(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
(微細藻類)
本発明は、受託番号FERM P-22318を有するパラクロレラ・エスピー(Parachlorella sp.)BX1.5株、又は脂質生産能を有するその変異株である、微細藻類を提供する。
【0013】
本発明者らは、以下の実施例に記載するように、日本国広島県北部の天然水をベースに用いた培養液から既存の種に分類されないパラクロレラ属微細藻類を単離することに成功した。この微細藻類は、以下に示す菌学的性質により、緑藻のパラクロレラ(Parachlorella)属に属する微細藻類であると同定された。
【0014】
本発明者らが単離した微細藻類は、パラクロレラ・エスピー(Parachlorella sp.)BX1.5株と命名された。パラクロレラ・エスピーBX1.5株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に2016年12月13日(受託日)付けで寄託されており、その受託番号は、FERM P-22318である。本明細書において、パラクロレラ・エスピーBX1.5株は「BX1.5株」と略記することがある。
【0015】
パラクロレラ・エスピーBX1.5株の菌学的性質は次のとおりである。
(a)培養的性質
BX1.5株は、静置培養又は培地を連続的に撹拌しながら行う培養により増殖可能である。培地を連続的に撹拌しながら行う培養は、空気若しくは炭酸ガス(例えば約0.04〜10%(v/v)二酸化炭素濃度)を培地に吹き込む(通気)か、又は約30〜100rpmの速度で振とうすることによって行うことができる。BX1.5株は、典型的には、BG11培地(例えばBG11液体培地)で培養することができる。
【0016】
炭酸ガスを供給する場合は約0.04〜15%(v/v)の範囲内が望ましい。
約1%(v/v)接種による植継ぎを2〜3ヶ月毎に行うことが好ましい。典型的には、培養液は植継直後には薄い緑色を示し、1週間程度で緑色になる。静置培養の場合は、植継直前には細胞が沈殿する傾向がある。
【0017】
BX1.5株を保存する場合は、典型的には、BG11液体培地で充分育った培養液約1mLをマイクロチューブに移し、-80℃で保存する。保護剤又は緩衝剤は必要としない。培養の再開は、保存後のマイクロチューブを氷上に置き、培養液を解凍させた後、培養液をBG11液体培地に直接接種し行うことができる。
【0018】
(b)形態的性質
約3〜7μmの直径の球形の単細胞である(
図1)。
【0019】
(c)生理学的性質
(1)最適生育条件:温度25℃〜35℃、pH6〜9、光強度(光量子束密度)30〜200μmol 光量子/m
2/秒、炭酸ガス濃度0.04〜5%(v/v)
(2)生育の範囲:温度約5〜40℃、pH約5〜12、光強度(光量子束密度)1〜2,000μmol 光量子/m
2/秒、炭酸ガス濃度約0.04〜15%(v/v)
(3)酸素に対する性質:好気性
(4)光要求性:有り(明暗周期不要)
【0020】
(d)化学分類的性質
18SリボゾームDNA(18SリボゾームRNAコード配列)、ITS1、5.8SリボゾームDNA及びITS2に及ぶ領域における塩基配列相同性:
BX1.5株の上記領域の塩基配列は、パラクロレラ・ケスレリ(Parachlorella kessleri)の塩基配列(18SリボゾームDNA領域のGenBankデータベース登録番号FR865655)と約99.9%の相同性を有している。
【0021】
なお、パラクロレラ(Parachlorella)属は、微細藻類の中の緑藻の中のトレボキシア藻綱に分類される。トレボキシア藻綱には、パラクロレラ属の他に、トレボキシア(Trebouxia)属、ナノクロリス(Nannochloris)属、及びクロレラ(Chlorella)属などがある。
【0022】
(e)その他の特徴
BX1.5株は、脂質を生産することができる。
【0023】
本発明は、上記のパラクロレラ・エスピーBX1.5株に加え、BX1.5株の変異株であって脂質生産能を有する株である微細藻類にも関する。当該変異株は、パラクロレラ・エスピーBX1.5株の上記のような菌学的性質を本質的に共有することが好ましい。
【0024】
パラクロレラ・エスピーBX1.5株の変異株には、以下に限定しないが、例えば、自然突然変異体、遺伝子組換え体、突然変異誘発処理体、プラスミド導入等による形質転換体、倍数化体などが含まれる。パラクロレラ・エスピーBX1.5株の変異株は、上記のような菌学的性質を有する菌を、混釈重層法(pour-plating method;Nishizawaら、Isolation and molecular characterization of a multicellular cyanobacterium, Limnothrix/Pseudanabaena sp. strain ABRG5-3、Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry、2010年、74巻、9号、1827-1835頁を参照)をはじめとする当業者に周知な分離方法によって分離することにより得ることもできる。
【0025】
本発明に係る微細藻類は、単細胞性であってよい。本発明に係る微細藻類は、好気性であってよい。本発明に係る微細藻類は、トレボキシア藻綱、特にパラクロレラ属に属する微細藻類である。
【0026】
本発明に係る微細藻類は、脂質生産能を有する。本明細書で用いる場合、「脂質」は、遊離脂肪酸、及び脂肪酸とアルコールのエステルを指す。脂肪酸とアルコールのエステルとしては、例えば、アシルグリセロール(中性脂肪)及びワックスエステルが挙げられる。アシルグリセロールは、脂肪酸とグリセロールがエステル結合した化合物を指し、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した「トリアシルグリセロール」、1分子のグリセロールに2分子の脂肪酸がエステル結合した「ジアシルグリセロール」、及び1分子のグリセロールに1分子の脂肪酸がエステル結合した「モノアシルグリセロール」を含む。本明細書において、「ワックスエステル」とは、脂肪酸と脂肪アルコールがエステル結合した化合物を指す。
【0027】
