【文献】
Cheng-Chi Tai et al.,Modeling the surface condition of Ferromagnetic Metal by the Swept-Frequency Eddy Current Method,IEEE Transactions on Magnetics,2002年 1月,Vol.38, No.1,205-210
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記計測器は、前記交流電源により印加される交流電圧と前記コイルを流れる電流との位相差を測定する位相検波回路を更に備えることを特徴とする請求項5に記載の表面特性評価装置。
前記周波数可変回路は、前記交流電源によって印加される前記交流電圧の周波数が連続的に変更されるように、前記交流電源に信号を出力することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の表面特性評価装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上に鑑み、表面改質処理を施した鋼材の残留応力を、深さ方向の分布を考慮して精度良く評価できる表面特性評価装置及びこの表面特性評価装置を用いた表面特性評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、表面改質処理を施した鋼材の残留応力の分布を評価する表面特性評価装置である。この表面特性評価装置は、発振器と、発振器に接続される検出器と、周波数可変回路及び検出器に接続される計測器と、を備える。発振器は、交流電源及び交流電源により出力される交流電流の周波数を変更可能な周波数可変回路を備える。検出器は、被検体を当接または近接させてセットできる。そして、検出器は、交流電源によって印加される交流電流により交流磁気が励起可能なコイルを備えている。計測器は、周波数可変回路によって設定された複数の周波数における、コイルを流れる交流電流の電気特性を示す信号に基づいて、複数の周波数毎に演算を行うように構成されている。このコイルの自己共振周波数は、周波数可変回路によって設定される交流電流の周波数帯域以上にある構成である。
【0008】
この表面特性評価装置を用いて表面改質処理を施した鋼材の残留応力の分布を評価する表面特性評価方法は、以下の(1)〜(5)の工程を備える。これらの工程は、別々に行っても良いし、2以上を同時に行ってもよい。
(1)交流磁気が被検体の内部に浸透するように被検体を配置する被検体配置工程。
(2)被検体に渦電流を発生させる渦電流生成工程。交流電源を作動させて交流磁気を被検体に浸透させることで行う。
(3)交流電流の周波数を連続的に変更する周波数変更工程。上記(2)の状態を継続した状態で周波数可変回路により行う。
(4)コイルに流れる電流の電気特性を示す信号を検出する検出工程。上記(3)の周波数変更工程における各周波数に対して行う。
(5)検出された信号に基づいて演算を行い、被検体の残留応力を評価する評価工程。上記(4)の検出工程において検出した周波数毎に行う。
【0009】
交流電流の印加によりコイルに交流磁気が励起される。この交流磁気(磁束)を被検体に浸透させることで、被検体には渦電流が発生する。渦電流により交流磁気に対する反磁界が生じる。この反磁界と交流磁気とを合わせた磁束の大きさは、表面改質処理の程度を示す残留応力の大きさによって異なる。この反磁界と交流磁気とを合わせた磁束の大きさは、表面改質処理の程度を示す残留応力の大きさによって異なる。即ち、残留応力の大きさによって、交流電流がコイルに流れる際のコイルの電気特性を示す信号(コイル両端の間の電位差を示す信号及びコイルを流れる電流値を示す信号)が変化する。よって、コイルを流れる交流電流の電気特性を評価することで、被検体の表面改質処理の程度を評価することができる。また、交流電流の周波数を変更すると、交流磁気の浸透深さを変更することができる。従って、交流電流の周波数を変更し、それぞれの周波数に対するコイルを流れる交流電流の電気特性を評価することで、被検体の残留応力を、深さ方向を考慮して評価することができる。
