【実施例】
【0162】
<A.実施例A(下層の組成を固定し、上層の組成を調整した実施例)>
<1A.接着剤組成物の調整>
(1A−1.上層側接着主剤の作製)
以下の工程により、上層側接着主剤を調製した。まず、撹拌棒と還流冷却管を備えたフラスコ中に高沸点ナフサ(ソルベッソ150)200質量部、及び所定量の疎水性シリカ微粒子を投入し、10分ほど撹拌した。その後、接着主剤(ポリエステル、アクリル、及びウレタンの何れか)100質量部を投入し、室温で4時間撹拌溶解した。ここで、接着主剤は、上述した上層側接着剤を構成するものである。接着主剤が完全に溶解したのを確認した後、MEK(メチルエチルケトン、丸善石油社製)を20質量部投入し30分間室温で撹拌した。以上の工程により、上層側接着主剤を作製した。なお、シランカップリング剤を添加する接着剤には、接着主剤が完全に溶解したのを確認した後に、シラン化合物(信越化学社製KBM−402)と触媒(サンアプロ社製U−CAT SA102、シラン化合物1質量部に対して0.1質量部)とを加え(後述の表には記載しない)、1時間室温で撹拌し、この後、MEKを20質量部投入し30分間室温で撹拌した。この触媒は、シランカップリング剤と疎水性シリカ微粒子とを反応させる触媒である。上層側接着主剤は、疎水性シリカ微粒子を含む接着主剤である。なお、上層側接着主剤は主に上層側接着層の作製に使用されるが、下層側接着層の作製に使用される場合もある。
【0163】
(1A−2−1.下層側接着主剤の作製1)
撹拌棒と還流冷却管を備えたフラスコ中に高沸点ナフサ(ソルベッソ150)200質量部を投入し、10分ほど撹拌した。その後、接着主剤(ポリエステル、アクリル、及びウレタンの何れか)100質量部を投入し、室温で4時間撹拌溶解した。ここで、接着主剤は、下層側接着剤を構成するものである。接着主剤が完全に溶解したのを確認した後、MEK(メチルエチルケトン、丸善石油社製)を20質量部投入し30分間室温で撹拌した。下層側接着主剤は、疎水性シリカ微粒子を含まない接着主剤である。なお、下層側接着主剤は主に下層側接着層の作製に使用されるが、上層側接着層の作製に使用される場合もある。
【0164】
(1A−2−2.下層側接着主剤の作製2)
撹拌棒と還流冷却管を備えたフラスコ中に高沸点ナフサ(ソルベッソ150)200質量部を投入し、10分ほど撹拌した。その後、接着主剤(ポリエステル、アクリル、及びウレタンの何れか)100質量部を投入し、室温で4時間撹拌溶解した。ここで、接着主剤は、下層側接着剤を構成するものである。接着主剤が完全に溶解したのを確認した後、所定量の無機顔料を添加して1時間室温で撹拌した。その後、MEK(メチルエチルケトン、丸善石油社製)を20質量部投入し30分間室温で撹拌した。なお、シランカップリング剤を添加する接着剤には、無機顔料を投入するタイミングで、シラン化合物(信越化学社製KBM−402)5質量部を加えた。その後、MEKを20質量部投入し30分間室温で撹拌した。下層側接着主剤は、無機顔料を含む接着主剤である。なお、下層側接着主剤は主に下層側接着層の作製に使用されるが、上層側接着層の作製に使用される場合もある。
【0165】
(1A−3.硬化型接着剤組成物の作製)
上記接着主剤に硬化剤溶液(横浜ゴム社製Y6410−B)、及び触媒(サンアプロ社製U−CAT SA102)を配合することで、硬化型接着剤組成物を得た。この触媒は、接着主剤の硬化を促進するための触媒である。また、Y6410−Bは、イソシアネート基を全ジカルボン酸残基に対して30モル%有するポリイソシアネート樹脂である。また、硬化剤溶液の投入量は、固形分で4質量部とし、触媒の投入量は、硬化剤1質量部に対して固形分で0.1質量部とした。硬化型接着剤組成物の組成を表1〜表4に示す。
【0166】
【表1】
【0167】
【表2】
【0168】
【表3】
【0169】
【表4】
【0170】
表1〜4の数値は、軟化温度を除き質量部を意味する。また、疎水性シリカ微粒子の欄のカッコ内の数値は疎水性シリカ微粒子の平均1次粒径(nm)を意味する。また、無機顔料の欄のカッコ内の数値は無機顔料の平均粒径(μm)を意味する。また、各接着剤組成物を構成する材料の具体的な内容は表5及び表6に示される。
【0171】
【表5】
【0172】
【表6】
【0173】
<2A.軟化温度の測定>
以下の方法により、各接着剤組成物の軟化温度、具体的には、接着剤組成物を構成する接着主剤の軟化温度を測定した。まず、接着剤組成物を直径7.5cm厚さ1cm程度のPE(ポリエチレン)製の容器に静かに流し込んだ。ついで、容器を静かに傾けることで、接着剤組成物の厚さを容器内で均一にした。ついで、容器を水平に保って20℃恒温室で1〜3日乾燥させることで、接着剤フィルムを作製した。ついで、接着剤フィルムを容器より静かに剥離した。なお、接着剤組成物として疎水性シリカ微粒子、無機顔料、硬化剤及び触媒を投入するまえの接着剤組成物を使用して、軟化温度を測定した。
【0174】
ついで、熱機械分析装置を用いて軟化温度を測定した。具体的には、接着剤フィルムを2℃/分で加熱しつつ、試料に直径1mmの円柱針を荷重500mNで押し込んだ。そして、接着剤フィルムへの円柱針の侵入深さが上記の数式(1)を満たした時の温度を軟化温度とした。各接着剤組成物の軟化温度を表1〜5にまとめて示す。
【0175】
<3A.意匠フィルムの作製>
以下の工程により意匠フィルムを準備、または作製した。
(3A−1.塩化ビニルフィルム)
(3A−1−1.単色エンボスフィルム)
塩化ビニルからなる単色エンボスフィルムとして、オカモト社製のLE301を準備した。フィルム厚さは150μmである。また、エンボスフィルムの表面には、深さ15μmのカワシボエンボス模様が施されている。
【0176】
(3A−1−2.高鮮映フィルム)
単色フィルムの作製時に使用した樹脂組成物をカレンダー法により製膜することで、厚さ120μmの原反フィルムを作製した。ここで、カレンダー法に使用するロールを鏡面ロールとすることで、鏡面仕上げの原反フィルムを作製した。ついで、連続式ラミネータを使用して、当該原反フィルムにポリエステル系接着剤(積水フーラー社製 S−580X)を塗工し、80℃で乾燥した。乾燥後、原反フィルムの接着剤塗工面上に木目印刷を施した25μm厚の2軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを、印刷面と接着剤とが接するようにしてラミネートした。以上の工程により、高鮮映フィルムを得た。
【0177】
(3A−2.ポリエステルフィルム)
2層Tダイスを使用して、白色顔料入り(20質量%)PET系アロイからなる単色フィルム、原反フィルムを得た。いずれのフィルムも厚さは100μmとした。なお、単色フィルムには、エンボスロールを使用して上記3−1−1.と同様のエンボス模様を施し、単色エンボスフィルムとした。さらに、原反フィルムでは鏡面ロールを使用し、鏡面仕上げとした。さらに、上記3−1−2.と同様のダブリング工程を行うことで、木目印刷を施した25μm厚の2軸延伸PETフィルムを原反フィルムに積層した。この工程により、高鮮映フィルムを得た。ここで、PET系アロイとは、PET(ユニチカ製 MA1344)、ポリオレフィン系エラストマー(三井化学製、タフマー4085S)、エチレン3元共重合体(住友化学株式会社製、ボンドファスト7L)を87/10/3に混合したアロイである。
