(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂組成物の全量100質量%中における前記ポリアミド系エラストマーの含有量が、1質量%〜20質量%である、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の摺動部材。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。ただし、以下の実施形態は単なる例示である。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。
【0018】
本発明の摺動部材は、樹脂組成物を成形してなる摺動部材であって、樹脂組成物が、ポリアミド樹脂と、引張弾性率が190GPa〜600GPaの繊維状補強材と、ポリアミド系エラストマーとを含有することを特徴とする。
【0019】
本発明の摺動部材は、上記の構成を備えているので、摺動面を表面処理せずとも、摺動時において、耐摩耗性が優れ、安定して高い摩擦係数を有する、摺動部材である。特に、本発明の摺動部材は、炭素鋼材S45Cとの摩擦係数が0.40以上となる。このように、本発明の摺動部材は、炭素鋼材S45Cとの摩擦係数が0.40以上であることでトルク変動吸収装置用スラスト部材として好適に用いることができ、安定性をより一層高める観点から摩擦係数は1.00以下であることが好ましく、0.80以下であることが更に好ましい。上記摩擦係数は、後述する樹脂組成物を射出成形して製造したリング成形体(外径25.6mm、内径20mm、高さ15mmの中空円筒)と、炭素鋼材S45Cのリング(外径25.6mm、内径20mm、高さ15mmの中空円筒)を用い、面圧0.8MPa、周速度0.16m/秒の条件でJIS K7218 A法に準拠した摩擦摩耗試験中に測定した摩擦係数の平均値である。また、S45Cは、JISにおける機械構造用炭素鋼を表す材料記号である。
【0020】
以下に、本発明の摺動部材の各構成要素等について以下に説明する。
【0021】
<樹脂組成物>
本発明に用いる樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と、引張弾性率が190GPa〜600GPaの繊維状補強材と、ポリアミド系エラストマーとを含有し、必要に応じてその他添加剤をさらに含有することができる。
【0022】
(ポリアミド樹脂)
本発明に用いるポリアミド樹脂は、主鎖中にアミド結合(−NH−C(=O)−)を有する重合体であり、後述のアミノカルボン酸、ジアミン、ジカルボン酸等のモノマー成分に由来する構成単位を含む重合体である。ポリアミド樹脂は、1種類の構成単位からなるもの(アミノカルボン酸の重合体)でも、複数種の構成単位からなるもの(ジアミンとジカルボン酸との共重合体、ジアミンとジカルボン酸とアミノカルボン酸との共重合体等)であってもよい。複数種の構成単位からなる共重合体の場合には、共重合比率、共重合形態(ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体等)等は、任意に選択することができる。
【0023】
アミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノノナン酸、10−アミノデカン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等の炭素数5〜20の脂肪族ω−アミノカルボン酸;p−アミノ安息香酸、p−アミノメチル安息香酸等の芳香族ジアミン;等を挙げることができる。また、脂肪族ω−アミノカルボン酸に対応する環状のラクタムを用いてもよい。これらは単独で使用することができ、又は2種以上を併用することができる。
【0024】
ジアミンとしては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、3−メチル−1,5−ジアミノペンタン、2−エチルテトラメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、ピペラジン等の脂環族ジアミン;p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシレンジアミン、o−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン等の芳香族ジアミン;等を挙げることができる。これらは単独で使用することができ、又は2種以上を併用することができる。
【0025】
ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;等を挙げることができる。これらは単独で使用することができ、又は2種以上を併用することができる。
【0026】
