(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被動機構と、前記被動機構を駆動するアクチュエータとを備えるプラントにおいて、前記アクチュエータを駆動するための制御値である連続値制御信号を量子化し、離散値制御信号として前記アクチュエータに入力する、アクチュエータの駆動制御方法であって、
制御目標値と、前回の前記アクチュエータが駆動したときの前記被動機構の出力値とに基づいて、次回の前記アクチュエータの制御値である連続値制御信号を算出する連続値制御信号算出ステップと、
前回の前記プラントの出力値に基づいて、算出された前記連続値制御信号を補正する補正ステップと、
アクチュエータの非線形特性を補完する量子化マップに基づいて前記連続値制御信号を量子化し、前記離散値制御信号として前記アクチュエータへ出力する離散値制御信号算出ステップと、
を含み、
前記離散値制御信号算出ステップでは、
外力推定部により前記被動機構に作用する外力の推定値を取得し、
非線形要素を有する前記被動機構に作用する外力と当該被動機構の目標速度との関係を表す情報である補正テーブルに基づいて、前記外力の推定値から前記被動機構に関する動作補正の出力を決定する、アクチュエータの駆動制御方法。
前記補正ステップでは、前回のプラントの出力値として、前回の前記アクチュエータの出力値または前記被動機構の出力値のうち少なくともいずれか一方を用いる、請求項1に記載のアクチュエータの駆動制御方法。
前記補正テーブルは、前記被動機構が非線形要素の影響を受けて動作するときは当該非線形要素を解消する位置まで前記被動機構を移動させるよう出力を補正し、非線形要素の影響が解消した後は、出力を補正しないように設定される、請求項1または2に記載のアクチュエータの駆動制御方法。
被動機構と、前記被動機構を駆動するアクチュエータとを備えるプラントにおいて、前記アクチュエータを駆動するための制御値である連続値制御信号を量子化し、離散値制御信号として前記アクチュエータに入力する、アクチュエータの駆動制御装置において、
制御目標値と、前回の前記アクチュエータが駆動したときの前記被動機構の出力値とに基づいて、次回の前記アクチュエータの制御値である連続値制御信号を算出する制御部と、
前回の前記プラントの出力値に基づいて、算出された前記連続値制御信号を補正し、アクチュエータの非線形特性を補完する量子化マップに基づいて前記連続値制御信号を量子化し、前記離散値制御信号として前記アクチュエータへ出力する非線形フィードバック変調器と、
を備え、
非線形フィードバック変調器は、
外力推定部により前記被動機構に作用する外力の推定値を取得し、
非線形要素を有する前記被動機構に作用する外力と当該被動機構の目標速度との関係を表す情報である補正テーブルに基づいて、前記外力の推定値から前記被動機構に関する動作補正の出力を決定する、アクチュエータの駆動制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
<1.駆動制御装置の構成>
[1−1.全体構成]
まず、
図1に基づいて、本発明の一実施形態に係るアクチュエータの駆動制御装置の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係るアクチュエータの駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、制御対象(プラント)50の駆動を制御する駆動制御装置1は、制御偏差部10と、フィードバック制御部20と、非線形特性補償型フィードバック変調器(NC−FBM:Nonlinearity Compensated type Feedback Modulator。以下、「非線形フィードバック変調器」とも称する。)30と、フィードフォワード制御部40とを含む。
【0025】
駆動制御装置1には、操作装置(図示せず。)から指令信号として制御目標値rが入力される。制御偏差部10は、制御目標値rに対して制御対象50からフィードバックされる出力(制御量)yの偏差である制御偏差z(=r−y2)を出力する。フィードバック制御部20は、制御偏差zに基づいて、制御対象50の出力yが制御目標値rになるような制御信号uを生成して非線形フィードバック変調器30に出力する。ここで、制御信号uは、時間的に連続した連続値制御信号である。なお、y2は、出力yを計測器54を介して検出したものである。
【0026】
非線形フィードバック変調器30は、制御信号uを変調して変調制御信号u
Qを生成し、制御対象50に出力する。ここで、変調制御信号u
