特許第6647682号(P6647682)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647682
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】鋼材の表面特性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/72 20060101AFI20200203BHJP
【FI】
   G01N27/72
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-519345(P2017-519345)
(86)(22)【出願日】2016年6月7日
(86)【国際出願番号】JP2016066922
(87)【国際公開番号】WO2017081879
(87)【国際公開日】20170518
【審査請求日】2018年4月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-219022(P2015-219022)
(32)【優先日】2015年11月9日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】牧野 良保
【審査官】 蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−002973(JP,A)
【文献】 特開2011−185623(JP,A)
【文献】 特開2007−040865(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0001609(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72−27/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面改質処理を施した鋼材の残留応力を評価する表面特性評価方法であって、
交流電源及び周波数可変回路を備えた発振器と、前記発信器に接続され、コイルを備えた検出器と、前記周波数可変回路及び前記検出器に接続された計測器と、を含む表面特性評価装置を準備する準備工程と、
前記表面改質処理を施した鋼材を被検体として、前記コイルにより励起された交流磁気が前記被検体の内部に浸透するように該被検体を配置する被検体配置工程と、
前記交流電源を作動させることにより、前記コイルに交流磁気を励起させ、この交流磁気を前記被検体の内部に浸透させて、該被検体に渦電流を発生させる渦電流生成工程と、
前記周波数可変回路によって前記交流電流の周波数を連続的に変更することにより、前記被検体への前記交流磁気の浸透深さを連続的に変更させる周波数変更工程と、
前記コイル両端の間の電位差を示す信号及び前記コイルを流れる電流値を示す信号、夫々、絶対値回路を介して検出してインピーダンスの大きさ1を周波数毎に算出するインピーダンス算出工程と、
前記インピーダンスの大きさ1に基づいて前記被検体の残留応力を評価する評価工程と、
を備え、
更に、表面改質処理を施す前の鋼材を被検体として周波数毎に基準インピーダンスの大きさ0を予め測定する基準インピーダンス測定工程を備え、前記評価工程においては、前記基準インピーダンスの大きさ0と前記インピーダンスの大きさ1との比を周波数毎に演算し、この演算値群に基づいて前記表面改質処理を施した鋼材の残留応力を評価することを特徴とする表面特性評価方法。
【請求項2】
前記評価工程においては、前記インピーダンスの大きさ1を用いて周波数毎に誘導リアクタンスX1を算出し、これらの誘導リアクタンスX1に基づいて前記表面改質処理を施した鋼材の残留応力を評価することを特徴とする請求項1に記載の表面特性評価方法。
【請求項3】
前記評価工程において、更に、前記交流電流の周波数を次式により前記交流磁気の浸透深さに換算し、換算された浸透深さに基づいて前記表面改質処理を施した鋼材の残留応力の深さ方向の分布を評価することを特徴とする請求項1又は2に記載の表面特性評価方法。
【請求項4】
前記評価工程において、更に、前記基準インピーダンスの大きさ0と前記インピーダンスの大きさ1の比、及び周波数を夫々座標軸とする座標系上に、前記比の演算値群をプロットすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の表面特性評価方法。
