(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647652
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】光学ヘッドおよび計測装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20200203BHJP
【FI】
G01N21/65
【請求項の数】17
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-507022(P2019-507022)
(86)(22)【出願日】2018年3月23日
(86)【国際出願番号】JP2018011683
(87)【国際公開番号】WO2018174244
(87)【国際公開日】20180927
【審査請求日】2019年9月18日
(31)【優先権主張番号】特願2017-57297(P2017-57297)
(32)【優先日】2017年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】石光 義幸
【審査官】
吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−49043(JP,A)
【文献】
特表2016−541027(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/123087(WO,A2)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0050146(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/65
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形ラマン効果を得るための周波数帯または周波数の異なる複数の光を第1のポイントに集光する第1のモジュールと、
前記第1のポイントから発せられる測定対象の光を採取する第2のモジュールと、
前記第1のモジュールおよび前記第2のモジュールを支持する第3のモジュールとを有し、
前記第1のモジュールは、高剛性の第1のフレームと、
前記第1のフレームに固定された複数の光学素子を含む第1の光学システムとを含み、
前記第2のモジュールは、高剛性の第2のフレームと、
前記第2のフレームに固定された複数の光学素子を含む第2の光学システムとを含み、
前記第3のモジュールは、前記第1のフレームおよび前記第2のフレームを固定する高剛性の第3のフレームを含む、光学ヘッド。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1のモジュールは、前記第1の光学システムに含まれる少なくとも1つの光学素子の前記第1のフレームに対する取付位置を調整した後に固定する機構を含み、
前記第2のモジュールは、前記第2の光学システムに含まれる少なくとも1つの光学素子の前記第2のフレームに対する取付位置を調整した後に固定する機構を含む、光学ヘッド。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1のフレームは2次元的に広がった領域を含み、前記第1の光学システムに含まれる前記複数の光学素子が前記第1のフレームに2次元的に配置されている、光学ヘッド。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記第2のフレームは2次元的に広がった領域を含み、前記第2の光学システムに含まれる前記複数の光学素子が前記第2のフレームに2次元的に配置されている、光学ヘッド。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記複数の光の少なくともいずれかを供給する第1のレーザー光供給ユニットおよび第2のレーザー光供給ユニットであって、前記第1のフレームに固定された第1のレーザー光供給ユニットおよび第2のレーザー光供給ユニットを有し、
前記第1の光学システムの前記複数の光学素子は、前記第1のレーザー光供給ユニットから供給される第1のレーザー光および前記第2のレーザー光供給ユニットから供給される第2のレーザー光を前記第1のポイントに照射する共通の第1の対物レンズへ導く光学経路を構成する複数の光学素子を含み、さらに、
前記第1のレーザー光供給ユニットの前記第1のレーザー光の光軸に対する垂直な2次元方向の位置を前記第1のフレームに対して調整する第1のXY位置調整ユニットと、
前記第2のレーザー光供給ユニットの前記第2のレーザー光の光軸に対する垂直な2次元方向の位置を前記第1のフレームに対して調整する第2のXY位置調整ユニットとを有する、光学ヘッド。
【請求項6】
請求項5において、
前記第1のレーザー光を平行光にする第1のコリメータレンズと、
前記第2のレーザー光を平行光にする第2のコリメータレンズと、
前記第1のコリメータレンズの前記第1のレーザー光の光軸方向の位置を前記第1のフレームに対して調整する第1のZ位置調整ユニットと、
前記第2のコリメータレンズの前記第2のレーザー光の光軸方向の位置を前記第1のフレームに対して調整する第2のZ位置調整ユニットとを含む、光学ヘッド。
【請求項7】
請求項6において、
前記第1のZ位置調整ユニットは、前記第1のレーザー光供給ユニットとともに前記第1のXY位置調整ユニットを介して前記第1のフレームに固定され、
前記第2のZ位置調整ユニットは、前記第2のレーザー光供給ユニットとともに前記第2のXY位置調整ユニットを介して前記第1のフレームに固定されている、光学ヘッド。
【請求項8】
請求項7において、
前記第1のレーザー光供給ユニットは、前記第1のコリメータレンズに対して前記第1のレーザー光の光軸に対する垂直な2次元方向の位置を調整するユニットを含み、
前記第2のレーザー光供給ユニットは、前記第2のコリメータレンズに対して前記第2のレーザー光の光軸に対する垂直な2次元方向の位置を調整するユニットを含む、光学ヘッド。
【請求項9】
請求項5ないし8のいずれかにおいて、
前記第1のレーザー光供給ユニットは、前記第1のレーザー光を供給するレーザー素子または前記第1のレーザー光を供給する光ファイバーとの第1のコネクタを含み、
前記第2のレーザー光供給ユニットは、前記第2のレーザー光を供給するレーザー素子または前記第2のレーザー光を供給する光ファイバーとの第2のコネクタを含む、光学ヘッド。
【請求項10】
請求項5ないし9のいずれかにおいて、
前記第1の対物レンズの光軸方向の位置を前記第1のフレームに対して調整するフォーカス調整ユニットを含む、光学ヘッド。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかにおいて、
前記第1のポイントにサンプルが固定される第4のモジュールを有し、
前記第4のモジュールは、前記第3のフレームに固定される高剛性の第4のフレームと、前記第4のフレームに固定されたサンプルホルダーとを含む、光学ヘッド。
【請求項12】
請求項11において、
前記第4のモジュールは、前記サンプルホルダーの向きを調整した後に固定する機構を含む、光学ヘッド。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかにおいて、
前記第2の光学システムの前記複数の光学素子は、前記測定対象の光を集光する第2の対物レンズから、前記測定対象の光を受光する受光ユニットまでの光学経路を構成する複数の光学素子を含む、光学ヘッド。
【請求項14】
請求項13において、
前記受光ユニットの前記測定対象の光の光軸に対する垂直な2次元方向の位置を前記第2のフレームに対して調整する第3のXY位置調整ユニットと、
前記第2の対物レンズの前記測定対象の光の光軸方向の位置を前記第2のフレームに対して調整するフォーカス調整ユニットとを含む、光学ヘッド。
【請求項15】
請求項13または14において、
前記受光ユニットは、前記測定対象の光を検出する検出器、または前記測定対象の光を検出器へ導く第3の光ファイバーとの第3のコネクタを含む、光学ヘッド。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれかにおいて、
前記測定対象の光は、誘導ラマン散乱またはコヒーレントアンチストークスラマン散乱の少なくともいずれかによって発せられた光を含む、光学ヘッド。
【請求項17】
請求項1ないし15のいずれかに記載の光学ヘッドと、
前記複数の光を出力する光源ユニットと、