本発明において、脂肪酸は、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸を含む。脂肪酸は、炭素数が14〜22、14〜20又は16〜18で、不飽和結合の数が0〜6又は0〜4の脂肪酸であってよい。脂肪酸としては、限定されないが、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、アラキジン酸(C20:0)、ベヘン酸(C22:0)、パルミトオレイン酸(C16:1)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)、アラキドン酸(C20:4)、エイコサペンタエン酸(C20:5)、ドコサヘキサエン酸(C22:6)が挙げられる。
【0028】
本明細書において、脂肪酸及び脂肪酸メチルエステル(fatty acid methyl esters、FAMEs)の表記において「Cx:y」とは、炭素原子数がx個で、二重結合数がy個であることを表す。
【0029】
本発明に係る微細藻類を栄養源欠乏培地(窒素源欠乏培地又はリン源欠乏培地)で培養すると、脂質生産が促進され、栄養源非欠乏培地での培養と比較して細胞内の脂質量が増加し得る。
【0030】
また本発明に係る微細藻類を栄養源欠乏培地(窒素源欠乏培地又はリン源欠乏培地)で培養すると、微細藻類における脂質組成が変化し得る。本発明に係る微細藻類を窒素源欠乏培地で培養すると、微細藻類の細胞内の中性脂肪(例えばトリアシルグリセロール)及びワックスエステルの量が増加し得る。一方、本発明に係る微細藻類をリン源欠乏培地で培養すると、微細藻類の細胞内の遊離脂肪酸の量が増加し得る。以上のように、培地組成から窒素源又はリン源を除いて培養する事で、培地経費を安くすることができる上に、特定の有用な脂質(例えば、トリアシルグリセロール又は遊離脂肪酸)を目的に合わせて任意に増産することができる。一方、栄養源非欠乏培地では、ジアシルグリセロール、遊離脂肪酸及びワックスエステルが生産され得る。なお、微細藻類における脂質組成は、当技術分野で公知の任意の方法によって決定できるが、例えば、微細藻類から有機溶媒を用いて脂質を抽出し、薄層クロマトグラフィー(TLC)法によって決定できる。
【0031】
また本発明に係る微細藻類を栄養源欠乏培地(窒素源欠乏培地又はリン源欠乏培地)で培養すると、微細藻類における脂質中の脂肪酸組成が変化し得る。微細藻類における脂質中の脂肪酸組成は、当技術分野で公知の任意の方法によって決定できるが、例えば、微細藻類から有機溶媒を用いて脂質を抽出し、脂質をメチルエステル化し、得られた脂肪酸メチルエステル(FAMEs)をガスクロマトグラフィーで分析することによって決定できる。
【0032】
本発明に係る微細藻類を窒素源欠乏培地で培養すると、脂質中の脂肪酸組成において、パルミチン酸(C16:0)、パルミトオレイン酸(C16:1)、ステアリン酸(C18:0)及びオレイン酸(C18:1)の組成が高くなる傾向にあり、燃料に適した脂肪酸の割合が増加し得る。
【0033】
本発明に係る微細藻類をリン源欠乏培地で培養すると、脂質中の脂肪酸組成において、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、及びリノレン酸(C18:3)の組成が高くなる傾向にあり、機能性飲食品に適した脂肪酸の割合が増加し得る。
【0034】
「燃料に適した脂肪酸」とは、燃料に好適に利用することができる脂肪酸を指す。「機能性飲食品に適した脂肪酸」とは、機能性飲食品に好適に利用することができる脂肪酸を指す。本明細書において、機能性飲食品とは、生体に対して一定の機能性を有する飲食品をいう。
【0035】
燃料に適した脂肪酸としては、パルミチン酸(C16:0)、パルミトオレイン酸(C16:1)、ステアリン酸(C18:0)及びオレイン酸(C18:1)が挙げられる。
【0036】
機能性飲食品に適した脂肪酸としては、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、及びリノレン酸(C18:3)が挙げられる。
オレイン酸(C18:1)は、燃料及び機能性飲食品の両方に好適に利用することができる。
【0037】
窒素源欠乏培地で培養した微細藻類では、脂質中の脂肪酸組成において、好ましくは、パルミチン酸(C16:0)、パルミトオレイン酸(C16:1)、ステアリン酸(C18:0)、及びオレイン酸(C18:1)の総量(重量)は、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、及びリノレン酸(C18:3)の総量より多い。
【0038】
窒素源欠乏培地で培養した微細藻類では、脂質中の脂肪酸組成において、パルミチン酸(C16:0)、パルミトオレイン酸(C16:1)、ステアリン酸(C18:0)、及びオレイン酸(C18:1)の総量(重量)は、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、及びリノレン酸(C18:3)の総量の1.1倍以上、例えば、1.1〜5倍、1.2〜4倍、1.3〜3倍、1.4〜2.5倍、又は1.5〜2倍であってよい。
【0039】
窒素源欠乏培地で培養した微細藻類では、脂質中の脂肪酸組成において、パルミチン酸(C16:0)とオレイン酸(C18:1)の比(重量比)は、1:0.6〜1.5又は1:0.8〜1.2であってよい。
【0040】
窒素源欠乏培地で培養した微細藻類では、脂質中の脂肪酸組成において、パルミチン酸(C16:0)とリノール酸(C18:2)の比(重量比)は、1.5〜5:1又は2〜4:1であってよい。
【0041】
窒素源欠乏培地で培養した微細藻類では、脂質中の脂肪酸組成において、パルミトオレイン酸(C16:1)とリノール酸(C18:2)の比(重量比)は、1:0.8〜1.8又は1:1.0〜1.4であってよい。
【0042】
リン源欠乏培地で培養した微細藻類では、脂質中の脂肪酸組成において、好ましくは、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、及びリノレン酸(C18:3)の総量(重量)は、パルミチン酸(C16:0)、パルミトオレイン酸(C16:1)、ステアリン酸(C18:0)、及びオレイン酸(C18:1)の総量より多い。
【0043】
リン源欠乏培地で培養した微細藻類では、脂質中の脂肪酸組成において、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、及びリノレン酸(C18:3)の総量(重量)は、パルミチン酸(C16:0)、パルミトオレイン酸(C16:1)、ステアリン酸(C18:0)、及びオレイン酸(C18:1)の総量の1.1倍以上、例えば、1.1〜4倍、1.2〜3倍、又は1.2〜2倍であってよい。