Qは、時間的に離散した離散値制御信号である。非線形フィードバック変調器30は、摩擦の変動範囲を予め設定することでパラメータを系統的に決定する変調器である。制御信号uは、制御対象50における入力信号の受付可能な時間間隔、入力信号のとりうる離散値、および入出力特性に基づいた変換式によって、変調制御信号u
Qに変換される。また、本実施形態に係る非線形フィードバック変調器30には、
図1に示すように、プラント50の出力値y’がフィードバックされる。このプラント50からのフィードバックを受けて、非線形フィードバック変調器30は、フィードバック制御部20により算出された制御信号uを補正し、制御対象へ変調制御信号u
Qを出力する。非線形フィードバック変調器30の詳細な構成については後述する。
【0027】
フィードフォワード制御部40は、変調制御信号u
Qの位相遅れを改善するために設けられる制御部である。フィードフォワード制御部40は、必ずしも設けなくともよく、必要に応じて追加される。フィードフォワード制御部40は、例えば
図1に示すように、速度変換部41と、制御量変換部42とを含む。速度変換部41は、駆動制御装置1に入力された制御目標値rを微分して速度値vに変換し、制御量変換部42に出力する。制御量変換部42は、速度値vを、制御対象50の操作量成分値v
1に変換して、加算部43に出する。加算部43は、操作量成分値v
1を、フィードバック制御部20により算出された値に加算して、制御信号uを生成する。
【0028】
また、本実施形態の駆動制御装置1の制御対象(プラント)50は、
図1に示すように、アクチュエータ等の駆動機構(P1)51およびバックラッシュ等の非線形要素を有する被動機構(P2)52とからなる駆動システムである。被動機構52には伝動機構も含まれるものとする。非線形フィードバック変調器30から出力された変調制御信号u
Qに基づいて、駆動機構51が駆動し、駆動機構51とともに被動機構52が動く。制御対象(プラント)50の出力値、例えば駆動機構51や被動機構52の出力値(例えば、移動速度)は、フィードバック制御部20および非線形フィードバック変調器30に出力され、次の制御信号の算出に利用される。実際には、フィードバック制御部20によるフィードバック制御には、制御対象(プラント)50の出力として計測器54で計測された測定値y2が用いられる。計測器54で計測された測定値y2は、非線形フィードバック変調器30にフィードバックされるプラント50の出力値y’としても利用される。
【0029】
[1−2.非線形フィードバック変調器の構成]
本実施形態に係る駆動制御装置1は、制御対象50が例えば駆動機構およびバックラッシュ等の非線形要素を有する被動機構とからなる駆動システムである場合においても、駆動システム全体が精度よく、かつ滑らかに動作するように制御できるようにすることを目的とする。このため、本実施形態に係る駆動装置1では、非線形フィードバック変調器30を、駆動機構51や被動機構52の不感帯やヒステリシス特性に対処可能に構成する。非線形フィードバック変調器30により被動機構52の不感帯やヒステリシス特性も考慮した制御を行うことで、駆動機構51の制御のみでは駆動システム全体としての動作精度の向上に限界がある場合にも、さらに精度を向上させることができる。
【0030】
本実施形態に係る非線形フィードバック変調器30の一構成例について詳細に説明すると、
図1に示すように、非線形フィードバック変調器30は、加算部301、サンプルホールド(S/H)部302、量子化器303、非線形推定モデル304、減算部305、および伝達関数306を含む。
【0031】
非線形フィードバック変調器30に入力された制御信号uには、加算部301において伝達関数306の出力s
03が加算され、出力信号u
Cとなる。出力信号u
Cは、S/H部302において所定のサンプリング周期でサンプリングされる。ここで、サンプリング周期は、制御対象50における入力信号(ここでは変調制御信号u
Q)の受付可能な時間間隔以上の時間である。S/H部302は、あるタイミングでサンプリングした出力信号u
Cの値を、続くサンプリング周期の間、出力信号s
01として量子化器303に出力し続ける。
【0032】
量子化器303は、出力信号s
01を、変調制御信号u
Qのとりうる値として予め設定された離散値のいずれかに変換し、変換された値を変調制御信号u
Qとして出力する。例えば、量子化器303は、出力信号s
01の値に最も近い離散値を変調制御信号u
Qとして出力する。量子化器303で予め設定されている離散値は、例えば、不感帯幅の推定値と不感帯の誤差の推定値とに基づき段階的な値に設定してもよい。
【0033】
量子化器303から出力された変調制御信号u