前記測定対象の光を検出する検出器とを有する計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形ラマン分光法を利用する光学ヘッドおよび計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本国特開2009−222531号には、シンプル・コンパクトかつ廉価でありながら、高い性能を有する、非線形分光計測システム用の光源装置を提供することが記載されている。この文献の光源装置は、0.1〜10ナノ秒のパルス幅の光パルスを出射するレーザー光源と、前記レーザー光源から出射された光パルスが入射され、当該光パルスを広帯域化してスーパーコンティニューム光を生成して出射するフォトニック結晶ファイバと、からなり、フォトニック結晶ファイバから出射されたスーパーコンティニューム光を用いて非線形分光計測を行う、非線形分光計測システム用の光源装置が記載されている。
【発明の開示】
【0003】
ラマン分光法の1つの用途は、生きた細胞内の分子分布やそのダイナミクスを非染色で観測することである。ラマン分光法により、血液内のグルコースなどの成分の濃度を非侵襲で測定することも研究されている。一般に、ラマン散乱の散乱断面積は非常に小さい。このため、生細胞や血液中のグルコースなどの測定対象物から良好なラマンスペクトルを得るためには数秒から数分の露光時間を必要とする。非線形ラマン分光法の1つであるコヒーレントアンチストークスラマン散乱(Coherent AAnti−Stokes Raman Scattering:以下、CARSと呼ぶ)分光法は、微弱なラマン信号を増幅し、ラマンイメージを高速に得ることのできる方法である。CARS過程では、一般に波長の異なる二つの光パルス(ポンプ光とストークス光)を必要とし、この光パルスの振動数差が分子振動と一致したときに、非常に強いCARS光が発生する。
【0004】
CARS光を得る方法として、ストークス光として広帯域な光源を用い、発生するCARS光を分光検出する方法が知られている(多色CARS分光法、マルチプレックスCARS分光法)。この方法では、CARS光の分光スペクトルからラマンスペクトルを推定できるため、特定のスペクトル成分のみを検出する方式に比べて取得できる情報が多く、短時間でより多くの情報を取得できる。広帯域のストークス光を得る1つの方法は、フォトニック結晶ファイバー(PCF)などの光ファイバーにレーザー光を導入することにより、内部で広帯域な光(スーパーコンティニューム光と呼ばれる)が発生する現象を利用することである。スーパーコンティニューム光はPCFからの出射後に、ポンプ光(励起光)より長波長の成分のみがロングパスフィルタにより抽出され、ストークス光として用いられ、ポンプ光とともにダイクロィックミラーなどにより合波され、測定対象物(サンプル)に集光するように照射される。測定対象物で発生したCARS光は、分光器に導かれてスペクトルが計測(検出)される。
【0005】
CARS分光法において、サンプルに照射するポンプ光とストークス光は光軸位置と角度とを精度よく一致させる必要があり、ずれによりCARS光の発生効率が低下する可能性がある。このため、CARS顕微鏡などのCARS分光法を用いたシステムは、大型の安定したステージ上にポンプ光、ストークス光およびCARS光の光路を構成する複数の光学素子を配置し、それらの光学素子の位置を微細に制御している。したがって、CARS分光法を用いたシステムであって、ハンディでどこでも持ち運びできたり、さらには、身体に装着可能な程度にまでコンパクトにして、ウェアラブルな機器に組み込み可能とする技術は提供されていなかった。
【0006】
本発明の一態様は、非線形ラマン効果を得るための周波数帯または周波数の異なる複数の光、例えばCARSにおけるポンプ光およびストークス光を第1のポイントに集光する第1のモジュールと、第1のポイントから発せられる測定対象の光、例えばCARS光を採取する第2のモジュールと、第1のモジュールおよび第2のモジュールを支持する第3のモジュールとを有する光学ヘッドである。第1のモジュールは、高剛性の第1のフレームと、第1のフレームに固定された複数の光学素子を含む第1の光学システムとを含む。第2のモジュールは、高剛性の第2のフレームと、第2のフレームに固定された複数の光学素子を含む第2の光学システムとを含む。さらに、第3のモジュールは、第1のフレームおよび第2のフレームを固定する高剛性の第3のフレームを含む。
【0007】
この光学ヘッドにおいては、非線形ラマン分光光学系を構成する多数の光学素子のうち、ポンプ光およびストークス光などの周波数帯または周波数の異なる複数の光を第1のポイントに集光するための複数の光学素子を高剛性の第1のフレームに固定して集積化できる。一方、測定対象の光を採取するための複数の光学系を、第1のフレームと異なる高剛性の第2のフレームに固定することにより集積化できる。このため、集光側の光学素子と採取側の光学素子とを個別のフレームに固定することにより集積化と位置調整とが可能となり、コンパクトで、所定のポイントに、非線形ラマン効果を得るための複数の光を精度よく集光できる光学ヘッドを提供できる。
【0008】
第1のモジュールは、第1の光学システムに含まれる少なくとも1つの光学素子の第1のフレームに対する取付位置を調整(微調整)した後に固定する機構を含んでもよく、第1のフレームに取り付ける際に、複数の光のフォーカシング調整(集光位置調整)が可能となる。同様に、第2のモジュールは、第2の光学システムに含まれる少なくとも1つの光学素子の第2のフレームに対する取付位置を調整(微調整)した後に固定する機構を含んでもよい。
【0009】
第1のモジュールにおいては、第1のフレームは2次元的に広がった領域を含み、第1の光学システムに含まれる複数の光学素子が第1のフレームに2次元的に配置されていてもよい。光学素子の取付と位置調整が容易となる。同様に、第2のフレームは2次元的に広がった領域を含み、第2の光学システムに含まれる複数の光学素子が第2のフレームに2次元的に配置されていてもよい。
【0010】
第1の光学システムは、複数の光のフォーカス調整を行う複数の光学素子を含んでいてもよい。周波数の異なる複数の光の色収差を異なる光学素子で補正できる。ストークス光としてスーパーコンティニューム光を使う場合、ストークス光に対してポンプ光のフォーカシングスポットの光強度を向上でき、CARS光のノイズを低減しやすい。
【0011】
光学ヘッドは、複数の光の少なくともいずれかを供給する第1のレーザー光供給ユニットおよび第2のレーザー光供給ユニットであって、第1のフレームに固定された第1のレーザー光供給ユニットおよび第2のレーザー光供給ユニットを有し、第1の光学システムの複数の光学素子は、第1のレーザー光供給ユニットから供給される第1のレーザー光および第2のレーザー光供給ユニットから供給される第2のレーザー光を第1のポイントに照射する共通の第1の対物レンズへ導く光学経路を構成する複数の光学素子を含んでいてもよい。さらに、光学ヘッドは、第1のレーザー光供給ユニットの第1のレーザー光の光軸に対する垂直な2次元方向の位置を第1のフレームに対して調整(微調整)する第1のXY位置調整ユニットと、第2のレーザー光供給ユニットの第2のレーザー光の光軸に対する垂直な2次元方向の位置を第1のフレームに対して調整(微調整)する第2のXY位置調整ユニットとを有していてもよい。非線形ラマン効果を得るための複数の光の光軸のXY方向の位置調整を、第1のフレームに対してそれぞれ調整できる。
【0012】
光学ヘッドは、第1のレーザー光を平行光にする第1のコリメータレンズと、第2のレーザー光を平行光にする第2のコリメータレンズと、第1のコリメータレンズの第1のレーザー光の光軸方向の位置を前記第1のフレームに対して調整(微調整)する第1のZ位置調整ユニットと、第2のコリメータレンズの第2のレーザー光の光軸方向の位置を第1のフレームに対して調整(微調整)する第2のZ位置調整ユニットとを含んでもよい。さらに、第1のZ位置調整ユニットは、第1のレーザー光供給ユニットとともに第1のXY位置調整ユニットを介して第1のフレームに固定され、第2のZ位置調整ユニットは、第2のレーザー光供給ユニットとともに第2のXY位置調整ユニットを介して第1のフレームに固定されていてもよい。非線形ラマン効果を得るための複数の光とコリメータレンズとの位置を第1のフレームに対してそれぞれ調整できる。さらに、Z位置調整ユニットを、XY位置調整ユニットを介して第1のフレームに固定することにより、それぞれのレーザー光供給ユニットを、XY位置調整ユニットを介して第1のフレームに固定する前に、レーザー光供給ユニットの単位で、Z位置調整を行うことが可能となる。それぞれのレーザー光供給ユニットは、それぞれのコリメータレンズに対してそれぞれのレーザー光の光軸に対する垂直な2次元方向の位置を調整(微調整)するユニットを含んでもよく、コリメータレンズに対するレーザー光のXY方向の位置調整を事前に行うことができる。
