特許第6647760号(P6647760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6647760変調方法、及び、この変調方法を用いた回路
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647760
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】変調方法、及び、この変調方法を用いた回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20200203BHJP
【FI】
   H02M3/28 M
   H02M3/28 Q
   H02M3/28 P
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-177585(P2016-177585)
(22)【出願日】2016年9月12日
(65)【公開番号】特開2018-46600(P2018-46600A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2018年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 浩之
【審査官】 麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−187662(JP,A)
【文献】 特開2007−104872(JP,A)
【文献】 特開平04−154093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偶数個のトランスと、
前記トランスと同数個有し、前記トランスの各々の一次巻線に正電圧、負電圧、ゼロ電圧を与えるトランス駆動手段と、
前記トランスの全ての二次巻線を直列接続した直列回路と
前記直列回路に接続された整流平滑回路と、
を有する回路の変調方法であって、
全ての前記トランス駆動手段が最大正電圧デューティと最大負電圧デューティを出力し、
かつ同相である状態を変調度が最も大きい状態とし、
1番目の前記トランス駆動手段の正電圧および負電圧のデューティを第一の設定値まで減らすことで、前記変調度を下げる第一の手順とし、
前記第一の手順でデューティを減らした前記1番目のトランス駆動手段の位相を前記第一の設定値まで進ませることで、前記変調度を下げる第二の手順とし、
2番目の前記トランス駆動手段が出力する正電圧および負電圧のデューティを第二の設定値まで減らすことで、前記変調度を下げる第三の手順とし、
残りの偶数個の前記トランス駆動手段が存在する場合は、3番目以降の奇数番目の前記トランス駆動手段に前記第一の手順と前記第二の手順を、4番目以降の偶数番目の前記トランス駆動手段に前記第三の手順を順次適用する変調方法。
【請求項2】
3以上の奇数個のトランスと、
前記トランスと同数個有し、前記トランスの各々の一次巻線に正電圧、負電圧、ゼロ電圧を与えるトランス駆動手段と、
前記トランスの全ての二次巻線を直列接続した直列回路と
前記直列回路に接続された整流平滑回路と、
を有する回路の変調方法であって、
全ての前記トランス駆動手段が最大正電圧デューティと最大負電圧デューティを出力し、
かつ同相である状態を変調度が最も大きい状態とし、前記トランス駆動手段の正電圧および負電圧のデューティを第一の設定値まで減らすことで、前記変調度を下げる第一の手順とし、
前記第一の手順でデューティを減らした前記トランス駆動手段の位相を前記第一の設定値まで進ませることで、前記変調度を下げる第二の手順とし、
前記トランス駆動手段が出力する正電圧および負電圧のデューティを第二の設定値まで減らすことで、前記変調度を下げる第三の手順とし、
前記トランス駆動手段が出力する正電圧および負電圧のデューティを第三の設定値まで減らすことで、前記変調度を下げる第四の手順とし、
前記トランス駆動手段が出力する正電圧および負電圧のデューティを、最大デューティまで増やすことで、前記変調度を下げる第五の手順とし、
前記トランス駆動手段を3個と残りの偶数個に分け、
