【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構研究成果展開事業センター・オブ・イノベーションプログラム「共進化社会システム創成拠点:ヒト/モノ・エネルギー・情報のモビリティによる多様で持続的な社会の構築」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基は、2位及び7位の両方がシアノ基で置換されていることを特徴とする請求項1に記載の発光材料。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[一般式(1)で表される化合物]
本発明の発光材料は、下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする。また、本発明の有機発光素子は、下記一般式(1)で表される化合物を発光層の発光材料として含むことを特徴とする。そこで、一般式(1)で表される化合物について、まず説明する。
【0015】
一般式(1)において、R
1〜R
5の少なくとも1つはシアノ基を表す。いずれか1つがシアノ基である場合は、R
1〜R
3のいずれであってもよい。いずれか2つがシアノ基である場合は、R
1とR
3の組み合わせや、R
2とR
4の組み合わせを例示することができる。いずれか3つがシアノ基である場合は、R
1とR
3とR
4の組み合わせを例示することができる。これらの中で、好ましいのは、R
1またはR
2がシアノ基である場合であり、R
1がシアノ基であることがより好ましい。
【0016】
一般式(1)において、R
1〜R
5の少なくとも1つは2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基(ただし、2位がシアノ基で置換されている場合は3位が無置換であるかシアノ基以外の置換基で置換されており、また、7位がシアノ基で置換されている場合は6位が無置換であるかシアノ基以外の置換基で置換されている)を表す。R
1〜R
5の2つ以上が、2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基を表すとき、それらは同一であっても異なっていてもよいが、同一であることがより好ましい。
【0017】
2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基は、その窒素原子または炭素原子で一般式(1)におけるベンゼン環に結合する。カルバゾリル基におけるベンゼン環への結合部位は、シアノ基で置換される2位及び7位の少なくとも一方を除いて、1〜9位のいずれの部位であってもよいが、9位の窒素原子であることが好ましい。
2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基は、2位及び7位のうち、いずれか一方のみがシアノ基で置換されていてもよいし、2位及び7位の両方がシアノ基で置換されていてもよいが、2位及び7位の両方がシアノ基で置換されていることが好ましい。
カルバゾリル基の1〜9位のうち、上記のベンゼン環への結合部位と、シアノ基で置換される2位及び7位の少なくとも一方を除いた残りの部位は、無置換であっても置換基で置換されていてもよい。置換基の好ましい範囲と具体例については、下記の一般式(11)におけるR
21、R
23〜R
28がとりうる置換基の好ましい範囲と具体例、下記一般式(11)におけるR
21、R
23〜R
26、R
28の少なくとも1つが表すカルバゾリル基、シアノ基で置換されたカルバゾリル基の説明を参照することができる。
【0018】
2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基は、例えば下記一般式(11)で表される構造を有するものであることが好ましい。
【0020】
一般式(11)において、R
21、R
23〜R
28は、各々独立に水素原子または置換基を表し、R
22はシアノ基を表す。
R
21、R
23〜R
28の中に置換基を有するとき、いずれが置換基であってもよく、置換基の数も特に制限されない。例えば、R
21、R
23〜R
28の中の置換基の数は0〜5個が好ましく、0〜3個がより好ましく、例えば0〜1個とすることも好ましい。R
21、R
23〜R
28の中の2つ以上が置換基であるとき、その2つ以上の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。また、R
21、R
23〜R
28の中に置換基を有する場合、R
23〜R
27の少なくとも1つが置換基であることが好ましい。例えば、R
27が置換基である場合、R
23とR
26が置換基である場合、R
24とR
25が置換基である場合を好ましく例示することができる。
【0021】
一般式(11)のR
21、R
23〜R
28がとりうる置換基として、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数1〜20のアルキル置換アミノ基、炭素数2〜20のアシル基、炭素数6〜40のアリール基、炭素数3〜40のヘテロアリール基、炭素数12〜40のジアリールアミノ基、炭素数12〜40の置換もしくは無置換のカルバゾリル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜10のアルキルスルホニル基、炭素数1〜10のハロアルキル基、アミド基、炭素数2〜10のアルキルアミド基、炭素数3〜20のトリアルキルシリル基、炭素数4〜20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルキニル基およびニトロ基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。より好ましい置換基は、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜40の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3〜40の置換もしくは無置換のヘテロアリール基、炭素数12〜40の置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、炭素数12〜40の置換もしくは無置換のカルバゾリル基である。さらに好ましい置換基は、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルコキシ基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のジアルキルアミノ基、炭素数6〜15の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3〜12の置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。
