(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する熱可塑性樹脂組成物において、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100質量%とした場合に、0.01〜8.00質量%のアルカンスルホン酸塩と、0.05〜8.00質量%のテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンと、0.05〜8.00質量%のトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトとを、含有するものである無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物。
前記アルカンスルホン酸塩が、炭素数2〜22のアルキル基を有するアルカンスルホン酸ナトリウムの1種又は2種以上の混合物である請求項1に記載の無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物。
前記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物を、ニ軸押出機により前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下の温度でTダイにてシート成形後、前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下の温度で真空成形する請求項10に記載の成形体の製造方法。
前記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物を、ニ軸押出機により前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下の温度でTダイにてシート成形後、得られたシートを折加工する請求項10に記載の成形体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱可塑性樹脂は、工業用及び家庭用の各種成形体、食品包装や一般用品の成形包装等の材料として、森林資源を源とする紙資材と共に広く用いられてきたが、環境保護が国際的な問題となって来た現在、これらを無毒で、リサイクル可能とする、焼却できるといった観点と並行して、熱可塑性樹脂並びに紙資材の消費量を低減することも大いに検討されている。
【0003】
このような点から、無機物質粉末を熱可塑性樹脂中に高充填してなる無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物が提唱され、実用化されている(例えば、特許文献1〜3等参照)。無機物質粉末として、特に、炭酸カルシウムは、自然界に豊富に存在する資源であり、環境保護といった観点からの要望に好ましく答えることができるものである。
【0004】
しかしながら、無機物質粉末高充填の熱可塑性樹脂を用いて食品包装容器等の成形体を製造するに際しては、無機物質粉末が高充填されているが故に、加工性が悪く、滑剤を添加することが必須である。
【0005】
このような滑剤としては、従来、一般的なポリオレフィン系樹脂組成物において用いられると同様の、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド;ベヘニン酸アミド、ステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸系のもの、特に、経済的な優位性からステアリン酸マグネシウム等の金属石鹸系のものが一般的に用いられていた(例えば特許文献4等参照)。
【0006】
しかし、このようなステアリン酸マグネシウム等の滑剤を配合した無機物質粉末高充填の熱可塑性樹脂を用いて成形体を成形した場合、滑剤に起因する臭気性の問題が発生し、特に、食品包装容器等の用途においては不適なものとなっていた。
【0007】
また、このようなステアリン酸マグネシウム等の滑剤を配合した無機物質粉末高充填の熱可塑性樹脂組成物より得られる成形体は、帯電防止性能といった観点からも十分な特性が得られないものであった。一般に、殆どの熱可塑性樹脂は絶縁体であるため、帯電列の異なる物体との摩擦や剥離、流体の流動により発生した静電荷を容易に蓄積する欠点を持っており、放電、雷撃、塵埃の吸着のような様々な静電気障害を引き起こす。例えば、OA機器などの電子部品や機械部品の緩衝包装材には、埃や静電気を嫌う場合があり、また食品包装容器等の容器体においても静電気帯電によって塵や埃が付着してしまうことは、衛生面、製品管理面等の上からも極力避けられるべきであり、改善が望まれるところであった。
【0008】
従来は、上記したような臭気性の課題を解決するために、例えば2種3層構造(滑剤無添加の熱可塑性樹脂層で上記したような滑剤添加の無機物質粉末高充填熱可塑性樹脂組成物層をサンドイッチする構造)で、臭気性の課題を解決していたものの、多層成形工程が必要となり生産性が悪く、また層端面からの臭気を完全に抑制することは困難であった。
【0009】
なお、例えば、特許文献5に記載されているように、従来、一般的な各種熱可塑性樹脂組成物中に帯電防止効果を付与する上で、アルカンスルホン酸ナトリウムを配合することは知られているが、一方で、アルカンスルホン酸ナトリウムからなる界面活性剤は、樹脂組成物調製時における微粉の粉立ちや臭気の発生を生じる点が問題視されていることもよく知られていることであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、成形後において、低臭気性となり食品包装容器等の成形体の製造に適した、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物、及び無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の成形体並びにその製造方法を提供することを課題とする。本発明はまた、帯電防止特性が良好であり、成形体において静電気帯電による種々の問題や、塵や埃の付着が少ないものを得ることのできる無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物、及び無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の成形体並びにその製造方法を提供することを別の課題とする。本発明はまた、成形性に優れ、低臭気性であり、優れた永久帯電防止性、耐熱性及び機械特性を有する成形体を与える無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物、及び無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の成形体並びにその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂に無機物質粉末を高配合してなる熱可塑性樹脂組成物に関して、滑剤としてアルカンスルホン酸塩を所定量用いることで、良好な成形性を確保した上で、臭気の問題を解決した、例えば、食品包装容器等の成形体の成形用途として、好適な無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物となることを見出した。上記したように一般に、アルカンスルホン酸ナトリウムは、熱可塑性樹脂組成物に配した際に、臭気性の問題が生じることが知られているものであり、無機物質粉末を高配合した熱可塑性樹脂組成物においては、逆に臭気性の問題が生じず、良好な成形体が得られることは驚くべきことであった。
【0013】
また、このようにアルカンスルホン酸塩を所定量用いることで、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の帯電防止特性も良好なものとなることも明らかとなった。
さらに、本発明者らは、上記課題を解決するためのさらに好ましい要件として、上記したようなアルカンスルホン酸塩を所定量添加してなる無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物において、ごく僅かではあるが、臭気の要因となる無機物質粉末の表面処理、代表的には、脂肪酸による表面処理、を無くすこと、及び/又は、成形加工時における樹脂の部分劣化に起因する臭気を抑制する上で、特定の酸化防止剤の組合せ、すなわち、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンの特定量と、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトの特定量の組み合わせが、有効であることを見出した。