前記残りの偶数個の前記トランス駆動手段が存在する場合は、前記第一の手順から前記第三の手順を前記残りの偶数個の前記トランス駆動手段のうち1番目の前記トランス駆動手段から順次適用し、
前記3個の前記トランス駆動手段のうちの任意の一つに対して、前記第一の手順と前記第二の手順を適用し、
前記3個の前記トランス駆動手段の残りの二つのうちの任意の一つに対して、前記第三の手順を適用し、
前記3個の前記トランス駆動手段の残りの一つに対して、前記第四の手順を適用し、
前記3個の前記トランス駆動手段のうち前記第一の手順と前記第二の手順を適用した前記トランス駆動手段に前記第五の手順を適用する変調方法。
【請求項3】
前記各トランス駆動手段と前記各トランスの間、もしくは前記二次巻線の直列回路と前記整流平滑回路の間に、共振回路を有する請求項1、請求項2のいずれか1項に記載の変調方法。
【請求項4】
請求項1、請求項2、請求項3のいずれか1項に記載の変調方法を用いた回路。
【請求項5】
前記各トランス駆動手段がカスケードマルチセル型力率改善コンバータの負荷として接続されている請求項4記載の回路。
【請求項6】
前記回路が、電源装置であって、前記各トランス駆動手段が共通の入力電源に接続されている請求項4記載の回路。
【請求項7】
前記回路が、電源装置であって、前記各トランス駆動手段が直列接続され、前記各トランス駆動手段の直列回路が入力電源に接続されている請求項4記載の回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数トランスの二次巻線を直列接続し、この直列回路に整流平滑回路を接続する構成のマルチレベルコンバータに用いる変調方法、及び、この変調方法を用いた回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カスケードマルチセル型力率改善コンバータの負荷として用いられるマルチレベルDC/DCコンバータが特許文献1で開示されている。図4にこの方式の回路図を示す。10はカスケードマルチセル型力率改善コンバータであり、二つの回路ブロック13の入力が直列接続され、この直列回路に交流電源11とチョーク12の直列回路が接続されている。回路ブロック13の中ではダイオード21、ダイオード22、MOSFET31、MOSFET32がブリッジ接続されており、このブリッジの直流出力にコンデンサ41が接続されている。
【0003】
図4のカスケードマルチセル型力率改善コンバータ10以外はマルチレベルDC/DCコンバータである。MOSFET33、MOSFET34、MOSFET35、MOSFET36がブリッジ接続されてトランス駆動手段14を構成している。二つのトランス駆動手段14の直流入力はカスケードマルチセル型力率改善コンバータ10の出力にそれぞれ接続されており、交流出力にはトランス15とトランス16の一次巻線が接続されている。トランス15の二次巻線とトランス16の二次巻線は直列接続され、この直列回路がダイオード23、ダイオード24、ダイオード25、ダイオード26からなる整流回路に接続され、この整流回路の出力にチョーク17、コンデンサ42からなる平滑回路が接続されている。平滑回路の出力には負荷18が接続されている。
【0004】
このマルチレベルDC/DCコンバータはトランス駆動手段14によってトランス15,16の一次巻線にパルス電圧が印加され、その電圧が巻数比変換されたうえで二次巻線の直列回路によって加算されることでマルチレベル変換を可能にしている。
このような原理で動作しているため、このコンバータにはいくつかのバリエーションが考えられる。図4では電位の異なる二つの入力電源が各トランス駆動手段に接続されているが、図5の様に共通の直流電源19に接続されていても構わない。また図6の様に、二つのトランス駆動手段14の入力にコンデンサ43、44を接続し、これらを直列接続して、その直列回路を直流電源19に接続しても構わない。
【0005】
またトランス駆動手段は2個に限定されているわけではなく、2個以上の任意の数にすることができる。
【0006】
なお、これまでの説明ではスイッチ素子としてMOSFETを使う例を挙げたが、IGBTと逆並列ダイオードの並列回路を使っても、全く同様の効果を奏する。
【0007】
