特許第6647655号(P6647655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6647655
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】防汚塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/10 20060101AFI20200203BHJP
   C09D 143/04 20060101ALI20200203BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20200203BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20200203BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20200203BHJP
【FI】
   C09D133/10
   C09D143/04
   C09D5/16
   C09D7/61
   C09D7/63
【請求項の数】1
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-528603(P2019-528603)
(86)(22)【出願日】2019年4月5日
(86)【国際出願番号】JP2019015087
【審査請求日】2019年5月27日
(31)【優先権主張番号】特願2018-76992(P2018-76992)
(32)【優先日】2018年4月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227342
【氏名又は名称】日東化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】和久 英典
(72)【発明者】
【氏名】松木 崇
(72)【発明者】
【氏名】小林 慧
(72)【発明者】
【氏名】岡 永都
(72)【発明者】
【氏名】安井 拓也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 基道
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/012148(WO,A1)
【文献】 特開2005−082725(JP,A)
【文献】 特開2000−017203(JP,A)
【文献】 特開2003−176444(JP,A)
【文献】 特開2016−089167(JP,A)
【文献】 特開2003−109147(JP,A)
【文献】 特開2003−18593(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/001619(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/164283(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
C08C 19/00− 19/44
C08F 6/00−246/00
301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体Pと、防汚薬剤を含有する防汚塗料組成物であって、
前記共重合体Pは、単量体(a)と、単量体(b)と、単量体(c)と、前記単量体(a)〜(c)以外のエチレン性不飽和単量体(d)との共重合体であり、
前記単量体(a)は、一般式(1)で表され、
前記単量体(a)の含有量は、前記単量体(a)〜(d)の合計質量に対して25〜50質量%であり、
前記単量体(b)及び(c)は、それぞれ、n−オクタノール/水間の分配係数Pの常用対数logPが0.00〜0.59、及び0.60〜0.95の単量体であり、
前記単量体(c)は、不飽和結合を1つしか有さない単量体である、防汚塗料組成物。
【化1】
(式中、Rはメチル基、R、R、Rトリイソプロピルシリル基を示す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フジツボ、セルプラ、ムラサキイガイ、フサコケムシ、ホヤ、アオノリ、アオサ、スライム等の水棲汚損生物が、船舶(特に船底部分)や漁網類、漁網付属具等の漁業具や発電所導水管等の水中構造物に付着することにより、それら船舶等の機能が害される、外観が損なわれる等の問題がある。
【0003】
このような問題を防ぐために、船舶等に防汚塗料組成物を塗布して防汚塗膜を形成し、防汚塗膜から防汚薬剤を徐放させることによって、長期間に渡って防汚性能を発揮させる技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−17203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、海水温度の上昇など海洋環境の大きな変化により海洋生物による汚損は非常に厳しくなっている。また、河川から栄養の豊富な水が流れ込む大阪湾、東京湾や伊勢湾など湾内水域はフジツボなどによる汚損が非常に厳しく、河川から流れ込む淡水の影響で海水のpHが低くなり、防汚塗膜の溶解性が低下することから薬剤の放出量が十分ではなくなる。そのため、特許文献1の技術を採用しても、長期静置防汚性能が維持されないという問題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、汚損生物の付着が非常に厳しい湾内においても良好な長期防汚性能を発揮でき、且つ耐海水性に優れた防汚塗膜を形成可能な防汚塗料組成物用共重合体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、共重合体Pと、防汚薬剤を含有する防汚塗料組成物であって、
