特許第6647325号(P6647325)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ENEOSサンエナジーの特許一覧

特許6647325接着剤用溶剤組成物、塗料希釈用溶剤組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647325
(24)【登録日】2020年1月16日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】接着剤用溶剤組成物、塗料希釈用溶剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/50 20060101AFI20200203BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20200203BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20200203BHJP
   C09D 9/00 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   C11D7/50
   C11D7/26
   C09J11/06
   C09D9/00
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-16860(P2018-16860)
(22)【出願日】2018年2月2日
(65)【公開番号】特開2019-131748(P2019-131748A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2018年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】517447965
【氏名又は名称】株式会社ENEOSサンエナジー
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100119220
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091971
【弁理士】
【氏名又は名称】米澤 明
(74)【代理人】
【識別番号】100095120
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 亘彦
(74)【代理人】
【識別番号】100088041
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 龍吉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】貝原 耕太郎
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−279110(JP,A)
【文献】 特開平08−199135(JP,A)
【文献】 特開2009−293007(JP,A)
【文献】 特開平09−255993(JP,A)
【文献】 特開平09−263796(JP,A)
【文献】 特開2016−210844(JP,A)
【文献】 特開平02−196883(JP,A)
【文献】 特開2003−003199(JP,A)
【文献】 特開平09−217097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00 − 19/00
C09J 1/00 − 201/10
C09D
C09K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ジメチルと、イソヘキサンと、エチルアルコールとが混合されてなる接着剤用溶剤組成物において、炭酸ジメチルが60重量%以上90重量%以下と、イソヘキサン5重量%以上30重量%以下と、エチルアルコール5重量%以上15重量%以下とが含まれることを特徴とする接着剤用溶剤組成物。
【請求項2】
炭酸ジメチルと、イソヘキサンと、エチルアルコールとが混合されてなる塗料希釈用溶剤組成物において、炭酸ジメチルが60重量%以上90重量%以下と、イソヘキサン5重量%以上30重量%以下と、エチルアルコール5重量%以上15重量%以下とが含まれることを特徴とする塗料希釈用溶剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冬場の作業などで凍結することもなく乾燥性も良好で、さらに環境性・安全性の面で問題がなく、接着剤の溶解や塗料の希釈で性能を発揮する溶剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤の溶解や塗料の希釈などに用いられる溶剤としては、石油系有機溶剤が用いられる。前記のような用途には、特に、トルエン、キシレン、ベンゼンなどが従来より用いられていたが、これら構造式にベンゼン環を有する有機溶剤は臭気が強く、さらに、人体に悪影響を及ぼすものであった。また、生態系への影響もあり、廃棄時においても特別な取り扱いを要するものであった。