しかしながら特許文献1には二次巻線の直列回路に現れる電圧をマルチレベルにできると書かれているが、その具体的な変調方法については記されていない。したがって各トランス駆動手段が出力する電圧をどのように変調すればよいかわからない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2016/031061号
【発明の概要】
【0009】
本発明はトランスの二次巻線を直列接続するタイプのマルチレベルコンバータにおいて、具体的な変調方法を開示するものである。
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1で開示されているトランスの二次巻線を直列接続するタイプのマルチレベルコンバータは、二次巻線の直列回路に現れる電圧をマルチレベルにすることができるが、その具体的な変調方法についての記述がない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の変調方法はトランス駆動手段の数が偶数である場合に適用され、
偶数個のトランスと、
前記トランスの各々の一次巻線に正電圧、負電圧、ゼロ電圧を与えるトランス駆動手段と、
前記トランスの全ての二次巻線を直列接続し、前記直列回路に接続された整流平滑回路と、
を有する回路の変調方法であって、
全ての前記トランス駆動手段が最大正電圧デューティと最大負電圧デューティを出力し、かつ同相である状態を変調度が最も大きい状態とし、
前記トランス駆動手段の正電圧および負電圧のデューティを第一の設定値まで減らすことを、前記変調度を下げるための第一の手順とし、
前記第一の手順でデューティを減らした前記トランス駆動手段の位相を前記第一の設定値まで進ませることを、前記変調度を下げるための第二の手順とし、
前記トランス駆動手段が出力する正電圧および負電圧のデューティを第二の設定値まで減らすことを、前記変調度を下げるための第三の手順とし、
前記第一の手順から前記第三の手順を前記トランス駆動手段に順次適用することを特徴とする。
【0012】
本発明の第二の変調方法はトランス駆動手段の数が奇数である場合に適用され、
奇数個のトランスと、
前記トランスの各々の一次巻線に正電圧、負電圧、ゼロ電圧を与えるトランス駆動手段と、
前記トランスの全ての二次巻線を直列接続し、前記直列回路に接続された整流平滑回路と、
を有する回路の変調方法であって、
全ての前記トランス駆動手段が最大正電圧デューティと最大負電圧デューティを出力し、かつ同相である状態を変調度が最も大きい状態とし、
前記トランス駆動手段の正電圧および負電圧のデューティを第一の設定値まで減らすことを、前記変調度を下げるための第一の手順とし、
前記第一の手順でデューティを減らした前記トランス駆動手段の位相を前記第一の設定値まで進ませることを、前記変調度を下げるための第二の手順とし、
前記トランス駆動手段が出力する正電圧および負電圧のデューティを第二の設定値まで減らすことを、前記変調度を下げるための第三の手順とし、
前記トランス駆動手段が出力する正電圧および負電圧のデューティを第三の設定値まで減らすことを、前記変調度を下げるための第四の手順とし、
前記トランス駆動手段が出力する正電圧および負電圧のデューティを、最大デューティまで増やすことを、前記変調度を下げるための第五の手順とし、
前記トランス駆動手段を3個と残りの偶数個に分け、
前記残りの偶数個の前記トランス駆動手段が存在する場合は、前記第一の手順から前記第三の手順を前記残りの偶数個の前記トランス駆動手段に順次適用し、
前記3個の前記トランス駆動手段のうちの任意の一つに対して、前記第一の手順と前記第二の手順を適用し、
前記3個の前記トランス駆動手段の残りの二つのうちの任意の一つに対して、前記第三の手順を適用し、
前記3個の前記トランス駆動手段の残りの一つに対して、前記第四の手順を適用し、
前記3個の前記トランス駆動手段のうち前記第一の手順と前記第二の手順を適用した前記トランス駆動手段に前記第五の手順を適用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の変調方法には、次の効果がある。
【0014】
