(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647891
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】網膜血管血栓除去用器具
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20200203BHJP
【FI】
A61F9/007 130Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-18614(P2016-18614)
(22)【出願日】2016年2月3日
(65)【公開番号】特開2017-136193(P2017-136193A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2019年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】316001445
【氏名又は名称】浅見 哲
(74)【代理人】
【識別番号】100082913
【弁理士】
【氏名又は名称】長野 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100202706
【弁理士】
【氏名又は名称】長野 克彦
(72)【発明者】
【氏名】浅見 哲
【審査官】
近藤 利充
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2002/0087128(US,A1)
【文献】
特開2014−050552(JP,A)
【文献】
中国実用新案第201055468(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜の血管内の血栓を除去するための眼科用手術器具であって、
使用者が把持する把持部と、
前記把持部の先端に設けられた、眼内に挿入される、管状部材で構成された眼内挿入部と、
前記眼内挿入部の先端に設けられた、網膜の血管内に挿入される針管と、
前記眼内挿入部及び前記針管に内挿された、軸方向にスライド移動可能な、中実な円柱であり、先端面が丸みを帯びた形状である線状体部と、
前記把持部に設けられた操作体とからなり、
前記操作体を操作して前記線状体部を軸方向にスライド移動させることにより、前記線状体部を前記針管の先端から出没可能に構成した突出長調整手段を備えていることを特徴とする器具。
【請求項2】
前記操作体として、前記把持部の側壁に前後方向に延びるスライド孔を形成すると共に前記スライド孔にスライド操作部を配設し、前記スライド操作部をスライド操作することにより、前記線状体部を軸方向にスライド移動させることを特徴とする請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記針管が、湾曲していることを特徴とする請求項1または2に記載の器具。
【請求項4】
前記線状体部と一体として移動する補強部を有し、前記補強部が前記操作体と連結していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の器具。
【請求項5】
前記線状体部が、血管の湾曲形状に応じて弾性的に湾曲することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の器具。
【請求項6】
前記線状体部がニチノールで形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜血管血栓除去用器具に関するものである。本発明による網膜血管血栓除去用器具は、主に網膜静脈分枝閉塞症の治療に使用するが、網膜中心静脈閉塞症や、網膜中心動脈閉塞症、網膜動脈分枝閉塞症等にも使用可能であると考えられる。
【背景技術】
【0002】
網膜血管閉塞症は、網膜の動脈が閉塞する網膜動脈閉塞症と、網膜の静脈が閉塞する網膜静脈閉塞症に分かれる。網膜動脈閉塞症は、視神経内の網膜中心動脈が閉塞し網膜全体が虚血に陥る網膜中心動脈閉塞症と、網膜内の網膜動脈分枝が閉塞し網膜が部分的に虚血に陥る網膜動脈分枝閉塞症とに分かれる。また、網膜静脈閉塞症は、視神経内の網膜中心静脈が閉塞し出血をおこす網膜中心静脈閉塞症と、網膜内の網膜静脈分枝が閉塞し出血をおこす網膜静脈分枝閉塞症とに分かれる。従来より、網膜動脈閉塞症に対しては、眼球マッサージ、血管拡張剤や血栓溶解剤の投与、前房穿刺などが試みられていた。また、網膜静脈分枝閉塞症に対しては、血管内血栓の溶解を目的とした組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)の点滴や、網膜動静脈交叉部での動脈による静脈圧迫の解除を目的にした硝子体術中の網膜血管鞘切開(シーソトミー)が試みられていた。また、最近では、特に網膜中心静脈閉塞症に対して、幅50ミクロンの極小ニードルで網膜中心静脈内に穿刺し、tPAを注入し血栓を溶かす治療が試みられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
