとなるように、カーボンブラックの配合量を調整した。また、フィラーA及びフィラーBは以下のとおり製造した。
【0047】
【表1】
【0048】
(比較製造例:フィラーB)
Ti:K=3:1(モル比)となるように秤量した酸化チタン及び炭酸カリウムを振動ミルにて粉砕しながら10分間混合した。得られた粉砕混合物をハイスピードミキサーにて乾式造粒した後、電気炉にて850℃で4時間焼成することで粉末を得た。
【0049】
得られた粉末は、X線回折測定装置(リガク社製、UltimaIV)により、K
2Ti
6O
13の単相であることを確認した。平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、SALD−2100)により測定し、比表面積はJIS Z8830により準拠して測定し、また、固め比重は粉体特性評価装置(ホソカワミクロン社製、パウダテスタPT−S)により測定し、水分散pHはサンプル(粉末)1gを蒸留水100mLに加えて調製したスラリーのpH(温度20℃)をpHメーター(堀場製作所社製、F21)にて測定し、結果を表2に示した。
【0050】
得られた粉末の形状は、電界放出型走査電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ社製、S−4800)を用いて、微粒子間に1μmに満たない微細な空隙を有する非繊維状粒子であることを確認した。
図1に粒子全体のSEM写真を示した。なお、
図1は、比較製造例のチタン酸塩化合物粒子を示すSEM写真(走査電子顕微鏡写真)である。
【0051】
得られた粉末の細孔は、0.01〜1.0μmの細孔直径範囲にある積算細孔容積は21.1%、細孔分布の極大値は0.11μmであった。
【0052】
(製造例:フィラーA)
比較製造例で得られたフィラーBを、振動ミルにより乾式粉砕し、得られた粉砕物を水簸分級法により分級し粉末を得た。このようにして製造したフィラーAの形状は、SEMを用いて、非繊維状粒子であることを確認した。
【0053】
平均粒子径、比表面積、固め比重、及び水分散pHを測定し、結果を表2に示した。
【0054】
(評価方法)
1)ウェットグリップ性:ブリティッシュ・ポータブル・スキッドテスターを用いて、室温(25℃)の条件で測定し、比較例5を100として指数表示した。数値が大きい程、ウェットグリップ性が優れていることを示す。
【0055】
2)充填材の分散性:ウェットグリップ性測定用試験サンプルをSEMで観察し、以下の基準によって評価した。
【0056】
○:充填材の不良分散塊がなく良好なもの
△:不良分散塊が数箇所見られるもの
×:不良分散塊が目立ち、明らかに分散状態が良くないもの
【0057】
【表2】