【0044】
リン源欠乏培地で培養した微細藻類では、脂質中の脂肪酸組成において、パルミチン酸(C16:0)とオレイン酸(C18:1)の比(重量比)は、1:1.6〜3.0又は1:1.8〜2.5であってよい。
【0045】
リン源欠乏培地で培養した微細藻類では、脂質中の脂肪酸組成において、パルミチン酸(C16:0)とリノール酸(C18:2)の比(重量比)は、1:1.4〜3.0又は1:1.6〜2.5であってよい。
【0046】
本発明はまた、上記の微細藻類の乾燥粉末も提供する。微細藻類の乾燥粉末は、当業者に公知の任意の乾燥法によって製造してよいが、特に、微細藻類を培養し、培養液を回収し、必要に応じて市販のエバポレーター、遠心分離機又は凝集剤等を用いて微細藻類の濃度を高めることによって濃縮し、次いで、市販のスプレードライヤーで乾燥させることによって製造できる。微細藻類の乾燥粉末は、後述するように、燃料又は飲食品(例えばサプリメント若しくは飼料)として、そのまま使用してもよいし、あるいは燃料又は飲食品の製造に使用してもよい。
【0047】
(脂質の製造方法)
本発明はまた、本発明に係る微細藻類を用いた脂質の製造方法を提供する。本方法は、微細藻類を培養することを含み得る。微細藻類を培養することによって、微細藻類が増殖し、細胞内で脂質が生産され蓄積され得る。
【0048】
培養は、静置培養であってもよいが、より効率的に微細藻類を増殖させ、脂質を生産させるために、培地を連続的に撹拌しながら行うことが好ましい。本明細書において、「培地を連続的に撹拌する」とは、撹拌翼などの撹拌機を用いて培地を連続的にかき混ぜることだけでなく、他の様々な方法によって培地を連続的に流動させることも指す。本明細書において、「培地を連続的に撹拌しながら行う」培養は、限定されないが、振とう培養(レシプロ式(往復運動による)又はロータリー式(旋回運動による))、撹拌機による撹拌培養、通気培養若しくは灌流培養又はこれらの組み合わせ、例えば、撹拌培養と通気培養を組み合わせた通気撹拌培養を含み得る。培地を連続的に撹拌しながら行う培養は、例えば、撹拌機構若しくは水流を起す機構を備えた培養池(例えば、円型、四角型若しくはレースウェイ型)、あるいは球型、袋(チューブ)型、若しくは薄層型などの支持体を備え、支持体の表面若しくは内部に培地を流し循環させる培養装置(例えば、特開2013-153744号公報を参照)で行ってもよい。
【0049】
本明細書において、「通気培養」とは、二酸化炭素及び酸素を含む気体(例えば、空気、又は空気と二酸化炭素ガスの混合気体など)を培地に送り込み、気泡を発生させながら行う培養をいう。
【0050】
本明細書において、「静置培養」とは、培地を連続的に撹拌する操作を行うことなく実施する培養をいう。静置培養では、培地を時々一時的にかき混ぜてもよい。
【0051】
培養に用いる培地は、緑藻の培養に一般的に用いられる培地であってよい。培地は、通常、炭素源、窒素源、無機栄養素(例えば、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、ナトリウム)などの栄養源を少なくとも含み得る。特に、培地は、窒素源(窒素の供給源)及びリン源(リンの供給源)を含んでよい。通常の栄養源を含む培地を「栄養源非欠乏培地」と称することもある。培地は、微量栄養素(例えば、ホウ素、マンガン、亜鉛、モリブデン、銅、コバルトなど)をさらに含んでもよい。培地の例としては、限定されないが、BG11培地(例えば、BG11液体培地)が挙げられる。本発明で用いるBG11培地の組成は次のとおりである:0.003mM Na
2-Mg EDTA、0.029mM クエン酸、0.18mM K
2HPO
4、0.30mM MgSO
4・7H
2O、0.25mM CaCl
2・2H
2O、0.19mM Na
2CO
3(無水)、0.03mM クエン酸鉄アンモニウム、1ml/L 微量栄養素(微量栄養素の組成:2.86g/L ホウ酸、1.81g/L MnCl
2・4H
2O、0.22g/L ZnSO
4・7H
2O、0.39g/L Na
2MoO
4・2H
2O、0.08g/L CuSO
4・5H
2O、0.049g/L Co(NO
3)
2・6H
2O)、1.5g/L NaNO
3。BG11液体培地は、クエン酸鉄アンモニウム以外の上記成分を水に溶解し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌し、別途フィルター滅菌したクエン酸鉄アンモニウムを添加することによって調製できる。BG11寒天培地は、高純度寒天粉末(TaKaRa_LO3など)を0.6%(w/v)添加して作製できる。本発明の方法で用いる培地は典型的には液体培地である。
培地のpHは、例えば、5〜12、6〜11、又は7〜10であってもよい。
【0052】
本発明に係る脂質の製造方法では、培養において、窒素源及びリン源の少なくとも一方(例えば、窒素源又はリン源)を調整してもよい。具体的には、培養において、窒素源及びリン源の少なくとも一方について組成を調整した培地(例えば、窒素源欠乏培地又はリン源欠乏培地)を用いることができる。このような調整により、微細藻類が生産する脂質の組成を変化させることができ、目的の生成物を選択的に生産することができる。
【0053】
培地は、窒素源欠乏培地であってもよい。本明細書において、窒素源欠乏培地は、窒素源を含まないか、又は通常の培地(例えば、BG11液体培地)中の窒素源に対して窒素源が乏しい(例えば、通常の培地中の窒素源に対して50%(w/w)以下、例えば、1〜20%(w/w)又は2〜10%(w/w)の窒素源を含む)培地であり得る。窒素源としては、例えば、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸鉄アンモニウム等が挙げられる。例えば、窒素源欠乏培地は、上記のBG11液体培地において硝酸ナトリウム(NaNO
3)を添加しない培地又は50%(w/w)以下の硝酸ナトリウムを添加した培地であってもよい。上記したように、微細藻類を窒素源欠乏培地で培養すると、脂質生産が促進され、栄養源非欠乏培地での培養と比較して細胞内の脂質量が増加し、さらに、脂質中の脂肪酸組成において、燃料に適した脂肪酸の割合が増加し得る。
【0054】
