【実施例】
【0058】
<実験1:KMO(未置換型)の合成、焼成温度400℃>
以下の手順で未置換型のマンガン酸化物を固相法により合成した。
炭酸カリウム(K
2CO
3、和光純薬工業株式会社製、試薬番号:162−03495、分子量138.21、試薬純度:99.5%)の粉末と、炭酸マンガン(MnCO
3・nH
2O、和光純薬工業株式会社製、試薬番号:136−00695、分子量:114.95、試薬純度:88%)の粉末とを以下の割合で混合した。
K/Mn(モル)=0.2;炭酸カリウム0.4861g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.3;炭酸カリウム0.7292g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.4;炭酸カリウム0.9722g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.5;炭酸カリウム1.215g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.6;炭酸カリウム1.457g、
炭酸マンガン4.354g
この混合物に少量のエタノールを添加しペースト状にして、ボールミルで300rpm・2h混合した。得られた試料を乾燥した後、乳鉢ですりつぶし、空気中温度400℃で4時間焼成して焼成物を得た。
【0059】
得られた焼成物(合成物)の原子組成は、以下のとおりであった。尚、焼成物には、実際には複数の価数のマンガン、例えば4価のマンガンと3価のマンガンが含まれる場合があるが、4価のマンガン含有量が高いため、ここでは、計算上4価のマンガンに換算した原子組成を示すものとする。以後の実験で得られる焼成物についても同様に、全て4価のマンガンであると仮定した場合の組成を示すものとする。
K/Mn(モル)=0.2; K
0.2Mn(IV)O
2.1
K/Mn(モル)=0.3; K
0.3Mn(IV)O
2.15
K/Mn(モル)=0.4; K
0.4Mn(IV)O
2.2
K/Mn(モル)=0.5; K
0.5Mn(IV)O
2.25
K/Mn(モル)=0.6; K
0.6Mn(IV)O
2.3
【0060】
得られた合成物をXRD測定装置(SHIMADZU XRD−6100、Cu−Kα)により測定した。XRD測定結果を
図3に示す。
図3には、(001)面に由来する2θ=12.2度での面間隔dの値が示されている。また、
図3では、焼成前の炭酸マンガン原料由来のピーク(2θ=12〜13度、30.5〜31.5度)と炭酸カリウム原料由来のピーク(2θ=30.5〜31度、49〜50度)が消失していることが確認された。
このXRDの結果から、α/βを算出したところ、以下の通りであった。
K/Mn(モル)=0.2;
α/β=1/0
トンネル構造を有するホランダイト型マンガン酸化物(K
2Mn
8O
16)が生成したが、層状構造(K
2Mn
4O
8)は生成しなかった。
K/Mn(モル)=0.3;
α/β=2.2
トンネル構造を有するホランダイト型マンガン酸化物(K
2Mn
8O
16)と層状構造(K
2Mn
4O
8)が両方生成した。
K/Mn(モル)=0.4;
α/β=0/1
層状構造(K
2Mn
4O
8)のみ生成した。
K/Mn(モル)=0.5;
α/β=0/1
層状構造(K
2Mn
4O
8)のみ生成した。
K/Mn(モル)=0.6;
α/β=0/1
主に層状構造(K
2Mn
4O
8)が生成したが、少量の未知の不純物Aも生成した。
【0061】
焼成温度400℃の場合、K/Mn=0.2では主にトンネル構造のK
2Mn
8O
16が生成した。K/Mn=0.3ではトンネル構造のK
2Mn
8O
16と層状構造のK
2Mn
4O
8が両方生成した。K/Mn=0.4以上では主に層状構造のK
2Mn
4O
8が生成していた。
尚、ここで言う「層状構造のK
2Mn
4O
8」や「トンネル構造のK
2Mn
8O
16」とは、理論上このような組成を有する層状構造を意味する。現実には、合成条件によって、欠陥が存在していたり、3価と4価マンガンの割合が変動する等するため、実際の組成は理論上の組成と少し違っている場合がある。以下、実験2,3,7〜10においても同様である。
【0062】
<実験2:KMO(未置換型)の合成、焼成温度500℃>
焼成温度を500℃とし、以下の割合で炭酸カリウムと炭酸マンガンとを混合した点以外は、実験1と同様にして、K/Mn(モル)=0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9および1.0の焼成物(合成物)を得た。
K/Mn(モル)=0.2;炭酸カリウム0.4861g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.3;炭酸カリウム0.7292g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.4;炭酸カリウム0.9716g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.5;炭酸カリウム1.214g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.6;炭酸カリウム1.457g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.7;炭酸カリウム1.700g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.8;炭酸カリウム1.666g、
炭酸マンガン3.732g
K/Mn(モル)=0.9;炭酸カリウム1.874g、
炭酸マンガン3.732g
K/Mn(モル)=1.0;炭酸カリウム2.082g、
炭酸マンガン3.732g
【0063】
得られた合成物をXRD測定装置(SHIMADZU XRD−6100、Cu−Kα)により測定した。XRD測定結果を
図4に示す。
図4には、(001)面に由来する2θ=12.3度での面間隔dの値が示されている。また、
図4では、焼成前の炭酸マンガン原料由来のピーク(2θ=12〜13度、30.5〜31.5度)と炭酸カリウム原料由来のピーク(2θ=30.5〜31度、49〜50度)が消失していることが確認された。
このXRDの結果から、α/βを算出したところ、以下の通りであった。
K/Mn(モル)=0.2;
α/β=1/0
トンネル構造を有するホランダイト型マンガン酸化物(K
2Mn
8O
16)が生成し、層状構造(K
2Mn
4O
8)は生成しなかった。
