(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647422
(24)【登録日】2020年1月16日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】工作機械の送り軸制御方法および送り軸制御装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/12 20060101AFI20200203BHJP
【FI】
B23Q15/12 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-550922(P2018-550922)
(86)(22)【出願日】2016年11月16日
(86)【国際出願番号】JP2016084000
(87)【国際公開番号】WO2018092221
(87)【国際公開日】20180524
【審査請求日】2019年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】尾田 光成
(72)【発明者】
【氏名】西川 尚希
【審査官】
武市 匡紘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−053643(JP,A)
【文献】
特開昭62−034788(JP,A)
【文献】
特表2014−534084(JP,A)
【文献】
特開平06−106456(JP,A)
【文献】
特開2008−290186(JP,A)
【文献】
特開2002−188630(JP,A)
【文献】
特開2003−263227(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/136696(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00−15/28
B25J 1/00−21/02
G05B 1/00−21/02
H02P 4/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置指令が入力される位置制御部と、該位置制御部から速度指令が入力される速度制御部と、該速度制御部から入力されるトルク指令に基づいて、工作機械の送り軸を駆動する電流を生成するサーボアンプとを有する工作機械の送り軸の制御方法において、
前記工作機械の先端部分の振動加速度を検出し、
前記振動加速度を周波数解析して振動の中心周波数を特定し、
前記中心周波数に基づいて帯域通過フィルタの周波数を設定し、
周波数解析した振動加速度に基づいて、前記帯域通過フィルタを通過した振動加速度の位相を調整し、
周波数解析した振動加速度に基づいて設定されたゲインを前記帯域通過フィルタを通過した振動加速度に乗算して前記サーボアンプにフィードバックすることを特徴とした工作機械の送り軸制御方法。
【請求項2】
前記振動加速度を検出する加速度検出器が前記工作機械の主軸頭に取付けられている請求項1に記載の工作機械の送り軸制御方法。
【請求項3】
高速フーリエ変換によって周波数解析する請求項1に記載の工作機械の送り軸制御方法。
【請求項4】
位置指令が入力される位置制御部と、該位置制御部から速度指令が入力される速度制御部と、該速度制御部から入力されるトルク指令に基づいて、工作機械の送り軸を駆動する電流を生成するサーボアンプとを有する工作機械の送り軸の制御装置において、
前記工作機械の先端部分の振動加速度を検出する加速度検出器と、
前記振動加速度を周波数解析して振動の中心周波数を特定する振動解析部と、
前記中心周波数に基づいて設定された周波数の前記振動加速度を通過させる帯域通過フィルタと、
周波数解析した振動加速度に基づいて、前記帯域通過フィルタを通過した振動加速度の位相を調整する位相調整部と、
周波数解析した振動加速度に基づいて設定されたゲインを前記帯域通過フィルタを通過した振動加速度に乗算するゲイン調整部と、
を具備し、前記帯域通過フィルタに設定した周波数の振動加速度を前記サーボアンプにフィードバックすることを特徴とした工作機械の送り軸制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の送り軸駆動用のサーボモータを制御する工作機械の送り軸制御方法および送り軸制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フライス等の工作機械では、切削加工により発生する振動の周波数と等しい振動と、切削加工により工作機械の固有振動が励起され発生する振動に対し、送り軸のサーボモータを駆動するトルク指令を補正して振動による位置誤差を補償するようにした制御方法がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、位置フィードバックループの内側に、速度フィードバックループを設けてカスケード結合を形成するとともに、速度フィードバックループの出力に第1のゲインを乗算する速度ゲイン設定器と、位置フィードバックループの出力に第2のゲインを乗算する位置ゲイン設定器と、速度ゲイン設定器の出力と位置ゲイン設定器の出力とをトルク指令から減算し、減算後のトルク指令を制御対象に出力する位置制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−140967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、予め設定された周波数、位相およびゲインに対して機械振動を抑制するようになっている。