【文献】
松木 祥彦,大貫 敏明,風間 健美,日向 早苗,塚本 哲也,“アンチバイオグラムとグラム染色を用いた抗菌薬投与設計支援が抗菌薬使用量と緑膿菌の抗菌薬感受性に及ぼす影響”,日本環境感染学会誌,日本,一般社団法人 日本環境感染学会,2012年 6月 5日,27巻2号,第105−112頁,Online ISSN: 1883-2407
【文献】
院内感染対策サーベイランス公開情報 検査部門2007年報(7月〜12月),オンライン,厚生労働省 院内感染対策サーベイランス事業,2010年12月 3日,第1頁,検索日2019年5月21日,URL,https://janis.mhlw.go.jp/report/open_report/2007/3/1/ken_Open_Report_200700.pdf
【文献】
薬剤耐性菌についてのQ&A,オンライン,農林水産省 動物医薬品検査所 検査第二部抗生物質製剤検査室,2013年 2月20日,表紙,第1−4頁,URL,https://web.archive.org/web/20130220205013/http://www.maff.go.jp/nval/tyosa_kenkyu/taiseiki/pdf/taiseikin_q_a_20100107.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[1]実施形態
[1−1]全体構成等
図1は実施形態に係る医療情報システム1の全体構成を表す。医療情報システム1は、自システムのユーザである医師や看護師などの医療従事者に対して医療に関する情報を提供するためのシステムである。医療情報システム1は、本実施形態では、感染症の治療に用いる治療薬を決定する際の参考となる情報(以下「参考情報」という)をユーザに提供する。
【0012】
医療情報システム1は、ネットワーク2と、サーバ装置10と、ユーザ装置20とを備える。ネットワーク2は、装置間のデータのやり取りを仲介するシステムであり、例えば、医療施設内に設けられたLAN(Local Area Network)である。ネットワーク2にはサーバ装置10及びユーザ装置20が接続されている。ユーザ装置20は、ユーザによる情報の入力を受け付けたり、サーバ装置10から提供される情報を表示したりする情報処理装置であり、ユーザが医療情報を利用する際のインターフェースとして機能する。サーバ装置10は、ユーザ装置20から送られてくる情報を処理する情報処理装置であり、処理した情報を医療情報としてユーザ装置を介してユーザに提供する装置である。サーバ装置10は、この医療情報のひとつとして、前述した参考情報をユーザに提供する。
【0013】
図2はサーバ装置10のハードウェア構成を表す。サーバ装置10は、制御部11と、記憶部12と、通信部13とを備えるコンピュータである。制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びリアルタイムクロックを備えている。CPUは、RAMをワークエリアとして用いてROMや記憶部12に記憶されたプログラムを実行することによって記憶部12及び通信部13の動作を制御する。リアルタイムクロックは、現在の日時を算出する分類機能を有している。記憶部12は、ハードディスク等を備え、制御部11が制御に用いるデータやプログラムなどを記憶する。通信部13は、ネットワーク2を介して通信を行うための通信回路を備え、ネットワーク2を介したデータの送信及び受信を行う。
【0014】
図3はユーザ装置20のハードウェア構成を表す。ユーザ装置20は、制御部21と、記憶部22と、通信部23と、表示部24と、操作部25とを備えるコンピュータである。制御部21は制御部11と同種のハードウェアである。記憶部22は記憶部12と同種のハードウェアであり、通信部23は通信部13と同種のハードウェアである。表示部24は、例えば液晶ディスプレイを有し、制御部21が行う制御に基づいて表示面に画像を表示する。操作部25は、キーボード及びマウス等の操作子を備え、ユーザの操作に応じてその操作の内容を表す操作データを制御部21に供給する。
【0015】
[1−2]機能構成
サーバ装置10及びユーザ装置20の各記憶部には、医療情報をユーザに提供する機能を実現するためのプログラムが記憶されており、このプログラムが実行されることで以下に述べる機能が実現される。
図4は医療情報システム1において実現される機能構成を表す。サーバ装置10は、取得手段101と、選択手段102と、出力手段103とを備え、ユーザ装置20は、送信手段201と、要求手段202と、表示手段203とを備える。
【0016】
