【文献】
細川史生,ディフラクトグラムによるTEMオートチューニング,日本電子顕微鏡学会誌,日本,2001年 7月31日,36巻 第2号,p.116-117
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0032】
また、以下では、本発明に係る荷電粒子線装置として、電子線を照射して試料の観察を行う透過電子顕微鏡を例に挙げて説明するが、本発明に係る荷電粒子線装置は電子線以外の荷電粒子線(イオン等)を照射して試料の観察を行う装置であってもよい。
【0033】
1. 第1実施形態
1.1. 透過電子顕微鏡
まず、第1実施形態に係る透過電子顕微鏡(荷電粒子線装置の一例)について図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係る透過電子顕微鏡100を模式的に示す図である。
【0034】
透過電子顕微鏡100は、
図1に示すように、電子源10と、集束レンズ12と、軸合わせ用コイル13と、対物レンズ14と、試料ステージ16と、試料ホルダー17と、中間レンズ18と、投影レンズ20と、偏向コイル21と、撮像装置22と、処理部40と、操作部50と、表示部52と、記憶部54と、を含む。
【0035】
電子源10は、電子を発生させる。電子源10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0036】
集束レンズ12は、電子源10から放出された電子線を集束して試料Sに照射する。
【0037】
軸合わせ用コイル13は、集束レンズ12で集束された電子線を偏向させることができる。軸合わせ用コイル13は、例えば、電子線を対物レンズ14の光軸に一致させるために用いられる。
【0038】
対物レンズ14は、試料Sを透過した電子線で透過電子顕微鏡像(以下「TEM像」ともいう)を結像するための初段のレンズである。対物レンズ14は、図示はしないが、上部磁極(ポールピースの上極)、および下部磁極(ポールピースの下極)を有している。対物レンズ14では、上部磁極と下部磁極との間に磁場を発生させて電子線を集束させる。
【0039】
試料ステージ16は、試料Sを保持する。図示の例では、試料ステージ16は、試料ホルダー17を介して、試料Sを保持している。試料ステージ16は、例えば、対物レンズ14の上部磁極と下部磁極との間に試料Sを位置させる。試料ステージ16は、試料ホルダー17を移動および静止させることができる。試料ステージ16によって、試料Sの位置決めを行うことができる。試料ステージ16は、試料Sを水平方向(電子線の進行方向に対して直交する方向)や鉛直方向(電子線の進行方向に沿う方向)に移動させることができる。試料ステージ16は、さらに、試料Sを傾斜させることができる。
【0040】
中間レンズ18および投影レンズ20は、対物レンズ14によって結像された像をさらに拡大し、撮像装置22に結像させる。対物レンズ14、中間レンズ18、および投影レンズ20は、結像系を構成している。
【0041】
偏向コイル21は、投影レンズ20の後段に配置されている。偏向コイル21は、結像系に組み込まれている。偏向コイル21は、投影レンズ20から射出された電子線を偏向させて、観察視野を移動させるために用いられる。
【0042】
撮像装置22は、結像レンズ系によって結像されたTEM像を撮影する。撮像装置22は、例えば、CCDカメラ等のデジタルカメラである。撮像装置22は、撮影したTEM像の画像データを処理部40に出力する。
【0043】
収差補正装置30は、対物レンズ14の後段に配置されている。より具体的には、収差補正装置30は、対物レンズ14と中間レンズ18との間に配置されている。収差補正装置30は、対物レンズ14の収差を補正するための装置である。収差補正装置30は、負の球面収差を作り出し、対物レンズ14の正の球面収差を打ち消すことで対物レンズ14(結像系)の球面収差を補正する。
【0044】
図2は、収差補正装置30を模式的に示す図である。
【0045】
収差補正装置30は、
図2に示すように、二段の多極子(第1多極子32a、第2多極子32b)と、転送レンズ系34と、を含んで構成されている。
【0046】
収差補正装置30では、光軸OPに沿って第1多極子32aおよび第2多極子32bが一列に配列されている。
【0047】
第1多極子32aは、N回場(N回対称場、Nは整数)を発生させる。同様に、第2多極子32bは、N回場を発生させる。なお、以下では、N=3として説明する。なお、N回場とは、多極子の回転対称軸の周りで、生成された場の強度がN回の対称性を持つ場を
意味する。
【0048】
第1多極子32aは、例えば、六極子または十二極子で構成される。なお、第1多極子32aの極数および第2多極子32bの極数は、特に限定されない。第1多極子32aによって生成される三回場は、静電場、静磁場、またはこれらの重畳場のいずれかである。
【0049】
第2多極子32bの構成は、上記の第1多極子32aの構成と同様である。すなわち、第2多極子32bは、例えば、六極子または十二極子で構成され、第2多極子32bによって生成される三回場は、静電場、静磁場、またはこれらの重畳場のいずれかである。
【0050】
第1多極子32aおよび第2多極子32bは、光軸OPに沿った厚みtを有する。厚みを持った多極子では、薄い多極子で発生する収差とは異なる収差が、コンビネーション収差として現れる。
【0051】
多極子として三回場を用いる場合、コンビネーション収差として負の球面収差が生じる。これを利用して対物レンズ14の正の球面収差を補正できる。