【0003】
そこで、溶剤としてトルエンなどを酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)で代替しようとする動きがあるが、これらの化学物質も有機溶剤中毒防止規則では、第二種有機溶剤に該当することから、危険情報の周知徹底や、作業環境の制限・指定、健康管理の指定など、使用に際しては作業者の負担がかかるようなものであった。
【0004】
そこで、さらに一歩進めて、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)を炭酸ジメチル(DMC)で代用しようとする提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。この炭酸ジメチル(DMC)は、前記の有機溶剤中毒防止規則で管理対象となる化学物質に該当しないし、さらにPRTR制度の下においても、人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質に該当することがない。
【特許文献1】特開2009−293007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように炭酸ジメチル(DMC)は環境性・安全性の観点では問題のない化学物質ではあるものの、凝固点は4.65℃と比較的高いものであり、これを溶剤として使用すると、冬場の作業などで凍結してしまい、作業に支障をきたす恐れがある、という課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の各課題を解決しつつ、環境性・安全性の面で問題がなく、接着剤の溶解や塗料の希釈などの用途で十分な性能を発揮する溶剤組成物を提供することが目的である。
【0007】
そのために本発明に係る接着剤用溶剤組成物は、例えば、炭酸ジメチルと、イソヘキサンと、エチルアルコールとが混合されてなる接着剤用溶剤組成物において、炭酸ジメチルが60重量%以上90重量%以下と、イソヘキサン5重量%以上30重量%以下と、エチルアルコール5重量%以上15重量%以下とが含まれることができる。
【0008】
また、本発明に係る塗料希釈用溶剤組成物は、例えば、炭酸ジメチルと、イソヘキサンと、エチルアルコールとが混合されてなる塗料希釈用溶剤組成物において、炭酸ジメチルが60重量%以上90重量%以下と、イソヘキサン5重量%以上30重量%以下と、エチルアルコール5重量%以上15重量%以下とが含まれることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る接着剤用溶剤組成物、塗料希釈用溶剤組成物は、有機溶剤中毒防止規則で管理対象となる化学物質や、さらにPRTR制度において、人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質を含んでいないので、環境性・安全性に優れている。
【0014】
また、本発明によれば、接着剤の溶解や塗料の希釈などの用途で十分な性能を発揮しつつ、凍結することもなく乾燥性も良好な溶剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0016】
本発明に係る溶剤組成物を構成する上で、基本となる化学物質として、人の健康や生態系に有害となるおそれが少ない化学物質である炭酸ジメチル(DMC)を選択した。ただし、この炭酸ジメチル(DMC)は、前記したように、凝固点が4.65℃と比較的高く、溶剤としての使用環境によっては凍結する恐れがあった。
【0017】
そこで、炭酸ジメチル(DMC)に対して他の化学物質を混合することで凝固点を下げることを検討した。当該他の化学物質として何を選択するかについては、人の健康や生態系に有害となる可能性が少ないこと、沸点が低く乾燥性に優れていること、溶剤としての利便性が優れ実績があるものであること、などを勘案した。これらの観点から鋭意検討を重ねた結果、イソヘキサンが適切であることを本発明者は見出した。
【0018】