【0014】
さらに、本発明者らは、上記課題を解決するために、成形体の製造工程の観点からも鋭意検討を進め、成形加工時における樹脂の部分劣化に起因する臭気を抑制すべく、上記したようなアルカンスルホン酸塩を所定量添加してなる無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物を、融点+55℃以下の温度でTダイにてシート成形後、折加工する製造方法の態様が好ましいこと、又はさらに前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下の温度で真空成形する製造方法の態様が好ましいことを見出した。そしてこのような知見により本発明に到達したものである。
【0015】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する熱可塑性樹脂組成物において、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100質量%とした場合にアルカンスルホン酸塩を
0.01〜8.00質量%添加したものである無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物である。
【0016】
本発明に係る無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の一態様においては、前記アルカンスルホン酸塩が、炭素数2〜22のアルキル基を有するアルカンスルホン酸ナトリウムの1種又は2種以上の混合物である無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物が示される。
【0017】
本発明に係る無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の一態様においては、前記無機物質粉末が表面処理されていないものである無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物が示される。
【0018】
本発明に係る無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の別の一態様においては、さらに、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100質量%とした場合に、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンの0.05〜8.00質量%と、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトの0.05〜8.00質量%とを、共に添加したものである無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物が示される。
【0019】
上記課題を解決する本発明はまた、上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物よりなる成形体により達成される。
【0020】
上記課題を解決する本発明はまた、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する熱可塑性樹脂組成物よりなり、JIS K 6911:2006に準拠する定電圧印加法により測定された体積抵抗率が1.0×10
16Ω・cm以下である成形体により達成される。
【0021】
本発明に係る成形体の一態様においては、上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物よりなる層の少なくとも一方の表面を、表面層により被覆してなる積層構造を有する成形体が示される。
【0022】
本発明に係る成形体の一態様においては、成形体が食品包装容器である成形体が示される。
【0023】
上記課題を解決する本発明はまた、上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物を前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下の温度で成形するものである成形体の製造方法により達成される。
【0024】
本発明に係る成形体の製造方法の一態様においては、上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物を、ニ軸押出機により前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下の温度でTダイにてシート成形後、前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下の温度で真空成形する成形体の製造方法が示される。
【0025】
本発明に係る成形体の製造方法のさらに別の一態様においては、上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物を、ニ軸押出機により前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下の温度でTダイにてシート成形後、得られたシートを折加工する成形体の製造方法が示される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、無機物質粉末を高配合した熱可塑性樹脂組成物において、良好な成形性を確保した上で、臭気の問題を解決することができ、例えば、食品包装容器等として好適な成形体を提供できるものである。また本発明によれば、無機物質粉末を高配合した熱可塑性樹脂組成物において、良好な成形性を確保した上で、成形体に良好な帯電防止特性を付与でき、成形体において静電気帯電による種々の問題や、塵や埃の付着が生じにくいといった優れた特性を与えることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0028】
≪無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物≫
本発明の無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50〜10:90の割合で含有するものであるが、さらにアルカンスルホン酸ナトリウムを後述する特定の割合で含有することを特徴とする。以下、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物を構成する各成分につき、それぞれ詳細に説明する。
【0029】
本発明に係る無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物において用いられ得る熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではなく、当該組成物のその用途、機能等に応じて、各種のものが用いられ得る。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、ナイロン−6,12等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂等の熱可塑性ポリエステル系樹脂;芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート等のポリカーボネート樹脂;アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン(AS)共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)共重合体等のポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ビニル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のポリエーテル系樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