【0052】
第1多極子32aと第2多極子32bとの間には、転送レンズ系34が配置されている。転送レンズ系34は、一対の転送レンズ(第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34b)で構成されている。転送レンズ系34は、第1多極子32aで形成された像と共役な像を第2多極子32bに形成する。
【0053】
なお、対物レンズ14と第1多極子32aとの間に転送レンズ系36を配置してもよい。転送レンズ系36は、一対の転送レンズ(第1転送レンズ36aおよび第2転送レンズ36b)で構成されている。
【0054】
また、第2多極子32bと中間レンズ18との間に、ポストコレクタレンズ38が配置されてもよい。ポストコレクタレンズ38は、中間レンズ18の物面に試料Sの像を結ぶためのレンズである。
【0055】
収差補正装置30では、第1多極子32aおよび第2多極子32bが一対の三回場を生成する。この一対の三回場は、負の球面収差を発生し、対物レンズ14が持つ正の球面収差を減少させる。したがって、この負の球面収差は、対物レンズ14が持つ正の球面収差を減少させる。また、第1多極子32aおよび第2多極子32bは、それぞれ相互に逆向きで同じ強さの三回非点収差を発生させる。したがって、第1多極子32aで発生した三回非点収差は、第2多極子32bで発生した三回非点収差によって相殺される。
【0056】
操作部50は、ユーザーによる操作に応じた操作信号を取得し、処理部40に送る処理を行う。操作部50の機能は、例えば、ボタン、キー、タッチパネル型ディスプレイ、マイクなどにより実現できる。
【0057】
ユーザーは、操作部50を操作することにより、透過電子顕微鏡100の各部を動作させて、後述する収差補正を行うことができる。
【0058】
表示部52は、処理部40によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRTなどにより実現できる。表示部52には、後述する、撮影された視野の位置に対応するように配置された複数のディフラクトグラム(diffractogram、
図7参照)等が表示される。
【0059】
記憶部54は、処理部40が各種の計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデー
タ等を記憶している。また、記憶部54は、処理部40の作業領域として用いられ、処理部40が各種プログラムに従って実行した算出結果等を一時的に記憶するためにも使用される。記憶部54の機能は、ハードディスク、RAMなどにより実現できる。
【0060】
処理部40は、収差補正装置30の制御や、撮像装置22で撮影されたTEM像を取得する処理、透過電子顕微鏡100の光学系12,13,14,18,20,21の制御、TEM像をフーリエ変換してディフラクトグラムを生成する演算処理などの処理を行う。処理部40の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。処理部40は、収差補正装置制御部42と、撮像装置制御部44と、TEM制御部46と、を含む。
【0061】
収差補正装置制御部42は、収差補正電源コントローラ31を制御し、収差補正装置30に供給される電流(または電圧)を制御する。収差補正装置制御部42は、例えば、ユーザーが操作部50を介して入力した設定値に基づいて、収差補正装置30を制御する。
【0062】
また、収差補正装置制御部42は、操作部50からの操作信号に基づいて、収差補正電源コントローラ31を制御して、第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bに供給される励磁電流を制御する。
【0063】
撮像装置制御部44は、操作部50からの操作信号に基づいて、撮像装置22に対してTEM像を撮影する制御を行う。また、撮像装置制御部44は、撮影されたTEM像を取得してディフラクトグラムを生成する処理を行う。
【0064】
TEM制御部46は、操作部50からの操作信号に基づいて、透過電子顕微鏡100の光学系12,13,14,18,20,21の制御を行う。
【0065】
1.2. 収差補正方法
次に、第1実施形態に係る収差補正方法について説明する。
【0066】
本実施形態では、収差補正装置30において発生する軸外の一次収差を補正する場合について説明する。より具体的には、本実施形態では、視野範囲において二回非点収差が三回対称に変わる現象が低減されるように、軸外の二回非点収差を補正する場合について説明する。
【0067】
ここで、軸外の収差(軸外収差)とは、幾何収差のなかで、光軸となす角αに加えて光軸からの距離rをパラメータに持つ収差をいう。なお、後述する軸上の収差(軸上収差)とは、幾何収差のなかで、光軸となす角αのみをパラメータとする収差をいう。また、一次収差には、ディフォーカスと、二回非点収差と、がある。
【0068】
なお、電子の軌道を、荷電粒子の電磁場内での運動として記述する幾何光学において、結像点の理想結像(ガウス結像)点からのズレを幾何収差という。光学特性は、一般に、物面の一点から像面の一点へ写像する冪展開多項式で表される。この多項式は、物面における電子軌道の光軸からの距離rと光軸となす角αをパラメータとして冪展開される。rとαに関して、一次の項のみを考慮した場合は収差のない理想結像を表す(ガウス結像)。二次以上の項を考慮した場合、結像点は理想結像点からずれる。光軸となす角αと光軸からの距離rの次数を合わせた数が、幾何収差の次数である。