Qは、制御対象50に入力されるとともに、非線形推定モデル304に入力される。非線形推定モデル304は、変調制御信号u
Qを、制御対象50の非線形な入出力特性に基づいて変換して出力信号u^
N(u^はuの上に^が添えられているものとする。)とし、減算部305に出力する。つまり、非線形推定モデル304は、変調制御信号u
Qを制御対象50に入力した場合の出力をシミュレートしている。
【0034】
この非線形推定モデル304は、プラント50を構成する1または複数の構成要素を考慮した非線形モデルを有している。例えば非線形推定モデル304は、スティックスリップや配管膨張効果、バックラッシュ等の現象を考慮して構成される。非線形推定モデル304での演算は、制御対象50の入出力特性を関数Hで表し、Y=H(u
Q)とする場合、s
2=H(u
Q)と表せる。関数Hは、一の入力値に対して出力値が一意に定まるものであれば任意に設定することが可能である。
【0035】
ここで、本実施形態に係る非線形推定モデル304は、前回のプラント50の出力値y’に基づいて、変調制御信号u
Qを補正する。すなわち、非線形フィードバック変調器30は、非線形モデルを変更するための補正テーブルを保持しており、前回のプラント50の出力値y’に基づいて補正テーブルを参照し、非線形モデルの出力値を補正する。前回のプラント50の出力値y’は、駆動機構51または被動機構52のうち少なくともいずれか1つの情報を用いることができ、例えば、
図1に示すように、計測器54にて計測された測定値y2を用いてもよい。このように、前回のプラント50の出力値y’を非線形推定モデル304の入力値として用いることで、非線形推定モデル304の推定精度を高めることができる。
【0036】
ここで、非線形モデルの出力値を補正するために参照される補正テーブルは、予め設計された被動機構52の非線形性のモデルに基づき、駆動機構51の出力値と被動機構52の出力値との差分に応じた補正入力を出力するための情報である。非線形フィードバック変調器30は、例えば外力推定部により取得された被動機構52の動作に影響する外力の推定値に基づき、補正テーブルから被動機構52の非線形要素を考慮した被動機構52の目標値を決定する。なお、被動機構52に作用する外力の推定値を取得する外力推定部は、例えば、被動機構52の動作に影響する外力の大きさおよび向きを推定するものである。
【0037】
また、補正テーブルは、被動機構52の非線形要素に基づいて予め設定された、被動機構52に作用する外力と被動機構52の目標速度との関係を表す情報である。被動機構52に非線形要素がある場合、当該被動機構52が動作時に非線形要素の影響を受ける非線形領域が存在する。非線形領域は、例えば被動機構52にバックラッシュが生じる領域であったり、ガタが生じる領域であったりする。これより、補正テーブルは、例えば被動機構52にバックラッシュ等の非線形要素の影響を受けて動作するときは当該非線形要素を解消する位置まで被動機構52を速やかに移動させるよう出力を補正し、非線形要素の影響が解消した後は、出力を補正しないように設定される。補正テーブルは、被動機構52の特性や被動機構52が受ける外力等に応じて適宜設定される。このように、補正テーブルは、被動機構52の出力の監視結果から、被動機構52の非線形領域内での動作が速やかに回避されるように被動機構52を動作させるための目標値を設定するための情報として用いられる。
【0038】
このような非線形フィードバック変調器30により、被動機構52の非線形性と外力からの影響とを考慮して目標値の補正量を算出し、この補正入力を受けて駆動機構51を制御することで、被動機構52の非線形性による制御性低下を回避することが可能となる。
【0039】
なお、非線形フィードバック変調器30による制御信号の補正量の算出は、かかる例に限定されず、駆動機構51の出力値または被動機構52のいずれかを用いて補正することも可能である。駆動機構51の出力値を用いて補正する場合には、駆動機構51の特性により生じる目標値とのずれを適切に解消できると考えられる。一方、被動機構52の出力値を用いて補正する場合には、駆動機構51と被動機構52との間に生じるバックラッシュ等による目標値とのずれを適切に解消できると考えられる。どの出力値を用いて制御量を補正するかは、適宜選択可能である。
【0040】
図1の説明に戻り、減算部305では、非線形推定モデル304から入力される出力信号u^
Nを出力信号u
Cから減算し、出力信号s
02として伝達関数306に出力する。ここで、出力信号s
02は、S/H部302に入力される連続値の制御信号u
Cと、制御信号u