送信手段201は、医療施設で使用されている感染症の治療薬のリストをサーバ装置10に対して送信する手段である。ここでいう医療施設には、病院や診療所など、感染症の患者に対する治療薬の投与が行われる施設全般が含まれる。感染症は菌やウィルスなどの病原体となる微生物が原因となって生じる病気である。本実施形態では、医療情報システム1が病院Aに導入されており、その病院Aという医療施設で使用されている抗菌薬(菌による感染症の治療に用いられる薬)のリストが感染症の治療薬のリストとして扱われる。
【0017】
例えばペニシリン系の抗菌薬というように同じ種類の抗菌薬であっても、製造する企業が異なれば、効き目も完全に同じとは限らない。しかし、全ての企業の抗菌薬を揃えるのは困難なため、多くの医療施設では、特定の企業が製造した抗菌薬を使用して、その抗菌薬のリストを管理するようにしている。この抗菌薬のリストが例えば紙の台帳で管理されている場合には、ユーザがユーザ装置20に対してそのリストに含まれている抗菌薬の名称を入力する。送信手段201は、こうして入力された名称からなる抗菌薬のリストをサーバ装置10に対して送信する。
【0018】
なお、医療情報システム1が備える他の装置に抗菌薬のリストが記憶されている場合には、送信手段201は、その装置に対して抗菌薬のリストを要求し、送られてきたリストをサーバ装置10に対して転送してもよい。また、抗菌薬のリストが更新された場合には、送信手段201はその都度抗菌薬のリストをサーバ装置10に送信する。その際は、送信手段201が更新分のリストだけを送信してもよい。サーバ装置10が受信した抗菌薬のリストは、取得手段101に供給される。
【0019】
取得手段101は前述した感染症の治療薬のリストを取得する手段である。取得手段101は、本実施形態では、上記のとおり送信手段201から自装置に送信されてきた抗菌薬のリストを感染症の治療薬のリストそして取得する。なお、取得手段101は、他の方法で抗菌薬のリストを取得してもよく、例えば抗菌薬のリストを管理している装置から定期的または更新がある度にそのリストを送ってもらうことで抗菌薬のリストを取得してもよい。取得手段101は、取得した抗菌薬のリストを選択手段102に供給する。
【0020】
要求手段202は、ユーザの操作に基づいて、上述した参考情報(感染症の治療に用いる治療薬を決定する際の参考となる情報)を要求する手段である。この要求は、感染症を引き起こした病原体の微生物が特定されていなくても行うことができる。微生物が特定されているとは、微生物の分類学上の区分が最も下位の階級である「種」まで特定されていることをいう。微生物の種を特定するためには、微生物を培養して増やしてから検査にかける必要があり、その結果が出るまでには微生物を採取してから1日以上の期間を要する。医療情報システム1のユーザは、この期間にも患者に治療を施すため、ユーザ装置20に対して、治療薬を決定するための参考情報を要求する操作を行う。
【0021】
この参考情報の要求は、患者から採取された微生物の「属」(「種」よりも1つ上位の階級の区分)が推定されていることが前提となっている。属の推定は、例えばグラム染色された菌の像を医療従事者が顕微鏡を用いて観察することによって行われる。この段階では微生物の属を特定することまではできないが、おおよその当たりをつけることはできる。グラム染色による属の推定であれば30分程度の時間で済むので、患者の診断を開始してから早ければ1時間かからない程度の時間で上記の参考情報を要求する操作を行うことができる。要求手段202は、ユーザがこの操作を行うための画像を表示手段である表示部24に表示させる。
【0022】
図5は参考情報を要求するための画像の一例を表す。この例では、推定された菌属を表示する表示欄A1と、参考情報を要求することを決定するための操作子B1とが表示部24に表示されている。ユーザは、推定された菌属を表示欄A1に入力するか、または図に示す菌属のプルダウンリストA2から選択する。そののちにユーザが操作子B1に対する操作を行うと、要求手段202は、表示欄A1に表示されている菌属(この例ではStaphylococcus:ブドウ球菌)に属する菌を原因とする感染症の患者に対する治療に用いる治療薬を決定するための参考情報を要求することを示す要求データをサーバ装置10に送信する。サーバ装置10が受信した要求データは、選択手段102に供給される。
【0023】
選択手段102は、取得手段101により取得された使用リストに含まれる治療薬から、患者から採取された微生物に対して効き目があると見込まれる治療薬を選択する手段である。選択手段102が選択する治療薬は、1つの場合もあれば、2以上の場合もある。いずれの場合も、例えばユーザである医師が、選択された治療薬から、実際に感染症の治療に用いる治療薬を決定するというように利用される。つまり、選択手段102は、実際に感染症の治療に用いる治療薬の候補を選択する。