深さ方向の分布を考慮して被検体の残留応力を評価する場合、評価する深さに対してコイル両端の間の電位差及びコイルを流れる電流を良好に検出する必要がある。一側面のように、コイルの自己共振周波数が周波数可変回路によって設定される周波数帯域以上となるようにすることで、評価目的の範囲においてコイル間の電位差及びコイルを流れる電流を良好に検出することができる。
【0010】
一実施形態では、周波数可変回路によって設定される周波数帯域を0.5×10
3Hz〜20×10
6Hzの範囲内に設定してもよい。表面改質処理として熱処理(浸炭焼き入れ、窒化熱処理、高周波焼き入れ、等)やショットピーニング処理を選択した場合、これらの処理によって改質される表面からの深さ(影響層)は、概ね10〜1000μmである。設定される周波数帯域を上記の範囲とすることで、このような被検体の表層近傍の残留応力の分布を良好に評価することができる。
【0011】
一実施形態では、複数の導線を束ねた線材を巻回してコイルを構成してもよい。この構成により、コイルの共振周波数帯域をより高くすることができる。また、周辺環境の影響を受けにくくなるので、評価精度が向上する。
【0012】
一実施形態では、コイルを被検体の側周面を包囲できる構成としてよい。材料に起因する被検体内部の深さ方向に対して直交する方向のバラツキを軽減することができるので、評価精度を向上させることができる。また、評価対象面、即ち表面改質処理を行った面の全体を一度の測定で評価できるので、評価時間を短縮することができる。
【0013】
一実施形態では、計測器はコイルに流れる電流を測定するI/V変換回路を備えていてもよい。そして、この表面特性評価装置を用いて表面改質処理を施した鋼材の残留応力の分布を評価する表面特性評価方法は、以下の(1)〜(5)の工程を備えてもよい。これらの工程は、別々に行っても良いし、2以上を同時に行ってもよい。
(1)交流磁気が被検体の内部に浸透するように被検体を配置する被検体配置工程。
(2)被検体に渦電流を発生させる渦電流生成工程。交流電源を作動させて交流磁気を被検体に浸透させることで行う。
(3)交流電流の周波数を連続的に変更する周波数変更工程。上記(2)の状態を継続した状態で周波数可変回路により行う。
(4)コイル両端の間の電位差及びコイルを流れる電流値を示す信号を検出する検出工程。コイルを流れる電流の信号は、I/V変換回路を介して検出する。この検出は、上記(3)の周波数変更工程における周波数毎に行う。
(5)コイルのインピーダンスに基づいて演算を行い、被検体の残留応力を評価する評価工程。インピーダンスは、(4)にて検出された電位差及び電流値を示す信号に基づいて算出される。インピーダンスの算出は、上記(4)の検出工程において検出した周波数毎に行う。
【0014】
この工程により、コイルのインピーダンスに相当する信号を、被検体の複数の深さに対してそれぞれ抽出することができる。これにより、インピーダンスの信号及びS/N比(S:評価電圧、N:評価電圧以外からのノイズ)を大きくすることができるので、評価精度が向上する。
【0015】
一実施形態では、演算を次の通りとしてもよい。
(1)表面改質処理を施す前の鋼材(未処理品)を被検体として計測器を用いて、コイル両端の間の電位差の信号及びコイルを流れる電流値を示す信号を予め検出する。そして、この検出結果に基づいてインピーダンスZ
0を算出する。インピーダンスZ
0の算出は、周波数毎に行う。
(2)表面改質処理を行った鋼材(表面改質処理品)を被検体として計測器を用いて、コイル両端の間の電位差の信号及びコイルを流れる電流値を示す信号を検出する。そして、この検出結果に基づいてインピーダンスZ
1を算出する。インピーダンスZ
1の算出は、周波数毎に行う。
(3)算出されたZ
0及びZ
1に基づいて、その比(Z
1/Z
0又はZ
0/Z
1)を演算する。
【0016】