これらの熱可塑性樹脂のうち、その成形容易性、性能面及び経済面等からポリオレフィン系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。
【0031】
ここで、ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン成分単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂であり、具体的には、上記したようにポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂、その他、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体など、さらにそれらの2種以上の混合物などが挙げられる。なお、上記「主成分とする」とは、オレフィン成分単位がポリオレフィン系樹脂中に50質量%以上含まれることを意味し、その含有量は好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。なお、本発明に使用されるポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒、酸素、過酸化物等のラジカル開始剤等を用いる方法等のいずれによって得られたものであってもよい。
【0032】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、プロピレン単独重合体、又はプロピレンと共重合可能な他のα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。プロピレンと共重合可能な他のα−オレフィンとしては、例えば、エチレンや、1−ブテン、イソブチレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセンなどの炭素数4〜10のα−オレフィンが例示される。プロピレン単独重合体としては、アイソタクティック、シンジオタクティック、アタクチック、ヘミアイソタクチック及び種々の程度の立体規則性を示す直鎖又は分枝状ポリプロピレン等のいずれもが包含される。また上記共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよく、さらに二元共重合体のみならず三元共重合体であってもよい。具体的には、例えば、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ブテン−1−プロピレンランダム共重合体、エチレン−ブテン−1−プロピレンランダム3元共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体などを例示できる。なお、上記共重合体中のプロピレンと共重合可能な他のオレフィンは、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100質量%とした場合に、25質量%以下、特に15質量%以下の割合で含有されていることが好ましく、下限値としては0.3質量%であることが好ましい。また、これらのポリプロピレン系樹脂は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
また、前記ポリエチレン系樹脂としては、エチレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン1共重合体、エチレン−ブテン1共重合体、エチレン−ヘキセン1共重合体、エチレン−4メチルペンテン1共重合体、エチレン−オクテン1共重合体等、さらにそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0034】
前記したポリオレフィン系樹脂の中でも、機械的強度と耐熱性とのバランスに特に優れることからポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0035】
≪無機物質粉末≫
本発明に係る無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物中に配合され得る無機物質粉末としては、特に限定されず、例えば、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛などの炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、若しくはこれらの水和物の粉末状のものが挙げられ、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が挙げられる。これらは合成のものであっても天然鉱物由来のものであってもよく、また、これらは単独で2種類以上併用して使用され得る。
【0036】
さらに、無機物質粉末の形状としても、特に限定されるわけではなく、粒子状、フレーク状、顆粒状、繊維状等のいずれであってもよい。また、粒子状としても、一般的に合成法により得られるような球形のものであっても、あるいは、採集した天然鉱物を粉砕にかけることにより得られるような不定形状のものであっても良い。
【0037】
これらの無機物質粉末として、好ましくは炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等であり、特に炭酸カルシウムが好ましい。さらに炭酸カルシウムとしては、合成法により調製されたもの、いわゆる軽質炭酸カルシウムと、石灰石などCaCO
3を主成分とする天然原料を機械的に粉砕分級して得られる、いわゆる重質炭酸カルシウムとのいずれであっても良く、これらを組合わせることも可能であるが、経済性の観点で、好ましくは、重質炭酸カルシウムである。
【0038】
ここで、重質炭酸カルシウムとは、天然の石灰石などを機械的に粉砕・加工して得られるものであって、化学的沈殿反応等によって製造される合成炭酸カルシウムとは明確に区別される。なお、粉砕方法には乾式法と湿式法とがあるが、経済性の観点で、乾式法が好ましい。
【0039】
また、無機物質粉末の分散性又は反応性を高めるために、無機物質粉末の表面を予め常法に従い表面改質しておいてもよい。表面改質法としては、プラズマ処理等の物理的な方法や、カップリング剤や界面活性剤で表面を化学的に表面処理するものなどが例示できる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性のいずれのものであってもよく、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。
【0040】
しかしながら、本発明の好ましい実施形態においては、用いられる無機物質粉末としては、化学的処理剤を用いた無機物質粉末の表面処理を受けていないもの、少なくとも、上記したような脂肪酸系化合物による表面処理を受けてないものを用いることが好ましい。無機物質粉末として、このように表面処理を受けていないものを用いることで、成形時において無機物質粉末表面に付着していた表面処理剤が熱分解して、わずかながらでも臭気の要因となることを排除できるためである。従って、本発明の特に好ましい一実施形態においては、用いられる無機物質粉末として表面処理を施されていない重質炭酸カルシウムを用いることが挙げられる。
【0041】
無機物質粉末は、粒子であることが好ましく平均粒子径は、0.1μm以上50.0μm以下が好ましく、1.0μm以上15.0μm以下がより好ましい。なお、本明細書において述べる無機物質粉末の平均粒子径は、JIS M−8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値をいう。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置SS−100型を好ましく用いることができる。特に、その粒径分布において、粒子径50.0μm以上の粒子を含有しないことが好ましい。他方、粒子が細かくなり過ぎると、前述した熱可塑性樹脂と混練した際に粘度が著しく上昇し、成形体の製造が困難になると虞れがある。そのため、その平均粒子径は0.5μm以上とすることが好ましい。
【0042】
粉末状、フレーク状、又は顆粒状である無機物質粉末の平均粒子径は、好ましくは、10.0μm以下であり、より好ましくは5.0μm以下である。