中でも、一般式(11)のR
23およびR
26は置換基であることが好ましく、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜40のアリール基であることがより好ましく、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基であることがさらに好ましい。R
23およびR
26が置換基であれば、酸化を受けにくくなり、2量化を抑制することができるため、安定性の面で好ましい。
【0022】
本明細書でいうアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、より好ましくは炭素数1〜6であり、具体例としてメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基を挙げることができる。アリール基は、単環でも融合環でもよく、具体例としてフェニル基、ナフチル基を挙げることができる。アルコキシ基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、より好ましくは炭素数1〜6であり、具体例としてメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、イソプロポキシ基を挙げることができる。ジアルキルアミノ基の2つのアルキル基は、互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。ジアルキルアミノ基の2つのアルキル基は、各々独立に直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、より好ましくは炭素数1〜6であり、具体例としてメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基を挙げることができる。アリール基は、単環でも融合環でもよく、具体例としてフェニル基、ナフチル基を挙げることができる。ヘテロアリール基も、単環でも融合環でもよく、具体例としてピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基、トリアジル基、トリアゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、カルバゾリル基を挙げることができる。これらのヘテロアリール基は、ヘテロ原子を介して結合する基であっても、ヘテロアリール環を構成する炭素原子を介して結合する基であってもよい。
【0023】
これらのうち、一般式(11)のR
27はシアノ基であることが好ましい。すなわち、一般式(11)で表されるカルバゾリル基は、R
22とR
27の両方がシアノ基であることが好ましい。
【0024】
また、R
21、R
23〜R
26、R
28の少なくとも1つはカルバゾリル基であることが好ましく、2−カルバゾリル基、3−カルバゾリル基、9−カルバゾリル基であることがより好ましい。R
21、R
23〜R
26、R
28の少なくとも1つがカルバゾリル基であることにより、一般式(1)で表される化合物のHOMO準位とLUMO準位をより深く下げることができる。R
21、R
23〜R
26、R
28の少なくとも1つがカルバゾリル基であるとき、そのカルバゾリル基は、無置換であっても置換基で置換されていてもよいが、シアノ基で置換されていることが好ましい。R
21、R
23〜R
26、R
28が表すカルバゾリル基がシアノ基で置換されている場合、そのシアノ基の置換位置は、2−カルバゾリル基では6位及び8位の少なくとも一方であることが好ましく、3−カルバゾリル基では7位であることが好ましく、9−カルバゾリル基では2位及び7位の少なくとも一方であることが好ましい。これらの中で、R
21、R
23〜R
26、R
28の少なくとも1つが表すカルバゾリル基は、6位及び8位の少なくとも一方がシアノ基で置換された2−カルバゾリル基であることがより好ましい。R
21、R
23〜R
26、R
28が表すカルバゾリル基は、3位、6位、9位が置換可能である場合は置換されていることが好ましく、その置換基は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜40のアリール基であることがより好ましく、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基であることがさらに好ましい。3位、6位、9位が置換されていれば、酸化を受けにくくなり、2量化を抑制することができるため、安定性の面で好ましい。また、R
21、R
23〜R
26、R
28のうちカルバゾリル基であるものは、R
23〜R
26の少なくとも1つであることが好ましく、R
23とR
26であることがより好ましい。ただし、実用性の観点から、一般式(1)で表される化合物の分子内に存在するカルバゾール環の数は4つ以下であることが好ましい。
【0025】
上記のように、一般式(1)において、R
1〜R
5の少なくとも1つは、2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基である。R
1〜R
5のいずれか1つが、2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基である場合は、R
1〜R
3のいずれであってもよい。いずれか2つが、2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基である場合は、R
1とR
2の組み合わせ、R
2とR
3の組み合わせ、R
3とR
4の組み合わせ、R
1とR
3の組み合わせ、R
2とR
4の組み合わせ等を例示することができ、R
2とR
3の組み合わせ、または、R
3とR
4の組み合わせであることが好ましい。いずれか3つが、2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基である場合は、R
1とR
3とR
4の組み合わせを例示することができる。いずれか4つが、2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基である場合は、R
1とR
3とR
4とR
5の組み合わせを例示することができる。
【0026】
2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基が結合しているベンゼン環のパラ位はシアノ基であることが好ましい。また、2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基がベンゼン環に2つ以上結合している場合は、それらのうちの少なくとも2つが、各々が結合しているベンゼン環のパラ位がシアノ基であるという条件を満たしていることが好ましい。