前記共重合体Pは、単量体(a)と、単量体(b)と、単量体(c)と、前記単量体(a)〜(c)以外のエチレン性不飽和単量体(d)との共重合体であり、
前記単量体(a)は、一般式(1)で表され、
前記単量体(a)の含有量は、前記単量体(a)〜(d)の合計質量に対して25〜50質量%であり、
前記単量体(b)及び(c)は、それぞれ、n−オクタノール/水間の分配係数Pの常用対数logPが0.00〜0.59、及び0.60〜0.95の単量体であり、
前記単量体(c)は、不飽和結合を1つしか有さない単量体である、防汚塗料組成物が提供される。
【化1】
(式中、Rはメチル基、R、R、Rはそれぞれ同一又は異なって炭素数3〜8の分岐アルキル基又はフェニル基を示す)
【0008】
本発明者は鋭意検討を行ったところ、所定の共重合体を用いた防汚塗料組成物を用いて形成した防汚塗膜が、汚損生物の付着が非常に厳しく、海水のpHが低い湾内においても良好な長期防汚性能を発揮でき、且つ耐海水性に優れることを見出し、本発明の完成に到った。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細を説明する。
1.防汚塗料組成物
本発明の防汚塗料組成物は、共重合体Pと、防汚薬剤を含む。
【0010】
1−1.共重合体P
共重合体Pは、単量体(a)と、単量体(b)と、単量体(c)と、前記単量体(a)〜(c)以外のエチレン性不飽和単量体(d)との共重合体である。
【0011】
<単量体(a)>
単量体(a)は、メタクリル酸トリオルガノシリル単量体であり、一般式(1)で表される。
【化1】
(式中、Rはメチル基、R、R、Rはそれぞれ同一又は異なって炭素数3〜8の分岐アルキル基又はフェニル基を示す)
【0012】
単量体(a)としては、例えば、メタクリル酸トリイソプロピルシリル、メタクリル酸トリイソブチルシリル、メタクリル酸トリs−ブチルシリル、メタクリル酸トリイソアミルシリル、メタクリル酸トリス(2−エチルヘキシル)シリル、メタクリル酸トリフェニルシリル、メタクリル酸ジイソプロピルイソブチルシリル、メタクリル酸ジイソプロピルイソアミルシリル、メタクリル酸ジイソプロピル(2−エチルヘキシル)シリル、メタクリル酸ジイソプロピルフェニルシリル、メタクリル酸ジイソプロピルシクロヘキシルシリル、メタクリル酸t−ブチルジイソプロピルシリル、メタクリル酸t−ブチルジイソブチルシリル、メタクリル酸t−ブチルジイソアミルシリル、メタクリル酸t−ブチルジフェニルシリル、などが挙げられ、好ましくは、メタクリル酸トリイソプロピルシリルである。これらの単量体は、それぞれ一種又は二種以上で使用さる。
単量体(a)の含有量は、長期静置防汚性能と塗膜異常を起こさない観点から、前記単量体(a)〜(d)の合計質量に対して25〜50質量%であり、30〜50質量%が特に好ましい。
【0013】
<単量体(b)>
単量体(b)は、単量体(a)、(c)、及び(d)と共重合可能な単量体であり、n−オクタノール/水間の分配係数Pの常用対数logPが0.00〜0.59である。
【0014】
分配係数Pは、n−オクタノールと水からなる二相溶媒系の各相へのある物質の分配濃度の比の値であり、logPは、分配係数Pの常用対数である。logPの値が大きいほど親油性が高い(親水性が低い)ことを意味する。本明細書において、logPは、Crippen's fragmentation法(J.Chem.Inf.Comput.Sci.,27,21(1987))に基づいて算出された値を意味する。この方法によるlogPは、例えば、PerkinElmer社のChemDraw Professional 17 Suiteのプログラムを用いて計算可能である。
【0015】
単量体(b)としては、例えば、メタクリル酸2−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]エチル、こはく酸モノ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)、N−(3−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エチル、N,N'−ジメチル(メタ)アクリルアミド、アクリル酸2−(2−メトキシエトキシ)エチル、アクリル酸、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−(アセトアセチルオキシ)エチル、メタクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、N−ビニル−2−ピロリドン、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−[2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ]エチル、等のアクリル酸エステル類、酢酸ビニル等の官能基を有するビニル化合物が挙げられる。
【0016】
単量体(b)としては、汚損生物の付着が非常に厳しい湾内においても良好な長期静置防汚性能を発揮できることから、logPが0.20〜0.59のものが好ましく、logPが0.40〜0.50のものが更に好ましい。logPの値は、具体的には例えば、0.00、0.05、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50、0.55、0.59であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0017】