【0178】
(3A−3.ポリオレフィンフィルム)
2層Tダイスを使用して、上層:PP(ポリプロピレン、日本ポリプロ社製、ノバレックスFB3B)、下層:無水マレイン酸変性PP(三井化学社製、アドマーSF725)からなる2層PPフィルム(上層/下層=90/10μm)を作製した。この2層PPフィルムを用いて、単色エンボスフィルム、鏡面仕上げポリオレフィン原反を得た。ここで、単色エンボスフィルムには、上記3−1−1.と同様のエンボス模様を付した。さらに、上記3−1−2.と同様のダブリング工程を行うことで、木目印刷を施した25μm厚の2軸延伸PETフィルムを原反フィルムに積層した。この工程により、高鮮映フィルムを得た。
【0179】
(3A−4.その他のフィルム)
フッ素系樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルムとして、40μm厚PVDフィルム(テドラー、デュポン社製)、PMMA(100μm厚、協和レザー社製)の単色フィルムを用意した。これらの単色フィルムの表面に上記3−1−1.と同一のエンボス模様を施すことで、単色エンボスフィルムを作製した。
【0180】
なお、上記各意匠フィルムの軟化温度を測定したところ、いずれも150℃未満であることが確認できた。具体的には、塩化ビニルフィルムの軟化温度は140℃、ポリエステルフィルムの軟化温度は135℃、ポリオレフィンフィルムの軟化温度は90℃、PVDフィルムの軟化温度は80℃、PMMAフィルムの軟化温度は140℃であった。
【0181】
<4A.金属板>
金属板として、0.45mm厚さの2種類の亜鉛系金鋼板(新日鉄住金製スーパーダイマー(K08)(以下、「SD鋼板」とも称する)、GI鋼板(Z18))、Al板(A5052、1.2mm厚)を用意した。そして、これらの金属板にアルカリ脱脂処理を施した後、クロメート液を塗布し、約45mg/m
2のクロメート膜を金属板表面に形成した。また、他の金属板として、粗化処理したCu板(70μm、電解銅箔板)、真空焼鈍酸洗仕上げをしたJISH4600規格Ti板(1mm厚さ)を用意した。
【0182】
<5A.意匠金属板の作製>
(5A−1.実施例1A〜19A)
実施例1A〜19Aに係る意匠金属板は以下の工程により作製した。まず、金属板にコータにて下層用の接着剤組成物(下層側接着層組成物)を厚さが2μmになるように塗布した。ついで、金属板を下層加熱温度(詳細な値は後述する表に示す)まで加熱した。これにより、金属板上に下層側接着層を形成した。金属板を室温まで冷却した後、上層用の接着剤組成物(上層側接着剤組成物)を下層側接着層上に厚さが2μmになるように塗布した。ついで、金属板を上層加熱温度(詳細な値は後述する表に示す)まで加熱することで、上層側接着層を形成した。金属板の温度が上層加熱温度に到達した後、上述した塩化ビニルフィルム(単色エンボスフィルム、高鮮映フィルムのいずれか)を上層側接着層の表面に圧着した。以上の工程により、意匠金属板を得た。なお、金属板の加熱温度は、予め金属板表面に装着した熱電対を用いて測定した。実施例1A〜11Aでは、上層用の接着剤組成物及び下層用の接着剤としてポリエステル系の接着剤組成物を使用した。実施例12A〜13Aでは、上層用の接着剤組成物及び下層用の接着剤組成物として異なる材料系の接着剤組成物を使用した。実施例14A〜19Aでは、上層用の接着剤組成物及び下層用の接着剤組成物としてアクリル系接着剤組成物を使用した。金属板は実施例毎に異なるものを使用した。以下の説明では、単色エンボスフィルムが貼り付けられた意匠金属板を「単色エンボス板」とも称し、高鮮映フィルムが貼り付けられた意匠金属板を「高鮮映板」とも称する。
【0183】
(5A−2.実施例20A〜23A)
意匠フィルムの種類を変更した他は実施例1Aと同様の工程を行うことで、意匠金属板を作製した。
【0184】
(5A.実施例24A)
実施例24Aに係る意匠金属板は以下の工程により作製した。まず、金属板にコータにて下層用の接着剤組成物を厚さが2μmになるように塗布した。ついで、金属板を下層加熱温度まで加熱した。これにより、金属板上に下層側接着層を形成した。ついで、金属板を室温まで冷却した。一方、上述した塩化ビニルフィルム上にコータにて上層用の接着剤組成物を厚さが2μmになるように塗布した。ついで、意匠フィルムを上層加熱温度まで加熱した。これにより、塩化ビニルフィルム上に上層側接着層を形成した。その後、意匠フィルムを室温まで冷却した。ついで、下層側接着層が形成された金属板を上層加熱温度まで加熱し、意匠フィルム上の上層側接着層を金属板上の下層側接着層に圧着した。以上の工程により、意匠金属板を得た。
【0185】
(5A−4.比較例1A−1A〜13)
接着層を1層だけで構成することとした他は、実施例1Aと同様の工程により、意匠金属板を作製した。すなわち、実施例1Aと同様の工程により、金属板上に接着層を形成した。ついで、金属板を加熱温度(詳細な値は後述する表に示す)まで加熱した。ついで、塩化ビニルフィルムを接着層に圧着した。以上の工程により、意匠金属板を作製した。
【0186】
(5A−5.比較例14A〜17A)
上層側接着剤の軟化温度を下層側接着剤の軟化温度より高くした他は、実施例1Aと同様の工程により、意匠金属板を作製した。
【0187】
(5A−6.比較例18A)
下層側接着剤の軟化温度を90℃未満とした他は、実施例1Aと同様の工程により、意匠金属板を作製した。
【0188】
(5A−7.比較例19A)
上層側接着剤の軟化温度を80℃より高くした他は、実施例1Aと同様の工程により、意匠金属板を作製した。
【0189】
(5A−8.比較例20A〜25A)
疎水性シリカ微粒子の添加量を本実施形態の範囲外とするか、または、疎水性シリカ微粒子を下層側接着層に添加した他は比較例1Aと同様の工程を行うことで、意匠金属板を作製した。各実施例及び比較例で作製した意匠金属板の構成を表7〜23にまとめて示す。
【0190】
【表7】
【0191】
【表8】
【0192】
【表9】
【0193】
【表10】
【0194】
【表11】
【0195】
【表12】
【0196】
【表13】
【0197】
【表14】
【0198】
【表15】
【0199】
【表16】
【0200】
【表17】
【0201】
【表18】
【0202】
【表19】
【0203】
【表20】
【0204】
【表21】
【0205】
【表22】
【0206】
【表23】
【0207】
<6A.意匠金属板の評価>
(6A−1.初期密着力)
単色エンボス板を用いて、初期密着力を評価した。具体的には、カッターナイフで単色エンボスフィルムに5mm幅の#型切込みを入れた。ここで、切り込みの深さは金属板に達する程度の深さとした。ついで、エリクセン試験機(DKSH社製、エリクセン試験機)を用いて#型切込み部分を8mm張り出した。ここで、張り出し部分の中心(トップ部)を#型切込み部分の中心に一致させた。ついで、#型切込み部分をピンセットで強制剥離し、剥離の程度を以下の基準で評価した。
◎◎:評点5(フィルムが凝集破壊して殆ど剥離なし)
◎:評点4(トップ部のみ剥離)
○:評点3(トップ部の全体および側面部の1/3未満が剥離)
×:評点2(トップ部の全体および側面部の全体が剥離)
××:評点1(トップ部の全体、側面加工部の全体、及び#型切込み部分の周囲が剥離)