【0027】
一般式(1)において、R
1〜R
5の少なくとも1つはシアノ基を表し、R
1〜R
5の少なくとも1つは上記2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基を表すが、残りのR
1〜R
5は水素原子または置換基を表す。
【0028】
R
1〜R
5がとりうる好ましい置換基として、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数1〜20のアルキル置換アミノ基、炭素数2〜20のアシル基、炭素数6〜40のアリール基、炭素数3〜40のヘテロアリール基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜10のアルキルスルホニル基、アミド基、炭素数2〜10のアルキルアミド基、炭素数3〜20のトリアルキルシリル基、炭素数4〜20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルキニル基およびニトロ基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。より好ましい置換基は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換もしくは無置換のアルコキシ基、炭素数1〜20の置換もしくは無置換のジアルキルアミノ基、炭素数6〜40の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3〜40の置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。さらに好ましい置換基は、ヒドロキシ基、フッ素原子、塩素原子、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルコキシ基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のジアルキルアミノ基、炭素数6〜15の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3〜12の置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。さらになお好ましくは、ヒドロキシ基、フッ素原子、塩素原子である。
【0029】
また、R
1〜R
5がとりうる好ましい置換基の例として、下記一般式(12)〜(15)で表される基も挙げることができる。
【0031】
一般式(12)において、R
31〜R
38は、各々独立に水素原子または置換基を表す。一般式(13)〜(15)において、R
41〜R
46、R
51〜R
62およびR
71〜R
80は、各々独立に水素原子または置換基を表す。一般式(12)〜(15)で表される基が置換基を有するときの置換位置や置換数は特に制限されない。各基の置換数は、0〜6個が好ましく、0〜4個がより好ましく、例えば0〜2個とすることも好ましい。複数の置換基を有するとき、それらは互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることがより好ましい。
一般式(12)で表される基が置換基を有する場合は、R
32〜R
37のいずれかが置換基であることが好ましい。例えば、R
32とR
37が置換基である場合、R
33とR
36が置換基である場合、R
34とR
35が置換基である場合を好ましく例示することができる。
一般式(13)で表される基が置換基を有する場合は、R
42〜R
46のいずれかが置換基であることが好ましい。例えば、R
42が置換基である場合と、R
43が置換基である場合を好ましく例示することができる。
一般式(14)で表される基が置換基を有する場合は、R
52〜R
60のいずれかが置換基であることが好ましい。例えば、R
52〜R
54のいずれかがが置換基である場合、R
55〜R
60のいずれかが置換基である場合を好ましく例示することができる。
一般式(15)で表される基が置換基を有する場合は、R
72〜R
74およびR
77〜R
79のいずれかが置換基であることが好ましい。例えば、R
72とR
79が置換基である場合、R
73とR
78が置換基である場合、R
74とR
77が置換基である場合、R
72、R
74、R
77およびR
79が置換基である場合を好ましく例示することができる。特に、R
74とR
77が置換基である場合、R
72、R
74、R
77およびR
79が置換基である場合をより好ましく例示することができる。このときの置換基は、各々独立に炭素数1〜20の置換もしくは無置換のアルキル基、または炭素数6〜40の置換もしくは無置換のアリール基であることが特に好ましく、炭素数1〜6の無置換のアルキル基、炭素数6〜10の無置換のアリール基、または炭素数6〜10のアリール基で置換された炭素数6〜10のアリール基であることがさらにより好ましい。
【0032】
一般式(12)のR
31〜R
38、一般式(13)のR
41〜R
46、一般式(14)のR
51〜R
62および、一般式(15)のR
71〜R
80がとりうる置換基の好ましい範囲と具体例については、上記の一般式(11)におけるR
21、R
23〜R
28がとりうる置換基の好ましい範囲と具体例を参照す+ることができる。
【0033】
一般式(1)において、R
1〜R
5のうち水素原子であるものは3つ以下であることが好ましく、2つ以下であることがより好ましく、0であることも好ましい。
【0034】
好ましい組み合わせとして、例えば、一般式(1)のR
1がシアノ基であり、R
3及びR
4の少なくとも1つが、2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基である場合を挙げることができる。別の好ましい組み合わせとして、R
2がシアノ基であり、R
1、R
3〜R
5の少なくとも1つが、2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基である場合を挙げることもできる。より好ましい組合せとして、例えば、一般式(1)のR
1がシアノ基であり、R
4及びR
5の両方が、2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基である場合を挙げることができる。別のより好ましい組み合わせとして、R
2がシアノ基であり、R
1、R
3〜R
5の全てが、2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基である場合を挙げることもできる。
【0035】
