特許第6647916号(P6647916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6647916水系ポリウレタン組成物及びこの床下地コンクリートへの施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647916
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】水系ポリウレタン組成物及びこの床下地コンクリートへの施工方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/08 20060101AFI20200203BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20200203BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20200203BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20200203BHJP
   C08G 18/64 20060101ALI20200203BHJP
   C08G 18/40 20060101ALI20200203BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20200203BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20200203BHJP
   C09D 1/08 20060101ALI20200203BHJP
   C09D 175/08 20060101ALI20200203BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20200203BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20200203BHJP
   C04B 24/28 20060101ALI20200203BHJP
   E04F 15/12 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   C08G18/08 038
   C08G18/00 C
   C08G18/08 042
   C08G18/42 088
   C08G18/48 079
   C08G18/64 007
   C08G18/40 081
   C08K3/00
   C08L75/04
   C09D1/08
   C09D175/08
   C09D7/63
   C04B28/02
   C04B24/28 Z
   E04F15/12 B
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-39311(P2016-39311)
(22)【出願日】2016年3月1日
(65)【公開番号】特開2017-155128(P2017-155128A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164862
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏一
(72)【発明者】
【氏名】鹿志村 晃太
(72)【発明者】
【氏名】地田 正宏
(72)【発明者】
【氏名】久保田 浩
(72)【発明者】
【氏名】若山 恵英
(72)【発明者】
【氏名】鹿毛 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】高井 賢
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−17024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/08
C04B 24/28
C04B 28/02
C08G 18/00
C08G 18/40
C08G 18/42
C08G 18/48
C08G 18/64
C08K 3/00
C08L 75/04
C09D 1/08
C09D 7/63
C09D 175/08