培地は、リン源欠乏培地であってもよい。本明細書において、リン源欠乏培地は、リン源を含まないか、又は通常の培地(例えば、BG11液体培地)中のリン源に対してリン源が乏しい(例えば、通常の培地中のリン源に対して50%(w/w)以下、例えば、1〜20%(w/w)又は2〜10%(w/w)のリン源を含む)培地であり得る。リン源としては、例えば、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム等が挙げられる。例えば、リン源欠乏培地は、上記のBG11液体培地においてリン酸水素二カリウム(K
2HPO
4)を添加しない培地又は50%(w/w)以下のリン酸水素二カリウムを添加した培地であってもよい。上記したように、微細藻類をリン源欠乏培地で培養すると、脂質生産が促進され、栄養源非欠乏培地での培養と比較して細胞内の脂質量が増加し、さらに、脂質中の脂肪酸組成において、機能性飲食品に適した脂肪酸の割合が増加し得る。
培地は、硫黄が欠乏していない培地であってもよい。
【0055】
培地に接種する微細藻類の量は適宜設定することができる。例えば、前培養(例えば14〜20日間通気撹拌培養)した培養物を、培地量に対して例えば0.1〜10%(v/v)、0.2〜8%(v/v)、0.5〜5%(v/v)又は0.8〜2%(v/v)の量で、培地に接種してもよい。前培養後の培養物は、市販のエバポレーター、遠心分離機又は凝集剤等を用いて微細藻類の濃度を高めることによって濃縮し、濃縮物を培地に接種してもよい。前培養後の培養物は、5〜50倍、10〜40倍又は15〜30倍に濃縮してもよい。
【0056】
培養における温度は、例えば0〜50℃、好ましくは5〜40℃、10〜40℃、20〜35℃又は25〜35℃であってもよい。温度は、例えば、恒温培養器内で培養を行う場合は恒温培養器内の温度、室内で培養を行う場合は室温を指し、屋外で培養を行う場合は培養槽付近の外気温を指す。
【0057】
培養における二酸化炭素濃度は、例えば、0.01%(v/v)〜15%(v/v)、好ましくは0.02〜4%(v/v)、又は0.04〜2%(v/v)であってよい。
【0058】
培養は、人工光源による光照射下又は太陽光などの自然光下で行うことができる。人工光源としては、限定するものではないが、例えば、白熱電球、蛍光灯、LED、有機EL、半導体レーザー、高圧ナトリウムランプ、低圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、水銀ランプなどが挙げられる。光の強度(光量子束密度)は、0〜3,000μmol 光量子/m
2/sであってよい。光照射下の光強度は5μmol光量子/m
2/s以上であることが好ましく、例えば10〜2,000μmol 光量子/m
2/s、20〜1,000μmol 光量子/m
2/s又は30〜200μmol 光量子/m
2/sであってよい。光照射は、連続的であってもよいし、暗所期間を設けて(典型的には明暗サイクルを用いて)もよい。「暗所」とは、光の非照射状態をいう。太陽光を用いる場合、暗所期間は日没から日の出までの期間をいう。暗所は、光を完全に遮蔽した暗黒状態に限られず、漏れ光、作業を行うために必要な薄明かり、又は恒温培養器内の表示部の光などがあってもよい。暗所の光の強度は、例えば、0〜3μmol 光量子/m
2/s、好ましくは0〜1μmol 光量子/m
2/sであり得る。培養に用いる光は、特定波長又は波長域の光であってもよい。培養に用いる光は、白色光であってもよい。
【0059】
培養期間は、1時間〜50日、好ましくは3〜40日、4〜30日、5〜20日、6〜15日又は9〜12日であってよい。
【0060】
一実施形態では、培養は、窒素源及びリン源を含む培地中で、20〜35℃の温度にて、5〜20日間、0.04〜2%(v/v)の二酸化炭素濃度で、30〜200μmol 光量子/m
2/sの光量子束密度の光の照射下で、培地を連続的に撹拌しながら行ってよい。
【0061】
さらなる一実施形態では、培養は、窒素源欠乏培地中で、20〜35℃の温度にて、6〜15日間、0.04〜2%(v/v)の二酸化炭素濃度で、30〜200μmol 光量子/m
2/sの光量子束密度の光の照射下で、培地を連続的に撹拌しながら行ってよい。
【0062】
さらなる一実施形態では、培養は、リン源欠乏培地中で、20〜35℃の温度にて、9〜12日間、0.04〜2%(v/v)の二酸化炭素濃度で、30〜200μmol 光量子/m
2/sの光量子束密度の光の照射下で、培地を連続的に撹拌しながら行ってよい。
【0063】
培養後の微細藻類は、公知の任意の回収方法によって取得してよい。微細藻類は、例えば、培養液を遠心分離し、上清を除去することによって回収してもよいし、又は培養液を蒸留(例えば、減圧蒸留)し、濃縮することによって回収してもよい。あるいは、培養液に凝集剤を添加し、凝集沈殿した微細藻類を回収してもよい。
【0064】
本発明に係る脂質の製造方法は、生産された脂質を回収することを含み得る。脂質は、当技術分野で公知の任意の回収方法によって回収すればよい。例えば、培養後に取得した微細藻類又は微細藻類の破砕物に対して有機溶媒抽出(例えば、メタノール、クロロホルム、ギ酸、酢酸エチル、ヘキサン、ブタノール等の有機溶媒による)を行うことにより、脂質を回収することができる。回収した脂質は、蒸留などの常法によりさらに精製してもよい。
【0065】
脂質を、加水分解して脂肪酸を得てもよいし、メチルエステル化して脂肪酸メチルエステルを得てもよい。脂質は、例えば、飲食品(例えば、家畜若しくは魚類の飼料、及びサプリメント)の製造又は燃料の製造等に使用することができる。さらに脂質は、医薬品、又は(例えば保湿成分として)化粧品の製造に使用することもできる。
【0066】
(燃料の製造方法)
本発明はまた、本発明に係る微細藻類を窒素源欠乏培地で培養し、培養された微細藻類を用いて燃料を製造することを含む、燃料の製造方法を提供する。
【0067】
本発明に係る微細藻類を窒素源欠乏培地で培養すると、上記のように、脂質組成においてトリアシルグリセロール及びワックスエステルが増加し、脂質中の脂肪酸組成において燃料に適した脂肪酸の割合が増加し得る。
【0068】
本方法では、微細藻類から当技術分野で公知の任意の方法によって燃料(バイオ燃料)を製造してよい。例えば、微細藻類から脂質を抽出し、脂質をメチルエステル化し、得られた脂肪酸メチルエステルを用いて燃料を製造してもよい。脂肪酸メチルエステルはさらに精製してもよい。
【0069】
燃料は、パルミチン酸メチルエステル(C16:0)、パルミトオレイン酸メチルエステル(C16:1)、ステアリン酸メチルエステル(C18:0)、及びオレイン酸メチルエステル(C18:1)を含み得る。