【0013】
それぞれのレーザー光供給ユニットは、それぞれのレーザー光を供給するレーザー素子またはそれぞれのレーザー光を供給する光ファイバーとのコネクタとを含んでもよく、レーザー光供給ユニットの単位で、レーザー素子または光ファイバーとのコネクタとコリメータレンズとの位置調整を、第1のフレームに固定する前に行ってもよい。
【0014】
光学ヘッドは、第1のポイントにサンプルが固定される第4のモジュールを有していてもよい。この第4のモジュールは、第3のフレームに固定される高剛性の第4のフレームと、第4のフレームに固定されたサンプルホルダーとを含み、第3のフレーム、第1のフレームおよび第2のフレームを介して第1の光学システムおよび第2の光学システムに対してサンプルホルダーの位置を精度よく固定できる。第4のモジュールは、サンプルホルダーの向きを調整(微調整)した後に固定する機構を含んでもよい。
【0015】
第2の光学システムの複数の光学素子は、測定対象の光を集光する第2の対物レンズから、測定対象の光を受光する受光ユニットまでの光学経路を構成する複数の光学素子を含んでもよい。光学ヘッドは、受光ユニットの測定対象の光の光軸に対する垂直な2次元方向の位置を第2のフレームに対して調整(微調整)する第3のXY位置調整ユニットと、第2の対物レンズの測定対象の光の光軸方向の位置を第2のフレームに対して調整(微調整)するフォーカス調整ユニットとを含んでもよい。測定対象の光を採取する第2の光学システムについて、光軸に垂直なXY方向と、光軸に平行なZ方向とにこれらの光学素子の位置を調整(微調整)することにより測定対象の光を効率よく検出できる。受光ユニットは、測定対象の光を検出する検出器そのものであってもよく、測定対象の光を検出器へ導く第3の光ファイバーとの第3のコネクタであってもよい。測定対象の光は、誘導ラマン散乱またはコヒーレントアンチストークスラマン散乱の少なくともいずれかによって発せられた光を含むものであってもよい。
【0016】
本発明の他の態様の1つは、上記の光学ヘッドと、複数の光を出力する光源ユニットと、測定対象の光を検出するディテクタとを有する計測装置である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図7】エミッションブロックの異なる例の内部配置を示す平面図。
【
図10】
図10(a)はレーザー光供給モジュールの概略構造を示す断面図、
図10(b)はレーザー光供給モジュールの構成を模式的に示す図。
【0018】
ラマン分光法の一種である非線形ラマン分光法として、コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)分光法、誘導ラマン散乱(Stimulated Raman Scattering:SRS)分光法などが知られている。以下においては、CARS分光法を用いた装置を例に本発明を説明する。
【0019】
図1に、CARS分光法を用いた計測装置の一例として、キュベットに保存された血液などのサンプルの成分、例えば血糖値を測定する計測装置1の構成をブロック図により示している。計測装置1は、キュベット2に保存されたサンプル3に、非線形ラマン効果を得るための複数の光のうちの、第1の光(第1のレーザー光、ポンプ光)5および第2の光(第2のレーザー光、ストークス光)6を照射して、サンプル3から発せられた測定対象の光であるCARS光7を採取する光学ヘッド10と、ポンプ光5およびストークス光6の光源となる光源ユニット20と、採取されたCARS光7を検出するディテクタ(分光器)30とを含む。計測装置1の光源はレーザー光であり、光源ユニット20は、レーザーパルスをそれぞれ出力する2つのレーザーユニット21aおよび21bを含むレーザーモジュール22と、レーザーユニット21aおよび21bから出力されるパルスの位相を制御する位相制御モジュール(フェーズ調整クロックモジュール、Phase Adjustable Dual Clock)23とを含む。
【0020】
レーザーモジュール22の一例は、半導体レーザーを光源とするDCLS(Dual−Color Lasers Source)である。このレーザーモジュール22は、波長1550nmでキロワットレベルのピークパワーを持ち、数nm、例えば3〜5nsのパルス幅のパルスレーザーを、数100kHz、例えば100〜500kHzで出力可能な小型の主発振器出力増幅器(Master Oscillator Power Amplifier、 MOPA)タイプのファイバーレーザー(MOPAファイバーレーザー)をレーザーユニット21aおよび21bとして含む。レーザーモジュール22は、さらに、レーザーユニット21aおよび21bのレーザー周波数を倍増して波長775nmのレーザーを出力する第2次高調波発生器(Second Harmonic Generator、SHG)24aおよび24bと、光ファイバー(ファイバーケーブル)29aおよび29bとのカップリング用のレンズ25およびコネクター26とを含む。このレーザーモジュール22により、波長775〜780nmの、数100ワットレベル、例えば200〜400Wでパルス幅が3〜5nsで、相互の位相を制御できる2系統のレーザーパルスを得ることができる。
【0021】
一方の系統のレーザーパルスはポンプ光5として光ファイバー29aを介して光学ヘッド10に供給される。他方の系統のレーザーパルスはストークス光6として光ファイバー29bおよびPCF(フォトニック結晶ファイバー、Photonic Crystal Fiber)29cを介して光学ヘッド10に供給される。ストークス光6は、光学ヘッド10に供給される段階で、波長800−1300nm程度の白色化した光(ブロードバンド光、スーパーコンティニューム光、SC光)として供給される。なお、ポンプ光5およびストークス光6の波長および波長帯は一例であり、本例では発振波長が1500nm程度のファイバーレーザーをレーザー光源として使用してSHGにより所望の波長を得ているが、1000〜1100nm程度のファイバーレーザーを光源として使用し、SHGを経ることなく使用してもよく、チタンサファイアレーザーのような固体レーザーを光源として使用してもよい。また、ポンプ光5を伝達するファイバー29aは、低損失の偏波保持ファイバー(Polarization Maintaining Fiber, PMF)であってもよく、ファイバー29aの長さを調整してPCF29cを通過するストークス光6との時間差を制御してもよい。
【0022】
図2に、計測装置1の内部の配置を、上部ハウジングを外した状態で示している。この計測装置1は、レーザーユニット21aおよび21bとSHG24aおよび24bとを二段に配置することにより実現されたコンパクトな形状であり、全体が230mm×160mm×75mmという、B5判よりも小さなハンディタイプのハウジング40に収納されている。ハウジング40は、上部ハウジング41と、下部ハウジング42と、光学ヘッド10に対してサンプルであるキュベット2を出し入れするための開閉ドア43とを含み、本図は、上部ハウジング41を外した状態である。
【0023】
光学ヘッド10は、全体が72mm×30mm×20mm程度の箱型あるいはブロック状であり、ポンプ光5およびストークス光6をキュベット2の第1のポイント2aに集光する第1のモジュール(エミッションブロック)11と、第1のポイント2aにサンプルが入ったキュベット2を保持する第4のモジュール(サンプルホールドブロック)14と、第1のポイント2aからCARS光7を採取する第2のモジュール(コレクションブロック)12と、第1のモジュール11および第2のモジュール12を支持する第3のモジュール(サポーティングブロック)13とを有する。
【0024】
第1のモジュール11は、高剛性の第1のフレーム50と、第1のフレーム50に固定された複数の光学素子を含む第1の光学システム51とを含み、第1のフレーム50が遮蔽型で遮光性のあるハウジングとしての機能を備えており、サンプリングサイドの第4のモジュール14に対し、対物レンズ59以外から漏れ光が照射されないようになっている。第2のモジュール12は、高剛性の第2のフレーム60と、第2のフレーム60に固定された複数の光学素子を含む第2の光学システム61とを含む。第2のフレーム60も遮蔽型で遮光性のあるハウジングとしての機能を備えており、対物レンズ62を介して取得される、サンプリングサイドの第4のモジュール14以外からの光を遮蔽できるようになっている。
【0025】