CがS/H部302および量子化器303を経て変換された変調制御信号u
Qを制御対象50に入力した場合の出力(制御量)yのシミュレーション結果との偏差である。出力信号s
02は、伝達関数306を経て出力信号s
03となり、加算器31で制御信号uに加算される。出力信号s
03を制御信号uに加算して出力信号u
Cとすることによって、量子化器303における量子化誤差と、制御対象50の動作の非線形要素による影響とが補償される。
【0041】
ここで、伝達関数306のQ(s)は設計パラメータであり、Q(∞)=0を満たすプロパーな伝達関数である。Q(s)は、例えば以下の式(1)のように設定されうる。なお、h(sec)は、S/H部302のサンプリング周期である。
【0043】
以上、本実施形態に係る駆動制御装置1と、これが備える非線形フィードバック制御部30の構成について説明した。本実施形態に係る駆動制御装置1では、非線形フィードバック変調器30により駆動機構である駆動機構51と被動機構52との挙動(出力)とを監視し、フィードバック制御部20により算出された制御信号が制御対象50に対して最適な動作補正を指示するよう、制御信号を補正する。これにより、制御対象50の応答性を高め、かつ系全体を安定させる。
【0044】
なお、本実施形態に係る駆動制御装置1は、
図1に示したように、制御対象(プラント)50の出力として、計測器54で計測された測定値y2をプラント50の出力値y’として、フィードバック制御部20および非線形フィードバック変調器30にフィードバックしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、
図2に示すように、駆動機構(P1)51の出力値を計測する計測器53をさらに設け、計測器53の計測値y1および計測器54で計測された測定値y2をプラント50の出力値y’として、フィードバック制御部20および非線形フィードバック変調器30にフィードバックしてもよい。このように、駆動機構(P1)51の計測値y1を非線形推定モデル304の入力として利用することで、非線形推定モデル304の、バックラッシュのような履歴影響を受ける非線形要素の推定精度を高めることができる。
【0045】
あるいは、
図3に示すように、制御対象(プラント)50に計測器53、54を設置する代わりに、制御対象(プラント)50の出力値を推定する推定器80を設けてもよい。推定器80は、非線形フィードバック変調器30の量子化器303を経て変換された変調制御信号u
Qを制御対象50に入力した場合の出力値(制御量)y‘を推定し、非線形推定モデル304へ出力する。これにより、制御対象(プラント)50に計測器53、54を設置するコストを削減することができる。このように、
図1〜
図3に示した非線形推定モデル304にフィードバックされる出力値y’は、駆動機構(P1)51の出力値を計測する計測器53、被動機構(P2)52の出力値を計測する計測器54、あるいは制御対象(プラント)50の出力値を推定する推定器80のうち、少なくともいずれか1つにより出力された値を用いればよい。
【0046】
<2.具体例>
以下、本実施形態に係る駆動制御装置1による駆動制御の一例を説明する。
【0047】
[2−1.被動機構の非線形性への対応]
上述の駆動機構51の駆動制御装置1による駆動制御では、制御対象50の不感帯やバックラッシュ、スティックスリップ、ガタ、弾性変形等のヒステリシス特性、すなわち非線形要素の影響が考慮される。ここで、非線形要素には、入力の増加方向と減少方向とで同一入力値に対する出力値が異なるヒステリシス特性や、入力値が小さい間は出力値の比例係数が著しく小さく、入力値が所定値を超えると入出力関係を表す曲線の係数が安定して大きくなるロストモーション等も含まれる。ここで、駆動機構と被動機構とを備えるプラント60として、外界との相互干渉を受けながら動作する具体的なモデルの一例を
図3に示す。
【0048】
図3に示すモデルは、駆動機構63の駆動力により効果器67を駆動して、効果器67の倒立を維持するプラント60のモデルである。駆動機構63は、例えば、ポンプ等の駆動源61によって往復運動するアクチュエータであって、駆動源61と駆動機構63との間には、バルブ等の駆動制御機構62が設けられている。また、駆動機構63の駆動力は、支持機構65を介して効果器67へ伝達される。なお、プラント60には、駆動機構63の変位を検出する駆動用センサ64や、支持機構65の変位を検出する被動用センサ66を備えてもよい。
【0049】