網膜静脈閉塞症に対しては、従来の技術である、血栓溶解剤であるtPAの点滴や、極小ニードルによる血栓溶解剤の網膜中心静脈への直接注入は、酵素による溶解作用に期待して行う治療であり、実際にどの程度血栓を溶かすことができているのか不明であった。
また、網膜動静脈交叉部での網膜血管鞘切開は、静脈への動脈の圧迫を解除しているのみであり、静脈内の血栓を除去することはできなかった。
網膜動脈閉塞症に対しては、眼球マッサージ、血管拡張剤や血栓溶解剤の投与、前房穿刺では、血管内にできた血栓を多少動かすことはできても取り除くことは難しかった。
【0004】
本発明は、針管の中にニチノール等の柔軟性のある細長い線状体部が収められており、針が血管内に挿入された後に前記線状体部を血管内に挿入していくことで、物理的に直接血管内血栓を押し出し除去することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、下記の網膜血管血栓除去用器具を提供するものである。
【0006】
(1)網膜の血管内の血栓を除去するための眼科用手術器具であって、使用者が把持する把持部と、前記把持部の先端に設けられた、眼内に挿入される、管状部材で構成された眼内挿入部と、前記眼内挿入部の先端に設けられた、網膜の血管内に挿入される針管と、前記眼内挿入部及び前記針管に内挿された、軸方向(前後方向)にスライド移動可能な線状体部と、前記把持部に設けられた操作体とからなり、前記操作体を操作して前記線状体部を軸方向にスライド移動させることにより、前記線状体部を前記針管の先端から出没可能に構成した突出長調整手段を備えていることを特徴とする器具(請求項1)。
【0007】
(2)前記操作体として、前記把持部の側壁に前後方向に延びるスライド孔を形成すると共に前記スライド孔にスライド操作部を配設し、前記スライド操作部をスライド操作することにより、前記線状体部を軸方向にスライド移動させることを特徴とする請求項1に記載の器具(請求項2)。
【0008】
(3)前記針管が、湾曲していることを特徴とする請求項1または2に記載の器具(請求項3)。
【0009】
(4)前記線状体部と一体として移動する補強部を有し、前記補強部が前記操作体と連結していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の器具(請求項4)。
【0010】
(5)前記線状体部が、血管の湾曲形状に応じて弾性的に湾曲することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の器具(請求項5)。
【0011】
(6)前記線状体部がニチノールで形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の器具(請求項6)。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る網膜血管血栓除去用器具は、従来の治療よりも、血管内血栓を物理的に除去することにより、より確実に血栓閉塞状態を改善させることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る網膜血管血栓除去用器具の全体像の一構成例の平面図。
【
図2】本発明に係る網膜血管血栓除去用器具の全体像の一構成例の側面図。
【
図3】本発明に係る網膜血管血栓除去用器具の全体像の一構成例の断面図。
【
図4】本発明に係る網膜血管血栓除去用器具の先端部分を示す断面図。
【
図5】本発明に係る網膜血管血栓除去用器具の針管を示す平面図。
【
図6】本発明に係る網膜血管血栓除去用器具の要部の断面図。
【
図7】本発明に係る網膜血管血栓除去用器具の要部の断面図。
【
図8】本発明に係る網膜血管血栓除去用器具を用いた硝子体手術の様子の例を示す図。
【
図9】本発明に係る網膜血管血栓除去用器具を、網膜の血管内に挿入し、血栓の除去治療を行う状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る網膜血管血栓除去用器具1は、使用者が把持する把持部2と、前記把持部2の先端に設けられた、眼内に挿入される、管状部材で構成された眼内挿入部3と、前記眼内挿入部3の先端に設けられた、網膜の血管内21に挿入される針管5と、前記眼内挿入部3及び前記針管5に内挿された、軸方向にスライド移動可能な線状体部7と、前記把持部2に設けられた操作体18とからなり、前記操作体18を操作して前記線状体部7を軸方向にスライド移動させることにより、前記線状体部7を前記針管5の先端から出没可能に構成した突出長調整手段を備えていることを特徴としている。