第4のモジュール14は、高剛性の第4のフレーム70を含み、第4のフレーム70に、第1のポイント2aにCARS光7を採取するサンプルを含むキュベット2が固定される。第3のモジュール13は、高剛性の第3のフレーム13fを含み、第1のフレーム50、第2のフレーム60および第4のフレーム70が第3のフレーム13fに固定されることにより、サンプルを含むキュベット2の第1のポイント2aに対し、照射光学系である第1の光学システム51の光学素子と、採取光学系である第2の光学システム61の光学素子とを精度よく位置決めできる。
【0026】
軽量で高剛性のフレームの一例はアルミニウム製、アルミニウム合金製またはステンレススチール製のフレームであり、熱膨張率がさらに低く、合成も高く、軽量の材料としては、MMC(Metal Matrix Composites)などの金属とセラミックスとを組み合わせた複合材料などがある。高剛性のフレームとしては、例えば、ヤング率(GPa)が60以上であってもよく、70以上であってもよく、100以上であってもよく、130以上であってもよく、また、熱膨張係数(線膨張係数、10
−6/K)が25以下であってもよく、20以下であってもよく、15以下であってもよく、10以下であってもよい。
【0027】
光学ヘッド10においては、これら第1〜第4のフレーム50、60、13fおよび70が遮蔽ブロックとしても機能し、第1〜第4のモジュール11、12、13および14を組み合わせるとキュベット2を装着する開口79を除いた部分が外光に対しシールド(遮蔽)され、光学ヘッド10を開口79を開閉ドア43に向けてハウジング40に配置することにより、ハウジング40に収納される他の機器やハウジング40の換気口などからの漏れ光がキュベット2に到達するのを阻止できる。また、開閉ドア43も遮光性であり、開閉ドア43を閉めることにより、外光を遮断でき、キュベット2には、第1のモジュール11から供給されるポンプ光5およびストークス光6のみが照射され、第2のモジュール12では、キュベット2から放出されるCARS光7のみが採取されるようになっている。
【0028】
第1のモジュール11に収納される第1の光学システム51は照射光学系であり、ポンプ光5を供給する第1の光ファイバー29aとの第1のコネクタ(第1のレーザー光供給ユニット)52aおよびストークス光6を供給する第2の光ファイバー29bとの第2のコネクタ(第2のレーザー光供給ユニット)52bから、ポンプ光5およびストークス光6を第1のポイント2aに照射する共通の第1の対物レンズ59までの光学経路を構成する複数の光学素子を含む。具体的には、第1の光学システム51は、第1のコネクタ52aを介して導入されたポンプ光5を平行光にする第1のコリメータレンズ53aと、ポンプ光5を狭帯域化するバンドパスフィルタ54aと、ポンプ光5とストークス光6とを合成して同軸化するダイクロイックミラー(ダイクロイックプリズム)55とを含む。第1の光学システム51は、さらに、第2のコネクタ52bを介して導入されたストークス光6を平行光にする第2のコリメータレンズ53bと、SC光であるストークス光6の短波長側のスペクトル成分を遮断する長波長通過フィルター54bとを含み、長波長通過フィルター54bを通過したストークス光6がダイクロイックミラー55によりポンプ光5と合成され同軸で、ノッチフィルタ56を介して対物レンズ59に導入される。これらのコネクタ、レンズおよびフィルターを含む光学素子は、通常のオペレーション中は、第1のフレーム50に対し動かないように固定される。
【0029】
同軸上に合成されたポンプ光5およびストークス光6をキュベット2の所定のポイント(第1のポイント)2aに集光させる対物レンズ59は、高いNA値を備えており、ポンプ光5とストークス光6との位相整合条件を緩和している。さらに、本例においては、広帯域の光であるストークス光6を平行光化するコリメータレンズ53bと、ポンプ光5と合成された光を集光する対物レンズ59とに接合レンズを用いて、色収差の改善を図っている。
【0030】
第2のモジュール12に収納される第2の光学システム61は、第1のポイント2aからCARS光7を集光する第2の対物レンズ62から、CARS光7を分光器30へ出力する第3の光ファイバー35との第3のコネクタ(受光ユニット)65までの光学経路を構成する複数の光学素子を含む。具体的には、第2の光学システム61は、対物レンズ(集光レンズ)62と、集められた光からノイズを除去するためのノッチフィルタ63と、第3のコネクタ65に対物レンズ62により採取されたCARS光7を集光するコリメータレンズ64とを含む。このシステム61において、コリメータレンズ64に接合レンズを採用して色収差の補正を行っている。また、これらのコネクタ、レンズおよびフィルターを含む光学素子は、通常のオペレーション中は、第2のフレーム60に対し動かないように固定される。
【0031】
図3に、光学ヘッド10のさらに具体的な構成を示している。また、
図4に、光学ヘッド10を側方(ストークス光6の入射方向)から見た外観を示している。光学ヘッド10は、エミッションブロック(第1のモジュール)11と、サンプルホールドブロック(第4のモジュール)14と、コレクションブロック(第2のモジュール)12と、これらを支持するサポーティングブロック(第3のモジュール)13とを含む。ブロック11〜14は、上記の順番でサポーティングブロック13の上に直線的に配置(搭載)されている。それぞれのブロック11、14および12は、サポーティングブロック(共通ベース)13の高剛性のフレーム(第3のフレーム、共通フレーム)13fにそれぞれ固定された高剛性の第1のフレーム50、第4のフレーム70、第2のフレーム60をそれぞれ含む。
【0032】
エミッションブロック11を構成する第1のフレーム50は方形の箱型で、その内部に、四方の壁57a〜57dに囲われ、2次元に広がった光学素子の収納領域(ベースプレート)58を含む。第1のフレーム50の一方の側壁57aに、ストークス光6を導入する第2の光ファイバー29bを接続するための第2のコネクタ52bが固定されて、側壁57aに隣接する側壁57bにポンプ光5を導入する第1の光ファイバー29aを接続するための第1のコネクタ52aが固定されており、側壁57bに隣接する側壁57cであって、サンプルホールドブロック14に向かい合う側壁57cに、ポンプ光5およびストークス光6をキュベット2に照射するための窓(開口)57xが設けられている。したがって、方形の第1のフレーム50の四方の側壁57a〜57dのうちの3方の壁57a〜57cが光の入出力のために使用され、残りの側壁57dは、ハウジング40に収納したときにハウジング40の側壁と対面し、エミッションブロック11の内部を遮蔽するための壁となっている。
【0033】
第1のフレーム50の内部の2次元に広がった領域58には、ほぼ中心に設置されたダイクロイックミラー55を中心として直交する3方の光路を形成するように、ストークス光6をダイクロイックミラー55に導くための第2のコネクタ52b、第2のコリメータレンズ53bおよびフィルター54bと、ポンプ光5をダイクロイックミラー55に導くための第1のコネクタ52a、第1のコリメータレンズ53aおよびフィルター54aと、ダイクロイックミラー55により合成された光を第1のポイント2aに導くフィルター56、対物レンズ59および照射窓57xとが配置されている。なお、それぞれの光学素子は反射防止膜が施されているが、さらに、コネクタ52aおよび52bは後方反射を抑制するためにAPC(Angled Physical Contact)接続方式にしたがって光軸に対する接続角度が調整されており、フィルター54a、54b、56も後方反射を抑制するために光軸に対して適当な角度で傾いて配置されている。
【0034】
エミッションブロック11は、さらに、第1のフレーム50の内部および壁面に配置された第1の光学システム51に含まれる光学素子の、第1のフレーム50に対する取付位置を、第1のフレーム50の壁面および内部に2次元的に広がった収納領域58を台盤(ベース)として微調整した後に固定する機構を含む。具体的には、エミッションブロック11は、ポンプ光5を導入する第1のコネクタ52aのポンプ光5の光軸5xに対する垂直な2次元方向の位置(XY方向)を第1のフレーム50、本例では壁面57bに対して微調整した後に固定する第1のXYテーブル(第1のXY位置調整ユニット)82aと、ストークス光6を導入する第2のコネクタ52bのストークス光6の光軸6xに対する垂直な2次元方向の位置を第1のフレーム50、本例では壁面57aおよびその延長壁57eに対して微調整した後に固定する第2のXYテーブル(第2のXY位置調整ユニット)82bと、ポンプ光5およびストークス光6が合成された出射光8を出射する第1の対物レンズ59の出射光8の光軸8x方向(Z方向)にスライドし、その位置を第1のフレーム50、本例では壁面57cに対して微調整した後に固定するホルダー(フォーカス調整ユニット)89とを含む。