【0070】
燃料としては、限定されないが、航空機、自動車若しくは船舶などの動力用燃料、暖房などの熱源用燃料、又は発電用燃料などが挙げられる。
【0071】
(飲食品の製造方法)
本発明はまた、本発明に係る微細藻類をリン源欠乏培地で培養し、培養された微細藻類を用いて飲食品を製造することを含む、飲食品の製造方法を提供する。
【0072】
本発明に係る微細藻類をリン源欠乏培地で培養すると、上記のように、脂質組成において遊離脂肪酸が増加し、脂質中の脂肪酸組成において機能性飲食品に適した脂肪酸の割合が増加し得る。
【0073】
本方法では、微細藻類から当技術分野で公知の任意の方法によって飲食品を製造してよい。例えば、微細藻類又は微細藻類の乾燥粉末を、従来飲食品に使用されている各種成分と共に飲食品に配合してもよいし、あるいは、微細藻類から脂質を抽出し、必要に応じて脂質をさらに精製し、脂質を従来飲食品に使用されている各種成分と共に配合することにより飲食品を製造してもよい。
【0074】
飲食品は、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、及びリノレン酸(C18:3)を含み得る。飲食品は、α-リノレン酸などのω3系脂肪酸又はリノール酸などのω6系脂肪酸を含んでもよい。ω3系脂肪酸及びω6系脂肪酸などの脂質は、悪玉コレステロール値降下作用、善玉コレステロール値の増加作用、脳卒中予防、動脈硬化防止、又は血小板凝集抑制効果などの効果を有し得る。
【0075】
本方法により製造される飲食品(飲料及び食品)の具体例としては、限定されないが、例えば、栄養補助食品(サプリメント)、飲食品添加物、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、アイスクリーム、キャンディ、チョコレート、グミ、ガム、ゼリー、麺類、ふりかけ、茶、ジュース、牛乳、乳清飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト、調製粉乳、流動食、病者用食品、幼児用粉乳等食品、授乳婦用粉乳等食品、飼料、飼料添加物、食用油などが挙げられる。飲食品は、機能性飲食品(栄養機能食品及び特定保健用食品等の機能性食品を含む)であってもよい。
【0076】
(卵の生産方法)
本発明はまた、本発明に係る微細藻類を含む飼料を雌鳥に給餌し、雌鳥が生んだ卵を採卵することを含む、卵の生産方法を提供する。
【0077】
微細藻類を含む飼料は、典型的には、微細藻類(特に、微細藻類の乾燥粉末)を例えば、0.1〜10%(w/w)、0.5〜5%(w/w)又は1〜3%(w/w)飼料に添加することによって調製できる。
【0078】
微細藻類は、窒素源及びリン源を含む培地(栄養源非欠乏培地)で培養したものであっても、窒素源欠乏培地又はリン源欠乏培地で培養したものであってもよい。
【0079】
微細藻類を添加する飼料は、鳥類の飼料として通常使用されるものであってよい。
鳥としては、特に限定されず、ニワトリ、ウズラ、ダチョウ、アヒルなどが挙げられる。
【0080】
微細藻類を含む飼料は、雌鳥(例えば、産卵鶏)に7〜40日間又は10〜30日間給餌してよい。
【0081】
本方法で得られる卵は、卵黄から抽出した脂質をメチルエステル化して得られた脂肪酸メチルエステルを定量した場合、微細藻類を添加してない飼料を給餌した場合と比べて、増加した量のリノール酸メチルエステル(C18:2)、α-リノレン酸メチルエステル(C18:3)及びドコサヘキサエン酸メチルエステル(C22:6)の少なくとも1つを示す。増加は、例えば、10%以上、例えば10〜40%又は20〜35%の増加であってよい。
【0082】
リノール酸はω6系脂肪酸に分類され、α-リノレン酸及びドコサヘキサエン酸はω3系脂肪酸に分類される。α-リノレン酸は、摂取されて体内で代謝された後、ω3系脂肪酸のエイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸となり得る。ω6系脂肪酸及びω3系脂肪酸は必須脂肪酸であり、食物から摂取することが必要である。本方法で生産された卵は、ヒトがこれらの必須脂肪酸を効率的に摂取するために、食品として有用であり得る。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0084】
[実施例1]
(BX1.5株の単離)
日本国広島県北部から採取した天然水をベースに窒素源及びリン源を含む培地を用いて培養し、得られた培養液から混釈重層法(pour-plating method;Nishizawaら、上掲)により藻細胞を分離し、BG11寒天培地へ塗抹し、30℃(白色蛍光灯下)で培養した。寒天培地上に生育した藻細胞塊をかき取り、新しいBG11液体培地に移して継代培養し、単離(純化)株を得た。この単離株をBX1.5株と命名した。
【0085】
BG11液体培地で前培養したBX1.5株培養液約10Lを、窒素源及びリン源を含む約10トンの液体培地中で屋外にてレースウェイタンク内で培養した。培養は、炭酸ガス(流速2.5L/分)及び大気(流速80L/分)の混合気体を吹き込みつつ、パドルで培養液を撹拌及び循環させながら14〜20日間行った。培養液は明るい緑色であった。培養液を光学顕微鏡で観察したところ、原生動物などの目立った雑菌の繁殖は認められず、約3μmの直径を有する球形の単細胞であるBX1.5株が優先的に生育していた(
図1)。
【0086】
屋外培養は通年可能であり、冬期でも著しい生育速度の低下はなかった。屋外培養での収量は、1日あたり1トン培養液あたり乾燥細胞重量約100g以上であった。
【0087】
BX1.5株は、屋外大規模培養でも雑菌の繁殖なく優先的に生育でき、高温及び強光を必要とせずに低コストで培養できることが示された。
【0088】
[実施例2]
(単離株の同定)
実施例1で単離されたBX1.5株より全DNAを抽出した。これを鋳型DNAとして93Fプライマー(5'-ctgcgaatggctcattaaawcag-3'(wはa又はtを示す)(配列番号1))及びITS2Rプライマー(5'-tcctccgcttattgatatgc-3'(配列番号2))を用いたPCR法により、ゲノムDNA上の18SリボゾームDNA、ITS1(internal transcribed spacer 1、内部転写スペーサー1)、5.8SリボゾームDNA及びITS2に及ぶ約2.4Kbpの領域(