K/Mn(モル)=0.3;
α/β=8.4
トンネル構造を有するホランダイト型マンガン酸化物(K
2Mn
8O
16)と層状構造(K
2Mn
4O
8)が両方生成した。
K/Mn(モル)=0.4;
α/β=0.45
主に層状構造(K
2Mn
4O
8)が生成した。
K/Mn(モル)=0.5;
α/β=0/1
層状構造(K
2Mn
4O
8)のみ生成した。
K/Mn(モル)=0.6;
α/β=0/1
主に層状構造(K
2Mn
4O
8)が生成した。少量の不純物Aも生成した。
K/Mn(モル)=0.7;
α/β=0/1
主に層状構造(K
2Mn
4O
8)が生成した。少量の不純物Aも生成した。
K/Mn(モル)=0.8;
α/β=0/1
主に層状構造(K
2Mn
4O
8)が生成した。少量の不純物Aも生成した。
K/Mn(モル)=0.9;
α/β=0/1
主に層状構造(K
2Mn
4O
8)が生成した。少量の不純物Aも生成した。
K/Mn(モル)=1.0;
α/β=0/1
主に層状構造(K
2Mn
4O
8)が生成した。少量の不純物Aも生成した。
【0064】
焼成温度500℃の場合も400℃の場合と同様に、K/Mn=0.2では主にトンネル構造のK
2Mn
8O
16が生成した。K/Mn=0.3では層状構造のK
2Mn
4O
8とトンネル構造のK
2Mn
8O
16が両方生成した。K/Mn=0.4以上では主に層状構造のK
2Mn
4O
8が生成していた。また、500℃の場合には、K/Mnの値が大きくなるにつれ、未知不純物Aの量が少し増加した。
【0065】
<実験3:KMO(未置換型)の合成、焼成温度600℃>
焼成温度を600℃とし、以下の割合で炭酸カリウムと炭酸マンガンとを混合した点以外は、実験1と同様にして、K/Mn(モル)=0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9および1.0の焼成物(合成物)を得た。
K/Mn(モル)=0.2;炭酸カリウム0.4861g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.3;炭酸カリウム0.7292g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.4;炭酸カリウム0.9716g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.5;炭酸カリウム1.214g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.6;炭酸カリウム1.457g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.7;炭酸カリウム1.700g、
炭酸マンガン4.354g
K/Mn(モル)=0.8;炭酸カリウム1.666g、
炭酸マンガン3.732g
K/Mn(モル)=0.9;炭酸カリウム1.874g、
炭酸マンガン3.732g
K/Mn(モル)=1.0;炭酸カリウム2.082g、
炭酸マンガン3.732g
【0066】
得られた合成物をXRD測定装置(SHIMADZU XRD−6100Cu−Kα)により測定した。XRD測定結果を
図5に示す。
図5には、(001)面に由来する2θ=12.3度での面間隔dの値が示されている。また、
図5では、焼成前の炭酸マンガン原料由来のピーク(2θ=12〜13度、30.5〜31.5度)と炭酸カリウム原料由来のピーク(2θ=30.5〜31度、49〜50度)が消失していることが確認された。
このXRDの結果から、α/βを算出したところ、以下の通りであった。
K/Mn(モル)=0.2;
α/β=1/0
トンネル構造を有するホランダイト型マンガン酸化物(K
2Mn
8O
16)が生成した。層状構造(K
2Mn
4O
8)は生成しなかった。
K/Mn(モル)=0.3;
α/β=7.0
トンネル構造を有するホランダイト型マンガン酸化物(K
2Mn
8O
16)と層状構造(K
2Mn
4O
8)が両方生成した。
K/Mn(モル)=0.4;
α/β=0.43
主に層状構造(K
2Mn
4O
8)が生成した。
K/Mn(モル)=0.5;
α/β=0/1
層状構造(K
2Mn
4O
8)のみ生成した。
K/Mn(モル)=0.6;
α/β=0/1
主に層状構造(K
2Mn
4O
8)が生成した。少量の不純物Aも生成した。
K/Mn(モル)=0.7;
α/β=0/1
主に層状構造(K
2Mn
4O
8)が生成した。少量の不純物Aも生成した。
K/Mn(モル)=0.8;
α/β=0/1
層状構造(K
2Mn
4O
8)と不純物Aが生成した。
K/Mn(モル)=0.9;
α/β=0/1
層状構造(K
2Mn
4O
8)と不純物Aが生成した。
K/Mn(モル)=1.0;
α/β=0/1
層状構造(K
2Mn
4O
8)と不純物Aが生成した。
【0067】
焼成温度600℃の場合も400℃、500℃の場合と同様に、K/Mn=0.2では主にトンネル構造のK
2Mn
8O
16が生成した。K/Mn=0.3では層状構造のK
2Mn
4O
8とトンネル構造のK
2Mn
8O
16が両方生成した。K/Mn=0.4以上では主に層状構造のK
2Mn
4O
8が生成した。また、500℃の場合と同様に、K/Mnの値が大きくなるにつれ、不純物Aの量が少し増加した。さらに焼成温度が高くなるにつれ、不純物Aの量が増加した。
【0068】
<実験4:標準海水でのSr吸着量と分配係数K
d>
(実験4−1:Sr吸着量)
上記実験1〜3で得られた未置換型のマンガン酸化物について、以下の試験を行い、Srイオン吸着性を評価し、更に分配係数K
dを求めた。
【0069】
下記の組成の標準海水を用意した。
Na
+濃度:10800ppm
Ca
2+濃度:412ppm
K
+濃度:400ppm
Mg
2+濃度:1280ppm
この標準海水にSrイオンを添加し、Srイオン濃度を10ppmとした。このSr含有標準海水50mlに、試料のマンガン酸化物0.05gを加え、スターラーで2日間撹拌して、吸着処理を行った。
【0070】
吸着処理前後の海水のSrイオン濃度をICPで測定し、吸着量を求めた。吸着量は、吸着前後のSrイオン濃度の差分から吸着剤(試料のマンガン酸化物)に吸着されたストロンチウムの重量を求め、それを吸着剤の重量で除算した。結果を
図6および下記表1〜3に示す。
吸着量=ストロンチウム減少量[mg]/吸着剤重量[g]
【0071】
(実験4−2:分配係数K
d)
次式に従い分配係数K
dを求めた。分配係数K
dは、吸着剤の選択性を示す指標である。結果を下記表1〜3に示す。
K
d=((C
0−C
t)/C
