特許第6647902号(P6647902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ファンケルの特許一覧

<>
  • 特許6647902-徐放性顆粒剤 図000005
  • 特許6647902-徐放性顆粒剤 図000006
  • 特許6647902-徐放性顆粒剤 図000007
  • 特許6647902-徐放性顆粒剤 図000008
  • 特許6647902-徐放性顆粒剤 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647902
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】徐放性顆粒剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/375 20060101AFI20200203BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20200203BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20200203BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20200203BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   A61K31/375
   A61K9/16
   A61K47/34
   A61K47/38
   A61P3/02 107
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-25038(P2016-25038)
(22)【出願日】2016年2月12日
(65)【公開番号】特開2017-81894(P2017-81894A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-213971(P2015-213971)
(32)【優先日】2015年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】串岡 拓也
(72)【発明者】
【氏名】中村 達雄
【審査官】 山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/072908(WO,A1)
【文献】 特表2009−519326(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/034254(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/375
A61K 9/16
A61K 47/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースとポリグリセリン脂肪酸エステルから構成されるマトリックス中にアスコルビン酸パルミテートの粉末粒子が分散し、薬剤の0次放出プロファイルを有するアスコルビン酸含有顆粒剤であって、
含有するヒドロキシプロピルメチルセルロースの粘度が2質量%の水溶液に調製したとき400mPa・s〜4000mPa・sを示すものであり、
アスコルビン酸パルミテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとポリグリセリン脂肪酸エステルがそれぞれ質量比で1:0.056〜1.2:0.056〜1.2の比率で含有するアスコルビン酸含有顆粒剤。
【請求項2】
以下の工程からなるアスコルビン酸パルミテートの0次放出プロファイルを有する請求項1に記載の顆粒剤の製造方法。
(1)ポリグリセリン脂肪酸エステルを加熱溶融させる工程。
(2)加熱溶融したポリグリセリン脂肪酸エステルに同質量の2質量%の水溶液に調製したとき400mPa・s〜4000mPa・sの粘度を持つヒドロキシプロピルメチルセルロースとアスコルビン酸パルミテートの粉末を添加し、アスコルビン酸パルミテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとポリグリセリン脂肪酸エステルがそれぞれ質量比で1:0.056〜1.2:0.056〜1.2の比率になるように混合する工程。
(3)工程(2)で得た混合物を冷却する工程。
(4)工程(3)で得た冷却物を粉砕し、篩別して顆粒剤を得る工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、徐放性顆粒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アスコルビン酸もしくはその塩は(以下アスコルビン酸)、生体内の酵素の働きを活発にし、また副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモン、コリン等の働きを賦活する。さらには、血管壁を緻密にして強化し、血小板の生成を促し、またトロンビン作用を賦活し、出血防止や止血に関る生体ホメオスタシスを維持し、メラニンの生成を抑制して色素の沈着を防ぐなどさまざまな効果を有している。