【請求項5】
前記評価工程において、更に、前記座標系上にプロットされた前記演算値群のグラフの軌跡及びこの軌跡の極値を含む1又は複数の前記演算値に基づいて前記表面改質処理を施した鋼材の残留応力を評価することを特徴とする請求項4に記載の表面特性評価方法。
【請求項6】
前記評価工程において、更に、前記極値を含む1又は複数の演算値を予め設定された1又は複数の閾値と比較することにより、表面改質処理の良否を判定することを特徴とする請求項5に記載の表面特性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質処理を施した鋼材の残留応力を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材の表面改質処理として、各種熱処理(浸炭焼き入れ、窒化熱処理、高周波焼き入れ、等)やショットピーニング処理が広く知られている。表面改質処理により、鋼材の表面近傍には残留応力が付与され、鋼材の疲労強度が向上する。表面改質処理は、鋼材の用途に応じて鋼材表面からの深さに対して所望の残留応力が付与されるよう、処理条件を考慮している。この表面改質処理が適正に行われたか否かを精度良く評価するには、深さ方向も考慮する必要がある。
【0003】
鋼材の疲労強度を測定する方法が、特許文献1に開示されている。特許文献1では、ショットピーニングを行った鋼材の所定の圧縮残留応力がピーク値を示す深さを評価している。しかし、特許文献1に開示されている評価方法は、測定対象や表面改質処理の条件毎に測定条件を設定する必要がある。従って、材料の個体差等のバラツキにより精度よい評価を行うことができない。
【0004】
鋼材の疲労強度を測定する別の方法が、特許文献2に開示されている。特許文献2では、鋼材に当接させた励磁コイルに流す励磁電流の周波数を順次変更させることで鋼材表面における磁束の浸透深さ(透磁率)を順次変更させながら、検出コイルの出力電圧値を順次測定することで、鋼材の圧縮残留応力の分布を算出する。しかし、検出コイルの出力電圧値には、透磁率の変化による電圧成分及び検出コイル自体のインピーダンスによる電圧成分が含まれている。その為、周辺環境の変化(温度、ノイズ、等)により検出コイル自体のインピーダンスの特性が変化した場合、測定値の信頼性が低下する。また、この測定装置における励磁コイルは鋼材との距離による検出信号が変化する現象(リフトオフ現象)を考慮して設計する必要があるが、この視点での開示はされていない。このように、特許文献2の測定装置では鋼材の圧縮残留応力を正確に評価することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−092140号公報
【特許文献2】特開平05−203503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上に鑑み、表面改質処理を施した鋼材の残留応力を、深さ方向の分布を考慮して精度良く評価できる表面特性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、表面改質処理を施した鋼材の残留応力を評価する表面特性評価方法である。この表面特性評価方法は、以下の(1)〜(6)の工程を含む。これらの工程は、別々に行っても良いし、2以上を同時に行ってもよい。
(1)交流電源及び周波数可変回路を備えた発振器と、発信器に接続され、コイルを備えた検出器と、周波数可変回路及び検出器に接続された計測器と、を含む表面特性評価装置を準備する準備工程。
(2)表面改質処理を施した鋼材を被検体として、コイルにより励起された交流磁気が被検体の内部に浸透するように該被検体を配置する被検体配置工程。
(3)交流電源を作動させることにより、コイルに交流磁気を励起させ、この交流磁気を被検体の内部に浸透させて、被検体に渦電流を発生させる渦電流生成工程。
(4)周波数可変回路によって交流電流の周波数を連続的に変更することにより、被検体への交流磁気の浸透深さを連続的に変更させる周波数変更工程。
(5)コイル両端の間の電位差及びコイルを流れる電流値を検出して、インピーダンスZ1を周波数毎に算出するインピーダンス算出工程。
(6)インピーダンスZ1に基づいて被検体の残留応力を評価する評価工程。
【0008】