t)×V/m
C
0:吸着処理前の海水のストロンチウム濃度(ppm)
C
t:吸着処理後の海水のストロンチウム濃度(ppm)
V:吸着溶液の体積(mL)
m:吸着剤の添加量(g)
【0072】
(実験4−3:Sr吸着率)
Sr吸着率(%)は、以下の式に基づき算出した。結果を下記表1〜3に示す。
Sr吸着率(%)=((C
0−C
t)/C
0)×100
式中、C
0およびC
tは、前記した通りの意味である。
【0073】
また、比較のため、従来の吸着剤として、K
2Mn
8O
16(ホランダイト構造)、A型−ゼオライト、Na
2Ti
3O
7、K
2Ti
4O
9、カリウム含有バーネサイト型マンガン酸化物(以下、「K―バーネサイト」と略称することがある。)についても同じ吸着試験を行い、Sr吸着量、分配係数K
dおよびSr吸着率を算出した。試験結果を表4に示す。
【0074】
尚、K―バーネサイトは、100mLの0.3M Mn(NO
3)
2水溶液に0.6MのKOHと3質量%のH
2O
2の混合溶液200mLを加え室温で反応させて合成した。得られたK―バーネサイトをXRD測定装置(SHIMADZU XRD−6100 Cu−Kα)により測定した。結果を
図7に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
図6および表1〜3から、焼成温度が高くなるにつれ、Srイオンの吸着量が減少することが分かる。これは、焼成温度が高くなるにともない、結晶粒子の成長が進み、結晶粒子径が増大するためと考えられる。即ち、結晶粒子径の増大によって、吸着したSrイオンの結晶内部への拡散距離が大きくなり、Srイオンの吸着が難しくなるためと考えられる。
【0080】
また、いずれの焼成温度においても、Sr
2+吸着量はK/Mn=0.4のときに非常に高かった。これは、層状構造のK
2Mn
4O
8のほうが、トンネル構造のK
2Mn
8O
16より高い吸着性を示すところ、K/Mn<0.4ではトンネル構造のK
2Mn
8O
16の生成量が多く、Sr
2+吸着量が低下したからと考えられる。さらに不純物AはほとんどSrイオンの吸着性を示さないと考えられるところ、K/Mn>0.4では、K/Mnの値や焼成温度などの条件によっては不純物Aが生成するため、これがSr
2+吸着量が低下する原因であったと推察される。
【0081】
図6および表1〜3とともに表4を参照すると、本発明のSr吸着剤は、従来の吸着剤のうちNa
2Ti
3O
7、K
2Ti
4O
9およびK―バーネサイトより高いSr吸着性を示した。更に、従来の吸着剤のなかでは、A型−ゼオライトが最も高い吸着量を示したが、本発明のSr吸着剤(未置換型)には、従来の吸着剤と同等或いはそれ以上の吸着量を示すものがあった。
【0082】
表1〜4より、従来の吸着剤のなかでは、A型−ゼオライトが最も高い分配係数K
dを示したが、本発明のSr吸着剤(未置換型)は、特に400〜500℃で焼成して得られた本発明のSr吸着剤(未置換型)は、A型−ゼオライトよりも高い分配係数K
dを示した。
【0083】
<実験5:Sr吸着後のSr吸着剤の構造>
上記実験4でSrイオンを吸着した後の500℃焼成未置換型Sr吸着剤(実験2のKMO)を取り出し、吸引濾過し、乾燥させた。乾燥後の吸着剤をXRD測定装置(SHIMADZU XRD−6100、Cu−Kα)により測定した。XRD測定結果を
図8に示す。
図8には、(001)面に由来する2θ=12.1度での面間隔dの値が示されている。
【0084】
図8より、Sr吸着後の吸着剤では、K
2Mn
4O
8相の層状構造が維持され、基底面間隔の若干の増大が見られた。
【0085】
<実験6:水洗した吸着剤の構造、Sr吸着量、分配係数K
d>
実験2と同様にして、K/Mn(モル)=0.2、0.4、0.6、0.8、1.0の焼成物(合成物)を得た。
【0086】
得られた合成物を24時間蒸留水で水洗した後に、XRD測定装置(SHIMADZU XRD−6100、Cu−Kα)により測定した。XRD測定結果を
図9に示す。
図9には、(001)面に由来する2θ=12.2度での面間隔dの値が示されている。
さらに、水洗後の試料について、上記と同様に標準海水での吸着試験により、Srイオン吸着量、分配係数K
dおよびSr吸着率を測定した。結果を
図10および表5に示す。
【0087】
【表5】
【0088】
図9から、本発明のSr吸着剤(未置換型)では、水洗により、層状構造K
2Mn
4O
8相の基底面間隔が0.709nmから0.714nmに広がった。このことから、層状構造の層間にH
2O分子が挿入され、基底面間隔dがわずかに拡張したと考えられる。
【0089】
また、
図10および表5から、水洗後は、水洗前に比べてSr吸着量が微減した。
尚、水洗した試料は脱水すると、元の構造に戻ることを確認した。
【0090】
<実験7:多価金属置換型(KTMO)、Li置換型(KLMO)の合成、焼成温度400℃>
(実験7−1:Co置換、KCoMO、焼成温度400℃)
下記処方により、原料混合物を調製した。
炭酸カリウム(K
2CO
3) 1.215g
炭酸コバルト(CoCO
3) 0.991g
炭酸マンガン(MnCO
3・nH
2O) 3.266g
尚、本実験で使用した炭酸マンガンおよび炭酸カリウムは、実験1で使用したものと同じであった。本実験で使用した炭酸コバルトは、関東科学株式会社製CoCO
3(試薬番号:07992−01、分子量:118.94、試薬純度:Coとして40〜48%)であった。試薬のCo含有量を44%と想定した場合の原料混合物におけるK/Co/Mnモル比は、0.70/0.30/1.0であった。
得られた混合物に少量のエタノールを添加しペースト状にして、ボールミルで300rpm・2h混合・粉砕した。得られた試料を乾燥させて乳鉢ですり潰した後、400℃で4時間焼成した。
得られた焼成物(合成物)の原子組成は、以下のとおりである。尚、焼成物(合成物)には、実際には複数の価数のマンガン、例えば4価のマンガンと3価のマンガンが含まれる場合があるが、4価のマンガン含有量が高いため、ここでは、計算上4価のマンガンに換算した原子組成を示すものとする。以後の実験で得られる焼成物(合成物)についても同様に、全て4価のマンガンであると仮定した場合の組成を示すものとする。
K
0.54Co(II)
0.23Mn(IV)
0.77O
2.04
(x=0.54、y=0.23、q=0.04)
【0091】
(実験7−2:Cu置換、KCuMO、焼成温度400℃)
炭酸コバルト0.991gの代わりに0.996gの塩基性炭酸銅{和光純薬工業株式会社製CuCO
3・Cu(OH)
2・H