E04F 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール、ポリイソシアネート、希釈剤、セメント、骨材及び水を含有してなるモルタル状の水系ポリウレタン組成物であって、ポリオールはヒマシ油変性3官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールから成り、希釈剤は安息香酸グリコールエステルを含み、安息香酸グリコールエステルは少なくともジエチレングルコールジベンゾエート又はジプロピレングリコールジベンゾエートのいずれかを含み、ヒマシ油変性3官能ポリオール及びビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールは水酸基当量が250〜450であり、ビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールは水酸基当量が300〜500であり、組成物全体を100重量部とするとセメント及び骨材から成る骨材部は75〜90重量部であり、希釈剤は、ポリオールとポリイソシアネートと希釈剤と水から成る樹脂部100重量部中の7〜25重量部であることを特徴とする水系ポリウレタン組成物。
【請求項2】
硬化物のJIS K 6911の圧縮強度は20N/mm以上であり、収縮応力は1.5N/mm未満であることを特徴とする請求項1記載の水系ポリウレタン組成物。
【請求項3】
床下地コンクリート表面を、連続した凹状の溝部を設けることなく平面に形成し、該床下地コンクリート表面上に請求項1又は請求項2記載の水系ポリウレタン組成物を厚さ4〜9mmに塗付することを特徴とする水系ポリウレタン組成物の床下地コンクリートへの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗床材として適したモルタル状の水系ポリウレタン組成物に関し、詳しくは、ポリオール、ポリイソシアネート、希釈剤、セメント、骨材及び水を含有して成る水系ポリウレタン組成物であって、組成物全体を100重量部とするとセメント及び骨材から成る骨材部は75〜90重量部であるような骨材部の含有量が多い水系ポリウレタン組成物及びこの床下地コンクリートへの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント及び骨材から成る骨材部が組成物全体100重量部中の71重量部程度である組成物を実施例として示し、硬化後の塗膜に剥離や反りが生じないポリマーセメント組成物として、水硬性セメント、水、ポリオール(a)、イソシアネート化合物、及び骨材を必須成分とするポリマーセメント組成物であって、イソシアネート化合物が、ひまし油系ポリオール、ポリブタジエン系ポリオール、及び水添ポリブタジエン系ポリオールから選ばれる疎水性のポリオール(b)とジイソシアネート化合物を反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーを含有することを特徴とする、ポリマーセメント組成物が提案されている(特許文献1)。
【0003】
これに対して、セメント及び骨材の含有量が、組成物全体100重量物に対して83重量部程度のモルタル状の樹脂セメント組成物を実施例として示した耐熱性、耐熱水性及び耐衝撃性を有する樹脂セメント組成物が提案されている(特許文献2)。該樹脂セメント組成物は、分子量が1000〜3000で両末端に水酸基を持ち、側鎖を持つポリエステルポリオールとポリフェニルポリメチルポリイソシアネート並びに水硬性セメントを含む骨材とが配合されていることを特徴とする樹脂セメント組成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−72507号公報
【特許文献2】特開2004−292209号公報
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されるポリマーセメント組成物は混合粘度が5000〜6000cP/20℃であって(特許文献1の実施例参照)、その性状はペースト状であり下地への塗布厚みは5mm程度である。このためセメント及び骨材から成る骨材部が組成物全体100重量部中の75〜90重量部であるようなモルタル状の水系ポリウレタン組成物と比較して、重量物の落下に対する耐衝撃性や、95℃熱水と20℃冷水の繰り返し流下に対する耐熱衝撃性が十分ではないという課題がある。
【0006】
また、特許文献2に示される樹脂セメント組成物は耐熱水性や耐衝撃性は従来のままに維持しながら十分な可使時間を得るものである。該樹脂セメント組成物は、95℃熱水と20℃冷水が繰り返し流下すると、樹脂の硬化反応が徐々にではあるが遂には十分に進むことになって骨材と骨材を結合している樹脂や塗膜表面の樹脂が硬化収縮する。しかし下地コンクリート表面に付着している塗膜は全体として動きが拘束されているため塗膜に大きな収縮応力が発生する。このため該収縮応力が塗膜の端部を下地コンクリートから剥離させることがあり、また下地コンクリートの表層強度が不十分なときには該表層を破壊して塗膜裏面にコンクリートが付着した状態で塗膜の浮きが生じるという課題がある。また逆に骨材と樹脂との付着が不十分な場合は骨材と樹脂との間に付着破壊が生じ、結果として塗膜表面にひび割れが発生するという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、塗膜全体として十分な強度があるため重量物に対する耐衝撃性を有すると共に、塗膜に発生する収縮応力が従来と比して極めて低く、このため従来のように塗膜の端部が下地コンクリートから剥離することが無く、また下地コンクリートの表層強度が不十分なときであっても塗膜の浮きが生じることが無く、さらには塗膜表面にひび割れが発生することがなく、塗膜の色調安定性が良好な水系ポリウレタン組成物を提供することにある。