本発明の一側面では、コイルに励起させた交流磁気を鋼材に浸透させることで表面改質処理により内部に生じた歪を検知する。その際、コイルに印加する交流電流の周波数を連続的に変化させることで、この歪の深さ方向の分布を検知することができる。また、インピーダンスZ1を用いることで、コイルのインピーダンスに相当する信号及びS/N比(S:評価電圧、N:評価電圧以外からのノイズ)を大きくすることができるので、評価精度を向上させることができる。このように、表面改質処理を施した鋼材の残留応力を、深さ方向を考慮して精度よく評価することができる。
【0009】
一実施形態では、表面改質処理を施す前の鋼材を被検体として周波数毎に基準インピーダンスZ0を予め測定する基準インピーダンス測定工程を更に備えてもよい。そして、評価工程においては、基準インピーダンスZ0とインピーダンスZ1との比を周波数毎に演算し、この演算値群に基づいて表面改質処理を施した鋼材の残留応力を評価してもよい。表面改質処理前後の鋼材をそれぞれ被検体として測定したインピーダンスの比を用いて評価することで、周辺の温度及び湿度の変化による電圧のドリフトを軽減することができる。更に、表面改質処理による電磁気特性の変化のみを抽出することができる。以上により、表面改質処理を施した鋼材の残留応力の評価を、深さ方向の分布を考慮して精度よく行うことができる。
【0010】
一実施形態では、評価工程においては、インピーダンスZ1を用いて周波数毎に誘導リアクタンスX1を算出し、これらの誘導リアクタンスX1に基づいて前記表面改質処理を施した鋼材の残留応力を評価してもよい。インピーダンスのY軸成分(複素インピーダンスの虚数成分)である誘導リアクタンスを算出し、この誘導リアクタンスに基づいて評価を行うことで、被検体の透磁率のみを評価することができる。その結果、評価の精度が向上する。
【0011】
一実施形態では、交流磁気の浸透深さは、交流電流の周波数より次式により換算し、換算された浸透深さに基づいて前記表面改質処理を施した鋼材の残留応力の深さ方向の分布を評価してもよい。歪の深さ方向の分布を精度よく把握し、評価することができる。
【数1】
【0012】
一実施形態では、以下の座標軸A、Bを持つ座標系上に演算値群をプロットしてもよい。表面改質処理によって生じた鋼材内部の歪の分布を視覚的に把握することができる。
座標軸A:表面改質処理を施す前の鋼材を被検体として測定した基準インピーダンスZ0と表面改質処理を施した後の鋼材を被検体として測定したインピーダンスZ1の比を示す。
座標軸B:周波数を示す。
【0013】
一実施形態では、残留応力を評価する工程において、座標軸A、Bを持つ座標系上にプロットされた演算値群のグラフの軌跡及びこの軌跡の極値を含む1又は複数の演算値に基づいて、表面処理を施した鋼材の残留応力を評価してもよい。残留応力の評価を、表面改質処理によって生じた鋼材内部の歪の分布の態様と極値となる深さにおける演算値の値との両面から行うことができる。
【0014】
一実施形態では、評価工程において、極値を含む1又は複数の演算値を予め設定された閾値と比較することにより、表面改質処理の良否を判定してもよい。表面改質処理が適正に施されているか否か、深さ方向を考慮して判定することができる。
【発明の効果】
【0015】
一側面及び実施形態により、表面改質処理を行った鋼材の残留応力を、深さ方向を考慮して精度よく評価できる表面特性評価方法を提供することができる。これにより、鋼材に施した表面改質処理の程度を深さ方向の分布を考慮して精度よく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態を説明するための回路図である。
図2】本発明の一実施形態におけるコイルに発生する渦電流を説明する模式図である。
図3】本発明の一実施形態における表面特性評価方法を説明するフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態における実施例を説明するためのグラフである。
図5】本発明の一実施形態における実施例で用いた鋼材の残留応力を示すグラフである。
図6】本発明の別の実施形態(変更例1)を説明するための回路図である。
図7】本発明の別の実施形態(変更例2)を説明するための回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下の説明における上下左右方向とは、特に断りのない限り図中の方向を示す。