一般式(1)で表される化合物は、2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基のベンゼン環への置換位置及び置換数や、該カルバゾリル基におけるベンゼン環への結合部位、そのカルバゾリル基に導入するカルバゾリル基の置換位置及び置換数や、該カルバゾリル基におけるカルバゾリル基への結合部位等の選択により、分子構造の対称性やリニア性を制御することができる。例えば、分子の対称性が高ければ、電子の遷移性が高くなるという利点がある。一方、分子がリニアである方が、分極が大きくなって量子収率が大きくなるため好ましいが、電子の遷移性は低くなる。また、シアノ基の導入は、分子の分極を大きくする方向に作用する。
【0036】
以下において、一般式(1)で表される化合物の具体例を例示するが、本発明において用いることができる一般式(1)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0038】
一般式(1)で表される化合物の分子量は、例えば一般式(1)で表される化合物を含む有機層を蒸着法により製膜して利用することを意図する場合には、1500以下であることが好ましく、1200以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、800以下であることがさらにより好ましい。分子量の下限値は、通常247以上であり、好ましくは290以上である。
一般式(1)で表される化合物は、分子量にかかわらず塗布法で成膜してもよい。塗布法を用いれば、分子量が比較的大きな化合物であっても成膜することが可能である。
【0039】
本発明を応用して、分子内に一般式(1)で表される構造を複数個含む化合物を、有機発光素子の発光層に用いることも考えられる。
例えば、一般式(1)で表される構造を有する重合性モノマーを重合させた重合体を、有機発光素子の発光層に用いることが考えられる。具体的には、一般式(1)のR
1〜R
5のいずれかに重合性官能基を有するモノマーを用意して、これを単独で重合させるか、他のモノマーとともに共重合させることにより、繰り返し単位を有する重合体を得て、その重合体を有機発光素子の発光層に用いることが考えられる。あるいは、一般式(1)で表される構造を有する化合物どうしをカップリングさせることにより、二量体や三量体を得て、それらを有機発光素子の発光層に用いることも考えられる。
【0040】
一般式(1)で表される構造を含む重合体を構成する繰り返し単位の構造例として、一般式(1)のR
1〜R
5のいずれかが下記一般式(17)または(18)で表される構造であるものを挙げることができる。
【化8】
【0041】
一般式(17)および(18)において、L
1およびL
2は連結基を表す。連結基の炭素数は、好ましくは0〜20であり、より好ましくは1〜15であり、さらに好ましくは2〜10である。連結基は−X
11−L
11−で表される構造を有するものであることが好ましい。ここで、X
11は酸素原子または硫黄原子を表し、酸素原子であることが好ましい。L
11は連結基を表し、置換もしくは無置換のアルキレン基、または置換もしくは無置換のアリーレン基であることが好ましく、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキレン基、または置換もしくは無置換のフェニレン基であることがより好ましい。
一般式(17)および(18)において、R
101、R
102、R
103およびR
104は、各々独立に置換基を表す。好ましくは、炭素数1〜6の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜6の置換もしくは無置換のアルコキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは炭素数1〜3の無置換のアルキル基、炭素数1〜3の無置換のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子であり、さらに好ましくは炭素数1〜3の無置換のアルキル基、炭素数1〜3の無置換のアルコキシ基である。
【0042】
繰り返し単位の具体的な構造例として、一般式(1)のR
1〜R
5のいずれかが下記式(21)〜(24)であるものを挙げることができる。R
1〜R
5のうちの2つ以上が、下記式(21)〜(24)であってもよいが、好ましいのはR
1〜R
5のうちの1つが下記式(21)〜(24)のいずれかである場合である。
【化9】
【0043】
これらの式(21)〜(24)を含む繰り返し単位を有する重合体は、一般式(1)のR
1〜R
5の少なくとも1つをヒドロキシ基にしておき、それをリンカーとして下記化合物を反応させて重合性基を導入し、その重合性基を重合させることにより合成することができる。
【化10】
【0044】
分子内に一般式(1)で表される構造を含む重合体は、一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位のみからなる重合体であってもよいし、それ以外の構造を有する繰り返し単位を含む重合体であってもい。また、重合体の中に含まれる一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位は、単一種であってもよいし、2種以上であってもよい。一般式(1)で表される構造を有さない繰り返し単位としては、通常の共重合に用いられるモノマーから誘導されるものを挙げることができる。例えば、エチレン、スチレンなどのエチレン性不飽和結合を有するモノマーから誘導される繰り返し単位を挙げることができる。
【0045】
[一般式(1)で表される化合物の合成方法]
上記の一般式(1)で表される化合物は新規化合物である。
一般式(1)で表される化合物の合成法は特に制限されない。一般式(1)で表される化合物の合成は、既知の合成法や条件を適宜組み合わせることにより行うことができる。
例えば、好ましい合成法として、ジフルオロジシアノベンゼンを用意して、これを2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾールと反応させる方法を挙げることができる。これによって、一般式(1)のR
1〜R
5のいずれか1つがシアノ基で、残りの2つが、2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基である化合物を合成することができる。こうして合成された化合物は溶媒洗浄により簡単に精製することができる。出発物質としてテトラフルオロジシアノベンゼンを用いれば、一般式(1)のR
1〜R