【0008】
また、同様に塗膜に発生する収縮応力が従来と比して極めて低いため、従来、収縮応力が高い際に下地コンクリート表面に適宜の間隔で凹状の目地部を設けることにより塗膜の裏面の一部を該目地部に噛み合った状態として塗膜端部や塗膜裏面を下地コンクリートに機械的に付着させて剥離等を未然に防止するというような、施工上の余分な工程や工夫を必要としない、施工が容易な水系ポリウレタン組成物及び該水系ポリウレタン組成物の床下地コンクリートへの施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、ポリオール、ポリイソシアネート、希釈剤、セメント、骨材及び水を含有してなるモルタル状の水系ポリウレタン組成物であって、ポリオールはヒマシ油変性3官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールから成り、希釈剤は安息香酸グリコールエステルを含み、安息香酸グリコールエステルは少なくともジエチレングルコールジベンゾエート又はジプロピレングリコールジベンゾエートのいずれかを含み、ヒマシ油変性3官能ポリオール及びビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールは水酸基当量が250〜450であり、ビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールは水酸基当量が300〜500であり、組成物全体を100重量部とするとセメント及び骨材から成る骨材部は75〜90重量部であり、希釈剤は、ポリオールとポリイソシアネートと希釈剤と水から成る樹脂部100重量部中の7〜25重量部であることを特徴とする水系ポリウレタン組成物を提供する。

【0010】
請求項2記載の発明は、硬化物のJIS K 6911の圧縮強度は20N/mm以上であり、収縮応力は1.5N/mm未満であることを特徴とする請求項1記載の水系ポリウレタン組成物を提供する。
【0011】
請求項3記載の発明は、床下地コンクリート表面を、連続した凹状の溝部を設けることなく平面に形成し、該床下地コンクリート表面上に請求項1又は請求項2記載の水系ポリウレタン組成物を厚さ4〜9mmに塗付することを特徴とする水系ポリウレタン組成物の床下地コンクリートへの施工方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水系ポリウレタン組成物及びこの床下地コンクリートへの施工方法は、塗膜全体として十分な強度があるため重量物に対する耐衝撃性を有すると共に、塗膜に発生する収縮応力が従来と比して極めて低く、このため従来のように塗膜の端部が下地コンクリートから剥離することが無く、また下地コンクリートの表層強度が低いときであっても塗膜の浮きが生じることが無く、さらには塗膜表面にひび割れが発生することがない、という効果がある。
【0013】
また、塗膜に発生する収縮応力が従来と比して極めて低いため、下地コンクリート表面に適宜の間隔で連続した凹状の溝部を設けて、いわゆるファスナー効果によって塗膜端部や塗膜裏面を一定間隔で下地コンクリートに機械的に付着させる必要がない、という効果がある。
【0014】
また、本発明の水系ポリウレタン組成物が塗付されて硬化した塗膜表面の色調は、施工直後の色調(発色状態)がその後徐々に変化して白化することが無く色調安定性に優れ、美観と意匠性が良好であるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明の水系ポリウレタン組成物は、ポリオール、ポリイソシアネート、希釈剤、セメント、骨材及び水を含有してなるモルタル状の水系ポリウレタン組成物であって、ポリオールはヒマシ油変性3官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールから成り、希釈剤は安息香酸グリコールエステルを含み、ヒマシ油変性3官能ポリオール及びビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールは水酸基当量が250〜450であり、ビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールは水酸基当量が300〜500であり、組成物全体を100重量部とするとセメント及び骨材から成る骨材部は75〜90重量部であり、希釈剤は、ポリオールとポリイソシアネートと希釈剤と水から成る樹脂部100重量部中の7〜25重量部であることを特徴とする水系ポリウレタン組成物であり、必要に応じてこれらの他に、顔料や分散剤、消泡剤等の添加剤が配合される。
