特許第6647060号(P6647060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人横浜国立大学の特許一覧 ▶ DOWAホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6647060-NdとDyの分離、回収方法 図000013
  • 特許6647060-NdとDyの分離、回収方法 図000014
  • 特許6647060-NdとDyの分離、回収方法 図000015
  • 特許6647060-NdとDyの分離、回収方法 図000016
  • 特許6647060-NdとDyの分離、回収方法 図000017
  • 特許6647060-NdとDyの分離、回収方法 図000018
  • 特許6647060-NdとDyの分離、回収方法 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647060
(24)【登録日】2020年1月16日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】NdとDyの分離、回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20200203BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20200203BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20200203BHJP
   C22B 3/38 20060101ALI20200203BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20200203BHJP
   C25C 1/22 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   C22B59/00
   C22B3/06
   C22B3/26
   C22B3/38
   C22B3/44 101A
   C25C1/22
【請求項の数】14
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2016-18984(P2016-18984)
(22)【出願日】2016年2月3日
(65)【公開番号】特開2016-156089(P2016-156089A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2018年12月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-32290(P2015-32290)
(32)【優先日】2015年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】松宮 正彦
(72)【発明者】
【氏名】川上 智
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−101577(JP,A)
【文献】 特開2013−155411(JP,A)
【文献】 特開2007−327085(JP,A)
【文献】 特開昭55−147104(JP,A)
【文献】 特表平10−501732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオジム(Nd)とジスプロシウム(Dy)を電解析出させることにより、鉄、ホウ素、及びNdとDyを含有する資源からNdとDyを分離、回収する方法であって、
資源から鉄、ホウ素、及びNd、Dyを酸溶液である水相溶液へと溶出させる溶出工程と、
ゲーサイト及び水酸化鉄(III)を前記水相溶液から分離する脱鉄工程と、
前記水相溶液中のDyを有機相溶液へと選択的に抽出する正抽出工程と、
前記有機相溶液中のDyをDy抽出用溶液へと選択的に抽出する逆抽出工程と、
前記Dy抽出用溶液を濃縮させることによりDy金属塩を生成するDy金属塩生成工程と、
前記Dy金属塩からDyを電解析出させるDy電解析出工程と、
を順に行い、且つ、
前記逆抽出工程の後の前記水相溶液中のホウ素を選択的に除去するホウ素分離工程と、
前記ホウ素分離工程後の水相溶液を濃縮させることによりNd金属塩を生成するNd金属塩生成工程と、
前記Nd金属塩からNdを電解析出させるNd電解析出工程と、
を順に行うことを特徴とする、NdとDyの分離、回収方法。
但し、前記有機相溶液は、酸性有機リン酸化合物又はトリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物により構成されるキレート抽出剤を含有し、前記Dy抽出用溶液は、イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有する酸媒体により構成されるものである。
【請求項2】
少なくとも以下のいずれかを行うことを特徴とする、請求項1に記載のNdとDyの分離、回収方法。
(1)前記Dy電解析出工程において、前記Dy金属塩をアルカリ金属塩に溶解させて電解浴として使用する。
(2)前記Nd電解析出工程において、前記Nd金属塩をアルカリ金属塩に溶解させて電解浴として使用する。
【請求項3】
少なくとも以下のいずれかを行うことを特徴とする、請求項1に記載のNdとDyの分離、回収方法。
(1)前記Dy電解析出工程において、前記Dy金属塩をイオン液体に溶解させた液相を電解浴として使用する。
(2)前記Nd電解析出工程において、前記Nd金属塩をイオン液体に溶解させた液相を電解浴として使用する。
【請求項4】
前記キレート抽出剤が酸性有機リン酸化合物の場合、前記正抽出工程は0.2≦pH≦0.7の範囲内で行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のNdとDyの分離、回収方法。
【請求項5】
前記キレート抽出剤がトリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物の場合、前記正抽出工程は3.5≦pH≦4.0の範囲内で行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のNdとDyの分離、回収方法。
【請求項6】
前記キレート抽出剤がトリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物の場合、前記有機相溶液を構成する疎水性アニオン種及び前記Dy抽出用溶液を構成する疎水性アニオン種においても当該置換基を備えさせることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のNdとDyの分離、回収方法。
【請求項7】
前記水相溶液は鉱酸又はアミド系酸媒体であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のNdとDyの分離、回収方法。
【請求項8】
前記逆抽出工程は以下のいずれかの条件で行うことを特徴とする、請求項7に記載のNdとDyの分離、回収方法。
(1)前記正抽出工程で使用した前記水相溶液が鉱酸である場合は、前記Dy抽出用溶液の酸解離定数pKaを前記水相溶液の酸解離定数よりも小さくする。
(2)前記正抽出工程で使用した前記水相溶液がアミド系酸媒体である場合は、前記Dy抽出用溶液の酸濃度を前記水相溶液の酸濃度よりも大きくする。
【請求項9】
前記逆抽出工程は、前記アミド系酸媒体の濃度が2.0〜4.0Mの範囲内で行うことを特徴とする、請求項8に記載のNdとDyの分離、回収方法。
【請求項10】
前記正抽出工程において使用される前記キレート抽出剤は、前記NdとDyの分離、回収方法の一連のサイクル内における前記逆抽出工程の後の前記有機相溶液で使用したキレート抽出剤であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載のNdとDyの分離、回収方法。
【請求項11】
前記溶出工程及び前記脱鉄工程は、
前記資源から鉄及びNdとDyを水相溶液へと溶出させる際に、酸化磁粉を添加することにより前記水相溶液中のpHを上昇させて、Dyの選択浸出性を高めつつも前記水相溶液からゲーサイト及び水酸化鉄(III)を生成し、
前記ゲーサイト及び前記水酸化鉄(III)を前記水相溶液から分離することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載のNdとDyの分離、回収方法。
【請求項12】
前記酸化磁粉は、前記NdとDyの分離、回収方法の一連のサイクル内において分離された酸化磁粉であることを特徴とする、請求項11に記載のNdとDyの分離、回収方法。
【請求項13】
前記水相溶液はアミド系酸媒体であり、
各電解析出工程後の前記アルカリ金属塩を弱酸性の水溶液に溶解させた後、イオン交換処理により、前記アルカリ金属塩に残存していたアミド系酸媒体を再生する酸再生工程を導入した後、前記溶出工程にて当該アミド系酸媒体を再利用することを特徴とする、請求項2に記載のNdとDyの分離、回収方法。
【請求項14】
各電解析出工程後の前記イオン液体から不溶性物質を除去する洗浄工程を導入した後、前記正抽出工程にて当該イオン液体を再利用することを特徴とする、請求項3に記載のNdとDyの分離、回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネオジム(Nd)とジスプロシウム(Dy)の分離、回収方法に関する。詳しくは後述するが、本発明は、NdとDyの分離、回収方法のみならず、Dyの回収方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
レアメタルは資源的価値の高い白金族レアメタル6種、国家備蓄レアメタル9種、偏在性の高いレアアース(以降、「希土類元素」と示す)17種を総称する。レアメタルの中でも希土類元素はランタノイド系列の周期内で化学的性質が類似しており、電気化学的に極めて卑な元素群であることから、相互分離や金属精錬に困難を伴ってきた。近年、環境省では循環型社会形成推進研究事業として、2013年4月1日から施行された小型家電リサイクル法に基づき、使用済小型電子機器類からの希少金属の再資源化及び廃棄物処理技術の開発が重点化されてきている。
【0003】
また、希土類元素は自動車排ガス触媒、高性能研磨剤、強磁性磁石部材としての需要量が高く、製造工程内の二次廃棄物を産出させることなく、有用希少金属を再資源化する技術開発が重要視されている。このような時代の趨勢から、強磁性磁石部材としての再資源化には、希土類元素回収の対象媒体として、使用済小型電子機器類を利用する方法が有効である。この希土類元素を巡る需給バランスの安定化は、国家規模で重要な課題となっており、可能な限り、自国内で希土類元素を確保する手法が望まれている。