【0024】
選択手段102は、詳細には、医療施設で感染症の治療を受ける患者から採取された微生物が分類学上の第1区分に属すると推定された場合に、その第1区分に属する微生物に対する治療薬の効き目に関して過去に検査された結果(以下「第1の結果」という)に基づいて選択を行う。本実施形態では、
図5の例でユーザが入力または選択した菌属(
図5の例であればStaphylococcus)が、推定された微生物の第1区分として用いられる。第1の結果については
図6を参照して説明する。
【0025】
図6は過去の検査で得られた第1の結果の一例を表す。この例では、病院Aで検査されたStaphylococcusの抗菌薬毎の感受性率(単位は%)が棒グラフで表されている。このようなグラフは、アンチバイオグラムと呼ばれている。
図6に示すアンチバイオグラムでは、各抗菌薬の名称がABPC(Ampicillin:アンピシリン)のように一般名で表されているが、例えばその一般名の抗菌薬を複数の企業が製造している場合には、そのうちの病院Aで取り引きのある企業の抗菌薬で行われた検査の結果が表されていることになる。
【0026】
医療施設が異なれば、使用される抗菌薬を製造した企業が異なっていたり、患者から同じ菌属だが菌種が異なる菌が採取されたりするため、同じ菌属の菌に対する感受性率が異なる場合がある。従って、アンチバイオグラムは、医療施設毎に違ったものになるため、医療施設毎に作成されるのが一般的である。
図6に示すアンチバイオグラムは、病院Aで過去に治療された患者から採取された微生物に対する治療薬の効き目を試す検査の結果を表すものである。
【0027】
例えばABPCを含むいくつかの抗菌薬は、感受性率が0%となっている。これは、病院Aで行われた検査では、それらの抗菌薬は全ての検査においてStaphylococcusに対する効き目が現れなかったことを示している。また、ABK(Arbekacin:アルベカシン)のような感受性率100%の抗菌薬では、全ての検査で効き目が現れ、GM(Gentamicin:ゲンタマイシン)のような感受性率50%の抗菌薬では、半分の検査で効き目が現れたことを示している。従って、感受性率が高い抗菌薬ほど効き目があると見込まれ、病院Aでは、ABK、VCM(Vancomycin:バンコマイシン)、TEIC(Teicoplanin:テイコプラニン)、LZD(Linezolid:リネゾリド)という感受性率が100%であった4つの抗菌薬が、最も効き目があると見込まれる。
【0028】
サーバ装置10の記憶部12には、
図6に示すアンチバイオグラムの他、他の菌属におけるアンチバイオグラムを表すデータが記憶されている。選択手段102は、ユーザ装置20から送信されてきた要求データが示す推定された菌属の菌について検査された結果を表すアンチバイオグラムのデータを参照し、感受性率が最も高い抗菌薬(それが複数ある場合はそれら複数の抗菌薬)を、患者から採取された微生物に対して効き目があると見込まれる治療薬として選択する。このように、本実施形態では、選択手段102が、患者を治療しようとしている医療施設(この例では病院A)で過去に治療された患者から採取された微生物に対する治療薬の効き目を試す検査の結果を、前述した第1の結果として用いる。選択手段102は、選択した治療薬を表す情報を出力手段103に供給する。
【0029】
出力手段103は、選択手段102により選択された治療薬を表す情報を出力する手段である。出力手段103は、本実施形態では、選択手段102から供給された治療薬を表す情報を、要求データが送信されてきたユーザ装置20に対して出力する。また、出力手段103は、選択された治療薬を表す情報に加え、この治療薬の付帯情報として、その治療薬の臓器移行性、排泄経路、投与法、禁忌及び副作用を表す情報を出力する。
【0030】
臓器移行性とは投与された治療薬が腎臓や肝臓などの各臓器まで移行する(到達する)度合いを表した情報であり、排泄経路とは投与された治療薬が排泄される際に通過する経路(主に腎臓及び肝臓)を表す情報である。投与法とは治療薬を投与する方法(経口投与や静脈内注射、舌下投与など)を表す情報であり、禁忌とは治療薬を投与してはいけない患者を表す情報である。また、副作用とは病気の治療に役立たない作用などを表す情報である。サーバ装置10の記憶部12には、例えば治療薬の名称に対応付けてこれらの付帯情報が記憶されている。出力手段103は、治療薬を表す情報を出力する際に、その治療薬の名称に対応付けて記憶されている付帯情報を読み出して、その治療薬を表す情報とともに出力する。