【0015】
眼内挿入部3は、硝子体手術の際に眼球内に挿入される部分である。眼内挿入部3は、
図1及び
図2のようにまっすぐに伸びる形状が好ましいが、湾曲していても良い。眼内挿入部3は、スライド可能な線状体部7を内挿することが可能なよう、管状部材で形成されている。また、眼内挿入部3は好ましくは金属製であるべきである。眼内挿入部3は、最も好ましくは27ゲージ程度(直径0.36mm)が良いが、とくに限定は無い。また、長さは、31mm程度が良いが、これも特に限定はない。眼内挿入部3の先端部4は、
図5のように先細状の円錐台形状とすることも可能である。
【0016】
針管5は、網膜の血管内21に挿入される部分である。針管5は、直線状の形状であっても良いが、好ましくは
図5のように曲線状の形状とすべきである。曲線状の形状であったほうが前記針管5を血管内21に挿入しやすいためである。なお、使用者から針管5の刃面6aが見やすいよう、
図5に示す如く刃面6aが針管5における曲線形状の内方、すなわち
図5における略上方、に臨むよう針管5を構成することが望ましい。器具の軸の中心に対して30度〜90度程度、好ましくは60度程度の曲線形状が良いが、挿入したい血管の位置などにより好ましい角度は変化する。よって、持針器等で上記針管5の曲がりの角度は微調整可能なものとする。また、針管5の先端6の刃面6aの傾斜角度は30度〜45度程度が好ましいと考えられるが、網膜の血管内21に挿入しやすい角度であれば特に限定されない。針管5は、スライド可能な線状体部7を内挿することが可能なよう、管状部材で形成されている。そして、針管5は、好ましくは金属製であるべきである。また、針管5は、好ましくは外径0.08mm程度の太さであり、好ましくは5mm程度の長さが良いが、特に限定はない。
【0017】
把持部2は、硝子体手術の際に使用者が片手で持ち操作する部分である。把持部2は、樹脂あるいは金属で構成されている。把持部2は、好ましくは円筒状に形成され、先端部12は、
図1のように先細状の円錐台形状とすることも可能である。また、把持部2には
図1のように使用者が手で持ち操作するときに滑らないよう、外周部に滑り止め部分2aを設けることも可能である。
【0018】
線状体部7は、網膜の血管内21に挿入され、
図9のごとく血栓22を物理的に押し出すためのものである。線状体部7は、好ましくは中実の円柱であり、先端面8は、丸みを帯びた形状であるべきである。これにより、網膜の血管内21に挿入された際に血管内皮を傷つけることなく、血栓22を除去できる。線状体部7は、一例として、超弾性と形状記憶能力がある素材、すなわち、湾曲と屈曲とに耐えかつ恒久的に変形することなくその当初の形状に戻る素材が好ましい。また、生体適合性材料であることも必要である。このような素材として、ニチノールが挙げられる。医療機器にニチノールを使用することは公知である。ニチノール以外の素材であっても良いが、ニチノールと同様に弾性または超弾性と形状記憶能力を有し、生体適合性があるものが好ましい。例えばある種の合成プラスチック材や合金などのような材料でも利用できる。
【0019】
本発明に係る網膜血管血栓除去用器具1を血管が湾曲している部位に使用することもある。この点、上述のニチノール等の超弾性素材は、血管の湾曲形状に応じて弾性的に湾曲する柔軟性を有している。ここで、網膜中心静脈閉塞症の治療に本発明に係る網膜血管血栓除去用器具1を使用する際、網膜静脈分枝に針管5を挿入し、線状体部7を網膜中心静脈へ向けてすすめていくことになるのであるが、途中、視神経乳頭部において血管が大きく湾曲している。また、同様に、網膜中心動脈閉塞症の治療に本発明に係る網膜血管血栓除去用器具1を使用する際、網膜動脈分枝に針管5を挿入し、線状体部7を網膜中心動脈へ向けてすすめていくことになるのであるが、途中、視神経乳頭部において血管が大きく湾曲している。前記網膜中心静脈閉塞症及び網膜中心動脈閉塞症の治療に本発明に係る網膜血管血栓除去用器具1を使用する場合、線状体部7は、前記湾曲部を通過する際、下方すなわち眼球の奥の方向へ90度程度湾曲する必要がある。よって、前記網膜中心静脈閉塞症及び網膜中心動脈閉塞症の治療に本発明に係る網膜血管血栓除去用器具1を使用する際には、線状体部7にはできるだけ柔軟性の高い素材を使用するのが好ましい。また、前記血管湾曲部において血管内皮を傷つけることが無いよう、前記先端部7aの部分のみ、線状体部7の他の部位と比べ柔軟性のある素材で構成されていても良いし、前記先端部7aに、柔軟性があり丸みを帯びた形状のキャップ状のものが固着されていても良い。
