【実施例】
【0049】
[実施例1]
1.ブレオマイシンにより誘発される肺線維症に対する作用の検討
ブレオマイシンは、間質性肺炎の疾患モデル動物を作製するために利用されている。このブレオマイシンを生後10週齢の雄SDラットに投与すると共に、本発明の上述の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体として2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル(HTHQ)を投与し、その作用効果を調べた。試験群の構成は、対照群:滅菌生理食塩水を投与、試験群1:ブレオマイシン(7.5mg/kg体重)を単独投与、試験群2:ブレオマイシン(7.5mg/kg体重)及びHTHQ(50mg/kg体重/日)を併用投与、試験群3:ブレオマイシン(7.5mg/kg体重)及びHTHQ(200mg/kg体重/日)を併用投与、とした。
【0050】
試験群1〜3について、ブレオマイシンの投与は単回とし、投与は経口にて行った。また、試験群2及び3について、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル(HTHQ)の投与はブレオマイシンの投与24時間後から行い、10日間又は20日間に亘り、毎日経口投与することによって行った。また、試験群1については、ブレオマイシン投与24時間後から、HTHQの溶媒として用いたオリーブ油を10mL/kg/日となるように毎日経口投与した。各群の動物数は1群当たり16頭とした。ブレオマイシン投与10日目及び投与20日目に各群について8頭ずつ屠殺し、体重測定、肺剖検、肺の病理組織検査及び気管支肺胞洗浄検査を行った。
【0051】
<体重及び肺相対重量>
対照群のラットの体重は試験期間中経時的に増加した。他方、ブレオマイシンを投与した試験群1〜3は試験期間中、徐々に体重が減少していた。次に、肺相対重量の結果を
図1に示す。肺の間質組織は線維化することにより重量が増加し、肺相対重量が増大する傾向を示す。グラフ中の数字は、対応する試験群を示しており、バー上に記載された##は、対照群と比較したときのp値がp<0.01であることを示し、*は、試験群1と比較したときのp値がp<0.05であることを示している。
図1に示すように、ブレオマイシンを投与した試験群1〜3の肺相対重量は、対照群に比べて有意に増加した(p<0.01)。しかし、投与後20日における肺相対重量についてみると、HTHQを投与した試験群2及び3の肺相対重量は、ブレオマイシン単独投与群(試験群1)に比べ有意に低かった(p<0.05)。これにより、HTHQを投与した試験群2及び3のラットは、試験群1のラットよりも肺の線維化が進行していないことが推測された。
【0052】
<肺の肉眼的所見>
肺の剖検を行い、肉眼的所見を観察した結果、試験群1(ブレオマイシン単独投与群)の投与20日目のラットの肺では、肺門部を中心に境界明瞭な結節が観察されたほか、暗赤色及び淡赤色の出血班点が多数観察され、肺表面は陥没していた。一方、HTHQを投与した試験群2及び試験群3のラットの肺にはこのような病変が軽減されていた。
【0053】
<肺の病理組織検査所見>
試験群1(ブレオマイシン単独投与群)の投与10日後のラットの主な肺病変としては、気管支及び細気管支周囲の肺胞拡大、肺胞壁の肥厚、肺胞壁と間質組織における単核球とリンパ球の浸潤、肺胞腔内に肺胞マクロファージの滲出が観察された。試験群2及び3(HTHQ投与群)のラットでは、これらの所見は試験群1の組織に比べ軽減されていた。さらに、試験群1では、核小体が明確ではない大きな核を持つ肺胞上皮の異型(Atypia)が認められ、肺胞の形態がまだ維持されている部位の肺胞腔内には泡沫状の肺胞マクロファージが観察される等、肺の線維化が進行していることがわかった。
【0054】