ポリアミド樹脂の具体例として、例えば、ポリアミド6(6−アミノカプロン酸の重合体)、ポリアミド66(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との共重合体)、ポリアミド11(11−アミノウンデカン酸の重合体)、ポリアミド12(12−アミノドデカン酸の重合体)、ポリアミド46(テトラメチレンジアミンとアジピン酸との共重合体)、ポリアミド6/66共重合体(6−アミノカプロン酸とヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との共重合体)、ポリアミド6/12共重合体(6−アミノカプロン酸と12−アミノドデカン酸との共重合体)の脂肪族ポリアミド樹脂;ポリアミドMXD6(m−キシレンジアミンとアジピン酸との共重合体)、ポリアミドMXD10(m−キシレンジアミンとセバシン酸との共重合体)、ポリアミド6T(ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との共重合体)、ポリアミド9T(1,9−ジアミノノナンとテレフタル酸との共重合体)、ポリアミド10T(1,10−ジアミノデカンとテレフタル酸との共重合体)、ポリアミド6T/66共重合体(ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸とアジピン酸との共重合体)等の半芳香族ポリアミド樹脂;等が挙げられる。これらは単独で使用することができ、又は2種以上を併用することができる。
【0027】
本発明において、半芳香族ポリアミド樹脂とは、ポリアミド樹脂の構成単位として、脂肪族モノマーに由来する構成単位と芳香族モノマーに由来する構成単位とを含むポリアミド樹脂を意味する。脂肪族モノマーとしては、上述のモノマー成分のなかで脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン、脂肪族ω−アミノカルボン酸、脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。芳香族モノマーとしては、上述のモノマー成分のなかで芳香族ジアミン、芳香族ジカルボン酸、芳香族アミノカルボン酸等が挙げられる。
【0028】
本発明で使用するポリアミド樹脂は、変形、変色等をより一層抑制するため、融点が150℃以上であることが好ましい。また、押出、成形等の溶融加工でのポリアミド樹脂の熱分解をより一層抑制するため、融点が350℃以下であることが好ましく、さらには330℃以下であることがより好ましい。融点は、JIS−K7121に準じて測定することができる。
【0029】
上記ポリアミド樹脂の形状は、溶融混練が可能であれば特に制限はなく、粉末状、顆粒状、ペレット状のいずれも使用することができる。
【0030】
樹脂組成物におけるポリアミド樹脂の含有量は、樹脂組成物の合計量100質量%中に30質量%〜97質量%であることが好ましく、42質量%〜94質量%であることがより好ましく、65質量%〜91質量%であることが更に好ましい。
【0031】
(繊維状補強材)
本発明に用いる繊維状補強材は、引張弾性率が190GPa〜600GPaであり、好ましくは200GPa〜450GPaであり、より好ましくは200GPa〜300GPaである。繊維状補強材の引張弾性率が小さすぎると、繊維状補強材による摺動界面の補強効果が小さく摩擦粉が過剰に発生し、摩擦係数が不安定になるおそれがある。一方、引張弾性率が大きすぎると、摺動界面に脱離したものが大きな抵抗となるおそれがある。従って、引張弾性率を上記範囲とすることで摺動界面にて繊維状補強材が適度に削られ摩擦係数が高く安定するものと考えられる。繊維状補強材の引張弾性率とは、JIS R7606(2000)のA法に準拠して測定された値を示す。
【0032】
繊維状補強材としては、特に限定されず、炭素繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、ワラストナイト繊維、アラアミド繊維、アルミナ繊維、シリコンカーバイド繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、ポリフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維等が挙げられるが、これらから上記引張弾性率を有するものを単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。なかでも炭素繊維が好ましく、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、セルロース系、炭化水素による気相成長系炭素繊維、黒鉛繊維などを用いることができ、これらを単独で用いてもよく、これら2種以上併用してもよい。これらのなかでもPAN系炭素繊維が好ましい。
【0033】
本発明に用いる繊維状補強材の平均繊維長は、好ましくは0.1mm〜10mmであり、より好ましくは1mm〜8mmであり、さらに好ましくは4mm〜7mmである。繊維状補強材は収束剤等で凝集した繊維状補強材の束となっているものも用いることができるが、平均繊維径は、好ましくは0.5μm〜30μmであり、より好ましくは1μm〜20μmであり、さらに好ましくは3μm〜15μmである。平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は、好ましくは5以上であり、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは20以上であり、特に好ましくは50以上である。このような短繊維(チョップドファイバー)を補強材として使用することにより、成形性と機械特性のバランスがより一層とれた樹脂組成物とすることができる。