未処理品のインピーダンスに対する表面改質処理品のインピーダンスの比を用いて残留応力を評価すると、周辺の温度及び湿度の変化による電圧のドリフトを軽減することができる。更に、表面改質処理による電磁気特性の変化のみを抽出することができる。これらにより、評価の精度を向上させることができる。
【0017】
一実施形態では、計測器が、交流電源により印加される交流電圧とコイルを流れる電流との位相差を測定する位相検波回路を更に備えてもよい。そして、この表面特性評価装置を用いた被検体の残留応力の分布を評価する表面特性評価方法は、以下の(1)〜(5)の工程を備えてもよい。これらの工程は、別々に行っても良いし、2以上を同時に行ってもよい。
(1)交流磁気が被検体の内部に浸透するように被検体を配置する被検体配置工程。
(2)被検体に渦電流を発生させる渦電流生成工程。交流電源を作動させて交流磁気を被検体に浸透させることで行う。
(3)交流電流の周波数を連続的に変更する周波数変更工程。上記(2)の状態を継続した状態で周波数可変回路により行う。
(4)コイル両端の間の電位差の信号及びコイルを流れる電流値を示す信号を検出すると共に、交流電源よって印加される交流電圧とコイルに流れる電流の位相差の信号を検出する位相差検出工程。この検出は、上記(3)の周波数変更工程における周波数毎に行う。
(5)誘導リアクタンスを算出し、これに基づいて被検体の表面特性を評価する工程。誘導リアクタンスは、(4)にて検出された電位差及び電流値を示す信号に基づいて算出されたコイルのインピーダンスと位相差に基づいて算出される。誘導リアクタンスの算出及びこの演算は、上記(4)の位相差検出工程において検出した周波数毎に行う。
【0018】
インピーダンスのY軸成分(複素インピーダンスの虚数成分)である誘導リアクタンスを算出し、この誘導リアクタンスに基づいて評価を行うことで、被検体の透磁率のみを評価することができる。その結果、評価の精度が向上する。
【0019】
一実施形態では、計測器は、交流電源よって印加される交流電圧の周波数が連続的に変更されるように、交流電源に信号を出力してもよい。被検体の評価を自動でおこなうことができる。
【発明の効果】
【0020】
一側面及び実施形態により、表面改質処理を行った被検体の残留応力を、深さ方向を考慮して精度よく評価できる表面特性評価装置、及び表面特性評価方法を提供することができる。これにより、鋼材に施した表面改質処理の程度を深さ方向の分布を考慮して精度よく評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下の説明における上下左右方向とは、特に断りのない限り図中の方向を示す。
【0023】
本実施形態による表面特性評価装置1は、発振器10、検出器20、計測器30、を備えている。
【0024】
発振器10は交流電源11と周波数可変回路12とを備えている。周波数可変回路12は、交流電源11に接続されており、交流電源11から出力される交流電流の周波数を変更することができる。
【0025】
検出器20は、コイル21を含む。コイル21の一端側(点A)は交流電源11と接続されており、交流電源11から出力された交流電流が供給される。なお、
図1のコイル21を示す破線内の回路記号はコイル21の電気等価回路を示すものであり、コイル21の詳細は後述する。
【0026】
計測器30は、増幅回路31、絶対値回路32、ローパスフィルタ(LPF)33、I/V変換回路34、絶対値回路35、LPF36、制御手段37、表示器38、を備えている。また、記憶手段を、制御手段37の内部または図示しない領域に備えている。具体的には、制御手段37は、マイクロプロセッサ、インターフェイス回路、メモリ、及びこれらを作動させるプログラム(以上、図示せず)等により構成することができる。
【0027】
増幅回路31は、コイル21の両端である点Aと点Bに接続されている。点Aと点Bとの間の電位差の信号は増幅回路31に入力され、増幅される。この増幅された信号は、絶対値回路32により全波整流された後、LPF33により直流に変換される。この変換された信号は制御手段37に入力される。
【0028】