そして、同様の試験を5回繰り返して行った。結果を表7〜23にまとめて示す。なお、試験毎に評価のバラ付きがある場合、評価の上限、下限を表に記載した。
【0208】
(6A−2.エンボス戻り率)
単色エンボス板を用いて、初期意匠保持性の評価指標の1つであるエンボス戻り率を評価した。具体的には、単色エンボスフィルム表面の算術平均粗さRa1と、単色エンボス板表面(具体的には、単色エンボス板に貼り付けられた単色エンボスフィルムの表面)の算術平均粗さRa2を接触式2次元粗さ計(オリンパス社製、OLS400)で測定した。観察面は、20×20mmとした。ついで、初期意匠保持性の指標の1つであるエンボス戻り率を以下の数式(2)により算出した。結果を表7〜23にまとめて示す。
エンボス戻り率χ: χ=1−Ra2/Ra1 (2)
【0209】
(6A−3.鮮映度及び色落ち)
高鮮映フィルムを用いて、初期意匠保持性の評価指標の1つである鮮映度(PDG値)及び色落ちを評価した。具体的には、高鮮映フィルム表面及び高鮮映板表面(具体的には、高鮮映板の表面に貼り付けられた高鮮映フィルムの表面)の鮮映度を鮮明度光沢度計((財)日本色彩研究所社製PGD―IV)で測定した。そして、鮮映度を以下の基準で評価した。
◎:高鮮映フィルム及び高鮮映板の鮮映度の差が0.1未満
○:高鮮映フィルム及び高鮮映板の鮮映度の差が0.1〜0.2
×:高鮮映フィルム及び高鮮映板の鮮映度の差が0.3以上
そして、同様の試験を5回繰り返して行った。結果を表7〜23にまとめて示す。なお、試験毎に評価のバラ付きがある場合、評価の上限、下限を表に記載した。
【0210】
さらに、高鮮映フィルム表面及び高鮮映板表面のa値を色差計(コニカミノルタ社製CM−2600d)で測定した。ここで、a値は赤みを評価する値である。赤みは意匠金属板の作製時に特に消失しやすいので、a値を用いて色落ちを評価した。そして、a値の差△a(=高鮮映フィルムのa値−高鮮映板のa値)を算出し、色落ちを以下の基準で評価した。
◎: △a<3.0
○: 3.0<△a<5.0
×: △a>5.0
そして、同様の試験を5回繰り返して行った。結果を表7〜23にまとめて示す。なお、試験毎に評価のバラ付きがある場合、評価の上限、下限を表に記載した。
【0211】
(6A−4.耐久性)
単色エンボス板を用いて、耐久性を評価した。具体的には、単色エンボス板を20日間沸騰水及び75℃の温水に浸漬した。なお、下層側接着剤の軟化温度が100℃未満となる場合、実施例6Aおよび一部の比較例を除き、75℃の温水にのみ浸漬した。以下、このような試験を「浸漬試験」とも称する。ついで、浸漬試験後のフィルム密着力を上述した初期密着力と同様の試験により評価した。さらに、浸漬試験後の単色エンボス板の端部を目視で観察し、単色エンボスフィルムの戻り(剥がれ)の有無、腐食の有無を評価した。なお、腐食の有無は、腐食が問題となる金属板、すなわちGI鋼板、SD鋼板についてのみ行った。そして、同様の試験を5回繰り返して行った。結果を表7〜23にまとめて示す。なお、試験毎に評価のバラ付きがある場合、評価の上限、下限を表に記載した。
【0212】
(6A−5.耐有機溶剤性の評価)
以下の実験により、意匠金属板の耐有機溶剤性(耐薬品性)を評価した。50×50mmの意匠金属板を切り出し、端部をローでシールした。シール後、意匠金属板を表の薬品に常温、常圧で所定時間浸漬した(灯油、ベンジン:5時間、リグロイン:1時間)。浸漬後、表面に付着した薬品をろ紙で拭取り、表面を観察した。サンプルはN=5で調査した。そして、耐有機溶剤性を以下の基準で評価した。結果を表7〜23にまとめて示す。なお、試験毎に評価のバラ付きがある場合、評価の上限、下限を表に記載した。
◎◎:全く膨れなし。
◎:2個以下の微細膨れが発生するサンプルが1枚あった。ここで、微細膨れとは、微細膨れの平面形状を円近似した場合に、直径が1mm以下となる膨れを意味する。
○:2個以下の微細膨れが発生するサンプルが2枚あった。
×:全サンプルで全面に膨れが発生した。
【0213】
(6A−6:隠蔽性の評価)
50×50mmの単色エンボス板を切り出し、任意の5点のL値を上述した色差計で測定し、算術平均値L
aを得た。標準サンプルとして、接着剤側、金属板側層に各々2μm厚みのPES−1、PES−5−R1を用い、100μm厚の単色エンボスフィルムを積層した単色エンボス板を作成した。そして標準サンプルのL
aを求め、これをL
asとした。隠蔽性は、下記の式で算出し、以下のように評価した。結果を表7〜23にまとめて示す。
隠蔽性: L
a/L
as×100(%)
◎◎◎: L
a/L
as>99.9
◎◎:L
a/L
as99.5〜99.9
◎:L
a/L
as=98.0〜99.5
○:L
a/L
as=96.5〜98.0
×:L
a/L
as<96.5
【0214】
<7A.評価結果の考察>
(7A−1.接着剤に関する考察)
実施例1A〜24Aでは、初期密着力、初期意匠保持性、耐久性のいずれも高い評価が得られた。すなわち、意匠フィルムが塩化ビニル、ポリエステル、ポリオレフィン、フッ素樹脂フィルムのいずれであっても、また、金属板がアルミ、銅、チタン、鋼板のいずれであっても、初期の意匠性を保持しながら、初期および沸騰水への浸漬後も高い密着力を発現できた。
【0215】
実施例1A〜24Aでは、上層側接着剤の軟化温度が80℃以下となっているので、上層加熱温度が低くても(具体的には、180℃以下であっても)、意匠フィルムを十分に金属板に密着させることができる。したがって、初期密着力、初期意匠保持性のいずれもが高くなった。さらに、下層側接着剤の軟化温度が90℃以上となっているので、高温多湿の環境下に長時間意匠金属板を曝露しても、金属板/下層側接着層の界面への水分子の侵入を防止できる。したがって、耐久性が高くなった。
【0216】
さらに、実施例1Aでは、上層側接着剤の軟化温度が70℃より高いが、実施例2A〜11Aでは、上層側接着剤の軟化温度が70℃以下となっている。そして、実施例2A〜11Aの初期意匠保持性は、実施例1Aの初期意匠保持性よりも優れていた。実施例2A〜11Aでは、上層側接着剤の軟化温度が70℃以下となっているので、上層加熱温度を実施例1よりも低く(具体的には、165℃以下に)できる。この結果、優れた初期意匠保持性が得られた。なお、実施例4A−1〜4A−12、6Aによれば、上層加熱温度を140℃以下とすることで、初期意匠保持性がさらに高くなることがわかった。
【0217】
さらに、下層側接着剤の軟化温度が100℃以上となる場合、沸騰水への浸漬という極めて厳しい高温多湿下であっても、端部を含めて強固な密着力を維持することができた。すなわち、極めて高い耐久性を得ることができた。
【0218】
さらに、下層側接着剤の軟化温度と上層側接着剤の軟化温度との差は30℃以上である場合に、上記効果がより顕著に得られることがわかった。
【0219】
さらに、実施例7Aと実施例1A〜6Aとを比較すると、実施例7Aでは、耐久性がより高くなった。同様に、実施例17Aと実施例14A〜16A−6とを比較すると、実施例17Aでは、耐久性がより高くなった。実施例7A、17Aでは、下層側接着剤組成物にシランカップリング剤を下層側接着剤100質量部に対して2〜15質量部添加されている。このため、実施例7A、17Aでは、金属板/下層側接着層の密着力が一層強化される。したがって、極めて厳しい高温多湿下であっても、端部を含めて強固な密着力を維持することができた。