【0069】
図3は、第1実施形態に係る収差補正方法の一例を示すフローチャートである。
【0070】
(1)軸外の一次収差の計測(ステップS100)
まず、軸外の一次収差を計測する。軸外の一次収差を計測する工程は、結像系の偏向コイル21で視野を移動させて撮影された複数のアモルファス像を取得する工程と、複数のアモルファス像に対応する複数のディフラクトグラムを取得する工程と、複数のディフラクトグラムに基づいて軸外の一次収差を計測する工程と、を有する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0071】
まず、透過電子顕微鏡100の結像系の偏向コイル21で視野を移動させて撮影された複数のアモルファス像を取得する。
【0072】
図4および
図5は、偏向コイル21で視野を移動させてアモルファス像を取得する様子を模式的に示す図である。なお、
図4は、偏向コイル21で視野を移動させていない状態を示している。
図5は、偏向コイル21で視野を移動させた状態を示している。
【0073】
図5に示すように、偏向コイル21を用いて投影レンズ20の像面を移動させて撮像装置22で撮影される視野Fを移動させる。このようにして撮像装置22で撮影される視野Fを移動させつつ撮影を行うことで、互いに異なる視野Fで撮影された複数のアモルファス像を取得することができる。アモルファス像は、試料Sのアモルファス領域を撮影して得られたTEM像である。
【0074】
次に、複数のアモルファス像に対応する複数のディフラクトグラムを取得する。
【0075】
アモルファス像をフーリエ変換することにより、当該アモルファス像に対応するディフラクトグラムを取得することができる。
【0076】
次に、取得した複数のディフラクトグラムに基づいて、軸外の一次収差を計測する。
【0077】
図6は、撮影された視野の位置に対応するように、複数のアモルファス像を配置した図である。
図7は、撮影された視野の位置に対応するように、複数のディフラクトグラムを配置した図である。
【0078】
図7に示す撮影された視野の位置に対応するように配置された複数のディフラクトグラムから、軸外の一次収差、すなわち、軸外におけるディフォーカスおよび軸外における二回非点収差の変化を可視化することができる。
【0079】
図7に示す例では、複数のディフラクトグラムから、視野の位置によって二回非点収差が異なっており、これらの二回非点収差が三角形を描くように変化していることがわかる。
【0080】
本工程において、撮影された視野の位置に対応するように配置された複数のディフラクトグラムに基づいて、軸外の二回非点収差の三回対称成分を定量化してもよい。
【0081】
以上の工程により、軸外の一次収差を計測することができる。
【0082】
(2)軸外の二回非点収差の補正(ステップS102)
次に、軸外の一次収差の計測結果に基づいて、軸外の二回非点収差を補正する。軸外の二回非点収差の補正は、第1多極子32aと第2多極子32bとの間に配置された転送レンズ系34の励磁を変化させることで行われる。
【0083】
図8は、転送レンズ系34の励磁を変化させて、軸外の二回非点収差を補正している様子を模式的に示す図である。
【0084】
軸外の二回非点収差の補正は、
図8に示すように、第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの両方を励磁が強くなるように変化させる、または第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの両方の励磁が弱くなるように変化させることで行う。
【0085】
ここで、第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの励磁を変化させると、軸外の二回非点収差とともに、軸上収差、より具体的にはスリーローブ収差が変化する。上記のように、第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの両方を励磁が強くなるように変化させる、または第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの両方の励磁が弱くなるように変化させた場合、軸外の二回非点収差の変化量を、スリーローブ収差の変化量よりも大きくすることができる。なお、スリーローブ収差は、四次の軸上幾何収差の一つで三回対称の寄生収差である。
【0086】
第1転送レンズ34aの励磁は、第1転送レンズ34aのコイルに流す励磁電流を変化させることで変化させることができる。第2転送レンズ34bについても同様である。
【0087】
本工程では、ステップS100で得られた軸外の一次収差の計測結果に基づいて、第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの励磁を変化させる。具体的には、
図7に示す複数のディフラクトグラムにおいて軸外の二回非点収差が低減されるように、第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの励磁を変化させる。
【0088】
例えば、ユーザーが、表示部52に表示された複数のディフラクトグラム(