I/V変換回路34は、コイル21の他端側(点B)に接続されている。コイル21を流れた電流の電流値を示す信号はI/V変換回路34に入力され、電位差を示す信号に変換される。そして、絶対値回路35により全波整流された後、LPF36により直流に変換される。この変換された信号は制御手段37に入力される。
【0029】
制御手段37は、周波数可変回路12、LPF33、及びLPF36に接続されており、コイル21に印加した交流電流の周波数と、この周波数に対するLPF33、36を通過した信号がそれぞれ入力される。入力されたこれらの信号に基づいて演算を行い、演算結果により被検体の表面特性の評価を行う。なお、交流電流の周波数の変更は手動で行ってもよく、制御手段37に周波数を連続的に変更する信号を周波数可変回路12に出力させる機能を持たせて自動で周波数の変更を行ってもよい。本実施形態では、後者とした。
【0030】
表示器38は、制御手段37による評価結果の表示または警告を行う。
【0031】
次に、コイル21について説明する。コイル21は、導通性のある線材を巻回して円筒状に形成されている。この線材は、単一の導線を用いてもよいが、複数本の細い導線を束ねて一本の線のように形成された物を用いてもよい。後者の場合、複数本の細い導線を縒り合せて形成してもよいし、複数本の細い導線を編み込んで一本の線のように形成してもよい。また、複数本の細い導線を編み込んで一本の線のように形成した後、これをねじることで細い一本の線のように形成してもよい。複数本の細い導線を束ねて一本の線のように形成したものをコイル21の線材として用いることで、コイル21の共振周波数を高くすることができる。
【0032】
また、コイル21は中空の円筒形状のコアに線材を巻回した構成(有芯コイル)としてもよいが、本実施形態では、コアを持たない構成(空芯コイル)とした。
【0033】
本実施形態のコイル21の制作方法は、まず、数百本のエナメル銅線を編み込みツイストした線材を、樹脂製の円筒に巻回した。この後、巻回した線材をエポキシ樹脂で接着した後、円筒を取り外すことで制作した。
【0034】
コイル21のその他の制作方法として、例えば、熱硬化性樹脂で被覆した線材を用いてこの線材を巻回した後、熱風や乾燥炉等で加熱して線材をコイル状の形状を保つように固定する方法がある。このように、線材がコイル状の形状を保つことができれば、その制作方法は特に限定されない。
【0035】
コイル21に交流電流を印加することで励起された交流磁気を被検体に浸透させることで、被検体には渦電流が発生する。渦電流により、交流磁気に対する反磁界が生じて、交流磁気の浸透する深さが変化する。この反磁界と交流磁気とを合わせた磁束の大きさは、表面改質処理の程度を示す残留応力の大きさにより異なる。よって、コイル21を流れる電流の電気特性を評価することで、表面改質処理の程度を評価することができる。この場合、被検体の表面特性を精度よく評価するためには、反磁界をより精度よく捉える必要がある。その為、本実施形態のコイル21は、共振周波数が使用周波数帯域以上となるように、線材を巻回する回数を調整した。表面改質処理によって改質される表面からの深さ(影響層)は、概ね10〜1000μmである。この場合、使用周波数帯域を0.5×10
3Hz〜20×10
6Hzとし、コイル21の自己共振周波数を10MHz以上(好ましくは周波数可変回路12によって設定される使用周波数帯の1.5倍以上)としてもよい。また、表面改質処理としてショットピーニング処理を選択した場合の影響層は概ね10〜300μmであるので、使用周波数帯域を1×10
3Hz〜20×10
6Hzとし、コイル21の共振周波数を10MHz以上(好ましくは周波数可変回路12によって設定される使用周波数帯の1.5倍以上)としてもよい。
【0036】
コイル21に励起された交流磁気を被検体の内部に浸透できるようにコイル21が被検体に近接できればよく、検出器20の形状は特に限定されない。本実施形態の検出器20は円筒形状とし、中心部に被検体を挿入して配置できる構成とした。即ち、コイルの中心部に被検体を挿入して配置することで、コイル21が被検体の側周面を包囲できる構成とした。この構成では、材料に起因する被検体内部の深さ方向に直行する方向のバラツキを軽減することができるので、評価精度を向上させることができる。また、被検体の側周面、即ち評価対象面の全体に渦電流を透過させることができるので、評価対象面の全体を一度の測定で評価することができる。