2O(試薬番号:035−19142、分子量:239.13、試薬純度:100%(Cuとして48〜56.0%))}を用いた点以外は、実験7−1と同様にして焼成物を得た。原料混合物におけるK/Cu/Mnモル比は、0.70/0.33/1.0であった。
得られた焼成物(合成物)の原子組成は、以下のとおりである。
K
0.53Cu(II)
0.25Mn(IV)
0.75O
2.02
(x=0.53、y=0.25、q=0.02)
【0092】
(実験7−3:Mg置換、KMgMO、焼成温度400℃)
炭酸コバルト0.991gの代わりに0.840gの塩基性炭酸マグネシウム{和光純薬株式会社製、試薬番号:138−14445、分子量:記載なし、試薬純度:MgOとして40.0〜45.0%}を用いた点以外は、実験7−1と同様にして焼成物を得た。試薬のMgO含有量を42.5%と想定した場合の原料混合物におけるK/Mg/Mnモル比は、0.70/0.35/1.0であった。
得られた焼成物(合成物)の原子組成は、以下のとおりである。
K
0.52Mg(II)
0.26Mn(IV)
0.74O
2.00
(x=0.52、y=0.26、q=0.00)
【0093】
(実験7−4:Ni置換、KNiMO、焼成温度400℃)
炭酸コバルト0.991gの代わりに1.045gの塩基性炭酸ニッケル(II){和光純薬工業株式会社製NiCO
3・2Ni(OH)
2・4H
2O(試薬番号:144−01035、分子量:376.18、試薬純度:記載無し)}を用いた点以外は、実験7−1と同様にして焼成物を得た。試薬純度を100%と想定した場合の原料混合物におけるK/Ni/Mnモル比は、0.70/0.33/1.0であった。
得られた焼成物(合成物)の原子組成は、以下のとおりである。
K
0.53Ni(II)
0.25Mn(IV)
0.75O
2.02
(x=0.53、y=0.25、q=0.02)
【0094】
(実験7−5:Zn置換、KZnMO、焼成温度400℃)
炭酸コバルト0.991gの代わりに0.787gの酸化亜鉛{和光純薬工業株式会社製ZnO(試薬番号:267−00355、分子量:81.39、試薬純度:min.99.0%)}を用いた点以外は、実験7−1と同様にして焼成物を得た。試薬純度を100%と想定した場合の原料混合物におけるK/Zn/Mnモル比は、0.70/0.38/1.0であった。
得られた焼成物(合成物)の原子組成は、以下のとおりである。
K
0.50Zn(II)
0.28Mn(IV)
0.72O
1.97
(x=0.50、y=0.28、q=−0.03)
尚、この実験7−5で得られた焼成物(合成物)の原子組成において、qは、見かけ上マイナスの値となっているが、これは、この焼成物に4価のマンガン以外に3価のマンガン等他の価数のマンガンが含まれているところ、計算上は、マンガンが全て4価であると仮定したためである。
【0095】
(実験7−6:Al置換、KAlMO、焼成温度400℃)
炭酸コバルト0.991gの代わりに0.520gの水酸化アルミニウム{和光純薬工業株式会社製Al(OH)
3(試薬番号:014−01925、分子量:78.00、試薬純度:記載なし)}を用いた点以外は、実験7−1と同様にして焼成物を得た。試薬純度を100%と想定した場合の原料混合物におけるK/Al/Mnモル比は、0.70/0.27/1.0であった。
得られた焼成物(合成物)の原子組成は、以下のとおりである。
K
0.55Al(III)
0.21Mn(IV)
0.79O
2.17
(x=0.55、y=0.21、q=0.17)
【0096】
(実験7−7:Li置換、KLMO、焼成温度400℃)
下記処方により、原料混合物を調製した。
炭酸カリウム(K
2CO
3) 1.215g
炭酸リチウム(Li
2CO
3) 0.155g
炭酸マンガン(MnCO
3・nH
2O) 3.701g
尚、本実験で使用した炭酸マンガンおよび炭酸カリウムは、実験1で使用したものと同じであった。本実験で使用した炭酸リチウムは、和光純薬工業株式会社製Li
2CO
3(試薬番号:126−01135、分子量:73.89、試薬純度:min.99.0%)であった。試薬純度を100%と想定した場合の原料混合物におけるK/Li/Mnモル比は、0.62/0.15/1.0であった。
実験7−1と同様にして焼成物を得た。得られた焼成物(合成物)の原子組成は、以下のとおりである。
K
0.54Li(I)
0.13Mn(IV)
0.87O
2.08
(x=0.54、z=0.13、q=0.08)
【0097】
(実験7−8:Fe置換、KFeMO、焼成温度400℃)
炭酸コバルト0.991gの代わりに0.700gの酸化鉄(III){和光純薬工業株式会社製、Fe
2O
3(試薬番号:096−04825、分子量:159.69、試薬純度:min.95.0%)}を用いた点以外は、実験7−1と同様にして焼成物を得た。原料混合物におけるK/Fe/Mnモル比は、0.70/0.33/1.0であった。
得られた焼成物(合成物)の原子組成は、以下のとおりである。
K
0.53Fe(III)
0.25Mn(IV)
0.75O
2.14
(x=0.53、z=0.25、q=0.14)
【0098】
(実験7−9:Ti置換、KTiMO、焼成温度400℃)
炭酸コバルト0.991gの代わりに0.676gの酸化チタン(IV){和光純薬工業株式会社製TiO
2(試薬番号:205−01715、分子量:79.87、試薬純度:min.98.5%)}を用いた点以外は、実験7−1と同様にして焼成物を得た。原料混合物におけるK/Ti/Mnモル比は、0.70/0.33/1.0であった。
得られた焼成物(合成物)の原子組成は、以下のとおりである。
K
0.53Ti(IV)
0.25Mn(IV)
0.75O
2.27
(x=0.53、z=0.25、q=0.27)
【0099】
(実験7−10:Nb置換、KNbMO、焼成温度400℃)
炭酸コバルト0.991gの代わりに1.109gの酸化ニオブ(V){和光純薬工業株式会社製Nb
2O
5(試薬番号:148−05335、分子量:265.81、試薬純度:min.99.9%)}を用いた点以外は、実験7−1と同様にして焼成物を得た。原料混合物におけるK/Nb/Mnモル比は、0.70/0.33/1.0であった。
得られた焼成物(合成物)の原子組成は、以下のとおりである。
K
0.53Nb(V)
0.25Mn(IV)
0.75O
2.39
(x=0.53、z=0.25、q=0.39)
【0100】
(実験7−11:V置換、KVMO、焼成温度400℃)
炭酸コバルト0.991gの代わりに0.765gの酸化バナジウム(V){和光純薬工業株式会社社製V
2O