【0034】
樹脂組成物における繊維状補強材の含有量は、樹脂組成物の合計量100質量%中に1質量%〜40質量%であることが好ましく、3質量%〜30質量%であることがより好ましく、5質量%〜20質量%であることが更に好ましい。繊維状補強材の含有量が少なすぎると補強効果が得られにくく、繊維状補強材の含有量が多くなると耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0035】
(ポリアミド系エラストマー)
本発明で用いるポリアミド系エラストマーは、ポリアミドセグメントをハードセグメントとし、ポリエーテルセグメントをソフトセグメントとする熱可塑性エラストマーである。ポリアミド系エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントとソフトセグメントとをエステル結合で結んだポリエーテルエステルアミドエラストマー、ハードセグメントとソフトセグメントとをアミド結合で結んだポリエーテルアミドエラストマー等が挙げられ、ポリエーテルアミドエラストマーが好ましい。上記ポリアミド系エラストマーを用いることで、耐摩耗性を低下させることなく、摩擦係数を安定化することができる。
【0036】
ポリアミドセグメントは、主鎖中にアミド結合(−NH−C(=O)−)を有するセグメントであり、後述のアミノカルボン酸、ジアミン、ジカルボン酸等のモノマー成分に由来する構成単位を含むセグメントである。ポリアミドセグメントは、1種類の構成単位からなるもの(アミノカルボン酸の重合体)でも、複数種の構成単位からなるもの(ジアミンとジカルボン酸との共重合体、ジアミンとジカルボン酸とアミノカルボン酸との共重合体等)であってもよい。複数種の構成単位からなる共重合体の場合には、共重合比率、共重合形態(ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体等)等は任意に選択することができる。
【0037】
アミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、10−アミノカプリン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などの炭素数5〜20の脂肪族ω−アミノカルボン酸などが挙げられる。また、これらに対応する環状のラクタムを用いてもよい。これらは単独で使用することができ、又は2種以上を併用することができる。
【0038】
ジアミンとしては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、3−メチルペンタメチレンジアミンなどの炭素数2〜20の脂肪族ジアミンなどが挙げられる。これらは単独で使用することができ、又は2種以上を併用することができる。
【0039】
ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、及びドデカン二酸などの炭素数2〜20の直鎖脂肪族ジカルボン酸;トリグリセリドの分留により得られる不飽和脂肪酸を二量化した炭素数14〜48の二量化脂肪族ジカルボン酸(ダイマー酸)及びこれらの水素添加物(水添ダイマー酸);1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸;テレフタル酸、及びイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;などを挙げることができる。
【0040】
これらの中でも特に、モノマー成分としては、低吸水による寸法安定性、耐薬品性、機械特性をより一層向上させる観点から、11−アミノウンデカン酸または12−アミノドデカン酸が好ましい。
【0041】
ポリアミドセグメントの数平均分子量は300〜15000であることが好ましく、柔軟性、成形性をより一層向上させる観点から300〜6000であることがより好ましい。なお、本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)である。
【0042】
ポリエーテルセグメントは、主鎖中にエーテル結合(−O−)を有するセグメントであり、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、下記式(1)に示されるABA型トリブロックポリエーテル等が挙げられ、これらを単独または2種以上を用いることができる。また、ポリエーテルの末端にアンモニア等を反応させることによって得られるポリエーテルジアミン等を用いることができる。ソフトセグメントの数平均分子量は、200〜6000であることが好ましく、650〜2000であることがより好ましい。
【0044】
(式(1)中、xは1〜20、yは4〜50、zは1〜20を表す。)