図2)を増幅し、その塩基配列を解読した。解読した塩基配列 2,418bpをクエリー(Query)として遺伝子DNAデータベースに対して検索をしたところ、2017年3月時点で、緑藻由来の塩基配列などの複数の塩基配列と相同性を有することが分かった。
【0089】
最も相同性が高かったものは緑藻パラクロレラ・ケスレリ(Parachlorella kessleri)の塩基配列(18SリボゾームDNA領域のGenBankデータベース登録番号FR865655)であった。18SリボゾームDNA中の93Fプライマーがアニールする配列からITS2中のITS2Rプライマーがアニールする配列までの領域において、BX1.5株とパラクロレラ・ケスレリ(Parachlorella kessleri)との間で、18S及び5.8SリボゾームDNA領域は100%一致していたが、ITS1内の1カ所及びITS2内の2カ所(合計3カ所)の塩基配列が相違していた。ITS1では、93Fプライマー5'端のシトシン(c)を1番目として数えた場合に、1,718番目の塩基が、BX1.5株ではアデニンであったのに対し、P.ケスレリ(kessleri)株ではギャップ(不在)であった。また、ITS2では、93Fプライマーの先頭から2,176番目の塩基が、BX1.5株ではチミンであったのに対し、P.ケスレリ(kessleri)株ではシトシンであり、93Fプライマーの先頭から2,198番目の塩基が、BX1.5株ではアデニンであったのに対し、P.ケスレリ(kessleri)株ではグアニンであった。2,418bpの全体では、BX1.5株とパラクロレラ・ケスレリ(Parachlorella kessleri)との間で、約99.9%[(2,415bp/2,418bp)×100%]の相同性があった。
【0090】
次に相同性が高かった株は、パラクロレラ・ベイジェリンキ(Parachlorella beijerinckii)の塩基配列(18SリボゾームDNA領域のGenBankデータベース登録番号FM205845)及びパラクロレラ・フッシ(Parachlorella hussii)の塩基配列(18SリボゾームDNA領域のGenBankデータベース登録番号HM126550)であった。BX1.5株は、ITS1及びITS2並びに18SリボゾームDNA内に、パラクロレラ・ベイジェリンキ(Parachlorella beijerinckii)又はパラクロレラ・フッシ(Parachlorella hussii)と比較して、パラクロレラ・ケスレリ(Parachlorella kessleri)と比較した場合よりも多くの相違した塩基を有していた。相同性は2,418bpの塩基配列全体において99.4%以下であった。
【0091】
これらの結果から、BX1.5株は、パラクロレラ・ケスレリ(Parachlorella kessleri)と近い、パラクロレラ属に属する新種又は変種であることが示された。よって緑藻BX1.5株をパラクロレラ・エスピー(Parachlorella sp.)BX1.5株と命名した。
【0092】
パラクロレラ・エスピーBX1.5株を、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に2016年12月13日(受託日)付けで寄託した(受託番号FERM P-22318)。
【0093】
[実施例3]
(栄養源欠乏培地で培養したBX1.5株の経時変化)
BX1.5株を、実施例1に記載したように、窒素源及びリン源を含む約10トンの液体培地中で屋外にて培養(前培養)した。培養液を採取し、エバポレーター(ロータリーエバポレーター R-210、日本ビュッヒ社)で約20倍に濃縮した。濃縮する際、バス温度を50℃、気圧を28〜35hpaに設定した。
【0094】
濃縮した培養液約10mLを予め新しく準備しておいた栄養源欠乏培地(窒素源欠乏BG11液体培地又はリン源欠乏BG11液体培地)500mLに再懸濁した。窒素源欠乏BG11液体培地は、BG11液体培地から硝酸ナトリウム(NaNO
3)を除いた培地とした。リン源欠乏BG11液体培地は、BG11液体培地からリン酸水素二カリウム(K
2HPO
4)を除いた培地とした。前培養後(再懸濁直後)の培養液100μLを、培養0日目の細胞として採取した。細胞懸濁液を1L容ガラス瓶に入れ、3%炭酸ガス(流速0.6L/分)及び大気(流速19L/分)の混合気体を培地に直接供給しながら培養した。栄養源欠乏培地での培養3、6、9、及び12日目の培養液100μLを採取した。採取した培養液中のBX1.5株を光学顕微鏡により観察し、細胞の直径を計測した。
【0095】
0日目では細胞の直径は約3μmであり、窒素源欠乏BG11液体培地(-N)又はリン源欠乏BG11液体培地(-P)で培養すると、細胞内に半透明の油滴蓄積が広がり、細胞の大きさは最大約7μmに増加することが示された(
図3A及びB)。細胞の大きさは、窒素源欠乏BG11液体培地(-N)では約6日目で最大となり、一方、リン源欠乏BG11液体培地(-P)では約9日目で最大となった(
図3A及びB)。
【0096】
これらの結果から、栄養源(窒素源又はリン源)を欠乏させた培地中での培養により、BX1.5株の細胞の大きさが増加することが示された。
【0097】
[実施例4]
(BX1.5細胞内の脂質蓄積)
BX1.5細胞内の脂質蓄積を、脂質染色剤ナイルレッドを用いて調べた。BX1.5株を、実施例3に記載したように、窒素源及びリン源を含む培地で前培養した後、窒素源欠乏BG11液体培地中で6日間、又はリン源欠乏BG11液体培地中で9日間培養した。培養液1mLに、ナイルレッド(和光純薬工業株式会社)を最終濃度10μMになるよう添加し、脂質を染色した。前培養後のBX1.5株も同様に染色した。約5分間室温で染色後、光学顕微鏡及び蛍光顕微鏡(いずれもオリンパスBX53/DP72を使用)で細胞を観察した。蛍光顕微鏡での観察はU-FBWフィルターを用いて行い、励起波長480nm、放射波長520nm及び露光時間0.2秒で画像を取得した。ナイルレッドは、中性脂肪(トリアシルグリセロール)などの脂質を染める染色剤である。蛍光顕微鏡下で、脂質を蓄積している細胞は黄色に見え、脂質を蓄積していない細胞は自家蛍光により赤く見える。
【0098】
窒素源及びリン源を含む培地での前培養後のBX1.5株(+N/+P)は、黄色蛍光を発し、前培養においてすでに細胞内に脂質が蓄積していることが示された(
図4A)。前培養後に窒素源欠乏BG11液体培地(-N)又はリン源欠乏BG11液体培地(-P)で培養したBX1.5株は強い黄色蛍光を発し、細胞内により顕著に脂質が蓄積していることが示された(