しかしながら、工作機械の固有振動により発生する振動は、切削加工の種類および加工条件によって励起される振動が変化すること、および、加工により発生する振動と等しい周波数の機械振動は、加工条件、特に主軸の回転数や工具の刃数によって変化するので、従来技術では、こうした切削加工の種類や加工条件の変化に対して十分な制振を行うことができない。
【0006】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、加工の種類や、主軸の回転数、工具の刃数等の加工条件が変化しても、そうした変化に追従して機械の振動を抑制する工作機械の送り軸制御方法および送り軸制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、位置指令が入力される位置制御部と、該位置制御部から速度指令が入力される速度制御部と、該速度制御部から入力されるトルク指令に基づいて、工作機械の送り軸を駆動する電流を生成するサーボアンプとを有する工作機械の送り軸の制御方法において、前記工作機械の先端部分の振動加速度を検出し、前記振動加速度を周波数解析して振動の中心周波数を特定し、前記中心周波数に基づいて帯域通過フィルタの周波数を設定し、
周波数解析した振動加速度に基づいて、前記帯域通過フィルタを通過した振動加速度の位相を調整し、周波数解析した振動加速度に基づいて設定されたゲインを前記帯域通過フィルタを通過した振動加速度に乗算して前記サーボアンプにフィードバックする工作機械の送り軸制御方法が提供される。
【0008】
更に、本発明によれば、位置指令が入力される位置制御部と、該位置制御部から速度指令が入力される速度制御部と、該速度制御部から入力されるトルク指令に基づいて、工作機械の送り軸を駆動する電流を生成するサーボアンプとを有する工作機械の送り軸の制御装置において、前記工作機械の先端部分の振動加速度を検出する加速度検出器と、前記振動加速度を周波数解析して振動の中心周波数を特定する振動解析部と、前記中心周波数に基づいて設定された周波数の前記振動加速度を通過させる帯域通過フィルタと、
周波数解析した振動加速度に基づいて、前記帯域通過フィルタを通過した振動加速度の位相を調整する位相調整部と、周波数解析した振動加速度に基づいて設定されたゲインを前記帯域通過フィルタを通過した振動加速度に乗算するゲイン調整部とを具備し、前記帯域通過フィルタに設定した周波数の振動加速度を前記サーボアンプにフィードバックする工作機械の送り軸制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、工作機械の先端部分の振動加速度を検出し、振動加速度を周波数解析して振動の中心周波数を特定し、中心周波数に基づいて帯域通過フィルタの周波数を設定し、前記帯域通過フィルタに設定した周波数の振動加速度をサーボアンプにフィードバックするようにしたので、振動加速度が変化しても、その変化に追従して機械の振動を抑制することが可能となる。これにより、更に、切削加工の切込み深さを大きくすることが可能となり、工作機械の切削能力を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の好ましい実施形態による送り軸制御装置の略示ブロック図である。
【
図2】
図1の軸送り制御装置の振動制御部のブロック図である。
【
図3】本発明の好ましい実施形態による工作機械の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図3を参照して、本発明の送り軸の制御方法を適用する工作機械の一例を説明する。
図3において、本発明の好ましい実施の形態による工作機械200は、工場の床面に固定された基台としてのベッド202、ベッド202の上面で前後方向またはZ軸方向(
図3では左右方向)に移動可能に設けられたコラム204、該コラム204の前面で左右方向またはX軸方向(
図3では紙面に垂直な方向)に移動可能に設けられたX軸スライダ206、X軸スライダ206の前面で上下方向またはY軸方向に移動可能に取り付けられたY軸スライダ208、該Y軸スライダ208に搭載され主軸212を回転可能に支持する主軸頭210を具備している。主軸212の先端に工具Tが装着される主軸頭210には加速度検出器20が取付けられている。加速度検出器20は、工作機械200の制御装置100に接続されている。