ブレオマイシン投与20日目の対照群及び各試験群の肺の病理組織検査結果を以下表1に示す。重症度スコアは、「−」はなし、「+」は軽度、「++」は中等度、「+++」は重篤を示している。試験群1(ブレオマイシン単独投与群)の所見では、投与10日目の組織よりも、気管支の周囲及び隣接する肺胞壁の肥厚と線維化が顕著となり、リンパ球及び好中球の浸潤によって肺胞の形態は殆ど消失した。また、肺胞腔内に浸潤した肺胞マクロファージは周囲組織によって埋没していた。他方、HTHQ投与群である試験群2及び3では、肺胞の形態を見ることができる部位の肺胞腔内において、空胞を含む肺胞マクロファージ、細気管支周囲における細胞浸潤及び肺胞壁の肥厚が認められたが、その程度はブレオマイシン単独投与群である試験群1と比べると、いずれも軽度であった。
【0055】
【表1】
【0056】
<気管支肺胞洗浄(BAL)検査>
対照群及び各試験群のラットについて、気管支肺胞洗浄(BAL)検査を行った。気管支肺胞洗浄液内の総細胞数の測定結果を
図2に示す。間質性肺炎に罹患すると炎症細胞浸潤が起こり、BAL液中の総細胞数が増加する。ブレオマイシン投与後10日の総細胞数についてみると、対照群は2×10
5個、試験群1(ブレオマイシン単独投与群)は9×10
5個、試験群2(低用量HTHQ投与群、50mg/kg体重)は6.5×10
5個、試験群3(高用量HTHQ投与群、200mg/kg体重)は10.5×10
5個であり、ブレオマイシン投与10日目には、HTHQ投与による効果は認められなかった。しかし、ブレオマイシン投与20日後には、ブレオマイシン単独投与群の総細胞数は12.8×10
5個、低用量HTHQ投与群は7.9×10
5個、高用量HTHQ投与群は3.8×10
5個と減少した。これにより、HTHQは用量依存的に肺細胞の滲出を抑制することがわかった。
【0057】
また、気管支肺胞洗浄液内の肺胞マクロファージ数の測定結果を
図3に示す。間質性肺炎に罹患すると間質組織への肺胞マクロファージの浸潤がおこり、BAL液中の肺胞マクロファージ数が増加する。ブレオマイシン投与後10日の肺胞マクロファージ数についてみると、対照群は1.45×10
5個、試験群1(ブレオマイシン単独投与群)は4.5×10
5個、試験群2(低用量HTHQ投与群)は1.99×10
5個、試験群3(高用量HTHQ投与群)は3.24×10
5個であり、ブレオマイシン投与10日目においてはHTHQ投与による効果は認められなかった。しかし、投与20日目には、ブレオマイシン単独投与群の肺胞マクロファージ数は5.5×10
5個であるのに対し、低用量HTHQ投与群は3×10
5個、そして、高容量HTHQ投与群は2×10
5個と低減した。これにより、HTHQは用量依存的に肺胞マクロファージの滲出を抑制することがわかった。
【0058】
さらに、気管支肺胞洗浄液内の好中球数の測定結果を
図4に示す。間質性肺炎に罹患すると間質組織への好中球の炎症細胞浸潤がおこり、BAL液中の好中球数が増加する。ブレオマイシン投与後10日目の好中球数についてみると、対照群は1.04×10
4個、試験群1(ブレオマイシン単独投与群)は2.28×10
5個、試験群2(低用量HTHQ投与群)は1.44×10
5個、試験群3(高用量HTHQ投与群)は5.83×10
5個であり、ブレオマイシン投与10日目においてはHTHQの効果は認められなかった。しかし、投与後20日目には、ブレオマイシン単独投与群が4.97×10
5個であるのに対し、低用量HTHQ投与群は4.34×10
5個、そして、高用量HTHQ投与群は1.49×10
5個と顕著に減少した。このことから、HTHQを高用量で投与することによって、好中球数を顕著に減少させることができることがわかった。
【0059】
続いて、気管支肺胞洗浄液内のリンパ球数の測定結果を
図5に示す。間質性肺炎に罹患すると間質組織へのリンパ球の炎症細胞浸潤がおこり、BAL液中のリンパ球数が増加する。ブレオマイシン投与10日目のリンパ球数についてみると、対照群は4.42×10
4個、試験群1(ブレオマイシン単独投与群)は2.72×10
5個、試験群2(低用量HTHQ投与群)は3.07×10
5個、試験群3(高用量HTHQ投与群)は1.43×10