【0018】
(表面特性評価装置)
一実施形態の表面特性評価装置1は、発振器10、検出器20、計測器30、を備えている。
【0019】
発振器10は交流電源11と周波数可変回路12とを備えている。周波数可変回路12は、交流電源11に接続されており、交流電源11から出力される交流電流の周波数を変更することができる。
【0020】
検出器20は、コイル21を含む。コイル21の一端側(点A)は交流電源11と接続されており、交流電源11から出力された交流電流が供給される。なお、図1のコイル21を示す破線内の回路記号はコイル21の電気等価回路を示すものである。
【0021】
計測器30は、増幅回路31、絶対値回路32、ローパスフィルタ(LPF)33、I/V変換回路34、絶対値回路35、LPF36、制御手段37、表示器38、を備えている。また、記憶手段を、制御手段37の内部または図示しない領域に備えている。具体的には、制御手段37は、マイクロプロセッサ、インターフェイス回路、メモリ、及びこれらを作動させるプログラム(以上、図示せず)等により構成することができる。
【0022】
増幅回路31は、コイル21の両端である点Aと点Bに接続されている。点Aと点Bとの間の電位差の信号は増幅回路31に入力され、増幅される。この増幅された信号は、絶対値回路32により全波整流された後、LPF33により直流に変換される。この変換された信号は制御手段37に入力される。
【0023】
I/V変換回路34は、コイル21の他端側(点B)に接続されている。コイル21に流れた電流の電流値を示す信号はI/V変換回路34に入力され、電位差を示す信号に変換される。そして、絶対値回路35により全波整流された後、LPF36により直流に変換される。この変換された信号は制御手段37に入力される。
【0024】
制御手段37は、周波数可変回路12、LPF33、及びLPF36に接続されており、コイル21に印加した交流電流の周波数と、この周波数に対するLPF33、36を通過した信号がそれぞれ入力される。入力されたこれらの信号に基づいて演算を行い、演算結果により被検体の表面特性の評価を行う。なお、交流電流の周波数の変更は手動で行ってもよく、制御手段37に周波数を連続的に変更する信号を周波数可変回路12に出力させる機能を持たせて自動で周波数の変更を行ってもよい。本実施形態では、後者とした。
【0025】
表示器38は、制御手段37による評価結果の表示または警告を行う。
【0026】
(評価方法)
次に、本実施形態の表面特性評価装置1を用いて、被検体の表面特性を評価する方法について説明する。以下では、表面改質処理としてショットピーニング処理(以降、SP処理と記載)を選択し、表面改質処理の程度としてSP処理を施した鋼材の圧縮残留応力を評価した場合について説明する。
【0027】
S01:準備工程
表面特性評価装置1及びSP処理を施す前の前述の鋼材(未処理品)を準備する。本実施形態では、φ40mm×30mmのクロムモリブデン鋼(JIS G4053に規定されるSCM420H)を、浸炭焼き入れしたものを準備した。
【0028】
S02:第1の配置工程(未処理品)
被検体として未処理品を検出器20にセットする。次の工程でコイル21に交流磁気を励起させた際にこの交流磁気が被検体の内部に浸透しさえすれば、被検体をセットする方法は特に限定されない。本実施形態では、未処理品をコイル21の円形断面中心で、且つ未処理品全体がコイル21の内部に位置するようにセットする。被検体をこのようにセットすることで、材料に起因する被検体内部の深さ方向に直行する方向のバラツキを軽減することができるので、測定精度を向上させることができる。
【0029】
S03:未処理品の測定工程(基準インピーダンス測定工程)
第1の渦電流生成工程として、制御手段37より交流電源11より出力される交流電流の周波数を制御する信号を周波数可変回路12に出力すると共に、交流電源11を作動させる。交流電源11の作動により、コイル21には交流磁気が励起される(図2を参照)。コイル21の内周側には被検体がセットされているので、この交流磁気が被検体に浸透する。交流磁気の浸透により被検体の表面には渦電流が発生する。渦電流により、交流磁気に対する反磁界が生じる。この時、残留応力の大きさによって透磁率が変わる。したがって、この反磁界と交流磁気とを合わせた磁束の大きさは、表面改質処理の程度を示す残留応力の大きさによって異なる。即ち、残留応力の大きさによって、交流電流がコイルに流れる際のコイルの電気特性を示す信号(コイル間(A−B間)の電位差を示す信号及びコイルを流れた後の電流値を示す信号)が変化する。増幅回路31−絶対値回路32−LPF33を通って制御手段37に入力された信号と、I/V変換回路34−絶対値回路35−LPF36を通って制御手段37に入力された信号と、から、制御手段37によりその周波数におけるインピーダンスZ0を算出する。