【0045】
上記式(1)において、xは、1〜20の整数であるが、1〜18の整数が好ましく、1〜16の整数が更に好ましく、1〜14の整数が特に好ましく、1〜12の整数が最も好ましい。yは、4〜50の整数であるが、5〜45の整数が好ましく、6〜40の整数がさらに好ましく、7〜35の整数が特に好ましく、8〜30の整数が最も好ましい。zは、1〜20の整数であるが、1〜18の整数が好ましく、1〜16の整数がさらに好ましく、1〜14の整数が特に好ましく、1〜12の整数が最も好ましい。
【0046】
上記ポリアミドセグメントと上記ポリエーテルセグメントとの組合せとしては、上述で挙げたポリアミドセグメントとポリエーテルセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。この中でも12−アミノドデカン酸の重合体/ポリエチレングリコールの組合せ、12−アミノドデカン酸の重合体/ポリプロピレングリコールの組合せ、12−アミノドデカン酸の重合体/ポリテトラメチレンエーテルグリコールの組合せ、12−アミノドデカン酸の重合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せが好ましく、12−アミノドデカン酸重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せが特に好ましい。
【0047】
また、上記ポリアミドセグメントと上記ポリエーテルセグメントとの割合(質量比)は、ポリアミドセグメント/ポリエーテルセグメント=95/5〜20/80であることが好ましく、60/40〜30/70であることがより好ましく、50/50〜30/70であることが特に好ましい。ポリアミドセグメントが20質量%未満では成形体からブリードアウトを生じやすく、95質量%を超えると柔軟性が不足する傾向にある。
【0048】
上記ポリアミド系エラストマーは、変形、変色等をより一層抑制するため、融点が130℃以上であることが好ましい。また、押出、成形等の溶融加工でのポリアミド系エラストマーの熱分解をより一層抑制するため、融点が320℃以下であることが好ましく、さらには270℃以下であることがより好ましい。融点は、JIS−K7121に準じて測定することができる。
【0049】
上記ポリアミド系エラストマーの形状は、溶融混練が可能であれば特に制限はなく、粉末状、顆粒状、ペレット状のいずれも使用することができる。
【0050】
樹脂組成物におけるポリアミド系エラストマーの含有量は、樹脂組成物の合計量100質量%中に1質量%〜20質量%であることが好ましく、2質量%〜15質量%であることがより好ましく、3質量%〜10質量%であることが更に好ましい。ポリアミド系エラストマーの含有量が少なすぎると目的とする効果が得られにくく、ポリアミド系エラストマーの含有量が多くなると耐熱性が低下するおそれがある。
【0051】
(その他添加剤)
本発明に用いる樹脂組成物には、ポリアミド樹脂、繊維状補強材、ポリアミド系エラストマー以外に、必要に応じて、非繊維状チタン酸化合物粒子、その他添加剤を含有することができる。
【0052】
非繊維状チタン酸化合物粒子としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、土類金属から選ばれる少なくとも一種の金属元素を含むチタン酸金属化合物を用いることができる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられ、好ましくはリチウム、ナトリウム、カリウムである。アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウが挙げられ、好ましくはマグネシウム、カルシウムである。土類金属としては、アルミニウムが挙げられる。
【0053】
上記チタン酸金属化合物の具体例としては、例えば、組成式A
2Ti
nO
(2n+1)〔式中、Aはアルカリ金属から選ばれる1種又は2種以上、n=2〜8〕、R
xM
yTi
(2−y)O
4〔式中、Rはリチウムを除くアルカリ金属、Mはリチウム、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、銅、鉄、アルミニウム、ガリウム、及びマンガンから選ばれる1種又は2種以上、x=0.5〜1.0、y=0.25〜1.0〕、K
0.5〜0.8Li
0.27Ti
1.73O
3.85〜3.95で表わすことができるチタン酸リチウムカリウム、K
0.2〜0.8Mg
0.4Ti
1.6O
3.7〜3.95で表わすことができるチタン酸マグネシウムカリウム、Al
2TiO
5で表わすことができるチタン酸アルミニウム等を挙げることができる。これらの中でもチタン酸アルミニウムが好ましい。
【0054】
チタン酸金属化合物粒子の粒子形状は、球、板、柱状、ブロックなどの非繊維状であれば、公知のチタン酸金属化合物粒子の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。チタン酸金属化合物粒子の形状は、例えば走査型電子顕微鏡観察から解析することができる。
