(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2は水平状態のワークPを連続搬送するチャックを取付けたベルトを回転駆動する第一,第二搬送装置の各搬送ラインの横幅間隔を調節して、異なるサイズのワークPを搬送可能としたので(特許文献1の
図1,2参照)、ワークの上辺をチャックしてワークを垂直状態で搬送する特許文献1の表面処理装置には適用できない。
【0007】
本発明の目的は、垂直状態で搬送されるワークの幅サイズに適合してワークを保持する搬送治具及びそれを用いた表面処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一態様は、
搬送部と、
前記搬送部に垂下して支持されるワーク保持部と、
を有し、
前記ワーク保持部は、
水平に延びる固定部材と、
前記固定部材にスライド可能に支持され、前記固定部材の両端より突出する2つの可動部材と、
前記固定部材に支持され、ワークの上端部をチャックする上部固定チャック部材と、
前記2つの可動部材の各々に取り付けられ、前記ワークの上端部をチャックする上部可動チャック部材と、
を有する搬送治具に関する。
【0009】
本発明の一態様によれば、固定部材の両端より突出する2つの可動部材は、ワークの幅に合わせた位置にスライド移動される。その2つの可動部材の各々に取り付けられた上部可動チャック部材が、ワークの幅方向の両端部にて、固定部材に取り付けられた上部固定チャックがワークの幅方向の中央部にて、それぞれワークの上端部をチャックする。こうして、幅サイズの異なるワークを、そのワークの幅に合わせて、ワークの幅方向の両端部をチャックすることで、安定してワークを保持することが可能になる。
【0010】
(2)本発明の一態様(1)では、前記固定部材に対して前記2つの可動部材を前記ワークの幅に合わせた位置でそれぞれ保持する保持部材をさらに有することができる。2つの可動部材の位置は、固定部材と可動部材との嵌め合い公差に基づく嵌合によって保持しても良いが、保持部材により確実に位置決めすることが好ましい。
【0011】
(3)本発明の一態様(1)または(2)では、
前記2つの可動部材の各々は、
前記固定部材にスライド可能に支持される上側横枠可動部材と、
前記上側横枠可動部材に固定される垂直部材と、
を含み、
前記上部可動チャック部材は前記垂直部材に支持されても良い。
【0012】
こうすると、2つの上側横枠可動部材と共に2つの垂直部材もワークの幅に合わせて移動されるので、この2つの垂直部材に取り付けられた上部可動チャック部材により、ワークの上端部をワークの幅に合わせて位置にてチャックすることができる。
【0013】
(4)本発明の一態様(3)では、
前記垂直部材は、
縦枠固定部材と、
前記縦枠固定部材に対して垂直方向にスライド可能に支持される縦枠可動部材と、
前記縦枠可動部材の下端部に支持され、前記ワークの下端部をチャックする下部可動チャック部材と、
を含み、
前記上部可動チャック部材は、前記縦枠固定部材に支持されても良い。
【0014】
こうすると、2つの上側横枠可動部材と共に2つの縦枠固定部材もワークの幅に合わせて移動されるので、この2つの縦枠固定部材に取り付けられた上部可動チャック部材により、ワークの上端部をワークの幅に合わせて位置にてチャックすることができる。加えて、2つの上側横枠可動部材と共に2つの縦枠可動部材もワークの幅に合わせて移動されるので、この2つの縦枠可動部材に取り付けられた下部可動チャック部材により、ワークの下端部もワークの幅に合わせて位置にてチャックすることができる。それにより、特にごく薄いワークを表面処理対象とする場合でも、ワークの上下端部をチャックして、表面処理液の圧力によりワークが撓むことなく、ワークの垂下状態の姿勢を保持することができる。
【0015】
(5)本発明の一態様(3)では、前記ワークに給電する給電部をさらに有し、前記給電部は、前記固定部材を介して前記上部固定チャック部材に給電する第1給電部と、前記垂直部材を介して前記上部可動チャック部材に給電する第2給電部と、を含むことができる。こうして、第1給電部から上部固定チャック部材に給電するルートと、第2給電部から上部可動チャック部材に給電するルートとに分離することで、各ルートの抵抗値や電流値を独立して設定でき、それにより、ワークの電流分布の面内均一性を向上させて、ワークの表面処理品質をさらに高めることができる。なお、固定部材と横枠延長部材とが電気的に導通していても、両者は相対的にスライド移動する関係にあることから両者間の電気抵抗が大きいので、上部可動チャック部材には実質的に第2給電部から給電される。
【0016】
(6)本発明の一態様(4)では、