【0043】
繊維状である無機物質粉末の平均繊維長は、好ましくは、3.0μm以上20.0μm以下である。平均繊維径は、好ましくは、0.2μm以上1.5μm以下である。また、アスペクト比は、通常、10以上30以下である。なお、繊維状である無機物質粉末の平均繊維長及び平均繊維径は、電子顕微鏡で測定したものであり、アスペクト比は、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)である。
【0044】
本発明に係る無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物に含まれる上記した熱可塑性樹脂と、無機物質粉末との配合比(質量%)は、50:50〜10:90の比率であれば特に限定されないが、40:60〜20:80の比率であることが好ましく、40:60〜25:75の比率であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂と無機物質粉末との配合比において、無機物質粉末の割合が50質量%より低いものであると、無機物質粉末を配合したことによる無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の所定の質感、耐衝撃性等の物性が得られないものとなり、一方90質量%よりも高いものであると、押出成形、真空成形等による成形加工が困難となるためである。
【0045】
≪アルカンスルホン酸塩≫
しかして、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物においては、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100質量%とした場合にアルカンスルホン酸塩を
0.01〜8.00質量%添加する。アルカンスルホン酸塩を上記所定の範囲内の量にて無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物中に添加することによって、当該無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の成形時における離型性等の加工性を良好に保ちつつ、得られる成形品における臭気の発生を効果的に抑制することができる。また、帯電防止特性の面でも適度な電気抵抗値を有することができるものとなる。
【0046】
アルカンスルホン酸塩の添加量としては、さらに、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100質量%とした場合に0.01〜8.00質量%、特に、0.05〜4.00質量%であることが望ましい。
【0047】
本発明で用いられるアルカンスルホン酸塩としては、特に限定されるものではないが、一般式(I)で表される化合物であることが望ましい。
R
1−SO
3M (I)
(式中、R
1は炭素数2〜22のアルキル基、Mはアルカリ金属を示す。)
【0048】
アルカンスルホン酸塩の有するアルキル基としては、低臭気性及び帯電防止性能の発現の観点から、炭素数が2〜22であり、好ましくは6〜18であり、さらに好ましくは10〜16である。アルカンスルホン酸塩は、アルキル基の鎖長の異なる複数のアルカンスルホン酸塩の混合物であっても良い。アルカンスルホン酸塩の有するアルカリ金属Mとしては、好ましくはナトリウム及びカリウムであり、入手の容易性及びコストの観点からナトリウムであることが、より好ましい。
【0049】
上記したような一般式(I)で表わされるアルカンスルホン酸塩の前駆体であるR
1−SO
3Hは、例えば、オレフィンとSO
3との反応等により得ることができる。R
1−SO
3Hにアルカリを作用させることで、容易にアルカンスルホン酸塩を合成することが可能である。また、このアルカンスルホン酸塩を直接的に得る方法としては、シュツレッガー(Strecker)反応に代表されるアルキルハライドと亜硫酸塩との反応や、リード(Reed)反応に代表される、パラフィンにSO
2とCl
2との混合ガスを紫外線照射下で作用させてスルホクロライドを生成し、アルカリ存在下で加水分解する方法等が挙げられる。なお、アルカンスルホン酸塩としては、市販のものをそのまま用いることもできる。
【0050】
アルカンスルホン酸塩の具体例としては、例えば、オクタンスルホン酸ナトリウム、デカンスルホン酸ナトリウム、ウンデカンスルホン酸ナトリウム、ドデカンスルホン酸ナトリウム、トリデカンスルホン酸ナトリウム、テトラデカンスルホン酸ナトリウム、ペンタデカンスルホン酸ナトリウム、ヘキサデカンスルホン酸ナトリウム、オクタデカンスルホン酸ナトリウム等のアルカンスルホン酸ナトリウム;ウンデカンスルホン酸カリウム等のアルカンスルホン酸カリウム;デカンスルホン酸リチウム等のアルカンスルホン酸リチウム等が挙げられる。これらの中で、アルカンスルホン酸ナトリウムが好ましい。これらの化合物は単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
≪酸化防止剤≫
本発明の無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物においては、成形加工時の熱や機械的せん断力等による熱可塑性樹脂の酸化を防止するために、さらに酸化防止剤を配合することもできる。
【0052】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、ペンタエリスリトール系酸化防止剤等を挙げることができる。
【0053】
フェノール系の酸化防止剤としては、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネイト、2−t−ブチル−6−(3'−t−ブチル−5'−メチル−2'−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネイトジエチルエステル、テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン、2,2’−チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−メチル−4,6−ビス(オクチルスルファニルメチル)フェノール、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド、2,2’−オキサミド−ビス[エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−エチルヘキシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−エチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス[6−(1−メチルシクロヘキシル)−p−クレゾール]、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルベンズ[d,f][1,3,2]−ジオキサホスフォビン、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ビス[モノエチル(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネートカルシウム塩、2,6−ジフェニル−4−オクタデシロキシフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ビス[3,3−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、4,4’−ブチリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、ビス[2−t−ブチル−4−メチル−6−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルベンジル)フェニル]テレフタレート、1,3,5−トリス(2,6−ジメチル−3−ヒドロキシ−4−t−ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリス[(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、2−t−ブチル−4−メチル−6−(2−アクロイルオキシ−3−t−ブチル−5−メチルベンジル)フェノール、3,9−ビス[2−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルヒドロシンナモイルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、トリエチレングリコールビス[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]を挙げることができる。