【0220】
一方、比較例1A−1〜1A−11、比較例2A〜4A、比較例7A−1〜7A−6、8A〜10A、12A〜13Aでは、接着層が単層となっており、かつ、接着剤の軟化温度が80℃以下となっている。このため、加熱温度が低温(180℃以下)であっても、意匠フィルムを金属板に十分に密着させることができた。ただし、浸漬試験後に密着力が著しく低下した。この理由として、接着剤の軟化温度が低いことが挙げられる。すなわち、接着剤の軟化温度が低いので、浸漬試験時に意匠金属板の端部から金属板/下層側接着層の界面に水分子が侵入し、この水分子によって密着力が低下したものと考えられる。このため、比較例1A−1〜1A−11、比較例2A〜4A、比較例7A−1〜7A−6、8A〜10A、12A〜13Aでは、他の耐久性試験を行わなかった。また、意匠フィルムを低温で金属板に密着できる場合、初期意匠保持性も高くなるので、初期意匠保持性に関する試験も行わなかった。また、隠蔽性に関する試験も行わなかった。
【0221】
また、比較例5A、6A、11Aでは、接着層が単層となっており、かつ、接着剤の軟化温度が90℃以上となっている。このため、加熱温度を180℃以下にすると、意匠フィルムと金属板とを十分に密着させることができなかった。具体例には、初期密着力が著しく低下した。一方、加熱温度を180℃より高くしても、意匠フィルムは金属板に密着しなかった。比較例5A、6A、11Aでは、上層側接着層に無機顔料が添加されているためである。そこで、比較例5A、6A、11Aの接着層から無機顔料を除去して同様の試験を行った。この結果、加熱温度を180℃より高くすると、意匠フィルムと金属板とを十分に密着させることができた。しかし、意匠フィルムが高温に曝されるので、初期意匠保持性が著しく低下した。
【0222】
また、比較例14A〜17Aでは、実施例と同様の接着剤を使用しているが、上層側接着剤の軟化温度と下層側接着剤の軟化温度とが逆転している。すなわち、比較例14A〜17Aでは、上層側接着剤の軟化温度が90℃以上となっている。このため、上層加熱温度を高く(180℃より大きく)することを試みたが、意匠フィルムを金属板に十分に密着させることができなかった。比較例14A〜17Aでは、上層側接着層に無機顔料が添加されているためである。そこで、比較例14A〜17Aの上層側接着層から無機顔料を除去して同様の試験を行った。この結果、上層加熱温度を高く(180℃より大きく)することで、意匠フィルムを金属板に十分に密着させることができた。しかし、初期意匠保持性が著しく低下した。さらに、浸漬試験によって意匠金属板の端部に腐食が発生した。下層側接着剤の軟化温度が80℃以下となっているので、浸漬試験時に意匠金属板の端部から金属板/下層側接着層の界面に水分子が侵入し、この水分子によって金属板が腐食されたと考えられる。
【0223】
また、比較例18Aでは、下層側接着剤の軟化温度は上層側接着剤の軟化温度より高いが、上層側接着剤の軟化温度は80℃以下となっている。このため、加熱温度が低温(180℃以下)であっても、意匠フィルムを金属板に十分に密着させることができた。しかし、下層側接着剤の軟化温度は90℃未満となっている。そして、浸漬試験によって密着力が著しく低下した。下層側接着剤の軟化温度が90℃未満となっているので、浸漬試験時に金属板/下層側接着層の界面に水分子が侵入し、この水分子によって密着力が低下したと考えられる。
【0224】
比較例19Aでは、下層側接着剤の軟化温度は上層側接着剤の軟化温度より高くなっている。しかし、上層側接着剤の軟化温度は80℃より高くなっている。このため、上層加熱温度を高く(180℃より大きく)することを試みたが、意匠フィルムを金属板に十分に密着させることができなかった。この結果、初期意匠保持性が著しく低下した。比較例19Aでは、上層側接着層に無機顔料が添加されているためである。そこで、比較例19Aの上層側接着層から無機顔料を除去して同様の試験を行った。この結果、比較例14A〜17Aとほぼ同様の結果が得られた。
【0225】
(7A−2.疎水性シリカ微粒子に関する考察)
実施例1A〜24Aでは、意匠金属板を灯油、ベンジン、リグロインなどの有機溶剤に浸漬した場合に、膨れなどの意匠欠陥の発生を実用レベルで抑制することができた。比較例20A、21A、23Aでは、実施例と各接着層の構造が同一となっている。しかし、上層側接着層への疎水性シリカ微粒子の添加量が1質量部未満となっている。そして、比較例20A、21A、23Aでは、有機溶剤の浸漬により膨れが発生した。比較例22Aでは、上層側接着層への疎水性シリカ微粒子の添加量が10質量部を超えている。そして、比較例22Aでは、上層側接着層自体の強度が不十分になり、上層側接着層が凝集破壊して十分な初期密着力が発現できなかった。さらに、比較例24A、25Aでは、疎水性シリカ微粒子が上層側接着層ではなく下層側接着層に添加されている。比較例24A、25Aでは、有機溶剤浸漬時の膨れを防止できなかった。したがって、疎水性シリカ微粒子は、上層側接着層に添加する必要があり、かつ、その質量部は1〜10質量部であることが必要である。以下、実施例をさらに詳細に考察する。
【0226】
(7A−2−1.疎水性シリカ微粒子の粒径)
PES1−1を使用した実施例4A−1では、疎水性シリカ微粒子の商品を開封した際に、疎水性シリカ微粒子が周囲に舞い散る傾向があり、ハンドリングしにくかった。実施例4A−1では、疎水性シリカ微粒子の平均1次粒径が7nmとなっており、他の疎水性シリカ微粒子よりも平均1次粒径が小さくなっている。このため、ハンドリング性が悪くなったと考えられる。
【0227】
また、実施例4A−2、4A−3、4A−4、16A−1、16A−2は、フュームドシリカ微粒子を使用した例である。実施例4A−4、16A−2は、実施例4A−2、4A−3、実施例16A−1に比較して耐灯油性、耐リグロイン性が若干劣った。実施例4A−5〜4A−7は、疎水性コロイダルシリカ微粒子を使用した例である。実施例4A−6、4A−7は、実施例4A−5に比較して耐有機溶剤性が劣化傾向にある。実施例4A−7は実施例4A−6よりもこの傾向が大きい。このように、疎水性シリカ微粒子の含有量が本実施形態の範囲内(すなわち、1〜10質量部)では、疎水性シリカ微粒子の平均1次粒径が大きくなるほど、耐有機溶剤性、機械強度が劣位となる傾向になった。
【0228】
以上の結果および既述の理由から、下層側接着層に添加する疎水性シリカ微粒子の平均1次粒径の上限値は、500nm以下であることが好ましく、85nm以下であることがより好ましく、85nmより小さいことがより好ましく、40nm以下であることがより好ましく、40nmより小さいことがより好ましい。下限値は、添加することが可能な大きさであれば特に限定はないが、7nm以上であることが好ましく、7nmより大きいことがより好ましく、10nm以上であることがより好ましい。
【0229】
(7A−2−2.疎水性シリカ微粒子の種類)