5のいずれか1つがシアノ基で、残りが、2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基である化合物を合成することができる。さらに、シアノベンゼンにおけるシアノ基及びフルオロ基の数を、目的化合物のベンゼン環におけるシアノ基及び2位及び7位の少なくとも一方がシアノ基で置換されたカルバゾリル基の数に対応させて変更することにより、目的の一般式(1)で表される化合物を合成することができる。また、さらに水を添加して超音波照射する等の工程を実施することにより、ベンゼン環にヒドロキシ基を導入することもできる。以上に説明した合成法は、比較的簡単な工程で高い収率を得ることができるため、工業レベルでの大規模生産に適している。
上記の反応の詳細については、後述の合成例を参考にすることができる。また、一般式(1)で表される化合物は、その他の公知の合成反応を組み合わせることによっても合成することができる。
【0046】
[有機発光素子]
本発明の一般式(1)で表される化合物は、良好な発光特性を有し、有機発光素子の発光材料として有用である。また、一般式(1)で表される化合物は、シアノ基で置換されたベンゼン環に置換しているカルバゾリル基がシアノ基で置換されていることにより、高い熱安定性を有するとともに、HOMO準位とLUMO準位がともに深く、その発光過程で生成するラジカル種や励起子の水分や酸素との反応による劣化が抑制されると考えられる。さらに、一般式(1)で表される化合物は、上記のカルバゾリル基におけるシアノ基の置換位置が2位及び7位の少なくとも一方であることにより、カルバゾリル基がシアノ基で置換されていないシアノベンゼン誘導体と同等の高い耐光性を有する。このため、本発明の一般式(1)で表される化合物を発光層の発光材料に使用する有機発光素子は、極めて高い耐候性(耐熱性、耐酸化性及び耐光性)を有し、屋外で使用した場合でも良好は発光特性を維持することができる。
さらに、一般式(1)で表される化合物の中には、遅延蛍光を放射する遅延蛍光材料(遅延蛍光体)が含まれている。すなわち本発明は、一般式(1)で表される構造を有する遅延蛍光体の発明と、一般式(1)で表される化合物を遅延蛍光体として使用する発明と、一般式(1)で表される化合物を用いて遅延蛍光を発光させる方法の発明も提供する。そのような化合物を発光材料として用いた有機発光素子は、遅延蛍光を放射し、発光効率が高いという特徴を有する。その原理を、有機エレクトロルミネッセンス素子を例にとって説明すると以下のようになる。
【0047】
有機エレクトロルミネッセンス素子においては、正負の両電極より発光材料にキャリアを注入し、励起状態の発光材料を生成し、発光させる。通常、キャリア注入型の有機エレクトロルミネッセンス素子の場合、生成した励起子のうち、励起一重項状態に励起されるのは25%であり、残り75%は励起三重項状態に励起される。従って、励起三重項状態からの発光であるリン光を利用するほうが、エネルギーの利用効率が高い。しかしながら、励起三重項状態は寿命が長いため、励起状態の飽和や励起三重項状態の励起子との相互作用によるエネルギーの失活が起こり、一般にリン光の量子収率が高くないことが多い。一方、遅延蛍光材料は、項間交差等により励起三重項状態へとエネルギーが遷移した後、三重項−三重項消滅あるいは熱エネルギーの吸収により、励起一重項状態に逆項間交差され蛍光を放射する。有機エレクトロルミネッセンス素子においては、なかでも熱エネルギーの吸収による熱活性化型の遅延蛍光材料が特に有用であると考えられる。有機エレクトロルミネッセンス素子に遅延蛍光材料を利用した場合、励起一重項状態の励起子は通常通り蛍光を放射する。一方、励起三重項状態の励起子は、デバイスが発する熱を吸収して励起一重項へ項間交差され蛍光を放射する。このとき、励起一重項からの発光であるため蛍光と同波長での発光でありながら、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差により、生じる光の寿命(発光寿命)は通常の蛍光やりん光よりも長くなるため、これらよりも遅延した蛍光として観察される。これを遅延蛍光として定義できる。このような熱活性化型の励起子移動機構を用いれば、キャリア注入後に熱エネルギーの吸収を経ることにより、通常は25%しか生成しなかった励起一重項状態の化合物の比率を25%以上に引き上げることが可能となる。100℃未満の低い温度でも強い蛍光および遅延蛍光を発する化合物を用いれば、デバイスの熱で充分に励起三重項状態から励起一重項状態への項間交差が生じて遅延蛍光を放射するため、発光効率を飛躍的に向上させることができる。
【0048】
本発明の一般式(1)で表される化合物を発光層の発光材料として用いることにより、有機フォトルミネッセンス素子(有機PL素子)や有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの優れた有機発光素子を提供することができる。有機フォトルミネッセンス素子は、基板上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。有機層は、少なくとも発光層を含むものであり、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。具体的な有機エレクトロルミネッセンス素子の構造例を
図1に示す。
図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を表わす。
以下において、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および各層について説明する。なお、基板と発光層の説明は有機フォトルミネッセンス素子の基板と発光層にも該当する。
【0049】
(基板)
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板に支持されていることが好ましい。この基板については、特に制限はなく、従来から有機エレクトロルミネッセンス素子に慣用されているものであればよく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英、シリコンなどからなるものを用いることができる。
【0050】
(陽極)
有機エレクトロルミネッセンス素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが好ましく用いられる。このような電極材料の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO
2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In
2O
3−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な材料を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0051】
(陰極)