【0037】
次に、本実施形態の表面特性評価装置1を用いて、被検体の表面特性を評価する方法について説明する。以下では、表面改質処理としてショットピーニング処理(以降、SP処理と記載)を選択し、表面改質処理の程度としてSP処理を施した鋼材の圧縮残留応力を評価した場合について説明する。
【0038】
S01:準備工程
表面改質処理を行っていない被検体(未処理品)を準備する。本実施形態では、φ40mm×30mmのクロムモリブデン鋼(JIS G4053に規定されるSCM420H)を、浸炭焼き入れしたものを準備した。
【0039】
S02:測定工程(未処理品)
第1の被検体配置工程として、未処理品を検出器20にセットする。ここでは、未処理品をコイル21の円形断面中心で、且つ未処理品全体がコイル21の内部に位置するようにセットする。
【0040】
次いで、第1の渦電流生成工程として、制御手段37より交流電源11より出力される交流電流の周波数を制御する信号を周波数可変回路12に出力すると共に、交流電源11を作動させる。交流電源11の作動により、コイル21には交流磁気が励起される(
図2を参照)。コイル21の内周側には未処理品がセットされているので、この交流磁気が未処理品に浸透する。交流磁気の浸透により被検体の表面には渦電流が発生するので、交流電流がコイルに流れる際のコイルの電気特性を示す信号(コイル間(A−B間)の電位差を示す信号及びコイルを流れた後の電流値を示す信号)が変化する。これらの信号から、制御手段37によりその周波数におけるインピーダンスZ
0を算出する。
また、交流磁気が未処理品に浸透する深さは、交流電流の周波数に依存する。従って、第1の周波数変更工程として、交流電源11より出力する交流電流の周波数を制御手段37により変化させる。交流電流の周波数を変化させながら、第1の検出工程として、各々の周波数毎に交流電流の電気的特性を示す信号を検出し、この信号からコイル21のインピーダンスZ
0を演算して記憶手段に記憶する。
【0041】
S03:表面改質処理工程
未処理品を検出器20より取り出した後、表面改質処理を行う。
【0042】
S04:測定工程(表面改質処理品)
未処理品に対して表面改質処理を行った鋼材(表面改質処理品)を、第2の被検体配置工程として、検出器20にセットし、工程S02と同様な、第2の渦電流生成工程、第2の周波数変更工程、及び第2の検出工程を実行する。これにより、表面改質処理品を被検体とした場合の周波数毎のコイル21のインピーダンスZ
1を演算する。第2の周波数変更工程における周波数は工程S02と同じ周波数とする。
【0043】
S05:判断工程(評価工程)
工程S02にて演算されたインピーダンスZ
0(未処理品)に対する工程S04にて演算されたインピーダンスZ
1(表面改質処理品)の比(Z
1/Z
0)を、制御手段37によって周波数毎に演算する。表面特性の評価としてインピーダンスの比を用いることで、測定環境の変化(温度や湿度等)による電圧のドリフトを軽減することができる。また、表面改質処理による被検体の電磁気特性変化のみを抽出できるので、表面特性の評価の精度が向上する。
また、周波数は被検体の表面からの深さに相当するので、この演算により被検体の表面からの深さに対する表面改質処理の程度(圧縮残留応力)の分布が得られる。
【0044】
この分布と、予め記憶手段に記憶された閾値と、を制御手段37によって比較することで、表面改質処理の良否を判定する。
【0045】
S06:出力工程