【0035】
フォーカス調整ユニット89の一例は、対物レンズ59を含む内フレームが第1のフレーム50に固定された外フレームにねじ込まれており、内フレームを回転することにより対物レンズ59を軸8x方向に出し入れするものである。フォーカス調整ユニット89は、外フレームに内フレームを複数のねじにより固定し、それらのねじを締めたり緩めたりすることにより、光軸に沿ったレンズの位置や角度を制御する機構であってもよく、第1のフレーム50に固定されたレール上で対物レンズ59を動かす機構などであってもよい。
【0036】
第1のXYテーブル82aおよび第2のXYテーブル82bは壁面に沿ってコネクタ52aおよび52bをそれぞれ2次元方向に移動して固定する共通の構成を備えた微調整用のテーブル100である。微調整用のテーブル100の一例は、
図3および
図4に示すような斜面と調整ねじとを備えた構造である。コネクタ52bを固定する微調整用のテーブル100を例に説明すると、この微調整用のテーブル100は、移動対象のコネクタ52bが固定された四角形の外周を備えた内枠102と、内枠102の周りを取り囲む四角形の内周を備えた外枠101とを含む。外枠101は第1のフレーム50の壁面57aにネジなどにより固定され、その内部に、光軸6xに垂直な壁面109が用意される。内枠102は、光軸6xに垂直な面(壁面)109に密着した状態で移動する。
【0037】
内枠102は、四方の外周(四辺)に、壁面109に近づくにつれて外側に広がるテーパ面(押さえ面)102aを含む。外枠101は、押さえ面102aに対してほぼ垂直な方向から当たる位置調整ねじ103と、固定ねじ105とを含む。これらのネジ103および105の壁面109に対する角度θ1の一例は10〜30度であり、15〜25度であってもよい。固定ねじ105は、内枠102の4方向のテーパ状の4辺102aの中央にそれぞれ配置されており、この固定ねじ105を締めることにより、内枠102を壁面109に押し付けた状態で、すなわち、コネクタ52bを壁面57aに密着させた状態で固定できる。
【0038】
位置調整ねじ103は、隣り合う2辺のテーパ面102aに、固定ねじ105を挟んで2つずつ配置されている。したがって、位置調整ねじ103を外枠100に対して出し入れ(締めたり緩めたり)することにより、外枠100に対する内枠102の位置を2次元方向(XY方向)に動かすことができ、さらに、固定ねじ105を挟んだ両側の調整ねじ103の出入りを調整することにより光軸6x周りに内枠102の向きを微調整できる。したがって、この微調整用のテーブル100は、ベースとなる壁面109に対して、内枠102の2次元(XY方向)の位置と、光軸周りの角度を調整できるXYθテーブルとして機能する。固定ねじ105を緩めてから、位置調整ねじ103により内枠102の外枠101に対する位置を微調整した後に、固定ねじ105を締めることにより、コネクタ52bの第1のフレーム50に対する位置を微調整した後に固定できる。
【0039】
エミッションブロック11は、さらに、ポンプ光5を平行光にする第1のコリメータレンズ53aを第1のフレーム50に対して、ポンプ光5の光軸5x方向(Z軸方向)にスライドするように支持し、第1のフレーム50に対する取付位置を微調整した後に固定できるホルダー(第1のZ位置調整ユニット)83aを含む。エミッションブロック11は、また、ストークス光6を平行光にする第2のコリメータレンズ53bを第1のフレーム50に対して光軸6x方向にスライドさせて取付位置を微調整した後に固定できるホルダー(第2のZ位置調整ユニット)83bを含む。ホルダー83aおよび83bの機構としては、ホルダー(フォーカス調整ユニット)89と同様の機構を採用できる。
【0040】
エミッションブロック11は、さらに他の光学素子、例えば、フィルター54aおよび54bの取付位置を、それぞれ第1のフレーム50に対してスライド支持し、取付位置を微調整した後に固定できるホルダー84aおよび84bを含んでもよい。同様に、エミッションブロック11は、ダイクロイックミラー55の取付位置および角度を微調整でき、その後、固定できるホルダー85と、フィルター56の取付位置を微調整でき、その後、固定できるホルダー86とを含んでもよい。
【0041】
ホルダー(フォーカス調整ユニット)89により、両凸の正レンズ59aと、その出射側に接合された出射側に凸の負のメニスカスレンズ59bとからなる全体として正のパワーの対物レンズ59の光軸8x方向の位置を微調整できる。対物レンズ59の光軸8x方向の位置を調整することにより、ダイクロイックミラー55の位置・角度などの微調整により同軸で出射されるように調整されたポンプ光5およびストークス光6が合成された出射光8の焦点位置(フォーカシング)を全体として微調整できる。ホルダー83aにより、出射側に凸の正のパワーのコリメータレンズ53aの光軸5x方向の取付位置を微調整することにより、出射光8におけるポンプ光5の焦点位置(フォーカシング)を独立して微調整することができる。ホルダー83bにより、両凸の正レンズ53baと、その入射側に接合された入射側に凸の負のメニスカスレンズ53bbとからなる全体として正のパワーのコリメータレンズ53bの光軸6x方向の位置を微調整することにより、出射光8におけるストークス光6の焦点位置(フォーカシング)を独立して微調整することができる。コリメータレンズ53aおよび53bにおいては光束を完全に平行化することは難しく、逆に、コリメータレンズ53aおよび53bの位置調整を行うことにより、ポンプ光5およびストークス光6の焦点位置を個別に調整できるようにしている。
【0042】
さらに、これらの光軸方向(Z方向)の位置調整に加えて、エミッションブロック11は、XYテーブル82aおよび82bにより、ポンプ光5およびストークス光6を受け入れるコネクタ52aおよび52bの、それぞれの光軸5xおよび6xに垂直なXY方向の位置を微調整できる。したがって、エミッションブロック11においては、ポンプ光5の光路およびストークス光6の光路の位置を、光軸5xおよび6xに垂直なXY方向および平行なZ方向のすべてにおいて制御できる。
【0043】
すなわち、エミッションブロック11では、出射光8に含まれるポンプ光5の焦点の光軸8xに垂直なXY方向、およびストークス光6の焦点の光軸8xに垂直なXY方向の位置を独立して制御することができる。このため、このエミッションブロック11においては、ポンプ光5の、キュベット2に収納されたサンプル3中のフォーカシング位置2aにおける焦点の光軸8xに垂直および平行なXYZ方向の位置と、ストークス光6のXYZ方向の位置とを独立して制御することができ、フォーカシング位置2aにポンプ光5の焦点とストークス光6の焦点とを精度よく一致させることができる。したがって、効率よくCARS光7を発生させることが可能となり、出力の小さなレーザー光源を用いても、測定に十分な強度のCARS光7を得ることができる。
【0044】
十分な強度のCARS光7が得られれば、サンプル3に照射するレーザー光の強度は低いことが望ましい。サンプル3の状態、例えば、温度、濃度などを変動させずに測定できるからである。特に、計測装置1が、人体の欠陥内部のグルコースを測定するなどの用途で人体にレーザー光を照射してCARS光7を得るシステムである場合、人体に照射するポンプ光5およびストークス光6は人体に影響を与えない程度のエネルギーであることが望ましい。本例の計測装置1においては、ポンプ光5およびストークス光6の焦点位置をそれぞれ精度よく制御することが可能であり、フォーカシング位置2aにおけるこれらの光の焦点の誤差を抑制し、低いエネルギーのレーザーを用いて高い出力のCARS光7を得ることができる。
【0045】
エミッションブロック11においては、第1のフレーム50の2次元的に広がった領域58に、第1の光学システム51を構成する上記のレンズ53a、53bおよび59、フィルター54a、54bおよび56、ダイクロイックミラー55が2次元的に配置されており、さらに、それらのホルダー83〜89も2次元的に配置されている。したがって、エミッションブロック11を第1のフレーム50と、収納領域58を覆う遮光性のカバー(不図示)との構成にすることにより、カバーを外すだけで各光学素子の位置調整をきわめて簡単に行うことができる。また、各光線のXY方向の位置は、第1のフレーム50の壁面の外側に設けられたXYテーブル82aおよび82bにより調整できる。さらに、エミッションブロック11では、他のブロック12および14とは別に、独立して、内蔵されたこれらの光学素子の位置の微調整を、予め設定されているフォーカシング位置(第1のポイント)2aにポンプ光5およびストークス光6が集光するように行うことができ、調整後のエミッションブロック11を共通ベース13のフレーム13fに取り付けることにより光学ヘッド10としての所定の性能を発揮させることができる。