単量体(b)の含有量は、長期静置防汚性能と塗膜異常を起こさない観点から、前記単量体(a)〜(d)の合計質量に対して5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%が更に好ましい。
【0018】
<単量体(c)>
単量体(c)は、単量体(a)、単量体(b)および単量体(d)と共重合可能な単量体であり、logPが0.60〜0.95である。また、単量体(c)は、不飽和結合を1つしか有さない。
【0019】
単量体(c)としては、例えば、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、N−イソポロピルアクリルアミド、アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸2−(2−エトキシエトキシ)エチル、メタクリル酸2−(2−メトキシエトキシ)エチル、メタクリル酸、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸2−[2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ]エチル、N,N'−ジエチルアクリルアミド、アクリル酸3−メトキシブチル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、等のアクリル酸エステル類、アクリロニトリル等の官能基を有するビニル化合物が挙げられる。
【0020】
単量体(c)としては、汚損生物の付着が非常に厳しい湾内においても良好な長期静置防汚性能を発揮できることから、logPが0.60〜0.95のものが好ましく、logPが0.70〜0.90のものが更に好ましい。logPの値は、具体的には例えば、0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.95であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0021】
単量体(c)の含有量は、長期静置防汚性能と塗膜異常を起こさない観点から、前記単量体(a)〜(d)の合計質量に対して5〜35質量%が好ましく、10〜30質量%が更に好ましい。
【0022】
<単量体(d)>
単量体(d)は、単量体(a)、単量体(b)および単量体(c)と共重合可能なエチレン性不飽和単量体単量体である。
【0023】
単量体(d)としては、例えば、メタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2一エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル等が挙げられる。
【0024】
<共重合体(P)の合成>
本発明の共重合体(P)は、単量体(a)〜(d)の混合物を共重合することにより得ることができる。前記共重合は、例えば、重合開始剤の存在下で行われる。
【0025】
前記共重合体の重量平均分子量(Mw)は5000〜300000であることが望ましい。分子量が5000未満であれば、防汚塗料の塗膜が脆弱となり、剥離やクラックを起こし易く、また、300000を超えると、共重合体溶液の粘度が上昇し、取扱いが困難となるからである。このMwは、具体的には例えば、5000、10000、20000、30000、40000、50000、60000、70000、80000、90000、100000、200000、300000であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0026】
前記共重合体は、単量体(a)〜(d)のランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、又はブロック共重合体のいずれの共重合体であってもよい。
【0027】
前記重合開始剤としては、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート、ジメチル2,2'−アゾビスイソブチレート、2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエイト、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカルボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t−アミルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−アミルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエイト等の過酸化物等が挙げられる。これら重合開始剤は、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。前記重合開始剤としては、特に、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビスイソブチレート及び1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエイトが好ましい。重合開始剤の使用量を適宜設定することにより、共重合体Pの分子量を調整することができる。
【0028】
重合方法としては、例えば、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合、非水分散重合等が挙げられる。この中でも特に、簡便に、且つ、精度良く、共重合体を得ることができる点で、溶液重合、非水分散重合が好ましい。
【0029】