なお、市販のイソヘキサンには、ノルマルヘキサンが1.5重量%〜5.0重量%含まれており、本発明において用いられるイソヘキサンにも、ノルマルヘキサンが1.5重量%〜5.0重量%含有していることを前提としている。ノルマルヘキサンはイソヘキサンに比べて、人の健康や生態系に対する影響が大きい。このため、炭酸ジメチル(DMC)にイソヘキサンを混合する際においては、安全性・環境性の観点で、イソヘキサンに含有されるノルマルヘキサンの影響が出ない程度の量とした。本発明に係る溶剤組成物では、そのような目安に基づいて、含有されるイソヘキサンは30重量%以下とされている。
【0019】
また、本発明に係る溶剤組成物の凝固点の決定要因として炭酸ジメチル(DMC)単体の挙動が支配的とならないよう配慮されている。具体的には、溶剤組成物の凝固点が、炭酸ジメチル(DMC)単体の凝固点に近づいてしまわないようにするために、本発明に係る溶剤組成物で含有される炭酸ジメチル(DMC)の重量については、90重量%以下とされている。
【0020】
本発明に係る溶剤組成物は、主として室内において利用することを想定しており、室内環境が氷点下となる率は少ないものと見込み、本発明に係る溶剤組成物の凝固点は0℃を上回ることがないような設定とされている。
【0021】
溶剤組成物として、炭酸ジメチル(DMC)とイソヘキサンとを試験的に混合したところ、両者の相溶性に問題がある、という新たな知見を得た。そこで、両者の相溶性を高める物質として、エチルアルコール(エタノール)を用いてみたところ、相溶性の改善効果があることを確認することができた。このため、実施形態に係る溶剤組成物では、主としてエチルアルコールが用いられている。なお、エチルアルコールに代えて、イソプロピルアルコール(IPA、イソプロパノール)やノルマルプロピルアルコール(ノルマルプロパノール)を用い得ることは確認しており、前記相溶性を高める物質として、アルコール類を用い得る。このアルコール類としては、好適には、エチルアルコールとイソプロピルアルコールとノルマルプロピルアルコールとからなる群から選ぶことができる。すなわち、本発明では、炭素数が2又は3のアルコール、そしてそのようなアルコールの任意の組み合わせを好適に用いることが可能である。
【0022】
以上から、本発明に係る溶剤組成物は、炭酸ジメチル(DMC)と、イソヘキサンと、エチルアルコールなどのアルコールとが混合されてなるものとした。ただし、市販のイソヘキサンは、1.5重量%〜5.0重量%のノルマルヘキサンを含有しており、本明細書において「イソヘキサン」と称するものには、1.5重量%〜5.0重量%のノルマルヘキサンが含まれることを前提としている。
【0023】
また、本発明に係る溶剤組成物は、炭酸ジメチル(DMC)が60重量%以上90重量%以下含まれることが好ましい。より好ましくは、本発明に係る溶剤組成物は、炭酸ジメチル(DMC)が60重量%以上90重量%以下と、イソヘキサン5重量%以上30重量%以下と、アルコールとしてエチルアルコール5重量%以上15重量%以下とが含まれることができる。
【0024】
このような本発明に係る溶剤組成物は、接着剤の溶解や塗料の希釈に用いる溶剤として用い得ることを確認した。
【0025】
以上のような本発明に係る溶剤組成物は、有機溶剤中毒防止規則で管理対象となる化学物質や、さらにPRTR制度において、人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質を含んでいないので、環境性・安全性に優れている。
【0026】
また、本発明によれば、接着剤の溶解や塗料の希釈用途で十分な性能を発揮しつつ、凍結することもなく乾燥性も良好な溶剤組成物を提供することができる。
[実施例]
本発明に係る溶剤組成物の効果を確認するために、表1に示す組成の試料を準備し、各試験に供した。
【0027】
【表1】
【0028】
表1中のいずれの試料も炭酸ジメチル(DMC)と、イソヘキサンと、エチルアルコールとが混合されて合計で100重量%となるものである。そして、実施例1乃至実施例8に係る試料が本発明に係る溶剤組成物に相当し、その他の試料が比較例に係る溶剤組成物のものである。
【0029】
なお、本明細書では、炭酸ジメチル(DMC)には、宇部興産株式会社社製炭酸ジメチルを用い、イソヘキサンには、JXTGエネルギー株式会社製カクタスソルベントFを用い、エチルアルコールには、日本合成アルコール株式会社製99度合成無変性を用いている。
【0030】
試料の作製にあたって、各化学物質の重量の計量器として株式会社島津製作所製ELB1200を用いた。各試料200mlを作製し、ねじ込み式の蓋を有する50ml透明ガラスビンにそれぞれ20mlずつ小分けにして、試験用のサンプルとした。