【0004】
使用済小型電子機器類における有効部材の一つが、Hard Disk Drive(HDD)の磁気ヘッドの駆動に用いられているVoice Coil Motor(VCM)である。このVCMは、扁平磁石とバックヨーク及びヨーク間を支える継鉄(ヨーク)とネオジム−鉄−ボロン(Nd−Fe−B)系希土類磁石から構成されている。VCMに使用されている希土類磁石重量は、HDDの厚みに応じてある程度の幅を有する。ただ、2.5inch−HDD用のVCMで1〜2g×2枚、3.5inch−HDD用のVCMで2〜10g×2枚に相当する重量が、標準的な希土類磁石重量である。また、VCM部材中の希土類含有量は生産された年代に大きく依存するものの、ネオジム含有量は重量平均で約26.0%、ジスプロシウム(Dy)含有量は約1.6%に相当する。このような希土類磁石部材中から希土類元素を回収する手法に関しては、環境負荷の低い回収方法が望まれている。
【0005】
なお、「希土類磁石」とは、希土類金属と3d遷移金属である鉄(Fe)やコバルト(Co)との金属間化合物を主成分とする磁石のことである。現在、我が国で実用化されている希土類磁石の組成としては、
1.NdFe14Bを代表とする2−14−1型ネオジム−鉄−ボロン系
2.SmCoを代表とする1−5型サマリウム−コバルト系
3.SmFe17を代表とするサマリウム−鉄−窒化化合物系
4.PrCoを代表とする1−5型プラセオジム−コバルト系
という4種類の磁石がある。
この中でネオジム−鉄−ボロン系磁石は最も強磁性であり、その保磁力増大の添加元素として重希土類元素(例えば、ジスプロシウム(Dy))が利用されている。
【0006】
一方、鉄族元素は、希土類磁石の被覆材に含まれていることが多い。ここで言う「鉄族元素」とは、周期表上で第4周期の第8、9、10族の元素、すなわち、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の三元素の総称である。この鉄族元素は全て3d遷移金属であり、常温、常圧で強磁性を示すことを特長とする。
【0007】
上記のような希土類磁石から希土類元素を金属もしくはイオン種の形態で回収する技術として、いくつかの手法が知られている。以下、その手法を列挙する。
【0008】
まず、疎水性イオン液体を希土類金属の抽出媒体として使用する方法もある(特許文献1参照)。この方法は、希土類元素を含む水溶液からなる水相溶液と疎水性イオン液体である有機相溶液を二相分離させた状態で、分配平衡により希土類元素をイオン種として有機相溶液へ抽出する方法である。
【0009】
なお、「イオン液体」とは、カチオン種とアニオン種の組合せからなる100℃以下の融点を有するイオン性化合物の総称であり、100℃以下の温度で液相を形成する融解塩のことを指す。イオン液体の蒸気圧は非常に低く、イオン液体は実質上、有害な蒸気を発生させない。その上、イオン液体はアニオン種を適切に選定することにより疎水性を発現し、かつイオン液体自体の高極性により無極性物質の溶解性を高める。
【0010】
また、希土類元素を電解析出させる方法としては、本出願人により公開された特許文献2に記載の発明も挙げられる。簡単に言うと、以下の通りである。
希土類磁石中の鉄の含有量が大きいため、電解析出工程のエネルギー投与量が多大になる。これに対し、電解析出による希土類元素の回収段階の電解浴に含まれる元素において、希土類元素以外の元素としては、希土類元素よりも電気化学的に卑な元素のみが含まれるようにする。具体的な手法としては、電解析出工程の前に、鉄を水酸化させて水酸化鉄(III)を沈殿させ、この沈殿を分離しておくという内容である。これにより、純度の高い希土類金属塩を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−327085号公報
【特許文献2】特開2014−101577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
希土類磁石から希土類元素を回収する技術は日々進化を遂げている一方、現在であっても種々の改善すべき点が存在する。
【0013】
例えば、特許文献1に代表される技術であって、水溶液とイオン液体の分配平衡を利用した溶媒抽出法の場合、溶媒中において安定した希土類固形物に転換するためには、蓚酸塩もしくは炭酸塩などに沈殿形成させる必要がある。さらには、希土類種を蓚酸塩もしくは炭酸塩として回収した場合でも、金属の形態に変えるためには、希土類塩を電解浴にして電解させるか、もしくは熱還元により活性金属と反応させる必要がある。すなわち、溶媒抽出法を単独で適用した場合では、希土類種を金属の形態として回収できない点が最大の課題である。
【0014】
特許文献2に記載の技術を採用すれば、純度の高い希土類金属塩が得られる。その一方、特許文献2に記載の技術を実際に運用する際、以下の知見が、本発明者の調べにより得られた。
【0015】
例えば希土類元素の中でもDyは、耐熱性を高め、強磁性体の保持力を向上させる目的でNd−Fe−B磁石に添加される。磁石を製造する工程では、Dy添加の際、Nd−Dy混合成分よりもDy単一成分の方が、組成比の制御が圧倒的に容易となる。
また、Dy金属は資源的価値が高く、貴金属であるAgと同程度に値する。
また、電解析出工程において、NdとDyの析出電位差を利用して、選択的に分離することは可能であるけれども、Dy金属を電解析出工程で回収する場合は、Nd金属を電解析出工程で先行分離しておく必要がある。そのため、Nd金属が残留する場合はDy電解回収時にNdが共析することが懸念される。
【0016】
以上、希土類磁石から希土類元素(特にDy)を回収する技術は、多くの技術者たちの手により日々進化を遂げている一方、上記の改善点もまた明らかになりつつある。上記の改善点を克服できれば、自国内で希土類元素を確保するための確固たる手法を確立することにつながり、産業の発達にも大きく寄与することになる。
【0017】
そこで本発明は、作業工程を簡素化しつつも、回収される希土類元素(NdやDy、特にDy、以降同様。)の品質を向上させる、イオン液体を利用した技術を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決すべく、本発明者は鋭意検討を行った。その結果、工程途中で溶媒抽出法を採用していながらも、得る対象であるDyは、最終的には有機相溶液ではなくDy抽出用溶液へと抽出させ、当該Dy抽出用溶液からDy金属塩を生成するという手法を想到した。
【0019】
上記の知見に基づき成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
ネオジム(Nd)とジスプロシウム(Dy)を電解析出させることにより、鉄、ホウ素、及びNdとDyを含有する資源からNdとDyを分離、回収する方法であって、
資源から鉄、ホウ素、及びNd、Dyを酸溶液である水相溶液へと溶出させる溶出工程と、
ゲーサイト及び水酸化鉄(III)を前記水相溶液から分離する脱鉄工程と、
前記水相溶液中のDyを有機相溶液へと選択的に抽出する正抽出工程と、
前記有機相溶液中のDyをDy抽出用溶液へと選択的に抽出する逆抽出工程と、
前記Dy抽出用溶液を濃縮させることによりDy金属塩を生成するDy金属塩生成工程と、
前記Dy金属塩からDyを電解析出させるDy電解析出工程と、
を順に行い、且つ、
前記逆抽出工程の後の前記水相溶液中のホウ素を選択的に除去するホウ素分離工程と、
前記ホウ素分離工程後の水相溶液を濃縮させることによりNd金属塩を生成するNd金属塩生成工程と、
前記Nd金属塩からNdを電解析出させるNd電解析出工程と、
を順に行うことを特徴とする、NdとDyの分離、回収方法である。
但し、前記有機相溶液は、酸性有機リン酸化合物又はトリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物により構成されるキレート抽出剤を含有し、前記Dy抽出用溶液は、イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有する酸媒体により構成されるものである。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明であって、
少なくとも以下のいずれかを行うことを特徴とする。
(1)前記Dy電解析出工程において、前記Dy金属塩をアルカリ金属塩に溶解させて電解浴として使用する。
(2)前記Nd電解析出工程において、前記Nd金属塩をアルカリ金属塩に溶解させて電解浴として使用する。
本発明の第3の態様は、第1の態様に記載の発明であって、
少なくとも以下のいずれかを行うことを特徴とする。
(1)前記Dy電解析出工程において、前記Dy金属塩をイオン液体に溶解させた液相を電解浴として使用する。
(2)前記Nd電解析出工程において、前記Nd金属塩をイオン液体に溶解させた液相を電解浴として使用する。
本発明の第4の態様は、第1〜第3のいずれかの態様に記載の発明であって、
前記キレート抽出剤が酸性有機リン酸化合物の場合、前記正抽出工程は0.2≦pH≦0.7の範囲内で行うことを特徴とする。
本発明の第5の態様は、第1〜第3のいずれかの態様に記載の発明であって、
前記キレート抽出剤がトリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物の場合、前記正抽出工程は3.5≦pH≦4.0の範囲内で行うことを特徴とする。
本発明の第6の態様は、第1〜第5のいずれかの態様に記載の発明であって、
前記キレート抽出剤がトリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物の場合、前記有機相溶液を構成する疎水性アニオン種及び前記Dy抽出用溶液を構成する疎水性アニオン種においても当該置換基を備えさせることを特徴とする。
本発明の第7の態様は、第1〜第6のいずれかの態様に記載の発明であって、
前記水相溶液は鉱酸又はアミド系酸媒体であることを特徴とする。
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の発明であって、
前記逆抽出工程は以下のいずれかの条件で行うことを特徴とする。
(1)前記正抽出工程で使用した前記水相溶液が鉱酸である場合は、前記Dy抽出用溶液の酸解離定数pKaを前記水相溶液の酸解離定数よりも小さくする。
(2)前記正抽出工程で使用した前記水相溶液がアミド系酸媒体である場合は、前記Dy抽出用溶液の酸濃度を前記水相溶液の酸濃度よりも大きくする。