5個であり、投与10日目の段階ではHTHQ投与の効果は認められなかった。しかし、投与後20日目にはブレオマイシン単独投与群は2.09×10
5個であるのに対し、低用量HTHQ投与群は0.53×10
5個、高用量HTHQ投与群は0.3×10
5個と顕著に減少し、HTHQはリンパ球の滲出を用量依存的に抑制することがわかった。
【0060】
これらの病理組織検査及び気管支肺胞洗浄検査等の結果から、本発明の上述の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体は、ブレオマイシンが誘発する肺の線維化を効果的に抑制し、間質性肺炎を予防又は治療する効果があることがわかった。
【0061】
[実施例2]
2.タバコの煙により誘発される肺の炎症に対する作用の検討
体重20〜25gの6週齢 SPF C57BL/6N 雄マウスをコアテック株式会社(韓国)より購入した。約1週間の検疫及び適応期間を経たのち、マウスを以下表2に示す5つの群に分けた。
【0062】
【表2】
【0063】
試験は次のようにして行った。試験群のうち、COPD(慢性閉塞性肺疾患)モデル群については、1日のうち1時間タバコの煙(8本のタバコ/day)に暴露させることを10日間行い、試験開始から8日目にLPS(5μg/50μL/マウス)を鼻腔内に投与した。陽性対照物質投与群については、陽性対照物質であるロフルミラストを経口で10mg/kg体重/day投与してから1時間後にタバコの煙に1時間暴露させることを10日間行った。また、試験開始から8日目にLPS(5μg/50μL/マウス)を鼻腔内に投与した。ここで、ロフルミラストとは選択的ホスフォジエステラーゼ4阻害剤であり、COPD及び喘息の治療薬として用いられている物質(欧州、米国にて承認、日本では未承認)である。他方、HTHQ投与群についても、
図6に示すように、試験物質である2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル(HTHQ)を経口で低用量群は10mg/kg体重/day、高用量群は20mg/kg体重/dayをそれぞれ投与してから1時間後にタバコの煙に1時間暴露させることを10日間行った。また、8日目にLPS(5μg/50μL/マウス)を鼻腔内に投与した。すべての動物は11日目に安楽死させ、気管支肺胞洗浄(BAL)検査及び肺の病理組織検査を実施した。実験期間中は、正常対照群及び試験群の各マウスには滅菌した水道水とげっ歯類用標準飼料を与えた。全ての実験手続きは韓国生命工学研究院のIACUC承認を受けた後に行った。
【0064】
<気管支肺胞洗浄(BAL)検査>
各試験群のマウスについてはLPS投与72時間後、正常対照群のマウスについては試験開始11日目に、ペントバルビタール(ハンリム製薬、韓国)を腹腔内に50mg/kg注射して安楽死させた後、気管支を切除した。気管支肺胞洗浄液(BAL液)を採取するため、氷冷した700μLのPBSを肺に注入した後、これを回収することを2回実施し、1.4mLのBAL液を採取した。採取したBAL液を4℃、1500rpm×5分の条件にて遠心分離した。後で炎症性サイトカイン分析(TNF−α及びIL−6)を行うために上清を採取し、−70℃の超低温槽に保管した。他方、遠心分離により沈殿した細胞に1mLのPBSを注入し、軽くたたいて懸濁させ、BAL細胞液とした。サイトスピン(4℃、1000rpm×5分)を利用して、BAL細胞液100μLからスライド標本を作った後、ディフ・クイック染色キットを利用して、BAL液内に存在する炎症細胞(好中球、マクロファージ)の細胞数をカウントした。結果を
図7に示す。
図7に示すように、タバコの煙によって誘発されたCOPDモデル群には炎症細胞の浸潤が認められた。他方、HTHQ投与群のマウスは、COPDモデル群と比べて炎症細胞の浸潤が効果的に減少していた。HTHQの投与用量による効能の差は観察されず、陽性対照物質であるロフルミラスト(ROF)投与群とも同程度の効能を示した。
【0065】
次に、BAL細胞液中の活性酸素(ROS)量を測定した。BAL細胞液が5×10