【0031】
試料の作製手順としては、まず計量器の上皿天秤上に500mlビーカーを載せ、風袋引きをして計量器の表示数値をゼロにセットし、第1成分である炭酸ジメチル(DMC)を規定量計量する。その後、さらに風袋引きをして計量器の表示数値をゼロにセットし、第2成分(イソヘキサン)を計量する。同様に、第3成分(エチルアルコール)を計量する。
【0032】
全成分の計量後、ステンレス製マドラーを用いて混合具合が十分に均質となるように人手にて攪拌を行った。攪拌する回数は概ね30回程度である。攪拌し均質とした後に、50mlの蓋付き透明ガラスビンに20mlずつ小分けして、試験用のサンプルとした。
【0033】
なお、計量器の最小表示値は0.1gであるため、規定数量の±0.1g以内を計量合格の基準として設定した。
1.凝固試験
蓋付き透明ガラスビンに小分けされた試験用サンプルに対して凝固試験(凍結試験)を実施した。表2に凝固試験の結果を示す。
【0034】
【表2】
【0035】
本試験では、冷却コイルを有する冷却手段としてアズワン製ハンディークーラー202TNを用い、また、温度調整制御手段としてオムロン株式会社製デジタルサーモE5LDを用いて温度の制御を行った。
【0036】
15Lの水浴に不凍液(50%エチレングリコール水溶液)を入れ、不凍液中に前記ハンディークーラーの冷却コイルを投入した。前記デジタルサーモを0℃に設定して、一定時間(概ね2時間程度)放置し、温度が設定温度で安定するようにした。また、本試験で用いる水浴が15Lと比較的大きかったので、水浴内の温度が均一となるように、エアーポンプを用いてゆっくり水浴内の不凍液の攪拌を続けながら試験を実施した。
【0037】
温度が安定したら、試験用サンプル20mlが封入されたガラスビンを水浴の中に入れて、約1時間放置し、試験用サンプルの温度が水浴の温度と同化するようにした。1時間経過後、水浴からガラスビンを取り出し、各試験用サンプルにおける凍結(凝固)の有無を目視にて確認した。
【0038】
凝固試験の結果、炭酸ジメチル(DMC)を91重量%含む比較例4の試料で一部凍結(凝固)することが確認された。一方、比較例も含め、炭酸ジメチル(DMC)が90重量%以下の試料では凍結(凝固)することがなかった。本試験により、溶剤組成物の凝固点が、0℃を上回ることがないように設定するためには、溶剤組成物における炭酸ジメチル(DMC)の含有量が90重量%以下であることが好ましいことが確認できた。
2.乾燥試験
蓋付き透明ガラスビンに小分けされた各試験用サンプルに対して乾燥試験を実施した。この乾燥試験は、25cm×25cmのステンレス製板に、0.5mlの試験用サンプルを注射器により滴下し、株式会社ダスキン製ワークホースを用いてステンレス製板全体に液体を伸ばし、液体が等量かつ全体にいきわたった時から、液体が完全に乾燥し目視できなくなるまでの時間をストップウオッチで計測した。このような観測試験の準備では、ステンレス製板の表面はイソプロピルアルコール(IPA)を用いて拭き、各試験で条件が変わらないようにした。また、試験は2回行い平均値を乾燥時間とした。本発明に係る溶剤組成物の試料は、いずれも、概ね10秒程度の乾燥時間であり、接着剤の溶解作業の溶剤として用いるような場合、作業者にとって乾燥が遅いと体感するような時間ではないと言える。
3.接着剤の溶解試験
蓋付き透明ガラスビンに小分けされた試験用サンプルに対して接着剤の溶解試験を実施した。表3に接着剤の溶解試験の結果を示す。
【0039】
【表3】
【0040】
接着剤の相溶性試験に用いたのは、接着剤(1)乃至(5)の5種類である。接着剤(1)としては、セメダイン株式会社製セメダインCを用い、接着剤(2)としては、東亞合成株式会社製アロンアルファを用い、接着剤(3)としては、株式会社アルテコ製瞬間接着剤731を用い、接着剤(4)としては、コニシ株式会社製プレミアムソフトウルトラ多用途SUを用い、接着剤(5)としては、セメダイン株式会社製メタルロックを用いた。
【0041】
次に、接着剤の相溶性試験の手順について説明する。試験用サンプル20mlが入った透明ガラスビンに、注射器で計量した接着剤2mlを投入して、透明ガラスビンに蓋をし、人手によって10回ふって、透明ガラスビン内部の液体を攪拌した。攪拌を行った直後、透明ガラスビンの底面が見えるように、蓋を下にした状態で透明ガラスビンをテーブルなどに静置して10分間放置した。そして、10分間放置後、透明ガラスビンの底面に、接着剤が付着しているか否かを目視によって確認した。透明ガラスビンの底面に接着剤が付着していなかった場合には○とし、透明ガラスビンの底面に接着剤が付着していた場合には×とした。