【0017】
本発明の水系ポリウレタン組成物に使用されるポリオールは、ヒマシ油変性3官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールとビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールから成る。
【0018】
ヒマシ油変性3官能ポリオールは、ヒマシ油及びその誘導体で、例えばヒマシ油脂肪酸のジグリセライド、モノグリセライド及びそれらの混合物であり、水酸基数が3のポリオールである。本発明に使用するヒマシ油変性3官能ポリオールの水酸基当量は、250〜450が好ましく、250未満では硬化物の収縮応力が大きくなって塗膜が下地コンクリートから剥離したり、硬化が速くなって作業性が不良となり、450超では水系ポリウレタン組成物として硬化後の強度が不十分となる。
【0019】
ビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールは、ビスフェノールA骨格を有するポリエポキシ化合物に活性水素化合物を反応させて得られるエポキシ開環ポリオールであり、水酸基当量は250〜450が好ましい。水酸基当量が250未満では硬化物の収縮応力が大きくなって塗膜が下地コンクリートから剥離したり、硬化が速くなって作業性が不良となり、450超では水系ポリウレタン組成物として硬化後の強度が不十分となる。
【0020】
ビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルオールは、ビスフェノールAにエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを1種または2種類以上付加反応させることにより得られるポリエーテルポリオールであり、水酸基当量は300〜500が好ましい。水酸基当量が300未満では硬化物の収縮応力が大きくなって塗膜が下地コンクリートから剥離したり、硬化が速くなって作業性が不良となり、500超では水系ポリウレタン組成物として硬化後の強度が不十分となる。
【0021】
本発明の水系ポリウレタン組成物は上記ポリオールに加えて希釈剤を含有し、該希釈剤は安息香酸グリコールエステルを含み、上記ポリオールと希釈剤と水を混合して1液とし、主剤として形成することが好ましい。安息香酸グリコールエステルは、安息香酸とグリコール化合物との縮合化エステル化合物であり、グリコール化合物としてはジエチレングリコールやジプロピレングリコール等を使用することが出来る。また、希釈剤には該安息香酸グリコールエステルの他、スルホン酸エステル化合物を配合することが出来る。また該主剤には塗膜を着色するためのトナーを配合することが出来る。市販の安息香酸グリコールエステルとしては、ジエチレングリコールジベンゾエートとジプロピレングリコールジベンゾエートの混合物である、安息香酸グリコールエステル JP120(商品名、株式会社ジェイプラス社製)があり、スルホン酸エステル化合物としてはアルキルスルホン酸エステルであるメザモール(商品名、バイエル社製)がある。
【0022】
希釈剤は、ポリオールとポリイソシアネートと希釈剤と水から成る樹脂部100重量部中7〜25重量部であり、7重量部未満では硬化物の収縮応力が高くなり、25重量部超では硬化物の強度が低下する。希釈剤中の安息香酸グリコールエステルの含有割合は40%以上100%以下が好ましい。40%未満では硬化物の収縮応力が高くなる。
【0023】
本発明の水系ポリウレタン組成物に使用するポリイソシアネートは、作業性が良好となり、また低温での速硬化性さらには硬化後の強度が高いことより、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート(クルードMDI(ポリメリックMDI))を使用することが好ましいが、他の脂肪族ポリイソシアネートや芳香族ポリイソシアネートや脂環式ポリイソシアネート等も使用することもでき、また併用することも可能である。なおクルードMDI(ポリメリックMDI)は以下の一般式で示され、市販品としては、ルプラネートM5S(商品名、BASF INOACポリウレタン株式会社製、NCO重量%31.4〜32.6%)がある。