本発明の第9の態様は、第8の態様に記載の発明であって、
前記逆抽出工程は、前記アミド系酸媒体の濃度が2.0〜4.0Mの範囲内で行うことを特徴とする。
本発明の第10の態様は、第1〜第9のいずれかの態様に記載の発明であって、
前記正抽出工程において使用される前記キレート抽出剤は、前記NdとDyの分離、回収方法の一連のサイクル内における前記逆抽出工程の後の前記有機相溶液で使用したキレート抽出剤であることを特徴とする。
本発明の第11の態様は、第1〜第10のいずれかの態様に記載の発明であって、
前記溶出工程及び前記脱鉄工程は、
前記資源から鉄及びNdとDyを水相溶液へと溶出させる際に、酸化磁粉を添加することにより前記水相溶液中のpHを上昇させて、Dyの選択浸出性を高めつつも前記水相溶液からゲーサイト及び水酸化鉄(III)を生成し、
前記ゲーサイト及び前記水酸化鉄(III)を前記水相溶液から分離することを特徴とする。
本発明の第12の態様は、第11の態様に記載の発明であって、
前記酸化磁粉は、前記NdとDyの分離、回収方法の一連のサイクル内における前記固液分離工程において分離された酸化磁粉であることを特徴とする。
本発明の第13の態様は、第2の態様に記載の発明であって、 前記水相溶液はアミド系酸媒体であり、
各電解析出工程後の前記アルカリ金属塩を弱酸性の水溶液に溶解させた後、イオン交換処理により、前記アルカリ金属塩に残存していたアミド系酸媒体を再生する酸再生工程を導入した後、前記溶出工程にて当該アミド系酸媒体を再利用することを特徴とする。
本発明の第14の態様は、第3の態様に記載の発明であって、
各電解析出工程後の前記イオン液体から不溶性物質を除去する洗浄工程を導入した後、前記正抽出工程にて当該イオン液体を再利用することを特徴とする。
本発明の第15の態様は、
ジスプロシウム(Dy)を電解析出させることにより、鉄及びDyを含有する資源からDyを回収する方法であって、
前記資源から鉄及びDyを酸溶液である水相溶液へと溶出させる溶出工程と、
ゲーサイト及び水酸化鉄(III)を前記水相溶液から分離する脱鉄工程と、
前記水相溶液中のDyを有機相溶液へと選択的に抽出する正抽出工程と、
前記有機相溶液中のDyをDy抽出用溶液へと選択的に抽出する逆抽出工程と、
前記Dy抽出用溶液を濃縮させることによりDy金属塩を生成するDy金属塩生成工程と、
前記Dy金属塩からDyを電解析出させるDy電解析出工程と、
を順に行うことを特徴とする、Dyの回収方法である。
但し、前記有機相溶液は、酸性有機リン酸化合物又はトリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物により構成されるキレート抽出剤を含有し、前記Dy抽出用溶液は、イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有する酸媒体により構成されるものである。
【0020】
なお、本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願2015−32290号の明細書や図面等に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、作業工程を簡素化しつつも、回収される希土類元素の品質を向上させる、イオン液体を利用した技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態におけるNdとDyの回収方法を示すフローチャートである。
図2】本実施形態の正抽出工程においてキレート抽出剤として酸性有機リン酸化合物を用いた場合の、有機相溶液のpHに応じた各金属イオン種の抽出率を示すグラフである。
図3】本実施形態の逆抽出工程における、水相溶液であるアミド系酸媒体のpHに応じた各金属イオン種の抽出率を示すグラフである。
図4】本実施形態の正抽出工程においてキレート抽出剤としてトリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物を用いた場合の、有機相溶液のpHに応じた各金属イオン種の抽出率を示すグラフである。
図5】本実施形態の連続抽出試験の一例を示す概略図である。
図6】本実施例にて使用する三極式電解試験装置の概略図である。
図7】本実施例にて電析物をXRD分析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図1を参照しつつ、次の順序で説明を行う。図1は、本実施形態における、NdとDyの分離、回収方法を示すフローチャートである。なお、図1中では水相溶液のことを単に水相と称し、有機相溶液のことを単に有機相と称し、本明細書においてもそのように称する場合がある。
<NdとDyの分離、回収方法>
1−A)前処理工程
1−B)溶出工程
1−C)脱鉄工程
1−D)固液分離工程
1−E)正抽出工程
1−F)逆抽出工程
1−G)Dy金属塩生成工程
1−H)Dy電解析出工程
1−I)洗浄工程
1−J)酸再生工程
2−A)ホウ素分離工程
2−B)Nd金属塩生成工程
2−C)Nd電解析出工程
<実施の形態による効果>
【0024】
なお、以下に記載が無い構成については、特許文献2(特開2014−101577号公報)等、公知の文献に記載の構成を採用しても構わない。
また、本実施形態においては、ボイスコイルモーター(VCM)、ハイブリッド自動車の駆動モーター、空調機のコンプレッサー等、希土類磁石を含む実廃棄物からNdとDyとを分離、回収する方法、及び、そのための装置について説明する。もちろん、磁石の形でNdとDyが使用されている場合以外であっても、鉄族元素及び希土類元素が混在する資源からNdとDyを分離、回収する場合全般に対して、本発明は適用可能である。
【0025】
<NdとDyの分離、回収方法>
1−A)前処理工程
前処理工程として、解体・分別工程、熱減磁工程、メッキ剥離工程、酸化焙焼工程、微粉化工程及び分級工程を行う。手法としては特許文献2(特開2014−101577号公報)の[0045]〜[0052]と同様のため、記載を省略する。なお、以降、記載を省略する部分については、特許文献2(特開2014−101577号公報)の内容が本明細書に記載されているものとする。
【0026】
1−B)溶出工程
本工程においては、鉄族元素、Nd、Dy、ホウ素を含有する資源であって、メッキ剥離工程を経た希土類磁石としての部材(以降、単に「資源」とも言う。)から、少なくとも鉄族元素、Nd、Dy、ホウ素及びを水相溶液へと溶出させる。
【0027】
ここで本実施形態においては、資源にホウ素及び希土類元素(Nd,Dy,Prを含む。)が含有されている場合について例示する。本例に関し、本発明者が新たに見つけた課題が存在する。それは、Dyの電解回収に対するホウ素による妨害である。以下、詳述する。
【0028】
ホウ素は、ネオジム−鉄−ボロン系希土類磁石にNdFe14Bの組成比で含まれる元素であり且つ含有量の無視できない元素である。そして、ホウ素は、鉄族元素と同様に、電気化学的に貴な金属元素と半金属元素の中間の性質を有する。そのため、イオン液体において、ホウ素がDyとともに混在していると、最終的に電解析出させる際に、Dyとの共析もしくは吸着を伴うため、電解析出の際の電流効率を低下させる要因となり得る。その結果、ホウ素の混在に伴い、高品質のDyを電解回収することが困難となる。
【0029】
その一方、以降に述べる本実施形態の手法を採用することにより、最終的に電解析出させる際に、Dyに対し、鉄族元素と同様にホウ素をも混在させずに済む。
但し、本発明は、資源がホウ素を含有する場合に限定されるものではなく、上記の例はあくまで好ましい例である。
【0030】
なお、本明細書においては特記しない限り、鉄族元素として鉄(Fe)を例示する。また、本工程における「溶出」の概要については、特許文献2の[0053]〜[0066]と同様であるが、以下、追補的に説明する。
【0031】
本工程では、水相溶液に酸溶液を用いる。例えば、鉱酸(硝酸(HNOの[NO])や塩酸(HClの[Cl])などの無機酸)からなる酸溶液であっても構わないし、鉱酸を含有する溶液であっても構わないし、それ以外の溶液であっても構わない。ただ、イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有する酸溶液であるのが好ましい。このイオン液体由来の疎水性アニオン種を有する水相溶液(酸溶液)ならば、後述する有機相溶液に対し、良好に二相分離を起こすことが可能となる。つまり、回収対象となるNdとDyはイオン種として有機相溶液へ分配され、水相溶液には、後のNd、Dy電解析出工程において電流効率低下の要因となるイオン種が残存する。このイオン種は、Nd、Dy以外の電気化学的に貴なイオン種のことを指す。
【0032】
水相溶液としては、イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有する酸溶液の場合、例えば、テトラフルオロホウ酸(HBF)、ヘキサフルオロリン酸(HPF)、トリフルオロ酢酸(CFCOOH)、メタンスルホン酸(CHSOH)、トリフルオロメタンスルホン酸(CFSOH)、チオシアン酸(HSCN)等を水相溶液として用いても構わない。
【0033】
ところで、本明細書において「疎水性アニオン種」とは、カチオン前駆体及びアニオン前駆体からメタセシス反応によりイオン液体を合成する際、ハロゲン等の前駆体由来の不純物除去処理後の合成収率が80%以上を維持できるアニオン種を示す。
また「イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種」とは、別の言い方をすると、プロトン(H)とイオン結合した場合に、イオン性の塩を構成可能な疎水性アニオン種である。ただ、疎水性アニオン種とは言っても、本実施形態ではあくまで、水相溶液に資源を溶出させる。つまり、ここで言うイオン性の塩を水溶液にしたものが、本明細書においては水相溶液(酸溶液)となる。
【0034】
ただ、資源を鉱酸に溶出させた上で疎水性アニオン種を当該水相溶液に存在させるのではなく、イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種からなる酸溶液、更には以下に述べるアミド系酸媒体を始めから水相溶液として用いる方が、NdとDyの分離、回収と言う点では好ましい。イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種からなるアミド系酸媒体においては、塩酸や硝酸などの鉱酸に比べて希土類浸出性が高いためである。
【0035】