【0042】
本発明に係る溶剤組成物の実施例では、接着剤(1)乃至(5)の接着剤の全てに対して溶解性があった。一方、比較例1乃至比較例3の溶剤組成物の試料については、接着剤(1)乃至(5)の接着剤に対する溶解性がなかった。これは、溶剤組成物における炭酸ジメチル(DMC)の含有量が60重量%未満であったためと考えられる。接着剤の溶解性を担保するためには、本発明に係る溶剤組成物においては、炭酸ジメチル(DMC)の含有量は60重量%以上であることが好ましいことが本試験によって確認することができた。
4.接着剤の拭き取り試験
各試験用サンプルに対して接着剤の拭き取り試験を実施した。表4に接着剤の溶解試験の結果を示す。表4に接着剤の拭き取り試験の結果を示す。
【0043】
【表4】
【0044】
接着剤の拭き取り試験に用いたのは、先の試験で用いた接着剤と同様の接着剤である接着剤(1)乃至(5)の5種類である。
【0045】
次に、接着剤の拭き取り試験の手順について説明する。試験で接着剤が拭き取られる対象となるステンレス製の15cm×15cmの板が準備され、それぞれの試験の前段に都度イソプロピルアルコール(IPA)によって表面の洗浄が行われた。
【0046】
接着剤(1)乃至(4)は有機溶剤が蒸発することによって硬化する一液硬化型であり、一方、接着剤(5)は本剤と硬化剤を混合することにより硬化する二液硬化型である。接着剤(1)乃至(4)についてはステンレス製の板に2g滴下し、当該板が水平となる状態で5分放置した。5分後、2mlの試料を接着剤の上に滴下し、拭き取り紙(日本製紙クレシア株式会社キムワイプ)で人手によって接着剤を拭き取った。
【0047】
一方、接着剤(5)についてはステンレス製の板に本剤2gと硬化剤2gを滴下し、当該板が水平となる状態で5分放置した。5分後、2mlの試料を接着剤の上に滴下し、拭き取り紙(日本製紙クレシア株式会社キムワイプ)で人手によって接着剤を拭き取った。
【0048】
拭き取り後、ステンレス製の板に目視によって接着剤が残存していなかった場合を○とし、逆に、接着剤が残存していた場合を×とした。
【0049】
本発明に係る溶剤組成物の実施例では、接着剤(1)乃至(5)の接着剤の全てを拭き取ることが可能であった。一方、比較例1乃至比較例3の溶剤組成物の試料については、接着剤(1)乃至(5)の接着剤を拭き取ることができなかった。これは、先の試験同様、溶剤組成物における炭酸ジメチル(DMC)の含有量が60重量%未満であったためと考えられる。拭き取り試験によっても、本発明に係る溶剤組成物における炭酸ジメチル(DMC)の含有量は60重量%以上であることが好ましいことが本試験によって確認することができた。
【0050】
以上のような3.及び4.の試験から、本発明に係る溶剤組成物は、接着剤の溶解に用いる溶剤として利用し得ることが確認できた。
5.塗料の溶解試験
蓋付き透明ガラスビンに小分けされた試験用サンプルに対して塗料の溶解試験を実施した。表5に塗料の溶解試験の結果を示す。
【0051】
【表5】
【0052】
塗料の溶解試験に用いたのは、塗料(1)、塗料(2)の2種類である。塗料(1)としては、株式会社アサヒペン油性高耐久鉄部用黄色を用い、塗料(2)としては、大日本塗料株式会社スーパー油性鉄部・建物用白色を用いた。
【0053】
次に、塗料の溶解試験の手順について説明する。試験用サンプル20mlが入った透明ガラスビンに、注射器で計量した2.5mlの塗料を投入して、透明ガラスビンに蓋をし、手によって10回ふって、透明ガラスビン内部の液体を攪拌した。攪拌を行った後、透明ガラスビンの底面が見えるように、蓋を下にした状態で透明ガラスビンをテーブルなどに静置して10分間放置した。そして、10分間放置後、透明ガラスビンの底面に、塗料が付着しているか否かを目視によって確認した。透明ガラスビンの底面に塗料が付着していなかった場合には○とし、透明ガラスビンの底面に塗料が付着していた場合には×とした。
【0054】
試験の結果、本発明に係る溶剤組成物は、塗料(1)、塗料(2)の2種類の塗料を溶解することができ、塗料の希釈に用いる溶剤として利用し得ることが確認できた。
【0055】
以上、本発明に係る溶剤組成物は、有機溶剤中毒防止規則で管理対象となる化学物質や、さらにPRTR制度において、人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質を含んでいないので、環境性・安全性に優れている。
【0056】
また、本発明によれば、接着剤の溶解や塗料の希釈などの用途で十分な性能を発揮しつつ、凍結することもなく乾燥性も良好な溶剤組成物を提供することができる。