【0054】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−t−ブチルフェニル)−2−エチルヘキシルホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)−オクタデシルホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フルオロホスファイト、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、トリス(2−〔(2,4,8,10−テトラキス−t−ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン−6−イル)オキシ〕エチル)アミン、3,9−ビス(4−ノニルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスフェススピロ[5,5]ウンデカン、2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル−2−ブチル−2エチル−1,3−プロパンジオールホスファイト、ジイソオクチルホスファイト、ヘプタキストリホスファイト、トリイソデシルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジイソオクチルフェニルホスファイト、ジフェニルトリデシルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル、モノエステル等の亜リン酸エステル;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2−エチルフェニルジフェニルホスフェート等が挙げられる。
【0055】
本発明の無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物においては、酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤とを併用すること、特に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、同様にt-ブチル骨格、さらにはt-ブチルフェニル骨格などといった立体障害性の高い構造を有するリン系酸化防止剤とを併用することが、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物より得られる成形品の臭気を一層抑制する上から望ましい。
【0056】
特に、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の1種であるテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100質量%とした場合の0.05〜4.00質量%、より好ましくは0.10〜3.00質量%と、立体障害性の高い構造を有するリン系酸化防止剤の1種であるトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトを無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100質量%とした場合の0.05〜4.00質量%、より好ましくは0.10〜3.00質量%とを、共に添加したものとすることが望ましい。このように特定の酸化防止剤の特定量の併用によって、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の成形加工時における樹脂の部分劣化を特に効果的に抑制し、得られる成形品の、臭気を一層抑制する上から望ましい。
【0057】
≪帯電防止剤≫
本発明の無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物においては、滑剤としてアルカンスルホン酸塩を所定量配合することによって、上述したように成形体に良好な帯電防止特性を付与できるが、さらに、熱可塑性樹脂組成物による成形体の体積固有抵抗を所望の範囲内のものに調整するために、必要に応じて、さらに帯電防止剤を配合することも可能である。このような帯電防止剤としては、例えば、内部添加型のものとして、ラウリルジエタノールアミド、ステアリルジエタノールアミド等の脂肪酸ジエタノールアミドのような水酸基含有化合物を用いることが可能である。なお、脂肪酸ジエタノールアミのアシル基の炭素数の範囲としては8〜22程度が、十分な帯電防止効果を発揮し得る上から望ましい。このような帯電防止剤の配合量としては、上記した所定割合の熱可塑性樹脂と無機物質粉末との配合及び上記した所定量のアルカンスルホン酸塩の配合による臭気性の低減といった所望の効果を阻害しない限り特に限定されるものではないが、例えば、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100質量%とした場合に、帯電防止剤は0.01〜8.00質量%程度、より好ましくは、0.05〜4.00質量%、特に、0.10〜3.00質量%となる割合で配合されることが望まれる。この範囲内で用いることにより、十分な帯電防止効果が得られることに加え、樹脂表面がべとついたり樹脂物性への悪影響が生じる虞れも少ない。
【0058】
≪その他の添加剤≫
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、補助剤としてその他の添加剤を配合することも可能である。その他の添加剤としては、例えば、色剤、カップリング剤、流動性改良材、分散剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、発泡剤等を配合してもよい。これらの添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらは、後述の混練工程において配合してもよく、混練工程の前に予め樹脂組成物に配合していてもよい。本発明に係る無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物において、これらのその他の添加剤の添加量は、上記した所定割合の熱可塑性樹脂と無機物質粉末との配合及び上記した所定量のアルカンスルホン酸塩の配合による臭気性の低減といった所望の効果を阻害しない限り特に限定されるものではないが、例えば、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100質量%とした場合に、これらその他の添加剤はそれぞれ0.01〜8.00質量%程度の割合で、かつ当該その他の添加剤全体で10.00質量%以下となる割合で配合されることが望まれる。
【0059】
以下に、これらのうち、重要と考えられるものについて例を挙げて説明するが、これらに限られるものではない。
【0060】
色剤としては、公知の有機顔料又は無機顔料あるいは染料のいずれをも用いることができる。具体的には、アゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、ジオオサジン系、ペリノン系、キノフタロン系、ペリレン系顔料などの有機顔料や群青、酸化チタン、チタンイエロー、酸化鉄(弁柄)、酸化クロム、亜鉛華、カーボンブラックなどの無機顔料が挙げられる。
【0061】