【0046】
エミッションブロック11に対し、サンプルホールドブロック14を挟んで、共通のフレーム13fに取り付けられるコレクションブロック12を構成する第2のフレーム60は、平面視が片台形状の5角形の箱型で、その内部に、5方の壁67a〜67eに囲われ、2次元に広がった光学素子の収納領域68を含む。第2のフレーム60の側壁のうち、サンプルホールドブロック14に向かい合う側壁67aに、キュベット2から放出されるCARS光7を採取するための窓(開口)67xが設けられおり、側壁67aに隣接する側壁67bにCARS光7を導出する光ファイバー35とのコネクタ65が固定されている。したがって、片台形の第2のフレーム60の5方の側壁67a〜67eのうちの2方の壁67aおよび67bが光の入出力のために使用され、残りの側壁67c〜67eは、コレクションブロック12をハウジング40に収納したときにハウジング40の側壁と対面し、コレクションブロック12の内部を遮蔽するための壁となっている。
【0047】
全体が片台形の第2のフレーム60を備えたコレクションブロック12は、片台形を成すように斜めになった側壁67dがハウジング40の肉厚になったり曲面となったりしやすいコーナー部の内側に収納しやすい形状である。それとともに、斜めになった側壁67dに折り曲げミラー66を配置することにより、コレクションブロック12の内部でCARS光7を光ファイバー35に導くための光路を折りたたみ、第2の光学システム61に含まれる複数の光学素子をコンパクトに配置することができる。
【0048】
第2のフレーム60の内部の2次元に広がった領域68には、コーナーに配置された折り曲げミラー66に対し直交する2方の光路を形成するように、CARS光7を採取する窓67xおよび対物レンズ62と、フィルター63、CARS光7を集光するコリメータレンズ64およびCARS光7を出力するコネクタ65とが配置されている。
【0049】
コレクションブロック12も、さらに、第2のフレーム60の内部および壁面67に配置された第2の光学システム61の各光学素子の第2のフレーム60に対する取付位置を、第2のフレーム60の内部に2次元的に広がった収納領域68を台盤(ベース)として微調整した後に固定する機構を含む。具体的には、コレクションブロック12は、CARS光7を光ファイバーへ導出する第3のコネクタ65のCARS光7の光軸7xに対する垂直な2次元方向の位置を第2のフレーム60、本例においては、壁面67bに対して微調整した後に固定する第3のXYテーブル(第3のXY位置調整ユニット)95と、第2の対物レンズ62のCARS光7の光軸7x方向の位置を第2のフレーム60に対して微調整した後に固定するホルダー(フォーカス調整ユニット)92とを含む。また、コレクションブロック12は、コリメータレンズ64を第2のフレーム60に対してスライド支持し、光軸7xに沿った取付位置を微調整した後に固定できるホルダー94を含んでいてもよい。ホルダー92および94としては、上記において説明したホルダー(フォーカス調整ユニット)89と同様の機構を採用できる。また、第3のXYテーブル95には、上述した微調整用のテーブル100を採用できる。
【0050】
コレクションブロック12は、さらに、フィルター63の取付位置を、それぞれ第2のフレーム60に対してスライド支持し、取付位置を微調整した後に固定できるホルダー93と、ミラー66の取付位置および角度を微調整でき、その後、固定できるホルダー96と、対物レンズ62の取付位置を調整でき、その後、固定できるホルダー92とを含んでもよい。
【0051】
ホルダー92により、正のパワーの対物レンズ62の光軸7xの位置を調整することにより、CARS光7の放出位置の変動に対応することができる。本例では、ホルダー92により対物レンズ62を前後に約5mm移動することができ、キュベット(サンプルセル)2の厚み方向にCARS光7が採取できるポイントを移動できるようにしている。ホルダー94により、両凸の正レンズ64aと、その出射側に接合された出射側に凸の負のメニスカスレンズ64bとからなる全体として正のパワーのコリメータレンズ64の位置を微調整することにより、対物レンズ62の移動による光束の広がりに対応でき、CARS光7をファイバー35に効率よく導くことができる。さらに、第3のXYテーブル95によりCARS光7を光ファイバーに導出するXY方向の位置を微調整できる。したがって、コレクションブロック12におけるCARS光7の光路を、光軸7xに垂直なXY方向と平行なZ方向のすべてにおいて制御でき、キュベット2から出力されるCARS光7を効率よく収集し、光ファイバー35へ導くことができる。
【0052】
コレクションブロック12においても、第2のフレーム60の2次元的に広がった領域68に、第2の光学システム61を構成する上記のレンズ62および64、フィルター63、ミラー66、さらに、それらのホルダー92〜96も2次元的に配置されている。したがって、エミッションブロック11と同様に、コレクションブロック12を、第2のフレーム60と、収納領域68を覆う遮光性のカバー(不図示)との構成にすることにより、カバーを外すだけで各光学素子の位置調整をきわめて簡単に行うことができる。
【0053】
また、コレクションブロック12においても、他のブロック11および14とは別に、独立して、内蔵されたこれらの光学素子の位置を、予め設定されているCARS光7の発生ポイント(第1のポイント)2aからCARS光7を効率よく採取できるように予め微調整し、その後、共通の共通ベース13に取り付けることにより光学ヘッド10としての所定の性能を発揮させることができる。本例の光学ヘッド10においては、エミッションブロック11およびコレクションブロック12を、共通ベース13により、サンプルホールドブロック14を挟んで直線的に配置しているが、予め微調整されたエミッションブロック11およびコレクションブロック12を斜めに配置するベース13を採用し、サンプルから斜めに出力されるCARS光7や、皮膚あるいは血管などの皮下組織からのCARS光7を採取するような光学ヘッド10を提供することも可能である。
【0054】
サンプルホールドブロック14は、共通ベース13の高剛性フレーム13fに取り付けられる高剛性の第4のフレーム70と、第4のフレーム70に対しサンプルを収納したキュベット(サンプルセル)2を固定するサンプルホルダー72とを含む。サンプルホルダー72は、
図5(a)および(b)に示すように、第4のフレーム70に対してキュベット2のポジションを、ポンプ光5およびストークス光6を含む照射光(出射光)8の光軸に対してレール75により平行に移動する第1のステージ73と、第1のステージ73の上で照射光8の光軸に対して回転する第2のステージ74と、第2のステージ74の上でキュベット2を所定の姿勢で保持するキュベットホルダー76とを含む。これらのステージ73および74により、キュベット2に収納された血液などのサンプルの中で、ポンプ光5およびストークス光6が集光されてCARS光7を発生するポイント2aの位置(深度方向)と、発生したCARS光7がコレクションブロック12を介してディテクタ30に採取される角度とを自由に調整することができる。
【0055】
キュベットホルダー76は、
図5(c)、(d)および(e)に示すように、照射光8の光軸に沿った位置が透過窓となった合成の高い支持部77と、支持部77に対してキュベット2を弾性的に押し付けて保持する板バネ78とを含む。このキュベットホルダー76の構成は一例であり、キュベット2がサンプルホルダー72のステージ74に一定の姿勢で保持できるものであればよい。
【0056】
以上に説明したように、本例の計測装置1は、コンパクトでありながら、個別に光学的な微調整が可能なエミッションブロック(第1のモジュール)11と、コレクションブロック(第2のモジュール)12と、それらの位置を固定する共通のフレーム13fを含む第3のモジュール13とを有する光学ヘッド10を含む。したがって、ハンディーサイズの計測装置1で、CARS光7を安定して精度よく採取することが可能であり、ラマン分光、特にCARS光7を用いた計測および分析を行うことができる。この光学ヘッド10により、CARS光7の代わりに自発ラマン散乱光を取得することも可能であるが、血液中のグルコース濃度などの血中成分の微量分析を行ったり、血液中の細胞の3次元画像を得たりする目的にはCARS光7を取得することが望ましい。
【0057】