【0003】
アスコルビン酸がさまざまな原因により生体内に不足すると、壊血病、小児におけるメルレルバロー病、アジソン病のようなホルモン失調、栄養低下、脱力などの疾病が起こる。また、血管壁の脆弱化、骨、歯牙の発育の遅延、さらには免疫、抗体産生能力や感染に対する抵抗力、創傷の治癒能力の低下を引き起こす。
【0004】
具体的な症状としては、口内炎、歯齦炎、腎炎、腎出血、胃出血、腸出血等の炎症及び出血、肺結核、肺炎、風邪、脳炎、リウマチ、癌等の疾患、さらにはアレルギー中毒、軽微感染症等の疾患等、多方面にまたがる。
【0005】
しかし、ヒトにあってはアスコルビン酸を生体内で合成することができないため、これらの疾患を予防するためには日常的にアスコルビン酸を食物や製剤として摂取しなければならない。
一方、アスコルビン酸は、体内に高濃度に長くとどまることがなく、一定濃度以上を投与しても吸収されずに体外へ排泄される。特に、注射による投与は、速効性を期待する場合以外は、経口投与よりさらに体内残留時間が短く、投与方法が煩雑である等の理由から、アスコルビン酸の投与は経口投与が一般的とされている。しかし、経口投与の場合も投与量がある一定の濃度に達すると、それ以上の吸収は望めなくなり、その生物学的利用価値は低下する。このような問題を解決するため脂溶性アスコルビン酸が開発されている。
【0006】
代表的な脂溶性アスコルビン酸であるアスコルビン酸パルミテートは、アスコルビン酸と脂肪酸であるパルミチン酸のエステル体である。通常のアスコルビン酸が水溶性であるのに対して、脂溶性であるため、吸収された場合体の外に排出されにくく、長時間にわたって体内でアスコルビン酸として作用する。このため、アスコルビン酸の供給源として広く利用されている。
特許文献1には、水溶性アスコルビン酸とアスコルビン酸パルミテートを含む製剤が、経口投与においてアスコルビン酸の吸収性を相乗的に改善することが記載されている。
特許文献2には、アスコルビン酸、アスコルビン酸を食用油脂でコーティングした顆粒、アスコルビン酸パルミテートを配合すると、アスコルビン酸の吸収が良く、しかも持続性が改善することが記載されている。
【0007】
経口投与された製剤は、消化管内で崩壊し、製剤の有効成分が一挙に放出されて吸収される。このような製剤の崩壊による成分の放出を制御する技術は「徐放化」と呼ばれている。徐放化には、様々な方法が考案されている。たとえばゆっくり溶解する物質やマトリックスの利用、ナノ粒子、ミクロ球、膜の利用などが上げられる(非特許文献1参照)。薬剤の透過を制御できる膜あるいは膜物質を徐放の目的に使用した製剤は、0次放出と呼ばれる薬剤の放出−時間曲線が直線的なプロファイルを示すことが知られている。このようなプロファイル(放出−時間曲線)を示す製剤は、持続的に吸収されるため、安定な血中濃度を維持できる。
特許文献3には、薬物を含有する内核とこの内核に埋め込んだ円筒栓と、部分的に該内核を被覆する薬物不透性の被膜からなる0次放出の錠剤が記載されている。また、特許文献4には、水溶性薬剤とカルボキシビニルポリマーを含む水膨潤性ゲル形成剤を含む核錠に放出制御のために膜を形成した錠剤が記載されている。これらの先行技術の発明は、いずれも製造に特別な技術を必要としている。
また、特許文献5には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが徐放性錠剤を調製するための徐放化剤として適していることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−049670号公報
【特許文献2】特開2014−034529号公報
【特許文献3】特表2005−502625号公報
【特許文献4】特開2002−068964号公報
【特許文献5】特開平06−172161号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】妹尾学・黒柳能光、油化学、34巻10号806〜813ページ、1985年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、アスコルビン酸の徐放化の研究を行う過程で、脂溶性アスコルビン酸であるアスコルビン酸パルミテートと水溶性アスコルビン酸をアスコルビン酸の供給源とする錠剤は、体内持続性と吸収性が高いことを見いだし、すでに特許文献1、特許文献2の発明を特許出願している。さらに、吸収性と持続性を高めたアスコルビン酸製剤を検討する過程で、薬剤の0次放出プロファイルを有する顆粒剤の構成を見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、0次放出プロファイルを有する顆粒剤を提供することを課題とする。また本発明は、アスコルビン酸パルミテートの0次放出プロファイルを有する顆粒剤を提供することを課題とする。さらに、本発明は0次放出プロファイルを有する顆粒剤の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の主な構成は以下の通りである。