5(試薬番号:222−00122、分子量:181.88、試薬純度:min.99.0%)}を用いた点以外は、実験7−1と同様にして焼成物を得た。原料混合物におけるK/V/Mnモル比は、0.70/0.33/1.0であった。
得られた焼成物(合成物)の原子組成は、以下のとおりである。
K
0.53V(V)
0.25Mn(IV)
0.75O
2.39
(x=0.53、z=0.25、q=0.39)
【0101】
実験7−1〜7−11で得られた合成物をXRD測定装置(SHIMADZU XRD−6100、Cu−Kα)により測定した。結果を
図11に示す。
図11には、(001)面に由来する2θ=12.3度での面間隔dの値が示されている。また、焼成前の炭酸マンガン原料由来のピーク(2θ=12〜13度、30.5〜31.5度)と炭酸カリウム原料由来のピーク(2θ=30.5〜31度、49〜50度)が消失していることが確認された。
【0102】
このXRDの結果からα/βを算出したところ、実験7−1〜7−10においてはα/β=0/1であった。即ち、未置換型が有していたのと同じ層状構造(K
2T
αMn
4−αO
8)が生成しており、トンネル構造を有するホランダイト型マンガン酸化物は生成していなかった。実験7−11(KVMO置換型)では、層状構造(K
2T
αMn
4−αO
8)の生成が確認されなかった。1価と2価の第三金属を添加した実験7−1〜7−5および実験7−7では、不純物の生成がほとんど観測されず、層状構造(K
2T
αMn
4−αO
8)が生成しやすいことが判った。実際、KZnMOで、未反応のZnOが少量残っていただけであった。これらの第三金属の添加により層状結晶構造(K
2Mn
4O
8)が安定化すると考えられる。一方、Al、Fe、Ti、Nbの第三金属添加の実験7−6、7−8、7−9、7−10では、400℃の低温における反応性が低く、未反応の第三金属酸化物原料が観測された。具体的には、KAlMOには、未反応のAl
2O
3が少量残っていた。KFeMOには、未反応のFe
2O
3が残っていた。KTiMOには、未反応のTiO
2が残っていた。KNbMOには、未反応のNb
2O
5が残っていた。実験7−11(KVMO置換型)では、トンネル構造を有するホランダイト型マンガン酸化物が生成し、層状構造(K
2T
αMn
4−αO
8)の生成は確認されなかった。また、未反応のV
2O
5が少量残っていた。
【0103】
実験4と同様にして、実験7−1〜7−11で得られた合成物のSr吸着量、分配係数K
dおよびSr吸着率を求めた。結果は、表6と
図14に示す。
参考のために、表6には、実験1(未置換型、焼成温度400℃)のK/Mn=0.4の吸着剤の値を併記した。
【0104】
【表6】
【0105】
<実験8:多価金属置換型(KTMO)、Li置換型(KLMO)の合成、焼成温度500℃>
実験8−1〜実験8−11においては、焼成温度を500℃とした点以外は、それぞれ実験7−1〜実験7−11と同様の方法により、焼成物を得た。焼成物の原子組成は、いずれの金属で置換する場合も、焼成温度400℃の場合(即ち、実験7で得られる焼成物の原子組成)と略一致していた。
【0106】
実験8−1〜8−11で得られた合成物乾燥後の吸着剤をXRD測定装置(SHIMADZU XRD−6100、Cu−Kα)により測定した。XRD測定結果を
図12に示す。
図12では、(001)面に由来する2θ=12.2度での面間隔dの値は7.08Åであった。また、
図12では、焼成前の炭酸マンガン原料由来のピーク(2θ=12〜13度、30.5〜31.5度)と炭酸カリウム原料由来のピーク(2θ=30.5〜31度、49〜50度)が消失していることが確認された。
【0107】
このXRDの結果からα/βを算出したところ、実験8−1〜8−10においてはα/β=0/1であった。即ち、未置換型が有していたのと同じ層状構造(K
2T
αMn
4−αO
8)が生成しており、トンネル構造を有するホランダイト型マンガン酸化物は生成していなかった。第三金属として1価の金属、2価の金属およびAlを添加した実験8−1〜8−7では、不純物の生成が観測されず、層状構造(K
2T
αMn
4−αO
8)が生成しやすいことが判った。これらの第三金属の添加により層状結晶構造(K
2Mn
4O
8)が安定化すると考えられる。一方、第三金属としてFe、Ti、Nbを添加した実験8−8、8−9、8−10では、500℃の低温における反応性が低く、未反応の第三金属酸化物原料が観測された。具体的には、KFeMOには、未反応のFe
2O
3が残っていた。KTiMOには、未反応のTiO
2が残っていた。KNbMOには、未反応のNb
2O
5が残っていた。しかし、焼成温度が400℃の場合に比べて、層状構造の生成割合が増加し、未反応の第三金属酸化物原料の割合が減少した。実験8−11(KVMO置換型)では、トンネル構造を有するホランダイト型マンガン酸化物が生成し、層状構造(K
2T
αMn
4−αO
8)の生成は確認されなかった。また、KVMOには、未反応のV
2O
5が少量残っていた。
【0108】
実験7と同様にして、実験8−1〜8−11で得られた合成物のSr吸着量、分配係数K
dおよびSr吸着率を求めた。結果を表7と
図14に示す。参考のために、表7には、実験2(未置換型、焼成温度500℃)のK/Mn=0.4の吸着剤の値を併記した。
【0109】
【表7】
【0110】
<実験9:多価金属置換型(KTMO)、Li置換型(KLMO)の合成、焼成温度600℃>
実験9−1〜実験9−11においては、焼成温度を600℃とした点以外は、それぞれ実験7−1〜実験7−11と同様の方法により、焼成物を得た。焼成物の原子組成は、いずれの金属で置換する場合も、焼成温度400℃の場合(即ち、実験7で得られる焼成物の原子組成)と略一致していた。
【0111】
実験9−1〜9−11で得られた合成物をXRD測定装置(SHIMADZU XRD−6100、Cu−Kα)により測定した。結果を
図13に示す。
図13には、(001)面に由来する2θ=12.3度での面間隔dの値が示されている。また、焼成前の炭酸マンガン原料由来のピーク(2θ=12〜13度、30.5〜31.5度)と炭酸カリウム原料由来のピーク(2θ=30.5〜31度、49〜50度)が消失していることが確認された。
【0112】
また、このXRDの結果からα/βを算出したところ、実験9−1〜9−9においてはα/β=0/1であった。即ち、未置換型が有していたのと同じ層状構造(K
2T
αMn
4−αO
8)が生成しており、トンネル構造を有するホランダイト型マンガン酸化物は生成していなかった。第三金属として1価の金属、2価の金属およびAlを添加した実験9−1〜9−7では、不純物の生成が観測されず、層状構造(K