図6にエミッションブロック11の構成の幾つかの例を示している。
図6(a)は、ダイクロイックプリズム55を用いてポンプ光5およびストークス光6を合成するエミッションブロック11の概略構成を示す。
図6(b)に示すエミッションブロック11aは、ミラー121とノッチフィルタ120との組み合わせにより、ポンプ光5とストークス光6との入力角度を90度に保った構成である。このエミッションブロック11aにおいては、ストークス光6の波長帯は透過し、ポンプ光5の波長帯は反射するノッチフィルタ120またはダイクロイックミラーでポンプ光5とストークス光6とを合成する。ダイクロイックプリズム55を用いる構成に対して、ノッチフィルタ120における反射角度を小さくできので、反射効率が高い。また、反射効率の高いノッチフィルタ120を利用できるので、合成する際のレーザー光の減衰が小さく、照射強度を確保しやすい構成である。
【0058】
図6(c)に示すエミッションブロック11bは、ポンプ光5およびストークス光6が反射ミラーを用いずにノッチフィルタ120またはダイクロイックミラーにより合成できる構成を含む。反射ミラーを省くことによりさらにレーザー光の減衰を抑制できる。
図6(d)に示すエミッションブロック11cは、ポンプ光5およびストークス光6がフォーカシング用の対物レンズ59に別々に入力され、対物レンズ59で合成される構成を含む。一方のビームは、幾つかのミラーを経て導かれてもよい。
図6(e)に示すエミッションブロック11dは、ポンプ光5およびストークス光6がそれぞれ異なる対物レンズ59aおよび59bを介してサンプル3(キュベット2)に集光される構成を含む。このエミッションブロック11dにおいては、波長帯の広いストークス光6に対してパラボリックミラーを用いて集光することにより色収差を削減する構成を採用できる。
【0059】
いずれのタイプのエミッションブロックであっても、コリメータレンズ53a、53bおよび対物レンズ59に非球面レンズを用いて収差補正性能を向上することが可能である。特に、波長帯の広いストークス光6が通過するコリメータレンズ53bおよび対物レンズ59に非球面レンズを用いることにより色収差を改善できる。
【0060】
図7に、
図6(b)に示したタイプのエミッションブロック11aのさらに具体的な構成例を示している。
図8に、エミッションブロック11aの側方から見た構成を示している。このエミッションブロック11aも、
図6(b)に示した第1の光学システム51の各光学素子を収納した高剛性の第1のフレーム(第1のハウジング)50を有する。この例では、ノッチフィルタ120における反射角度δ1は、約10度であり、反射角度δ1は5〜20度程度であってもよく、5〜15度程度であってもよい。
【0061】
また、CARS信号は常に非共鳴部分を伴って発生するために、測定精度の向上には非共鳴部分の強度を低減することが望ましい。そのために幾つかの方法が提案されており、例えば、時間分解CARS(Time resolved CARS、T−CARS)、偏光CARS(Polarization sensitive 、P−CARS)を挙げることができる。
図7に示したエミッションブロック11aは偏光CARS用であり、ポンプ光5およびストークス光6の光路にそれぞれ偏光素子を挿入して偏光方向を制御した後に対物レンズ59を介してキュベット2に照射している。
【0062】
エミッションブロック11aは、ポンプ光5を光ファイバー29aから第1のハウジング50に導入する第1のレーザー光供給モジュール310と、ストークス光6を光ファイバー29bから第1のハウジング50に導入する第2のレーザー光供給モジュール320とを含む。第1のレーザー光供給モジュール310は、第1のコネクタ52aを含むインプットモジュール350と、インプットモジュール5350の光軸5xに対し垂直なXY方向の位置を第1のハウジング50に対し調整する第1のXYテーブル82aを含む。第2のレーザー光供給モジュール320も、第2のコネクタ52bを含むインプットモジュール350と、インプットモジュール350の光軸6xに対し垂直なXY方向の位置を第1のハウジング50に対し調整する第2のXYテーブル82bを含む。第1のレーザー光供給モジュール310は第1のコリメータレンズ53aの光軸5xに沿った位置(Z位置)を微調整するホルダー85aを含み、第2のレーザー光供給モジュール320は第2のコリメータレンズ53bの光軸6xに沿った位置(Z位置)を微調整するホルダー85bを含む。レーザー光供給モジュール310および320についてはさらに以下で説明する。
【0063】
エミッションブロック11aに搭載された第1の光学システム51は、ポンプ光5の入射方向に沿って配置された、第1のコリメータレンズ53aと、バンドパスフィルタ54aと、偏光素子125と、バンドパスフィルタ54aと、ポンプ光5をノッチフィルタ120の方向に反射するミラー121とを含む。また、第1の光学システム51は、ストークス光6の入射方向に沿って配置された、第2のコリメータレンズ53bと、長波長通過フィルター54bと、偏光素子126と、半波長板127と、フィルター54bと、ノッチフィルタ120とを含み、ノッチフィルタ120を透過したストークス光6がポンプ光5と合成され、同軸で対物レンズ59に導入される。エミッションブロック11aは、対物レンズ59の光軸8xに沿った位置を微調整するホルダー89とを含み、ポンプ光5およびストークス光6の焦点位置を精度よく制御できる。
【0064】
エミッションブロック11aは、さらに、ノッチフィルタ120の位置を光軸6xに沿って微調整する調整ユニット132と、ミラー121の回転角度を微調整する調整ユニット133と、ノッチフィルタ120の位置とミラー121の回転角度とを協調制御するリンク機構135とを含む。リンク機構135はノッチフィルタ120とミラー121とを結ぶ光軸に沿って延びたリンクレバー134と、ミラー121を回転する回転機構131とを含む。光路調整のためにノッチフィルタ120を光軸6xに沿って移動すると、回転機構131は、リンクレバー134がノッチフィルタ120の移動により旋回する角度の1/2の角度でミラー121を回転する。
【0065】
図9に示すように、パルス信号で供給されるポンプ光5とストークス光6とを同期するためにノッチフィルタ120をΔbだけ移動すると、ポンプ光5の光路長Lpと、ストークス光6の光路長Lsとは以下のように変化する。
Lp=A+a+(a
2+(b+Δb)
2)
1/2
Ls=B−Δb
また、ミラー121の回転角度αは、ポンプ光5の反射角の変位βの2倍となるので、リンク機構135がノッチフィルタ120の移動に伴って自動的にミラー121を回転することにより、エミッションブロック11aにおけるポンプ光5とストークス光6との同期調整が容易となる。
【0066】
エミッションブロック11aの光学システム51を支持および内蔵する第1のフレーム50は、ほぼ方形で四方の側壁57a〜57dを含み、さらに剛性を向上するためにベースプレート58の張り出し部57eを含む。側壁57a〜57dの適当な位置に給排気用の孔57fが設けられており、光学システム51が設置される第1のフレーム50により囲われた内部を換気し、温度および湿度の変化を抑制できるようにしている。
【0067】
図10に、ストークス光6を供給する第2のレーザー光供給モジュール320を抜き出して示している。ポンプ光5を供給する第1のレーザー光供給モジュール310も同様の構成である。
図10(a)に、本例で採用したレーザー供給モジュール320の具体的な構成を示し、
図10(b)に、レーザー供給モジュール320の概念的な構成を模式図により示している。
【0068】
レーザー光供給モジュール320は、第1のXYテーブル82aおよび第2のXYテーブル82bとして機能する共通する構成のXYテーブル300と、XYテーブル300に対して光軸6xに対し垂直な方向(XY方向)に位置が調整できるように取り付けられたインプットモジュール350とを含む。XYテーブル300においては、外枠301に取り付けられたマイクロメータタイプの微調整ねじ303により、インプットモジュール350が固定された内枠302のXY方向の位置が外枠301に対して微調整され、固定される。外枠301は、ねじ309により第1のフレーム50の側壁57aに固定されており、内枠302は側壁57aに沿って動き、微調整ねじ303により第1のフレーム50に対する位置が調整される。
【0069】
XYテーブル300の内枠302には、ホルダー85bを介して第2のコリメータレンズ53bが取り付けられている。したがって、第2のコネクタ52bを含むインプットモジュール350と第2のコリメータレンズ53bとの光軸6xに沿った位置(Z位置)はレーザー光供給モジュール320において調整された後、XYテーブル300を介して第1のフレーム50に取り付けられXYテーブル300によりインプットモジュール350と一体で第1のフレーム50に対する位置が微調整される。