3/100μL/ウェルとなるように96ウェルプレートの各ウェルにBAL細胞液を入れた後、ROS指示薬として20mMのDCF−DAを各ウェルに10μLずつ添加し、30分間振とうした。蛍光プレート分析機(パーキンエルマー社製品)にて、励起485nm/蛍光530nmの波長にて細胞内の活性酸素(ROS)量を測定した。結果を
図8に示す。
図8に示すように、タバコの煙によって誘発されたCOPDモデル群には高い活性酸素の生成が認められた。他方、HTHQ投与群のマウスは、COPD群と比べて活性酸素が効果的に減少しており、陽性対照物質(ロフルミラスト、ROF)投与群との比較では、おおむね同様の効能を示した。
【0066】
また、保管していたBAL液の上清を超低温槽から取り出し、上清内の炎症性サイトカイン量として、TNF−α及びIL−6の量を測定した。測定には、定量ELISAキット(インビトロジェン社製品)及びELISA分析機(モレキュラーデバイス社製品)を用い、測定波長は450nmとした。TNF−α量の結果を
図9に、IL−6量の結果を
図10に示す。
図9に示すように、COPDモデル群のBAL液にはTNF−αが高いレベルで含まれることがわかった。他方、HTHQ投与群については、COPDモデル群と比べるとTNF−α量が効果的に減少しており、陽性対照物質(ロフルミラスト、ROF)投与群との比較では、陽性対象物質とおおむね同様の効能を示した。また、IL−6については、
図10に示すように、COPDモデル群のBAL液にはIL−6が非常に高いレベルで含まれていた。HTHQ投与群については、COPDモデル群と比べるとIL−6量が顕著に減少しており、ROF(ロフルミラスト)との比較では同様の効能を示すことがわかった。
【0067】
<肺の病理組織検査>
正常対照群及び各試験群のマウスについて、気管支肺胞洗浄液(BAL液)を採取した後、気管支周辺の肺組織を10%中性ホルマリン液で固定した。肺組織をパラフィンで包埋した後、4μmの厚さにスライスし、ヘマトキシリン・エオジン染色して観察を行った。正常対照群(写真中「NC」)及び各試験群の気道周辺の肺組織の写真を
図11に示す。
図11の各写真において、炎症細胞の浸潤が生じている部分(HE染色により濃色に染色された部分)を矢印で示す。
図11の写真に示すように、タバコの煙によって誘発されたCOPDモデル群(写真中、「COPD」)には広範囲に多数の炎症細胞の浸潤が認められた。他方、HTHQ投与群(写真中、「HTHQ10」及び「HTHQ20」)は、COPDモデル群と比べ、用量依存的に炎症細胞の浸潤が著しく減少していた。また、陽性対照物質として使用されたロフルミラスト投与群(写真中、「ROF」)との比較では、同様の効能を示した。
【0068】
これらの気管支肺胞洗浄検査及び病理組織検査の結果から、本発明の上述の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体は、タバコの煙が誘発する肺組織の炎症、すなわち、COPDの進行を効果的に抑制し、COPDを予防又は治療する効果があることがわかった。また、本実施例において、本発明のハイドロキノン誘導体は、陽性対照物質として用いたロフルミラストと同様の効能を示したことから、COPDの予防及び治療に有効であることが示された。
【0069】
[実施例3]
3.喘息に対する作用の検討
卵白アルブミン感作によるマウスにおけるアレルギー性喘息モデルを用い、本発明の上述の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体の喘息に対する有効性を検討した。
【0070】
6週齢のBALB/c 雌マウスを購入し、約2週間の馴化飼育を経た後、マウスを以下表3に示す5つの群に5匹ずつ配した。
【0071】
【表3】
【0072】
試験は
図12に示す感作、惹起及び被験物質の投与スケジュールで行った。
