特許第6647589号(P6647589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647589
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】光検知式水素ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/21 20060101AFI20200203BHJP
【FI】
   G01N21/21 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-55934(P2016-55934)
(22)【出願日】2016年3月18日
(65)【公開番号】特開2017-172993(P2017-172993A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】591108178
【氏名又は名称】秋田県
(73)【特許権者】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 治起
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】山崎 裕
【審査官】 中澤 真吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平3−67218(JP,A)
【文献】 特開2007−71866(JP,A)
【文献】 特開2007−120971(JP,A)
【文献】 特開2011−158307(JP,A)
【文献】 特開平5−223785(JP,A)
【文献】 特開2008−128884(JP,A)
【文献】 特表2008−501965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/01
21/17−21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、光源、水素ガス検知層と金属磁性層と誘電体光干渉層と金属反射層とを含む積層体で構成された検知素子、磁場印加機構および光検出器を有し、
前記光源から出射された光が前記検知素子に入射したときに、前記積層体で発生する多重反射によって入射光の磁気光学信号が増強する条件で前記光源から光を照射し、前記磁場印加機構によって前記積層体の磁化を制御することにより、前記水素ガス検知層の水素ガスとの反応による光学物性の変化に伴う前記積層体からの反射光の変化である磁気光学信号を前記光検出器によって検出することにより、水素ガスを検知することを特徴とする光検知式水素ガスセンサ。
【請求項2】
前記積層体が、基板上に金属反射層、誘電体光干渉層、金属磁性層、誘電体光干渉層、水素ガス検知層の順番で積層された積層体であることを特徴とする、請求項1に記載の光検知式水素ガスセンサ。
【請求項3】
前記積層体が、基板上に金属反射層、誘電体光干渉層、金属磁性層、水素ガス検知層の順番で積層された積層体であることを特徴とする、請求項1に記載の光検知式水素ガスセンサ。
【請求項4】
前記磁場印加機構が、前記検知素子を構成する前記金属反射層に交流電流を印加することで前記積層体を構成する金属磁性層の磁化を制御することを特徴とする、請求項1に記載の光検知式水素ガスセンサ。
【請求項5】
前記積層体を構成する前記水素ガス検知層が、パラジウム薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の光検知式水素ガスセンサ。
【請求項6】
前記積層体を構成する前記金属磁性層が、垂直磁化膜であることを特徴とする請求項1に記載の光検知式水素ガスセンサ。
【請求項7】
前記積層体を構成する前記金属磁性層が、コバルトと白金との合金薄膜であることを特徴とする請求項6に記載の光検知式水素ガスセンサ。
【請求項8】
前記積層体を構成する前記誘電体光干渉層が、酸化亜鉛薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の光検知式水素ガスセンサ。
【請求項9】
前記積層体を構成する前記金属反射層が、銀薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の光検知式水素ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスセンサに関し、詳細には水素ガス検知層と金属磁性層と誘電体光干渉層と金属反射層とを含む積層体における磁気光学効果を用いた、光検知式水素ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池や水素自動車など、水素ガスが次世代のエネルギー源として注目されている。しかし、その一方で、水素ガスは、拡散性が高く、漏洩しやすく、そして、万が一漏洩した場合に爆発の危険性が非常に高いガスである。水素ガスを安全に使用するためには、信頼性の高い高性能の水素ガスセンサが不可欠である。