実施例4A−5と実施例4A−2とを比較すると、疎水性シリカ微粒子の平均1次粒径はほぼ同一であり、下層側接着層への添加量もほぼ同量である。しかし、実施例4A−2では、実施例4A−5よりも耐灯油性が優れていた。実施例4A−2では、疎水性ヒュームドシリカ微粒子を使用しており、実施例4A−5では、疎水性コロイダルシリカ微粒子を使用している。疎水性ヒュームドシリカ微粒子は、疎水性コロイダルシリカ微粒子よりも分散性が高いため、上層側接着層により高い耐有機溶剤性を付与していると考えられる。すなわち、疎水性シリカ微粒子としては、疎水性ヒュームドシリカ微粒子が好ましいと言える。
【0230】
(7A−2−3.疎水性シリカ微粒子の添加量)
実施例4A−9では、実施例4A−2、4A−10よりも耐有機溶剤性が劣化傾向にあった。実施例4A−9では、疎水性シリカ微粒子の添加量が1.5質量部となっており、若干少なくなっている。このため、耐有機溶剤性が十分に高くならなかったと考えられる。一方、実施例4A−11では、実施例4A−2、4A−10よりも初期密着強度が低下傾向にあり、かつ接着層内で凝集破壊した。同様に、実施例16A−6では、実施例16A−1、16A−5よりも初期密着強度が低下傾向にあり、かつ接着層内で凝集破壊した。実施例4A−11、16A−6では、疎水性シリカ微粒子の添加量が10質量部となっており、若干多くなっている。この一方、実施例4A−2、4A−10、16A−1、16A−5では、疎水性シリカ微粒子の添加量が2.5〜8質量部となっている。以上の結果より、疎水性シリカ微粒子の添加量は、2.5〜8質量部であることが好ましい。
【0231】
(7A−2−4.シランカップリング剤添加効果)
実施例4A−8、4A−8−2では、実施例4A−2よりも耐有機溶剤性が向上している。同様に、実施例16A−4では、実施例16A−1よりも耐有機溶剤性が向上している。実施例4A−8、4A−8−2、16A−4では、上層側接着主剤にシランカップリング剤が添加されている。したがって、実施例4A−8、4A−8−2、16A−4では、シランカップリング剤により、疎水性シリカ微粒子がよりより均一に上層側接着層内に分散し、耐有機溶剤性がより一層向上したと考えられる。また、実施例4A−8、4A−8−2、16A−4によれば、シランカップリング剤の添加量は、疎水性シリカ微粒子100質量部に対して、少なくとも1質量部以上が好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。
【0232】
(7A−3.無機顔料に関する考察)
実施例1A〜24Aでは、意匠フィルムの厚さが100μm未満となる場合であっても、意匠フィルムの厚さが100μmとなる場合と同程度の隠蔽性を維持することができた。なお、比較例5A、6A、11Aでは、単層の接着層に無機顔料が添加されている。このため、初期密着力を確保することができなかった。また、比較例22Aでは、下層側接着層に無機顔料が添加されているが、初期密着力を十分に確保することができなかった。
【0233】
<B.実施例B(上層の組成を固定し、下層の組成を調整した実施例)>
<1B.接着剤組成物の調整>
(1B−1−1.上層側接着主剤の作製1)
以下の工程により、上層側接着主剤を調製した。まず、撹拌棒と還流冷却管を備えたフラスコ中に高沸点ナフサ(ソルベッソ150)200質量部、及び所定量の疎水性シリカ微粒子を投入し、10分ほど撹拌した。その後、接着主剤(ポリエステル、アクリル、及びウレタンの何れか)100質量部を投入し、室温で4時間撹拌溶解した。ここで、接着主剤は、上述した上層側接着剤を構成するものである。接着主剤が完全に溶解したのを確認した後、MEK(メチルエチルケトン、丸善石油社製)を20質量部投入し30分間室温で撹拌した。以上の工程により、上層側接着主剤を作製した。なお、シランカップリング剤を添加する接着剤には、接着主剤が完全に溶解したのを確認した後に、シラン化合物(信越化学社製KBM−402)と触媒(サンアプロ社製U−CAT SA102、シラン化合物1質量部に対して0.1質量部)とを加え(後述の表には記載しない)、1時間室温で撹拌し、この後、MEKを20質量部投入し30分間室温で撹拌した。この触媒は、シランカップリング剤と疎水性シリカ微粒子とを反応させる触媒である。上層側接着主剤は、疎水性シリカ微粒子を含む接着主剤である。なお、上層側接着主剤は主に上層側接着層の作製に使用されるが、下層側接着層の作製に使用される場合もある。
【0234】
(1B−1−2.上層側接着主剤の作製2)
以下の工程により、上層側接着主剤を調製した。まず、撹拌棒と還流冷却管を備えたフラスコ中に高沸点ナフサ(ソルベッソ150)200質量部を投入し、10分ほど撹拌した。その後、接着主剤(ポリエステル、アクリル、及びウレタンの何れか)100質量部を投入し、室温で4時間撹拌溶解した。ここで、接着主剤は、上述した上層側接着剤を構成するものである。接着主剤が完全に溶解したのを確認した後、MEK(メチルエチルケトン、丸善石油社製)を20質量部投入し30分間室温で撹拌した。以上の工程により、上層側接着主剤を作製した。上層側接着主剤は、無機顔料を含まない接着主剤である。上層側接着主剤は主に上層側接着層の作製に使用されるが、下層側接着層の作製に使用される場合もある。
【0235】
(1B−2.下層側接着主剤の作製)
撹拌棒と還流冷却管を備えたフラスコ中に高沸点ナフサ(ソルベッソ150)200質量部を投入し、10分ほど撹拌した。その後、接着主剤(ポリエステル、アクリル、及びウレタンの何れか)100質量部を投入し、室温で4時間撹拌溶解した。ここで、接着主剤は、下層側接着剤を構成するものである。接着主剤が完全に溶解したのを確認した後、所定量の無機顔料を添加して1時間室温で撹拌した。その後、MEK(メチルエチルケトン、丸善石油社製)を20質量部投入し30分間室温で撹拌した。なお、シランカップリング剤を添加する接着剤には、無機顔料を投入するタイミングで、シラン化合物(信越化学社製KBM−402)5質量部を加えた。その後、MEKを20質量部投入し30分間室温で撹拌した。下層側接着主剤は、無機顔料を含む接着主剤である。なお、下層側接着主剤は主に下層側接着層の作製に使用されるが、上層側接着層の作製に使用される場合もある。
【0236】
(1B−3.硬化型接着剤組成物の作製)
上記接着主剤に硬化剤溶液(横浜ゴム社製Y6410−Bまたはバイエル社製デスモジュールRFE)、及び触媒(サンアプロ社製U−CAT SA102)を配合することで、硬化型接着剤組成物を得た。この触媒は、接着主剤の硬化を促進するための触媒である。また、Y6410−Bは、イソシアネート基を全ジカルボン酸残基に対して30モル%有するポリイソシアネート樹脂である。また、硬化剤溶液の投入量は、固形分で4質量部とし、触媒の投入量は、硬化剤1質量部に対して固形分で0.1質量部とした。硬化型接着剤組成物の組成を表24〜表27に示す。
【0237】
【表24】
【0238】
【表25】
【0239】
【表26】
【0240】
【表27】
【0241】
表24〜27の数値は、軟化温度を除き質量部を意味する。また、疎水性シリカ微粒子の欄のカッコ内の数値は疎水性シリカ微粒子の平均1次粒径(nm)を意味する。また、無機顔料の欄のカッコ内の数値は無機顔料の平均粒径(μm)を意味する。また、硬化剤溶液及び触媒の質量部は、固形分の質量部を意味する。また、各接着剤組成物を構成する材料の具体的な内容は表28及び表29に示される。
【0242】
【表28】
【0243】
【表29】
【0244】
<2B.軟化温度の測定>