前記ワークに給電する給電部をさらに有し、
前記縦枠可動部材は、前記上側横枠可動部材とは電気的に絶縁され、
前記給電部は、
前記固定部材を介して前記上部固定チャック部材に給電する第1給電部と、
前記上側横枠可動部材を介して前記上部可動チャック部材に給電する第2給電部と、
前記縦枠可動部材を介して前記下部可動チャック部材に給電する第3給電部と、
を含むことができる。
【0017】
こうすると、第1給電部から上部固定チャック部材に給電するルートと、第2給電部から上部可動チャック部材に給電するルートと、第3給電部から下部可動チャック部材に給電するルートと、に分離することができる。それにより、各ルートの抵抗値や電流値を独立して設定でき、ワークの電流分布の面内均一性を向上させて、ワークの表面処理品質をさらに高めることができる。
【0018】
(7)本発明の一態様(5)または(6)では、
前記給電部は、外部レールから給電される被給電部を含み、
前記被給電部は、
固定部と、
前記固定部に水平方向にてスライド可能に支持され、前記固定部の両端より突出する2つの可動部と、
前記2つの可動部に一つずつ取り付けられ、前記外部レールと接触して給電される2つの接触部と、
前記固定部に対して前記2つの可動部を前記ワークの幅に合わせた位置でそれぞれ保持する保持部と、
をさらに有することができる。
【0019】
こうすると、固定部の両端より突出する2つの可動部は、ワークの幅に合わせた位置にて保持部により固定部に保持される。それにより、2つの可動部に取り付けられた2つの接触部を、ワークの幅に合わせた位置に設定できる。もし、2つの接触部の位置が固定であるとすると、最も小さいサイズのワークに合わせて固定せざるを得ない。そうすると、大きいサイズのワークを処理するために表面処理槽に搬入される搬送治具は、ワークの搬送先端よりも接触部が遅れて給電レールと接触する場合には、ワークの搬送先端に電気が流れないデッドタイムが生ずる。あるいは、2つの接触部の幅とワークの幅とが不一致となることで、処理槽分割ユニットの境界で2つの接触部がそれぞれ異なる電流制御対象の給電レールと接触すると、ワークの電流制御が複雑化する。2つの接触部をワークの幅に合わせた位置に設定することによって、ワーク幅が変わっても、接触部はワークの幅方向の両端に位置するように設定され、上述したデッドタイムや電流制御の複雑性を回避することができる。
【0020】
(8)本発明の一態様(4)または(6)では、前記縦枠可動部材は、最下端面を転接面とするローラーを有することができる。ローラーは表面処理槽の底部側と転接するので、搬送治具の下端部をローラーにより搬送案内することができる。
【0021】
(9)本発明の一態様(3)では、
前記垂直部材は、
縦枠固定部材と、
前記縦枠固定部材に対して垂直方向にスライド可能に支持される縦枠可動部材と、
前記縦枠可動部材の下端部に支持される基端部から自由端部に向けて水平に延びる下側横枠可動部材と、
を含み、
前記縦枠固定部材に前記上部可動チャック部材が支持され、
前記下側横枠可動部材に下部可動チャック部材を支持することができる。こうすると、ワークの下部を下部可動チャック部材により安定して保持することができる。
【0022】
(10)本発明の一態様(9)では、前記2つの可動部材にそれぞれ設けられた2つの前記下側横枠可動部材の前記自由端を水平方向に移動案内する案内部をさらに有することができる。こうすると、搬送治具の幅を可変しても、2つの下側横枠可動部材の自由端は案内部に案内されて水平方向に移動するので、2つの下側横枠可動部材を同一直線上に維持しながら、幅可変動作を円滑に実施することができる。
【0023】
(11)本発明の一態様(4)または(10)では、前記縦枠可動部材は、前記ワークの側部をチャックする側部固定チャック部材をさらに有することができる。こうすると、例えばワークの厚さが例えば30μm以下の極薄であっても、矩形ワークの4辺を保持してワークを撓ませずに保持することができる。
【0024】
(12)本発明の一態様(4)、(10)または(11)では、縦方向に延びる前記縦枠可動部材は、前記ワークの主面と平行な第1面の幅よりも前記ワークの主面と直交する第2面の幅が短い板状部材で形成することができる。こうすると、ワークの主面と平行な方向に搬送治具を搬送させても、縦枠可動部材に作用する液圧が少なくなる。よって、搬送治具を安定して搬送させることができる。
【0025】
(13)本発明の一態様(1)〜(12)では、前記搬送部は、前記ワークの主面と平行に延びる軸の廻りに前記ワーク保持部を回動自在に支持することができる。こうすると、搬送時に搬送治具に作用する揺れの外力を軸の廻りの回動により逃がすことができる。それにより、ワークへの衝撃を緩和することができる。