【0070】
レーザー光供給モジュール320は、さらに、内枠302にインプットモジュール350をXY方向に位置調整が可能な状態で取り付けるユニット(カバー)340を含む。カバー340は、インプットモジュール350の少なくとも一部を覆うようにねじ349により内枠302に固定されている。カバー340は、内部のインプットモジュール350を内枠302に押しつけるためのばね(弾性体)348と、インプットモジュール350の内枠302に対するXY方向(光軸6xに対する垂直方向)の位置を微調整する調整ねじ(イモネジ)343とを含む。したがって、レーザー光供給モジュール320においては、内枠302に固定された第2のコリメータレンズ53bに対し、ストークス光(レーザー光)6が入射するコネクタ52bのXY方向の位置を、レーザー光供給モジュール320の単位で微調整できる。また、インプットモジュール350は、内枠302に対しばね348で加圧され、密着した状態でXY方向に移動し、内枠302はフレーム50の側壁57aの表面に密着した状態でXY方向に移動する。このため、フレーム50を基準として、コリメータレンズ53bのXY方向およびZ方向の位置を精度よく調整することができる。
【0071】
また、レーザー光供給モジュール320単独で、すなわち、レーザー光供給モジュール320を取り出した状態で、コネクタ52bとコリメータレンズ53bとのXY方向およびZ方向の位置を決めることができる。このため、フレーム50にレーザー光供給モジュール320を取り付ける前に、専用冶具により、ポンプ光5およびストークス光6のそれぞれのレーザー光(ビーム)のコリメート調整を行うことができる。
【0072】
図11にコリメート調整を行う専用冶具の一例を示している。この専用冶具370は、光学用台板379にレーザー光供給モジュール320を固定するフレーム371と、フレーム371から十分に離れた第1の位置に設定される第1のビームプロファイラ373と、さらに離れた第2の位置に設定される第2のビームプロファイラ375とを含む。専用冶具370にセットされたレーザー光供給モジュール320を、第1のビームプロファイラ373および第2のビームプロファイラ375においてビーム径が同一となるように、基板となる内枠302に対するインプットモジュール350のXY位置をカバー340のイモネジ343で調整し、コリメータレンズ53bのZ位置をホルダー85bにより調整する。この調整により、個々のレーザー光供給モジュール320におけるコリメータレンズ53bとコネクタ52bとのXY位置およびZ位置が、平行光束が得られる状態で決定される。したがって、この後は、内枠302に対するコリメータレンズ53bの位置およびインプットモジュール350の位置は動かさず、固定された状態で、XYテーブル300により内枠302のフレーム50に対する位置を調整し、フレーム50に収納される光学システム51の他の光学素子との関係を調整する。ビームプロファイラ373および375としては、ビーム計測定器、ターゲットプレート、蛍光体を用いたレーザービュワーなどを用いてもよい。
【0073】
図7に示したエミッションブロック11aは、コレクションブロック12とともにサポーティングブロック13に固定することにより光学ヘッド10を構成できる。サンプルホールドブロック14をさらにサポーティングブロック13に固定してもよい。この光学ヘッド10においては、レーザー光供給モジュール310および320の単位でコリメータレンズ53aおよび53bに対するコネクタ52aおよび52bのXYおよびZ方向の位置を調整して第1のフレーム50に固定する。さらに、エミッションブロック11aの単位で第1の光学システム51の各光学素子の位置を調整して第1のフレーム50に固定する。また、コレクションブロック12においても、コレクションブロック12の単位で第2の光学システム61の各光学素子の位置を調整して第2のフレーム60に固定する。さらに、第1のフレーム50および第2のフレーム60を共通のフレーム13fに固定することにより光学ヘッド10を構成する光学素子をフレーム13fに対して精度よく設定および固定することができ、CARSあるいはSRSといった非線形ラマン分光効果を計測するために適した光学ヘッド10を提供できる。
【0074】
以上の各例の計測装置1においては、ポンプ光5およびストークス光6を得るために2つのレーザーユニットを採用しているが、単独のレーザーユニットからの出力を、ビームセパレータなどを用いてポンプ光5とストークス光6とに分離して使用するようにしてもよい。また、ストークス光6としてブロードバンドのSC光を採用しているが、波長を制御できるチューナブルレーザーを採用してもよく、チューナブルレーザーを採用した場合は、ディテクタ30として分光型ではなく、光強度のみを測定する光検出デバイスを採用してもよい。ストークス光の波長に対するCARS光の強度を計測することにより、結果としてCARS光のスペクトルを得ることができる。
【0075】
また、本例の計測装置1においては、高エネルギーのレーザーを得るために光学ヘッド10とは別にレーザー光源を用意しているが、光学ヘッド10に半導体レーザーまたはマイクロチップレーザーなどの小型のレーザー光源を内蔵することも可能である。すなわち、エミッションブロック11は、第1のレーザー光供給ユニットとして第1のコネクタ52aの代わりに、ポンプ光5を出力するレーザー素子を含んでいてもよく、第2のレーザー光供給ユニットとして、第2のコネクタ52bの代わりに、ストークス光6を出力するレーザー素子を含んでいてもよく、これらのレーザー素子は、チューナブルレーザーであってもよい。また、これらのレーザー素子を含む供給ユニットについても光軸に対して垂直な方向(XY方向)を調整できることが望ましい。
【0076】
また、光学ヘッド10に、受光ユニットとして、第3のコネクタ65の代わりに、CARS光7を検出するディテクタ(検出器)を収納することも可能である。例えば、コレクションブロック12に、チューナブルレーザーに対応するCCDなどの光検出デバイスを収納してもよい。検出器についても光軸に対して垂直な方向(XY方向)を調整出来得ることが望ましい。レーザー源を収納した光学ヘッドを提供することにより、さらにコンパクトな計測装置を提供することが可能であり、例えば、血糖値などを継続して測定するウェアラブルなラマン分析装置として使用できる計測装置を提供することが可能となる。
【0077】
また、本例の計測装置1の光学ヘッド10は、エミッションブロック11、サンプルホールドブロック14およびコレクションブロック12が、共通ベース13により直線的な配置で固定されているが、サンプルホールドブロック14を省略することも可能である。例えば、皮膚あるいは皮下組織からのCARS光を得るために、皮膚などの測定対象物に向けてエミッションブロック11およびコレクションブロック12が配置されるように共通ベース13にそれぞれのブロック11および12を固定することも可能である。
【0078】
図12に、皮膚9の皮下組織または毛細血管を照射ポイント(第1のポイント)2aとして、測定対象のCARS光7を採取する計測装置1の一例を示している。この計測装置1の光学ヘッド10においては、共通の第3のフレーム13fに、エミッションブロック11を構成する第1のフレーム50が、皮下組織の所定のポイント2aにポンプ光5およびストークス光6が合成された出射光8を照射するように固定され、コレクションブロック12が照射されたポイントから発せられたCARS光7を採取するように固定されている。計測装置1は、レーザーユニット20を搭載していてもよく、スペクトロメータ30を含めた分析ユニット90を搭載していてもよい。計測装置1は、分析ユニット90により血糖値などを含めた生体情報を取得し、その情報をユーザーまたはクラウドを介して医療施設などのモニタリングを行う施設に送信する情報取得装置であってもよい。
【0079】
また、光学ヘッド10は、ポンプ光5およびストークス光6に限らず、非線形ラマン分光散乱を測定するための他の周波数、周波数帯あるいは他のタイミングで入力される光、例えば、プローブ光などを合成するものであってもよい。また、光学ヘッド10は、非線形ラマン分光と同時または平行に、他の分光法または光学的分析手法により情報を取得するための光(レーザー光)を第1のポイント2aに照射するものであってもよい。他の光学的分析手法としては、例えば、光干渉断層像法(OCT)、蛍光分析法、レーザー誘導ブレイクダウン発光法(LIBS)などを挙げることができる。