【0031】
表示手段203は、出力手段103により出力された治療薬を表す情報及び付帯情報を、要求手段202が要求した参考情報(感染症の患者の治療に用いる治療薬を決定する際の参考となる情報)として表示する手段である。表示手段203は出力手段103から出力されてきた両情報を受け取ると、受け取ったそれらの情報を自装置の表示手段である表示部24を用いて表示する。
【0032】
図7は表示された治療薬を表す情報の一例を表す。この例では、表示手段203が、表示部24に、
図5の例で入力または選択された菌属である「Staphylococcus」を表示する表示欄A11と、この菌属の菌に効き目があると見込まれる抗菌薬(この例ではABK、VCM、TEIC、LZD)を表示する表示欄A21、A22、A23及びA24を表示している。また、表示手段203は、各表示欄に並べて、付帯情報を表示させるための操作子B21、B22、B23及びB24を表示している。これらの操作子が操作されると、表示手段203は、操作された操作子に並べて表示している治療薬の付帯情報を表示する。
【0033】
図8は表示された付帯情報の一例を表す。この例では、表示手段203が、表示欄A31に「XXX」という抗菌薬の名称を表示し、その抗菌薬の付帯情報(臓器移行性、排泄経路、投与法、禁忌及び副作用)を表示欄A31、A32、A33、A34及びA35に表示している。これらの表示欄は操作子にもなっており、表示手段203は、各表示欄が操作されると、その表示欄に表示されている付帯情報の詳細な情報を表示する。
【0034】
図5で説明した操作子B1をユーザが操作して参考情報が要求されると、以上のとおり
図7及び
図8に示すような参考情報が表示される。これらの参考情報は、推定された菌属に基づいて表示されるため、検査によって微生物の種が特定される前の期間であっても表示させることが可能である。医療情報システム1のユーザである医師は、この参考情報を参考にして、例えば
図7に示された抗菌薬の候補のうちのいずれかを、感染症の患者の治療に用いる治療薬として決定し、その患者に投与する。こうして投与される抗菌薬は、推定された菌属に属する菌に対する検査で過去に高い確率で効き目が現れた実績がある治療薬であり、同じ菌属に属する菌に対してであれば、他の治療薬に比べて効き目が現れる可能性が高い。このように、本実施形態によれば、感染症の原因となる微生物が特定されていなくても、上記の第1の結果に基づく治療薬の選択が行われない場合に比べて、より高い確率で効き目が得られる治療薬が感染症の治療に用いられるようにすることができる。
【0035】
また、
図7の例のように複数の治療薬を表す情報が表示された場合、付帯情報を比較することで、例えばより臓器移行性が高く、患者に投与した場合の実際の効き目が高い治療薬が感染症の治療に用いられるようにすることができる。また、排泄経路(主に腎臓や肝臓)に疾患のある患者に治療薬を投与したり、誤った投与方法が用いられたりすることを防ぐことができる。他にも、禁忌の対象となっている患者に治療薬を投与したり、副作用の大きい治療薬を投与したりすることも防ぐことができる。
【0036】
また、本実施形態では、第1の結果としてアンチバイオグラムを用いて治療薬の候補が選択されている。アンチバイオグラムは患者を治療する医療施設で過去に検査された結果であるため、例えばその医療施設とは異なる企業が製造した治療薬を使用する他の医療施設で過去に検査された結果を用いる場合に比べて、効き目を現す可能性がより高い治療薬が感染症の治療に用いられるようにすることができる。
【0037】
[1−3]動作
医療情報システム1は、以上の構成に基づき、参考情報をユーザに提供する提供処理を行う。以下では、提供処理において医療情報システム1が備える各装置が行う動作の手順について、
図9及び
図10を参照して説明する。
【0038】
図9は治療薬のリストが取得されるまでの各装置の動作の手順の一例を表す。この手順は、例えばユーザがユーザ装置20を操作して、治療薬のリストに含まれる治療薬の名称を入力するための画像を表示させることを契機に開始される。この手順が開始されると、まず、ユーザ装置20が、ユーザによる治療薬の名称の入力を受け付ける(ステップS11)。次に、ユーザ装置20が入力された治療薬の名称からなるリスト、すなわち治療薬のリストをサーバ装置10に送信すると(ステップS12)、サーバ装置10が送信されてきた治療薬のリストを取得する(ステップS13)。ステップS11及びS12の動作は送信手段201が行い、ステップS13の動作は取得手段101が行う。こうして治療薬のリストがサーバ装置10によって取得される。
【0039】