図4B及びC)。
【0099】
これらの結果から、BX1.5株は、通常の培地(窒素源及びリン源を含む培地)中での培養により細胞内に脂質を蓄積するが、栄養源欠乏培地(窒素源又はリン源欠乏培地)中での培養により脂質生産が促進されることが示された。
【0100】
[実施例5]
(脂質を蓄積したBX1.5株の電子顕微鏡観察)
BX1.5株を透過型電子顕微鏡で観察した。BX1.5株を実施例3に記載したように培養し、窒素源及びリン源を含む培地での前培養後の細胞、前培養後に窒素源欠乏BG11液体培地で6日間培養した細胞、及び前培養後にリン源欠乏BG11液体培地で9日間培養した細胞を回収した。透過型電子顕微鏡観察用の試料は、Kitazaki Cら(Characterization of lysis of the multicellular cyanobacterium Limnothrix/Pseudanabaena sp. strain ABRG5-3、Biosci. Biotechnol. Biochem.、2013年、77巻、2339-2347頁)に記載したように調製した。具体的には、培養液から回収した細胞を、0.05Mカコジル酸緩衝液(pH7.2)中の2%ホルムアルデヒド及び2%グルタルアルデヒドで処理し、次いで、0.1Mカコジル酸緩衝液(pH7.2)中の2%四酸化オスミウムで処理することによって固定した。細胞を酢酸ウラニル及び鉛溶液で染色し、超薄切片法によって透過型電子顕微鏡(JEM-1200EX、日本電子株式会社)で観察した。電子顕微鏡の倍率は12,600倍とした。
【0101】
窒素源及びリン源を含む培地での前培養後のBX1.5株(+N/+P)では、光合成の明反応の場である葉緑体チラコイド膜が細胞内に重層して発達し、その付近のストロマと思われる空間に油滴様粒子の蓄積が観察された(
図5A)。このことは、前培養(窒素源及びリン源を含む培地での培養)の際にすでに脂質が蓄積し始めていることを示す。
【0102】
前培養後に窒素源欠乏BG11液体培地(-N)中で6日間、又はリン源欠乏BG11液体培地(-P)中で9日間培養したBX1.5株では、油滴が、細胞の切断面積の少なくとも60〜70%を占めるほど大量に蓄積していた(
図5B及びC)。このことは、BX1.5株が、脂質を生産する公知の微細藻類(例えば、Mizuno Yら、Sequential accumulation of starch and lipid induced by sulfur deficiency in Chlorella and Parachlorella species、Bires. Technol.、2013年、129巻、150-155頁を参照)と比較して、トップクラスの脂質生産能力を持っていることを示す。
【0103】
[実施例6]
(薄層クロマトグラフィーによるBX1.5株の脂質組成の分析)
薄層クロマトグラフィー(TLC)によって、BX1.5株の脂質組成を分析した。
BX1.5株を実施例3に記載したように培養し、窒素源及びリン源を含む培地での前培養後の細胞、前培養後に窒素源欠乏BG11液体培地で6日間培養した細胞、及び前培養後にリン源欠乏BG11液体培地で9日間培養した細胞を回収した。
【0104】
TLC分析用の試料は、Fan Jら(A chloroplast pathway for the de novo biosynthesis of triacylglycerol in Chlamydomonas reinhardtii、FEBS Lett.、2011年、585巻、1985-1991頁)に記載の方法を参考に以下のようにして調製した。凍結乾燥したBX1.5株にクロロホルム-メタノール(体積比2:1)を添加し、撹拌後に溶液を超音波処理した。その溶液を6,000rpmで10分間遠心分離し、上澄液を回収した。上澄液に等量の0.9% KCl水溶液を添加後、上下に100回程度激しく撹拌した。この溶液を3,000rpmで5分間遠心分離した。下層(全脂質が抽出されたクロロホルム層)を回収し、エバポレーター(ロータリーエバポレーター R-3、日本ビュッヒ社)により減圧乾固させた。減圧乾固した試料に200μL程度のクロロホルムを添加して溶解させ、TLC分析用の試料を調製した。
【0105】
TLC分析用の試料をシリカゲルプレートに5μL程度ずつスポットした。その後、このプレートをヘキサン-ジエチルエーテル-酢酸(体積比80:20:1)の混合液で展開した。プレートを風乾し、5%(w/v メタノール)リンモリブデン酸溶液に浸し、直ちに取り出した。プレートをドライヤーの温風で乾燥させ、プレート上で分離された脂質を可視化した。
【0106】
窒素源及びリン源を含む培地での前培養後のBX1.5株(+N/+P)では、中性脂肪(トリアシルグリセロール)の顕著な蓄積は認められず、ジアシルグリセロール、遊離脂肪酸及びワックスエステルの蓄積が認められた(
図6A)。一方、前培養後に窒素源欠乏BG11液体培地で6日間培養したBX1.5株(-N)では、中性脂肪(トリアシルグリセロール)及びワックスエステルの顕著な誘導及び蓄積が観察された(
図6B)。前培養後にリン源欠乏BG11液体培地で9日間培養したBX1.5株(-P)では、遊離脂肪酸が顕著に蓄積し、ワックスエステル及びジアシルグリセロールの蓄積も認められた(
図6C)。
【0107】
これらの結果から、培地中の窒素源又はリン源を欠乏させることにより、BX1.5株で生産される脂質の組成が変化することが示された。パラクロレラ属の藻類を用いた脂質の製造において、培地中の窒素源又はリン源を欠乏させることにより、脂質の組成を選択的に変えることはこれまでに知られていない。
【0108】
[実施例7]
(ガスクロマトグラフィー/水素炎イオン化検出器によるBX1.5株の脂質中の脂肪酸組成の分析)
ガスクロマトグラフィー/水素炎イオン化検出器(GC/FID)によって、BX1.5株の脂質中の脂肪酸組成を分析した。
【0109】
BX1.5株を実施例3に記載したように培養し、窒素源及びリン源を含む培地での前培養後のBX1.5細胞(0日目)、前培養後に窒素源欠乏BG11液体培地(-N)で3、6、9若しくは12日間培養したBX1.5細胞、並びに前培養後にリン源欠乏BG11液体培地(-P)で3、6、9若しくは12日間培養したBX1.5細胞を回収した。
【0110】
実施例6に記載したように細胞から全脂質を抽出した。抽出する際、抽出溶媒であるクロロホルム-メタノール(体積比2:1)2mLに対し、内部標準物質としてマルガリン酸(C17:0)を後で最終濃度が100ppmとなるよう添加しておいた。