以下の方法により、各接着剤組成物の軟化温度、具体的には、接着剤組成物を構成する接着主剤の軟化温度を測定した。まず、接着剤組成物を直径7.5cm厚さ1cm程度のPE(ポリエチレン)製の容器に静かに流し込んだ。ついで、容器を静かに傾けることで、接着剤組成物の厚さを容器内で均一にした。ついで、容器を水平に保って20℃恒温室で1〜3日乾燥させることで、接着剤フィルムを作製した。ついで、接着剤フィルムを容器より静かに剥離した。なお、接着剤組成物として疎水性シリカ微粒子、無機顔料、硬化剤及び触媒を投入するまえの接着剤組成物を使用して、軟化温度を測定した。
【0245】
ついで、熱機械分析装置を用いて軟化温度を測定した。具体的には、接着剤フィルムを2℃/分で加熱しつつ、試料に直径1mmの円柱針を荷重500mNで押し込んだ。そして、接着剤フィルムへの円柱針の侵入深さが上記の数式(1)を満たした時の温度を軟化温度とした。各接着剤組成物の軟化温度を表24〜28にまとめて示す。
【0246】
<3B.意匠フィルムの作製>
以下の工程により意匠フィルムを準備、または作製した。
(3B−1.塩化ビニルフィルム)
(3B−1−1.単色エンボスフィルム)
塩化ビニルからなる単色エンボスフィルムとして、オカモト社製のLE301を準備した。フィルム厚さは150μmである。また、エンボスフィルムの表面には、深さ15μmのカワシボエンボス模様が施されている。
【0247】
(3B−1−2.高鮮映フィルム)
単色フィルムの作製時に使用した樹脂組成物をカレンダー法により製膜することで、原反フィルムを作製した。ここで、カレンダー法に使用するロールを鏡面ロールとすることで、鏡面仕上げの原反フィルムを作製した。ついで、連続式ラミネータを使用して、当該原反フィルムにポリエステル系接着剤(積水フーラー社製 S−580X)を塗工し、80℃で乾燥した。乾燥後、原反フィルムの接着剤塗工面上に木目印刷を施した25μm厚の2軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを、印刷面と接着剤とが接するようにしてラミネートした。以上の工程により、高鮮映フィルムを得た。なお、塩化ビニルフィルムの軟化温度を測定したところ、140℃であった。また、フィルム厚みの異なる複数種類の塩化ビニルフィルムを作製した。表30にフィルムの厚みを示す。
【0248】
<4B.金属板>
金属板として、0.45mm厚さの2種類の亜鉛系金鋼板(新日鉄住金製スーパーダイマー(K08)(以下、「SD鋼板」とも称する)、GI鋼板(Z18))、Al板(A5052、1.2mm厚)を用意した。そして、これらの金属板にアルカリ脱脂処理を施した後、クロメート液を塗布し、約45mg/m
2のクロメート膜を金属板表面に形成した。また、他の金属板として、粗化処理したCu板(70μm、電解銅箔板)、真空焼鈍酸洗仕上げをしたJISH4600規格Ti板(1mm厚さ)を用意した。
【0249】
<5B.意匠金属板の作製>
(5B−1.実施例1B〜36B)
実施例1B〜36Bに係る意匠金属板は以下の工程により作製した。まず、金属板にコータにて下層用の接着剤組成物(下層側接着層組成物)を下層側接着層の厚みが所定厚みとなるように塗布した。ついで、金属板を下層加熱温度(詳細な値は後述する表に示す)まで加熱した。これにより、金属板上に下層側接着層を形成した。金属板を室温まで冷却した後、上層用の接着剤組成物(上層側接着剤組成物)を下層側接着層上に上層側接着層の厚みが所定厚みとなるように塗布した。ついで、金属板を上層加熱温度(詳細な値は後述する表に示す)まで加熱することで、上層側接着層を形成した。金属板の温度が上層加熱温度に到達した後、上述した塩化ビニルフィルム(単色エンボスフィルム、高鮮映フィルムのいずれか)を上層側接着層の表面に圧着した。以上の工程により、意匠金属板を得た。なお、金属板の加熱温度は、予め金属板表面に装着した熱電対を用いて測定した。実施例1B〜11Bでは、上層用の接着剤組成物及び下層用の接着剤としてポリエステル系の接着剤組成物を使用した。実施例12B〜17Bでは、上層用の接着剤組成物及び下層用の接着剤組成物としてアクリル系接着剤組成物を使用した。実施例18B〜36Bでは、上層用の接着剤組成物及び下層用の接着剤組成物として異なる材料系の接着剤組成物を使用した。金属板は実施例毎に異なるものを使用した。以下の説明では、単色エンボスフィルムが貼り付けられた意匠金属板を「単色エンボス板」とも称し、高鮮映フィルムが貼り付けられた意匠金属板を「高鮮映板」とも称する。
【0250】
(5−2.実施例37B)
実施例37Bに係る意匠金属板は以下の工程により作製した。まず、金属板にコータにて下層用の接着剤組成物を厚さが2μmになるように塗布した。ついで、金属板を下層加熱温度まで加熱した。これにより、金属板上に下層側接着層を形成した。ついで、金属板を室温まで冷却した。一方、上述した塩化ビニルフィルム上にコータにて上層用の接着剤組成物を厚さが2μmになるように塗布した。ついで、意匠フィルムを上層加熱温度まで加熱した。これにより、塩化ビニルフィルム上に上層側接着層を形成した。その後、意匠フィルムを室温まで冷却した。ついで、下層側接着層が形成された金属板を上層加熱温度まで加熱し、意匠フィルム上の上層側接着層を金属板上の下層側接着層に圧着した。以上の工程により、意匠金属板を得た。
【0251】
(5−3.比較例1B〜4B)
接着層を1層だけで構成することとした他は、実施例1Bと同様の工程により、意匠金属板を作製した。すなわち、実施例1Bと同様の工程により、金属板上に接着層を形成した。ついで、金属板を加熱温度(詳細な値は後述する表に示す)まで加熱した。ついで、塩化ビニルフィルムを接着層に圧着した。以上の工程により、意匠金属板を作製した。
【0252】
(5−4.比較例5B〜10B)
無機顔料の添加量を本実施形態の範囲外とするか、または、無機顔料を上層側接着層に添加した他は、実施例1Bと同様の工程により、意匠金属板を作製した。
【0253】
(5−5.比較例11B、12B)
上層側接着剤の軟化温度を下層側接着剤の軟化温度より高くした他は、実施例1Bと同様の工程により、意匠金属板を作製した。
【0254】
(5−6.比較例13B)
上層側接着剤の軟化温度を80℃より高くした他は、実施例1Bと同様の工程により、意匠金属板を作製した。
【0255】
(5−7.比較例14B)
下層側接着剤の軟化温度を90℃未満とした他は、実施例1Bと同様の工程により、意匠金属板を作製した。各実施例及び比較例で作製した意匠金属板の構成を表31〜42にまとめて示す。
【0256】
【表30】
【0257】
【表31】
【0258】
【表32】
【0259】
【表33】
【0260】
【表34】
【0261】
【表35】
【0262】
【表36】
【0263】
【表37】
【0264】
【表38】
【0265】
【表39】
【0266】
【表40】
【0267】
【表41】
【0268】
【表42】
【0269】
<6B.意匠金属板の評価>
(6B−1.初期密着力)
単色エンボス板を用いて、初期密着力を評価した。具体的には、カッターナイフで単色エンボスフィルムに5mm幅の#型切込みを入れた。ここで、切り込みの深さは金属板に達する程度の深さとした。ついで、エリクセン試験機(DKSH社製、エリクセン試験機)を用いて#型切込み部分を8mm張り出した。ここで、張り出し部分の中心(トップ部)を#型切込み部分の中心に一致させた。ついで、#型切込み部分をピンセットで強制剥離し、剥離の程度を以下の基準で評価した。