アミド系酸媒体を水相溶液として使用することにより、NdとDyの高浸出性を維持しつつも、当該資源のうち鉄、ホウ素及びNdとDyを比較的容易に溶出し、最終的にNdとDyを効率よく回収することが可能となる。
【0036】
また、アミド系酸媒体においては、NdとDyに比べると鉄の溶出性が低いという利点もある。その場合、鉄が少なくなった水相溶液に対して後述の正抽出工程を行うことが可能となり、最終的にNdとDyの品質を向上させることができる。
【0037】
ここで、「アミド系酸媒体」とは、上記の水相溶液の条件を満たし且つアミドを含有する溶液のことを指し、且つアミド酸を代表とするイオン液体のアニオン成分を有する酸溶液のことを指す。そして、「アミド」とは、アンモニア或いは1級、2級アミンとオキソ酸とが脱水縮合した構造を有する化合物である。具体的には、本明細書の「アミド」は、カルボン酸アミド、スルホンアミド、リン酸アミド等を含むものである。
【0038】
なお、このアミド系酸媒体は、当該鉄、ホウ素及びNdとDyを溶出することが可能ならば、任意のものでも構わない。例示するならば、イオン液体の疎水性アニオン種として知られているアミドを含む酸溶液が挙げられる。具体名を挙げるとすれば、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミド(N[SO(CFCF)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N(SOF))(以降、「HFSA」とも言う。)、トリフルオロメチルスルホニルアミド((CFSONH)(以降、「HTFSA」とも言う。)などを含むアミド系酸媒体を用いても構わない。なお、「HTFSA」は、1,1,1−トリフルオロ−N−[(トリフルオロメチル)スルホニル]メタンスルホンアミドとも言う。
上記と重複するが、アニオンに着目する記載を行うと、例えば、ビスフルオロメチルスルホニルアミドアニオンから成る酸:HFSA((FSONH)、フルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニルアミド)アニオンから成る酸媒体:HFTA((FSO)(CFSO)NH)等をアミド系酸媒体として用いても構わない。
【0039】
本工程で溶出される資源は、希土類金属酸化物、希土類金属炭酸塩、希土類金属及び希土類金属の合金いずれの形態であっても良い。資源における希土類金属塩がカチオン−アニオン相互作用の弱い疎水性アニオン種から成る希土類金属塩である場合、それよりも相互作用の強い疎水性アニオン種を含む水相溶液に対して容易に溶出可能となる。
【0040】
溶出の手法としては、資源から効率よく水相溶液へ鉄、ホウ素及びDyを溶出させられる方法であれば特に制限されない。具体例を挙げると、水相溶液に当該資源を浸漬させることによって、溶出を行っても構わない。また、水相溶液の濃度の調節やアルカリ又は酸溶液の添加等により、pHを調節しても構わない。pHの調節により、当該資源が溶出する速度を制御することが可能となる。
【0041】
1−C)脱鉄工程
その一方で、本工程においては、上記の溶出に続けて脱鉄を行う。脱鉄について具体的に言うと、酸化磁粉を添加することにより水相溶液中のpHを上昇させて、Dyの選択浸出を高めつつも水相溶液からオキシ水酸化鉄であるゲーサイト(FeOOH)及び水酸化鉄(III)を生成する。
【0042】
なお、以下の例においては、鉄族化合物が[Fe(OH)3−x例えば水酸化鉄(III)を経由して、オキシ水酸化鉄であるゲーサイト(FeOOH)を形成する場合について述べる。もちろん、ゲーサイトとともに水酸化鉄(III)を後の固液分離工程にて分離する。
【0043】
ゲーサイトや水酸化鉄(III)を生成するためにも、鉄イオンを2価から3価へと酸化させておく必要がある。本実施形態においては、酸素バブリングのような環境負荷のない手法を用いる。これにより、鉄イオンを2価から3価へと酸化させることが可能となる。そして、2価の水酸化鉄(II)や希土類水酸化物の沈殿を伴うことなく、鉄イオン(III)のみを水酸化物化させた後、最終的にゲーサイトとして沈殿させる処理を行う。
【0044】
その他、酸化力の強いオゾンによるバブリングにより、Feイオンを2価から3価へと酸化させても構わないし、その他の公知の酸化方法を用いても構わない。これにより、水相溶液中のFeの全量を3価のイオンへと酸化させることが確実となる。
【0045】
更に、本実施形態の特徴の一つとして、本工程においては、上記の水相溶液に対して酸化磁粉を添加することもできる。電位(E)−pH図から判断した場合、0<pH<2及び0.77<E(標準水素電極基準の酸化還元電位)の条件下では、以下の溶出反応が進行する。
RE+6HTFSA→2RE3++3HO+6TFSA
(RE=Pr,Nd,Dy)
上記の様な希土類種の選択的な溶出反応により、水相溶液中のHが消費され、水相溶液中のpHが増加する。その結果、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物(例えばNaOHやKOH)を使用する必要なく、ゲーサイトや水酸化鉄(III)を生成できる。
【0046】
酸化磁粉の添加に加え、先に挙げた酸素バブリングを組み合わせることにより、この利点は更に増大する。なぜなら、酸化磁粉の添加だけでなく、酸素バブリングを行う場合も、濃硝酸のような酸化剤を使用することなく鉄イオンの酸化を行うことができ、しかもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物(例えばNaOHやKOH)を使用する必要なくゲーサイトや水酸化鉄(III)を生成できる。そうなると、水相溶液内に含有される異物質を低減させられる。その結果、最終的に得られるDyの純度を著しく向上させられる。そのため、脱鉄工程で用いた酸化磁粉及び酸素バブリングに関する技術的思想は一つの発明足り得るものである。
【0047】
ここで、Dy(OH)を本工程における脱鉄処理に使用しても構わない。その場合、後述の正抽出工程において、水相溶液中のDy濃度が上昇する。その結果、軽希土類(Pr,Nd)と重希土類(Dy)間の分離係数を高める、すなわちDyを単独で分離しやすくすることが可能となる。
なお、Dy(OH)を適宜添加しても構わないが、本実施形態であるDyの回収方法の別サイクルで入手したDy(OH)を本工程で使用しても構わない。
なお、上述の「溶出工程」と「脱鉄工程」は同時に行うこともできる。
【0048】
1−D)固液分離工程
本工程においては、ゲーサイト及び水酸化鉄(III)を水相溶液から分離する。分離手法としては、ろ過や遠心分離等の公知の手法を採用しても構わない。
【0049】
ここで、ゲーサイト及び水酸化鉄(III)等の分離が必要なコロイド状物質と再利用すべき固形物(酸化磁粉)は、沈降速度の相違により分離が可能となりうる。この酸化磁粉を、上記脱鉄工程に再利用するのが好ましい。
【0050】
1−E)正抽出工程
本実施形態においては、水相溶液中のホウ素(B(OH))及び希土類元素のうちDyを有機相溶液へと選択的に抽出する。具体的な内容を言うと、水相溶液中の鉄及びホウ素はもちろんのこと、希土類元素の中でもDy以外の元素は水相溶液中に残留させる。その上で、有機相溶液へDyを分配させる。
なお、有機相溶液は、上記水相溶液に対してキレート抽出剤を添加することにより構成される。例えば、Dyを錯化した上で有機相溶液であるイオン液体へと抽出される。ただ、イオン液体以外の有機溶媒を用いてももちろん構わない。
【0051】
イオン液体としては、公知のものが挙げられる。具体的には、『式PRで表される四級ホスホニウムのカチオン成分、又は式NRで表される四級アンモニウムのカチオン成分もしくは下記式で表されるカチオン成分と、例えば、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド(N[SOCF)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N[SOF])、トリフルオロメタンスルホネート(SOCF)、メタンスルホネート(SOCH)、トリフルオロ酢酸(CFCOO)、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN))、ジアルキルリン酸((RO)POO))、ジアルキルジチオリン酸((RO)PSS))、脂肪族カルボン酸(RCOO)、ヘキサフルオロホスフェート(PF)、テトラフルオロボレート(BF)及びハロゲン等からなる群から選択される少なくとも一種のアニオン成分とから構成されるもの。』
【化1】
なお、上記のオニウムカチオンの式の中の記号に当てはまる基の条件としては以下の通
りである。
・Rは炭化水素基である。
・Rは置換基を有していてもよい炭素数2〜6の直鎖状、分岐状、又は脂環状のアル
キル基である。あるいはRはR’−O−(CH−で表されるアルコキシアルキル
基(R’はメチル基又はエチル基を示し、mは1〜4の整数である)を示す。
・Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、又は脂環状のア
ルキル基である。
・複数のRはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
・RとRとは互いに異なる基であり、ホスホニウムカチオンの有する炭素数の総数
は20以下である。
・Rは置換基を有していてもよい炭素数2〜6の直鎖状、分岐状、又は脂環状のアル
キル基である。
・Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、又は脂環状のア
ルキル基である。
・複数のRはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
・RとRとは互いに異なる基であり、アンモニウムカチオンの有する炭素数の総数
は20以下である。
・nは0〜5の整数を表す。
・Rは炭素数1〜5のアルキル基を示し、Rはメチル基又はエチル基を示し、m
は4又は5の整数であり、nは1〜4の整数である。
なお、本明細書においては「〜」は所定の値以上且つ所定の値以下のことを指す。
【0052】
なお、キレート抽出剤としては、鉄、ホウ素及び希土類元素のうちDyを選択的に抽出可能なものならば公知のものを用いても構わない。この点、現在、本発明者が鋭意検討中であるが、一例を挙げると、酸性有機リン酸化合物、トリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物により構成されるキレート抽出剤がある。具体的な化合物名としてはDi−2−ethyl hexyl phosphoric acid、2−Ethyl hexyl phosphonic acid mono−2−ethyl hexyl ester、Di−2,4,4−trimethyl pentyl phosphinic acid、4,4,4−trifluoro−1−(2−thienyl)−1,3−butanedione、1,1,1−trifluoro−2,4−pentanedione、4,4,4−trifluoro−1−phenyl−1,3−butanedioneが挙げられる。