本発明の変調方法によって、二次巻線の直列回路に現れる電圧をマルチレベルにすることができる。これに加えて変調度がゼロになっても各トランス一次巻線の実効値電圧がゼロにならないため無負荷でも励磁電流を確保でき、この励磁電流を使ってMOSFETをゼロ電圧スイッチングさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明の変調方法の第一の実施例である。
図2図2はトランス駆動手段の数が二つである場合に、変調度を下げるにしたがって各トランス駆動手段の波形をどのように変化させるかを説明した図である。
図3図3はトランス駆動手段の数が三つである場合に、変調度を下げるにしたがって各トランス駆動手段の波形をどのように変化させるかを説明した図である。
図4図4は特許文献1で開示されているカスケードマルチセル型力率改善コンバータと、その負荷であるマルチレベルDC/DCコンバータの回路図である。
図5図5図4のマルチレベルDC/DCコンバータの別の実施例である。
図6図6図4のマルチレベルDC/DCコンバータの別の実施例である。
図7図7はトランスの励磁電流を確保できない変調方法の例である。
図8図8図4のマルチレベルDC/DCコンバータの別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかである。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0017】
トランス二次巻線直列回路の実効値電圧が最大になる状態を変調度1、最小になる状態を変調度0とする。変調度1は全てのトランス駆動手段が正電圧50%、負電圧50%を出力し、かつ同相である状態であり、変調度0はトランス二次巻線直列回路の電圧がゼロになる状態である。
【0018】
もっとも簡単な変調方法は、各トランス駆動手段の正電圧および負電圧のデューティを50%から0%に順次下げていく事である。例としてトランスが2個の場合のトランス駆動手段出力電圧と二次巻線直列回路電圧を図7に示す。ここでは1番目のトランス駆動手段7−1のデューティを50%から25%、0%に下げ、次に2番目のトランス駆動手段7−2のデューティを50%から25%、0%に下げている。
【0019】
この方法の問題点は、デューティが0%になるとトランスの励磁電流がゼロになる事である。励磁電流にはデッドタイム期間中にMOSFETの出力容量を放電させてゼロ電圧スイッチングさせる作用があり、これによりスイッチング損失とスイッチングノイズが小さくなる。したがって励磁電流がゼロになると、これらの効果が失われる問題がある。実施例1と実施例2はこの問題を解決する。
【実施例1】
【0020】
(実施例1の構成)
本発明の変調方法の第一の実施例は、図1に示す様に補償器3の入力に目標電圧生成手段1の出力と出力電圧検出手段2の出力を接続し、変調手段4の入力に補償器3の出力を接続し、変調手段4の出力にデューティ設定手段5−1〜5−nの入力と位相シフト量設定手段6−1〜6−nの入力をトランスの数だけ接続し、各デューティ設定手段5−1〜5−nの出力と各位相シフト量設定手段6−1〜6−nの出力を各トランス駆動手段7−1〜7−nの入力に接続し、各トランス駆動手段7−1〜7−nの出力を各トランス8−1〜8−nに接続している。
実施例1ではトランス駆動手段の数が偶数であるとする。
【0021】
ここで図4のトランス駆動手段14は図1のトランス駆動手段7の一部であり、図1のトランス駆動手段7はこれ以外にMOSFETの駆動回路や駆動信号生成手段を含むものとする。
【0022】
(実施例1の動作)
このように構成された実施例1の変調方法において、補償器3とは位相補償をする手段であり、積分器やPI補償器、PID補償器などが使われる。アナログ回路の場合はオペアンプと抵抗、コンデンサを使って構成する誤差増幅回路が使われる。したがって補償器3の出力は変調度を表す信号となる。
【0023】
次にトランスが2個の場合における変調手段4の動作を、図2を使って説明する。この図は変調度を1から下げるときに1番目のトランス駆動手段7−1の出力と2番目のトランス駆動手段7−2の出力をどのように変化させていくのかを表したものである。図2の左上が変調度1であり、以下矢印に沿って変調度が下がっていき、右下が変調度0となる。
【0024】