表面改質処理の良否の判定結果を、表示器38に出力する。表示器38では、良否結果のみ表示してもよいし、否と判定した際に警告音を発するようにしてもよい。または、横軸に周波数(若しくは被検体の表面からの深さ)、縦軸にインピーダンスの比をプロットしたグラフを表示してもよい。後者の場合、被検体の表面からの深さを算出してもよい。周波数と鋼材表面からの深さとの関係は、(数1)より周波数と鋼材表面からの深さとの関係を示す検量線を作成し、この検量線から算出することができる。(数1)における補正係数kは、被検体の形状(例えば被検体の体積)や性状(例えば、前段階としての熱処理の有無)やSP処理の条件(例えば、ショットの粒子径、硬度、噴射時間、噴射圧力)等の影響を受けて変動する値であり、実験により予め算出される。
【0047】
以上の工程により、被検体の表面からの深さ方向の分布を考慮した表面改質処理の程度の評価を行うことができる。
【0048】
複数の鋼材について評価を行う場合、2回目以降の測定で用いる未処理品のインピーダンスZ
0は、1回目の測定(工程S02で実行された第1の被検体配置工程、第1の渦電流生成工程、第1の周波数変更工程、及び第1の検出工程)で算出したインピーダンスZ
0を用いてもよい。即ち、2回目以降の測定では、SP処理を施した鋼材に対して工程S04〜S06のみを行えばよい。
【0049】
次に、本実施形態の表面特性評価装置1を用いて、鋼材の表面特性を評価した結果を示す。
【0050】
前述の、浸炭焼き入れを行ったクロムモリブデン鋼(φ40mm×30mm)に向かって、平均粒子径50μm〜1000μmのショット(いずれも新東工業株式会社製)をショットピーニング機(新東工業株式会社製)にて、0.3MPaの噴射圧力でカバレージが300%となるように噴射してSP処理を行った(表1参照)。このSP処理を施したクロムモリブデン鋼を被検体とした。
【0052】
コイル21は、自己共振周波数が、900kHz、2.2MHz、30MHzの3種類を用いた。
【0053】
交流電流の周波数(使用周波数)は、10kHz〜20MHzに設定した。
【0054】
結果を
図4に示す。コイル21の自己共振周波数が900kHzであり、使用周波数未満である
図4(A)、及び自己共振周波数が2.2MHzであり、使用周波数未満である
図4(B)の場合、被検体A〜Dのいずれにおいても、周波数に対するインピーダンスの比の分布の曲線に連続性がないことが判る。不連続となった値は、コイル21を電気等価回路に置き換えた場合におけるインダクタ成分及びコンダクタ成分に該当する成分を検出している。
一方、コイル21の自己共振周波数が30MHzであり、使用周波数以上である
図4(C)の場合、被検体A〜Dのいずれにおいても、周波数に対するインピーダンスの比の分布の曲線に連続性があることが判る。
従って、コイル21の自己共振周波数が使用周波数以上であると、被検体の表面改質処理の程度を良好に評価できることが判る。
【0055】
(変更例1)
別の実施形態の表面特性評価装置2を
図5に示す。本実施形態の表面特性評価装置2は、一実施形態の表面特性評価装置2における計測器30は、増幅回路31、A/D変換回路39a、I/V変換回路34、A/D変換回路39b、制御手段37、表示器38を備えている。また、制御手段37には、記憶手段37aが内蔵されている。なお、記憶手段37aは、制御手段37の外部に設けられていても良い。また、発振器10及び検出器20の構成は、上述した一実施形態と同様であるため説明を省略し、ここでは、一実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0056】
増幅回路31は、コイル21の両端である点Aと点Bに接続されている。点Aと点Bとの間の電位差の信号は増幅回路31に入力され、増幅される。この増幅された信号は、A/D変換回路39aによりアナログ電圧の信号からデジタル信号に変換される。この変換されたデジタル信号は制御手段37に入力される。
【0057】
I/V変換回路34は、コイル21の他端側(点B)に接続されている。コイル21を流れた電流の電流値を示す信号はI/V変換回路34に入力され、アナログ電圧の信号に変換される。I/V変換回路34より出力されたアナログ電圧の信号は、A/D変換回路39bによりデジタル信号に変換され、制御手段37に入力される。
【0058】