このようなプラント60において、例えば、駆動制御機構62と駆動機構63とを連結する連結部材62aに弾性変形が生じたり、駆動機構63には摩擦面間に生じる微視的な摩擦面の付着、滑りの繰り返しによって発生する自励振動(いわゆるスティックスリップ)が発生したりする。また、効果器67を支持する支持機構65にガタがあれば、バックラッシュ要素となる。このように、駆動機構63の駆動力が効果器67に伝達する途中には、弾性変形やスティックスリップ、バックラッシュのような非線形項が存在している。
【0050】
このような非線形項の存在により、入力変位と出力変位とが比例する理想的な関係とは異なり、駆動機構63の駆動変位と支持機構65の動作変位との間にはズレが生じる。例えば、支持機構65のバックラッシュについてみると、
図3右側に示すように支持機構65が位置C
1から右に傾いて位置C
2に移動されたとする。このとき、効果器67は、バックラッシュの影響により支持機構65と同様には傾かず、バックラッシュの影響がなくなる位置まで支持機構65が傾いた後に漸く傾き始める。
【0051】
すなわち、
図5に示すように、中立位置(すなわち、入力変位が0の位置)から所定の範囲(例えば、入力変位が−x
a〜x
aとなる範囲)においては、支持機構65が駆動機構63の駆動力によって動いても、効果器67は動かず出力変位は変化しない。一方、中立位置から所定の範囲を超えて支持機構65が変位したところで効果器67が動く。このように、ある範囲においては駆動機構63の駆動力が効果器67へ伝達されず、効果器67の位置制御への誤差となって制御精度を低下させる要因となる。
【0052】
そこで、本実施形態に係る駆動制御方法では、非線形項の影響を補正テーブルとして保持し、駆動機構の出力および被動機構の出力から、補正テーブルに基づいて制御対象に対する外界の影響に応じた入力変調量を決定する。このように、プラント60の出力値に基づきプラント60の非線形モデルの出力値を補正し、適切な制御値を出力できるようにする。
【0053】
一例として、
図3に1軸機構に単純化して示したプラント60の支持機構65のバックラッシュについて考えると、支持機構65に対する外界の影響は、時々刻々変化するものであるが、この外界の影響として定常的な風に例えて説明する。このとき、効果器67に対する支持機構65のバックラッシュの影響は、支持機構65の動作の方向と速度とによって、効果器67にとって追い風となるか、向かい風となるか、あるいは無風であるか、の3つ領域に分けて考えることができる。この関係を
図6に示す。すなわち、
図6は、バックラッシュのあるシステムが外界との干渉によって起きる挙動を示す説明図であり、補正テーブルの方案の一例である。
【0054】
図6の横軸は被動機構である効果器67の目標速度であり、縦軸は効果器67への外力(慣性抵抗)である。
図6の中立位置に対して、横軸正方向に向かうほど効果器67は正方向に加速するように駆動され、横軸負方向に向かうほど効果器67は負方向に加速するように駆動される。また、縦軸正方向に向かうほど効果器67の移動を妨げる力が大きくなり、縦軸負方向に向かうほど効果器67の移動を推進する力が大きくなる。なお、効果器67への外力は、実際には操作中の外界の抵抗力、装置の重心アンバランスと姿勢、重力の関係による外力、また大きな加速度で動く機械にあっては操作の加速度と慣性モーメントとの積から考えられる慣性抵抗等の総和であり、時々刻々変化するものである。
【0055】
また、
図6に示すように、中立位置から所定の範囲内は支持機構65にスティックスリップが生じるとする。このとき、支持機構65を移動させる出力の補正量を、目標速度と外力とが比例関係にある理想関係とスティックスリップの影響を受ける範囲とを考慮して決定する。すなわち、スティックスリップの影響を受けて支持機構65が変位しない範囲では、なるべく早く支持機構65が動き出す状態となるようにスティックスリップ力まで外力を付与する。そして、スティックスリップ力と略同一の大きさの外力を付与した後は、支持機構65の速度が理想関係におけるその外力での目標速度となるまで、同一大きさの外力を付与する。その後、支持機構65の速度が理想関係におけるその外力での目標速度となると、理想関係に基づく制御が行われる。
【0056】
このような制御をすると、支持機構65を移動させる出力の補正量は、以下の2つのパターンに区分できる。
【0057】
まず、効果器67が大きな抵抗(向かい風)を受けながら進む領域(目標速度:正、外力:正)、および、進むには不充分な追い風で効果器67が進む領域(目標速度:正、外力:負)では、バックラッシュ分を進めるよう駆動機構63に指示する必要がある(
図6のf1エリア)。また、効果器67が大きな推進力(追い風)を受けながら戻る領域(目標速度:負、外力:負)、および、戻るには不充分な向かい風で効果器67が戻る領域(目標速度:負、外力:正)では、同様に、バックラッシュ分を進めるよう駆動機構63に指示する必要がある(