変調度を1から下げるときはまず1番目のトランス駆動手段7−1のデューティを50%から所定のデューティまで下げていく。この所定のデューティを残存デューティと呼ぶことにする。図2は残存デューティを31.25%にした場合を表している。この変調によりトランス二次巻線直列回路の電圧は、最大電圧を1として、1のデューティが減って1/2のデューティが増え、実効値電圧が下がっていく。
【0025】
1番目のトランス駆動手段7−1のデューティを残存デューティまで下げたら、次に1番目のトランス駆動手段7−1の位相を進ませる。進ませるのは残存デューティの分までである。この変調によりトランス二次巻線直列回路の電圧は、1のデューティが減って0のデューティが増え、実効値電圧が下がっていく。
【0026】
1番目のトランス駆動手段7−1の位相を残存デューティまで進ませたら、次に2番目のトランス駆動手段7−2のデューティを下げていく。下げるのは残存デューティまでである。この変調によりトランス二次巻線直列回路の電圧は、1/2のデューティが減って0のデューティが増え、実効値電圧が下がっていく。
【0027】
2番目のトランス駆動手段7−2のデューティが残存デューティに達すると、1番目のトランス駆動手段7−1の出力と2番目のトランス駆動手段7−2の出力は逆相となって、トランス二次巻線直列回路の電圧がゼロになる。これが変調度0の状態である。
【0028】
以上はトランスが2個の場合の説明だが、例えばトランスが4個の場合は続けて3番目のトランス駆動手段7−3と4番目のトランス駆動手段7−4に対して同じ変調方法を適用していけばよく、最終的に3番目のトランス駆動手段7−3の出力と4番目のトランス駆動手段7−4の出力が逆相となって、トランス二次巻線直列回路の電圧がゼロになる。
以上の考え方を拡張すると、図2で説明した変調方法をトランス2個のペアに対して順次適用すれば、トランスが偶数個の全ての場合に対応できることがわかる。
【0029】
(実施例1の効果)
以上の作用により、本発明の変調方法の第一の実施例は、トランス二次巻線直列回路の電圧が最大となる変調度1の状態から、トランス二次巻線直列回路の電圧がゼロとなる変調度0の状態まで変調できる。しかも各トランスのデューティは最小値が残存デューティとなるので、全ての変調状態でトランスの励磁電流を一定値以上確保でき、MOSFETをゼロ電圧スイッチングさせることができる。
【実施例2】
【0030】
(実施例2の構成)
本発明の変調方法の第二の実施例の構成は、第一の実施例と同じく図1で表される。
ただし実施例2ではトランス駆動手段7の数が奇数であるとする。
【0031】
(実施例2の動作)
実施例1ではトランス駆動手段7の数が偶数であり、2個のトランス駆動手段7に対する変調方法を順次適用すれば全体を変調できることを示した。
実施例2でもトランス駆動手段7を2個ずつペアにして、実施例1の変調方法を適用する。したがって最後に残った3個のトランス駆動手段を、励磁電流を確保しつつ変調度1から0まで変調できれば全体を変調できることになる。
そこで3個のトランス駆動手段に対する変調方法を次に説明する。
【0032】
図3はトランス駆動手段が3個の場合に、変調度を1から下げるときに1番目のトランス駆動手段7−1、2番目のトランス駆動手段7−2、3番目のトランス駆動手段7−3の出力をどのように変化させていくのかを表したものである。図3の左上が変調度1であり、以下矢印に沿って変調度が下がっていき、右下が変調度0となる。
【0033】
変調度を1から下げるときはまず1番目のトランス駆動手段7−1のデューティを残存デューティまで下げていく。この変調によりトランス二次巻線直列回路の電圧は、最大電圧を1として、1のデューティが減って2/3のデューティが増え、実効値電圧が下がっていく。
【0034】
1番目のトランス駆動手段7−1のデューティを残存デューティまで下げたら、次に1番目のトランス駆動手段7−1の位相を進ませる。進ませるのは残存デューティまでである。この変調によりトランス二次巻線直列回路の電圧は、1のデューティが減って1/3のデューティが増え、実効値電圧が下がっていく。
【0035】