【0003】
水素ガスの漏洩を検知する水素ガスセンサとしては、検出方法の違いによって、接触燃焼式、半導体式、気体熱伝導式、電気化学式、光学式など様々な種類のセンサが提案されている。(例えば、非特許文献1参照)
このうち一般に市販されているのは、はじめの3種類である。接触燃焼式センサは、水素の接触による触媒燃焼に伴う生成熱をPt線コイルの抵抗値の変化として検出する。ガス濃度に比例した出力が得られるため定量性に優れ、比較的高濃度の漏洩検知に適しており、応答時間は数秒程度である。半導体式センサは、SnOなど酸化物半導体の表面の水素還元に伴う電気抵抗変化により検出する。低濃度検知に適しており、応答時間は数十秒程度である。また、気体熱伝導式センサは、対象とするガスと標準ガス(通常は空気)との熱伝導の差を利用する。水素ガスの熱伝導度が他の可燃性ガスに比べて非常に良いという特性を利用するものであり、高濃度領域での水素検知に利用されている。
【0004】
ここで、実用化に至っているこれら水素ガスセンサは、応答速度の向上やクリーニング効果などのために高い動作温度を必要とするものが一般的であり、200℃程度以上の高温動作を基本としている。また、いずれのセンサも、素子の応答を電気信号としてとらえるものであり、水素ガスと接触する電気回路における過電流やスパークが発火源となる危険性がある。
【0005】
この電気的な接触による爆発の危険性という問題を回避できるセンサとして、光学的な手法により、水素ガスの漏洩を検知する光検知式水素ガスセンサが提案されている。(例えば、特許文献1〜4参照)
【0006】
特許文献1〜3には、水素ガスが触れると吸光度が変化する水素ガス検知触媒に、光を照射し、検知触媒からの透過光又は反射光を受光することで水素ガスを検知する技術が開示されている。また、特許文献4には、レーザ光を照射した場合に、水素ガスから発生するラマン散乱光を検出する技術が開示されている。
【0007】
さらに、非特許文献2には、磁気光学効果を利用することで、表面物質の有無あるいはセンサ表面の屈折率変化を検知する化学センサに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平3−67218号公報
【特許文献2】特開2007−71866号公報
【特許文献3】特開2007−120971号公報
【特許文献4】特開2011−158307号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】先進化学センサ、第 I部 ガスセンサ、電気化学会・化学センサ研究編、株式会社ティー・アイ・シィー
【非特許文献2】第75回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集、18p−PA1−14、応用物理学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、透過光や反射光、あるいは、ラマン散乱光を検出する前述の光検知式水素ガスセンサでは、水素ガスの検知に使用する光源の出力変動によって検出信号に変動が生じてしまい、検知精度の向上といった点で改善が求められている。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、水素ガスに対する検知素子自体の防爆化を図りながらも、幅広い濃度範囲かつ高い精度で水素ガスを検知することが可能な高性能の光検知式水素ガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記問題点を解決するために、本発明にかかる光検知式水素ガスセンサは、少なくとも、光源、偏光子、検知素子、磁場印加機構および光検出器を有している。また、前記検知素子は、基板上に金属反射層、金属磁性層、誘電体光干渉層、水素ガス検知層の順番で積層された積層体あるいは、基板上に金属反射層、誘電体光干渉層、金属磁性層、誘電体光干渉層、水素ガス検知層の順番で積層された積層体で構成することができる。そして、本発明の光検知式水素ガスセンサによれば、前記光源から出射された光が、前記積層体に入射したときに前記積層体で発生する多重反射により入射光の磁気光学信号が増強する条件で前記光源から光を照射する。このとき、水素ガスとの反応に伴う前記水素ガス検知層の光学特性の変化を、前記磁場印加機構によって前記金属磁性層の磁化を制御することにより、前記積層体からの反射光の変化である磁気光学信号として前記光検出器で測定することによって、水素ガスを検知することを特徴としている。磁気光学信号は、照射する光の強さに無関係であるため、測定光源の出力が変動した場合にも、安定した水素ガス検知が可能である。また、前記水素ガス検知層の厚さを変えることで、検知する水素ガスの濃度に適した検知素子を提供することが可能であり、高性能の光検知式水素ガスセンサの提供が可能となる。
【0013】