【0026】
(14)本発明の他の態様は、
ワークの上端部の幅に合わせて、前記上端部の両端部をチャックする位置が可変である2つのチャック部材を含むワーク保持部と、
前記2つのチャック部材を介して前記ワークに給電する給電部と、
を備えた搬送治具であって、
前記給電部は、外部から給電される被給電部を含み、
前記被給電部は、
固定部と、
前記固定部に水平方向にてスライド可能に支持され、前記固定部の両端より突出する2つの可動部と、
前記2つの可動部の各々に取り付けられ、外部レールと接触して給電される接触部と、
前記固定部に対して前記2つの可動部を前記ワークの幅に合わせた位置でそれぞれ保持する保持部と、
をさらに有する搬送治具に関する。
【0027】
本発明の他の態様は、(7)にて上述した本発明の一態様に課係る発明を独立項として定義したものであり、(7)にて上述した通りワークの搬送先端に電気が流れないデッドタイムを生じることがない。
【0028】
(15)本発明のさらに他の態様は、
処理液が収容され、上端開口を有する表面処理槽と、
前記表面処理槽の前記処理液中に配置させてワークをそれぞれ保持する(1)〜(14)のいずれかに記載の複数の搬送治具と、
を有する表面処理装置に関する。
【0029】
本発明のさらに他の態様に係る表面処理装置によれば、上述した(1)〜(14)にて説明した作用・効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0032】
1.表面処理装置の概要
図1は、上部開口200Aを有するメッキ槽(広義には表面処理槽)200を有する連続メッキ処理装置(広義には表面処理装置)10の概略断面図である。搬送治具30は、図示しない陽極を備えたメッキ槽200の上部開口200Aよりメッキ液Q内に垂下されるようにワーク20(
図3)を保持する。
【0033】
図1の一部を拡大して示す
図2に示すように、連続メッキ処理装置10は、メッキ槽200に隣接して、給電部260、駆動部270及び案内部280を有する。給電部260は、搬送治具30と接触してワーク20(
図3)に給電する。駆動部270は、搬送治具30に駆動力を付与して搬送治具30をメッキ槽200内で連続搬送駆動する。案内部280は、搬送治具30と接触して搬送治具30を連続搬送案内する。
【0034】
給電部260は、本出願人による特開2009−132999号及び特開2013−011009号に示す陰極分割方式が採用される場合、複数例えば4本の給電レール260A〜260Dを含むことができる。なお、給電部260は、陰極分割方式が採用されない場合には、1本の給電レールで構成することができる。これら給電レール260A〜260Dは、メッキ槽200の長手方向と平行な第1方向A(
図3参照)に沿って延設される。
【0035】
駆動部270は、例えば本出願人による特開2012−046782号と同様に、回転駆動部材例えばスプロケット271と、スプロケット271により駆動されるチェーン等の無端状駆動部材272と、無端状駆動部材272に固定される歯付ブロック273とを含むことができる。無端状駆動部材272は、メッキ槽200の長手方向と平行な第1方向A(
図1参照)に沿って延設される。これに代えて、駆動部270は、例えば本出願人による特許第6117891号公報に示すように、分割領域毎にそれぞれ配置されて交互駆動される2本のプッシャーを含むものでも良いし、その他の連続駆動方式を採用することができる。
【0036】
案内部280は、少なくとも天面が平坦な例えば断面矩形の案内レールで形成することができる。案内レール280は、メッキ槽200の長手方向と平行な第1方向A(
図3参照)に沿って延設される。
【0037】
2.搬送治具
次に、搬送治具30について、
図3〜
図5も参照して説明する。搬送治具30は、
図1〜
図3に示すように、水平アーム部300と、この水平アーム部300垂下される垂直アーム部301とを有する。
【0038】
水平アーム部300は、
図3に示すように、第1方向(搬送方向)Aと直交(広義には交差)する第2方向Bに沿って延びる。この水平アーム部300には、被給電部310、被駆動部320及び被案内部330が設けられる。
【0039】
被給電部310は、メッキ装置10に設けられた給電部260から給電される部分である。本実施形態の被給電部310は、複数の給電レール260A〜260Dの一つと接触する。本実施形態では、水平アーム部300に対して第2方向Bにて位置が異なる複数箇所の各一つに被給電部310が取り付けられた複数種類の搬送治具30が用意される。複数種類の搬送治具30の各一つが、複数の給電レール260A〜260Dの各一つと接触する。