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが用いられる。このような電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al
2O
3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性および酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al
2O
3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陽極の説明で挙げた導電性透明材料を陰極に用いることで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0052】
(発光層)
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層であり、発光材料を単独で発光層に使用しても良いが、好ましくは発光材料とホスト材料を含む。発光材料としては、一般式(1)で表される本発明の化合物群から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子および有機フォトルミネッセンス素子が高い発光効率を発現するためには、発光材料に生成した一重項励起子および三重項励起子を、発光材料中に閉じ込めることが重要である。従って、発光層中に発光材料に加えてホスト材料を用いることが好ましい。ホスト材料としては、励起一重項エネルギー、励起三重項エネルギーの少なくとも何れか一方が本発明の発光材料よりも高い値を有する有機化合物を用いることができる。その結果、本発明の発光材料に生成した一重項励起子および三重項励起子を、本発明の発光材料の分子中に閉じ込めることが可能となり、その発光効率を十分に引き出すことが可能となる。もっとも、一重項励起子および三重項励起子を十分に閉じ込めることができなくても、高い発光効率を得ることが可能な場合もあるため、高い発光効率を実現しうるホスト材料であれば特に制約なく本発明に用いることができる。本発明の有機発光素子または有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光は発光層に含まれる本発明の発光材料から生じる。この発光は蛍光発光および遅延蛍光発光の両方を含む。但し、発光の一部或いは部分的にホスト材料からの発光があってもかまわない。
ホスト材料を用いる場合、発光材料である本発明の化合物が発光層中に含有される量は0.1重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、また、50重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
発光層におけるホスト材料としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。
【0053】
(注入層)
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層または正孔輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0054】
(阻止層)
阻止層は、発光層中に存在する電荷(電子もしくは正孔)および/または励起子の発光層外への拡散を阻止することができる層である。電子阻止層は、発光層および正孔輸送層の間に配置されることができ、電子が正孔輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。同様に、正孔阻止層は発光層および電子輸送層の間に配置されることができ、正孔が電子輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。阻止層はまた、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止するために用いることができる。すなわち電子阻止層、正孔阻止層はそれぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備えることができる。本明細書でいう電子阻止層または励起子阻止層は、一つの層で電子阻止層および励起子阻止層の機能を有する層を含む意味で使用される。
【0055】
(正孔阻止層)
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する。正孔阻止層は電子を輸送しつつ、正孔が電子輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。正孔阻止層の材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。
【0056】
(電子阻止層)
電子阻止層とは、広い意味では正孔を輸送する機能を有する。電子阻止層は正孔を輸送しつつ、電子が正孔輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。
【0057】
(励起子阻止層)
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は発光層に隣接して陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。すなわち、励起子阻止層を陽極側に有する場合、正孔輸送層と発光層の間に、発光層に隣接して該層を挿入することができ、陰極側に挿入する場合、発光層と陰極との間に、発光層に隣接して該層を挿入することができる。また、陽極と、発光層の陽極側に隣接する励起子阻止層との間には、正孔注入層や電子阻止層などを有することができ、陰極と、発光層の陰極側に隣接する励起子阻止層との間には、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層などを有することができる。阻止層を配置する場合、阻止層として用いる材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーの少なくともいずれか一方は、発光材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーよりも高いことが好ましい。
【0058】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。使用できる公知の正孔輸送材料としては例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物およびスチリルアミン化合物を用いることが好ましく、芳香族第3級アミン化合物を用いることがより好ましい。
【0059】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。使用できる電子輸送層としては例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0060】
