【課題を解決するための手段】
【0026】
而して請求項1は金型用鋼に関するもので、質量%で0.15<C<
≦0.30,0.20<Si<0.52,5.32<Cr<5.72,
-0.05814×[Cr]+0.4326<Mn<-0.2907×[Cr]+2.4628・・式(1)
(但し式(1)中[Cr]はCrの含有質量%を表す)
0.72<Mo<1.60,0.20<V
≦0.58,残部がFe及び不可避的不純物の組成を有
する鋼の粉末から成り、積層造形法によって金型を造形するための材料として用いられることを特徴とする。
【0027】
請求項2のものは、請求項1において、質量%で0.10<Al<1.20を更に含有することを特徴とする。
【0028】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、質量%
で0.30<Cu≦1.
5を更に含有することを特徴とする。
【0029】
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、質量%で0.0001<B≦0.0050を更に含有することを特徴とする。
【0030】
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、質量%で0.003<S≦0.250,0.0005<Ca≦0.2000,0.03<Se≦0.50,0.005<Te≦0.100,0.01<Bi≦0.50,0.03<Pb≦0.50の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする。
【0031】
請求項6のものは、請求項1〜5の何れかにおいて、質量%で0.004<Nb≦0.100,0.004<Ta≦0.100,0.004<Ti≦0.100,0.004<Zr≦0.100の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする。
【0032】
請求項7のものは、請求項1〜6の何れかにおいて、質量%で0.10<W≦4.00,0.10<Co≦3.00の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする。
【0033】
請求項8のものは、請求項1〜7の何れかにおいて、
溶製により製造した前記組成を有する鋼のブロックから作成した熱伝導率測定用の試験片に対し、レーザーフラッシュ法によって評価した25℃における熱伝導率が24.0W/m/K以上であることを特徴とする。
【0036】
請求項9は金型(金型の一部を構成している部品を含む)に関するもので、請求項1〜8の何れかに記載の
鋼の粉末を用いた積層造形法により製造して成ることを特徴とする。
【0037】
本発明は、高い高温強度,高熱伝導率の両特性を備えた金型用鋼が従来提供されていない状況の下で、マルエージング鋼やステンレス鋼等の高合金鋼に対し熱伝導率を低下させる合金成分の含有量を少なくする一方、機械構造用鋼に対し高温強度を高める合金元素の含有量を多くし、それら合金成分を適正にバランスさせることで、摩耗抑制に必要な高温強度をJIS SKD61と同等程度に維持しつつ高熱伝導率を実現可能としたものである。
【0038】
本発明は、積層造形法による造形で金型製造する際に用いられる粉末材
料に適用する。詳しくは、本発明では金型用鋼を粉
末となしておき、これら材料を用いて積層造形法で金型を造形することができる。
積層造形法、特に粉末を用いた積層造形法では、粉末を敷き並べた層に熱エネルギーを加えて粉末を固める際に、これを溶融凝固又は焼結させる。
その際に粉末は溶融状態等の高温状態から急速冷却され、焼入れが自動的に行われる。その際の焼入れは速い冷却速度の下で急速に行われる。即ち焼入れが粉末の積層成形過程で逐次的に同時に行われて行く。
【0039】
上記のように焼入れは速い冷却速度の下で行われるため、予め鋼の成分として焼入性向上成分の含有量を少なく抑えておいても、積層造形時に焼入れが良好に行われる。
本発明の金型用鋼は、積層造形用の材料として
用いるものであるが、
参考例として、鋼の塊から機械加工による切削にて金型形状を造形し金型製造を行う場合の材料としても使用可能である。このときには含有元素に応じて焼入れ等の熱処理条件を定めれば良い。
【0040】
次に本発明における各化学成分の限定理由を以下に説明する。
尚各化学成分の値は何れも質量%である。
1)<請求項1の化学成分について>
0.15<C
≦0.30
0.15<Cであることによって、溶製材から切削加工による造形で製造した金型を熱処理すると、金型に必要な硬さ30〜57HRCを得ることができる。また、積層造形で製造したままの金型においても30〜57HRCが得られる。更に積層造形後の金型を熱処理した場合においても30〜57HRCが得られる。これら何れの製法においても、C≦0.15では硬さが不足する。一方