【0040】
本実施形態では、搬送治具30の部品を共通化して、複数の給電レール260A〜260Dの任意の一つと接触する構造を採用した。そのために、搬送治具30は、
図3に示すように、被給電部310を支持する支持部311が、水平アーム部300と直交して配置される。水平アーム部300は、第2方向Bで異なる位置に設けられた複数の取付部(例えばねじ孔)を有する。この複数の取付部の一つに、支持部311が取り付けられる。あるいは、支持部311は、搬送治具30の例えば水平アーム部300に設けられたれ複数のガイド軸(図示せず)に沿って第2方向Bにスライド可撓に支持され、複数の給電レール260A〜260Dの任意の一つと対応する位置に固定されても良い。こうすると、2つの接触部312,312の水平姿勢をより維持し易くすることができる。
【0041】
図3に示す支持部311には、
図2に示す給電レール260(給電レール260A〜260D)に接触する少なくとも一つ例えば2つの接触部312が設けられる。
図5は、接触部312の支持構造を示している。被給電部310は、支持部311と接触部312とを例えば2本の平行リンク313A,313Bで連結する四節回転連鎖の平行リンク機構313を有する。2本のリンク313A,313Bは、付勢部材であるねじりコイルスプリング314,314により、常時時計廻り方向に移動付勢されている。この結果、接触部312を給電レール260に適度な接触圧にて接触させることができる。
【0042】
被駆動部320は、メッキ装置10に設けられた駆動部270から駆動力が付与されて搬送治具30を連続搬送駆動する。被駆動部320は、
図3に示すように、チェーン272に固定された歯付ブロック273(
図2)に噛合される複数例えば4個の爪部材321〜324を有している。4つの爪部材321〜324のいずれか一つを歯付ブロック273の歯に噛合させるために、4つの爪部材321〜324の噛合先端位置がA方向にてずらして配置される。こうして、4つの爪部材321〜324のいずれか一つが、チェーン272に固定された歯付ブロック273(
図2)と係合することで、搬送治具30は連続搬送駆動される。
【0043】
被案内部330は、
図2に示す案内レール280の天面に接触するローラー331を有する。それにより、駆動部270により連続搬送駆動される搬送治具30は、摩擦抵抗を小さくして搬送案内される。被案内部330は、
図3及び
図4に示す第2方向Bでの搬送治具30の移動を規制するために、案内レール280の例えば両側面に転接する追加のローラー334,335をさらに有することができる(
図2も参照)。第2方向Bでの搬送治具30の移動規制は、案内レール280とは異なる領域で実施されても良い。なお、ローラー331は、有限長さを有する給電レール間の継ぎ目に生ずる隙間の衝撃を受けにくい適切な直径を有している。また、ローラー331,334,335は、例えばメッキ設備特有の酸やアルカリ等の環境に耐えうる材質例えばポリプロピレンなどで形成される。
【0044】
3.搬送治具のワーク保持部
搬送治具30は、
図2、
図3及び
図4に示すように、水平アーム部300に垂直アーム部301を介して支持されて垂下されるワーク保持部500を有する。ここで、水平アーム部300と、それに支持される被駆動部320及び被案内部330とを、搬送部と総称する。ワーク保持部500は、搬送部より垂下して支持される。ワーク保持部500は、例えばワーク20の厚さが100μm以下、好ましくは60μm以下のように極薄のワーク20に好適に用いられる。本実施形態では、ワーク20の厚さは例えば40μm=0.04mmである。ただし、ワーク20は厚さが100μmを超えるものであっても良い。
【0045】
ワーク保持部500は、
図3及び
図4に示すように、矩形ワーク20の幅に合わせて全幅が可変である。このために、ワーク保持部500は、水平に延びる固定部材510と、固定部材510にスライド可能に支持され、固定部材510の両端より突出する2つの可動部材550と、を含む。固定部材510には、ワーク20の上端部をチャックする少なくとも一つ例えば2つの上部固定チャック部材600が支持されている。2つの可動部材550の各々には、ワーク20の上端部をチャックする上部可動チャック部材610が支持されている。そして、2つの可動部材550のスライド位置を調整することで、ワーク20の幅に合わせた位置に上部可動チャック部材610,610が移動されて、ワーク20の幅方向の両端部にて、ワーク20の上端部が上部可動チャック部材610,610にチャックされる。なお、固定部材510に対して2つの可動部材550をワーク20の幅に合わせた位置でそれぞれ保持する保持部材530を設けることができる。保持部材530については後述する。