【0055】
本発明において繊維状粒子とは、粒子に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さT(B>Tとする)として、L/BおよびL/Tがいずれも5以上の粒子のことをいい、長径Lが繊維長、短径Bが繊維径に相当する。また、非繊維状粒子とは繊維状粒子を除く粒子のことをいい、粒子に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さT(B>Tとする)として、L/Bが5未満の粒子のことをいう。
【0056】
上記チタン酸金属化合物粒子の平均粒子径は、5μmより大きい粒子が好ましく、より好ましくは50μmより大きく500μm未満であることがよく、さらに好ましくは100μmより大きく450μm未満であることがよく、特に好ましくは200μmより大きく400μm未満であることがよい。
【0057】
チタン酸金属化合物粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定することができ、レーザー回折・散乱法により測定される粒度分布における体積基準累積50%時の粒子径(体積基準累積50%粒子径)、すなわちD
50(メジアン径)である。この体積基準累積50%粒子径(D
50)は、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積曲線において、粒子サイズの小さいものから粒子数をカウントしていき、累積値が50%となる点の粒子径である。
【0058】
樹脂組成物における非繊維状チタン酸金属化合物粒子の含有量は、樹脂組成物の合計量100質量%中に1質量%〜10質量%であることが好ましく、1質量%〜8質量%であることがより好ましく、1質量%〜5質量%であることが更に好ましい。非繊維状チタン酸金属化合物粒子の配合量を上記範囲とすることで、摺動部材の摩擦係数を更に一層高くすることが可能となる。
【0059】
その他添加剤としては、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、及び染料等の着色剤;グラファイト、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、ボロンナイトライド(BN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子ポリエチレン等の固体潤滑剤;流動性改良剤;飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス等の離型剤;ポリエーテルエステルアミド、グリセリンモノステアレート等の熱伝導剤;炭素系導電剤、金属系導電剤、金属酸化物系導電剤、界面活性剤等の導電性付与剤;ポリエーテルエステルアミド、グリセリンモノステアレート等の帯電防止剤;造核剤;老化防止剤(酸化防止剤);ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、環状イミノエステル系化合物、シアノアクリレート系化合物等の紫外線吸収剤;ハロゲン系(臭素及び塩素化合物)化合物、アンチモン化合物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、無機リン系難燃剤、ホスファゼン化合物等の難燃剤;ドリッピング防止剤;炭酸カルシウム、雲母、マイカ、セリサイト、イライト、カオリナイト、モンモリナイト、ベーマイト、スメクタイト、バーミキュライト、タルク、シリカ等の無機充填材;分散剤;等を挙げることができ、これらを1種又は2種以上を含有することができる。
【0060】
本発明で使用してもよい上記必須成分以外の添加剤であるその他添加剤の含有量は、本発明の好ましい物性を損なわない範囲であれば特に制限はない。通常は、樹脂組成物の合計量100質量%中に好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0061】
(樹脂組成物の製造方法)
樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と繊維状補強材とポリアミド系エラストマーと、必要に応じて、非繊維状チタン酸化合物粒子と、その他添加剤の成分とを、混合及び加熱(特に、溶融混練)することによって製造できる。
【0062】
溶融混練には、例えば、二軸押出機等の公知の溶融混練装置を使用することができる。具体的には、(1)混合機(タンブラー、ヘンシェルミキサー等)で各成分を予備混合して、溶融混練装置で溶融混練し、ペレット化手段(ペレタイザー等)でペレット化する方法;(2)所望する成分のマスターバッチを調整し、必要により他の成分を混合して溶融混練装置で溶融混練してペレット化する方法;(3)各成分を溶融混練装置に供給してペレット化する方法等により製造することができる。
【0063】
溶融混練における加工温度は、ポリアミド樹脂が溶融し得る温度であれば特に限定はない。通常、溶融混練に用いる溶融混練装置のシリンダ温度をこの範囲に調整する。かくして、所望の効果を発揮する本発明に用いる樹脂組成物が製造される。
【0064】