図7参照)から軸外の二回非点収差の状態を確認し、操作部50を操作して軸外の二回非点収差が低減されるように転送レンズ34a,34bの励磁を変化させてもよい。また、ユーザーが、表示部52に表示された軸外の二回非点収差の三回対称成分の定量値を確認し、操作部50を操作して軸外の二回非点収差が低減されるように転送レンズ34a,34bの励磁を変化させてもよい。
【0089】
(3)軸外の二回非点収差が補正されたか否かの判定(ステップS104)
次に、軸外の二回非点収差が補正されたか否かを判定する。軸外の二回非点収差が補正されたか否かの判定は、軸外の一次収差を計測する工程(ステップS100)と同様の手法で、軸外の一次収差(軸外の二回非点収差)を計測することで行われる。
【0090】
ユーザーは、例えば、表示部52に表示された複数のディフラクトグラムから、軸外の二回非点収差が低減されているか否かを判断する。また、ユーザーは、複数のディフラクトグラムに基づき定量化された軸外の二回非点収差の三回対称成分の定量値が所定値以下の場合に軸外の二回非点収差が補正されたと判断し、所定値より大きい場合に軸外の二回非点収差が補正されていないと判断してもよい。
【0091】
軸外の二回非点収差が補正されていないと判断された場合(ステップS104でNoの場合)、ステップS100に戻って、再び軸外の一次収差の計測(ステップS100)、および軸外の二回非点収差の補正(ステップS102)を行う。
【0092】
(4)軸上収差の計測(ステップS106)
一方、軸外の二回非点収差が補正されたと判断された場合(ステップS104でYesの場合)、軸上収差の計測を行う。
【0093】
上述したように、軸外の二回非点収差を補正するために第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの励磁を変化させると、軸上収差の一つであるスリーローブ収差も変化する。そのため、スリーローブ収差を補正する必要がある。
【0094】
軸上収差(スリーローブ収差)の計測は、例えば、ディフラクトグラムタブローにより行われる。ディフラクトグラムタブローとは、入射ビームを1〜2度程度傾け、方位角を次々に変えて撮影したアモルファス像のディフラクトグラムを、二次元的に配置したものをいう。二次的に配置されたディフラクトグラムに現れる図形の楕円度や対称性を利用して、軸上収差を計測することができる。
【0095】
(5)スリーローブ収差の補正(ステップS108)
次に、軸上収差の計測結果に基づいて、スリーローブ収差の補正を行う。スリーローブ収差の補正は、第1多極子32aと第2多極子32bとの間に配置された転送レンズ系34の励磁を変化させることで行われる。
【0096】
図9は、転送レンズ系34の励磁を変化させて、スリーローブ収差を補正している様子を模式的に示す図である。
【0097】
スリーローブ収差の補正は、
図9に示すように、第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bのうちの一方を励磁が強くなるように変化させて、他方を励磁が弱くなるように変化させることで行う。第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bのうちの一方を励磁が強くなるように変化させて、他方を励磁が弱くなるように変化させることで、転送距離を変えることができ、スリーローブ収差を補正することができる。また、このように転送レンズ34a,34bの励磁を変化させることにより、スリーローブ収差の変化量を、軸外の二回非点収差の変化量よりも大きくすることができる。
【0098】
本工程では、ステップS106で得られた軸上収差の計測結果に基づいて、第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの励磁を変化させる。
【0099】
(6)スリーローブ収差が補正されたか否かの判定(ステップS110)
次に、スリーローブ収差が補正されたか否かを判定する。スリーローブ収差が補正されたか否かの判定は、軸上収差を計測する工程(ステップS106)と同様に、ディフラクトグラムタブローを作成し、当該ディフラクトグラムタブローから軸上収差(スリーローブ収差)を計測することで行われる。
【0100】
スリーローブ収差が補正されていないと判断された場合(ステップS110でNoの場合)、ステップS106に戻って、再び軸上収差の計測(ステップS106)、およびスリーローブ収差の補正(ステップS108)を行う。
【0101】
(7)軸外の二回非点収差が補正されたか否かの判定(ステップS112)
一方、スリーローブ収差が補正されたと判断された場合(ステップS112でYesの場合)、軸外の二回非点収差が補正されたか否かの判定を行う。軸外の二回非点収差が補正されたか否かの判定は、ステップS104と同様に行われる。
【0102】
軸外の二回非点収差が補正されていないと判断された場合(ステップS112でNoの場合)、ステップS100に戻って、再び、ステップS100〜ステップS110を行う。
【0103】
一方、軸外の二回非点収差が補正されたと判断された場合(ステップS112でYesの場合)、収差補正を終了する。
【0104】
以上の工程により、軸外の二回非点収差を補正することができる。
【0105】
第1実施形態に係る収差補正方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0106】