【0046】
このように、固定部材510の両端より突出する2つの可動部材550,550は、ワーク20の幅に合わせた位置に設定される。その2つの可動部材550,550の各々に取り付けられた上部可動チャック部材610,610がワーク20の幅方向の両端部にて、固定部材510に取り付けられた上部固定チャック部材600,600がワーク20の幅方向の中央部にて、それぞれワーク20の上端部をチャックする。こうして、幅サイズの異なるワーク20を、そのワーク20の幅に合わせてチャックすることで、安定してワークを保持することが可能になる。
【0047】
ここで、固定部材510は、2枚の固定板520,522を有する。この2枚の固定板520,522の間に、2つの可動部材550,550が水平方向にてスライド可能に支持される。一方の固定板522が下方に延長された延長部524に、2つの上部固定チャック部材600,600が支持されている。
【0048】
2枚の固定板520,522は、連結部材525を介して垂直アーム部301に固定されている。連結部材525には、軸受540,540によりスライド案内される水平な2本のガイド軸541,541が支持される。2本のガイド軸541,541の端部は、2つの可動部材550,550に固定される。
【0049】
本実施形態では、2つの可動部材550,550の各々は、固定部材(横枠固定部材とも言う)510にスライド可能に支持される上側横枠可動部材560と、上側横枠可動部材560に固定される垂直部材562と、を含むことができる。この場合、上部可動チャック部材610を、上側横枠可動部材560または垂直部材562に支持することができる。本実施形態では、上部可動チャック部材610は、上側横枠可動部材560ではなく垂直部材562に支持されている。こうすると、
図4に示すように、最小幅サイズに設定される場合に、2つの上部可動チャック部材610,610と干渉せずに、2つの上側横枠可動部材560を固定部材(横枠固定部材)510に収容することができる。それにより、最小幅サイズを小さくできる。
【0050】
本実施形態では、垂直部材562は、縦枠固定部材570と、縦枠固定部材570に対して垂直方向にスライド可能に支持される縦枠可動部材580と、縦枠可動部材580の下端部に支持され、ワーク20の下端部をチャックする下部可動チャック部材620と、を含むことができる。この場合、上部可動チャック部材610は、縦枠固定部材570に支持することができる。
【0051】
こうすると、2つの上側横枠可動部材560と共に2つの縦枠固定部材570もワークの幅に合わせて移動されるので、この2つの縦枠固定部材570に取り付けられた上部可動チャック部材610により、ワーク20の上端部をワークの幅に合わせて位置にてチャックすることができる。加えて、2つの上側横枠可動部材560と共に2つの縦枠可動部材580もワーク20の幅に合わせて移動されるので、この2つの縦枠可動部材580に取り付けられた下部可動チャック部材620により、ワーク20の下端部もワークの幅に合わせて位置にてチャックすることができる。それにより、特にごく薄いワーク20を表面処理対象とする場合でも、ワーク20の上下端部をチャックして、表面処理液の圧力によりワーク20が撓むことなく、ワーク20の垂下状態の姿勢を保持することができる。なお、2つの縦枠可動部材580,580を図示しない下部横枠部材で連結し、かつ、この下部横枠部材の幅を可変としても良い。下部横枠部材は、例えば上部横枠部材である固定部材510及び2つの横枠可動部材560,560と同様にして形成することができる。下部横枠部材についても、保持部材530は必須ではない。
【0052】
また、本実施形態では、縦枠可動部材580は、最下端面を転接面とするローラー630を有することができる。ローラー630は表面処理槽200の底部側と転接するので、搬送治具30の下端部をローラー630により搬送案内することができる。
【0053】
ここで、縦枠固定部材570は、
図6に示すように平行な2枚の縦枠固定板571,572を含むことができる。この2枚の縦枠固定板571,572の間に、縦枠可動部材580が垂直方向にてスライド可能に支持される。縦枠可動部材580の上端部にはストッパー581が設けられている。
図6に鎖線で示すように、ワーク20がチャックされていない場合には、ストッパー581は、2枚の縦枠固定板571,572の上端部に当接することで、縦枠可動部材580の下限ストッパーとして機能する。ワーク20の上下端部がチャック600〜620によりチャックされると、ワーク20の長さにより縦枠可動部材580の位置が自ずから定まる。従って、本実施形態では