1.ヒドロキシプロピルメチルセルロースとポリグリセリン脂肪酸エステルから構成されるマトリックス中にアスコルビン酸パルミテートの粉末粒子が分散し、薬剤の0次放出プロファイルを有するアスコルビン酸含有顆粒剤であって、
含有するヒドロキシプロピルメチルセルロースの粘度が2質量%の水溶液に調製したとき400mPa・s〜4000mPa・sを示すものであり、
アスコルビン酸パルミテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとポリグリセリン脂肪酸エステルがそれぞれ質量比で1:0.056〜1.2:0.056〜1.2の比率で含有するアスコルビン酸含有顆粒剤。
2.以下の工程からなるアスコルビン酸パルミテートの0次放出プロファイルを有する1.に記載の顆粒剤の製造方法。
(1)ポリグリセリン脂肪酸エステルを加熱溶融させる工程。
(2)加熱溶融したポリグリセリン脂肪酸エステルに同質量の2質量%の水溶液に調製したとき400mPa・s〜4000mPa・sの粘度を持つヒドロキシプロピルメチルセルロースとアスコルビン酸パルミテートの粉末を添加し、アスコルビン酸パルミテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとポリグリセリン脂肪酸エステルがそれぞれ質量比で1:0.056〜1.2:0.056〜1.2の比率になるように混合する工程。
(3)工程(2)で得た混合物を冷却する工程。
(4)工程(3)で得た冷却物を粉砕し、篩別して顆粒剤を得る工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、薬剤の0次放出プロファイルを有する顆粒剤が得られる。また本発明の顆粒剤は、徐放化されているため、経口投与における作用が持続する。そして、本発明の顆粒剤は、一般的に消化管内滞留時間である360分の間に、持続的に有効成分の80〜90%が放出されるため、極めて効率的な持続性製剤とすることができる。また、アスコルビン酸製剤にあっては、持続性の高いアスコルビン酸製剤を得ることができる。
さらに、本発明により0次放出プロファイルを有する顆粒剤を簡便に調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】試験例1〜6の顆粒剤の溶出試験結果を示すグラフである。
図2】試験例7〜12の顆粒剤の溶出試験結果を示すグラフである。
図3】試験例13〜17の顆粒剤の溶出試験結果を示すグラフである。
図4】試験例18〜22の顆粒剤の溶出試験結果を示すグラフである。
図5】試験例23〜27の顆粒剤の溶出試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下HPMCと略記する)とポリグリセリン脂肪酸エステル粉末から構成されるマトリックス中に薬剤の粉末粒子が分散しており、薬剤の0次放出プロファイルを有する顆粒剤及びその製造方法に係る発明である。
本発明における0次放出プロファイルとは、例えば日本薬局方に定められた溶出試験を行ったとき、X軸に時間、Y軸に溶出液中の薬剤濃度を設定し、溶出液中の薬剤濃度をプロットすると、ほぼ正の一次直線が描かれるような溶出特性を示すことをいう。
本発明の顆粒剤とは、第十六改正日本薬局方製剤総則に定められている顆粒剤であって、細粒剤を含み、発泡性顆粒剤は除く。
【0015】
本発明の顆粒剤を構成する成分について説明する。
本発明で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、植物油由来のグリセリンを脱水縮合したポリグリセリンと植物油由来の脂肪酸をエステル結合させた食品用乳化剤である。食品用として使用されているものであってHLBが2〜10のものが好ましい。また構成脂肪酸はステアリン酸及びオレイン酸であるものが良い。特にポリグリセリン脂肪酸エステルのうち、高エステル化品が好ましい。市販されている製品としては、太陽化学株式会社製のTAISET50あるいはTAISET26を例示できる。
【0016】