制御手段37では、A/D変換回路39a、39bから夫々入力されたデジタル信号がデジタル信号処理により加工される。即ち、増幅回路31及びI/V変換回路34から入力された各デジタル信号は交流的に変動する時系列信号であるが、上述した一実施形態における絶対値回路32、35及びLPF33、36(
図1)と等価なデジタル演算により、直流的なデジタル信号に変換される。これにより、各A/D変換回路39a、39bに入力されたアナログ電圧の交流信号は、制御手段37の中で、交流信号の振幅に比例したデジタル値に変換される。そして、これらのデジタル値に基づいてインピーダンスが算出される。
【0059】
本実施形態の表面特性評価装置2は、信号の演算がデジタル信号処理により行われるので、よりノイズの影響を受けにくい構成となる。従って、ノイズが発生しやすい環境で評価する場合であっても、より精度の高い評価を行うことができる。
【0060】
(変更例2)
別の実施形態の表面特性評価装置3を
図6に示す。本実施形態の表面特性評価装置3においては、一実施形態の表面特性評価装置1(
図1)の計測器30に、位相検波回路301、絶対値回路302、及びLPF303が、新たに加えられている。また、発振器10及び検出器20の構成は、上述した一実施形態と同様であるため説明を省略し、ここでは、計測器30に新たに加えられた構成を中心に説明する。
【0061】
位相検波回路301は、交流電源11及びコイル21の他端側(点B)に接続されている。交流電源11により印加された電圧に対するコイル21を流れる電流の位相差を示す信号が位相検波回路301より出力され、絶対値回路302により全波整流された後、LPF303により直流に変換される。この変換された信号は制御手段37に入力される。即ち、コイル21に印加された電圧と、コイル21を流れた電流の位相差に比例した電圧信号が制御手段37に入力される。
【0062】
制御手段37では、測定工程S02(
図3)において、未処理品を被検体とした場合のインピーダンスZ
0が算出される。また、LPF303より入力された信号により、未処理品を被検体とした場合の位相差α
0が算出される。算出されたインピーダンスZ
0及び位相差α
0より、誘導リアクタンスX
0をX
0=Z
0×sinα
0の式により周波数毎に算出する。また、測定工程S04(
図3)において、表面改質処理品を被検体とした場合のインピーダンスZ
1及び位相差α
1を同様に算出し、誘導リアクタンスX
1を周波数毎に算出する。
【0063】
判断工程S05(
図3)では、先述の誘導リアクタンスX
0(未処理品)に対する誘導リアクタンスX
1(表面改質処理品)の比(X
1/X
0)を、制御手段37によって周波数毎に演算する。表面特性の評価として誘導リアクタンスの比を用いることで、被検体の透磁率のみを評価することができる。インピーダンスに比べ誘導リアクタンスは値が小さいが、電気特性の変化に対する感度が優れている。特に精密な評価が必要な場合、誘導リアクタンスの比で評価を行うことで、より精度の高い評価を行うことができる。
【0064】
なお、誘導リアクタンスは本実施形態のようなアナログ信号処理によって算出してもよいし、
図5の回路を用い制御手段37におけるデジタル信号処理にて算出してもよい。この場合、
図6の回路における位相検波回路301、絶対値回路302、LPF303と等価なデジタル演算を制御手段37の内部で実行し、求められた位相差(α
0、α
1)に基づいて誘導リアクタンス(X
0、X
1)を演算する。即ち、制御手段37においては、下記a〜cの演算が行われる。
a)コイル両端の間の電圧をA/D変換回路39aによりA/D変換したデジタル信号と、コイルを流れる電流の信号をA/D変換回路39bによりA/D変換したデジタル信号の位相差(α
0、α
1)を、制御手段37により算出する。
b)A/D変換回路39a、39bを介して入力された各デジタル信号から、
図5に基づいて説明した演算によりインピーダンス(Z
0、Z
1)を算出する。
c)上記a、bで算出された「位相差」及び「インピーダンス」を用いて、誘導リアクダンス(X
0、X
1)を算出する。