難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン系難燃剤や、あるいはリン系難燃剤や金属水和物などの非リン系ハロゲン系難燃剤を用いることができる。ハロゲン系難燃剤としては、具体的には例えば、ハロゲン化ビスフェニルアルカン、ハロゲン化ビスフェニルエーテル、ハロゲン化ビスフェニルチオエーテル、ハロゲン化ビスフェニルスルフォンなどのハロゲン化ビスフェノール系化合物、臭素化ビスフェノールA、臭素化ビスフェノールS、塩素化ビスフェノールA、塩素化ビスフェノールSなどのビスフェノール−ビス(アルキルエーテル)系化合物等が、またリン系難燃剤としては、トリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウム、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、リン酸トリアリールイソプロピル化物、クレジルジ2、6−キシレニルホスフェート、芳香族縮合リン酸エステル等が、金属水和物としては、例えば、アルミニウム三水和物、二水酸化マグネシウム又はこれらの組み合わせ等がそれぞれ例示でき、これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。難燃助剤として働き、より効果的に難燃効果を向上させることが可能となる。さらに、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等を難燃助剤として併用することも可能である。
【0062】
発泡剤は、溶融混練機内で溶融状態にされている原料である熱可塑性樹脂組成物に混合し、又は圧入し、固体から気体、液体から気体に相変化するもの、又は気体そのものであり、主として発泡シートの発泡倍率(発泡密度)を制御するために使用される。原料となる熱可塑性樹脂組成物に溶解した発泡剤は、常温で液体のものは樹脂温度によって気体に相変化して溶融樹脂に溶解し、常温で気体のものは相変化せずそのまま溶融樹脂に溶解する。溶融樹脂に分散溶解した発泡剤は、溶融樹脂を押出ダイからシート状に押出した際に、圧力が開放されるのでシート内部で膨張し、シート内に多数の微細な独立気泡を形成して発泡シートが得られる。発泡剤は、副次的に原料樹脂組成物の溶融粘度を下げる可塑剤として作用し、原料樹脂組成物を可塑化状態にするための温度を低くする。
【0063】
発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;クロロジフルオロメタン、ジフロオロメタン、トリフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロメタン、ジクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、クロロメタン、クロロエタン、ジクロロトリフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ジフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、トリフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、テトラクロロジフルオロエタン、パーフルオロシクロブタンなどのハロゲン化炭化水素類;二酸化炭素、チッ素、空気などの無機ガス;水などが挙げられる。
【0064】
発泡剤としては、さらに、例えば、キャリアレジンに発泡剤の有効成分が含まれるものも好ましくを用いる事ができる。キャリアレジンとしては、結晶性オレフィン樹脂等が挙げられる。これらのうち、結晶性ポリプロピレン樹脂が好ましい。また、有効成分としては、炭酸水素塩等が挙げられる。これらのうち、炭酸水素塩が好ましい。結晶性ポリプロピレン樹脂をキャリアレジンとし、炭酸水素塩を熱分解型発泡剤として含む発泡剤コンセントレートであることが好ましい。
【0065】
成形工程において発泡剤に含まれる発泡剤の含有量は熱可塑性樹脂、無機物質粉末、有効成分の量等の種類に応じて、適宜設定することができ、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の全体の質量を100質量%とした場合に、0.04〜5.00質量%の範囲とすることが好ましい。
【0066】
なお、本発明に係る無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物が発泡剤を含有する態様において、熱可塑性樹脂と発泡剤の2成分の質量比(質量%)としては、80:20〜98:2の割合であることがより好ましく、80:20〜90:10の割合であるものが、好ましい例として挙げることができる。
【0067】
<無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、通常の方法を使用することができ、成形方法(押出成形、射出成形、真空成形等)に応じて適宜設定してよく、例えば、成形機にホッパーから投入する前に熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを混練溶融してもよく、成形機と一体で成形と同時に熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを混練溶融してもよい。またアルカンスルホン酸塩は、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを混練溶融する際に組成物中に添加してもよいが、無機物質粉末とを混練溶融するに先立ち、熱可塑性樹脂中に予め配合しておくこともできる。無機物質粉末以外のその他の添加剤に関しても同様である。特に後述するように熱可塑性樹脂をペレットの形態として用いる場合には、熱可塑性樹脂中に予め配合しておく態様を採用することが望ましい。また、溶融混練は、熱可塑性樹脂に無機物質粉末を均一に分散させる傍ら、高い剪断応力を作用させて混練することが好ましく、例えば二軸混練機で混練することが好ましい。上記無機物質粉末を熱可塑性樹脂組成物に配合する際においては、後述するような成形時における温度と同様に、高温となるほど臭気を発生させる傾向となるため、前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下、好ましくは、前記熱可塑性樹脂の融点以上でかつ融点+55℃以下、より好ましくは、前記熱可塑性樹脂の融点+10℃以上でかつ前記熱可塑性樹脂の融点+45℃以下の温度で処理する態様であることが望ましい。
【0068】
本発明の無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の製造方法において、熱可塑性樹脂組成物はペレットの形態であってもよく、ペレットの形態でなくてもよいが、ペレットの形態である場合、ペレットの形状は特に限定されず、例えば、円柱、球形、楕円球状等のペレットを成形してもよい。
【0069】
ペレットのサイズは、形状に応じて適宜設定すれば良いが、例えば、球形ペレットの場合、直径1〜10mmであってもよい。楕円球状のペレットの場合、縦横比0.1〜1.0の楕円状とし、縦横1〜10mmであってよい。円柱ペレットの場合は、直径1〜10mmの範囲内、長さ1〜10mmの範囲内であってもよい。これらの形状は、後述する混練工程後のペレットに対して成形させてよい。ペレットの形状は、常法に従って成形させてもよい。
【0070】
≪成形体≫
本発明に係る成形体は、上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物を用いて成形された成形体である。
【0071】
本発明に係る成形体の形状等においては特に限定されるものではなく、各種の形態のものであってもよいが、例えば、シート、容器体等として成形され得る。
【0072】
特に、上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物を用いて成形された成形体は、上述したように臭気が問題とならない程度のものであるため、食品包装容器等の用途として好適に使用され得る。
【0073】
また、上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物を用いて成形された成形体は、上述したように帯電防止特性に優れたものとなるため、放電、雷撃、塵埃の吸着のような様々な静電気障害が問題となる用途、例えば、上記したような食品包装容器等の容器体に加えて、OA機器などの電子部品や機械部品の緩衝包装材等の用途においても好適に使用されるものである。
【0074】
本発明に係る成形体の肉厚としても特に限定されるものではなく、その成形体の形態に応じて、薄肉のものから厚肉のものまで種々のものでありえるが、例えば、肉厚40μm〜1000μm、より好ましくは肉厚50μm〜700μmである成形体が示される。この範囲内の肉厚であれば、成形性、加工性の問題なく、偏肉を生じることなく均質で欠陥のない成形体を形成することが可能である。