図12における「IP」とは卵白アルブミン/水酸化アルミニウム腹腔内投与による卵白アルブミン感作処置を示し、「IH」とは卵白アルブミンの吸入暴露処置を示し、「PO」とは各被験物質の投与を示している。具体的には、正常対照群を除く4群のすべてのマウスに対し、卵白アルブミン20μg及びアジュバントとして水酸化アルミニウム2mgを加えて乳化させたPBS(pH7.4)200μLを腹腔内投与した(初回感作、試験1日目)。次いで2週間後(試験14日目)に初回感作と同様の方法で2回目の感作処置を行った。さらに、試験21〜23日目に、超音波ネブライザーを用いて、マウスに卵白アルブミン1%含有PBSを各日1時間ずつ吸入暴露させた。他方、試験18〜23日目に被験物質の経口投与を各日行った。具体的には、正常対照群にはPBSを、卵白アルブミン感作対照群には後述するHTHQの溶媒に用いた3%Tween80含有生理食塩水を経口投与し、陽性対照物質投与群にはPBSに溶かしたモンテルカスト(シグマアルドリッチ社製品)を30mg/kg体重/dayで経口投与した。ここで、モンテルカストとは、ロイコトリエン受容体拮抗剤であり、気管支喘息の治療薬として用いられている物質である。また、HTHQ投与群については、試験物質である2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル(HTHQ)を3%Tween80に溶かし、低用量群は20mg/kg体重/day、高用量群は40mg/kg体重/dayでそれぞれ経口投与した。試験25日目に、すべてのマウスの眼窩静脈叢から血液をそれぞれ採取し、その後安楽死させ、気管支肺胞洗浄(BAL)検査及び血清中の総IgE含量および卵白アルブミン特異的IgE含量の測定を行った。
【0073】
<気管支肺胞洗浄(BAL)検査>
すべてのマウスについて、試験25日目にペントバルビタール(ハンリム製薬、韓国)を50mg/kg腹腔内注射して安楽死させ、気管支を切除した。気管支肺胞洗浄液(BAL液)を採取するため、氷冷した700μLのPBSを肺に注入した後、これを回収することを2回実施し、1.4mLのBAL液を採取した。採取したBAL液を4℃、1500rpm×5分の条件にて遠心分離した。後で炎症性サイトカインの分析を行うために上清を採取し、−70℃の超低温槽に保管した。遠心分離により沈殿した細胞に1mLのPBSを注入し、軽くたたいて懸濁させ、BAL細胞液とした。サイトスピン(4℃、1000rpm×5分)を利用して、BAL細胞液100μLからスライド標本を作った後、ディフ・クイック染色キットを利用して、BAL液内に存在する炎症細胞(好酸球、マクロファージ、リンパ球、好中球)の細胞数をカウントした。結果を
図13に示す。
図13のグラフのバー上に記載された#は、正常対照群と比較したときのp値がp<0.01であることを示し、**は、卵白アルブミン感作対照群と比較したときのp値がp<0.01であることを示している。
図13に示すように、卵白アルブミンの腹腔内投与により感作され、卵白アルブミンの吸入によりアレルギー性喘息が惹起された卵白アルブミン感作対照群「OVA」は、正常対照群「NC」と比べて好酸球、マクロファージおよび炎症細胞の総数が増加していた。これに対し、HTHQ投与群では上述した炎症細胞数が有意に、かつ、HTHQの用量依存的に減少しており、その炎症細胞数の抑制作用は気管支喘息の治療薬として使用されている、陽性対照物質のモンテルカスト(陽性対照物質投与群「Mon」参照)に匹敵するものであることがわかった。
【0074】
また、保管していたBAL液の上清を超低温槽から取り出し、BAL液上清中の炎症性サイトカイン含量として、IL−4、IL−5およびIL−13の量を測定した。測定には、定量ELISAキット(R&Dシステム社製品)とマイクロプレートリーダー(バイオラッド社製品)を用い、測定波長は450nmとした。IL−4の結果を
図14に、IL−5の結果を
図15に、IL−13の結果を
図16に示す。
図14〜
図16のグラフのバー上に記載された#は、正常対照群と比較したときのp値がp<0.01であることを示し、*は、卵白アルブミン感作対照群と比較したときのp値がp<0.05であることを示し、**は、卵白アルブミン感作対照群と比較したときのp値がp<0.01であることを示している。