【0053】
こうして、水相溶液中のDyをキレート抽出剤により錯化させ、Dy錯体とする。その後、有機相溶液へとDy錯体を抽出する。なお、抽出平衡式としては以下のものが考えられる。
【0054】
酸性リン酸エステル系抽出剤:HRの場合は、有機溶媒系とイオン液体系において二量体(HR)が形成され、以下の抽出平衡式に基づいて反応が進行する。
[Dy3+aq+3[(HR)org→[DyR・3HR]org+3[Haq
【0055】
また、抽出剤がトリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物:HLの場合は、有機溶媒系とイオン液体系では二量体を形成せず、以下の抽出平衡式に基づいて進行する。
[Dy3+aq+3[HL]org→[DyLorg+3[Haq
ただし、イオン液体系抽出の場合に限り、Dyと抽出剤の間で形成される中性錯体[DyL]だけでなく、電荷を有する荷電錯体[DyL]が形成された場合でも有機相に抽出することが可能となる。
[Dy3+aq+2[HL]org+x[P2225org→[DyLorg+2[Haq+x[P2225aq
なお、x[P2225]はイオン液体系抽出におけるカチオン放出を意味する。
【0056】
上記の抽出平衡式から、本抽出系では有機溶媒系とイオン液体系において、酸濃度もしくはpHの制御により、抽出挙動を制御できることになる。
【0057】
さらに、キレート抽出剤がトリフルオロ基を有する場合、有機相溶液を構成する疎水性アニオン種及び後述の逆抽出工程において用いられるDy抽出用溶液を構成する疎水性アニオン種においても当該置換基を備えさせるのが非常に好ましい。
【0058】
この構成を採用することにより、まず、有機相溶液への抽出後のDy錯体は、中性錯体、荷電錯体のいずれの場合においても、イオン液体[P2225][TFSA]を構成する[TFSA]アニオンと同じ置換基(トリフルオロ基)を備えることになる。そのため、当該Dy錯体は第三相を形成せず、有機相溶液に対して比較的高濃度となるまで溶解することが可能となる。
そして、同様に、後述の逆抽出工程においても、Dy抽出用溶液への逆抽出後のDy錯体は、イオン液体[P2225][TFSA]を構成する[TFSA]アニオンと同じ置換基(トリフルオロ基)を備えることになる。そのため、後述の逆抽出工程においても、当該Dy錯体は第三相を形成しなくなる。
【0059】
なお、第三相とは、水相や有機相以外に形成される不溶性の相であり、金属イオンと抽出剤とで形成された錯体の濃度が比較的高い場合に、水相にも有機相にも溶解しないようなエマルション形成による相を指す。
仮に第三相が形成されてしまった場合、水相側のDy濃度は減少するが、Dyは有機相に溶解することなく、不溶相として存在することになり、正抽出処理が適切に進行していないことになる。そのような第三相が本実施形態においては形成されないことになり、好ましい。
【0060】
また、本工程においては、Dyの抽出の際の有機相溶液のpHの設定も重要である。例えば本工程は抽出剤が酸性有機リン酸化合物の場合は、0.2≦pH≦0.7(好ましくは0.3<pH<0.5)の範囲内で行うのが好ましく、抽出剤がトリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物の場合は、3.5≦pH≦4.0の範囲内で行うのが好ましい。また、固液分離工程で得られた脱鉄処理済の水相溶液はpHが4.5以下程度であるため、希釈処理を少なくする観点からは、トリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物が好ましい。
【0061】
本発明者は、Dyが単独で且つ適切に抽出されているか否か、すなわち有機相溶液のpHに応じた各元素の抽出率をICP−AES分析で調べた結果、抽出率=0%であることを確認している。また、ホウ素(B)は水相溶液中でHBOとして存在していることも確認している。
【0062】
図2から、pH領域ごとに、希土類元素の抽出率の挙動が大きく変化していることがわかる。
詳しく言うと、pHが0.2以上且つ0.7以下の場合、Dyの抽出率は最大で80%程度となっている。その範囲の場合、他の希土類元素であるNdやPrの抽出率は13%以下にとどまっている。なお、pHが0.3を超え0.5未満の場合、NdやPrの抽出率は3%以下にとどまっている。つまり、pHが上記の範囲内にあれば、有機相溶液に対してDyを効率的且つ単独で抽出することが可能となる。なお、公知の有機溶媒であるケロシンを希釈剤として用いた場合は、イオン液体[P2225][TFSA]と比較して、NdとDyの抽出曲線が低pH側にシフトしていた。この結果、イオン液体を用いた場合の方が溶液調製が容易となる。
【0063】
なお、正抽出工程後の水相溶液からDy以外の希土類元素(NdやPr)を別途取り出す工程を行っても構わない。例えば、別の有機相溶液を用意し、鉄、ホウ素、希土類元素のうちNdやPrを当該有機相溶液へと抽出しても構わない。
【0064】
具体例を挙げると、希釈剤(溶媒)としてのイオン液体に対して溶媒和抽出剤が添加されたものを有機相溶液として使用しても構わない。こうすることによりDy以外の希土類元素(NdやPr)を錯化して有機相溶液へと抽出可能である。
【0065】
このような溶媒和抽出剤としては、例えば、TBP(トリ−n−ブチルホスフェート)を用いるのが、希土類元素を効率よく抽出できる点からも好適である。また、溶媒和抽出剤は酸性抽出剤と比較して、希釈剤であるイオン液体への溶解度が高く、抽出系において、有機相中への金属装荷量を高くできる点からも好適である。他には、DBBP(ジ−n−ブチル−n−ブチルホスフェート)、TOP(トリ−n−オクチルホスフェート)、P−350(ジメチルヘプチルメチルホスフェート)、CMPO(n−オクチル(フェニル)−N,N−ジイソブチルカルバモイルメチル)ホスフィンオキシド、TOPO(トリオクチルホスフィンオキサイド)、TOA(トリ−n−オクチルアミン)等を用いるのも好適である。
【0066】
なお、正抽出工程前の水相溶液に対して、重希土類(Dy)に対して軽希土類(Pr,Nd)の濃度を予め十分に小さくする工程を導入しても構わない。その工程を実施するために、以下の二つの性質を利用しても良い。
(性質1)希土類元素の硫酸塩はアルカリ金属の硫酸塩との間に複塩を形成する。
(性質2)希土類元素硫酸塩の溶解度の温度係数は負の値である。すなわち、温度が上昇するにつれて、溶解度は減少する。
この二つの性質を利用することで、軽希土類(Pr,Nd)と重希土類(Dy)の粗分離が可能となる。例えば、飽和硫酸塩溶液を加熱濃縮し、まず軽希土類の硫酸塩を晶出させて、重希土類との分離を行う。あるいは、アルカリ金属硫酸塩を撹拌し、冷却した希土類硫酸塩溶液に複塩が晶出するまで添加する。ろ液には重希土類が残留しており、軽希土類との粗分離が可能となる。
【0067】
このような軽希土類と重希土類の粗分離法を正抽出工程前に導入することで、軽希土類と重希土類の濃度差を小さくする、あるいは重希土類濃度が高い溶液を水相とすることが、イオン液体抽出系において、有機相中のDyに対する金属装荷量を高くできる点から好適である。
【0068】
また、上記以外の手法を正抽出工程前に導入しても構わない。例えば、別の有機相溶液中にキレート抽出剤と溶媒和抽出剤を適切な比率で溶解させ、抽出剤の協同効果により、正抽出工程時の軽希土類と重希土類の分離係数を高めることも有効である。
【0069】
1−F)逆抽出工程
本工程においては、有機相溶液中のDyをDy抽出用溶液へと選択的に抽出する。具体的な内容を言うと、まず、正抽出工程にかけた水相溶液とは別の水相溶液としてDy抽出用溶液を用意する。本実施形態におけるDy抽出用溶液は、イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有する酸媒体とする。「イオン液体」、「疎水性アニオン種」についての規定は先に説明した通りである。当該酸媒体ならば特に限定は無い。
【0070】
Dy抽出用溶液の設定は、正抽出工程で使用した水相溶液が鉱酸又はアミド系酸媒体である場合、以下のいずれかの条件に従うのが好ましい。
(1)正抽出工程で使用した水相溶液が鉱酸である場合は、Dy抽出用溶液の酸解離定数pKaを水相溶液の酸解離定数よりも小さくする。
(2)正抽出工程で使用した水相溶液がアミド系酸媒体である場合は、Dy抽出用溶液の酸濃度を水相溶液の酸濃度よりも大きくする。
上記の条件に従うことにより、逆抽出工程においてDy抽出用溶液へのDy錯体の高い抽出効率を保証することが可能となる。
【0071】
なお、本実施形態においてはDy抽出用溶液がアミド系酸媒体である場合を好ましい例として例示する。Dy抽出用溶液がアミド系酸媒体であるならば、Dy金属塩を低温溶融塩として作製可能であるし、逆抽出の際の効率も良好となる。なお、「アミド系酸媒体」「アミド」についての規定は先に説明した通りである。つまり、本例の場合、上記の条件(2)に従うのが好ましいことになる。
【0072】
こうして、有機相溶液中のDyをDy抽出用溶液であるアミド系酸媒体へと選択的に抽出しつつ、有機相溶液中のキレート抽出剤は有機相溶液中に残留させる。
【0073】
また、本工程においては、Dyの抽出の際の有機相溶液のpHの設定も重要である。例えば本工程は正抽出工程で使用する抽出剤が酸性有機リン酸化合物、トリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物に依らず、アミド系酸媒体の濃度が2.0〜4.0Mの範囲内で行うのが好ましい。
【0074】
本発明者は、Dyが適切に抽出されているか否かを確認すべく、アミド系酸媒体のpHに応じたDyの抽出率を調べている。その結果を示すのが図3である。図3から、少なくともアミド系酸媒体の濃度が2.0〜4.0Mの範囲内ならば、アミド系酸媒体へのDyの抽出率は90%以上になっていることがわかる。
【0075】
上記の正抽出工程及び逆抽出工程により、逆抽出工程後のアミド系酸媒体(水相溶液)中のDyの純度を著しく向上させることができる。
【0076】