【0075】
特に、成形体の形態が、シートである場合には、より好ましくは、肉厚50μm〜400μm、さらに好ましくは肉厚50μm〜300μmであることが望ましい。このような範囲内の肉厚を有するシートであれば、一般的な印刷・情報用、及び包装用の用途の紙あるいは合成紙に代えて、好適に使用できるものである。
【0076】
さらに本発明の成形体は、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する熱可塑性樹脂組成物よりなり、下記に定義する臭気測定方法により測定され、平成13年3月環境省環境管理局発表「臭気指数規定ガイドライン」、3−2規制地域の指定と規制基準の表−2 「6段階臭気強度表示法」により判定される臭気強度が2未満、より好ましくは1以下である成形体である。
【0077】
臭気測定法:
(検査手順)
1.スタートサンプルを用意する。
2.スタートサンプルの中央部と端部2箇所より12cm(幅)×3cm(長さ)にサンプリングする。
3.サンプリングしたものを4cm×5mmの短冊状にカットする。
4.蒸留水で洗浄した三角フラスコに上記で短冊状にカットしたものを1つ入れる。
5.蒸留水20ccを三角フラスコに加える。
6.ふたをしない状態で三角フラスコを電子レンジに入れ出力500Wで1分間加熱する。
7.加熱を終了したら直ちに三角フラスコに蓋をして1分間電子レンジのドアを開けた状態で放置する。
8.手袋をして電子レンジより三角フラスコを取り出す。
9.ふたを開いて臭いを確認する。
10.検査結果をオペレーターに報告する。
【0078】
(臭気評価基準)
臭気評価基準は、平成13年3月環境省環境管理局発表「臭気指数規定ガイドライン」、3−2規制地域の指定と規制基準の表−2 「6段階臭気強度表示法」に従う。
すなわち、次の表の通りである。
【0080】
このように低臭気性であるので、例えば、食品包装用途等、広い範囲の用途に好適に使用可能である。
【0081】
本発明の成形体はまた、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する熱可塑性樹脂組成物よりなり、JIS K 6911:2006に準拠する定電圧印加法により測定された体積抵抗率が1.0×10
16Ω・cm以下、より好ましくは1.0×10
14Ω・cm以下、さらに好ましくは1.0×10
13Ω・cm以下である成形体である。
【0082】
上記したような本発明に係る無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物において、滑剤として配合されたアルカンスルホン酸ナトリウムは、成形時において滑剤として機能して成形加工時における良好な流動性等の加工性を向上させる一方で、成形体表面部における帯電防止機能も有効に発揮するため、上記したような好適な体積抵抗率を有し得ることとなる。
【0083】
本発明の成形体の一実施態様においてはまた、成形体を構成する部材が、積層構造を有するものとされることもできる。上記したように本発明の無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物より形成される成形体は、その臭気性において良好なものとなるが、その臭気性、特に例えば食品分野等に用いられる場合における臭気の溶出移行性や、その他の添加剤の溶出性の観点において、より良好なものとする目的のため、あるいはその他、表面に耐擦傷性、光沢性、ヒートシール性等の種々の機能性を持たせる目的のため、上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物よりなる層の少なくとも一方の表面を、表面層により被覆してなる態様とし得る。なお、上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物よりなる層の両面を被覆する場合において、それぞれの面に配置される表面層としては、同一のものであても、異なるものであっても良い。さらに、このような表面層と上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物よりなる層との間に別の単一又は複数の中間層を設けることも可能である。このような表面層を構成する素材としては、付与しようとする機能等に応じて、種々のものを用いることができるため特に限定されるものではないが、例えば、臭気性乃至臭気移行性をより良好なものとする表面層としては、添加物を有さない乃至は添加物の配合量が非常に低い熱可塑性樹脂、特にポレオレフィン樹脂、さらには、無添加ポリプロピレンフィルム層や無添加ポリエチレンフィルム層である態様が例示できる。これらの表面層の肉厚としては、上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物よりなる層の肉厚に比べて十分に薄いものであって良く、例えば、肉厚1μm〜40μm、さらに好ましくは肉厚2μm〜15μm程度のものとすることができる。なお、このように、上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物よりなる層の少なくとも一方の表面を、表面層により被覆する方法としても特に限定されるものではなく、例えば、インフレーション成形等により別途調製した表面層用のフィルムを、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物よりなる層の一方の面又は両面に、ラミネート加工により被着させる方法や、あるいは、従来公知のように、2色乃至多色ダイを用いて、本発明に係る無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物と共に、これら表面層用の熱可塑性組成物と共押出しすることにより積層シートとするといった方法を用いることが可能である。
【0084】
≪成形体の製造方法≫
本発明に係る成形体の製造方法としては、所望の形状に成形できるものであれば特に限定されず、従来公知の押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、カレンダー成形等のいずれの方法によっても成形加工可能である。さらにまた、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物が発泡剤を含有し、発泡体である態様の成形体を得る場合においても、所望の形状に成形できるものであれば発泡体の成形方法として従来公知の、例えば、射出発泡,押出発泡,発泡ブロー等の液相発泡法、あるいは、例えば、ビーズ発泡,バッチ発泡,プレス発泡,常圧二次発泡等の固相発泡法のいずれを用いることも可能である。前記したように、結晶性ポリプロピレンをキャリアレジンとし、炭酸水素塩を熱分解型発泡剤として含む熱可塑性樹脂組成物の一態様においては、射出発泡法及び押出発泡法が望ましく用いられ得る。
【0085】
なお、成形時における成形温度としては、その成形方法によってもある程度異なるため、一概には規定できるものではないが、前記したように、高温となるほど臭気を発生させる傾向となるため、前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下、好ましくは、前記熱可塑性樹脂の融点以上でかつ融点+55℃以下、より好ましくは、前記熱可塑性樹脂の融点+10℃以上でかつ前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下の温度で成形することが好ましい。
【0086】
本発明の成形体の製造方法の具体的な好ましい一態様としては、上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物を、ニ軸押出機により前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下の温度、好ましくは、前記熱可塑性樹脂の融点以上でかつ融点+55℃以下、より好ましくは、前記熱可塑性樹脂の融点+30℃以上でかつ前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下でTダイにてシート成形後、前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下の温度、好ましくは、前記熱可塑性樹脂の融点以上でかつ融点+55℃以下、より好ましくは、前記熱可塑性樹脂の融点+10℃以上でかつ前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下で真空成形する成形体の製造方法が示される。このような真空成形法によって各種容器体を形成可能である。