図10は参考情報が表示されるまでの各装置の動作の手順の一例を表す。この手順は、例えば患者から採取された微生物が分類学上の第1区分(上記の例では「Staphylococcus」という菌属)に属するとユーザである医療従事者が推定したうえで、ユーザ装置20を操作して、
図5に示す画像を表示させることを契機に開始される。この手順が開始されると、まず、ユーザ装置20が、推定された第1区分の入力を受け付ける(ステップS21)。次に、ユーザ装置20が、第1区分に属すると推定された微生物が採取された患者の治療で用いる治療薬を決定する際に参考となる参考情報を要求する操作を受け付け(ステップS22)、その要求を示す要求データをサーバ装置10に送信する(ステップS23)。ステップS21、S22及びS23の動作は要求手段202が行う。
【0040】
サーバ装置10は、ステップS23で要求データを受信すると、要求データが示す第1区分と
図6で述べたアンチバイオグラムとに基づいて、
図9のステップS13で取得した治療薬のリストから、患者から採取された微生物に対して効き目があると見込まれる治療薬を選択する(ステップS24)。続いて、サーバ装置10は、選択した治療薬を表す情報をユーザ装置20に対して出力し(ステップS25)、ユーザ装置20が、出力されてきた情報、すなわち選択された治療薬を表す情報を表示する(ステップS26)。ステップS24の動作は選択手段102が行い、ステップS25の動作は出力手段103が行う。ステップS26の動作は表示手段203が行う。
【0041】
[2]変形例
上述した実施形態は本発明の実施の一例に過ぎず以下のように変形させてもよい。また、上述した実施形態及び以下に示す各変形例は必要に応じて組み合わせて実施してもよい。
【0042】
[2−1]第1の結果
選択手段102が用いる第1の結果は実施形態で述べたものに限らない。選択手段102は、例えば、感染症の治療薬と、その治療薬に対する耐性遺伝子を有する微生物の第1区分と同じ階級の区分とを対応付けた情報を、第1の結果として用いる。この第1の結果は、微生物の遺伝子を検査した結果として得られる情報である。世界中の医療施設で行われた検査の結果得られた抗菌薬毎のそのような情報を集めたデータベースとして、ARDB(Antibiotic Resistance Genes Database)が知られている。ARDBはインターネット等で公開されており、抗菌薬を指定すると、その抗菌薬に対する耐性遺伝子を有する菌の菌属や菌種の情報が提供される。
【0043】
図11はARDBで提供される情報の一例を表す。この例では、「benzylpenicillin」が抗菌薬として指定され、この抗菌薬に対する耐性遺伝子を有する菌の菌属が一覧になって示されている。サーバ装置10の記憶部12には、こうして提供される情報に基づいて作成された、各菌属に属する菌が耐性遺伝子を有しない抗菌薬であるか否か、言い換えると、各菌属に属する菌に対して効き目がある抗菌薬であるか否か、を抗菌薬毎に表したテーブル(以下「耐性遺伝子テーブル」という)が記憶されている。
【0044】
図12は耐性遺伝子テーブルの一例を表す。この例では、耐性遺伝子がない抗菌薬を「○」、耐性遺伝子がある抗菌薬を「×」で表している。例えば「Shigella」(赤痢菌)という菌属については、この菌属に属する菌が、「○」となっている抗菌薬α及びγに対する耐性遺伝子を有しておらず、「×」となっている抗菌薬β及びΔに対する耐性遺伝子を有していることが表されている。つまり、この菌属に属する菌の場合、抗菌薬α及びγは菌種が何であっても効き目がある可能性が高く、抗菌薬β及びΔは菌種によっては効き目がなかったり、効き目があってもその効き目が小さかったりする可能性が高い。従って、選択手段102は、要求手段202から送信されてきた要求データが示す菌属が「Shigella」であれば、抗菌薬α及びγを、患者から採取された微生物に対して効き目があると見込まれる治療薬として選択する。
【0045】
実施形態で述べたアンチバイオグラムは、規模が小さい医療施設では作成されていない場合があるし、これを作成している医療施設でも、過去に検査されていない微生物の菌属が推定された場合にはアンチバイオグラムが存在しないことになる。これに対し、本変形例で述べた耐性遺伝子に関する検査は世界中の医療施設で行われており、且つ、その結果を共有する仕組みも整っているため、前述したようにアンチバイオグラムが利用できない場合であっても、第1の結果を用いた治療薬の選択を行うことができる。
【0046】
[2−2]特定された区分