また、本発明にかかる光検知式水素ガスセンサは、前記積層体を構成する前記金属反射層に電流を印加することで発生する漏洩磁場を用いることにより、前記積層体の磁化を制御することを特徴としている。かかる構成によれば、前記積層体を構成する前記金属磁性層の磁化を制御するための電磁石などの磁場印加機構を別途に設ける必要が無いため、センサ素子の構成が簡単となり、低コストおよび小型の光検知式水素ガスセンサの提供が可能となる。
【0014】
さらに、前記積層体を構成する前記水素ガス検知層としては、パラジウム(Pd)薄膜であることが好ましい。かかる構成によれば、室温にて水素ガスを検知することが可能となり、加熱機構を必要としないため、低消費電力かつ安全に水素ガスを検知できるという効果を奏する。
【0015】
さらに、前記積層体を構成する前記金属磁性層としては、垂直磁化膜であることが好ましい。かかる構成によれば、光検知式水素ガスセンサを構成する前記積層体の微細化を図ることが容易となり、各検知素子を異なる水素濃度に適した構造とすることで、幅広い濃度範囲の水素ガスを高精度に検知できるという効果を奏する。
【0016】
さらに、前記積層体を構成する前記金属磁性層、前記誘電体光干渉層および前記金属反射層の材料は、それぞれ、CoPt合金薄膜、ZnO薄膜およびAg薄膜であることが好ましい。かかる構成によれば、前記積層体で発生する多重反射による磁気光学信号を大きく増強することができ、水素ガスの漏洩を高感度に検知できるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる光検知式水素ガスセンサは、少なくとも、光源、偏光子、検知素子、磁場印加機構および光検出器を有し、さらに、前記光源から出射された光が前記積層体に入射したときに、前記積層体で発生する多重反射により入射光の磁気光学信号が増強する条件で前記光源から光を照射し、前記水素ガス検知層の水素ガスとの反応に伴う屈折率あるいは吸収係数などの光学特性な変化による前記積層体からの反射光の変化を、前記磁場印加機構によって前記金属磁性層の磁化を制御することによって、磁気光学信号として前記光検出器により測定することで、水素ガスを検知する。そのため、本発明にかかる光検知式水素ガスセンサでは、水素ガスが実際に接触する水素ガス検知層に電気印加を必要としないため、水素ガスに対する検知素子自体の防爆化を図ることが可能となるとともに、磁気光学信号は、照射する光の強さに無関係であるため、水素ガスの検知に使用する光源の出力が変動した場合にも、安定した水素ガスの検知が可能となる。さらに、前記水素ガス検知層の厚さを変えることで、検知する水素ガスの濃度に適した検知素子を提供することが可能となる。これにより、安全かつ高性能の光検知式水素ガスセンサを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施形態の光検知式水素ガスセンサを模式的に示す構成図である。
図2】第1の実施形態の他の光検知式水素ガスセンサを模式的に示す構成図である。
図3図1図2に示した光検知式水素ガスセンサを構成する検知素子の磁気光学特性および水素ガスの検知原理を示す説明図である。
図4】第2の実施形態の光検知式水素ガスセンサを模式的に示す構成図である。
図5】実施例1の光検知式水素ガスセンサを構成する検知素子を模式的に示す断面図である。
図6】実施例2の光検知式水素ガスセンサを構成する検知素子を模式的に示す断面図。
図7】実施例1と実施例2の効果を説明する図である。
図8図5図6に示した検知素子による水素ガスの検知を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の光検知式水素ガスセンサでは、水素ガス検知層と金属磁性層と誘電体光干渉層と金属反射層とを含む積層体で構成された検出素子に光を照射した場合、積層体での多重反射による磁気光学信号の増強効果を利用することで、水素ガスの検出を行う。以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0020】
[第1の実施形態]
図1図2は、本発明の第1の実施形態にかかる光検知式水素ガスセンサ10を模式的に示す構成図である。光検知式水素ガスセンサ10は、垂直入射光学系を基本とし、図1図2に示すように、検出素子として機能する積層体13の検知面に対して、垂直方向から光を照射することで水素ガスを検知する。本実施形態では、光検知式水素ガスセンサ10は、直線偏光の光を積層体13に照射するための光源11と、積層体13に磁場を印加するための磁場印加機構19と、積層体13から反射された光を光検出器21に導くための光分割器12と、積層体13での磁気光学効果による反射光の偏光角における変化を検知するための偏光子20と、偏光子20を透過した反射光の強度における変化を検出するための光検出器21によって構成される。
【0021】