1番目のトランス駆動手段7−1の位相を残存デューティまで進ませたら、次に2番目のトランス駆動手段7−2のデューティを下げていく。この変調によりトランス二次巻線直列回路の電圧は、2/3のデューティが減って1/3のデューティが増え、実効値電圧が下がっていく。
【0036】
2番目のトランス駆動手段7−2のデューティが残存デューティに達すると、1番目のトランス駆動手段7−1の出力と2番目のトランス駆動手段7−2の出力は逆相となって、両者の和の電圧がゼロになる。ここまでは実施例1と同じ変調方法である。
【0037】
次に3番目のトランス駆動手段7−3のデューティを減らす。この変調によりトランス二次巻線直列回路の電圧は、1/3のデューティが減って0のデューティが増え、実効値電圧が下がっていく。
【0038】
3番目のトランス駆動手段7−3のデューティを減らしていくと、やがて2番目のトランス駆動手段7−2と3番目のトランス駆動手段7−3の波形の和がデューティ50%の波形と同じになる。そこで、その和の電圧波形と逆相の1番目のトランス駆動手段7−1のデューティを増やす。この変調によりトランス二次巻線直列回路の電圧は、1/3のデューティが減って0のデューティが増え、実効値電圧が下がっていく。
【0039】
1番目のトランス駆動手段7−1のデューティが最大値に達すると、トランス二次巻線直列回路の電圧がゼロになり、変調度が0になる。変調度1から0までの範囲で1番目のトランス駆動手段7−1から3番目のトランス駆動手段7−3のデューティはゼロになることがなく、励磁電流がゼロになる事はない。
【0040】
(実施例2の効果)
以上の作用により、本発明の変調方法の第二の実施例は、トランス二次巻線直列回路の電圧が最大となる変調度1の状態から、トランス二次巻線直列回路の電圧がゼロとなる変調度0の状態まで変調できる。しかも各トランスのデューティはゼロにならないので、全ての変調状態でトランスの励磁電流を一定値以上確保でき、MOSFETをゼロ電圧スイッチングさせることができる。
【0041】
本発明の変調方法を適用する回路として図4図5図6を挙げたが、これ以外に図8の回路に適用することもできる。図4図5図6ではトランス駆動手段とトランス一次巻線が直接接続されており、各トランス駆動手段の出力電圧が巻数比変換された電圧の和が二次巻線直列回路に現れる。
図8ではトランス駆動手段とトランス一次巻線の間に共振回路20が挿入されているので、この関係は成り立たない。しかしながらトランス駆動手段14の出力電圧が高くなれば、共振回路20に印加される電圧が高くなって、より多くの電力が共振回路を通過する。したがって変調度を上げれば出力電力が増えるという関係は変わらない。この事から本発明の変調方法を図8の回路に適用することが可能である。図8では共振回路を一次側に挿入したが、二次側、例えば、二次巻線の直列回路と整流平滑回路の間に、挿入しても同じ効果を奏する。
ゼロ電圧スイッチングを実現できる負荷範囲を広げるために、図4の回路においてトランス駆動手段14とトランス一次巻線の間にチョークを挿入する回路も一般に知られているが、同様の理由により、その場合でも本発明の変調方法を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は複数トランスの二次巻線を直列接続し、この直列回路に整流平滑回路を接続する構成のマルチレベルコンバータに適用できる変調方法であり、全ての変調度でトランスの励磁電流を確保できることから、MOSFETのゼロ電圧スイッチングを実現でき、スイッチング損失、スイッチングノイズを低減できるため産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0043】
1 目標電圧生成手段
2 出力電圧検出手段
3 補償器
4 変調手段
5(5−1〜5−n) デューティ設定手段
6(6−1〜6−n) 位相シフト量設定手段
7(7−1〜7−n) トランス駆動手段
8(8−1〜8−n) トランス
10 カスケードマルチセル型力率改善コンバータ
11 交流電源
12 チョーク
13 回路ブロック
14 トランス駆動手段
15、16 トランス
17 チョーク
18 負荷
21〜26 ダイオード
31〜36 MOSFET
41〜44 コンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8