◎◎:評点5(フィルムが凝集破壊して殆ど剥離なし)
◎:評点4(トップ部のみ剥離)
○:評点3(トップ部の全体および側面部の1/3未満が剥離)
×:評点2(トップ部の全体および側面部の全体が剥離)
××:評点1(トップ部の全体、側面加工部の全体、及び#型切込み部分の周囲が剥離)
そして、同様の試験を5回繰り返して行った。結果を表31〜42にまとめて示す。なお、試験毎に評価のバラ付きがある場合、評価の上限、下限を表に記載した。
【0270】
(6B−2.エンボス戻り率)
単色エンボス板を用いて、初期意匠保持性の評価指標の1つであるエンボス戻り率を評価した。具体的には、単色エンボスフィルム表面の算術平均粗さRa1と、単色エンボス板表面(具体的には、単色エンボス板に貼り付けられた単色エンボスフィルムの表面)の算術平均粗さRa2を接触式2次元粗さ計(オリンパス社製、OLS400)で測定した。観察面は、20×20mmとした。ついで、初期意匠保持性の指標の1つであるエンボス戻り率を以下の数式(2)により算出した。結果を表31〜42にまとめて示す。
エンボス戻り率χ: χ=1−Ra2/Ra1 (2)
【0271】
(6B−3.鮮映度及び色落ち)
高鮮映フィルムを用いて、初期意匠保持性の評価指標の1つである鮮映度(PDG値)及び色落ちを評価した。具体的には、高鮮映フィルム表面及び高鮮映板表面(具体的には、高鮮映板の表面に貼り付けられた高鮮映フィルムの表面)の鮮映度を鮮明度光沢度計((財)日本色彩研究所社製PGD―IV)で測定した。そして、鮮映度を以下の基準で評価した。
◎:高鮮映フィルム及び高鮮映板の鮮映度の差が0.1未満
○:高鮮映フィルム及び高鮮映板の鮮映度の差が0.1〜0.2
×:高鮮映フィルム及び高鮮映板の鮮映度の差が0.3以上
そして、同様の試験を5回繰り返して行った。結果を表31〜42にまとめて示す。なお、試験毎に評価のバラ付きがある場合、評価の上限、下限を表に記載した。
【0272】
さらに、高鮮映フィルム表面及び高鮮映板表面のa値を色差計(コニカミノルタ社製CM−2600d)で測定した。ここで、a値は赤みを評価する値である。赤みは意匠金属板の作製時に特に消失しやすいので、a値を用いて色落ちを評価した。そして、a値の差△a(=高鮮映フィルムのa値−高鮮映板のa値)を算出し、色落ちを以下の基準で評価した。
◎: △a<3.0
○: 3.0<△a<5.0
×: △a>5.0
そして、同様の試験を5回繰り返して行った。結果を表31〜42にまとめて示す。なお、試験毎に評価のバラ付きがある場合、評価の上限、下限を表に記載した。
【0273】
(6B−4.耐久性)
単色エンボス板を用いて、耐久性を評価した。具体的には、単色エンボス板を20日間沸騰水及び75℃の温水に浸漬した。なお、下層側接着剤の軟化温度が100℃未満となる場合、実施例6Bおよび一部の比較例を除き、75℃の温水にのみ浸漬した。以下、このような試験を「浸漬試験」とも称する。ついで、浸漬試験後のフィルム密着力を上述した初期密着力と同様の試験により評価した。さらに、浸漬試験後の単色エンボス板の端部を目視で観察し、単色エンボスフィルムの戻り(剥がれ)の有無、腐食の有無を評価した。なお、腐食の有無は、腐食が問題となる金属板、すなわちGI鋼板、SD鋼板についてのみ行った。そして、同様の試験を5回繰り返して行った。結果を表31〜42にまとめて示す。なお、試験毎に評価のバラ付きがある場合、評価の上限、下限を表に記載した。
【0274】
(6B−5.耐有機溶剤性の評価)
以下の実験により、意匠金属板の耐有機溶剤性(耐薬品性)を評価した。50×50mmの意匠金属板を切り出し、端部をローでシールした。シール後、意匠金属板を表の薬品に常温、常圧で所定時間浸漬した(灯油、ベンジン:5時間、リグロイン:1時間)。浸漬後、表面に付着した薬品をろ紙で拭取り、表面を観察した。サンプルはN=5で調査した。そして、耐有機溶剤性を以下の基準で評価した。結果を表31〜42にまとめて示す。なお、試験毎に評価のバラ付きがある場合、評価の上限、下限を表に記載した。
◎◎:全く膨れなし。
◎:2個以下の微細膨れが発生するサンプルが1枚あった。ここで、微細膨れとは、微細膨れの平面形状を円近似した場合に、直径が1mm以下となる膨れを意味する。
○:2個以下の微細膨れが発生するサンプルが2枚あった。
×:全サンプルで全面に膨れが発生した。
【0275】
(6B−6.隠蔽性の評価)
50×50mmの単色エンボス板を切り出し、任意の5点のL値を上述した色差計で測定し、算術平均値L
aを得た。標準サンプルとして、接着剤側、金属板側層に各々2μm厚みのPES−1、PES−5−R1を用い、100μm厚の単色エンボスフィルムを積層した単色エンボス板を作成した。そして標準サンプルのL
aを求め、これをL
asとした。隠蔽性は、下記の式で算出し、以下のように評価した。結果を表31〜42にまとめて示す。
隠蔽性: L
a/L
as×100(%)
◎◎◎: L
a/L
as>99.9
◎◎:L
a/L
as99.5〜99.9
◎:L
a/L
as=98.0〜99.5
○:L
a/L
as=96.5〜98.0
×:L
a/L
as<96.5
【0276】
<7B.評価結果の考察>
(7B−1.接着剤に関する考察)
実施例1B〜37Bでは、初期密着力、初期意匠保持性、耐久性のいずれも高い評価が得られた。すなわち、金属板がアルミ、銅、チタン、鋼板のいずれであっても、初期の意匠性を保持しながら、初期および沸騰水への浸漬後も高い密着力を発現できた。
【0277】
実施例1B〜37Bでは、上層側接着剤の軟化温度が80℃以下となっているので、上層加熱温度が低くても(具体的には、180℃以下であっても)、意匠フィルムを十分に金属板に密着させることができる。したがって、初期密着力、初期意匠保持性のいずれもが高くなった。さらに、下層側接着剤の軟化温度が90℃以上となっているので、高温多湿の環境下に長時間意匠金属板を曝露しても、金属板/下層側接着層の界面への水分子の侵入を防止できる。したがって、耐久性が高くなった。
【0278】
さらに、実施例1Bでは、上層側接着剤の軟化温度が70℃より高いが、実施例2B〜11Bでは、上層側接着剤の軟化温度が70℃以下となっている。そして、実施例2B〜11Bの初期意匠保持性は、実施例1Bの初期意匠保持性よりも優れていた。実施例2B〜11Bでは、上層側接着剤の軟化温度が70℃以下となっているので、上層加熱温度を実施例1Bよりも低く(具体的には、165℃以下に)できる。この結果、優れた初期意匠保持性が得られた。なお、実施例4B−1〜4B−12、6Bによれば、上層加熱温度を140℃以下とすることで、初期意匠保持性がさらに高くなることがわかった。
【0279】
さらに、下層側接着剤の軟化温度が100℃以上となる場合、沸騰水への浸漬という極めて厳しい高温多湿下であっても、端部を含めて強固な密着力を維持することができた。すなわち、極めて高い耐久性を得ることができた。
【0280】
さらに、下層側接着剤の軟化温度と上層側接着剤の軟化温度との差は30℃以上である場合に、上記効果がより顕著に得られることがわかった。
【0281】