第1実施形態に係る収差補正方法は、転送レンズ系34の励磁を変化させて、軸外の二回非点収差を補正する工程を含む。そのため、第1実施形態に係る収差補正方法によれば、2段の多極子32a,32bを有する収差補正装置30を備えた透過電子顕微鏡100において、軸外の二回非点収差を補正することができる。これにより、透過電子顕微鏡100では、広い視野範囲で高分解能像を取得することができる。
【0107】
第1実施形態に係る収差補正方法では、軸外の二回非点収差を補正する工程において、第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの両方を励磁が強くなるように変化させる、または第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの両方を励磁が弱くなるように変化させる。これにより、軸外の二回非点収差の変化量をスリーローブ収差の変化量よりも大きくすることができる。したがって、第1実施形態に係る収差補正方法では、軸外の二回非点収差を補正する工程において、スリーローブ収差の変化量を小さくすることができる。
【0108】
第1実施形態に係る収差補正方法では、転送レンズ系34の励磁を変化させて、スリーローブ収差を補正する工程を含む。そのため、第1実施形態に係る収差補正方法によれば、軸外の二回非点収差を補正することにより導入されるスリーローブ収差を補正することができる。これにより、より良好な高分解能像を取得することができる。
【0109】
第1実施形態に係る収差補正方法では、スリーローブ収差を補正する工程において、第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bのうちの一方を励磁が強くなるように変化させ、他方を励磁が弱くなるように変化させる。これにより、スリーローブ収差の変化量を軸外の二回非点収差の変化量よりも大きくすることができる。したがって、第1実施形態に係る収差補正方法では、スリーローブ収差を補正する工程において、軸外の二回非点収差の変化量を小さくすることができる。
【0110】
第1実施形態に係る収差補正方法では、軸外の一次収差を計測する工程は、結像系の偏向コイル21で視野を移動させて撮影された複数のアモルファス像を取得する工程と、複数のアモルファス像に対応する複数のディフラクトグラムを取得する工程と、複数のディフラクトグラムに基づいて軸外の一次収差を計測する工程と、を有している。そのため、軸外の一次収差を計測することができる。
【0111】
また、第1実施形態に係る収差補正方法では、複数のアモルファス像から複数のディフラクトグラムを取得するため、例えば1枚のアモルファス像から複数のディフラクトグラムを取得する場合と比べて(後述する「1.3. 収差補正方法の変形例」参照)、アモルファス像のピクセルサイズを大きくできる。これにより、軸外の一次収差をより精度よく計測することができる。
【0112】
1.3. 収差補正方法の変形例
上記の実施形態では、軸外の一次収差を計測する工程において、偏向コイル21で視野を移動させて取得された複数のアモルファス像に対応する複数のディフラクトグラムを取得していたが、軸外の一次収差を計測する工程はこれに限定されない。
【0113】
例えば、軸外の一次収差を計測する工程は、アモルファス像を取得する工程と、アモルファス像の互いに異なる複数の領域を選択し、選択された複数の領域に対応する複数のディフラクトグラムを取得する工程と、複数のディフラクトグラムに基づいて軸外の一次収差を計測する工程と、を有していてもよい。
【0114】
図10は、アモルファス像の互いに異なる複数の領域を選択した状態を示す図である。本変形例では、
図10に示すように、1枚のアモルファス像を撮影して、当該1枚のアモルファス像から複数の領域を選択する。図示の例では、1枚のアモルファス像から9個の領域が選択されているが、その数は特に限定されない。
【0115】
図11は、選択された複数の領域に対応する複数のディフラクトグラムを選択された領域に対応する位置に配置した図である。選択された領域をフーリエ変換することにより、ディフラクトグラムを得ることができる。
図11に示すように、選択された領域に対応する位置にディフラクトグラムを配置することで、軸外の一次収差を可視化することができる。
【0116】
このようにして得られた
図11に示す複数のディフラクトグラムにおいても、
図7に示す複数のディフラクトグラムと同様に、軸外の一次収差を計測することができる。
【0117】
本変形例では、1枚のアモルファス像から軸外の一次収差を計測することができるため、容易に軸外の一次収差の計測を行うことができる。
【0118】
2. 第2実施形態
2.1. 透過電子顕微鏡
次に、第2実施形態に係る透過電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図12は、第2実施形態に係る透過電子顕微鏡200を模式的に示す図である。
図13は、第2実施形態に係る透過電子顕微鏡200の収差補正装置230を模式的に示す図である。
【0119】
以下、第2実施形態に係る透過電子顕微鏡200において、第1実施形態に係る透過電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0120】
上述した透過電子顕微鏡100では、
図2に示すように、収差補正装置30は、二段の多極子32a,32bを有していた。すなわち、収差補正装置30は、二段三回場型球面収差補正装置であった。
【0121】
これに対して、透過電子顕微鏡200では、