【化1】
【0024】
ポリオール及びアルコール化合物の水酸基一個に対するイソシアネート基の数は、6.0〜7.0が好ましく、6.0未満では硬化が遅延し、7.0超では硬化物に炭酸ガスによる発泡が生じる場合がある。
【0025】
本発明の水系ポリウレタン組成物に使用するセメントは、本発明の水系ポリウレタン組成物が床下地コンクリートに塗布し美観を付与することを目的としているため、特定の色調の付与できるように、主として白色ポルトランドセメントを使用することが好ましい。他に普通ポルトランドセメント、アルミナセメント、高炉セメント、早強ポルトランドセメントを併用することができる。セメントの配合量は組成物全体100重量部中の5〜10重量部である。
【0026】
本発明の水系ポリウレタン組成物に使用する骨材には、粒子径が1.0〜3.0mmのガイシ粉末と、粒子径が0.6〜2.36mmの硅砂と、粒子径が0.21〜1.18mmの硅砂と、粒子径が0.15〜0.85mmの硅砂を併用して使用する。ガイシ粉末は、ガイシの生産工場において破損若しくは廃棄されたガイシを粉砕処理したもので、陶磁器の持つ強度、耐摩耗性、耐熱性などを床に付与する効果がある。粒子径が1.0mm未満では床下地コンクリートへの塗布作業性が悪くなり、3.0mm超では組成物中への分散性及び硬化後の塗膜表面の凹凸が大きくなりすぎる。
【0027】
粒子径が0.6〜2.36mmの硅砂は3号硅砂が、粒子径が0.21〜1.18mmの硅砂は硅砂4号が、粒子径が0.15〜0.85mmの硅砂は5号硅砂がそれぞれ該当する。粒子径が1.0〜3.0mmのガイシ粉末と粒子径が0.6〜2.36mmの硅砂と、粒子径が0.21〜1.18mmの硅砂と、粒子径が0.15〜0.85mmの硅砂の併用比率は、重量で0.9〜1.1:0.9〜1.1:1.8〜2.2:1.8〜2.2が床下地コンクリートへの塗布作業性と強度発現及び耐衝撃性の観点から好ましい。セメント及びガイシ粉末及びこれらの硅砂の合計部数が組成物全体に対する割合は、組成物全体100重量部中75〜90重量部である。75重量部未満では硬化物表面に樹脂が浮いて防滑性が低下し、90重量部超では塗布作業性が不良となる。
【0028】
本発明の水系ポリウレタン組成物には、上記のほかに消石灰を配合することが好ましい。該消石灰は、ポリイソシアネートと水とのウレア反応で発生する炭酸ガスを吸収し、組成物が床下地コンクリート上に塗布され硬化するまでに発生する炭酸ガスが特定部分に集中して塗膜を押上げて膨れを生じさせることを抑制する効果がある。
【0029】
本発明の水系ポリウレタン組成物は、JIS K 6911 の圧縮強度が20N/mm以上であり、収縮応力は1.5N/mm未満である。圧縮強度が20N/mm未満では、重量物が硬化塗膜上に落下した際の耐衝撃性が不十分となる。
【0030】
収縮応力は、下記の評価方法で示した方法によって算出し、該収縮応力が1.5N/mm以上では塗膜が下地コンクリートより剥離する場合がある。
【0031】
本発明の水系ポリウレタン組成物を床下地コンクリート上に塗布する際には、まず床下地コンクリート表面にあるレイタンス等の脆弱層をポリッシング等により除去する。次に、床下地コンクリート表面を連続した凹状の溝部を設けることなく平面に形成する。これは床下地コンクリートの一の辺が10m超の長さであっても同様である。次に、直接本発明のモルタル状の水系ポリウレタン組成物を塗付するが、必要に応じてプライマーを塗付し乾燥させた後、本発明のモルタル状の水系ポリウレタン組成物を塗付してもよい。本発明の水系ポリウレタン組成物は、まず木鏝等で床全体に配り、その後金鏝等で十分に押さえながら塗膜の厚さが4〜9mmとなるように塗付する。
【0032】
床下地コンクリート上に塗布する本発明の水系ポリウレタン組成物の厚さは、重量物が落下して塗膜が割れたり剥離したりする耐衝撃性の観点及び床下地コンクリート上への塗布作業性の観点から、上述のように4〜9mmが好ましい。4mm未満では塗布作業性及び耐衝撃性が不十分と成り、9mm超では樹脂の収縮力の絶対量が増して塗膜が剥離したり浮きが発生する場合がある。
【0033】
以下,実施例及び比較例にて具体的に説明する。
【実施例】
【0034】
[実施例]