本発明に用いるHPMCは、メチルセルロースにヒドロキシプロポキシル基を導入したセルロースエーテルであり、水溶性のセルロース誘導体である。HPMCは薬物の徐放性基材として知られているが、本発明の試験例で示すように、ポリグリセリン脂肪酸エステルと組み合わせることで薬剤の溶出をコントロールできることは知られていない。本発明に用いるHPMCのメトキシル基の置換度が19〜30重量%、ヒドロキシプロポキシル基の置換度が4〜12重量%であるものが好ましい。また20℃における2%水溶液の粘度は6mPa・s以上であるとよい。なお、HPMCの2%水溶液の粘度と0次放出の持続時間は、本発明者が測定したところアスコルビン酸パルミテートについては、400〜4000mPa・sのものを選択すると約360分で90%が放出されるため、経口投与に適していることが判明している。しかし目的とする薬剤の溶解性や分子量によって異なることが考えられるため、HPMC2%水溶液の粘度は、薬剤の徐放化にあたって慎重に選択する必要がある。また、本発明においては、徐放化製剤は、HPMCがポリグリセリン脂肪酸エステル中に分散した状態で存在しており、消化管内の水分によってゲル化してポリグリセリンと共存することで、薬剤を最適速度で0次放出し徐放化する。このため、HPMCはできるだけ小さな粉末とすることが好ましい。通常は100メッシュの篩を通過するHPMCの粉末が95%以上になるようにしておくことが好ましい。本発明の目的に適したHPMCは、食品添加物用としても市販されている。このようなHPMCとしては、信越化学工業株式会社製のHPMC メトローズ SE06、メトローズ SE50、メトローズ NE100、メトローズ SFE400、メトローズ NE4000、メトローズSFE4000を例示することができる。
なお、このようなHPMCのみを徐放化剤として含む徐放性剤は、体内に服用されると中に含有されているHPMCが急速に水和して膨潤し、ゲル層を形成し、徐放効果を発揮すると言われている。しかし、以下の試験例で示すように、本発明者は、HPMCのみでは、薬剤が0次放出されないことを確認している。
【0017】
本発明において、ポリグリセリン脂肪酸エステルを、HPMC及び薬剤を均一に分散した状態に調製する。すなわち、あらかじめポリグリセリン脂肪酸エステルの融点付近の温度でポリグリセリン脂肪酸エステルを加熱溶融し、液体状態としたのち、これにHPMCと薬剤を混合し、これを冷却して薬剤及びHPMCの分散したポリグリセリン脂肪酸エステルを得る。この固形物を粉砕して、16〜30メッシュの顆粒剤とする。あるいは、工業的大規模で調製する場合は、市販の加熱溶融造粒装置、例えば三軸混練造粒装置(トリプルマスターTMGV−5:株式会社品川工業所製)を用いて混合造粒することもできる。
なお、本発明においてポリグリセリン脂肪酸エステルとHPMCは質量比で、ポリグリセリン脂肪酸エステル1に対してHPMC0.8〜1.2とすることが特に好ましい。
【0018】
本発明で例示するアスコルビン酸パルミテートを含めて、一般的に徐放性錠剤には、1種類以上の薬効成分およびその他の必要な医薬用剤添加剤が含まれる。薬効成分としては、例えばテオフィリン、アスピリン、アセトアミノフェン、エテンザミド、イブプロフェン、ナプロキセン、プロプラノール、メチルドパ、フロセミド、ニフェジピン、ピンドロール、カプトプリル、エリスロマイシン、塩酸プロカインアミド、グルコン酸キニジン、硫酸キニジン、硝酸イソソルビド、ビタミンC、B1、B2、B6、葉酸などのビタミン剤、硫酸第1鉄などの鉄剤、塩化カリウムなどが挙げられる。特に本発明の徐放性錠剤は、溶出速度を遅くできることから徐放性基剤成分は少量で足り、錠剤全体の径を大きくする必要がない。したがって親水性薬効成分を使用する場合、あるいは薬効成分の濃度を高くしなければならない場合にも薬効成分を効果的に含有させることができる。薬効成分の量は、その特性に応じて適宜配合することができる。一般的には、薬効成分とポリグリセリン脂肪酸エステル、HPMCの配合比率は、薬効成分1に対して質量比でポリグリセリン脂肪酸エステル0.056〜1.2、HPMC0.056〜1.2の範囲内で含有させることが好ましい。
【0019】
このような薬効成分とともに必要に応じて医薬用剤添加剤を添加できる。このような添加剤としては、賦形剤、滑沢剤、安定化剤、香料などが挙げられる。賦形剤としては、例えばコーンスターチ、ラクトース、シュクロース、マンノースが挙げられる。滑沢剤としてはステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。滑沢剤は0.5〜3.0質量%の範囲で添加される。
本発明で得られる顆粒剤は、そのまま経口投与することができる。また顆粒の形態であるため、食品や飲料に混合して服用しても0次放出が維持される。
【実施例】
【0020】
以下にアスコルビン酸パルミテート(AP)を薬剤として配合した顆粒剤を用いた試験例を示して本発明をより具体的に説明する。
1.試験例顆粒の調製と評価(試験例1〜6)
(1)ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた徐放性顆粒剤の調製
徐放化成分としてポリグリセリン脂肪酸エステル(PGFE)を用いて徐放性顆粒剤を調製した。