図14〜
図16に示すように、卵白アルブミン感作対照群「OVA」のBAL液は、正常対照群「NC」と比べて、IL−4、IL−5およびIL−13の含有量が顕著に増加していた。これに対し、HTHQ投与群では、これらのサイトカイン量が卵白アルブミン感作対照群「OVA」と比べて有意に減少することが示され、陽性対照物質投与群「Mon」でも同様に有意な減少が認められた。
【0075】
<血清中の総IgE含量および卵白アルブミン特異的IgE含量>
試験25日目にマウスの眼窩静脈叢から採取した血液を用い、血清中の総IgEおよび卵白アルブミン特異的IgE含量を測定した。測定には、IgE測定用ELISAキット(バイオレジェンド社製品)を用い、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社製品)を用いて波長450nmにて測定した。血清中の総IgE含量の結果を
図17に、血清中の卵白アルブミン特異的IgE含量を
図18に示す。
図17及び
図18のグラフのバー上に記載された#は、正常対照群と比較したときのp値がp<0.01であることを示し、*は、卵白アルブミン感作対照群と比較したときのp値がp<0.05であることを示している。
図17及び
図18に示すように、卵白アルブミン感作対照群「OVA」では血清中の総IgE量および卵白アルブミン特異的IgE量が、正常対照群「NC」と比べて明らかに増加した。これに対し、HTHQ投与群では、
図17に示す総IgE量では、HTHQの20mg/kg体重/day投与群「HTHQ20」で有意な減少が認められ、HTHQの40mg/kg体重/day投与群「HTHQ40」でも減少傾向が見られた。他方、
図18に示す卵白アルブミン特異的IgE量ではHTHQ投与による有意差は認められなかったが、減少傾向が見られた。
【0076】
以上の結果から、HTHQは、気管支喘息治療薬としてすでに臨床で使用されているロイコトリエン受容体拮抗薬であるモンテルカストに匹敵する作用を有すること、すなわち、アレルギー反応に基づく気道の炎症を有効に抑制する作用を有することが認められた。よって、本発明の上述の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体は、気管支喘息の治療に有効であることが示された。
【0077】
[実施例4]
4.喀痰排出作用の検討
8週齢の雄ICRマウスに本発明のハイドロキノン誘導体を単回経口投与し、Englerらによる方法(Engler H、Szelenyi I、J.Pharmacol.Moth.11、151〜157、1984)に準じて、喀痰の排出作用を評価した。まず、8週齢のICR雄マウスを以下表4に示す5つの群に8匹ずつ配した。
【0078】
【表4】
【0079】
具体的に、試験は次のようにして行った。対照群及び各試験群のマウスに被験物質を経口投与した。すなわち、陰性対照群には2%アラビアゴム水溶液を投与し、HTHQ投与群には、試験物質である2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル(HTHQ)を100mg/kg体重、200mg/kg体重、400mg/kg体重でそれぞれ経口投与した。また、Ambroxol投与群にはアンブロキソール(シグマアルドリッチ社製品)を250mg/kg体重で経口投与した。ここで、アンブロキソールとは、去痰作用を有する物質であり、陽性対照物質として選択している。被験物質の経口投与30分後に、フェノールレッド(シグマアルドリッチ社製品)を0.05g/mLの濃度で溶かした生理食塩水を15 mL/kg腹腔内投与した。そして、フェノールレッドの投与30分後に、二酸化炭素吸入によりマウスを安楽死させ、気管をそれぞれ摘出した。摘出された気管の所定の部位を一定の大きさに切って気管片を得た。得られた気管片を各々遠心チューブに入れ、1mLの生理食塩水を添加し、超音波洗浄機を用いて15分間超音波処理を実施した。