図6のf2エリア)。
【0058】
一方、効果器67が大きな抵抗(向かい風)を受けながら戻る領域(目標速度:負、外力:正)では、バックラッシュ分を遅らせるように駆動機構63に指示する必要がある(
図6のs1エリア)。また、効果器67が大きな推進力(追い風)を受けながら進む領域(目標速度:正、外力:負)では、同様に、バックラッシュ分を遅くするよう駆動機構63に指示する必要がある(
図6のs2エリア)。
【0059】
本実施形態に係る駆動制御方法では、制御対象50全体として安定して制御する出力を得るために、非線形フィードバック変調器30により、このような
図6に示すような補正テーブルの情報に基づき、非線形フィードバック変調器30による補正量を決定する。補正テーブルは、装置毎、またシステム毎に適正な配置、数値を考える必要があるが、実際の操作から、振動発生や停止位置精度を評価指標として、実験的に決めてもよい。このような補正テーブルを非線形フィードバック変調器30により参照し、入力の状態に応じて、事前に設定したバックラッシュ分の位置指令補正量を出力するように構成することで、被動機構52の非線形性による位置決め制御の精度低下を回避することができる。
【0060】
なお、
図6に示すような補正テーブルの縦軸である外力は、時々刻々と変化するため、現在値を取得して、対応する入力変調量が非線形フィードバック変調器30に入力される。このとき、外力の現在値は、センサによる実測値であってもよく、外力の状態を外乱オブザーバにより推定した推定値を用いてもよい。外乱オブザーバは、例えば実測値を測定する以外のセンサを用いて構成することができる。例えば
図3のプラント60の例では、駆動用センサ64による駆動機構63の変位出力と、被動用センサ66による支持機構65の変位出力とを計測して、これらの差からバックラッシュを検出し、バックラッシュの変化から外力を推定することが可能である。
【0061】
さらには、駆動用センサ64を設けられない場合には、駆動機構63への指令値と事前に計測しておいた駆動機構の物理特性とに基づき駆動機構の出力を推定する推定オブザーバを構成し、駆動用センサの代わりに用いてもよい。
【0062】
外力の推定値は、全てのサンプリング周期において正確に推定されなくても、全体の制御精度を著しく損なうことはない。これは、最終の出力を計測しているので、誤った外力の推定値に基づく制御指令が発せられても、その結果が最終的な効果器67の位置決めの精度を低下させるような挙動となれば、制御系全体としては、出力を補正する方向へ指示値が変化する。したがって、かかる駆動制御装置1では、補正の効果を適切に修正し続けることができる。
【0063】
なお、従来のシーケンサ等でのバックラッシュ制御では、指示速度の方向変換時に常にバックラッシュ分を補正する動作量を与える制御方式が用いられているが、かかる制御では外力の影響がない場合は有効であるが、外力の影響がある場合には制御精度は低下する。本実施形態に係る駆動制御方法のように、外力の影響も考慮することで、バックラッシュ分の補正動作が不要の場合の判断も可能となり、より精度の高い、また振動の少ない駆動制御を実現できる。
【0064】
換言すると、従来の線形制御手法でも、被動機構の出力を直接計測して制御すれば、駆動機構から被動機構にかけての非線形性、特にバックラッシュのような履歴を伴う不感帯による影響を回避して制御できる可能性はある。しかし、従来の方策は準静的な動作においては有効だが、被動機構の慣性力が効果を発揮する領域や、変化する外力を受ける環境では、適切に制御できなくなる。
【0065】
例えば、被動機構の動作の方向を急激に変換する場合の一例として、バックラッシュ区間を移動させる場合を考える。このとき、ダンピングの無い状態で偏差分だけの速度指令によって被動機構を制御すると、バックラッシュ区間の終了直前に過大な運動速度が発生し、目標速度、目標位置をオーバーする、いわゆるオーバーシュートが発生しやすくなる。一旦オーバーシュートが発生すると、これを解消するために再び被動機構の動作の方向変換が発生し、次のオーバーシュートに繋がる可能性がある。このように、被動機構は、連続して方向変換しオーバーシュート状態を繰り返すハンチングが生じて不安定な状態となってしまう。
【0066】