【0111】
抽出した脂質を減圧乾固し、減圧乾固した脂質に1mLのトルエンを添加して溶かした。この溶液に、メタノール-塩酸(Methanolic HCl, 3M: SUPELCO社、米国)を2mL添加し、全脂質をメチルエステル化するために80℃で3時間反応させた後、室温になるまで冷ました。このようにして得られた脂肪酸メチルエステル(FAMEs)液(約3mL)に対し、超純水1mLとn-ヘキサン2mLを添加し混合した。混合液を上下に激しく100回程度撹拌した後、6,000rpmで30分間遠心分離した。遠心分離後、上澄液(1〜2mL 抽出液)を回収し、エバポレーターで減圧乾固させた。乾固後、n-ヘキサンを1mL添加してFAMEsを溶かした(マルガリン酸の最終濃度が100ppmとなる)。
【0112】
この溶液1μLをGC/FID分析に供した。GC/FIDは、GC-2014システム(島津社製)を使用して行った。この分析システムでは、キャピラリーガスにヘリウムガス(1mL/分)を用い、インジェクターの温度を250℃に保持した。Stabiliwax-DAカラム(島津社製)の温度は、140℃で5分間後、1分間に2.5℃ずつ上昇させて220℃に達してから7分間保持した。この分析により、脂肪酸メチルエステルを、炭素数及び不飽和度(二重結合の数)に従って分離し、定量することができる。乾燥細胞重量あたりのFAMEs(パルミチン酸メチルエステル(16:0)、パルミトレイン酸メチルエステル(16:1)、ステアリン酸メチルエステル(18:0)、オレイン酸メチルエステル(18:1)、リノール酸メチルエステル(18:2)及びリノレン酸メチルエステル(18:3))の量(%(w/w))を算出した。
【0113】
図7に、乾燥細胞重量当たりのFAMEs量(%(w/w)、相対値)を示す。
図7Aは、窒素源及びリン源を含む培地での前培養後に窒素源欠乏BG11液体培地(-N)で3、6、9若しくは12日間培養したBX1.5株の結果を示す。
図7Bは、窒素源及びリン源を含む培地での前培養後にリン源欠乏BG11液体培地(-P)で3、6、9若しくは12日間培養したBX1.5株の結果を示す。
図7A及び7Bの0日目には、窒素源及びリン源を含む培地での前培養後のBX1.5株の結果を示す。
【0114】
表1に、窒素源及びリン源を含む培地での前培養後のBX1.5株(+N/+P、0日)、前培養後に窒素源欠乏BG11液体培地(-N)で6日間培養したBX1.5株、及び前培養後にリン源欠乏BG11液体培地(-P)で9日間培養したBX1.5株について、定量した6種のFAMEsの相対量(%)を示す。
【0115】
表2に、表1の相対量から算出した、燃料又は機能性飲食品に適した脂肪酸のメチルエステル化合物の相対量の和を示す。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
前培養後に窒素源欠乏BG11液体培地で6日間培養したBX1.5株(-N)では、燃料に適した脂肪酸のメチルエステル化合物の相対量の和は82.6%であり、機能性飲食品に適した脂肪酸のメチルエステル化合物の相対量の和は52.5%であった。一方、前培養後にリン源欠乏BG11液体培地で9日間培養したBX1.5株(-P)では、燃料に適した脂肪酸のメチルエステル化合物の相対量の和は60.7%であり、機能性飲食品に適した脂肪酸のメチルエステル化合物の相対量の和は75.7%であった。
【0119】
これらの結果から、BX1.5株を窒素源欠乏培地で培養すると、脂質中の脂肪酸組成において、燃料に適した脂肪酸の割合が増加し、BX1.5株をリン源欠乏培地で培養すると、機能性飲食品に適した脂肪酸の割合が増加することが示された。このように、屋外大規模培養によって培養した一種類の藻で、培地組成を変えることによって生産される脂質中の脂肪酸組成を変える技術はほとんど知られていない。
【0120】
[実施例8]
(BX1.5株含有飼料の効果)
BX1.5株を含む飼料による、鶏卵の卵黄における脂質中の脂肪酸組成への影響を調べた。窒素源及びリン源を含む培地中で培養したBX1.5株を回収し、エバポレーターで濃縮した後、スプレードライヤーMDL-050M(藤崎電機社製)を用いてBX1.5株の乾燥粉末を調製した。
【0121】
本実施例は、以下のガイドラインを参照して行った。
(1)農業・食品産業技術総合研究機構編、「日本飼養標準 家禽(2011年版)」、2012年、中央畜産会
(2)徳丸及び岡崎、「エキスパンダー加工飼料の給与による採卵鶏の排せつふん量低減化」、千葉県畜産総合研究センター研究報告、2008年、8号、23-27頁
(3)Otles及びPire、「Fatty acid composition of Chlorella and Spirulina microalgae species」、J. AOAC int.、2001年、84(6):1708-1714頁
(4)文部科学省 科学技術・学術審議会 資源調査分科会、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)脂肪酸成分表編」、2015年
【0122】
約360日齢の雌鶏20羽に、標準養鶏飼料(上記ガイドライン(1)参照)を14日間摂食させ、馴化させた。馴化後、標準養鶏飼料にBX1.5株の乾燥粉末を標準養鶏飼料に2%(w/w)の量で添加して調製したBX1.5株含有飼料を、10羽の雌鶏に自由に摂食させた(試験区)。また、BX1.5株の乾燥粉末を添加していない標準養鶏飼料を10羽の雌鶏へ与えた(対照区)。
【0123】
21〜22日後に得られた各区あたり15個の鶏卵から卵黄を回収して合わせた。実施例7と同様の方法で、卵黄から全脂質を抽出し、脂質を脂肪酸メチルエステル化し、得られた脂肪酸メチルエステル(FAMEs)をGC/FIDにより分析した。試験区の卵黄に含まれるFAMEs量の相対値を、対照区のFAMEs量が100となるように計算した。結果を
図8に示す。
【0124】
BX1.5株含有飼料を摂食した試験区の卵黄中のFAMEs量(対照区を100としたときの相対量)は、リノール酸メチルエステル(C18:2)が112、α-リノレン酸メチルエステル(C18:3)が133、及びドコサヘキサエン酸メチルエステル(C22:6)が125であり、対照区と比較してそれぞれ約1〜3割増加した。ドコサヘキサエン酸はα-リノレン酸から合成されるため、α-リノレン酸の増加に伴い、ドコサヘキサエン酸が増加した可能性が考えられた。