有機エレクトロルミネッセンス素子を作製する際には、一般式(1)で表される化合物を発光層に用いるだけでなく、発光層以外の層にも用いてもよい。その際、発光層に用いる一般式(1)で表される化合物と、発光層以外の層に用いる一般式(1)で表される化合物は、同一であっても異なっていてもよい。例えば、上記の注入層、阻止層、正孔阻止層、電子阻止層、励起子阻止層、正孔輸送層、電子輸送層などにも一般式(1)で表される化合物を用いてもよい。これらの層の製膜方法は特に限定されず、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらで作製してもよい。
【0061】
以下に、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示する。ただし、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。なお、以下の例示化合物の構造式におけるR、R’、R
1〜R
10は、各々独立に水素原子または置換基を表す。Xは環骨格を形成する炭素原子または複素原子を表し、nは3〜5の整数を表し、Yは置換基を表し、mは0以上の整数を表す。
【0062】
まず、発光層のホスト材料としても用いることができる好ましい化合物を挙げる。
【0068】
次に、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0070】
次に、正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0077】
次に、電子阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0079】
次に、正孔阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0081】
次に、電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0085】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0087】
さらに添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0089】
上述の方法により作製された有機エレクトロルミネッセンス素子は、得られた素子の陽極と陰極の間に電界を印加することにより発光する。このとき、励起一重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長の光が、蛍光発光および遅延蛍光発光として確認される。また、励起三重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長が、りん光として確認される。通常の蛍光は、遅延蛍光発光よりも蛍光寿命が短いため、発光寿命は蛍光と遅延蛍光で区別できる。
一方、りん光については、本発明の化合物のような通常の有機化合物では、励起三重項エネルギーは不安定で熱等に変換され、寿命が短く直ちに失活するため、室温では殆ど観測できない。通常の有機化合物の励起三重項エネルギーを測定するためには、極低温の条件での発光を観測することにより測定可能である。
【0090】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。本発明によれば、発光層に一般式(1)で表される化合物を含有させることにより、発光効率が大きく改善された有機発光素子が得られる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機発光素子は、さらに様々な用途へ応用することが可能である。例えば、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いて、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造することが可能であり、詳細については、時任静士、安達千波矢、村田英幸共著「有機ELディスプレイ」(オーム社)を参照することができる。また、特に本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、需要が大きい有機エレクトロルミネッセンス照明やバックライトに応用することもできる。
【実施例】
【0091】
以下に合成例および実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、HOMO準位及びLUMO準位の測定は、大気中光電子分光装置 (理研計器製:AC3)およびUV/Vis/NIR分光光度計 (PerkinElmer製:LAMBDA950)を用いて行い、熱安定性の評価は、TGA−DTA (Bruker製:TG−DTA2400SA)およびDSC(NETZSCHセイ:DSC204 F1 Phoenix)を用いて行い、発光強度の経時変化の測定は、蛍光分光光度計(ホリバ製:FluoroMax−4)を用いて行い、発光特性の評価は、ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)、半導体パラメータ・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:E5273A)、光パワーメータ測定装置(ニューポート社製:1930C)、光学分光器(オーシャンオプティクス社製:USB2000)、分光放射計(トプコン社製:SR−3)およびストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334型)を用いて行った。
また、本実施例において、昇華温度、分解温度は真空・常圧TGA−DTA (Bruker製:TG−DTA2400SA)により測定した。なお、昇華温度は1Paにおいて、化合物が含有する溶媒・水分等が除去され、重量が安定した後に5%重量減少が生じる温度とし、分解温度は1気圧において10%重量減少が生じる温度とした。
【0092】
(合成例1)
【化30】
【0093】
1Lナスフラスコに2,7−ジブロモカルバゾール(15.9g)とシアン化銅(I)(21.9g)を入れ、DMF(500mL)を加えた。150℃で24時間加熱後、放冷し、エチレンジアミン水溶液中に注いだ。析出物をろ取することで2,7−ジシアノカルバゾール(10.4g)を得た。
200mLナスフラスコに水素化ナトリウム(240mg)を入れ、ヘキサンで洗浄した。テトラヒドロフラン(75mL)、2,7−ジシアノカルバゾール(1.09g)を加え室温で1.5時間撹拌した後、4,5−ジフルオロフタロニトリル(330mg)を加え、さらに室温で22時間撹拌した。水(25mL)を加え、析出物をろ取した。ろ取物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供することで精製し、化合物1(475mg、収率43%)を得た。