【0020】
前記線状体部7は、前記操作体18と連結し、使用者が操作体18を操作することにより、前記線状体部7が前記針管5の先端6から突出した状態および収納された状態とをとり得るように構成されている。
【0021】
前記線状体部7が前記針管5の先端6から突出した長さは、最長で3〜5mm程度が好ましいが、挿入したい血管の部位などにより好ましい長さは変化するため、これに限定されない。また、線状体部7の太さは直径0.06mm程度が好ましいが、挿入したい血管の部位などにより好ましい太さは変化するため、これに限定されない。
【0022】
線状体部7は、
図3のごとく器具の後端13近くまで伸びていても良いが、必ずしも後端13近くまで伸びる必要はなく、操作体18を操作することにより線状体部7の突出された長さを調節できる構造であれば、線状体部7の長さは限定されない。また、線状体部7は、少なくとも針管5の先端6から突出可能な範囲は上述のニチノール等の素材であるべきであるが、必ずしも全長にわたって同一の素材である必要はなく、突出可能な範囲以外の素材は別の素材であっても良い。また、突出可能な範囲であっても、先端部7aの部分のみ、さらに柔軟性のある素材で構成されていても良いし、前記先端部7aに、柔軟性があり丸みを帯びた形状のキャップ状のものが固着されていても良い。
【0023】
前記操作体18として、好ましくは、前記把持部2の側壁に前後方向に延びるスライド孔17を形成すると共に前記スライド孔17にスライド操作部11を配設し、前記スライド操作部11をスライド操作することにより、前記線状体部7を軸方向にスライド移動させることができるように構成する。
【0024】
硝子体手術では、使用者が片手で把持部2を持ち操作する必要があり、前記線状体部7は、簡単な操作でスライドできる構成が好ましい。上記構成によれば、使用者による操作が容易である。
【0025】
スライド操作部11等の操作体18と線状体部7は直接連結していても良いが、好ましくは、線状体部7の補強の為、前記線状体部7と一体として移動する補強部19を有し、前記補強部19が前記操作体18と連結しているように構成する。
【0026】
補強部19は、好ましくは円筒体で構成され、前記線状体部7を前記円筒体に貫通させ一体として移動するよう該円筒体に固着させる。すなわち、補強部19は把持部2内に前後方向に形成された中心孔23内を線状体部7と一体的に進退する。補強部19を構成する円筒体は、一例として、
図3及び
図6のように、線状体部7に直接固着する第一円筒体9と、その周囲に構成され前記第一円筒体9に固着された第二円筒体10との二重構造として構成されていても良い。
【0027】
前述のスライド操作部11は、把持部2に対して摺動可能に設けられ、前記把持部2の外部に表出するよう設けられている。スライド操作部11は、前記線状体部7または前記補強部19と固着するが、一例として、前記線状体部7または前記補強部19の周囲に構成され、前記線状体部7または前記補強部19と固着している円環部16と、把持部2の外部に露出するよう配置されて指先で操作される指先操作部14と、前記円環部16と前記指先操作部14を連結する連結部15とからなり、前記連結部15と前記指先操作部14とが、把持部2の側壁に前後方向に延びるよう設けられたスライド孔17内において連結される。
【0028】
図3に示す事例においては、補強部19における第二円筒体10の前端10aと、把持部2の先端部12に固定された眼内挿入部3の後端3bとの間の前記中心孔23内に第一スペース24が形成され、補強部19における第一円筒体9の先端9aと、眼内挿入部3の前端3aに固定された針管5の後端5bとの間の前記眼内挿入部3内に第二スペース25が形成され、中心孔23内において該第二円筒体10が眼内挿入部3の後端3bに接離する方向に進退したときに第一円筒体9が針管5の後端5bに接離する方向に進退し、線状体部7が針管5から出没する。すなわち、第一スペース24の最大長さと、第二スペース25の最大長さと、スライド孔17内における指先操作部14が進退し得る最大距離とはそれぞれ略同一であり、これらの最大長さないし最大距離の範囲内で線状体部7が進退する。
【0029】
図8は、本発明に係る網膜血管血栓除去用器具1を用いた硝子体手術の様子の一例を示す図である。使用者は、把持部2を持ち、眼内挿入部3を眼球20の内部に挿入し、針管5を網膜の血管内21に挿入し、スライド操作部11をスライド操作させることにより、線状体部7を血管内21に進展させ、網膜の血管内21の血栓22を除去する。
【符号の説明】
【0030】
1 網膜血管血栓除去用器具
2 把持部
3 眼内挿入部
5 針管
7 線状体部
11 スライド操作部
17 スライド孔
18 操作体
19 補強部