図13に示すように、収差補正装置230は、三段の多極子32a,32b,32cを有している。すなわち、収差補正装置230は、三段三回場型球面収差補正装置である。
【0122】
収差補正装置230は、三段の多極子(第1多極子32a、第2多極子32b、第3多極子32c)と、第1転送レンズ系34と、第2転送レンズ系35と、を含んで構成されている。
【0123】
収差補正装置30では、光軸OPに沿って第1多極子32a、第2多極子32b、および第3多極子32cが一列に配列されている。
【0124】
第1多極子32a、第2多極子32b、および第3多極子32cの構成は、上述した第1実施形態における第1多極子32a、第2多極子32bの構成と同様であり、その説明を省略する。
【0125】
第1転送レンズ系34は、第1多極子32aと第2多極子32bとの間に配置されている。第2転送レンズ系35は、第2多極子32bと第3多極子32cとの間に配置されている。第2転送レンズ系35は、第1転送レンズ35aと、第2転送レンズ35bと、を有している。
【0126】
第1転送レンズ系34および第2転送レンズ系35の構成は、上述した第1実施形態における転送レンズ系34の構成と同様であり、その説明を省略する。
【0127】
収差補正装置30では、上述したように、第1多極子32aで発生した三回非点収差は、第2多極子32bで発生した三回非点収差によって相殺された。しかしながら、収差補正装置30では、第1多極子32aおよび第2多極子32bが発生させる一対の三回場によって三回非点収差を相殺することで、五次の収差である六回非点収差が新たに発生する。
【0128】
そこで収差補正装置230では、第1多極子32a、第2多極子32b、および第3多極子32cが発生させる三回場を相対的に特定の角度に設定することによって、六回非点収差を相殺している。
【0129】
2.2. 収差補正方法
次に、第2実施形態に係る収差補正方法について説明する。
【0130】
第2実施形態に係る収差補正方法は、軸外の二回非点収差を補正する工程(ステップS102)、スリーローブ収差を補正する工程(ステップS108)が、第1実施形態に係る収差補正方法と異なる。第2実施形態に係る収差補正方法のその他の工程は、第1実施形態に係る収差補正方法と同様である。
【0131】
以下、第2実施形態に係る収差補正方法において、第1実施形態に係る収差補正方法と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0132】
まず、軸外の二回非点収差を補正する工程(ステップS102)について説明する。
【0133】
本実施形態では、軸外の二回非点収差の補正は、第1多極子32aと第2多極子32bとの間に配置された第1転送レンズ系34、および第2多極子32bと第3多極子32cとの間に配置された第2転送レンズ系35の励磁を変化させることで行われる。
【0134】
図14は、第1転送レンズ系34および第2転送レンズ系35の励磁を変化させて、軸外の二回非点収差を補正している様子を示す図である。
図15は、第1転送レンズ系34の励磁を変化させることによって変化する軸外の二回非点収差の三回対称成分Oを模式的に示す図である。
図16は、第2転送レンズ系35の励磁を変化させることによって変化する軸外の二回非点収差の三回対称成分Oを模式的に示す図である。
【0135】
上述した収差補正装置30は二段の多極子32a,32bを有しているため、軸外の二回非点収差の三回対称成分は特定の1つの方向を向く。すなわち、撮影された視野の位置に対応するように配置された複数のディフラクトグラムにおいて、二回非点収差が描く三角形の向きは常に同じである。
【0136】
これに対して、収差補正装置230は三段の多極子32a,32b,32cを有しているため、軸外の二回非点収差の三回対称成分は様々な方向を向く。すなわち、撮影された視野の位置に対応するように配置された複数のディフラクトグラムにおいて、二回非点収差が描く三角形は様々な方向を向く。
【0137】
そのため、本実施形態では、
図14に示すように、第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの両方を励磁が強くなるように変化させる、または第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの両方を励磁が弱くなるように変化させる。これにより、図
15に示すように、A方向(所定の方向)の軸外の二回非点収差の三回対称成分Oを変化させることができ、A方向の軸外の二回非点収差の三回対称成分Oを補正することができる。
【0138】
また、同様に、第1転送レンズ35aおよび第2転送レンズ35bの両方を励磁が強くなるように変化させる、または第1転送レンズ35aおよび第2転送レンズ35bの両方を励磁が弱くなるように変化させる。これにより、
図16に示すように、A方向とは異なるB方向の軸外の二回非点収差の三回対称成分Oを変化させることができ、B方向の軸外の二回非点収差の三回対称成分Oを補正することができる。
【0139】
上記のように、第1転送レンズ系34および第2転送レンズ系35の励磁を変化させることにより、三段の多極子32a,32b,32cを有する収差補正装置230を備えた透過電子顕微鏡300において、軸外の二回非点収差を補正することができる。
【0140】
次に、スリーローブ収差を補正する工程(ステップS108)について説明する。
【0141】
本実施形態では、スリーローブ収差の補正は、第1多極子32aと第2多極子32bとの間に配置された第1転送レンズ系34、および第2多極子32bと第3多極子32cとの間に配置された第2転送レンズ系35の励磁を変化させることで行われる。