ちなみに、本工程において、Dyを逆抽出した後の有機相溶液を、正抽出工程で繰り返し利用することが好ましい。すなわち、イオン液体を利用したDyの回収方法の一連のサイクルで行われている正抽出工程に対し、別サイクルで行われている逆抽出工程後の有機相溶液(ひいては有機相溶液に含まれるキレート抽出剤)を再利用するのが好ましい。こうすることにより、キレート抽出剤を別途購入する必要がなくなり、費用を低減することができる。特に、工場プラントで本発明を実施する場合だとその効果は絶大である。
【0077】
また、本実施形態においては、Nd、Dy電解析出工程前に、正抽出工程と逆抽出工程とを交互に繰り返し行う連続抽出工程を有するのが特に好ましい。具体的には、図1に示すように、逆抽出工程後、正抽出工程後に残存した水相溶液に対し、別の新たな有機相溶液(イオン液体でもよいしその他の有機溶媒でもよい)を加え、再度正抽出工程及び逆抽出工程を行っても構わない。こうすることにより、Dyの純度が徐々に向上する上、キレート抽出剤を繰り返し使用できる。
【0078】
1−G)Dy金属塩生成工程
Dy金属塩生成工程では、Dy抽出用溶液であるところのアミド系酸媒体を濃縮させることにより、低温溶融塩であるところのDy金属塩を生成する。本工程の内容は、特許文献2の[0087]と同様であるので記載を省略する。
【0079】
なお、本実施形態の大きな特徴の一つが、特許文献1に記載のような「溶媒抽出法」と、特許文献2に記載のような「電解析出法(塩生成工程を含む湿式処理)」という互いに全く異なる手法を組み合わせたところにある。詳しく言うと、工程途中で溶媒抽出法を採用していながらも、得る対象であるDyを、最終的には有機相溶液ではなくDy抽出用溶液(水相)へと抽出させ、当該Dy抽出用溶液からDy金属塩を生成することは、本実施形態の大きな特徴の一つである。Dyを単独で回収し、Dyの純度を著しく高めるという知見があるからこそ、本発明者は、互いに全く異なる手法を組み合わせ、溶出・脱鉄、正抽出、逆抽出、塩生成、電解析出という一連の工程を有する、本実施形態に係る回収手法を見出したのである。
【0080】
1−H)Dy電解析出工程
本工程においては、Dyを回収するための電解処理を行う。本工程は、陽極溶解工程に加え、Dy電解析出工程を行う。本工程の内容は、特許文献2の[0088]〜[0094]と同様であるので記載を省略する。
【0081】
なお、本工程においては、上記のDy金属塩の融液をアルカリ金属塩(例えば、カリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド)に溶解させた上で、電解浴として使用する。上記のDy金属塩は極めて高純度であり且つ低温溶融塩であるため容易に溶融する。ただ、Dy金属塩の単独使用ではなく、Dy金属塩をイオン液体に溶解させた液相を電解浴として使用しても構わない。その場合の具体的な手法については公知の手法を用いても構わない。
【0082】
上記のDy金属塩の融液を電解浴としてそのまま用いる手法について、図6を用いて説明する。なお、図6は後述の実施例にて使用する三電極式電解試験装置1を説明するための概略図である。ここで、減磁処理済の廃磁石部材を陽極部2に取り付ける。そして、上記のDy金属塩を融解物にした後、陰極部10とともに、当該陽極部2を希土類融解物に浸漬させる。そして、直流電源の陽極部2と陰極部10とを導通させ、陽極溶解を行い、減磁処理済の廃磁石部材を希土類融解物へと溶解させる。ここで、廃磁石部材のメッキ剥離の有無に限らず、希土類磁石成分中の鉄イオンが、希土類金属塩の融液もしくは希土類アミド塩をイオン液体に溶解させた液相21中に拡散しないように、陽極部2を当該液相21からVycor(登録商標)ガラスフィルター7を介した状態で隔離しておく必要がある。なお、陰極部10としては、後述の実施例のように銅板を略円筒状に加工したものを用いても構わないし、析出させる希土類金属と結晶構造が同類の金属元素からなる不活性電極を用いても構わない。
なお、ここで挙げた三電極式電解試験装置1は公知のものを用いても差し支えない。上記以外の構成は明細書末尾の符号の説明に記載の通りであり、以降、符号については省略する。
【0083】
1−I)洗浄工程
Dy金属塩をイオン液体に溶解させた液相を電解浴として使用する場合、Dy電解析出工程では基本的にはイオン液体の分解を伴うことなく、電解工程が継続できる。ただし、長期間の電解ではイオン液体の劣化を伴い、不溶性物質が沈降する。そのため、電解後に不溶性物質(沈殿物)を遠心分離等の方法で取り除く洗浄工程が有効となる。電解後のイオン液体はNdとDyの濃度が著しく減少しており、洗浄工程後のイオン液体に抽出剤を添加することで抽出工程で再利用することが可能となる。
【0084】
1−J)酸再生工程
その一方、Dy金属塩の融液をアルカリ金属塩に溶解させて得た低温溶融塩を電解浴として使用する場合、Dy電解析出工程では基本的には低温溶融塩の分解を伴うことなく、電解工程が継続できる。ただし、長期間の電解では低温溶融塩の劣化を伴い、不溶性物質が沈降する。そのため、電解後の低温溶融塩を弱酸性(pHが3.0以上且つ6.0未満)の水溶液に溶解させて、イオン交換樹脂により、アルカリ金属イオンとプロトンを交換させる酸再生工程が有効となる。電解後の低温溶融塩はNdとDyの濃度が著しく減少しており、酸再生工程後にアミド系酸媒体として溶出工程で再利用することが可能となる。
【0085】
なお、上記のDy電解析出工程と後述のNd電解析出工程との少なくとも一方にて、金属塩をイオン液体に溶解させた液相を電解浴として使用し、もう一方で、Dy金属塩の融液をアルカリ金属塩に溶解させた上で、電解浴として使用してもよい。その場合は、上記の洗浄工程及び酸再生工程の両方を行ってもよい。
【0086】
2−A)ホウ素分離工程
抽出分離後の水相溶液にはホウ素が含有しているため、抽出後の水相溶液にキレート吸着剤を添加して、ホウ素イオンを選択的に除去することができる。官能基に複合アミノ基を有するキレート吸着剤では酸性領域ではホウ素に対して、選択性を有しており、イオン交換処理によりホウ素を95%以上除去することができ、かつ、本工程にてホウ素を95%以上除去するのが好ましい。
【0087】
2−B)Nd金属塩生成工程
正抽出工程及びホウ素分離工程後の水相溶液はNd濃度が高いため、アミド系酸媒体を濃縮させることにより、Ndアミド塩を生成できる。このNdアミド塩はイオン液体及び低温溶融塩に対して、溶解性が高い。
【0088】
2−C)Nd電解析出工程
本工程においては、Ndを回収するための電解処理を行う。本工程は、陽極溶解工程に加え、Nd電解析出工程を行う。本工程の内容は、特許文献2の[0088]〜[0094]と同様であるので記載を省略する。
なお、本工程においては、上記のNd金属塩の融液をアルカリ金属に溶解させた上で、電解浴として使用する。上記のNd金属塩は極めて高純度であり且つ低温溶融塩であるため容易に溶融する。ただ、Nd金属塩の単独使用ではなく、Nd金属塩をイオン液体に溶解させた液相を電解浴として使用しても構わない。その場合の具体的な手法については公知の手法を用いても構わない。
【0089】
以上、これまでに述べた内容を簡単にまとめると、以下のようになる。
脱鉄処理後の水相溶液中のDyをキレート抽出剤により錯化させ、希土類錯体とする。ここで、当該希土類錯体のうちDy金属錯体を有機相溶液へ選択的に正抽出する。この段階で、ホウ素は水相溶液中で中性又は陰イオン種として存在しており、正抽出されず、ほぼ完全に分離できる。加えて、水相溶液における酸濃度(もしくはpH)の制御を行うことにより、Dy金属錯体の抽出率を飛躍的に向上させることも可能である。
次に、正抽出工程で利用した酸媒体よりも酸解離定数pKaが負に大きいDy抽出溶液(アミド系酸媒体)か、もしくは、正抽出工程時よりも酸濃度が高いDy抽出溶液側にDy金属錯体を逆抽出する。
【0090】
なお、正抽出工程と逆抽出工程とを繰り返すことにより、抽出剤は再利用でき、Dyはアミド系酸媒体中にて濃縮される。更に、本実施形態の好ましい例においては、逆抽出工程を行った後、イオン化したDyをDy金属塩として生成させる工程までをアミド系酸媒体で統一させており、Dy金属塩が高収率で得られる。このDy金属塩はアルカリ金属塩との間で低温溶融塩を構成可能である。それだけでなく、Dy金属塩はイオン液体に対して高溶解性である。そのため、Dy金属塩は電解析出における媒体そのものとして利用できる。故に、Dy金属塩から成る低温溶融塩もしくはDy金属塩を溶解させたイオン液体を電解浴とすることで、Dyを単離させた上で電解析出させることが可能となる。
【0091】
上記の手法により、資源から鉄及びホウ素を取り除きつつ、品質の高い(すなわち鉄及びホウ素の含有量が少なく、純度が高い)Dyを回収する。
【0092】
<実施の形態による効果>
本実施形態によれば、上記に列挙した効果以外にも、以下の効果を奏する。
【0093】
まず、希土類元素の中でもDyを有機相溶液へと選択的に抽出するというシンプル且つ効率的な手法を用いてその他の希土類元素、鉄、及びホウ素から分離できるため、回収される希土類元素(NdとDy)の品質を向上させることが可能となる。更には、回収した希土類元素の純度を向上させることが可能になる。
【0094】
また、水相溶液中の希土類元素しかもその中でもDyを選択的に抽出可能な有機相溶液を使用することにより、その他の電気化学的に貴な元素による電解析出時の電流効率低下の要因を、Nd、Dy電解析出工程の前段階で、克服することが可能となる。
【0095】
以上の通り、作業工程を簡素化しつつも、回収される希土類元素の品質を向上させることが可能となる。
【0096】
なお、本明細書における「選択抽出」とは、例えば水相溶液内の各元素の中で所定の元素を第一に抽出することを指すものである。ただ、選択抽出するといっても、不可避的に他の元素を抽出してしまうことも想定されるが、だからといって当該他の元素を選択抽出しているわけではないし、当該他の元素も不可避的に抽出したとしても、所定の元素が主に抽出されることに変わりはない。
【0097】
また、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0098】
例えば、上記の態様においてはNdとDyを分離、回収したが、本願の優先権の基礎である日本国特許出願2015−32290号の明細書や図面等に記載されているように、少なくともDyを回収する場合にも本発明の技術的思想は大きく反映されている。この構成をまとめると、以下のようになる。
『ジスプロシウム(Dy)を電解析出させることにより、鉄及びDyを含有する資源からDyを回収する方法であって、
前記資源から鉄及びDyを酸溶液である水相溶液へと溶出させる溶出工程と、
ゲーサイト及び水酸化鉄(III)を前記水相溶液から分離する脱鉄工程と、
前記水相溶液中のDyを有機相溶液へと選択的に抽出する正抽出工程と、