直線偏光の光を照射する光源11としては、半導体レーザ、あるいは、ガスレーザなどの単一の波長の光を出射する単色光源が用いられ、特に、グラントムソンプリズムなどの偏光子を用いて、直線偏光特性を向上させるようにすることが好ましい。また、磁場印加機構19は、コイルに電流を流すことなどにより積層体13に磁場を印加することで、積層体13を構成する金属磁性層16の磁化を制御するものである。
【0022】
積層体13は、図1に示すように、金属反射層18と誘電体光干渉層17と金属磁性層16と水素ガス検知層14をこの順番で積層した構造体、あるいは図2に示すように、金属反射層18と誘電体光干渉層17と金属磁性層16と誘電体光干渉層15と水素ガス検知層14をこの順番で積層した構造体により構成され、水素ガス検知層14の水素ガスとの反応に伴う屈折率あるいは吸収係数などの光学特性な変化による反射光の変化である磁気光学信号を測定することで、水素ガスを検出する。ここで、誘電体光干渉層15および17は、積層体13に照射された光が、積層体13の内部で多重反射を生じる厚さである必要があり、具体的には、水素ガス検知層14と金属磁性層16と誘電体光干渉層15および17のそれぞれの厚さと屈折率とを乗じて加算した値が、照射する光の波長に対して1/4程度より厚いことが好ましい。さらに、水素ガス検知層14および金属磁性層16は、積層体13に照射された光が、積層体13の内部に侵入できる厚さである必要があり、具体的には、30nm以下の厚さであることが好ましい。また、金属反射層18は、積層体13の内部に侵入した光を反射させるのに十分な厚さである必要があり、具体的には、50nm以上の厚さであることが好ましい。
【0023】
水素ガス検知層14に用いる材料としては、水素ガスとの反応に伴って屈折率や吸収係数等の光学特性が変化する材料であればいかなる材料を用いることも可能であるが、特に、水素ガスの接触による光学的な変化が大きいPdを用いるのが好ましく、さらにこの場合、Pdは室温での水素ガスの吸収および放出特性を有するため、室温での動作が可能な水素ガスセンサを提供できるといった効果を奏する。
【0024】
金属磁性層16に用いる材料としては、Fe,Co,Ni等の金属や合金等からなる一般的な磁性材料が挙げられるが、特に、CoPt合金膜,FePt合金膜,Co/Pd多層膜,Co/Pt多層膜等の垂直磁化膜であることが好ましい。この場合、面内磁化膜に比べて、磁化の安定性の観点から、微細加工によって複数の検知素子を作製することが容易となる。したがって、各検知素子を検知濃度に適した構造とすることで、広い濃度範囲に渡って水素ガスを検知することが可能な水素ガスセンサを提供できるといった効果を奏する。
【0025】
誘電体光干渉層15および17に用いる材料としては、SiO,ZnO,MgO,TiO,AlN等の一般的な透明酸化物あるいは透明窒化物が挙げられ、光源11から照射される光の波長に対して、高い透過率を有することが好ましい。また、金属反射層18に用いる材料としては、Ag,Al,Au,Cu等の金属や合金等からなる一般的な金属材料が挙げられ、光源11から照射される光の波長に対して、高い反射率を有することが好ましい。
[実施例]
【0026】
図5は、本実施形態の実施例1にかかる光検知式水素ガスセンサを構成する検知素子50を模式的に示す断面図である。
【0027】
本実施例1の検知素子50は、ガラス基板58上に、厚さが10nmのZnO薄膜からなる下地層57を形成し、その上に実際に水素ガスを検知する積層体51を形成している。積層体51は、金属反射層56として厚さが100nmのAg薄膜、誘電体光干渉層55として厚さが70nmのZnO薄膜、金属磁性層54として厚さが2.8nmのCoPt合金薄膜、さらに、水素ガス検知層52として厚さが2.4nmのPd薄膜がこの順番で積層された構造体により構成されている。
【0028】
図6は、本実施形態の実施例2にかかる光検知式水素ガスセンサを構成する検知素子60を模式的に示す断面図である。
【0029】
本実施例2の検知素子60は、ガラス基板68上に、厚さが10nmのZnO薄膜からなる下地層67を形成し、その上に実際に水素ガスを検知する積層体61を形成している。積層体61は、金属反射層66として厚さが100nmのAg薄膜、誘電体光干渉層65として厚さが38nmのZnO薄膜、金属磁性層64として厚さが2.8nmのCoPt合金薄膜、誘電体干渉層63として厚さが38nmのZnO薄膜、さらに、水素ガス検知層62として厚さが3.2nmのPd薄膜がこの順番で積層された構造体により構成されている。すなわち、図5に示す実施例1では水素ガス検知層62の下地が金属磁性層であるのに対して、図6に示す実施例2では水素ガス検知層62の下地が誘電体干渉層である点が相違点である。
【0030】