このようなハンチングを回避するために、従来の方案では、偏差に対する速度指令のフィードバックゲイン係数を小さくし、制御システムとしては反応性を低下させて安定を図っていたため、被動機構の制御の応答性や精度を向上させることが困難であった。一方、本実施形態に係る駆動制御方法では、補正テーブルに基づいて、被動機構用FBMから、入力量に対して事前に計測されたバックラッシュ分の補正量のみを加える。これにより、被動機構のオーバーシュートを回避することができ、主制御系に高いフィードバックゲイン係数を用いることが可能となるため、システム全体として高い応答性と精度を両立させることができる。
【0067】
[2−2.駆動機構の駆動制御]
本実施形態に係る駆動機構51の駆動制御は、まず、非線形フィードバック変調器30により、駆動機構51の非線形特性を補完する量子化マップに基づいて、連続値制御信号から離散値制御信号が生成される。離散値制御信号は、例えば駆動機構51が油圧シリンダであるとき、油量(すなわち弁開度)を表す。駆動機構51は離散値制御信号に基づき駆動され、駆動機構51の駆動によって被動機構52が駆動する。このときの駆動機構51の速度および被動機構52の速度が非線形フィードバック変調器30に入力される。
【0068】
次いで、非線形フィードバック変調器30は、駆動機構51の出力である速度と当該駆動機構51により駆動された被動機構52の出力である速度との差分を演算する。非線形フィードバック変調器30は、上述したような補正テーブルに基づき、被動機構52の出力の補正量を決定し、最終的に駆動機構51に関する補正量を決定する。
【0069】
ここで、具体例として、
図6に示した補正テーブルの一例を用いて、非線形フィードバック変調器30により駆動機構51に関する補正量を決定する手順を
図7に示す。非線形フィードバック変調器30は、まず、最新の制御周期タイミングでの駆動機構と被動機構との実現値の差から得られる実現バックラッシュ量が、最大バックラッシュ量の絶対値と等しいか否かを判定する(S100)。最大バックラッシュ量は、
図5に示す被動機構52の出力変位が変化しない最大入力変位であり、被動機構52から予め計測されて取得されている。ステップS100により、被動機構52がバックラッシュ領域を移動しているか否かが判定される。
【0070】
実現バックラッシュ量と最大バックラッシュ量の絶対値とが等しいときには、駆動機構51からの伝達力はそのまま被動機構52へ伝達され、外力による影響はないため、前回の外力の推定値をそのまま今回の外力の推定値とする(S110)。一方、実現バックラッシュ量と最大バックラッシュ量の絶対値とが異なる値の場合には、駆動機構51からの伝達力はそのまま被動機構52へ伝達されず、被動機構52の動きは外力に影響を受けるため、外力推定部により外力の推定値が算出される(S120)。
【0071】
外力は、被動機構の先端側の慣性質量と計測された速度変化(すなわち加速度)とに基づき算出することができ、例えば、被動機構52の速度の変化量を、被動機構52の重量にサンプリング時間を掛けた値で割ることにより算出することができる。外力推定部は、ステップS120にて算出した外力に対してサンプリング周期に応じた平均化処理を行い、推定値とする(S130)。
【0072】
非線形フィードバック変調器30は、外力の推定値が算出されると、直近n回の外力の向きと被動機構52の速度の向きとが逆向きであるか否かを判定する(S140)。直近n回の外力の向きと被動機構52の速度の向きとが逆向きであるとき、外力は被動機構52の移動を妨げる抵抗力として被動機構52に作用していると考えられる。そこで、被動機構52の応答性を高めるため、この場合には推定された外力の向きを被動機構52の速度の向きと逆に設定し、フィードフォワード的な応答を促すようにする(S150)。評価に用いる過去の外力の履歴の数nは、例えば数回程度としてもよい。なお、直近n回の外力の向きと被動機構52の速度の向きとがすべて逆向きの場合以外には、推定された外力の向きはそのままとする。非線形フィードバック変調器30は、こうして外力の値を取得する。
【0073】
なお、外力の推定値の算出方法は、
図7に示したように被動機構52の出力(実現値)と駆動動機である駆動機構51の出力(実現値)とを比較して算出する方法以外であってもよい。例えば、予め計算結果をいくつかサンプリングして外力を推定するための外力推定テーブルを作成し、当該外力推定テーブルを参照して外力値を推定するようにしてもよい。また、外力の推定値は、計算により取得する以外に、例えば、被動機構52の先端部に外力を測定するセンサを直接設けて取得してもよい。
【0074】