【0142】
図17は、第1転送レンズ系34および第2転送レンズ系35の励磁を変化させて、スリーローブ収差を補正している様子を示す図である。
図18は、第1転送レンズ系34の励磁を変化させることによって変化するスリーローブ収差Tを模式的に示す図である。
図19は、第2転送レンズ系35の励磁を変化させることによって変化するスリーローブ収差Tを模式的に示す図である。
【0143】
ここで、上述した収差補正装置30は二段の多極子32a,32bを有しているため、スリーローブ収差は特定の1つの方向を向く。これに対して、収差補正装置230は三段の多極子32a,32b,32cを有しているため、スリーローブ収差は様々な方向を向く。
【0144】
そのため、本実施形態では、
図17に示すように、第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bのうちの一方を励磁が強くなるように変化させて、他方を励磁が弱くなるように変化させる。これにより、
図18に示すように、C方向(所定の方向)のスリーローブ収差Tを変化させることができ、C方向のスリーローブ収差Tを補正することができる。
【0145】
また、同様に、第1転送レンズ35aおよび第2転送レンズ35bのうちの一方を励磁が強くなるように変化させて、他方を励磁が弱くなるように変化させる。これにより、
図19に示すように、C方向とは異なるD方向のスリーローブ収差Tを変化させることができ、D方向のスリーローブ収差Tを補正することができる。
【0146】
上記のように、第1転送レンズ系34および第2転送レンズ系35の励磁を変化させることにより、三段の多極子32a,32b,32cを有する収差補正装置230を備える透過電子顕微鏡300において、スリーローブ収差を補正することができる。
【0147】
第2実施形態に係る収差補正方法では、三段の多極子32a,32b,32cを有する収差補正装置230を備えた透過電子顕微鏡200において、軸外の二回非点収差を補正することができる。
【0148】
3. 第3実施形態
3.1. 電子顕微鏡
次に、第3実施形態に係る透過電子顕微鏡について、図面を参照しながら説明する。
図20は、第3実施形態に係る透過電子顕微鏡300を模式的に示す図である。
【0149】
以下、第3実施形態に係る透過電子顕微鏡300において、第1実施形態に係る透過電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0150】
透過電子顕微鏡300は、
図20に示すように、処理部40が、第1計測部48aと、第2計測部48bと、第1転送レンズ系制御部49aと、第2転送レンズ系制御部49bと、判定部49cと、を含む点で、透過電子顕微鏡100と異なる。
【0151】
第1計測部48aは、軸外の一次収差を計測する処理を行う。第1計測部48aは、例えば、偏向コイル21および撮像装置22を制御して、視野を移動させつつ複数のアモルファス像を撮影して複数のアモルファス像を取得する処理を行う。そして、第1計測部48aは、複数のアモルファス像をフーリエ変換して複数のアモルファス像に対応する複数のディフラクトグラムを取得し、軸外の一次収差を計測する。第1計測部48aは、複数のディフラクトグラムから軸外の二回非点収差の三回対称成分を定量化する。
【0152】
第1転送レンズ系制御部49aは、第1計測部48aの計測結果に基づいて、軸外の二回非点収差が補正されるように転送レンズ系34の励磁を変化させる制御を行う。第1転送レンズ系制御部49aは、第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの両方を励磁が強くなるように変化させる、または第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bの両方を励磁が弱くなるように変化させる。
【0153】
第2計測部48bは、軸上収差を計測する処理を行う。第2計測部48bは、例えば、ディフラクトグラムタブローを作成して、軸上収差を計測する。第2計測部48bは、照射系の偏向コイル(軸合わせ用コイル13)および撮像装置22を制御して、入射ビームを1〜2度程度傾け、方位角を次々に変えて撮影してアモルファス像を取得する処理を行う。そして、第2計測部48bは、複数のアモルファス像をフーリエ変換して複数のアモルファス像に対応する複数のディフラクトグラムを取得し、軸上収差を計測する。
【0154】
第2転送レンズ系制御部49bは、第2計測部48bの計測結果に基づいて、スリーローブ収差が補正されるように転送レンズ系34の励磁を変化させる制御を行う。第2転送レンズ系制御部49bは、第1転送レンズ34aおよび第2転送レンズ34bのうちの一方を励磁が強くなるように変化させて、他方を励磁が弱くなるように変化させる。
【0155】
ここで、第2転送レンズ系制御部49bがスリーローブ収差を補正するために転送レンズ系34の励磁を変化させたことにより、再び軸外の二回非点収差が導入される場合がある。そのため、判定部49cは、軸外の二回非点収差が補正されたか否かを判定する処理を行う。
【0156】
判定部49cは、例えば、複数のディフラクトグラムに基づき定量化された軸外の二回非点収差の三回対称成分の定量値に基づいて判定を行う。判定部49cは、軸外の二回非点収差の三回対称成分の定量値が所定値以下の場合に軸外の二回非点収差が補正されたと判断し、所定値より大きい場合に軸外の二回非点収差が補正されていないと判断する。