図6に示す長さL(例えばL=200mm)の範囲で全長が異なるワーク20を取り付けることが可能となる。このように、本実施形態によれば、幅及び長さの一方又は双方が異なる複数サイズのワーク20に兼用できる搬送治具30を提供することができる。従って、ワークサイズ毎に専用の複数の搬送治具を備える場合と比べて、大幅なコストダウンが可能となる。なお、搬送治具30は、ワーク20の幅に合わせて幅のみを可変とするもの、あるいは、ワーク20の長さに合わせて長さのみを可変とするものであっても良い。
【0054】
本実施形態では、ワーク20に給電する給電部をさらに有することができる。
図3は、ワーク20の上端部に給電する給電部を示している。この給電部は、固定部材510を介して2つの上部固定チャック部材600に給電する第1給電部701と、2つの垂直部材562の例えば2つの縦枠固定部材570を介して2つの前記上部可動チャック部材に給電する第2給電部702,702と、を含むことができる(
図4では、第1,第2給電部701,702は省略されている)。これら第1,第2給電部701,702,702は、例えば導電ケーブルで形成することができる。また、搬送治具30の2つの接触部312から第1,第2給電部701,702,702へは、支持部311、水平アーム部300、垂直アーム部301の導電経路を介して給電することができる。これに代えて、支持部311から垂直アーム部301に導電ケーブルを介して給電しても良い。
【0055】
こうして、第1給電部701から上部固定チャック部材600に給電するルートと、第2給電部702から上部可動チャック部材610に給電するルートとに分離することで、各ルートの抵抗値や電流値を独立して設定でき、それにより、ワーク20の電流分布の面内均一性を向上させて、ワーク20の表面処理品質をさらに高めることができる。なお、固定部材510と上側横枠可動部材560とが電気的に導通していても、両者は相対的にスライド移動する関係にあることから両者間の電気抵抗が大きいので、上部可動チャック部材610には実質的に第2給電部702から給電される。
【0056】
次に、上部固定チャック部材600、上部可動チャック部材610及び下部可動チャック部材620に共通する構成について、
図7(A)〜
図7(C)を参照して説明する。なお、
図7(A)〜
図7(C)に示す構造は、上部固定チャック部材600、上部可動チャック部材610及び下部可動チャック部材620として図示された形状と一部異なるが、圧接構造としては同じである。
【0057】
図7(A)〜
図7(C)では、ベース板700(例えば固定板522の延長部524)にはホルダー710が固定される。ホルダー710は、軸720を支持する。軸720に、チャック部材800が揺動可能に支持される。チャック部材800は、軸720に挿通された捩じりコイルスプリング730により付勢力が付与される。チャック部材800は、一端部にチャック端820を有し、他端部側にレバー830を有する。ホルダー710は、ワーク保持部500に取り付けられた際に垂直となる垂直面740を含む。この垂直面740は、ホルダー710に揺動可能に支持されるチャック部材800のチャック端820と対向する領域にて局所的に、ホルダー710から下方または上方に延びて設けることができる。チャック部材800は、垂直面740に対して接離される。つまり、チャック部材800のチャック端820と垂直面740との間でワーク20の上端部または下端部が挟持され、その挟持状態は捩じりコイルスプリング730の付勢力により維持される。コイルスプリング730の付勢力に抗してレバー830に外力F1を付与することで、チャック部材800のチャック端820は垂直面740から遠ざかる方向に移動して、ワーク20の挟持状態が解除される。
【0058】
このように、ワーク20の上端部または下端部を挟む一対の部材の一方を、複数のチャック部材800を揺動自在に支持するホルダー710に設けた垂直面740とすることで、部材点数が減少する。さらに、複数のチャック部材800と対向する領域に形成された垂直面740に倣ってワーク20の垂直姿勢を確保することができる。なお、垂直面740は、ホルダー710ではなくベース板700に設けても良く、この場合でも同様の作用・効果を奏することができる。
【0059】
次に、上側横枠可動部材560のスライド位置を位置決めする保持部材530について、
図8を参照して説明する。なお、
図8に示す保持部材530の構造のうち、
図7(A)〜
図7(C)に示すチャック部材の構造と同一機能を有する部材については、
図7(A)〜
図7(C)と同じ符号を付している。ただし、
図8に示す保持部材530には、面740は形成されない。