さらに、実施例7Bと実施例1B〜6Bとを比較すると、実施例7Bでは、耐久性がより高くなった。同様に、実施例15Bと実施例12B〜14Bとを比較すると、実施例15Bでは、耐久性がより高くなった。実施例7B、15Bでは、下層側接着剤組成物にシランカップリング剤を下層側接着剤100質量部に対して2〜15質量部添加されている。このため、実施例7B、15Bでは、金属板/下層側接着層の密着力が一層強化される。したがって、極めて厳しい高温多湿下であっても、端部を含めて強固な密着力を維持することができた。
【0282】
一方、比較例1B、2Bでは、接着層が単層となっており、かつ、接着剤の軟化温度が80℃以下となっている。このため、加熱温度が低温(180℃以下)であっても、意匠フィルムを金属板に十分に密着させることができた。ただし、浸漬試験後に密着力が著しく低下した。この理由として、接着剤の軟化温度が低いことが挙げられる。すなわち、接着剤の軟化温度が低いので、浸漬試験時に意匠金属板の端部から金属板/下層側接着層の界面に水分子が侵入し、この水分子によって密着力が低下したものと考えられる。このため、比較例1B、2Bでは、他の耐久性試験を行わなかった。また、意匠フィルムを低温で金属板に密着できる場合、初期意匠保持性も高くなるので、初期意匠保持性に関する試験も行わなかった。また、比較例1B、2Bでは、隠蔽性及び耐有機溶剤性の評価を行わなかった。
【0283】
また、比較例3B、4Bでは、接着層が単層となっており、かつ、接着剤の軟化温度が90℃以上となっている。このため、加熱温度を180℃以下にすると、意匠フィルムと金属板とを十分に密着させることができなかった。具体例には、初期密着力が著しく低下した。一方、加熱温度を180℃より高くしても、意匠フィルムと金属板とを十分に密着させることができなかった。意匠フィルムに含まれる可塑剤と接着層との親和性が悪かったことによるものと考えられる。このため、比較例3B、4Bでは、隠蔽性及び耐有機溶剤性の評価を行わなかった。
【0284】
また、比較例11B〜12Bでは、実施例と同様の接着剤を使用しているが、上層側接着剤の軟化温度と下層側接着剤の軟化温度とが逆転している。すなわち、比較例11B〜12Bでは、上層側接着剤の軟化温度が90℃以上となっているので、上層加熱温度を高く(180℃より大きく)しないと、意匠フィルムを金属板に十分に密着させることができなかった。この結果、初期意匠保持性が著しく低下した。さらに、浸漬試験によって意匠金属板の端部に腐食が発生した。下層側接着剤の軟化温度が80℃以下となっているので、浸漬試験時に意匠金属板の端部から金属板/下層側接着層の界面に水分子が侵入し、この水分子によって金属板が腐食されたと考えられる。比較例11B〜12Bでは、端部に腐食が発生したため、フィルム剥離については評価しなかった。また、耐有機溶剤性に関する試験も行わなかった。
【0285】
比較例13Bでは、下層側接着剤の軟化温度は上層側接着剤の軟化温度より高くなっている。しかし、上層側接着剤の軟化温度は80℃より高いので、上層加熱温度を高く(180℃より大きく)しないと、意匠フィルムを金属板に十分に密着させることができなかった。この結果、初期意匠保持性が著しく低下した。このため、耐有機溶剤性に関する試験も行わなかった。
【0286】
また、比較例14Bでは、下層側接着剤の軟化温度は上層側接着剤の軟化温度より高いが、上層側接着剤の軟化温度は80℃以下となっている。このため、加熱温度が低温(180℃以下)であっても、意匠フィルムを金属板に十分に密着させることができた。しかし、下層側接着剤の軟化温度は90℃未満となっている。そして、浸漬試験によって密着力が著しく低下した。下層側接着剤の軟化温度が90℃未満となっているので、浸漬試験時に金属板/下層側接着層の界面に水分子が侵入し、この水分子によって密着力が低下したと考えられる。このため、耐有機溶剤性に関する試験も行わなかった。
【0287】
(7B−2.無機顔料に関する考察)
実施例1B〜37Bでは、意匠フィルムの厚さが100μm未満となる場合であっても、意匠フィルムの厚さが100μmとなる場合と同程度の隠蔽性を維持することができた。さらに、実施例4B−8、4B−12に示すように、意匠フィルム厚みが大きく変動した場合であっても、隠蔽性を確保できた。
【0288】
一方、比較例1B、2Bでは、接着層が単層となっており、初期密着力は確保できた。しかし、耐久性が著しく劣った。このため、比較例1B、2Bでは、隠蔽性及び耐有機溶剤性の評価を行わなかった。比較例3B、4Bでは、接着層が単層となっており、初期密着力が確保できなかった。このため、比較例3B、4Bでは、隠蔽性及び耐有機溶剤性の評価を行わなかった。
【0289】
比較例5B〜10Bでは、実施例と各接着層の構造が同一となっている。しかし、比較例5B、6Bに示すように、下層側接着層に添加される無機顔料が3質量部未満となる場合、十分な隠蔽性が発現できなかった。また、比較例7Bのように無機顔料の添加量が50質量部を超える場合、接着剤組成物が増粘して均一に塗布することができなかった。さらに、比較例8B〜10Bに示すように、意匠フィルムと接触する上層側接着層に無機顔料を添加すると、初期密着力が発現できなかった。このため、比較例5B〜10Bでは、耐有機溶剤性を評価しなかった。以下、実施例をさらに詳細に考察する。
【0290】
(7B−2−1.無機顔料の粒径)
実施例4B−5、4B−6、4B−7は隠蔽性が他の実施例に比較して劣位であった。いずれも、添加した無機顔料の粒径が、0.3μm超である。さらに、粒径が大きくなるほどこの傾向が強くなった。粒径が大きくなると散乱断面積が減少するので、隠蔽性が低下したと考えられる。さらに、粒径1μm超の無機顔料を添加した実施例4B−7では、接着剤層が凝集破壊して、初期密着力もやや劣った。粒径が大きくなると、下層側接着剤/無機顔料界面に応力が集中しやすくなるため、このような現象が生じたと考えられる。以上より、添加する無機顔料の平均粒径は1μm以下であることが望ましい。無機顔料の平均粒径は0.2〜0.4μmであることがさらに好ましく、0.2μm以上0.4μm未満であることがさらに好ましく、0.2〜0.3μmであることがさらに好ましい。
【0291】
(7B−2−2.有機処理の効果)
実施例4B−4と実施例4B−3とでは、いずれも無機顔料の添加量、平均粒径が同じであった。それにも関わらず、実施例4B−3の方が隠蔽性に優れた。実施例4B−3の無機顔料は有機処理されている。このため、下層側接着層中により均一に分散し、散乱断面積が増加したと考えられる。
【0292】
(7B−2−3.無機顔料の添加量)
実施例4B−9、4B−10によれば、無機顔料の添加量が増大するほど、隠蔽性が増加した。但し、無機顔料の添加量が50質量部となる実施例4B−13では、接着層の機械強度がやや劣化した。実施例4B−7と同様な原因と推定される。本結果から、無機顔料の添加量は、25〜50質量部であることが好ましく、25質量部以上50質量部未満であることがより好ましく、30−45質量部であることがより好ましい。
(7B−3.疎水性シリカ微粒子に関する考察)
実施例1B〜37Bでは、意匠金属板を灯油、ベンジン、リグロインなどの有機溶剤に浸漬した場合に、膨れなどの意匠欠陥の発生を実用レベルで抑制することができた。
【0293】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。