、過度な添加は熱伝導率が低下する。
【0041】
0.20<Si<0.52
Si≦0.20では被削性の劣化が著しい。また、Si≦0.20では硬さ(すなわち強度)の確保が困難である。一方0.52≦Siでは熱伝導率の低下が著しい。特に好ましい範囲は0.28<Si<0.52である。
【0042】
5.32<Cr<5.72
Cr≦5.32では耐食性が不足する。更に、Cr≦5.32では、溶製材からの切削加工による造形で製造した金型を焼入れる場合の、あるいは積層造形で製造した金型を焼入れる場合の焼入性が不足する。一方5.72≦Crでは熱伝導率が低下する。
【0043】
-0.05814×[Cr]+0.4326<Mn<-0.2907×[Cr]+2.4628・・式(1)
Mn≦-0.05814×[Cr]+0.4326では焼入性が不足する。焼入性の不足は、特にCrが低い場合に著しい。-0.2907×[Cr]+2.4628≦Mnでは熱伝導率が低下する。熱伝導率の低下は特にCrが高い場合に著しい。Mn量の下限に関しては、特に好ましい範囲は0.19<Mnである。
【0044】
式(1)に示すようにMnの含有量をCrの含有量の関数として、即ちCrの含有量との関係において規定しているのは次のような理由による。
0.32C-0.50Si-1.25Mo-0.58Vを基本成分とする鋼のCrとMnを変化させた場合の熱伝導率を調査した。これらの鋼のブロックを溶製によって製造し、そこから切り出したφ11mm×100mmの円柱を1030℃から20℃/minの冷却速度で焼入れ、550〜620℃での焼戻しによって43HRCに調整した。調質された円柱からφ10mm×2mmの熱伝導率測定用の試験片を作成した。熱伝導率の測定はレーザーフラッシュ法により、25℃において測定した。そして、熱伝導率が24.0W/m/K未満を×、24.0W/m/K以上を○、として熱伝導率を評価した。
【0045】
図1(A)は、CrとMnが熱伝導率に及ぼす影響を示す。CrとMnが共に多いほど熱伝導率は低く「×」となることが分かる。逆に、CrとMnが共に少ないほど熱伝導率は高く「○」となる。この×と○の境界と推定される直線が、Mn=-0.2907×[Cr]+2.4628であり、この直線より下の領域では安定して○が得られる。そこでMnの上限をMn<-0.2907×[Cr]+2.4628と規定した。なお、先述の通り、Crの範囲は5.32<Cr<5.72である。
【0046】
0.32C-0.50Si-1.25Mo-0.58Vを基本成分とする鋼のCrとMnを変化させた場合の衝撃値を調査した。これらの鋼のブロックを溶製によって製造し、そこから切り出した11mm×11mm×60mmの角棒を1030℃から20℃/minで550℃まで冷却後、引き続き3℃/minで室温まで冷却して焼入れした。この焼入れパターンは、溶製材のブロックから機械加工で作成した大きな金型を焼入れる時の金型内部の冷却履歴を模擬している。この角棒を、550〜610℃での焼戻しによって45HRCに調整した。調質された角棒から10mm×10mm×55mmの衝撃試験片を作成した。ノッチ半径が1mmのJIS3号試験片である。
衝撃値は25℃において測定した。そして、衝撃値が20J/cm
2未満を×、20J/cm
2以上を○、として評価を行った。
【0047】
図1(B)は、CrとMnが衝撃値に及ぼす影響を示す。CrとMnが共に多いほど衝撃値は高く「○」となることが分かる。逆に、CrとMnが共に少ないほど衝撃値は低く「×」となる。この○と×の境界と推定される直線が、Mn=-0.05814×[Cr]+0.4326であり、この直線より上の領域では安定して○が得られる。そこでMnの下限をMn>-0.05814×[Cr]+0.4326と規定した。なお、先述の通り、Crの範囲は5.32<Cr<5.72である。
【0048】
0.72<Mo<1.60
Mo≦0.72では、焼戻した際の2次硬化による硬さ確保が難しく、高温強度も不十分となる。一方1.60≦Moでは破壊靭性値の低下が大きい。好ましい範囲は0.72<Mo<1.51である。更に好ましい範囲は1.10<Mo<1.51である。
【0049】
0.20<V
≦0.58
V≦0.20では、焼入れがある場合のオーステナイト結晶粒の粗大化が問題となる。また、V≦0.20では焼戻した際の2次硬化による硬さ確保が難しく、高温強度も不十分となる。
一方
、過度な添加は上記の効果が飽和傾向であるうえ、コスト上昇を招く。また
、通常の製法(溶解→精錬→鋳造→熱間加工)で製造した場合に、凝固時に晶出する粗大なVCが多くなり、金型となった場合の破壊の起点となる恐れが増す。特に好ましい範囲は、0.32<V
≦0.58である。