また、交流磁気が被検体に浸透する深さは、交流電流の周波数に依存する。従って、第1の周波数変更工程として、交流電源11より出力される交流電流の周波数を制御手段37により変化させる。交流電流の周波数を変化させながら、第1の検出工程として、各々の周波数毎に交流電流の電気的特性を示す信号を検出し、この信号からコイル21のインピーダンスZ0を算出して記憶手段に記憶する。
【0030】
S04:表面改質処理工程
未処理品を検出器20より取り出した後、SP処理により圧縮残留応力の付与を行い、表面改質処理を施した前述の鋼材(表面改質処理品)を得る。
【0031】
S05:表面改質処理品の測定工程
工程S04において表面改質処理を行った鋼材(表面改質処理品)を、第2の被検体配置工程として、検出器20にセットする。次に、工程S03と同様な、第2の渦電流生成工程、第2の周波数変更工程、及び第2の検出工程を実行し、周波数毎のコイル21のインピーダンスZ1を算出する。この工程における周波数は工程S03と同じ周波数とする。先述の反磁界は、表面改質処理の程度を示す圧縮残留応力の大きさによって異なるので、コイルを流れる交流電流の電気特性を評価することで、被検体の表面改質処理の程度を評価することができる。
【0032】
S06:判断工程(評価工程)
インピーダンスZ0に対するインピーダンスZ1の比(Z1/Z0)を、制御手段37によって周波数毎に演算し、演算値群を得る。表面特性の評価としてインピーダンスの比(Z1/Z0)を用いることで、測定環境の変化(温度や湿度等)による電圧のドリフトを軽減することができる。また、表面改質処理による被検体の電磁気特性変化のみを抽出できるので、表面特性の評価の精度が向上する。
【0033】
インピーダンスの比(Z1/Z0)を縦軸、周波数を横軸とするグラフ(座標系)を準備し、各周波数に対して算出されたインピーダンスの比(Z1/Z0)である演算値群に対応する点をグラフ上にプロットする。周波数は被検体の表面からの深さに相当するので、グラフ上の軌跡により、表面改質処理の程度を示す圧縮残留応力の深さ方向の分布を視覚的に把握することができる。
【0034】
周波数より鋼材表面からの深さを算出し、これを横軸としてもよい。周波数と鋼材表面からの深さとの関係は、(数2)より周波数と鋼材表面からの深さとの関係を示す検量線を作成し、この検量線から算出することができる。(数2)における補正係数kは、被検体の形状(例えば被検体の体積)や性状(例えば、前段階としての熱処理の有無)やSP処理の条件(例えば、ショットの粒子径、硬度、噴射時間、噴射圧力)等の影響を受けて変動する値であり、実験により予め算出される。
【0035】
【数2】
【0036】
得られた分布より、制御手段37で表面改質処理の良否を判定する。判定方法を以下に例示するが、この方法に限定されない。
【0037】
SP処理が適正に施されているか否かを判定するための閾値群及び許容範囲を予め算出する。SP処理が適正に施された鋼材(良品)及びSP処理が不満足な鋼材(不良品)を、先述の工程S01〜工程S04の操作にてそれぞれ複数個測定し、この測定に基づいてインピーダンスの比及びこれに対応する周波数又は鋼材表面からの深さを示す閾値群及び許容範囲を決定する。
【0038】
この閾値群を演算値群の値と比較する。例えば、インピーダンスの比を算出した演算値群のグラフの軌跡が極値となる周波数及びその近傍の任意の周波数を数点選択し(例えば6点)、選択された周波数におけるインピーダンスの比を閾値とそれぞれ比較する。この時、比較したすべての値が閾値の許容範囲内であれば「SP処理が適正に施されている」と判定し、1点でも閾値の範囲を逸脱していれば「SP処理が不適正」と判定する。
【0039】