化合物1のDMSO−d6溶液の
1H NMRスペクトルを
図2に示す。
【0094】
(合成例2)
【化31】
【0095】
1Lナスフラスコに2,7−ジブロモカルバゾール(15.9g)とシアン化銅(I)(21.9g)を入れ、DMF(500mL)を加えた。150℃で24時間加熱後、放冷し、エチレンジアミン水溶液中に注いだ。析出物をろ取することで2,7−ジシアノカルバゾール(10.4g)を得た。
200mLナスフラスコに水素化ナトリウム(480mg)を入れ、ヘキサンで洗浄した。テトラヒドロフラン(150mL)、2,7−ジシアノカルバゾール(2.17g)を加え室温で1.5時間撹拌した後、テトラフルオロイソフタロニトリル(400mg)を加え、さらに室温で60時間撹拌した。反応液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供することで精製し、化合物2(494mg、収率25%)を得た。
【0096】
[耐候性の評価]
(実施例1)
合成例1で合成した化合物1について、HOMO準位及びLUMO準位を測定した結果を表1に示し、昇華温度及び分解温度を測定した結果を表2に示す。
また、化合物1を石英ガラス上に100nm厚となるよう真空蒸着し、窒素雰囲気中または大気下で350nm励起光を連続照射し、発光強度の経時変化を測定した。窒素雰囲気中での発光強度の経時変化を
図3に示し、大気下での発光強度の経時変化を
図4に示す。
【0097】
(比較例1、2)
下記式で表される比較化合物1及び比較化合物2について、実施例1と同様の条件で測定したHOMO準位及びLUMO準位を表1に示し、昇華温度及び分解温度を表2に示し、350nm励起光を連続照射したときの発光強度の経時変化を
図3、3に示す。
【化32】
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
表1に示すように、カルバゾリル基がシアノ基で置換された化合物1および比較化合物2は、カルバゾリル基がシアノ基で置換されていない比較化合物1に比べてHOMO準位とLUMO準位がともに低いものになっている。また、表2に示すように、化合物1および比較化合物2は、比較化合物1に比べて昇華温度と分解温度が高く、熱安定性に優れている。これらの結果から、シアノベンゼンに置換しているカルバゾリル基にシアノ基を導入すると、HOMOとLUMOの準位が下がり、また、耐熱性が向上することがわかった。
一方、
図3、3を見ると、シアノ基の置換位置がカルバゾリル基の2位及び7位である化合物1は、いずれの環境においても比較化合物1と同等の光安定性が得られているのに対して、シアノ基の置換位置がカルバゾリル基の3位及び6位である比較化合物2は、化合物1及び比較化合物1に比べて発光強度の経時的な低下が大きく、特に大気下において低下の程度が著しくなる。これらのことから、カルバゾリル基の3位及び6位のみへのシアノ基の導入はむしろ光安定性を低下させることが示され、カルバゾリル基の2位、7位へのシアノ基の導入により、耐光性を損なうことなく、深いHOMO/LUMO準位と高い耐熱性を達成しうることがわかった。
【0101】
[有機発光素子の作製と発光特性の評価]
(実施例2)
Ar雰囲気のグローブボックス中で化合物1のトルエン溶液(濃度10
-5mol/L)を調製した。
また、石英基板上に真空蒸着法にて、真空度5x10
-4Pa以下の条件にて化合物1の薄膜を100nmの厚さで形成して有機フォトルミネッセンス素子とした。
これとは別に、石英基板上に真空蒸着法にて、真空度5x10
-4Pa以下の条件にて化合物1とDPEPOとを異なる蒸着源から蒸着し、化合物1の濃度が6.0質量%である薄膜を100nmの厚さで形成して有機フォトルミネッセンス素子とした。
化合物1のトルエン溶液について、330nm励起光による発光スペクトルを測定した結果を
図5に示し、280nm励起光による402nm発光の過渡減衰曲線を測定した結果を
図6に示す。化合物1の薄膜について、350nm励起光による発光スペクトルを測定した結果を
図7に示し、340nm励起光による458nm発光の過渡減衰曲線を測定した結果を
図8に示す。
図6には、窒素バブリングをせずに測定した過渡減衰曲線と窒素バブリングをした後に測定した過渡減衰曲線を併せて示した。また、
図6及び
図8において、発光寿命の短い成分を蛍光、発光寿命が長い成分を遅延蛍光と判断した。
化合物1のトルエン溶液は、発光波長が410nmであり、フォトルミネッセンス量子効率が空気をバブリングした場合で18.0%、窒素をバブリングした場合で32.0%であった。化合物1の薄膜は、発光波長が458nmであり、フォトルミネッセンス量子効率が大気下で22.5%、窒素雰囲気下で33.5%であった。化合物1とDPEPOの薄膜は、発光波長が432nmであり、フォトルミネッセンス量子効率が大気下で34.4%、窒素雰囲気下で35.4%であった。
化合物1のトルエン溶液の発光寿命は、窒素バブリングをせずに測定した場合で、蛍光寿命τ
1が8ns、遅延蛍光は観測されず、窒素バブリングをした後に測定した場合で、蛍光寿命τ
1が8ns、遅延蛍光寿命τ
2が43nsであった。化合物1の薄膜の蛍光寿命τ
1は8.8ns、遅延蛍光寿命τ
2は22.6nsであった。以上の結果から、化合物1について遅延蛍光の放射を確認することができた。
【0102】
【化33】
【0103】
(実施例3)
膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度4×10
-4Paで積層した。まず、ITO上にNPDを40nmの厚さに形成し、この上に、mCPを10nmの厚さに形成した。次に、化合物1とUGH−3を異なる蒸着源から共蒸着し、25nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、化合物1の濃度は6重量%とした。次に、TPBiを50nmの厚さに形成し、この上にフッ化リチウム(LiF)を0.8nm真空蒸着し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成した。以上の工程により、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
作成した有機エレクトロルミネッセンス素子は500nmに発光極大波長を有しており、
図9の電流密度−外部量子効率特性を示し、
図10の電圧−輝度−外部量子効率特性を示した。作成した有機エレクトロルミネッセンス素子は5%を超える外部量子効率を達成しており、優れた素子であることが確認された。
【0104】
【化34】