非線形フィードバック変調器30は、いずれの方法を用いた場合においても、取得した外力の推定値および向きを数秒〜数十秒間蓄積し、全システムが関わっている環境の状態を連続的に推定し続ける。例えば、外力推定部が被動機構52の加速度および慣性質量に基づき外力の推定値の取得していた場合、被動機構52がバックラッシュ領域を通過してしまうと外力を推定できなくなる。そこで、外力の推定値および向きを所定時間記憶しておくことで、外力の推定値を取得できなくなることを防止できる。また、ステップS150のように、被動機構52に作用している力を外力とみなすか否かを判定するためにも利用することができる。
【0075】
このように、全システムが関わっている環境の状態を連続的に推定し続けることで、バックラッシュ等の非線形要素を有するシステムにおいて安定かつ高精度に被動機構52の速度および位置を制御することができる。なお、外力の推定値および向きは、フィードバック変調器30内のメモリ(図示せず。)に記憶してもよく、非線形フィードバック変調器30と通信可能に接続された外部の記憶装置(図示せず。)に記憶してもよい。
【0076】
非線形フィードバック変調器30は、外力の推定値およびその向きを取得すると、
図6に示すような補正テーブルを参照し、全システムが関わっている環境の状態から、被動機構52を目標制御位置に位置させるための目標速度を取得し、補正量とする。
【0077】
本実施形態に係る駆動機構51の駆動制御方法では、非線形フィードバック変調器30により、駆動機構51の出力を線形化して制御精度を向上させる。さらに、非線形フィードバック変調器30により、その駆動機構51の出力から効果器まで駆動力と動きを伝達する被動機構52の非線形性をモデル化し、その出力を線形化することで制御精度を向上させる。これにより、同じ操作量を操作対象50に入力しても、駆動機構51や被動機構52の摩擦、ガタ等の非線形要素の影響によって出力量が変動する等、連続値制御信号を用いて駆動機構を駆動制御しても十分な線形性、制御精度が得られない場合でも、制御対象50の制御精度を向上できるとともに、滑らかな動きを実現できる。
【0078】
<3.適用例>
図8に、マニピュレータ型建機70への実装例を示す。
図8に示すマニピュレータ型建機70は、車体71に4つの車輪72を備えて移動可能である。車体71には、効果器79を先端に保持するマニピュレータ部78が、回転部75を介して回転可能に支持されている。マニピュレータ部78は、例えば第1のリンク部78aと第2のリンク部78bとから構成される。マニピュレータ部78を回転させる駆動機構として油圧モータ73が設けられており、被動機構としてギア74が存在する。ギア74が回転することで当該ギア74と噛み合う回転部75が回転し、車体71に対してマニピュレータ部78が回転される。また、マニピュレータ部78は、第1のリンク部78aおよび第2のリンク部78bからなり、アクチュエータ77a、77bを駆動させることで、第1のリンク部78aおよび第2のリンク部78bの位置を変化させることができる。
【0079】
マニピュレータ型建機70には、油圧モータ73の変位を検出する計測器であるアクチュエータセンサ53aと、回転部75の回転よりマニピュレータ部78の変位を検出するマニピュレータ回転センサ54aとが設けられている。また、マニピュレータ部78には、第1のリンク部78aの角度変位を検出する第1角度センサ54bと、アクチュエータ77aの変位を検出する第1アクチュエータ変位センサ53bとが設けられている。さらに、マニピュレータ部78には、第2のリンク部78bの角度変位を検出する第2角度センサ54cと、アクチュエータ77bの変位を検出する第2アクチュエータ変位センサ53cとが設けられている。なお、アクチュエータセンサ53a、第1アクチュエータ変位センサ53bおよび第2アクチュエータ変位センサ53cは、
図1または
図2に示した被動機構(P2)52の出力を計測する計測器54に相当する。また、マニピュレータ回転センサ54a、第1角度センサ54bおよび第2角度センサ54cは、
図2に示した駆動機構(P1)51の出力を計測する計測器53に相当する。
【0080】
このようなマニピュレータ型建機70においては、ギア74のギアバックラッシュや、マニピュレータ部78の第1のリンク部78aと第2のリンク部78bとの間の隙間のガタ等のような、被動機構の非線形項が存在する。そこで、本実施形態に係る駆動制御方法を用いることで被動機構の非線形項を考慮した制御が行われるため、マニピュレータ型建機70をより微細で滑らかに動作させることができる。特に、被動機構が増えて多軸機構となると、従来制御精度は低下する傾向にあるが、本実施形態に係る駆動制御方法を適用することで各軸の非線形性が除去され、滑らかで精密な動作を実現できる。
【0081】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。