図8に示すように、固定部材510に例えば4つ配置されている保持部材530は、
図8に示す共通の構造を有する。
図8において、上側横枠可動部材560は、固定部材510を構成する2枚の固定板520,522の間を水平にスライド移動され、保持部材530により保持される。
【0060】
保持部材530は固定板520に配置される。つまり、ホルダー710は固定板520に固定される。固定板520には、チャック部材800のチャック端820が出入り可能なスリット孔521が形成される。
図7(B)と同様に、コイルスプリング730の付勢力に抗してレバー830に外力F1を付与させることで、チャック部材800のチャック端820は上側横枠可動部材560から離される。それにより、固定板520,522間で上側横枠可動部材560を水平方向にてスライド移動させることができる。
図7(B)に示す外力F1を解除すると、チャック部材800のチャック端820と固定板722との間で上側横枠可動部材560が挟持され、その挟持状態は捩じりコイルスプリング730の付勢力により維持される。それにより、上側横枠可動部材560は、ワーク20の幅に合わせて調整された位置にて、保持部材530により保持される。
【0061】
なお、保持部材530は
図8に示す構造に限らず、蝶ネジ等で上側横枠可動部材560を位置決め保持できればよい。さらに、必ずしも保持部材530を設ける必要はなく、例えば2枚の固定板520,522間の間隙と上側横枠可動部材560の厚さとの関係から、嵌合による摩擦力で上側横枠可動部材560を保持させても良い。
【0062】
4.給電部の変形例
図9は、ワーク20の上端部及び下端部に給電する給電部を示している。この給電部は、2つの上部固定チャック部材600に給電する第1給電部701と、2つの垂直部材562の例えば2つの縦枠固定部材570を介して2つの上部可動チャック部材に給電する第2給電部702,702と、2つの縦枠可動部材580を介して2つの下部可動チャック部材620,620に給電する第3給電部703,703と、含むことができる。これら第1〜第3給電部701〜703は、例えば導電ケーブルで形成することができる。なお、この場合、縦枠固定部材570と縦枠可動部材580とは電気的に絶縁されることが好ましい。
【0063】
こうして、第1給電部701から上部固定チャック部材600に給電するルートと、第2給電部702から上部可動チャック部材610に給電するルートと、第3給電部703から下部可動チャック部材620に給電するルートとに分離することで、各ルートの抵抗値や電流値を独立して設定でき、それにより、ワーク20の電流分布の面内均一性をより向上させて、ワーク20の表面処理品質をさらに高めることができる。
【0064】
4.接触部の幅可変機構
図10は、
図3及び
図4に示す2つの接触部312,312の幅をワーク20の幅に合わせて調整可能な搬送治具の被給電部を模式的に示す平面図である。
図10において、水平アーム部300に固定される固定部311Aには、固定部311Aより突出する2つの可動部900,900が搬送方向Aに沿ってスライド可能に支持される。2つの接触部312は、この2つの可動部900,900にそれぞれ支持される。固定部311Aには、2つの可動部900,900を位置調整後に保持する上述した保持部材530と同様な構造を有する保持部910が設けられる。
図10では保持部910は模式的に示され、固定部311Aに形成されるスリット孔311Bを介して可動部900と圧接されるチャック部材800のみが示されている。なお、接触部312,312は給電レール260に押圧接触して移動されるため、接触部312,312の間隔を保持する保持部910は必須である。ただし、保持部910は
図8に示す構造に限らず、例えば蝶ネジ等でも良い。
【0065】
固定部311Aの両端より突出する2つの可動部900,900は、ワーク20の幅に合わせた位置にて保持部910により固定部311Aに保持される。それにより、2つの可動部900,900に取り付けられた2つの接触部312,312を、ワーク20の幅に合わせた位置に設定できる。もし、2つの接触部312,312の位置が固定であるとすると、最も小さいサイズのワーク20に合わせて固定される。そうすると、大きいサイズのワーク20を処理するために表面処理槽200に搬入される搬送治具30は、ワーク20の搬送先端よりも接触312部が遅れて給電レール260と接触する場合もあるので、ワーク20の搬送先端に電気が流れないデッドタイムが生ずる。あるいは、2つの接触部312,312の幅とワーク20の幅とが不一致となることで、2つの処理槽分割ユニットの境界で2つの接触部312,312がそれぞれ異なる電流制御対象の給電レール260と接触すると、ワーク20の電流制御が複雑化する。2つの処理槽分割ユニットの境界をワーク20が通過する時、上流のユニットでは電流漸減制御され、下流のユニットでは電流漸増制御される。この制御を、ワーク20の幅だけでなく2つの接触部312,312の幅も考慮して実施する必要があるからである。2つの接触部312,312をワーク20の幅に合わせた位置に設定することによって、ワーク20の幅が変わっても、接触部312,312はワーク20の幅方向の両端に位置するように設定され、上述したデッドタイムや電流制御の複雑性を回避することができる。