前記重合反応においては、必要に応じて有機溶媒を用いてもよい。有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤;ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メトキシプロピル、酢酸2−メトキシ−1−メチルエチル等のエステル系溶剤;イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、1−メトキシ−2−プロパノール等のアルコール系溶剤;ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤等が挙げられる。この中でも特に、芳香族炭化水素系溶剤が好ましく、キシレンがより好ましい。これら溶媒については、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
重合反応における反応温度は、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよく、通常60〜150℃であり、好ましくは70〜140℃である。重合反応における反応時間は、反応温度等に応じて適宜設定すればよく、通常4〜10時間程度である。
【0031】
重合反応は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0032】
1−2.防汚薬剤
防汚薬剤としては、例えば無機薬剤及び有機薬剤が挙げられる。
無機薬剤としては、例えば、亜酸化銅、チオシアン酸銅(一般名:ロダン銅)、銅粉等が挙げられる。この中でも特に、亜酸化銅とロダン銅が好ましく、亜酸化銅はグリセリン、ショ糖、ステアリン酸、ラウリン酸、リシチン、鉱物油などで表面処理されているものが、貯蔵時の長期安定性の点でより好ましい。
【0033】
有機薬剤としては、例えば、2−メルカプトピリジン−N−オキシド銅(一般名:カッパーピリチオン)、2−メルカプトピリジン−N−オキシド亜鉛(一般名:ジンクピリチオン)、ジンクエチレンビスジチオカーバメート(一般名:ジネブ)、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3−イソチアゾロン(一般名:シーナイン211)、3,4−ジクロロフェニル−N−N−ジメチルウレア(一般名:ジウロン)、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン(一般名:イルガロール1051)、2−(p−クロロフェニル)−3−シアノ−4−ブロモ−5−トリフルオロメチルピロール(一般名:Econea28)、(±)−4−[1−(2,3−ジメチルフェニル)エチル]−1H−イミダゾール(一般名:メデトミジン)等が挙げられる。
これらの防汚薬剤は1種又は2種以上併用して使用できる。
【0034】
1−3.他の添加剤
さらに本発明の防汚塗料用樹脂には、必要に応じて溶出調整剤、可塑剤、顔料、染料、消泡剤、脱水剤、揺変剤、有機溶剤等を添加して防汚塗料とすることができる
溶出調整剤としては、例えば、ロジン、ロジン誘導体、ナフテン酸、シクロアルケニルカルボン酸、ビシクロアルケニルカルボン酸、バーサチック酸、トリメチルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸、及びこれらの金属塩等の、モノカルボン酸及びその塩、又は前記脂環式炭化水素樹脂が挙げられる。これらは単独又は2種以上で使用できる。
前記ロジン誘導体としては、水添ロジン、不均化ロジン、マレイン化ロジン、ホルミル化ロジン、重合ロジン等を例示できる。前記脂環式炭化水素樹脂としては、市販品として、例えば、クイントン1500、1525L、1700(商品名、日本ゼオン社製)等が挙げられる。
可塑剤としては、例えば、燐酸エステテル類、フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、セバシン酸エステル類、エポキシ化大豆油、アルキルビニルエーテル重合体、ポリアルキレングリコール類、t−ノニルペンタスルフィド、ワセリン、ポリブテン、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)、シリコーンオイル、流動パラフィン、塩素化パラフィン等が挙げられる。これらは単独又は2種以上で使用できる。
【0035】
脱水剤としては、例えば、硫酸カルシウム、合成ゼオライト系吸着剤、オルソエステル類、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のシリケート類やイソシアネート類、カルボジイミド類、カルボジイミダゾール類等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
2.防汚塗料組成物の製造方法
本発明の防汚塗料組成物は、例えば、前記共重合体(P)、防汚薬剤及び他の添加剤等を含有する混合液を、分散機を用いて混合分散することにより製造できる。
前記混合液としては、共重合体及び防汚薬剤等の各種材料を溶媒に溶解または分散させたものであることが好ましい。前記溶媒としては、上記有機溶媒と同様のものを使用できる。
前記分散機としては、例えば、微粉砕機として使用できるものを好適に用いることができる。例えば、市販のホモミキサー、サンドミル、ビーズミル等を使用することができる。また、撹拌機を備えた容器に混合分散用のガラスビーズ等を加えたものを用い、前記混合液を混合分散してもよい。
【0037】
3.防汚処理方法、防汚塗膜、および塗装物