実際に、この検知素子60並びに検知素子50を用いて、窒素と4%水素との混合ガスを検知した結果を図7(a)および(b)にそれぞれ示す。いずれのグラフも左側が窒素検知時、右側が4%水素混合ガス検知時の結果である。いずれの実施例において、検知素子に、周期的に変化する磁場を印加した状態で、純窒素ガスと窒素と水素との混合ガスを交互に流した時の、検知素子60および検知素子50から反射された光の偏光角の変化を測定した。水素ガスを検知する光源としては、波長が658nmの半導体レーザを使用し、偏光子を透過させることで直線偏光の光を検知素子60および50に照射した。周期的に変化する磁場としては、前述の実施例1の場合は、−1kOe(図5で下向き方向)から1kOe(図5で上向き方向)程度の磁場を印加し、実施例2の場合は、−1.5kOe(図6で下向き方向)から1.5kOe(図6で上向き方向)程度の磁場を印加した。
【0031】
図7に示す通り、第1の実施形態で説明したように、水素ガス検知層62、52が水素ガスと反応することで、積層体61、51での多重反射の条件がそれぞれ変化し、結果として、検知素子60、50から反射された光の偏光角が変化しているのが分かる。このように、実施例1と2でいずれも水素ガスによる光の偏向角の変化が確認された。ここで、図7(a)に示した実施例2の検知素子60では光の偏向角が水素ガス反応前後で12%変化したのに対して、図7(b)に示した実施例1の検知素子50では水素ガス反応前後で5%の変化となっている。したがって、実施例2の構造の方が光の偏向角を2倍以上大きく得ることができる。本発明者らの実験によると、水素ガスセンサの感度は、水素ガス検知層の膜厚に対し極大値を持つことを確認した。例えば、実施例1では水素ガス検知層の膜厚が1nm〜3nm程度、実施例2では水素ガス検知層の膜厚が3nm〜6nm程度で極大値を持つ。つまり、実施例1では水素ガス検知層の膜厚を1nm〜3nm程度に薄くする必要があるのに対し、実施例2では3nm〜6nm程度でよく、このため、実施例2では高濃度の水素ガスを検知することが可能となる。
【0032】
図8は実施例2の検知素子60に対して、時系列的に窒素と4%水素との混合ガスを検知したときの結果を示す。ここで、測定条件は図7で上述した内容と同様である。この偏光角の変化を、偏光子を透過する光の強度における変化として光検出器で測定することにより、水素ガスを高精度に検知することが可能である。
【0033】
次に、本実施形態の光検知式水素ガスセンサ10による水素ガスの検知原理について図3を使って説明する。
【0034】
ここで、前記検知素子を構成する積層体13が、波長がλの直線偏光の光を照射したときに、積層体13の内部での多重反射によって、反射される光の偏光角が最も大きくなる構成である場合について考える。
【0035】
前記構成の積層体13において、金属磁性層16の磁化を一方向とすることが可能な所定の強度の磁場(+Hあるいは−H)を磁場印加機構19により印加した状態で直線偏光の光を照射した場合、図3(a)に示すように、照射された光は積層体13の内部での多重反射によって大きな磁気光学効果を受け、結果として、大きな偏光角(+θK1あるいは−θK1)を持って出射される。次に、図3(b)に示すように、磁場(+Hあるいは−H)を印加した状態で、水素ガス検知層14に水素ガスが接触した場合、水素ガス検知層の屈折率あるいは吸収係数などの光学特性が変化することにより、積層体13での光の干渉条件が変化するため、多重反射の影響が小さくなり、結果として、出射された光の偏光角の大きさ(|θK2|)は、水素ガスが無い初期状態に比較して小さくなる(|θK1|>|θK2|)。積層体13から反射される光の偏光角は、積層体13を構成する金属磁性層16の磁化の向きによって変化するため、水素ガスの有無によって磁気光学曲線はそれぞれ図3(c)および図3(d)となる。
【0036】
したがって、磁場印加機構19により所定の強度で周期的に変化する磁場(±H)を積層体13に印加することで、水素ガスの有無を、積層体13から反射された光の偏光角の変化である磁気光学信号を検出することにより、水素ガスを高精度に検知することが可能となる。
【0037】
具体的には、積層体13から反射された光を、光分割器12によって光検出器21の方向に導く。この時、光検出器21の前に所定の検出角で設定された偏光子20を配置することにより、偏光子20を透過する光の強度は、積層体13から反射された光の偏光角に応じて異なり、偏光角の変化である磁気光学信号を光の強度における変化として光検出器19で検出することが可能となる。
【0038】
以上のような光検知式水素ガスセンサにおいて、検知精度の向上を図る一つの手法として、光磁気記録システムにおいて一般的に知られている差動検出法を用いるのが有効である。この場合、偏光子20に替わって偏光ビーム分割器が用いられる。積層体13から反射された光は、偏光ビーム分割器を通過することでp偏光の光とs偏光の光の2つの光に分割される。分割されたそれぞれの光を2台の光検出器で検出し、各光検出器で検出された光の強度の差分を取ることで磁気光学信号を検出する。本手法では、特に、光源から出射される光の強度の変動に対して、低いノイズでの検出が可能となり、高精度での水素ガスの検知が可能となる。
【0039】