【0066】
5.極薄ワークを保持可能なワーク保持部の変形例
図11及び
図12は、特に厚さが薄いワーク例えば30μm以下の厚さのワークであっても確実に保持できる搬送治具30Aを示している。
図11及び
図12に示す搬送治具30Aにおいて、
図3及び
図4に示す搬送治具30の部材と同一機能を有する部材については、同一符号を付してその説明を省略する。
図11及び
図12において、500〜600番台の符号が付された部材については、既に
図3及び
図4に記載された搬送治具30として説明済である。つまり、
図11及び
図12に示す搬送治具30Aは、矩形ワーク20の幅及び/又は長さに合わせて上部可動チャック部材610と下部可動チャック部材620の位置を可変できる点において、
図3及び
図4に記載された搬送治具30と同じである。ただし、
図11及び
図12に示す搬送治具30Aは、特に厚さが薄いワーク20の上部及び下部を幅広のチャック部材600,610,620で把持するようにしている。
【0067】
このために、搬送治具30Aは、2つの縦枠可動部材580の下端部に支持される基端部から自由端部に向けて水平に延びる2つの下側横枠可動部材700を有している。そして、2つの下側横枠可動部材700に少なくとも一つ好ましくは複数の下部可動チャック部材620を支持することができる。こうすると、
図12に示すように搬送治具30Aの幅が広げられたとしても、ワーク20の下部を比較的長い範囲に亘って下部可動チャック部材620で把持することができる。
【0068】
また、2つの下側横枠可動部材700の自由端を水平方向に移動案内する案内部710をさらに設けることができる。案内部710は、2つの下側横枠可動部材700にそれぞれ固定された軸受712,714を有することができる。軸受712は、軸712Aの一端が固定され、軸受714は軸712Aを軸方向に移動自在に案内する。同様に、軸受714は、軸714Aの一端が固定され、軸受712は軸714Aを軸方向に移動自在に案内する。こうすると、搬送治具30Aの幅を可変しても、2つの下側横枠可動部材700の自由端は案内部710に案内されて水平方向に移動するので、2つの下側横枠可動部材700を同一直線上に維持させながら、幅可変動作を円滑に実施することができる。
【0069】
搬送治具30Aの2つの縦枠可動部材580の各々は、矩形ワーク20の側部をチャックする少なくとも一つ好ましくは複数の側部固定チャック部材720をさらに有することができる。側部固定チャック部材720のチャック部分も幅広に形成されることが好ましい。こうすると、例えばワークの厚さが例えば30μm以下の極薄であっても、矩形ワークの4辺をチャック部材600,610,620,720により保持して、ワーク20を撓ませずに保持することができる。
【0070】
搬送治具30Aでは、縦枠可動部材580が縦方向に延びる点では搬送治具30と同じであるが、搬送治具30とは異なる点として、縦枠可動部材580は、ワーク20の主面と平行な第1面の幅W1よりもワーク20の主面と直交する第2面の幅W2が短い、幅W2を厚さとする板状部材で形成することができる(
図12参照)。こうすると、ワーク20の主面と平行な搬送方向Aに沿って搬送治具30Aを搬送させても、縦枠可動部材580に作用する液圧が少なくなる。よって、搬送治具30Aを安定して搬送させることができる。
【0071】
図3、
図4、
図11及び
図12に示す搬送治具30,30Aに共通する構造として、搬送部側の連結部525は、ワーク20の主面と平行に延びる軸541の廻りにワーク保持部500を回動自在に支持することができる。こうすると、搬送時に搬送治具30,30Aに作用する揺れの外力を軸541の廻りの回動により逃がすことができる。それにより、搬送治具30,30Aに保持されるワーク20への衝撃を緩和することができる。
【0072】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また本実施形態及び変形例の全ての組み合わせも、本発明の範囲に含まれる。