2T
αMn
4−αO
8)が生成しやすいことが判った。これらの第三金属の添加により層状結晶構造(K
2Mn
4O
8)が安定化すると考えられる。一方、第三金属としてFeおよびTiを添加した実験9−8および9−9では、600℃でも反応性が低く、未反応の第三金属酸化物原料が観測された。具体的には、KFeMOには、未反応のFe
2O
3が残っていた。KTiMOには、未反応のTiO
2が残っていた。しかし、焼成温度が400℃および500℃の場合に比べて、層状構造の生成割合が増加し、未反応の第三金属酸化物原料の割合が減少した。実験9−10(KNbMO置換型)では、層状構造(K
2T
αMn
4−αO
8)とトンネル構造を有するホランダイト型マンガン酸化物の両方が生成していた。また、KNbMOには、未反応のNb
2O
5が残っていた。実験9−11(KVMO置換型)では、トンネル構造を有するホランダイト型マンガン酸化物が生成し、層状構造(K
2T
αMn
4−αO
8)の生成は確認されなかった。また、KVMOには、未反応のV
2O
5が少量残っていた。
【0113】
実験7と同様にして、実験9−1〜9−11で得られた合成物のSr吸着量、分配係数K
dおよびSr吸着率を求めた。結果を表8と
図14に示す。参考のために、表8には、実験3(未置換型、焼成温度600℃)のK/Mn=0.4の吸着剤の値を併記した。
【0114】
【表8】
【0115】
(実験7〜9の考察)
表6及び
図14より、焼成温度400℃の未置換型試料の中で最もSr吸着性に優れていたK/Mn=0.4のKMO(以下、最良KMO−400℃(K/Mn=0.4)と略称することがある。)と実験7(焼成温度400℃)で得られたSr吸着剤を比べると、最良KMO−400℃(K/Mn=0.4)より優れたSr吸着率を示すSr吸着剤は無かったが、KMgMOが最良KMO−400℃(K/Mn=0.4)と同等のSr吸着率を示した。400℃は、KMOの最適合成温度であるが、第3金属置換型吸着剤の最適合成温度ではないため、吸着量が低めである。
【0116】
表7及び
図14より、焼成温度500℃の未置換型試料の中で最もSr吸着性に優れていたK/Mn=0.4のKMO(以下、最良KMO−500℃(K/Mn=0.4)と略称することがある。)と実験8(焼成温度500℃)で得られたSr吸着剤を比べると、Sr吸着率は、KZnMO < KFeMO < KVMO < KLMO < KCoMO < KAlMO < KTiMO < 最良KMO―500℃(K/Mn=0.4) < KNbMO < KCuMO < KMgMO < KNiMOの順で増加した。KNiMO、KMgMO、KCuMO、KNbMOで、最良KMO―500℃(K/Mn=0.4)よりSr吸着率が大きく向上した。
【0117】
表8及び
図14より、焼成温度600℃の未置換型試料の中で最も優れたSr吸着性を示すサンプルとほぼ同じSr吸着性を示したK/Mn=0.4のKMO(以下、良KMO−600℃(K/Mn=0.4)と略称することがある。)と実験9(焼成温度600℃)で得られたSr吸着剤を比べると、KNiMO、KMgMO、KCoMO、KCuMO、KAlMO、KZnMO、KFeMO、KTiMOで、良KMO−600℃(K/Mn=0.4)よりSr吸着率が向上した。
【0118】
実験7〜9を全体として考察する。
図14には、各種吸着剤の性能を比較するため、400、500、600℃で合成した各種吸着剤のSr吸着結果をまとめている。KMO系吸着剤に関しては、Sr吸着性能がもっとも高い(焼成温度600℃に関しては、最も高いSr吸着性とほぼ同じ値のSr吸着性を示す)K/Mn=0.4の結果を使用した。表6〜9及び
図14より、Sr吸着性は焼成温度に依存するが、多くの金属種では焼成温度500℃または600℃のときにSr吸着性が高くなっていた。いくつかの例外はあるものの、2価の金属で置換した場合のSr吸着性が高い傾向にあり、その中でもNi置換、Mg置換、Co置換およびCu置換が、特にNi置換,Mg置換およびCu置換が高いSr吸着性を示していた。Ni置換,Mg置換およびCu置換の中でも、Ni置換およびMg置換が特に優れたSr吸着性を示し、Ni置換が最も優れたSr吸着性を示す傾向にあった。添加した第三金属が層状構造のMn欠陥サイトに入り、K
2T
αMn
4−αO
8の層状構造を形成することで、構造が安定化したと推察される。XRD(
図11〜
図13)を比べると、焼成温度が高くなるにつれ、結晶性が向上した。500℃または600℃焼成のKNiMOおよびKMgMOが特に高いSr吸着率を示し、KNiMOが最も高いSr吸着率を示した。
第3金属を添加すると、第三金属がマンガンサイトの三価マンガンと置換するため、未置換型に比べてSrイオン吸着性の向上が期待されるが、第三金属の種類によってはSr吸着性が向上しないケースもあった。おそらく、金属と三価マンガンとの置換効果が低い、不純物の生成および層状構造の欠損生成等の不都合が生じており、その結果、Srイオン吸着性が向上しなかったと推察される。
【0119】
<実験10:KNiMOのSr吸着性のNi添加量依存性>
実験7〜9より、本発明のSr吸着剤のうち焼成温度500℃または600℃のNi置換型が特に優れたSr吸着性を示すことがわかった。そこで、このNi置換型について詳しく検討すべく実験10を行った。具体的には、焼成温度を500℃とし、炭酸カリウムと炭酸ニッケルと炭酸マンガンとを以下の原料モル比となるように混合した点以外は、実験7−1と同様にして焼成物を得た。
K/Ni/Mnモル比=0.42/0/1.0;
炭酸カリウム1.459g
炭酸マンガン6.531g
K/Ni/Mnモル比=0.42/0.1/0.9;
炭酸カリウム1.459g
炭酸ニッケル0.627g
炭酸マンガン5.878g
K/Ni/Mnモル比=0.42/0.2/0.8;
炭酸カリウム1.459g
炭酸ニッケル1.254g
炭酸マンガン5.225g
K/Ni/Mnモル比=0.42/0.3/0.7;
炭酸カリウム1.459g
炭酸ニッケル1.881g
炭酸マンガン4.572g
K/Ni/Mnモル比=0.42/0.4/0.6;
炭酸カリウム1.459g
炭酸ニッケル2.508g
炭酸マンガン3.919g
尚、本実験で使用した炭酸カリウム、炭酸ニッケルおよび炭酸マンガンは、実験7−4
で使用したものと同じであった。
【0120】
得られた焼成物(合成物)の原子組成は、以下のとおりである。
K/Ni/Mnモル比=0.42/0/1
K
0.42Mn(IV)O
2.21
(x=0.42、y=0、q=0.21)
K/Ni/Mnモル比=0.42/0.1/0.9
K
0.42Ni(II)