他の判定方法は、「演算値群を示すグラフ(周波数又は鋼材表面からの深さとインピーダンスの比との関係を示すグラフ)が、閾値群が示す同様のグラフの許容範囲内か否かの判定」と、「インピーダンスの比のグラフの極値が、閾値群における極値の許容範囲内か否かの判定」と、を行う。双方が閾値群の許容範囲内であれば「SP処理が適正に施されている」と判定し、一方でも閾値群の許容範囲を逸脱していれば「SP処理が不適正」と判定する。
【0040】
S07:出力工程
表面改質処理の良否の判定結果を、表示器38に出力する。表示器38では、良否結果のみ表示してもよいし、否と判定した際に警告音を発するようにしてもよい。または、先述のグラフ(周波数(又は鋼材の表面からの深さ)とインピーダンスの比との関係を示すグラフ)を表示してもよい。
【0041】
以上の工程により、被検体の表面からの深さ方向を考慮した表面改質処理の程度の評価を行うことができる。
【0042】
次に、本実施形態の表面特性評価装置1を用いて、鋼材の表面特性を評価した結果を示す。
【0043】
前述の、浸炭焼き入れを行ったクロムモリブデン鋼(φ40mm×30mm)に向かって、平均粒子径50μm〜1000μmのショット(いずれも新東工業株式会社製)をショットピーニング機(新東工業株式会社製)にて、0.3MPaの噴射圧力でカバレージが300%となるように噴射してショットピーニング処理を行った(表1参照)。このショットピーニング処理を施したクロムモリブデン鋼を被検体とした。
【0044】
【表1】
【0045】
交流電流の周波数(使用周波数)は、10kHz〜20MHzに設定した。また、前述の検量線より使用周波数から交流磁気の浸透深さを算出した。
【0046】
結果を図4に示す。インピーダンスの比(Z1/Z0)の軌跡が極値を示す深さは、被検体Aは10μm近傍、被検体Bは25μm近傍、被検体Cは55μm近傍であることが図4より分かる。
【0047】
次に、被検体A〜Cの圧縮残留応力をX線応力測定装置にてそれぞれ測定した結果を図5に示す。圧縮残留応力の軌跡が極値を示す深さは、被検体Aは5〜10μm近傍、被検体Bは20μm近傍、被検体Cは50μm近傍であることが図5より分かる。図4及び図5において極値を示す深さについて、ほぼ相関性があるので、本実施形態の表面特性評価装置及び表面特性評価方法により、深さ方向を考慮した表面改質処理の程度の評価を行うことができることが示唆された。
【0048】
(変更例1)
別の実施形態の表面特性評価装置2を図6に示す。本実施形態の表面特性評価装置2は、一実施形態の表面特性評価装置2における計測器30は、増幅回路31、A/D変換回路39a、I/V変換回路34、A/D変換回路39b、制御手段37、表示器38を備えている。また、制御手段37には、記憶手段37aが内蔵されている。なお、記憶手段37aは、制御手段37の外部に設けられていても良い。また、発振器10及び検出器20の構成は、上述した一実施形態と同様であるため説明を省略し、ここでは、一実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0049】
増幅回路31は、コイル21の両端である点Aと点Bに接続されている。点Aと点Bとの間の電位差の信号は増幅回路31に入力され、増幅される。この増幅された信号は、A/D変換回路39aによりアナログ電圧の信号からデジタル信号に変換される。この変換されたデジタル信号は制御手段37に入力される。
【0050】
I/V変換回路34は、コイル21の他端側(点B)に接続されている。コイル21を流れた電流の電流値を示す信号はI/V変換回路34に入力され、アナログ電圧の信号に変換される。I/V変換回路34より出力されたアナログ電圧の信号は、A/D変換回路39bによりデジタル信号に変換され、制御手段37に入力される。
【0051】
制御手段37では、A/D変換回路39a、39bから夫々入力されたデジタル信号がデジタル信号処理により加工される。即ち、増幅回路31及びI/V変換回路34から入力された各デジタル信号は交流的に変動する時系列信号であるが、上述した一実施形態における絶対値回路32、35及びLPF33、36(図1)と等価なデジタル演算により、直流的なデジタル信号に変換される。これにより、各A/D変換回路39a、39bに入力されたアナログ電圧の交流信号は、制御手段37の中で、交流信号の振幅に比例したデジタル値に変換される。そして、これらのデジタル値に基づいてインピーダンスが算出される。
【0052】