【0012】
コラム204は、ベッド202の上面において水平なZ軸方向(
図3の左右方向)に延設された一対のZ軸案内レール214に沿って往復動可能に設けられており、ベッド202には、コラム204をZ軸案内レール214に沿って往復駆動するZ軸送り装置として、Z軸方向に延設されたボールねじ220と、該ボールねじ220の一端に連結されたZ軸サーボモータ224が設けられており、コラム204には、ボールねじ220に係合するナット222がブラケット204aを介して取り付けられている。工作機械200は、また、コラム204のZ軸方向の座標位置を検出する位置検出器としてZ軸デジタルスケール226が取り付けられている。更に、Z軸の移動速度を検出する速度検出器としてロータリーエンコーダ228がZ軸サーボモータ224に取付けられている。
【0013】
X軸スライダ206は、コラム204の前面においてX軸方向に延設された一対のX軸案内レール218に沿って往復動可能に設けられている。コラム204には、X軸スライダ206をX軸案内レールに沿って往復駆動するX軸送り装置として、X軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたX軸サーボモータ(図示せず)が設けられており、X軸スライダ206には、前記ボールねじに係合するナット(図示せず)が取り付けられている。コラム204には、また、X軸スライダ206のX軸方向の座標位置を検出する位置検出器としてX軸デジタルスケール(図示せず)が取り付けられている。更に、X軸の移動速度を検出する速度検出器としてロータリーエンコーダ(図示せず)がX軸サーボモータに取付けられている。
【0014】
Y軸スライダ208は、X軸スライダ206の前面においてY軸方向(
図3では上下方向)に延設された一対のY軸案内レール216に沿って往復動可能に設けられている。X軸スライダ206には、Y軸スライダ208をY軸案内レール216に沿って往復駆動するY軸送り装置として、Y軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたY軸サーボモータ(図示せず)が設けられており、Y軸スライダ208には、前記ボールねじに係合するナット(図示せず)が取り付けられている。X軸スライダ206には、また、Y軸スライダ208のY軸方向の座標位置を検出する位置検出器としてY軸デジタルスケール(図示せず)が取り付けられている。更に、Y軸の移動速度を検出する速度検出器としてロータリーエンコーダ(図示せず)がY軸サーボモータに取付けられている。
【0015】
X軸、Y軸、Z軸の各サーボモータ、ロータリーエンコーダおよびデジタルスケールは、工作機械200を制御する制御装置100に接続されている。制御装置100は、加工プログラム102に従い、X軸サーボモータ、Y軸サーボモータ、Z軸サーボモータ224へ供給される電流を制御する。
【0016】
以下、
図1、2を参照して、制御装置100を一層詳細に説明する。
制御装置100は、読取解釈部2、補間部3、位置制御部5、速度制御部7およびサーボアンプ9を備えたNC装置を主要な構成要素として具備している。制御装置100に与えられたNC加工プログラム102は、読取解釈部2を介して補間部3へ入力される。補間部3は、X軸、Y軸、Z軸の少なくとも1つの送り軸11(例えばZ軸)の駆動用サーボモータ10に対する位置指令qrを出力する。
【0017】
補間部3から出力された位置指令qr(モータ回転位置指令)は加算器4に入力され、該位置指令qrと送り軸11のための位置検出器12が検出した座標値との差分が位置制御部5に入力される。位置制御部5は速度指令ωr(モータ回転速度指令)を生成する。速度指令ωrは加算器6に入力され、該速度指令ωrと速度検出器13が検出した速度値との差分が速度制御部7に入力される。速度制御部7はトルク指令τを生成する。トルク指令τは加算器8に入力され、該トルク指令τと後述する加工振動制御部150が生成した振動加速度との差分がサーボアンプ9に入力される。
【0018】
サーボアンプ9は、入力されたトルク指令τに見合ったトルクを発生させるように制御電流をサーボモータ10に供給する。この供給された電流によりサーボモータ10が回転駆動され、送り軸11が駆動される。
【0019】
制御装置100は、更に、加工振動制御部150を具備しており、加工振動制御部150は、加速度検出器20からの振動加速度を振動解析する振動解析部30、振動解析の結果に基づいて加速度検出器20からの振動加速度を通過させる周波数帯域を調整するBPF調整部40、振動解析の結果に基づいて加速度検出器20からの振動加速度の位相を調整する位相調整部50、および、振動解析の結果に基づいて加速度検出器20からの振動加速度のためのゲインを調整するゲイン調整部60を備えている。