水酸基当量が350のヒマシ油変性3官能ポリオールを10〜15重量部と、水酸基当量が360のビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールを5〜10重量部と、水酸基当量が300〜500のビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールを23〜28重量部と、希釈剤としてスルホン酸エステル化合物(メザモール;商品名、バイエル社製)を20〜25重量部と、水(イオン交換水)30重量部を含み、ポリオールと希釈剤と水の混合物全体として100重量部と成り水酸基当量が770である、ポリオールと希釈剤と水の混合物350重量部に、さらに希釈剤として安息香酸グリコールエステル JP120を100重量部配合し、さらに着色トナー50重量部を混合して実施例の水系ポリウレタン組成物の主剤とした。またポリイソシアネートとして、クルードMDI(4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート) ルプラネートM5S(商品名、BASF INOACポリウレタン株式会社製、NCO重量%:31.4〜32.6%)400重量部を実施例の水系ポリウレタン組成物の硬化剤とした。また骨材には、ガイシ粉末として粒子径1.0〜3.0mmのセルベン(商品名、株式会社オクムラセラム製)720重量部と、粒子径0.6〜2.36mmの硅砂:乾燥硅砂3号(商品名、篠沢硅砂工業株式会社製)720重量部と、粒子径0.21〜1.18mmの硅砂:東北硅砂4号(商品名、東北硅砂株式会社製)1416重量部と、粒子径0.15〜0.85mmの硅砂:東北硅砂5号(商品名、東北硅砂株式会社製)1416重量部を使用し、セメントとして白色ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)を432重量部を使用して実施例の水系ポリウレタン組成物の骨材及びセメントとした。
【0035】
骨材とセメントは、上記ガイシ粉末と3種類の硅砂と白色ポルトランドセメントを予め均一に混合し、さらにこれらの他に消石灰96重量部を加えて実施例の水系ポリウレタン組成物の骨材部とした。床下地コンクリートへの塗布及び下記評価項目の評価に当たっては上記実施例の主剤500重量部と実施例の硬化剤400重量部と実施例の骨材部4800重量部を混合し実施例の水系ポリウレタン組成物とした。
【0036】
[比較例1]
水酸基当量が350のヒマシ油変性3官能ポリオールを10〜15重量部と、水酸基当量が360のビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールを10〜15重量部と、水酸基当量が180のビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールを5〜10重量部と、水酸基当量が156で1個の水酸基を有するアルコール化合物(メントール)を1〜5重量部と、希釈剤としてスルホン酸エステル化合物(メザモール;商品名、バイエル社製)を25〜30重量部と、水(イオン交換水)30重量部とを含み、ポリオールと希釈剤と水の混合物全体として100重量部と成り水酸基当量が685である、ポリオールと希釈剤と水の混合物270重量部に着色トナー30重量部を混合して比較例1の水系ポリウレタン組成物の主剤とした。またポリイソシアネートとしてクルードMDI(4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート)ルプラネートM5S(商品名、BASF INOACポリウレタン株式会社製、NCO重量%:31.4〜32.6%)300重量部を比較例1の水系ポリウレタン組成物の硬化剤とした。
【0037】
比較例1の骨材とセメントは、実施例の骨材及びセメントと同一とし、比較例1の骨材部も実施例の骨材部と同一とした。床下地コンクリートへの塗布及び下記評価項目の評価に当たっては比較例1の主剤300重量部と比較例1の硬化剤300重量部と比較例1の骨材部3000重量部を混合し比較例1の水系ポリウレタン組成物とした。
【0038】
[比較例2]
水酸基当量が350のヒマシ油変性3官能ポリオールを10〜15重量部と、水酸基当量が360のビスフェノールA骨格を有する4官能ポリオールを5〜10重量部と、水酸基当量が300〜500のビスフェノールA骨格を有する2官能ポリエーテルポリオールを23〜28重量部と、希釈剤としてスルホン酸エステル化合物(メザモール;商品名、バイエル社製)を20〜25重量部と、水(イオン交換水)30重量部とを含み、ポリオールと希釈剤と水の混合物全体として100重量部と成り水酸基当量が770である、ポリオールと希釈剤と水の混合物350重量部に、さらに希釈剤としてアジピン酸ジイソノニルを100重量部配合し、さらに着色トナー50重量部を混合して比較例2の水系ポリウレタン組成物の主剤とした。またポリイソシアネートとしてクルードMDI(4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート)ルプラネートM5S(商品名、BASF INOACポリウレタン株式会社製、NCO重量%:31.4〜32.6%)400重量部を比較例2の水系ポリウレタン組成物の硬化剤とした。
【0039】