<摺動部材および用途>
本発明の摺動部材は、目的とする部材の種類、用途、形状等に応じて、上記樹脂組成物を、射出成形、インサート成形、圧縮成形、ブロー成形、インフレーション成形等の公知の樹脂成形方法により賦形することで製造することができる。また、上記の成形方法を組み合わせた成形方法を採用することができる。
【0065】
本発明の摺動部材は、摺動面に表面処理(メッキ、金属塗装等)を行わずとも、高い摩擦係数を有することが求められる摺動部材に好適に用いることができ、例えば、ヒステリシス発生機構を有するトルク変動吸収装置のスラスト部材(ブッシュ、摩擦材)として好適に用いることができる。上記スラスト部材は環状の部材であることが好ましい。
【0066】
上記トルク変動吸収装置は、エンジン、電気モーター等の動力源と変速機との間の動力伝達経路上に配置され、トルク変動吸収装置としては、第1回転部材と、上記第1回転部材と同軸に配された第2回転部材と、上記第1回転部材と上記第2回転部材との軸方向の間に配されるとともに、上記第2回転部材と回転不能に係合するコントロールプレートと、上記第1回転部材と上記コントロールプレートとの軸方向の間に配されるとともに、上記第1回転部材と回転不能かつ軸方向移動可能に係合し、かつ、上記コントロールプレートと摺動可能に当接するスラスト部材と、上記第1回転部材と上記スラスト部材との軸方向の間に配されるとともに、上記第1回転部材に支持され、かつ、上記スラスト部材を上記コントロールプレートに向けて押し付ける弾性部材と、を備えるトルク変動吸収装置を挙げることができる。
【0067】
上記スラスト部材及び上記コントロールプレートの各摺動面は、上記スラスト部材と上記コントロールプレートとの間に捩れが生じたときに、上記コントロールプレートに対して上記スラスト部材を軸方向に変位させ、上記弾性部材の押付荷重を変化させて、上記スラスト部材と前記コントロールプレートとの間に発生するヒステリシス値を変化させるように所定の形状に形成されていてもよい。
【0068】
本発明の摺動部材は、上記のようなトルク変動吸収装置におけるコントロールプレートなどの環状の相手部材に対して摺動可能に当接して用いられる環状の部材、すなわちスラスト部材(スラストワッシャー、スラスト軸受)などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。なお、本実施例及び比較例で使用した原材料は具体的には以下の通りである。
【0070】
PA樹脂:ポリアミド66樹脂(商品名:ザイテル45HSB、DuPont社製)
補強材A:ピッチ系炭素繊維、引張弾性率630GPa、平均繊維長6mm、平均繊維径11μm(商品名:ダイヤリードK6371T、三菱レイヨン社製)
補強材B:PAN系炭素繊維、引張弾性率235GPa、平均繊維長6mm、平均繊維径7μm(商品名:べスファイトHTA−C6−05、東邦テナックス社製)
補強材C:ピッチ系炭素繊維、引張弾性率185GPa、平均繊維長6mm、平均繊維径11μm(商品名:ダイヤリードK223SE、三菱レイヨン社製)
補強材D:ガラス繊維、引張弾性率85GPa、平均繊維長3mm、平均繊維径13μm(商品名:T−249、日本電気硝子社製)
エラストマーA:ポリアミド系エラストマー、融点164℃(商品名:UBESTA 9068X1、宇部興産社製)
エラストマーB:ポリエステル系エラストマー、融点169℃(商品名:プリマロイA−1900、三菱ケミカル社製)
非繊維状チタン酸金属化合物:チタン酸アルミニウム、平均粒子径345μm(商品名:TA−3、丸ス釉薬社製)
【0071】
<実施例1〜2、比較例1〜6>
表1に示す配合割合で、PA樹脂(ポリアミド樹脂)、補強材、エラストマー及び非繊維状チタン酸金属化合物を二軸押出機にて溶融混練し、それぞれペレットを製造した。なお、二軸押出機のシリンダ温度は285℃であった。
【0072】
得られたペレットを射出成形にて、JIS試験片(曲げ試験片)、摩擦摩耗試験片(外径25.6mm、内径20mm、高さ15mmの中空円筒)を作製した。なお、射出成形機のシリンダ温度は310℃、金型温度は80℃であった。
【0073】
<評価方法>
曲げ強度および曲げ弾性率;
上記で作製した曲げ試験片について、JIS K7171に準じ、オートグラフAG−5000(島津製作所社製)を用いて支点間距離60mmの3点曲げ試験を行い、曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。結果を表1に示した。
【0074】
摩擦摩耗試験;
上記で作製した摩擦摩耗性試験片について、JIS K7218 A法に準じ、鈴木式摩擦摩耗試験機(EFM−III−F、エー・アンド・デイ社製)を用いて比摩耗量、摩擦係数の平均値(試験全体の平均値)、さらに相手材の比摩耗量を測定した。また、試験開始1時間経過時から9時間経過するまでの間における摩擦係数の最大値と最小値の差を摩擦係数の振れ幅とし、結果を表1に示した。試験条件は、面圧0.8MPa、周速度0.16m/秒、走行距離5.33km、相手材S45C(摺動面を#800のサンドペーパーで研磨)とした。
【0075】
【表1】