10000rpmで5分間遠心分離した後、上層液0.5mLを遠心チューブに分注し、0.05mLの1N水酸化ナトリウムを添加した。ボルテックスミキサーで攪拌した後、0.2mLのサンプルを96ウェルプレートに分注し、マイクロプレートリーダー(バイオテック社製品)を用いて546nmで吸光度を測定した。測定された吸光度をフェノールレッド標準品(75.0、37.5、18.8、9.4、7.4、2.3及び1.2ng/mL)の吸光度に基づく検量線に代入して、対照群及び各試験群のマウス気管片から排出されたフェノールレッド量を算出した。この気管片から排出されたフェノールレッドの量を次式に代入して被験物質の喀痰排出能を求めた。喀痰排出能を求める式は、「喀痰排出能(%)={(A/B)−1}×100」、A:各被験物質投与群のフェノールレッド量(平均値)、B:陰性対照群のフェノールレッド量(平均値)、である。
【0080】
本実施例の結果を
図19に示す。
図19のグラフのバー上に記載された*は、陰性対照群と比較したときのp値がp<0.05であることを示し、**は陰性対照群と比較したときのp値がp<0.01であることを示している。HTHQ投与群の喀痰排出能はそれぞれ24.6%(HTHQ100mg/kg)、30.0%(HTHQ200mg/kg)及び36.2%(HTHQ400mg/kg)であり、200mg/kg投与群および400mg/kg投与群では陰性対照群と比較して有意な増加が認められた。同様に、陽性対照であるAmbroxol群の喀痰排出能は41.1%であり、陰性対照群と比較して有意な増加が認められた。以上の結果から、HTHQにはアンブロキソール同様に喀痰の排出を促進する作用、すなわち、去痰作用を有することが認められた。それゆえ、HTHQは、アンブロキソール同様にカゼや急性気管支炎といった呼吸器疾患のほか、COPD、喘息及び間質性肺炎といった慢性呼吸器疾患に起因する喀痰の排出も促進することができ、これらの疾患の治療や改善に有効であることが示された。
【0081】
[実施例5]
5.ドキソルビシンにより誘発される心筋障害に対する作用の検討
ドキソルビシンは、心筋症の疾患モデル動物を作製するために利用されている。このドキソルビシンを生後4週齢の雌SDラットに投与すると共に、本発明の上述の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体として2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル(HTHQ)を投与し、その作用効果を調べた。試験群の構成は、対照群:滅菌生理食塩水を投与、試験群1:ドキソルビシン(13mg/kg体重)を単独投与、試験群2:ドキソルビシン(13mg/kg体重)及びHTHQ(50mg/kg体重)を併用投与、試験群3:ドキソルビシン(13mg/kg体重)、HTHQ(50mg/kg体重)及び組み換えヒトエリスロポエチン(400IU/kg体重)を併用投与、とした。なお、組み換えヒトエリスロポエチン(rHuEPO)は、主に腎性貧血治療等に用いられているが、心筋保護効果を有する。試験群3は、HTHQとrHuEPOとの併用による心筋障害抑制効果の有無を確認するものである。
【0082】
試験群1〜3について、ドキソルビシンの投与は単回とし、投与は経口にて行った。また、試験群2及び3について、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル(HTHQ)の投与はドキソルビシン投与3日前とドキソルビシン投与当日の計2回とし、投与は経口にて行った。また、試験群3について、組み換えヒトエリスロポエチンはドキソルビシン投与3日前から毎日投与を行い、投与は静脈内注射にて行った。各群の動物数は1群当たり16頭とした。ドキソルビシン投与7日目及び投与14日目に各群について8頭ずつ採血した後屠殺し、心臓剖検、心臓相対重量の算出、心臓の病理組織検査及び血液検査を行った。
【0083】
<心臓相対重量>