【0087】
本発明の成形体の製造方法の具体的な好ましい別の一態様においては、上記無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物を、ニ軸押出機により前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下の温度、好ましくは、前記熱可塑性樹脂の融点以上でかつ融点+55℃以下、より好ましくは、前記熱可塑性樹脂の融点+30℃以上でかつ前記熱可塑性樹脂の融点+55℃以下でTダイにてシート成形後、得られたシートを折加工する成形体の製造方法が示される。このような真空成形法によって各種簡易構造の容器体を形成可能である。
【0088】
なお、上述したように、本発明の成形体の成形においては他の樹脂組成物との多層化も可能であり、目的に応じて、本発明の無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物からなる層の片面、両面に他の樹脂組成物を適用することができ、あるいは逆に他の樹脂組成物からなる層の片面、両面に本発明の無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物を適用することもできる。
【0089】
さらに、シート状に成形する際においては、その成形時あるいはその成形後に一軸方向又はニ軸方向に、乃至は、多軸方向(チューブラー法による延伸等)に延伸することが可能である。ニ軸延伸の場合には、逐次ニ軸延伸でも同時ニ軸延伸であってもよい。
【0090】
成形後のシートに対し、延伸(例えば、縦及び/又は横延伸)を行うと、シートの密度が低下する。密度が低下することによりシートの白色度が良好なものとなる。
【実施例】
【0091】
以下本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解を、より容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
また、実施例1、4、及び5は、それぞれ参考例3、4、及び5と読み替えるものとする。
【0092】
(評価方法)
以下の実施例及び比較例においての各物性値はそれぞれ以下の方法により評価されたものである。
【0093】
(臭気性)
臭気測定法としては、前述した通りの検査手順に従って臭気検査を行い、かつ前述した通り平成13年3月環境省環境管理局発表「臭気指数規定ガイドライン」、3−2規制地域の指定と規制基準の表−2 「6段階臭気強度表示法」の基準に従い評価した。評価は、評価員としての基準を満たした4名の者によって行い、それぞれの評価した評価点の平均値を算出して、得られた結果を最終的な評価点とした。
【0094】
(体積抵抗率)
JIS K 6911:2006に準拠する定電圧印加法により測定した。測定には、装置名:超絶縁計SM−8220/SME−8310、製造会社名:日置電機株式会社を用い、それぞれ3点の測定の平均値を、体積抵抗率とした。
【0095】
(材料)
以下の実施例及び比較例において使用した成分はそれぞれ以下のものであった。
【0096】
・熱可塑性樹脂(P)
P1: ポリプロピレン単独重合体((株)プライムポリマー製:プライムポリプロ(商品名)E111G、融点160℃)
P2:ポリプロピレンブロック共重合体((株)プライムポリマー製:プライムポリプロ(商品名)BJS−MU、融点160℃)
P3:高密度ポリエチレン単独重合体(京葉ポリエチレン(株)製:B5803、融点133℃)
・無機物質粉末(I)
I1:脂肪酸表面処理重質炭酸カルシウム粒子 平均粒径2.20μm(備北粉化工業株式会社製、ライトンS−4)
I2:重質炭酸カルシウム粒子(表面処理なし) 平均粒径2.20μm(備北粉化工業株式会社製、ソフトン100)
I3:軽質炭酸カルシウム粒子 平均粒径1.5μm(白石工業(株)製、PC)
・滑剤(S)
S1:アルカンスルホン酸ナトリウム(アルキル基の炭素数(平均値)=2)
S2:アルカンスルホン酸ナトリウム(アルキル基の炭素数(平均値)=12)
S3:アルカンスルホン酸カリウム(アルキル基の炭素数(平均値)=22)
Sa:ステアリン酸マグネシウム
Sb:ステアリン酸モノグリセリド
・帯電防止剤(A)
ラウリルジエタノールアミド
・酸化防止剤(O)
O1:テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン
O2:トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト
O3:トリフェニルホスファイト
O4:トリメチルホスフェート
・発泡剤(F)
永和化成工業(株)製 ポリスレンEE275F
【0097】
実施例1
熱可塑性樹脂(P)としてポリプロピレン単独重合体P1を、無機物質粉末として上記I2を、さらに滑剤として上記S2を、表2に示す配合割合において用いた。なお、表
2において各成分の数値は質量部の値である。各成分を、二軸スクリューを装備した押出成形機(東洋精機製作所製Tダイ押出成形装置(φ20mm、L/D=25)に投入し、220℃以下の温度で混練し、混練した原料を所定の成形温度220℃、240℃、260℃、又は280℃でTダイからシート押出し、東洋精機製フィルム・シート引き取り機で巻き取った。なお、このようにして得られたシートを測定した肉厚は200μmであった。
【0098】
それぞれの成形温度により得られたシートについて、上記した手順によって臭気を判定した。また、体積抵抗率についても測定した。得られた結果を表3に示す。
【0099】
実施例2〜18、比較例1〜3及び参考例1〜2
上記実施例1と、熱可塑性樹脂組成物中における各成分の種類及び量をそれぞれ、下記表2に示すように変更する以外は実施例1と同様にして、肉厚200μmのシートを作製し、同様にして臭気を判定した。また、比較例1及び比較例3のものについては体積抵抗率についても測定した。得られた結果を表3に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
本発明に係る無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の実施例においては、いずれの成形温度においても、低臭気の成形体が得られたことが判る。また、体積抵抗率も、従来配合のものである比較例1と比べ、大きく低下し帯電防止特性に優れたものとなることがわかった。一方比較例3のものでは、比較例1のものと比べると、体積抵抗率の低下がみられるが、帯電防止剤、滑剤の配合量の増大の割には、実施例1のものと比べると十分な帯電防止特性が得られないものであった。
【0103】
実施例19
実施例1で調製したものと同じ組成の無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物を、ニ軸押出機により220℃〜280℃の温度でTダイにてシート成形後、さらに220℃〜280℃の温度で、深皿状の容器体への真空成形を行った。その結果、上記実施例1の場合と同様に、低臭気性の容器体が、加工時の樹脂の滞留、焦げ付き等の不具合を生じることなく製造できた。
【課題】成形後において、低臭気性となり食品包装容器等の成形体の製造に適した、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物、及び無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の成形体並びにその製造方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する熱可塑性樹脂組成物において、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100質量%とした場合に、アルカンスルホン酸塩を0.2〜2.0質量%添加したものである無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物を用いて成形体を形成する。