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、太陽化学株式会社製TAISET50を用いた。
アスコルビン酸パルミテート(AP:DSMニュートリションジャパン株式会社)とポリグリセリン脂肪酸エステル(TAISET50:太陽化学株式会社)を下記の表1の比率で配合した顆粒剤を調製した。
【0021】
【表1】
【0022】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを磁性乳鉢に秤量し、HOT PLATE STIRRER SW−600H(株式会社日伸理化)で70〜80℃まで加温後、アスコルビン酸パルミテートを加え、乳棒にて混練し溶融物を得た。
作製した溶融物を室温まで冷却し、乳棒で粉砕後篩別し、16メッシュの篩を通過し30メッシュの篩を通過しない粒子を顆粒物として得た。
【0023】
(2)顆粒剤の溶出試験方法及び放出プロファイルの作成
溶出試験は、第十六改正日本薬局方に記載の溶出試験法(パドル法)に準拠した。
試験液として900mlのメタリン酸溶液(0.05%メタリン酸、0.2% Tween80)を使用し、それぞれ顆粒をアスコルビン酸パルミテート47mgに相当する重量を正確に秤とり、回転数50rpm、試験溶液温度37.2℃にて実施した。10分おきに試験液を、恒温水槽式溶出試験器(NTR−6400A、富山産業株式会社)を用いて、235nmの吸光度から溶出量を測定し、溶出率を求めた。得られた結果を、時間をX軸、溶出率をY軸としてプロットし放出プロファイルを得た。
【0024】
(3)結果
試験例1〜6の放出プロファイルを図1に示した。
試験例1〜6の試料は、いずれも緩やかな0次放出を示したが、360分経過後も溶出率は40%に到達しなかった。これは経口投与剤の吸収可能な消化管に留まる時間(滞留時間)を越えても、40%しか放出されないことを意味している。したがってポリグリセリン脂肪酸エステルは経口投与剤の0次放出の目的には適していないことが確認できた。
【0025】
2.試験例顆粒の調製と評価(試験例7〜12)
(1)HPMCを用いた徐放性顆粒剤の調製
徐放化成分としてHPMCを用いて徐放性顆粒剤を調製した。
HPMCは、信越化学工業株式会社製のHPMC メトローズ SE06(試験例7)、メトローズ SE50(試験例8)、メトローズ NE100(試験例9)、メトローズ SFE400(試験例10)、メトローズ NE4000(試験例11)、メトローズSFE4000(試験例12)を用いた。HPMCの2%水溶液の粘度は下記の表2のとおりである。
アスコルビン酸パルミテートとHPMCを1:1の比率で配合した顆粒剤を調製した。
【0026】
【表2】
【0027】
HPMCを磁性乳鉢に秤量し、HOT PLATE STIRRER SW−600Hで70〜80℃まで加温後、アスコルビン酸パルミテートを加えて、乳棒にて混練し混合物を得た。
作製した混錬混合物を乳棒で粉砕した。粉砕後篩別し、200メッシュパス品を顆粒物として得た。
【0028】
(2)顆粒剤の溶出試験方法及び放出プロファイルの作成
溶出試験は同様に、第十六改正日本薬局方に記載の溶出試験法(パドル法)に準拠した。
試験液は、900mlのメタリン酸溶液(0.05%メタリン酸、0.2% Tween80)を使用し、それぞれ顆粒をアスコルビン酸パルミテート47mgに相当する重量を正確に秤量し、回転数50rpm、試験溶液温度37.2℃にて実施した。10分おきに試験液を、恒温水槽式溶出試験器を用いて、235nmの吸光度から溶出量を測定し、溶出率を求めた。得られた結果を、時間をX軸、溶出率をY軸としてプロットし放出プロファイルを得た。
【0029】
(3)結果
試験例7〜12の放出プロファイルを図2に示した。
試験例7〜12の試料は、いずれも溶出試験開始から速やかに溶出され、時間の経過に対して直線的に溶出率が増加する0次放出がおきないことが確認された。したがってHPMCは経口投与剤の0次放出の目的には適していないことが確認できた。
【0030】
3.試験例顆粒の調製と評価(試験例13〜17)
(1)HPMCとポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた徐放化顆粒の調製
HPMCとポリグリセリン脂肪酸エステルの両方を用いて0次放出製剤を調製した。 HPMCは、信越化学工業株式会社製のHPMC メトローズ SE06(試験例13)、メトローズ SE50(試験例14)、メトローズ NE100(試験例15)、メトローズ SFE400(試験例16)、メトローズ NE4000(試験例17)を用いた。またポリグリセリン脂肪酸エステルとしてTAISET50(太陽化学株式会社)を用いた。
アスコルビン酸パルミテート、HPMC、ポリグリセリン脂肪酸エステルを1:1:1の比率で配合し、顆粒剤を調製した。
【0031】