前記有機相溶液中のDyをDy抽出用溶液へと選択的に抽出する逆抽出工程と、
前記Dy抽出用溶液を濃縮させることによりDy金属塩を生成するDy金属塩生成工程と、
前記Dy金属塩からDyを電解析出させるDy電解析出工程と、
を順に行うことを特徴とする、Dyの回収方法。
但し、前記有機相溶液は、酸性有機リン酸化合物又はトリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物により構成されるキレート抽出剤を含有し、前記Dy抽出用溶液は、イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有する酸媒体により構成されるものである。』
【実施例】
【0099】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろん本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例においては、鉄族元素がFeの場合について詳述する。
【0100】
なお、実施例1〜2においては、キレート抽出剤として酸性有機リン酸化合物により構成されるキレート抽出剤を使用した上で、Dyの電解析出試験を行った。その際、実施例1においては低温溶融塩としてのDy金属塩を電解浴として使用し、実施例2においては当該Dy金属塩をイオン液体に溶解させたものを電解浴として使用した。
【0101】
一方、実施例3においては、キレート抽出剤としてトリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物により構成されるキレート抽出剤を使用した。そして逆抽出工程までを行い、Dy抽出用溶液を調べることにより逆抽出工程までが有効に行われているかについて調べた。
【0102】
また、実施例4においては、本実施形態、即ち、2−A)ホウ素分離工程〜2−C)Nd電解析出工程を更に行った。つまり実施例4においてはNdとDyの分離、回収を行った。
【0103】
また、実施例5、6においては、図5に示すミキサセトラ装置を使用し、Dyの連続抽出を行った。その際、実施例5においては、連続抽出が効果的に行われているかを調べるべく、予め調製しておいたフィード液を用いつつ連続抽出を3回行った。一方、実施例6においては、実際に固液分離した後の廃磁石溶解液をフィード液として用いた。
【0104】
<実施例1>(低温溶融塩としてのDy金属塩を利用したDyの電解析出試験)
本実施例においては、図1に示すフローチャートに従い、3.5inch−HDD用の使用済みVCMを使用して、Dyの回収工程を実施した。
【0105】
1−A)前処理工程は、以下の通りに行った。
【0106】
解体・分別工程においては、まず、実廃棄物を解体し、VCMを分別した上で、当該VCMから希土類磁石としての部材のみを回収した。
【0107】
熱減磁工程は、以下の手順で行った。すなわち、希土類磁石としての部材を、焼成セッター上に設置し、アルミナ製の坩堝内に保持した上で、電気炉内に投入した。熱減磁工程の温度プログラムとしては、大気雰囲気下においてキュリー温度(310℃)までの昇降温速度を100℃/hにセットした。この熱減磁工程により、希土類磁石としての部材の表面上に酸化物被膜の形成を抑えつつ、初期磁束密度:410〜445mTを残留磁束密度:0.01mT(減磁率:99.9%以上)まで下げた。これにより、希土類磁石としての部材のその後の取扱いを容易なものとした。
【0108】
メッキ剥離工程は、希土類磁石部材表面のNi−Cu−Niメッキ層は、物理的な研磨処理により剥離した。メッキ剥離後のバルク体は自動ミルで粉砕した後、自動乳鉢で微粉化させた。酸化焙焼前の磁石粉末の粒度分布を測定した結果、D50=28.70μm, D90=115.06μmであった。D50は粒度の累積分布において、等量となるメディアン径である。また、BETによる比表面積は0.36m/gであった。
【0109】
酸化焙焼工程においては、蒸留水で研磨屑を十分に除去した後、メッキ層を剥離した後の希土類磁石部材を乾燥機内で乾燥させた。希土類磁石部材は、自動ミルを利用して粉砕した。その後、粉砕された希土類磁石部材はアルミナ容器に敷き詰め、大気雰囲気下において900℃、3hという条件で酸化焙焼工程を行った。なお、本工程後に生成された酸化磁粉に対してXRD測定を行った。その結果、Nd,Fe,Fe,NdFeOのピークが確認された。なお、Dyも酸化されているが他の酸化物に比べて含有量が小さいためピークが表出していないが、本実施例における酸化磁粉にはDyが含まれている。
【0110】
その後、スタンプミルによる微粉化工程を行い、酸化磁粉を得た。酸化焙焼後の酸化磁粉に対して、粒度分布を測定した結果、D50=28.70μm,D90=128.87μmであった。BETによる比表面積は0.51m/gであった。ICP−AESにより分析した酸化磁粉の組成(wt.%)は以下の通りである。
【表1】
【0111】
1−B)溶出工程及び1−C)脱鉄工程においては、水相溶液としてHTFSA(1.0M)溶液14.2Lを使用した。前処理工程後に得られた酸化磁粉6.15kgを、HTFSA溶液中へ段階的に投入した。最初に酸化磁粉1.7kgを投与し、攪拌パドルにて、50℃、250rpmの条件下で溶出処理させた。24h後、pH=0.62であり、酸化磁粉1.7kgを投与した。45h後、pH=1.73であり、酸化磁粉1.7kgを投与した。48h後、pH=1.99であり、酸化磁粉1.05kgを投与した。94.5h溶出処理後、pH=3.42まで上昇した。なお、それと同時に、当該溶液に対して、酸素バブリング処理を行い、溶存種のFe2+をFe3+へと転換させた。
【0112】
1−D)固液分離工程においては、時間経過とともに上澄み溶液中のゲーサイト及び水酸化鉄(III)を自然に沈降させ、1回目の固液分離処理を行った。1回目の固液分離処理でも除去困難なFe化合物は凝結剤及び凝集剤を各200ppm投与して、数回に分割して沈降させた。最終的に固液分離処理にて脱鉄処理を行った。固液分離後の溶液をICP−AESで分析した結果を以下に示す。
【表2】
【0113】
1−E)正抽出工程においては、上記固液分離後の水相溶液を5倍希釈した後、少量のHTFSA溶液を添加していき、イオン液体を希釈剤として使用した場合、pH=0.10,0.20,0.36,0.45,0.54,0.60,0.69,0.78,0.82,0.94,0.95,1.00,1.02,1.10,1.24,1.30,1.40,1.50となる0<pH<1.5の水相溶液を各6.0ml調製した。有機溶媒を希釈剤として使用した場合、pH=0.15,0.25,0.35,0.52,0.63,0.65,0.77,0.79,0.84,0.88,1.04,1.20,1.24,1.30,1.51,1.62,1.73となる0<pH<1.8の水相溶液を各6.0ml調製した。
【0114】
そして、各々に対し、イオン液体[P2225][TFSA]もしくは有機溶媒ケロシンとキレート抽出剤とを体積比90:10で混合させた。なお、その際、キレート抽出剤としては、PC88A(大八化学製)(2−ethylhexylphosphonic acid mono−2−ethylhexyl ester)を用いた。
【0115】
その後、有機相溶液を6.0mLとし、水相溶液の体積(A)と有機相溶液の体積(O)の比であるA/O=1.0の条件下、2000rpmで10min振盪・撹拌させた。水相溶液と有機相溶液を静置後、水相溶液を分取して、ICP−AES分析を行った。各pHにおける希土類種の抽出率を図2に示す。キレート抽出剤として、PC−88Aを用いた場合、溶出されたホウ素に係る化合物は全く抽出されず、ホウ素を完全に分離することが可能となった。
【0116】
その一方、希土類種の抽出挙動については、PC−88Aを抽出剤に適用した場合、0.2≦pH≦0.7(好ましくは0.3<pH<0.5)の範囲内において、Dyに対する抽出率が比較的高く、Pr,Ndは抽出率が比較的低かった。これはNdとDyの錯形成定数の相違に基づくものであり、イオンクロマトグラフ測定により希土類抽出機構に関与するアニオン種を定量分析した結果とUV−Vis測定による希土類抽出錯体の生成を定量的に評価した結果から、NdとDyの錯形成定数はlogβ=7.58(Nd),logβ=7.93(Dy)であった。ここで、βは抽出平衡における錯形成定数を表している。すなわち、Dy錯体の方が錯形成定数が大きいため、抽出錯体が有機相側で安定化することで、DyはPr,Ndと良好に分離することが可能となった。
【0117】
1−F)逆抽出工程においては、水相溶液に1.0〜5.0Mの範囲内に調製されたHTFSA溶液を使用した。また、正抽出試験結果に基づき、最も抽出率に差を生じたpH=0.5の条件下でDyを抽出させた有機相溶液([P2225][TFSA]:PC−88A=90:10)を別途準備した。
【0118】
そして、1.0〜5.0Mに調製されたHTFSA溶液の水相溶液と有機相溶液を、A/O=1.0の条件下、2000rpmで10min振盪・撹拌させた。水相溶液と有機相溶液を静置後、水相溶液を分取して、ICP−AES分析を行った。各酸濃度におけるNd,Dyの逆抽出率を抽出媒体ごとに図3に示す。2.0〜4.0Mの領域において、Dyは90%以上逆抽出されていた。
上記の逆抽出工程を同条件で20回繰り返すことにより、HTFSA溶液120mlが得られた。
【0119】
1−G)Dy金属塩生成工程
その後、Dy金属塩生成工程においては、蒸発乾固によりHTFSA溶液から酸成分を除去して、Dy(TFSA)から構成される希土類アミド塩(Dy金属塩)を作製した。当該希土類アミド塩を溶解させた分析対象の希薄な酸溶液からICP−AESによりDyが検出された。393K,48h真空乾燥後に得られたDy(TFSA)は13.264gであった。
【0120】
1−H)Dy電解析出工程においては、(Dy1/3,K)TFSAの低温溶融塩をDyのモル分率:xDy=0.2となる組成比で溶融混合して、液相状態を形成させ、453K以上で3h真空乾燥処理を行った試料を電解浴とした。電解温度:493K,Arのflow:10ml/minの条件で本工程を実施した。電極構成については、陽極側にNd−Fe−B rodをvycor(登録商標) glass filterで隔離した構造、陰極側にCu基板を円筒状にした構造を採用した。擬似参照極はPt wireを使用し、電位基準はKの析出/溶解電位を電気化学測定で確認した上で、Kの析出/溶解電位を0Vに設定した。Dy電解試験ではKの析出/溶解電位から+0.4V貴な電位で設定し、定電位電解を総電気量:136.2Cまで実施した。なお、陽極電流効率は91.6%であり、高い値が得られた。定電位電解後、Cu基板上に黒色及び黒緑色の析出物が得られた。電析物をSEMで観察した結果、粒子状の析出物が得られた。この電析物に対してEDX分析した結果を以下に示す。