本実施形態の表面特性評価装置2は、信号の演算がデジタル信号処理により行われるので、よりノイズの影響を受けにくい構成となる。従って、ノイズが発生しやすい環境で評価する場合であっても、より精度の高い評価を行うことができる。
【0053】
(変更例2)
別の実施形態の表面特性評価装置3を図7に示す。本実施形態の表面特性評価装置3においては、一実施形態の表面特性評価装置1(図1)の計測器30に、位相検波回路301、絶対値回路302、及びLPF303が、新たに加えられている。また、発振器10及び検出器20の構成は、上述した一実施形態と同様であるため説明を省略し、ここでは、計測器30に新たに加えられた構成を中心に説明する。
【0054】
位相検波回路301は、交流電源11及びコイル21の他端側(点B)に接続されている。交流電源11により印加された電圧に対するコイル21を流れる電流の位相差を示す信号が位相検波回路301より出力され、絶対値回路302により全波整流された後、LPF303により直流に変換される。この変換された信号は制御手段37に入力される。即ち、コイル21に印加された電圧と、コイル21を流れた電流の位相差に比例した電圧信号が制御手段37に入力される。
【0055】
制御手段37では、測定工程S03(図3)において、未処理品を被検体とした場合のインピーダンスZ0が算出される。また、LPF303より入力された信号により、未処理品を被検体とした場合の位相差α0が算出される。算出されたインピーダンスZ0及び位相差α0より、誘導リアクタンスX0をX0=Z0×sinα0の式により周波数毎に算出する。また、測定工程S05(図3)において、表面改質処理品を被検体とした場合のインピーダンスZ1及び位相差α1を同様に算出し、誘導リアクタンスX1を周波数毎に算出する。
【0056】
判断工程S06(図3)では、先述の誘導リアクタンスX0(未処理品)に対する誘導リアクタンスX1(表面改質処理品)の比(X1/X0)を、制御手段37によって周波数毎に演算する。表面特性の評価として誘導リアクタンスの比を用いることで、被検体の透磁率のみを評価することができる。インピータンスに比べ誘導リアクタンスは値が小さいが、電気特性の変化に対する感度が優れている。特に精密な評価が必要な場合、誘導リアクタンスの比で評価を行うことで、より精度の高い評価を行うことができる。
【0057】
なお、誘導リアクタンスは本実施形態のようなアナログ信号処理によって算出してもよいし、図6の回路を用い制御手段37におけるデジタル信号処理にて算出してもよい。この場合、図7の回路における位相検波回路301、絶対値回路302、LPF303と等価なデジタル演算を制御手段37の内部で実行し、求められた位相差(α0、α1)に基づいて誘導リアクタンス(X0、X1)を演算する。即ち、制御手段37においては、下記a〜cの演算が行われる。
a)コイル両端の間の電圧をA/D変換回路39aによりA/D変換したデジタル信号と、コイルを流れる電流の信号をA/D変換回路39bによりA/D変換したデジタル信号の位相差(α0、α1)を、制御手段37により算出する。
b)A/D変換回路39a、39bを介して入力された各デジタル信号から、図6に基づいて説明した演算によりインピーダンス(Z0、Z1)を算出する。
c)上記a、bで算出された「位相差」及び「インピーダンス」を用いて、誘導リアクダンス(X0、X1)を算出する。
【産業上の利用可能性】
【0058】
一実施形態では、浸炭焼き入れを行った鋼材にショットピーニング処理を施した場合の、ショットピーニング処理の程度の評価について説明した。しかし、本発明の表面特性評価装置及び表面特性評価方法は、表面改質処理として各種熱処理を行った場合の評価も行うことができる。また、ショットピーニング処理のみを行った鋼材の評価も行うことができる。
【符号の説明】
【0059】
1 表面特性評価装置
2 別の実施形態の表面特性評価装置(変更例1)
3 別の実施形態の表面特性評価装置(変更例2)
10 発振器
11 交流電源
12 周波数可変回路
20 検出器
21 コイル
30 計測器
31 増幅回路
32 絶対値回路
33 LPF
34 I/V変換回路
35 絶対値回路
36 LPF
37 制御手段
38 表示器
39a A/D変換回路
39b A/D変換回路
301 位相検波回路
302 絶対値回路
303 LPF
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7