心筋は線維化することにより肥大して心筋重量が増加し、心臓相対重量が増大する傾向を示す。対照群及び試験群1〜3のラットの心臓相対重量の結果を以下表5に示す。ドキソルビシン投与後7日目において、試験群2の心臓相対重量が試験群1よりも大きな値を示したが、投与後14日目においては、試験群2の心臓相対重量は試験群1と比べて有意差はなかった。また、その他の群間についても、投与後7日目及び14日目ともに有意差は認められなかった(p<0.05)。
【0084】
【表5】
【0085】
<心臓剖検及び心臓の肉眼的所見>
心臓剖検を行い、肉眼的所見を観察した結果、対照群と比較して、試験群1〜3のドキソルビシン投与群には明らかな病変は観察されなかった。
【0086】
<病理組織検査所見1(光学顕微鏡)>
心臓の病理組織検査結果を以下表6に示す。表の重症度スコアは、「−」はなし、「+」は軽度、「++」は中等度、「+++」は重篤を示している。ドキソルビシン投与後7日目の心臓の組織についてみると、試験群1において心筋細胞の変性、心筋線維の喪失と組織崩壊、心筋壊死、横紋の喪失及び間質組織における細胞浸潤等が観察された。しかし、HTHQを投与した試験群2では試験群1に比べてこれらの病変が軽減されており、HTHQ及びrHuEPOを投与した試験群3はさらにこれらの病変が軽減され、ほぼ正常の心筋組織に近い所見を示した。ドキソルビシン投与後14日目の組織の病変は、試験群1では投与後7日目のものよりもさらに進行しており、心筋細胞と間質組織における高度の空胞変性、心筋線維の肥大と萎縮、心筋線維の喪失と組織崩壊、心筋壊死及び横紋の喪失等の所見が観察された。投与後14日目においても、投与後7日目と同様に、HTHQを投与した試験群2と試験群3の組織の病変は試験群1に比べ軽減されていた。
【0087】
【表6】
【0088】
<病理組織検査所見2(透過電子顕微鏡)>
ドキソルビシン投与後7日目における試験群1の心筋細胞では、横紋の喪失、介在板の喪失、ミトコンドリアの腫脹、ミトコンドリア外膜の喪失及びクリステの離脱などが観察された。しかし、HTHQを投与した試験群2と試験群3では横紋の喪失が軽減されており、心筋細胞とミトコンドリアがほぼ均一に配列してする等、正常な細胞と近い所見を示した。ドキソルビシン投与後14日目の心筋細胞においても、試験群1〜3は投与後7日目と同様な所見が観察された。
【0089】
これらの病理組織検査の所見から、本発明の上述の一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体は、ドキソルビシンが誘発する心臓の線維化を抑制する効果があり、心筋症を予防又は治療する効果があることが示された。また、このハイドロキノン誘導体と組み換えヒトエリスロポエチンとを合わせて用いることにより、心臓の線維化の抑制または治療効果がさらに向上することがわかった。
【0090】
<クレアチンホスホキナーゼ;CPK>
クレアチンホスホキナーゼ(CPK)は筋肉、脳、神経に多量に分布し、エネルギー代謝に関与する酵素である。特に骨格筋や心筋に障害が起きたときに血中に流出する逸脱酵素として臨床上重要な指標となっている。ドキソルビシン投与後14日目におけるクレアチンホスホキナーゼ(CPK)値を測定したところ、対照群に比べ、試験群1及び試験群2の値が有意に高い値を示した(p<0.05)。しかしながら、HTHQを投与した試験群2と試験群3のCPK値は試験群1と比べて有意に低い値であり(p<0.05)、HTHQ及びrHuEPOを投与した試験群3ではCPK値の増加が見られなかった。以上の結果から、一般式(1)で表されるハイドロキノン誘導体は、ドキソルビシンが誘発する心筋の障害を抑制する作用があり、心筋症を予防又は治療する効果があることが示された。また、このハイドロキノン誘導体と組み換えヒトエリスロポエチンとを合わせて用いることにより、心筋障害の抑制または治療効果がさらに向上することがわかった。
【0091】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含まれるものである。