【表3】
黒色と黒緑色の両電析物においては、K含有量が<0.1wt.%以下であり、共析はほとんど生じていなかった。また、電析物中におけるDyの比率が非常に高いことから、黒色と黒緑色の両電析物においてはDy金属が析出していることを確認できた。
【0121】
<実施例2>(Dy金属塩をイオン液体に溶解させた場合の、Dyの電解析出試験)
本実施例においては、Dy金属塩生成工程により生成したDy金属塩をイオン液体に溶解させた後にDy電解析出工程を行い、Dyを析出される例を適用した。なお以降、特記の無い事項については、<実施例1>と同様とする。
【0122】
1−G)Dy金属塩生成工程までは、<実施例1>と同様とした。なお、抽出剤としてはPC−88Aを用いた。
【0123】
1−H)Dy電解析出工程においては、イオン液体:[P2225][TFSA]に対して、0.5mol%となるようにDy金属塩生成工程で得られたDy(TFSA)を溶解させた。そして、オイルバスを利用した攪拌型真空乾燥処理により、383K,24h以上真空乾燥させた溶液を電解浴とした。
なお、電解浴中の水分量は水分気化装置にて水分を気化させた後、KF水分計で定量分析した結果、75ppmであった。
また、水分量及び酸素量:1ppm以下のAr循環精製機付グローブボックス中で攪拌型電解試験を実施した。電解温度:373K,攪拌速度:300rpmの条件で実施した。
電極構成にはついては、陽極側にNd−Fe−B rodをvycor(登録商標) glass filterで隔離した構造、陰極側にCu基板を円筒状にした構造を採用した。擬似参照極はPt wireを使用し、Fc/Fcを電位基準として設定した。
Dy電解試験ではFc/Fcに対して、−3.8Vを過電圧として印加した。定電位電解を総電気量:104.3Cまで実施した。なお、陽極電流効率は92.6%であり、高い値が得られた。定電位電解後、Cu基板上に黒色及び黒緑色の析出物が得られた。電析物をSEMで観察した結果、粒子状の析出物が確認できた。この電析物に対してEDX分析した結果を以下に示す。
【表4】
電析物中におけるDyの比率が非常に高いことから、黒色と黒緑色の両電析物においてはDy金属が析出していることを確認できた。
【0124】
<実施例3>(トリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物により構成されるキレート抽出剤を使用)
本実施例においては、キレート抽出剤としてトリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物により構成されるキレート抽出剤を使用した。そして逆抽出工程までを行い、Dy抽出用溶液を調べることにより逆抽出工程が有効に行われているかについて調べた。なお以降、特記の無い事項については、<実施例1>と同様とする。
【0125】
1−D)固液分離工程までは、<実施例1>と同様とした。
【0126】
1−E)正抽出工程は以下のように行った。
少量のHTFSA溶液を添加していき、pH=2.97〜5.67の条件でNd,Dyの濃度が3.0×10−5 Mを維持するように水相溶液を調製した。
キレート抽出剤として、トリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物である4,4,4−trifluoro−1−phenyl−1,3−butanedione(Hbfa)(東京化成工業製)を使用した。
希釈剤として[P2225][TFSA]を使用し、抽出剤濃度は1.0×10−2Mとした。
有機相溶液と水相溶液の体積比及び攪拌条件は<実施例2>と同じ条件で実施した。
【0127】
水相溶液と有機相溶液を静置後、水相溶液を分取して、ICP−AES分析を行った。その際の有機相溶液のpHに応じた各金属イオン種の抽出率を図4に示す。3.5≦pH≦4.0の範囲内において、Dyの抽出率が比較的高い一方、Ndの抽出率は比較的低い結果となった。
【0128】
正抽出工程においてキレート抽出剤としてトリフルオロ基を置換基とするβ−ジケトン化合物を用いた場合の、有機相溶液のpHに応じた各金属イオン種の分配比の常用対数値を示すグラフ(logD−pHのプロット)の傾きは3.2であり、抽出剤Hbfaと希土類種とにより形成された錯体は[Nd(bfa)]及び[Dy(bfa)]であることが示唆された。
【0129】
錯形成状態における化学量論係数は同じである。その一方、軽希土類元素と重希土類元素ではイオン半径や溶液中での錯形成状態に相違がある。重希土類元素のDyの方がイオン半径が小さいため、Dy錯体の方が錯形成状態が安定化する。その結果、錯形成状態における化学量論係数が同じにもかかわらずDy錯体の抽出率が上昇しているものと考えられる。本実施例においては、抽出率の差を利用することで、DyをNdから良好に分離した。
【0130】
1−F)逆抽出工程においては、水相溶液に1.0〜5.0Mに調製されたHTFSA溶液を使用した。また、最も抽出率に差を生じたpH=3.78の条件下でDyを抽出させた有機相溶液([P2225][TFSA]中のHbfa:1.0×10−2M)を別途準備した。その際、水相溶液側に新たな抽出剤(すなわち逆抽出に用いられる逆抽出剤)は添加しなかった。そして、1.0〜5.0Mに調製されたHTFSA溶液の水相溶液と有機相溶液を、A/O=1.0の条件下、2000rpmで10min振盪・撹拌させた。水相溶液と有機相溶液を静置後、水相溶液を分取して、ICP−AES分析を行った。各pHにおけるDyの逆抽出率を解析した結果、2.0〜4.0Mの領域において、Dyは90%以上逆抽出されていた。
【0131】
<実施例4>(Nd電解回収)
本実施例においては、Nd電解回収のため、正抽出工程後の水相溶液に対して、脱ホウ素、塩生成、電解析出の3つの工程を適用した。なお、特記の無い事項については<実施例1>と同様とする。
【0132】
1−D)固液分離工程までは<実施例1>と同様とした。また、1−H)Dy電解析出工程までを行い、<実施例1>に示すDy電析物を回収した。
【0133】
固液分離後の水溶液100ml(pH=5.24)にキレート系吸着剤:0.7gを添加した後、300rpmで72h攪拌した。次に、遠心分離にてキレート系吸着剤を除去した後、ICP−AES分析により求めた金属残留率は以下の通りであった。
【表5】
ホウ素分離率=97.8%であり、ほとんどのホウ素を除去することができた。
2−B)Nd金属塩生成工程では、ホウ素除去後に得られた溶液を423Kでエバポレーション処理することで、8.972gの希土類アミド塩が得られた。ICP−AES分析による希土類アミド塩の組成分析結果は以下の通りであった。
【表6】
Nd電解析出工程では低温溶融塩KTFSA:500gに対して、希土類アミド塩をモル分率:x=0.2の組成比で溶融混合し、453Kで3h真空乾燥処理を行った試料を電解浴とした。電気化学測定からK/K電位基準に対して、+2.39V,+1.09Vに2つの還元ピークが観測された。本電気化学挙動は低温溶融塩KTFSAに対して、純粋なNd(TFSA)を溶解させた結果と同じであり、2つのピーク電位にほとんど相違が見られなかった。電気化学測定結果に基づいて、+1.09Vの還元ピークはNd(III)/Nd(O)に基づくものであると判断した。電解温度:483Kに設定し、グローブボックス内(水分量、酸素量<1.0ppm以下)で過電圧+0.45V vs. K/Kの条件下で定電位電解を行った。電極構成については<実施例1>と同様である。2回の電解試験結果は以下の通りであった。
【表7】
1バッチあたり2.2g以上の電析物が得られており、Anode側では高い電流効率が確認できた。電析物をSEMで観察した結果、粒子状物質が確認された。電析物をEDX分析した結果、以下の通りであった。
【表8】
電析物をXRD分析した結果を図7に示す。なお、図7中に記載のReference[1]は以下の文献“Che G.C., Liang J., Yi Y., Journal of Metallurgy, 22 (1986) B206-B211.”を指す。
図7に示すように、電析物のピーク位置は、Nd金属の面指数に対応しており、Nd金属の析出を確認できた。
【0134】
<実施例5>(Dy連続抽出)
Dyの連続抽出試験は図5に示したミキサセトラを適用した。図5に示した抽出、洗浄、HTFSAによる逆抽出の各4段の工程から成る分離プロセス試験を実施した。抽出溶媒として[P2225][TFSA]:PC−88A=90:10を用い、流速:90ml/hに設定した。
【0135】
フィード溶液として、Pr:Nd:Dy=37.5:37.5:25.0(wt.%)の溶液をpH=0.5に調製した後、流速:90ml/hで投入した。その後、洗浄工程では0.1M HTFSA溶液を流速:50ml/hで投入した。逆抽出工程では3.0M HTFSA溶液を流速:50ml/hで投入した。各段のセトラ部の水相及び有機相試料を採取し、ICP−AES分析により金属濃度を測定した。
【0136】
本連続抽出工程を3回繰り返した結果を表9に示す。本連続抽出試験において、Dyの段階的な濃縮を確認できた。
【表9】
【0137】
<実施例6>(Dy連続抽出)
Dyの連続抽出試験は図5に示したミキサセトラを適用した。図5に示した抽出、洗浄、HTFSAによる逆抽出の各4段の工程から成る分離プロセス試験を実施した。抽出溶媒として[P2225][TFSA]:PC−88A=90:10を用い、流速:90ml/hに設定した。固液分離工程までは<実施例1>と同様の方法で実施した。
【0138】
固液分離後の廃磁石溶解液をpH=0.5に調製した後でフィード液として流速:90ml/hで投入した。その後、洗浄工程では0.1M HTFSA溶液を流速:50ml/hで投入した。逆抽出工程では3.0M HTFSA溶液を流速:50ml/hで投入した。各段のセトラ部の水相及び有機相試料を採取し、ICP−AES分析により金属濃度を測定した。
【0139】
本連続抽出試験において、分相は比較的良好であり、試験中に第三相の生成は観測されなかった。最終的な金属組成は以下の通りであり、Dy濃縮を確認できた。
【表10】
【符号の説明】
【0140】
1…電解試験装置、2…陽極部、3…テフロン(登録商標)キャップ、4…耐熱ウール、5…ガラス部材、6…KTFSA融液もしくはイオン液体、7…ガラスフィルター、8…熱電対、9…参照電極、10…陰極部、11…マントルヒーター、12…撹拌子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7