【0157】
3.2. 透過電子顕微鏡の動作
次に、第3実施形態に係る透過電子顕微鏡300の動作について説明する。本実施形態
では、第1計測部48a、第2計測部48b、第1転送レンズ系制御部49a、および第2転送レンズ系制御部49bによって、軸外の二回非点収差の補正が行われる。すなわち、透過電子顕微鏡300では、自動で、軸外の二回非点収差の補正を行うことができる。
【0158】
図21は、第3実施形態に係る透過電子顕微鏡300の動作の一例を示すフローチャートである。
【0159】
例えば、ユーザーが操作部50を介して処理部40に収差補正の開始を要求すると、処理部40は操作部50からの操作信号を受け付けて収差補正処理を開始する。
【0160】
まず、第1計測部48aが軸外の一次収差を計測する処理を行う(ステップS300)。
【0161】
次に、第1転送レンズ系制御部49aが、第1計測部48aの計測結果に基づいて、軸外の二回非点収差が補正されるように転送レンズ系34の励磁を変化させる制御を行う(ステップS302)。
【0162】
次に、第2計測部48bが軸上収差を計測する処理を行う(ステップS304)。
【0163】
次に、第2転送レンズ系制御部49bが、第2計測部48bの計測結果に基づいて、スリーローブ収差が補正されるように転送レンズ系34の励磁を変化させる制御を行う(ステップS306)。
【0164】
次に、判定部49cは、軸外の二回非点収差が補正されたか否かの判定を行う(ステップS308)。
【0165】
軸外の二回非点収差が補正されていないと判断された場合(ステップS308でNoの場合)、再び、ステップS300に戻って、ステップS300〜ステップS308の処理を行う。
【0166】
一方、軸外の二回非点収差が補正されたと判断された場合(ステップS308でYesの場合)、処理部40は処理を終了する。
【0167】
以上の処理により、軸外の二回非点収差を補正することができる。
【0168】
透過電子顕微鏡300は、例えば、以下の特徴を有する。
【0169】
透過電子顕微鏡300は、軸外の一次収差を計測する第1計測部48aと、第1計測部48aの計測結果に基づいて、軸外の二回非点収差が補正されるように転送レンズ系34の励磁を変化させる制御を行う第1転送レンズ系制御部49aと、を含む。そのため、透過電子顕微鏡300では、軸外の二回非点収差を補正することができる。また、透過電子顕微鏡300では、軸外の二回非点収差を自動で補正することができるため、容易に軸外の二回非点収差の補正を行うことができる。
【0170】
透過電子顕微鏡300は、さらに、軸上収差を計測する第2計測部48bと、第2計測部48bの計測結果に基づいて、スリーローブ収差が補正されるように転送レンズ系34の励磁を変化させる制御を行う第2転送レンズ系制御部49bと、を含む。そのため、透過電子顕微鏡300では、軸外の二回非点収差を補正することにより導入されるスリーローブ収差を補正することができる。また、透過電子顕微鏡300では、スリーローブ収差を自動で補正することができるため、容易にスリーローブ収差の補正を行うことができる
。
【0171】
なお、上記では、透過電子顕微鏡300が二段の多極子32a,32bを有する収差補正装置30を含んで構成されている例について説明したが、透過電子顕微鏡300は三段の多極子32a,32b,32cを有する収差補正装置230を含んで構成されていてもよい。この場合でも、透過電子顕微鏡300では、上記と同様に、軸外の二回非点収差の補正の自動化が可能である。
【0172】
また、上記では、処理部40が、
図21に示すフローチャートに従って収差補正処理を行う例について説明したが、処理部40は
図3に示すフローチャートに従って収差補正処理を行ってもよい。このとき、
図3に示すステップS100、ステップS102、ステップS106、ステップS108の処理は、それぞれ
図21に示すステップS300、ステップS302、ステップS304、ステップS306の処理と同様に行われてもよい。また、
図3に示すステップS104、ステップS110、ステップS112の処理は、判定部49cが行ってもよい。
【0173】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0174】
上述した第1実施形態では、収差補正装置30が二段の多極子を有する場合について説明し、第2実施形態では、収差補正装置30が三段の多極子を有する場合について説明したが、収差補正装置が四段以上の複数段の多極子を有する場合についても、本発明に係る収差補正方法を同様に適用できる。
【0175】
また、上述した実施形態では、収差補正装置30,230の各多極子が三回場(三回対称場)を発生させる例について説明したが、収差補正装置30,230の各多極子が発生させる場は、上述したようにN回場であってもよい。各多極子が発生させる場が三回場でない場合、軸外の二回非点は三回以外の対称性を持つ場合がある。各多極子が発生させる場が三回場でない場合、転送レンズ系の励磁を変化させて軸外の二回非点収差を補正したときにスリーローブ収差以外の軸上収差が導入される場合がある。このような場合であっても、上述した各多極子が発生させる場が三回場である場合と同様に、本発明に係る収差補正方法を適用できる。
【0176】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。