比較例2の骨材とセメントは、実施例の骨材及びセメントと同一とし、比較例2の骨材部も実施例の骨材部と同一とした。床下地コンクリートへの塗布及び下記評価項目の評価に当たっては比較例2の主剤500重量部と比較例2の硬化剤400重量部と比較例2の骨材部4800重量部を混合し比較例2の水系ポリウレタン組成物とした。
【0040】
[評価項目及び評価方法]
【0041】
[圧縮強度]
JIS K 6911 5.19 圧縮強さ に準じ、実施例、比較例1及び比較例2の水系ポリウレタン組成物を25.4×12.7×12.7mmの形状にて硬化させ、23℃7日間養生後に載荷速度1mm/分で圧縮し、圧縮強度(N/mm)を測定した。
【0042】
[耐衝撃性]
23℃下でJISA5371の300mm×300mm×厚さ60mmの乾燥したコンクリート平板(ケット水分計HI−520コンクリートレンジにて5%以下)の表面に、均一に混合した実施例、比較例1又は比較例2の水系ポリウレタン組成物を厚さ4〜9mmに金ゴテで塗布して7日間養生し、中央部に高さ1mから1kgの鋼球を30回落下させ、塗膜に割れ、剥がれ等の異常のないものを○、割れ、剥がれ等の異常が生じたものを×と評価した。
【0043】
[耐熱衝撃性]
JISA5371の300mm×300mm×厚さ60mmの乾燥したコンクリート平板(ケット水分計HI−520コンクリートレンジにて5%以下)を4分の1にカットして150mm×150mm×厚さ60mmの試験板とし、該の試験板の表面をサンドペーパー#80で十分に目荒らしをして脆弱層を除去し、均一に混合した実施例、比較例1又は比較例2の水系ポリウレタン組成物を厚さ4〜9mmに塗布し7日間養生する。その後試験体中央部に95℃熱水を5分流下させ次に20℃の冷水を10分流下させることを1サイクルとして4000サイクル繰り返し、塗膜に剥がれ、浮き等異常が生じないものを○、異常が生じたものを×と評価した。
【0044】
[付着性]
23℃下でJISA5371の300mm×300mm×厚さ60mmの乾燥したコンクリート平板(ケット水分計HI−520コンクリートレンジにて5%以下)の表面に、均一に混合した実施例、比較例1又は比較例2の水系ポリウレタン組成物を厚さ4〜9mmに金ゴテで塗布して7日間養生し、建研式接着力試験器により、40×40mm部分の水系ポリウレタン組成物とコンクリート平板との付着強度(N/mm)を測定した。破壊状態は下地コンクリート100%凝集破壊を○と、それ以外を×と評価した。
【0045】
[収縮応力]
実施例、比較例1又は比較例2の水系ポリウレタン組成物を、幅19.0mm×長さ220.0mm×深さ10.0mmの型枠に充填して試験片を作製し、23℃7日間養生する。その後95℃7日間養生した後、23℃に徐冷し、試験片の長さ方向の収縮長さ(ΔL(mm))を測定する。その後該試験片を1mm/分で長さ方向に引張り、引張ヤング率E(N/mm)を測定する。該引張ヤング率Eと型枠の長さL(220.0mm)と試験片の収縮長さΔLから次式により収縮応力(N/mm)を算出した。
収縮応力(N/mm)=E×(ΔL/L)
【0046】
[表面仕上がり性]
23℃下において、床下地コンクリート上に均一に混合した実施例、比較例1又は比較例2の水系ポリウレタン組成物を厚さ4〜9mmに金鏝で塗布した際の塗膜の表面状態を目視にて観察し、平滑な仕上がりである場合を○とし、凹凸のある仕上がりとなっている場合を×と評価した。
【0047】
[色調安定性]
床下地コンクリート上に均一に混合した実施例、比較例1又は比較例2の水系ポリウレタン組成物を厚さ4〜9mmに金鏝で塗布して硬化した塗膜表面の色調(発色状態)が良好であることを目視にて確認し該状態を初期色調とする。その後23℃28日間放置し再度塗膜表面の色調を目視にて観察し、初期色調が変化して白化しているものを×とし、初期色調が白化することなく保持されているものを○と評価した。
【0048】
[硬化速度]
実施例の水系ポリウレタン組成物については、実施例の主剤と実施例の硬化剤と白色ポルトランドセメントを62.5g:50g:60gにて、比較例1の水系ポリウレタン組成物については比較例1の主剤と比較例1の硬化剤と白色ポルトランドセメントを50g:50g:50gにて、比較例2の水系ポリウレタン組成物につては比較例2の主剤と比較例2の硬化剤と白色ポルトランドセメントを62.5g:50g:60gにて、それぞれ主剤と硬化剤を60秒混合した後、白色ポルトランドセメントを投入してさらに120秒混合する。主剤と硬化剤の混合開始時を0分として、混合開始後の経過時間毎に発熱温度を測定し、最高発熱温度到達時間を硬化速度(分)とした。
【0049】
[評価結果]
評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】