さらに、光検出器21で検出する磁気光学信号は、磁場印加機構19により積層体13に印加する磁場と同期して検出される。したがって、コイルに電流を流すなどして周期的に変化する磁場を用いて、同期検出あるいはフーリエ解析を行うことは、磁気光学信号のノイズ低減による検知感度の向上に有効である。
【0040】
なお、本実施形態においては、偏光角の減少を検出することで水素ガスを検知する場合について説明したが、これに限定されるものではない。積層体13を構成する各層の厚さを調整あるいは材料を選定することで、水素ガス検知層14の水素ガスとの反応に伴って、偏光角が増大する条件に設定することも可能である。
【0041】
[第2の実施形態]
図4は、本発明の第2の実施形態にかかる光検知式水素ガスセンサ30を模式的に示す構成図である。光検知式水素ガスセンサ30は、第1の実施形態と同様に、垂直入射光学系を基本とし、検出素子として機能する積層体13の検知面に対して、垂直方向から光を照射することで水素ガスを検知する。本実施形態では、光検知式水素ガスセンサ30は、直線偏光の光を積層体13に照射するための光源11と、積層体13を構成する金属反射層に交流電流を印加するための交流電源31と、積層体13から反射された光を光検出器21に導くための光分割器12と、積層体13での磁気光学効果による反射光の偏光角における変化を検知するための偏光子20と、偏光子20を透過した反射光の強度における変化を検出するための光検出器21によって構成される。
【0042】
ここで、本実施形態の光検知式水素ガスセンサ30は、積層体13に磁場を印加するための磁場印加機構として、金属反射層18に交流電流を印加する交流電源31を備えること以外は、第1の実施形態と同様であり、積層体13の構造ならびに積層体13を構成する各層の材料および厚さは、第1の実施形態の場合と同じ理由により、第1の実施形態の場合と同様であることが好ましい。但し、金属磁性層16はCoPt合金に替えてFeを用いることが好ましい。Feの膜厚は第1の実施形態のCoPt合金薄膜の膜厚と同じでよい。
【0043】
本実施形態の光検知式水素ガスセンサ20の検知素子は、第1の実施形態の場合と同様に、金属反射層18、誘電体光干渉層17と金属磁性層16と誘電体光干渉層15と水素ガス検知層14とをこの順番で積層したに積層体13により構成され、水素ガスの接触による水素ガス検知層14の光学特性の変化を、反射光の変化である磁気光学信号として検出することにより水素ガスを検知する。また、積層体13は、上記した構成だけでなく、金属反射層18、誘電体光干渉層17と金属磁性層16と水素ガス検知層14をこの順番で積層したものでも構わない。
【0044】
このとき、光検出器21で検出する磁気光学信号は、交流電源31により金属反射層18に印加する交流電流と同期して検出される。交流電流としては、数mA程度が好ましい。したがって、同期検出あるいはフーリエ解析を行うことは、第1の実施形態の場合と同様に、磁気光学信号のノイズ低減による検知感度の向上に有効である。
【0045】
さらに、2台の分光検出器を用いた差動検出も、第1の実施形態の場合と同様に、磁気光学信号のノイズを低減することが可能であり、検知感度の向上に有効である。
【0046】
以上、第1、第2の実施形態および実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、磁場印加機構により積層体に印加する磁場の方向は、水素ガスを検知する積層体の表面に対して垂直方向としているが、これに限定されるものではない。積層体の表面に対して水平方向としてもよく、この場合、積層体を構成する金属磁性層としては、面内方向に磁化容易軸を持つFe,Co,Ni、あるいは、これらの合金などを用いるのが好ましい。また、本発明を垂直入射光学系に基づいて説明したが、これに限定されるものではなく、積層体に照射した光が、多重反射により磁気光学信号の増強が生じる条件であれば、積層体の検出面に対して斜め方向から光を照射することも可能である。さらに、光源から積層体に光を照射、および、積層体からの反射光を光検出器に導く方法として、複数本の光プローブで構成された光ファイバ反射プローブを用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明にかかる光検知式水素ガスセンサは、水素ガスの漏洩を検知する水素ガスセンサとして利用可能である。
【符号の説明】
【0048】
10、30 光検知式水素ガスセンサ、11・・・光源、12・・・光分割器、13、51、61・・・積層体、14、52、62・・・水素ガス検知層、15、17、55、63、65・・・誘電体光干渉層、16、54、64・・・金属磁性層、18、56、66・・・金属反射層、19・・・磁場印加機構、20・・・偏光子、21・・・光検出器、31・・・交流電源、50、60・・・検知素子、57、67・・・下地層、58、68・・・ガラス基板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8