【0050】
尚本発明の鋼において、通常、下記に示す成分が不可避的不純物として下記量で含まれ得る。
N≦0.05
P≦0.05
S≦0.003
Cu≦0.30
Ni≦0.30
Al≦0.10
W≦0.10
O≦0.01
Co≦0.10
Nb≦0.004
Ta≦0.004
Ti≦0.004
Zr≦0.004
B≦0.0001
Ca≦0.0005
Se≦0.03
Te≦0.005
Bi≦0.01
Pb≦0.03
Mg≦0.02
【0051】
2)<請求項2の化学成分について>
本発明鋼は、積層造形後に焼入れを受ける場合がある。焼入れ時のオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制するため
0.10<Al<1.20
を含有させることが出来る。
AlはNと結合してAlNを形成し、オーステナイト結晶粒界の移動(すなわち粒成長)を抑制する効果を有する。
また、Alは鋼中で窒化物を形成して析出強化に寄与するため、窒化処理された鋼材の表面硬さを高くする作用も有する。より高い耐摩耗性を求めて窒化処理をする金型(金型の一部を構成している部品も含む)には、Alを含む鋼材を使う事が有効である。
【0052】
3)<請求項3の化学成分について>
近年、金型部品の大型化や一体化によって、金型のサイズは大きくなる傾向にある。大きな金型は冷却され難い。このため、焼入れ性が低い鋼材の大きな金型を焼入れると、焼入れ中にフェライトやパーライトや粗大ベイナイトが析出して各種特性が劣化する。そのような懸念に対しては、C
uを選択的に添加して焼入れ性を高めて対応すればよい。具体的には、
0.30<Cu≦1.5
を含有させれば良い。
Cuには、時効析出で硬度を高める効果もある。好適な範囲は、
0.50≦Cu≦1.2
である。
但し、所定量を越えると偏析が顕著となり,鏡面研磨性の低下を招く。
【0053】
4)<請求項4の化学成分について>
焼入れ性の改善策として、Bの添加も有効である。具体的には必要に応じて
0.0001<B≦0.0050
を含有させる。
なお、BはBNを形成すると焼入れ性の向上効果が無くなるため、鋼中にB単独で存在させる必要がある。具体的には、BよりもNとの親和力が強い元素で窒化物を形成させ、BとNを結合させなければ良い。そのような元素の例としては、Nb,Ta,Ti,Zrなどがある。これらの元素は不純物レベルで存在してもNを固定する効果はあるが、N量によっては後述する請求項6の範囲で添加すると良い場合がある。
【0054】
5)<請求項5の化学成分について>
本発明鋼はSi量が少ないため、機械加工性がやや悪い。加工性の改善策として、以下のS,Ca,Se,Te,Bi,Pbを選択的に添加すれば良い。具体的には、
0.003<S≦0.250
0.0005<Ca≦0.2000
0.03<Se≦0.50
0.005<Te≦0.100
0.01<Bi≦0.50
0.03<Pb≦0.50
の少なくとも1種を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えた場合は被削性の飽和と熱間加工性の劣化、衝撃値や鏡面研磨性の低下を招く。
【0055】
6)<請求項6の化学成分について>
予期せぬ設備トラブルなどによって、焼入れ加熱温度が高くなったり焼入れ加熱時間が長くなれば、結晶粒の粗大化による各種特性の劣化が懸念される。そのような場合に備え、Nb,Ta,Ti,Zrを選択的に添加し、これらの元素が形成する微細な析出物でオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制することが出来る。具体的には、
0.004<Nb≦0.100
0.004<Ta≦0.100
0.004<Ti≦0.100
0.004<Zr≦0.100
の少なくとも1種を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えると炭化物や窒化物や酸化物が過度に生成し、衝撃値や鏡面研磨性の低下を招く。
【0056】
7)<請求項7の化学成分について>
高強度化にはC増量が有効であるが、過度のC増量は炭化物の増加による特性(衝撃値や機械疲労特性)の劣化を招く。このような不具合を招くことなく高強度化するには、WやCoを選択的に添加すればよい。
Wは、炭化物の微細析出によって強度を上げる。Coは、母材への固溶によって強度を上げると同時に、炭化物形態の変化を介して析出硬化にも寄与する。具体的には、
0.10<W≦4.00
0.10<Co≦3.00
の少なくとも1種を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えると特性の飽和と著しいコスト増を招く。好適な範囲は、
0.30≦W≦3.00
0.30≦Co≦2.00
である。