感染症の治療では、実施形態で述べたように微生物の「属」の推定が行われたあと、その微生物の「種」の特定が行われる。選択手段102は、推定された第1区分(実施形態では菌属)に基づいて治療薬を選択したのに加えて、特定された区分(以下「第2区分」という。例えば菌種)に基づいて治療薬を選択してもよい。この選択は、第1区分と推定された微生物が第1区分よりも下位の階級の第2区分に属すると特定され、且つ、第2区分に属する微生物に対する治療薬の効き目に関して過去に検査された結果(以下「第2の結果」という)が得られている場合に行われる。
【0047】
第2の結果としては、例えば、上記の変形例で述べた耐性遺伝子テーブルを各菌種の菌について表したものが用いられる。
図13は本変形例の耐性遺伝子テーブルの一例を表す。この例では、「Shigella」という菌属の「dysenteriae」、「flexneri」、「boydii」及び「sonnei」という4つの菌種の菌の各抗菌薬に対する耐性遺伝子の有無が表されている。例えば「flexneri」という菌種の菌であれば、「○」となっている抗菌薬α、β及びγは効き目がある可能性が高く、「sonnei」という菌種の菌であれば、「○」となっている抗菌薬α、γ及びΔは効き目がある可能性が高いことが表されている。
【0048】
選択手段102は、例えば
図13に示す耐性遺伝子テーブルを用いて治療薬の選択を行う。具体的には、選択手段102は、感染症の治療を受ける患者から採取された微生物が第2区分に属すると特定された場合に、第2の結果、すなわち第2区分に属する微生物に対する治療薬の効き目に関して過去に検査された結果に基づいて、取得手段101により取得されたリストから、その微生物に対して効き目があると見込まれる治療薬を選択する。これにより、微生物の第2区分まで特定された場合において、上記の第2の結果に基づく治療薬の選択が行われない場合に比べて、より高い確率で効き目が得られる治療薬が感染症の治療に用いられるようにすることができる。
【0049】
[2−3]第1区分及び第2区分
実施形態や上記の変形例では、分類学上の第1区分を「菌属」、第2区分を「菌種」としたが、これに限定されない。例えば感染症の病原体がウィルスであれば、第1区分を「ウィルス属」、第2区分を「ウィルス種」とする。また、「属」よりも上位の階級である「科」や「目」などが第1区分として用いられてもよい。その場合、例えば第1区分が「科」で第2区分が「属」というように、第2区分は第1区分よりも下位の階級の区分であればよい。
【0050】
[2−4]選択手段
選択手段102は、上述した方法とは異なる方法で治療薬を選択してもよい。例えば、治療薬毎に優先順位が決められており、且つ、選択する治療薬の数の上限が決められている場合に、選択手段102は、患者から採取された微生物に対して効き目があると見込まれる治療薬のうち、優先順位が高いものから上限までの数の治療薬を選択する、といった具合である。この場合、例えばその医療施設での実績が豊富で信頼性があり優先的に使用したい治療薬があったときに、その治療薬が選択されやすくなるようにすることができる。
【0051】
[2−5]出力手段
出力手段103は、実施形態では、治療薬を文字列で表した情報及び文字列で表された付帯情報を出力したが、これに限らず、例えば治療薬を画像や音声で表した情報や画像や音声で表された付帯情報を出力してもよい。また、出力手段103は、付帯情報を出力しなくてもよいし、付帯情報のうちの一部だけを出力してもよい。
【0052】
また、出力手段103の情報の出力先は実施形態で述べたユーザ装置20に限らない。例えばサーバ装置10に表示手段が接続されている場合に、出力手段103がその表示手段に情報を出力して表示させてもよい。また、ユーザの電子メールアドレスやSNS(Social Networking Service)のアカウントなどのユーザに対応する宛先に対して出力手段103が情報を出力してもよい。要するに、出力された情報をユーザが確認できるようになっていれば、出力手段103はどのような出力先に情報を出力してもよい。
【0053】
[2−6]発明のカテゴリ
本発明は、サーバ装置及びユーザ装置という各情報処理装置の他、
図4に示す各手段を実現する他の装置としても捉えられる。また、それらの装置を備える医療情報システムのようなシステムとしても捉えられる。また、本発明は、それらの装置が実施する処理を実現するための情報処理方法としても捉えられるし、それらの装置を制御するコンピュータを機能させるためのプログラムとしても捉えられる。このプログラムは、それを記憶させた光ディスク等の記録媒体の形態で提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してコンピュータにダウンロードさせ、それをインストールして利用可能にするなどの形態で提供されてもよい。