0.1Mn(IV)
0.9O
2.11
(x=0.42、y=0.1、q=0.11)
K/Ni/Mnモル比=0.42/0.2/0.8
K
0.42Ni(II)
0.2Mn(IV)
0.8O
2.01
(x=0.42、y=0.2、q=0.01)
K/Ni/Mnモル比=0.42/0.3/0.7
K
0.42Ni(II)
0.3Mn(IV)
0.7O
1.91
(x=0.42、y=0.3、q=−0.09)
K/Ni/Mnモル比=0.42/0.4/0.6
K
0.42Ni(II)
0.4Mn(IV)
0.6O
1.81
(x=0.42、y=0.4、q=−0.19)
尚、この実験10で得られた、K/Ni/Mnモル比=0.42/0.3/0.7の焼成物(合成物)とK/Ni/Mnモル比=0.42/0.4/0.6の焼成物(合成物)の原子組成において、qは、見かけ上マイナスの値となっているが、これは、これらの焼成物に4価のマンガン以外に3価のマンガン等他の価数のマンガンが含まれているところ、計算上は、マンガンが全て4価であると仮定したためである。
【0121】
得られた合成物をXRD測定装置(SHIMADZU XRD−6100、Cu−Kα)により測定した。結果を
図15に示す。
図15には、(001)面に由来する2θ=12.3度での面間隔dの値が示されている。また、焼成前の炭酸マンガン原料由来のピーク(2θ=12〜13度、30.5〜31.5度)と炭酸カリウム原料由来のピーク(2θ=30.5〜31度、49〜50度)が消失していることが確認された。ニッケル含有量が増加するにつれ、結晶性が向上した。
【0122】
このXRDの結果からα/βを算出したところ、いずれの組成においてもα/β=0/1であり、層状構造(K
2T
αMn
4−αO
8)のみ生成した。
【0123】
実験4と同様にして、実験10で得られた合成物のSr吸着量、Sr吸着率および分配係数K
dを求めた。結果を表9および
図16に示す。
【0124】
【表9】
【0125】
表9および
図16に示した通り、Ni添加によりSr吸着率が向上した。最も吸着率が大きかったのはy=0.1のときで、y=0のときの166%であった。
【0126】
<実験11:本発明のSr吸着剤の構造上の特徴>
本発明のSr吸着剤の構造上の特徴を確認すべく、本実験を行った。
【0127】
(実験11−1:TG−DTA、加熱処理後のXRD)
K―バーネサイトを比較対象とし、本発明のSr吸着剤とK―バーネサイトをTG−DTA測定装置(SHIMADZU DTG−60H)を用いて、空気雰囲気下、10℃/minの昇温速度で25〜1100℃の範囲で測定した。
【0128】
更に、加熱処理後の構造を、XRD測定装置(SHIMADZU XRD−6100、Cu−Kα)により測定した。加熱処理は、本発明のSr吸着剤に対しては、500℃、600℃、800℃および1000℃の各温度で1時間行った。K―バーネサイトに対しては、400℃および600℃の各温度で1時間行った。同様に、加熱処理を施していないK―バーネサイトも測定した。
【0129】
測定には、実験2のK/Mn=0.4の場合と同様にして製造したKMO−500℃、実験8−4と同様にして製造したKNiMO−500℃、および、実験8−3と同様にして製造したKMgMO−500℃の3種類の本発明のSr吸着剤を供した。また、測定に供したK―バーネサイトは、実験4と同様にして製造した。
【0130】
KMO−500℃の結果を、
図17と
図18に示す。KNiMO−500℃の結果を、
図19と
図20に示す。KMgMO−500℃の結果を、
図21と
図22に示す。K―バーネサイトの結果を、
図23と
図24に示す。
【0131】
K―バーネサイトのXRDパターンを参照すると、(a)加熱処理をしなかったK―バーネサイトには、層状のバーネサイト構造が存在していた。(b)400℃および(c)600℃で加熱処理されたK―バーネサイトは、K
2−βMn
8O
16(β:0より大きく2より小さい数)のホランダイト型(2×2)トンネル構造を有していた。更に、加熱処理温度が高くなるにつれ、結晶性が高くなった。これらの結果から、K―バーネサイトでは、加熱処理温度400℃以上でBirnessiteがHollanditeトンネル構造へ変化することがわかった。600℃では、完全にHollanditeトンネル構造へ変化することもわかった。
K―バーネサイトのTG−DTAを参照すると、80℃と170℃付近で吸熱ピークと重量減少が観測された。これは、表面の吸着水と層間の水の脱水に対応する。また、900℃付近に重量減少に伴う吸熱ピークが示されていた。
【0132】
ここで、本発明の発明者であるQ.FENGが以前発表したバーネサイト型マンガン酸化物のTG−DTA(Q.FENG K.YANAGISAWA N.YAMASAKI “Synthesis of birnessite−type potassium manganese oxide” Journal of Materials Science Letters, January 1997, Volume 16, Issue 2, pp 110−112)によれば、K−バーネサイトのTG−DTA測定では、474℃で発熱ピークが観測されたが、重量減少は観測されなかった。同じ論文でQ.FENGが発表したXRDを参照すると、K−バーネサイトを400℃で加熱処理した試料では、層状のバーネサイト構造が保持されていたが、550℃で加熱処理した試料では、この構造がホランダイト型トンネル構造に変化していた。即ち、この論文に掲載した実験では、TG−DTA測定で示された474℃での発熱ピークは、K−Birnessiteの層状構造からホランダイト型トンネル構造(K
2Mn
8O
16)への変化に伴う発熱ピークであった。
【0133】
この度の実験とQ.FENGの論文に掲載された実験から、K―バーネサイトは、400℃以上の温度で加熱処理すると、実験条件によっては層状のバーネサイト構造がホランダイト型トンネル構造に変化すると言え、600℃の温度で加熱処理すると、層状のバーネサイト構造がホランダイト型トンネル構造に変化すると言える。この構造変化に伴う反応熱は、TG−DTA測定で結晶構造の転移を伴う発熱ピークとして観察されることもあるが、試験条件等の影響によりかかるピークがはっきり観察されないこともある。
【0134】
本実験で得られたKMO−500℃のTG−DTAを参照すると、80℃付近と150℃付近に吸熱ピークと重量減少が観測されている。これは、表面の吸着水と層間の水の脱水に対応する。本発明のSr吸着剤は、製造直後には層間に水分子を有しないが、大気中に放置すると、空気中の水分を吸着し、層間に水が入る。そのため、このような結果が得られたものと推察される。