本発明の防汚処理方法は、上記防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成する。本発明の防汚処理方法によれば、前記防汚塗膜が表面から徐々に溶解し塗膜表面が常に更新されることにより、水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。
被塗膜形成物としては、例えば、船舶(特に船底)、漁業具、水中構造物等が挙げられる。
防汚塗膜の厚みは、被塗膜形成物の種類、船舶の航行速度、海水温度等に応じて適宜設定すればよい。例えば、被塗膜形成物が船舶の船底の場合、防汚塗膜の厚みは通常50〜700μm、好ましくは100〜600μmである。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例等を示し本発明の特徴とするところをより一層明確にする。ただし、本発明は実施例等に限定されるものではない。
各製造例、比較製造例、実施例及び比較例中の%は質量%を示す。粘度は、25℃での測定値であり、B形粘度計により求めた値である。重量平均分子量(Mw)は、GPCにより求めた値(ポリスチレン換算値)である。GPCの条件は下記の通りである。
装置・・・ 東ソー株式会社製 HLC−8220GPC
カラム・・・ TSKgel SuperHZM−M 2本
流量・・・ 0.35 mL/min
検出器・・・ RI
カラム恒温槽温度・・・ 40℃
溶離液・・・ THF
加熱残分は、JIS K 5601−1−2:1999(ISO 3251:1993)「塗料成分試験方法−加熱残分」に準拠して測定した値である。
表1〜表4中のlogPは、PerkinElmer社のChemDraw Professional 17 Suiteのプログラムを用いて得られた値である。
また、表中の各成分の配合量の単位はgである。
【0039】
<製造例1(共重合体P1の製造)>
温度計、冷却器、攪拌装置及び滴下ロートを備えた四ツ口フラスコに、キシレン61g(初期溶媒)を仕込み、窒素ガスを導入し、攪拌しながら88℃を保持した。そこへ、単量体(a)30g、メタクリル酸メチル31g、アクリル酸n−ブチル4g、アクリル酸2−メトキシエチル15g、メタクリル酸2−メトキシエチル20g、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエイト0.8g(初期添加)の混合液を88℃で保持しながら3時間かけて滴下した。その後、88℃で1時間攪拌を行った後、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエイト0.1g(後添加)を1時間毎に3回添加し、さらに同温度で2時間攪拌を行った後、キシレン39g(希釈溶媒)添加し室温に冷却し、共重合体溶液P1を得た。P1の加熱残分、Mw、粘度を表1に示す。
【0040】
<製造例2〜40、比較製造例1〜10>
表1〜表4に示す単量体、重合開始剤及び溶媒を用いて、各反応温度条件下、実施例1と同様の操作で重合反応を行うことにより共重合体溶液P2〜P40およびT1〜T10を得た。P2〜P40およびT1〜T10の加熱残分、Mw、粘度を表1〜表4に示す。配合量についての表中の数値は質量部である。また、表中の単量体(a)の割合は、単量体(a)〜(d)の合計質量を100質量%としたときの単量体(a)の質量%を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
<製造例41(ロジン亜鉛塩溶液の製造)>
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えたフラスコに、中国産ガムロジン(WW)240gとキシレン360gをフラスコに入れ、更に、前記ロジン中の樹脂酸が全て亜鉛塩を形成するように酸化亜鉛120gを加え、70〜80℃で3時間、減圧下で還流脱水した。その後、冷却しろ過を行うことにより、ロジン亜鉛塩のキシレン溶液(濃褐色透明液体、固形分50%)を得た。得られた溶液の加熱残分は、50.2%であった。
【0046】
<製造例42(水添ロジン亜鉛塩溶液の製造)>
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えたフラスコに、ハイペールCH(水添ガムロジン)240gとキシレン360gをフラスコに入れ、更に、前記ロジン中の樹脂酸が全て亜鉛塩を形成するように酸化亜鉛120gを加え、70〜80℃で3時間、減圧下で還流脱水した。その後、濃縮、冷却しろ過を行うことにより、水添ロジン亜鉛塩のキシレン溶液(濃褐色液体、固形分65%)を得た。得られた溶液の加熱残分は、65.1%であった。
【0047】
<実施例1〜47、比較例1〜11>
上記製造例で得られた共重合体溶液を用いて、実施例・比較例の防汚塗料組成物を表5〜表10に示す配合により調製した。
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
【表8】
【0052】
【表9】
【0053】
【表10】
【0054】
表5〜表10中の防汚薬剤、及びその他の添加剤の詳細は、以下の通りである。
【0055】
<防汚薬剤>
亜酸化銅:商品名「NC−301」(日進ケムコ株式会社製)
銅ピリチオン:商品名「カッパーオマジン」(アーチケミカル株式会社製)
チオシアン酸銅(I):商品名「チオシアン酸銅(I)」(和光純薬工業株式会社製)
Zineb:商品名「ジネブ」(SIGMA−ALDRICH製)
SeaNine:商品名「Sea Nine211」4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3−イソチアゾロン(固形分30%キシレン溶液、ロームアンドハース社製)