まずポリグリセリン脂肪酸エステルを磁性乳鉢に秤量し、HOT PLATE STIRRER SW−600Hで70〜80℃まで加温して溶融させた後、同質量のHPMCとアスコルビン酸パルミテートを加えて乳棒にて混練し溶融物を得た。
作製した混錬溶融物を乳棒で粉砕した。粉砕後篩別し、16メッシュの篩を通過し30メッシュの篩を通過しない粒子を顆粒物として得た。
【0032】
(2)顆粒剤の溶出試験方法及び放出プロファイルの作成
溶出試験は同様に、第十六改正日本薬局方に記載の溶出試験法(パドル法)に準拠した。
試験液は、900mlのメタリン酸溶液(0.05%メタリン酸、0.2% Tween80)を使用し、アスコルビン酸パルミテート47mgに相当する顆粒剤を正確に秤量し、回転数50rpm、試験溶液温度37.2℃にて実施した。10分おきに試験液を、恒温水槽式溶出試験器を用いて、235nmの吸光度を測定し、この結果から溶出量を計算し、溶出率を求めた。得られた結果を、時間をX軸、溶出率をY軸としてプロットし放出プロファイルを得た。
【0033】
(3)結果
試験例13〜17の放出プロファイルを図3に示した。
試験例13〜17の試料は、いずれも溶出試験開始から直線的に溶出量が増加する0次放出のプロファイルを示した。溶出率と時間の相関を計算し、図3にR2の値を記載したが、時間経過とアスコルビン酸パルミテートの溶出率の変化は、時間をXとする一次直線で示すことができる1対1の対応があることを確認できた。
なお、試験例16、17の2試料は、試験開始6時間(360分)後に、溶出率90%に到達した。すなわち、2%水溶液の粘度が400mPa・s以上のHPMCをポリグリセリン脂肪酸エステルと併用すると、アスコルビン酸パルミテートの経口投与持続製剤として理想的な0次放出プロファイルを示すことが明らかとなった。
【0034】
4.アスコルビン酸パルミテートの含有量を増加させた試験顆粒の調製と評価(試験例18〜27)
アスコルビン酸パルミテートとポリグリセリン脂肪酸エステル、HPMCの最適な配合比率を決定するため、下記の表3の比率の組成で配合した顆粒剤を調製し、上記の試験と同様に放出プロファイルを得るための試験を行った。
【0035】
【表3】
【0036】
なお、HPMCは、信越化学工業株式会社製のHPMC メトローズ SFE400(試験例18〜22)、メトローズ SFE4000(試験例23〜27)を用いた。またポリグリセリン脂肪酸エステルとしてTAISET50(太陽化学株式会社)を用いた。またアスコルビン酸パルミテートの質量を1としたとき、試験例19と試験例24のポリグリセリン脂肪酸エステル及びHPMCの質量比は1:0.33:0.33となる。同様に試験例20と試験例25のポリグリセリン脂肪酸エステル及びHPMCの質量比は1:0.2:0.2となる。同様に試験例21と試験例26のポリグリセリン脂肪酸エステル及びHPMCの質量比は1:0.125:0.125、同様に試験例22と試験例27のポリグリセリン脂肪酸エステル及びHPMCの質量比は1:0.056:0.056となる。
【0037】
(1)顆粒剤の調製
ポリグリセリン脂肪酸エステルを磁性乳鉢に秤量し、HOT PLATE STIRRER SW−600Hで70〜80℃まで加温して溶融させた後、同質量のHPMCとアスコルビン酸パルミテートを加えて乳棒にて混練し溶融物を得た。
作製した混錬溶融物を乳棒で粉砕した。粉砕後篩別し、16メッシュの篩を通過し30メッシュの篩を通過しない粒子を顆粒物として得た。
【0038】
(2)顆粒剤の溶出試験方法及び放出プロファイルの作成
溶出試験は同様に、第十六改正日本薬局方に記載の溶出試験法(パドル法)に準拠した。
試験液は、900mlのメタリン酸溶液(0.05%メタリン酸、0.2% Tween80)を使用し、アスコルビン酸パルミテート47mgに相当する顆粒剤を正確に秤量し、回転数50rpm、試験溶液温度37.2℃にて実施した。10分おきに試験液を、恒温水槽式溶出試験器を用いて、235nmの吸光度を測定し、この結果から溶出量を計算し、溶出率を求めた。得られた結果を、時間をX軸、溶出率をY軸としてプロットし放出プロファイルを得た。
【0039】
(3)結果
試験例18〜22の放出プロファイルを図4、試験例23〜27の放出プロファイルを図5に示した。
試験例18〜27の試料は、いずれも溶出試験開始から直線的に溶出量が増加する0次放出のプロファイルを示し、時間経過とアスコルビン酸パルミテートの溶出率の変化は、時間とほぼ比例関係があることを確認できた。
また、試験例18〜27の試料は、試験開始6時間(360分)後に、溶出率80%に到達した。すなわち、2%水溶液の粘度が400mPa・s以上のHPMCをポリグリセリン脂肪酸エステルと併用すると、アスコルビン酸パルミテートとHPMC、ポリグリセリンの質量比が1:1:1〜1:0.056:0.056の範囲において、経口投与持続製剤として理想的な0次放出プロファイルを示すことが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5