【0020】
加速度検出器20は工作機械200のX軸、Y軸、Z軸の送り軸を駆動したときに、工作機械200が振動し易い部位として工作機械200の先端部分に取付けられる。一例として、
図3に示す実施形態では、加速度検出器20は工作機械の先端部分である主軸頭210の内部に取付けられている。
図3とは異なるワークを載置するテーブルと送り軸で駆動する方式の工作機械の場合は、工作機械の先端部分としてテーブルが選択されることもある。
【0021】
次に、
図2を参照して加工振動制御部150を一層詳細に説明する。
振動解析部30は、高速フーリエ変換器31と、制振周波数決定部32とを具備している。高速フーリエ変換器31は加速度検出器20からの振動加速度を高速フーリエ変換する。制振周波数決定部32は、高速フーリエ変換器31における振動解析の結果に基づいて、加速度検出器20からの振動加速度のピーク値を与える周波数を特定し、その周波数を低減すべき制振周波数として決定する。
【0022】
BPF調整部40は、BPF調整器41と、BPF処理部42とを具備する。BPF調整器41は、制振周波数決定部が決定した制振周波数を中心として所定の範囲の周波数を加速度検出器20からの振動加速度を通過させるための周波数帯域として調整、決定する。BPF処理部42は、加速度検出器20からの振動加速度のうちBPF調整器41によって調整された周波数帯域の振動加速度を出力し、フィードバックする振動加速度の周波数帯域を絞る。
【0023】
位相調整部50は、位相特性格納部51と、位相調整器52と、位相処理部53とを具備する。位相特性格納部51は、予め測定しておいた伝達関数に基づき、周波数毎の位相特性(位相線図)を格納している。位相調整器52は、制振周波数に基づき、位相特性格納部51に格納されている位相特性を参照して、低減(制振)すべき振動に対して逆位相となるように、加速度検出器20からの振動加速度の位相を調整、決定する。位相処理部53は、位相調整器52の決定に従い、BPF処理部42を通過した振動加速度の位相を調整する(変化させる)。
【0024】
ゲイン調整部60は、ゲイン特性格納部61と、ゲイン調整器62と、ゲイン処理部63とを具備する。ゲイン特性格納部61は、予め測定しておいた伝達関数に基づき、周波数毎のゲイン特性(ゲイン線図)を格納している。ゲイン調整器62は、制振周波数に基づきゲイン特性格納部61に格納されているゲイン特性を参照して、フィードバックする振動加速度のためのゲインを調整、決定する。ゲイン処理部63は、BPF処理部42および位相処理部53を通過した振動加速度にゲイン調整器62が調整、決定したゲインを乗算する。
【0025】
こうして、BPF処理部42、位相処理部53およびゲイン処理部63を通過した加速度検出器20からの振動加速度が加算器8にフィードバックされる。これによって、ワークの切削加工による発生する振動が低減され、切削加工の切込み深さを大きくすることが可能となり、工作機械200の切削能力を高めることが可能となる。
【0026】
なお、伝達関数は予め測定して、位相特性およびゲイン特性を位相特性格納部51およびゲイン特性格納部61に格納しておくことができる。
図2の例では、加工振動制御部150は、伝達関数演算回路として、伝達関数演算部70、第1のスイッチ71、第2のスイッチ72および第2の高速フーリエ変換器73を具備している。第1のスイッチ71は、高速フーリエ変換器31と伝達関数演算部70との間に配置されており、第1の接点C1と第2の接点C2とを有している。第1のスイッチは、伝達関数を演算する場合は接点C1側になっており、通常の切削加工を行う場合は接点C2側になっている。
【0027】
伝達関数を演算する場合には、第1のスイッチ71を第1の接点C1側にするとともに、第2のスイッチ72を閉成する。この状態で、ワークを試験的に加工することによって、加速度検出器20からの振動加速度は、高速フーリエ変換器31で周波数解析されたのちに伝達関数演算部70に出力され、サーボアンプ9からの出力が第2の高速フーリエ変換器73で周波数解析されたのちに伝達関数演算部70に出力される。こうして、伝達関数演算部70は、高速フーリエ変換されたのちの加速度検出器20からの振動加速度およびサーボアンプ9からのトルク指令τに基づいて、この技術分野で公知の方法を用いて位相特性およびゲイン特性を演算する。演算結果は、位相特性格納部51およびゲイン特性格納部61にそれぞれ格納される。
【符号の説明】
【0028】
2 読取解釈部
3 補間部
5 位置制御部
7 速度制御部
9 サーボアンプ
10 サーボモータ
12 位置検出器
13 速度検出器
20 加速度検出器
30 振動解析部
40 BPF調整部
50 位相調整部
60 ゲイン調整部
100 制御装置
150 加工振動制御部
200 工作機械
210 主軸頭