Econea:商品名「Econea 028」2−(p−クロロフェニル)−3−シアノ−4−ブロモ−5−トリフルオロメチルピロール(ヤンセンPMP製)
medetomidine:商品名「4−(1−(2,3−Dimethylphenyl)ethyl)−1H−imidazole」(和光純薬工業株式会社製)
【0056】
<その他の添加剤>
塩素化パラフィン:商品名「エンパラA−40S」(東ソー株式会社製)
トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル):商品名「トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)」(東京化成工業株式会社製)
ロジン亜鉛塩溶液:製造例41で製造したものを使用
ガムロジン溶液:中国産ガムロジン(WW)の固形分50%キシレン溶液
水添ロジン溶液:商品名「ハイペールCH」(荒川化学工業株式会社製)の固形分50%キシレン溶液。
水添ロジン亜鉛塩溶液:製造例42で製造したものを使用
ベンガラ:商品名「ベンガラキンギョク」(森下弁柄工業株式会社製)
タルク:商品名「クラウンタルク3S」(松村産業株式会社製)
酸化亜鉛:商品名「酸化亜鉛2種」(正同化学工業株式会社製)
酸化チタン:商品名「FR−41」(古河機械金属株式会社製)
エチルシリケート28:テトラエトキシシラン:商品名「エチルシリケート28」(コルコート株式会社製)
無水石膏:「D−1」(株式会社ノリタケカンパニーリミテド製)
ディスパロンA603−20X:アマイド系チクソトロピック剤:商品名「ディスパロンA603−20X」(楠本化成株式会社製)
ディスパロン4200−20:酸化ポリエチレン系チクソトロピック剤:商品名「ディスパロン4200−20」(楠本化成株式会社製)
【0057】
<試験例1(塗膜の溶解性試験(ロータリー試験))>
水槽の中央に直径515mm及び高さ440mmの回転ドラムを取付け、これをモーターで回転できるようにした。また、海水の温度を一定に保つための冷却装置、及び海水のpHを一定に保つためのpH自動コントローラーを取付けたロータリー試験機を2台用意した。
【0058】
試験板を下記の方法に従って作製した。
まず、チタン板(71×100×0.5mm)上に、防錆塗料(エポキシビニル系A/C)を乾燥後の厚みが約100μmとなるように塗布し乾燥させた。その後、実施例および比較例で得られた塗料組成物を、前期防錆塗膜上に、乾燥後の厚みが約200μmとなるよう塗布し、40℃で3日乾燥させることにより、試験板を用意した。試験板は同一のものを塗料組成物に対してそれぞれ2枚ずつ作製した。
作製した試験板を上記装置の回転装置の回転ドラムに海水と接触するように固定して、20ノットの速度で回転ドラムを回転させた。その間、海水の温度を25℃に、1台目はpHを7.7〜7.9に保ち、2台目をpH8.0〜8.2に保ち、二週間毎に海水を入れ換えた。
各試験板の初期の膜厚と6ヶ月後および9ケ月後の残存膜厚を株式会社キーエンス製の形状測定レーザマイクロスコープVK−X100で測定し、その差から溶解した塗膜厚を計算することにより塗膜溶解量を求めた。結果を表5〜表10に示す。表中の数値は6ヶ月後および9ケ月後それぞれの時点での総溶解量である。
【0059】
<試験例2(防汚試験)>
実施例および比較例で得られた防汚塗料組成物を、硬質塩ビ板(100×200×2mm)の両面に乾燥塗膜としての厚みが約200μmとなるよう塗布し室温で3日間乾燥させて試験板を作製した。この試験板を汚損生物の付着が非常に厳しい大阪湾、伊勢湾内の海面下2.0mに12ヶ月間浸漬して付着物による試験板の汚損を6ヶ月後および12ヶ月後に観察した。
評価は、塗膜表面の状態を目視観察することにより、以下の基準で判断した。結果を表5〜表10に示す。
【0060】
〇:貝類、藻類などの汚損生物の付着がなく、スライムが付着したレベル。
△:貝類、藻類などの汚損生物が部分的に付着したレベル
×:貝類、藻類などの汚損生物が全面に付着したレベル。
【0061】
<試験例3(耐海水性試験)>
前記、試験例2と同じ試験板で同時に塗膜状態を観察し、以下の基準で判断した。結果を表5〜表10に示す。
〇:塗膜に水ぶくれ、クラック、剥離等が認められない。
△:塗膜に水ぶくれが認められた。
×:塗膜に水ぶくれ、クラック、剥離等が認められた。
【0062】
<考察>
全ての実施例では、試験例1〜3において良好な結果が得られた。
単量体(b)と(c)の一方のみを有する共重合体を用いた比較例1〜8、及び単量体(a)の含有量が単量体(a)〜(d)の合計質量に対して25〜50質量%の範囲外である共重合体を用いた比較例9〜11では、試験例1〜3の少なくとも1つにおいて良好な結果が得られなかった。
【要約】
汚損生物の付着が非常に厳しい湾内においても良好な長期防汚性能を発揮でき、且つ耐海水性に優れた防汚塗膜を形成可能な防汚塗料組成物用共重合体を提供する。
本発明によれば、共重合体Pと、防汚薬剤を含有する防汚塗料組成物であって、
前記共重合体Pは、単量体(a)と、単量体(b)と、単量体(c)と、前記単量体(a)〜(c)以外のエチレン性不飽和単量体(d)との共重合体であり、
前記単量体(a)は、一般式(1)で表され、
前記単量体(a)の含有量は、前記単量体(a)〜(d)の合計質量に対して25〜50質量%であり、
前記単量体(b)及び(c)は、それぞれ、n−オクタノール/水間の分配係数Pの常用対数logPが0.00〜0.59、及び0.60〜0.95の単量体であり、
前記単量体(c)は、不飽和結合を1つしか有さない単量体である、防汚塗料組成物が提供される。
(式中、Rはメチル基、R、R、Rはそれぞれ同一又は異なって炭素数3〜8の分岐アルキル基又はフェニル基を示す)