続けてKMO−500℃のTG−DTAを参照すると、400℃付近に緩やかな重量減少が見られた。しかし、上述の論文に掲載されたバーネサイト型マンガン酸化物のように470℃付近に発熱ピークは見られなかった。XRDを参照すると、500℃加熱処理後には構造変化が見られないが、600℃加熱処理後には少量のMnO
2が生成したことがわかった。これは、層状構造の一部がMnO
2へ変化したことを意味している。しかし、バーネサイト型マンガン酸化物と異なり、ホランダイト型トンネル構造(K
2Mn
8O
16)化合物の生成がみられない。
更にKMO−500℃のTG−DTAを参照すると、900℃付近に吸熱ピークと重量減少が観察されている。ここで、1000℃加熱処理後のXRDを参照すると、この加熱処理によりMnO
2からMn
3O
4への変化が生じていたことがわかる。MnO
2がMn
3O
4へ変わる反応は、酸素ガス(O
2)の放出を伴うことから、TG−DTAの900℃付近の吸熱ピークと重量減少は、この酸素ガスの放出に由来するものと推察される。
【0135】
KNiMO−500℃のTG−DTAを参照すると、80℃と150℃付近に吸熱ピークと重量減少が観測され、これらの温度で表面の吸着水と層間の水が脱水したことがわかる。KNiMO−500℃は、空気中に放置していたことから、その際に空気中の水分を吸着し、層間に水が入ったと考えられる。
引き続きKNiMO−500℃のTG−DTAを参照すると、400℃付近に緩やかな重量減少が見られた。しかし、上述の論文に掲載されたバーネサイト型マンガン酸化物のように470℃付近に発熱ピークは見られなかった。XRDを参照すると、加熱処理温度800℃までは層状構造が変化していなかった。よって、KNiMO−500℃は、KMO−500℃と比べ、熱安定性が向上したことがわかる。また、バーネサイト型マンガン酸化物と異なり、600℃および800℃で加熱処理してもホランダイト型トンネル構造(K
2Mn
8O
16)化合物の生成がみられない。
尚、1000℃で加熱処理した後のKNiMO−500℃のXRDを参照すると、かかる加熱処理により、一部の層状構造がMn
3O
4へ変化したことがわかる。
【0136】
KMgMO−500℃のTG−DTAを参照すると、80℃と150℃付近で吸熱ピークと重量減少が観測され、これらの温度で表面の吸着水と層間の水が脱水したことがわかる。KMgMO−500℃は、空気中に放置していたことから、その際に空気中の水分を吸着し、層間に水が入ったと考えられる。
引き続きKMgMO−500℃のTG−DTAを参照すると、400℃付近で重量減少と吸熱ピークが見られた。しかし、上述の論文に掲載されたバーネサイト型マンガン酸化物のように470℃付近に発熱ピークは見られなかった。XRDを参照すると、加熱温度600℃までは層状構造が変化していなかった。よって、KMgMO−500℃は、KMO−500℃と比べ、熱安定性が向上したことがわかる。また、バーネサイト型マンガン酸化物と異なり、600℃および800℃で加熱処理してもホランダイト型トンネル構造(K
2Mn
8O
16)化合物の生成がみられない。
尚、800℃で加熱処理した後のKMgMO−500℃のXRDを参照すると、かかる温度での加熱処理により少量のMnO
2が生成したことがわかる。更に、1000℃で加熱処理した後のKMgMO−500℃のXRDを参照すると、かかる温度での加熱処理により少量のMn
3O
4が生成したことがわかる。
【0137】
以上の結果について総合的に考察すると、未置換/第三金属置換に関わらず、本発明のSr吸着剤のTG−DTA測定では、表面の水分および層間の水分の脱水に由来するピークが観察された。これは、本発明のSr吸着剤が、合成直後の時点では層間に水分子を有していないものの、保管中に空気中の水を吸収するからである。
未置換/第三金属置換に関わらず、本発明のSr吸着剤は、比較対象であるバーネサイト型マンガン酸化物に比べて加熱処理に対する構造の安定性が高いことがわかった。更に、未置換型の本発明のSr吸着剤と第三金属置換型の本発明のSr吸着剤を比べると、第三金属置換型の方が、加熱処理に対する構造の安定性が高いこともわかった。バーネサイト型マンガン酸化物より高い構造安定性を有する理由は、K
2Mn
4O
8層状構造がバーネサイト型マンガン酸化物の層状構造と異なるためであると考えられる。
【0138】
(実験11−2:TEM装置による観察)
更に、TEM装置により、実験11−1で用いたものと同じKMO−500℃とバーネサイト型マンガン酸化物の結晶構造を解析した。KMO−500℃のTEM写真と電子線回折パターンをそれぞれ
図25に示す。バーネサイト型マンガン酸化物のTEM写真と電子線回折パターンをそれぞれ
図26に示す。その結果、本発明のSr吸着剤は、バーネサイト型マンガン酸化物とは異なる電子線回折パターンを示すことがわかった。これは両者が異なる結晶構造を有することを示す。
【0139】
<実験12:吸着時間依存性>
実験10のK/Ni/Mn=0.4/0/1.0、0.4/0.1/0.9および0.4/0.2/0.8と同様にして製造したKNiMOについて、そのSr吸着速度を測定した。結果を
図27に示す。Niを添加しないx=0の試料は、吸着初期の立ち上がりが遅いうえに48hの吸着率が24hの吸着率を少し下回っており、吸着速度が遅く吸着安定性が悪い。それに対してNiを添加したx=0.1,0.2の場合は、吸着速度が速く48hの吸着率の低下が見られない。特にx=0.1のときは初期段階での吸着速度が非常に速いことが分かった。従って、Niを添加すると、Sr吸着性と吸着安定性が向上し、そのNiの添加量はK
0.4Ni
yMn
4−yO
2のy=0.1のときが最適合成条件であることが示唆された。
【0140】
<実験13>
吸着剤の使用量を0.5gとした点以外は実験4と同様にして、KMO(焼成温度500℃、K/Mn=0.4)、KNiMO(焼成温度500℃、K/Ni/Mn=0.4/0.1/0.9)、従来の吸着剤であるA型ゼオライト、近年高性能のSr吸着剤として開発されたK
2Ti
2O
5の分配係数K
dを求めた。結果を
図28に示す。
図28が示す通り、KNiMOおよびKMOは、A型ゼオライトとK
2Ti
2O
5より高い分配係数K
dの値を示した。特にKNiMOは非常に高い分配係数K
dの値を示した。具体的に、KNiMOは、A型ゼオライトの約20倍、K
2Ti
2O
5の約7倍の分配係数K
dを示した。K
2Mn
4O
8層状構造の層間スペースが、Sr
2+とほぼ同じであることから、イオンふるい効果により高いSr吸着量とSr選択吸着性が達成されたと考えられる。